特許第6851917号(P6851917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851917
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20210322BHJP
【FI】
   F16H57/04 P
   F16H57/04 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-127838(P2017-127838)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2019-11800(P2019-11800A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 直也
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−275164(JP,A)
【文献】 特開平10−115364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を伝達する動力伝達装置であって、
オイルが封入されたケースと、
前記ケース内に所定方向に延びる回転軸線を中心に回転可能に設けられ、動力により回転して、前記ケース内に溜まっているオイルを掻き上げて飛散させる掻き上げ部材と、
前記掻き上げ部材に対して前記所定方向の少なくとも一方側に設けられ、前記掻き上げ部材が配置される第1空間と前記第1空間に対して前記所定方向に隣接する第2空間とを区画し、前記ケース内の少なくともオイルが溜まる部分において前記第1空間と前記第2空間との間でのオイルの流通を阻止するオイルセパレータとを含み、
前記掻き上げ部材は、その外周端部に、円環板状部と、当該円環板状部の外周端から前記オイルセパレータ側に突出する円筒状部とを有し、
前記オイルセパレータは、前記回転軸線よりも上側において、前記円筒状部に対して前記所定方向の外側から内側に入り込むように斜め上方に延びる傾斜部を有している、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されて、動力を伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、駆動源からの動力がトランスミッション(変速機)に入力され、トランスミッションで変速された動力がデファレンシャルギヤ(差動装置)などを介して駆動輪に伝達される。
【0003】
図3は、従来のデファレンシャルギヤの構成を図解的に示す断面図である。
【0004】
デファレンシャルギヤ91は、デフケース92と、デフケース92から外側に張り出すリングギヤ93とを一体的に備えている。デフケース92には、リングギヤ93の中心線方向(回転軸線方向)の両端部に円筒状の円筒部94が形成されている。デファレンシャルギヤ91は、ユニットケース95内に収容されており、両方の円筒部94がベアリング96を介してユニットケース95に回転可能に支持されている。
【0005】
ユニットケース95内には、オイルが封入されており、リングギヤ93の一部は、ユニットケース95内に溜まったオイルに浸漬している。リングギヤ93には、トランスミッションから動力が伝達される。リングギヤ93に動力が伝達されると、デフケース92およびリングギヤ93が回転し、ユニットケース95内に溜まったオイルがリングギヤ93によって掻き上げられて飛沫となり、そのオイルの飛沫がベアリング96などに供給される。これにより、ベアリング96などがオイルにより潤滑され、ベアリング96などにおける摩耗や焼き付きの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第2584081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ユニットケース95内に溜まっているオイルの量が多いと、オイルがリングギヤ93の抵抗となり、トルク損失によるトルク伝達効率の低下、ひいては車両の走行燃費の悪化を招く。
【0008】
そこで、リングギヤ93に対する回転軸線方向の両側に、それぞれ隔壁となるオイルセパレータ97,98を設けて、ベアリング96に供給されたオイルがオイルセパレータ97,98の内側に戻らないようにすることが考えられる。この構成により、オイルセパレータ97,98に挟まれる空間、つまりリングギヤ93が収容されている空間に溜まるオイルの量の低減を期待することができる。
【0009】
しかしながら、本願発明者による検証の結果、オイルセパレータ97,98を単に設けただけでは、オイルセパレータ97,98に挟まれる空間に溜まるオイルの量がさほど低減せず、オイルセパレータ97,98の形状に工夫を要することが判った。
【0010】
本発明の目的は、ケース内に溜まっているオイルを掻き上げる掻き上げ部材がオイルから受ける撹拌抵抗を低減できる、動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、本発明に係る動力伝達装置は、動力を伝達する動力伝達装置であって、オイルが封入されたケースと、ケース内に所定方向に延びる回転軸線を中心に回転可能に設けられ、動力により回転して、ケース内に溜まっているオイルを掻き上げて飛散させる掻き上げ部材と、掻き上げ部材に対して所定方向の少なくとも一方側に設けられ、掻き上げ部材が配置される第1空間と第1空間に対して所定方向に隣接する第2空間とを区画し、ケース内の少なくともオイルが溜まる部分において第1空間と第2空間との間でのオイルの流通を阻止するオイルセパレータとを含み、掻き上げ部材は、その外周端部に、円環板状部と、当該円環板状部の外周端からオイルセパレータ側に突出する円筒状部とを有し、オイルセパレータは、回転軸線よりも上側において、円筒状部に対して所定方向の外側から内側に入り込むように斜め上方に延びる傾斜部を有している。
【0012】
この構成によれば、ケース内には、オイルが溜まっており、掻き上げ部材が回転すると、その溜まっているオイルが掻き上げ部材により掻き上げられて飛散する。これにより、掻き上げ部材を回転可能に保持するベアリングなど、掻き上げ部材の周囲の各部にオイルを供給でき、各部における摩耗や焼き付きの発生を抑制できる。
【0013】
掻き上げ部材に対して掻き上げ部材の回転軸線方向である所定方向の少なくとも一方側には、オイルセパレータが設けられており、そのオイルセパレータにより、掻き上げ部材が配置される第1空間と第1空間に対して所定方向に隣接する第2空間とが区画されている。ケース内のオイルが溜まる部分では、オイルセパレータにより、第1空間と第2空間との間でのオイルの流通が阻止される。そのため、オイルが溜まる部分で第2空間から第1空間にオイルが流入することを抑制できる。
【0014】
掻き上げ部材の外周端部は、円環板状部と、円環板状部の外周端からオイルセパレータ側に突出する円筒状部とを有している。そして、オイルセパレータは、回転軸線よりも上側において、円筒状部に対して所定方向の外側から内側に入り込むように斜め上方に延びる傾斜部を有している。そのため、掻き上げ部材により掻き上げられた飛散するオイルが掻き上げ部材の上方に配置される部材に当たって跳ね返されたり、当該部材から滴下したりしても、そのオイルが傾斜部を伝って第2空間へと導かれ、掻き上げ部材により掻き上げられて飛散したオイルが掻き上げ部材とオイルセパレータとの間から第1空間に戻ることを抑制できる。その結果、第1空間に溜まるオイルの量を低減でき、掻き上げ部材がオイルから受ける撹拌抵抗を低減できる。
【0015】
オイルセパレータは、掻き上げ部材に対して所定方向の一方側および他方側の両方に設けられていてもよい。オイルセパレータが掻き上げ部材に対して所定方向の両側に設けられる構成では、それらのオイルセパレータに挟まれる空間が第1空間となり、第1空間に対して所定方向の両外側の空間が第2空間となる。
【0016】
掻き上げ部材は、デファレンシャルギヤに備えられるリングギヤであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、掻き上げ部材がオイルから受ける撹拌抵抗を低減できるので、トルク損失によるトルク伝達効率の低下を抑制でき、ひいては車両の走行燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るトランスアクスルの構成を示す断面図である
図2】デファレンシャルギヤをユニットケース内から取り出してシャフト挿通部側から見た図である。
図3】従来のデファレンシャルギヤの構成を図解的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
<トランスアクスル>
図1は、本発明の一実施形態に係るトランスアクスル1の構成を示す断面図である。なお、図1では、断面を表すハッチングの付与が省略されている。
【0021】
トランスアクスル1は、車両に搭載されて、エンジン(図示せず)が発生するトルクを変速して駆動輪(図示せず)に伝達する変速ユニットであり、その外殻をなすユニットケース2内に、トルクコンバータ3、ベルト式の無段変速機4およびデファレンシャルギヤ5を備えている。
【0022】
デファレンシャルギヤ5は、デフケース11を備えている。デフケース11は、その内部にギヤ収容空間12を提供している。デフケース11には、ギヤ収容空間12を貫通するピニオンシャフト13が保持されている。ピニオンシャフト13には、2個のピニオンギヤ14,15が互いに間隔を開けて回転可能に保持されている。また、ギヤ収容空間12内には、2個のサイドギヤ16,17がピニオンシャフト13の両側に分かれて配置されている。サイドギヤ16,17およびピニオンギヤ14,15は、いずれもかさ歯車からなり、各サイドギヤ16,17は、ピニオンギヤ14,15の両方と噛合している。
【0023】
また、デフケース11には、サイドギヤ16,17が対向する方向、言い換えればピニオンシャフト13と直交する方向に貫通する円筒状のシャフト挿通部18,19が形成されている。シャフト挿通部18,19には、それぞれドライブシャフト21,22が挿通される。ドライブシャフト21,22の先端部は、ギヤ収容空間12内において、それぞれサイドギヤ16,17に相対回転不能に結合される。
【0024】
シャフト挿通部18,19には、それぞれベアリング23,24が外嵌されている。ベアリング23,24のアウタレース(外輪)は、ユニットケース2に回転不能に保持されている。これにより、デフケース11は、ベアリング23,24を介してユニットケース2に、ドライブシャフト21,22と同一の回転軸線まわりに回転可能に支持されている。
【0025】
デフケース11にはさらに、一方のシャフト挿通部18とピニオンシャフト13との間に、その外周面から径方向に張り出すフランジ部25が形成されている。フランジ部25には、リングギヤ26が固定されている。リングギヤ26は、デフケース11を取り囲む略円環板状のウェブ27と、ウェブ27の外周を取り囲む略円筒状のリム28とを一体的に有している。リム28は、ウェブ27からデフケース11の回転軸線に沿う方向の両側に突出している。リム28の外周面には、ギヤ歯29が形成されており、このギヤ歯は、無段変速機4の出力ギヤ31と噛合している。
【0026】
無段変速機4から出力される動力は、出力ギヤ31からリングギヤ26に伝達される。これにより、リングギヤ26およびデフケース11が一体に回転する。デフケース11の回転は、ピニオンギヤ14,15を介して、各サイドギヤ16,17の回転に変換される。これにより、各サイドギヤ16,17と一体にドライブシャフト21,22が回転し、ドライブシャフト21,22の回転が車両の駆動輪に伝達される。
【0027】
<オイルセパレータ>
図2は、デファレンシャルギヤ5をユニットケース2内から取り出してシャフト挿通部19側から見た図である。
【0028】
ユニットケース2内には、リングギヤ26に対してリングギヤ26の回転軸線に沿う方向の両側に、それぞれ隔壁となるオイルセパレータ41,42が設けられている。オイルセパレータ41,42は、ユニットケース2に固定されている。
【0029】
一方のシャフト挿通部18側に設けられているオイルセパレータ41は、ベアリング23のアウタレースの外径よりも大径の円形開口51を有している。
【0030】
オイルセパレータ41における円形開口51の下半分に沿った下部分52は、その内周端部53および外周端部54が他方のシャフト挿通部19側からユニットケース2に接している。
【0031】
オイルセパレータ41における円形開口51の上半分に沿った上部分55は、外径がリングギヤ26の径よりも小さく形成されている。上部分55の内周端部56は、他方のシャフト挿通部19側からユニットケース2に接している。上部分55の外周端部57は、一方のシャフト挿通部18側からリングギヤ26側に屈曲して、リングギヤ26のリム28に対して回転軸線に沿う方向の外側から内側に入り込むように斜め上方に延びている。
【0032】
他方のシャフト挿通部19側に設けられているオイルセパレータ42は、ベアリング24のアウタレースの外径よりも大径の円形開口61を有している。
【0033】
オイルセパレータ42における円形開口61の下半分に沿った下部分62には、デフケース11の下半分の部分に沿って湾曲した湾曲部63と、湾曲部63にリングギヤ26側で連続してリングギヤ26の回転径方向に延びる半円環状の半円環部64とが一体に形成されている。湾曲部63の内周端部および半円環部64の外周端部は、一方のシャフト挿通部18側からユニットケース2に接している。
【0034】
オイルセパレータ42における円形開口61の上半分に沿った上部分65には、デフケース11の上半分の部分に沿って湾曲した湾曲部66と、湾曲部66にリングギヤ26側で連続してリングギヤ26の回転径方向に延びる半円環状の半円環部67とが一体に形成されている。湾曲部66の内周端部は、一方のシャフト挿通部18側からユニットケース2に接している。また、上部分65は、外径がリングギヤ26の径よりも小さく形成されており、半円環部67の外周端部68は、他方のシャフト挿通部19側からリングギヤ26側に屈曲して、リングギヤ26のリム28に対して回転軸線に沿う方向の外側から内側に入り込むように斜め上方に延びている。
【0035】
かかる構成のオイルセパレータ41,42により、ユニットケース2内には、オイルセパレータ41,42に両側から挟まれ、リングギヤ26が配置される第1空間71と、オイルセパレータ41,42に対してそれらの対向方向の外側の第2空間72とが区画されている。
【0036】
<作用効果>
ユニットケース2内には、オイルが封入されており、ユニットケース2の底部には、オイルが常に溜まっている。リングギヤ26が回転すると、その溜まっているオイルがリングギヤ26により掻き上げられて飛散する。これにより、デフケース11を回転可能に保持するベアリング23,24など、リングギヤ26の周囲の各部にオイルを供給でき、各部における摩耗や焼き付きの発生を抑制できる。
【0037】
リングギヤ26に対してリングギヤ26の回転軸線に沿う方向の両側には、オイルセパレータ41,42が設けられており、そのオイルセパレータ41,42により、リングギヤ26が配置される第1空間71と第1空間71に対して所定方向に隣接する第2空間72とが区画されている。ユニットケース2内のオイルが溜まる部分では、オイルセパレータ41,42により、第1空間71と第2空間72との間でのオイルの流通が阻止される。そのため、オイルが溜まる部分で第2空間72から第1空間71にオイルが流入することを抑制できる。
【0038】
リングギヤ26は、デフケース11を取り囲む略円環板状のウェブ27と、ウェブ27の外周を取り囲む略円筒状のリム28とを有している。そして、オイルセパレータ41,42は、それぞれリム28に対して回転軸線に沿う方向の外側から内側に入り込むように斜め上方に延びる外周端部57,68を有している。そのため、リングギヤ26により掻き上げられた飛散するオイルがリングギヤ26の上方に配置される部材73に当たって跳ね返されたり、当該部材73から滴下したりしても、そのオイルが外周端部57,68を伝って第2空間72へと導かれ、リングギヤ26により掻き上げられて飛散したオイルがリングギヤ26とオイルセパレータ41,42との間から第1空間71に戻ることを抑制できる。その結果、第1空間71に溜まるオイルの量を低減でき、リングギヤ26がオイルから受ける撹拌抵抗を低減できる。
【0039】
そして、リングギヤ26がオイルから受ける撹拌抵抗を低減できるので、トルク損失によるトランスアクスル1(デファレンシャルギヤ5)のトルク伝達効率の低下を抑制でき、ひいてはトランスアクスル1が搭載される車両の走行燃費を向上させることができる。
【0040】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0041】
たとえば、リングギヤ26に対してリングギヤ26の回転軸線に沿う方向の両側にオイルセパレータ41,42が設けられている構成を取り上げたが、オイルセパレータ41,42の一方が不要であれば、その一方を省略することもできる。
【0042】
また、トランスアクスル1には、ベルト式の無段変速機4が備えられているが、本発明は、ベルト式の無段変速機4を備えるトランスアクスル1に限らず、ベルト式以外の方式の無段変速機や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)などを備えるトランスアクスルに広く適用可能である。さらには、動力伝達装置の形態は、トランスアクスルに限らず、デファレンシャルギヤ5単体であってもよい。
【0043】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1:トランスアクスル(動力伝達装置)
2:ユニットケース(ケース)
5:デファレンシャルギヤ(動力伝達装置)
26:リングギヤ(掻き上げ部材)
27:ウェブ(円環板状部)
28:リム(円筒状部)
41,42:オイルセパレータ
57,68:外周端部(傾斜部)
71:第1空間
72:第2空間
図1
図2
図3