(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1及び第2基準信号源は、前記第1及び第2送受信器によって前記第1及び第2キャリア信号が送受信される期間中は継続して動作する請求項1に記載の測距装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る測距装置を採用した測距システム示すブロック図である。
【0011】
本実施の形態は無変調キャリアを用いた位相検出方式を採用し、各装置間の通信によって各装置間の距離を求める通信型測距を採用する例を説明する。反射波を用いた一般的な位相検出方式では、上述したように測距可能な距離が比較的短い。そこで、本実施の形態においては、装置間で通信を行う通信型測距を採用する。しかしながら、各装置の各送信器同士は独立に動作することから、各送信器からの送信電波の初期位相は相互に異なり、位相差により距離を求める従来の位相検出方式では正確な距離を求めることはできない。そこで、本実施の形態においては、後述するように、一方の装置の受信により求めた位相情報を他方の装置に伝送することにより、他方の装置において正確な距離を求めることを可能にするものである。
【0012】
先ず、
図2A,2Bの説明図を参照して、反射波を利用した位相検出方式による測距の原理及びその問題点について説明する。
(位相検出方式について)
位相検出方式では、測距のために、中心角周波数ω
C1から角周波数だけずれた2つの周波数の信号を送信する。反射波を利用する測距装置においては、送信器及び受信器が同一筐体内に設けられ、送信器から発射した送信信号(電波)を対象物に反射させ、その反射波を受信する。
【0013】
図2A及び
図2Bはこの状態を示しており、送信器Tから発射した電波が壁Wによって反射して受信器Sにおいて受信されることを示している。
【0014】
図2Aに示すように、送信器から発射した電波の角周波数をω
C1+ω
B1とし、初期位相をθ
1Hとする。この場合には、送信器から発射される送信信号(送信波)tx1(t)は下記(1)式で表させる。
tx1(t)=cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
1H} …(1)
この送信信号が送信器から距離Rだけ離れた対象物(壁W)に遅延時間τ
1で到達して反射し、受信器において受信される。電波の速度は光速c(=3×10
8m/s)であるので、τ
1=(R/c)(秒)である。受信器で受信する信号は発射された信号に対して遅延2τ
1を受けている。従って、受信器の受信信号(受信波)rx1(t)は下記(2),(3)式で表される。
rx1(t)=cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
1H−θ
2×Hτ1)} …(2)
θ
2×Hτ1=(ω
C1+ω
B1)2τ
1 …(3)
すなわち、送信信号は、遅延時間と送信角周波数の乗算結果(θ
2×Hτ1)だけ位相シフトが生じて、受信器に受信されたことになる。
【0015】
同様に、
図2Bに示すように、角周波数ω
C1−ω
B1を用いた場合の送信信号tx1(t)及び受信信号rx1(t)を、初期位相をθ
1Lとして下記(4)〜(6)式に示す。
tx1(t)=cos{(ω
C1−ω
B1)t+θ
1L} …(4)
rx1(t)=cos{(ω
C1−ω
B1)t+θ
1L−θ
2×Lτ1} …(5)
θ
2×Lτ1=(ω
C1−ω
B1)2τ
1 …(6)
角周波数ω
C1+ω
B1の送信信号が受信されるまでに生じる位相シフト量をθ
H1(t)とし、角周波数ω
C1−ω
B1の送信信号が受信されるまでに生じる位相シフト量をθ
L1(t)とすると、2つの受信波の位相シフトの差分は、(3)式から(6)式を引いた下記(7)式によって与えられる。
θ
H1(t)−θ
L1(t)=(θ
2×Hτ1−θ
2×Lτ1)=2ω
B1×2τ
1 (7)
ここで、τ
1=R/cである。差分周波数ω
B1は既知であるので、2つの受信波の位相シフト量の差分を測定すれば、測定結果から距離Rを、
R=c×(θ
2×Hτ1−θ
2×Lτ1)/(4ω
B1)
と算出することができる。
【0016】
ところで、上記説明は位相情報のみを考慮して距離Rを算出したものである。次に、角周波数ω
C1+ω
B1の送信波を用いた場合について振幅についての考察を加える。上記(1)式に示す送信波は、距離R離れた対象物に到達する時点では、遅延量τ
1=R/cだけ遅延し、距離Rに応じた減衰L1で振幅が減衰し、下記(8)式に示す到達波rx2(t)となる。
rx2(t)=L
1cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
1H−(ω
C1+ω
B1)τ
1} …(8)
更に、送信波は、対象物から反射時に減衰L
RFLを受ける。対象物における反射波tx2(t)は、下記(9)式で与えられる。
tx2(t)=L
RFLL
1cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
1H−(ω
C1+ω
B1)τ
1} …(9)
受信器で受信される受信信号はrx1(t)は、対象物から遅延量1=R/c(s)だけ遅延し、距離Rに応じた減衰L1で振幅が減衰するので、下記(10)式によって表される。
rx1(t)=L
1×L
RFL×L
1cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
1H−2(ω
C1+ω
B1)τ
1} …(10)
このように、送信器からの送信信号は受信器に到達するまでに、L
1×L
RFL×L
1の減衰を受けることになる。測距において送信器から発射できる信号振幅は、適用周波数に応じて電波法に従う必要がある。例えば、920MHz帯の特定周波数では、送信信号電力を1mW以下に抑える制限がある。受信信号の信号雑音比の観点から、正確に測距するためには送信から受信までに受ける減衰を小さく抑える必要がある。しかしながら、上述したように、反射波を利用した測距では減衰が比較的大きいことから、正確に測距できる距離が短い。
【0017】
そこで、上述したように、本実施の形態においては、反射波を利用することなく、2つの装置間で互いに信号を送信及び受信することにより、L
RFL×L
1分だけ減衰を低減することで、正確に測距できる距離を拡大するようになっている。
【0018】
しかしながら、2つの装置は、互いに距離Rだけ離間しており同一の基準信号を共有することができず、一般にその送信信号を受信に用いる局部発振信号に同期させることは困難である。つまり、2つの装置間では、信号周波数にずれが生じるだけでなく、初期位相については不明である。以下、このような非同期の送信波を用いた場合の測距における問題について説明する。
(非同期の場合の課題)
本実施の形態における測距システムでは、2物体間の測距に際して、各物体の位置にそれぞれ非同期にキャリア信号(送信信号)を出射する2つの装置(第1装置及び第2装置)を配置し、これらの2つの装置間の距離Rを求める。本実施の形態においては、第1装置において中心角周波数ω
C1から角周波数±ω
B1だけずれた2つの周波数のキャリア信号を送信し、第2装置において中心角周波数ω
C2から角周波数±ω
B2だけずれた2つの周波数のキャリア信号を送信する。
【0019】
図3A及び
図3Bは、2つの装置A1,A2間で、上述した位相検出方式を単に適用した場合の問題を説明する説明図である。装置A1の送信信号を装置A2で受信する場合を想定する。装置A1の局部発振器は、送信波のキャリア角周波数がω
C1+ω
B1とω
C1−ω
B1の2波をヘテロダイン方式で生成するために必要な周波数の信号を発生し、装置A1はこの角周波数の2つの送信波を送信する。また、装置A2の局部発振器は、送信波の角周波数がω
C2+ω
B2とω
C2−ω
B2の2波をヘテロダイン方式で生成するために必要な周波数の信号を発生し、装置A2は局部発振器からの信号を用いてヘテロダイン方式の受信を行うものとする。
【0020】
ここで、上述した反射波を用いた場合と対応させるため、送受信間の距離は2Rとする。また、装置A1からの角周波数ω
C1+ω
B1の送信信号と角周波数ω
C1−ω
B1の送信信号の初期位相はそれぞれθ
1H、θ
1Lとする。また、装置A2の角周波数がω
C2+ω
B2,ω
C2−ω
B2の2つの信号の初期位相はそれぞれθ
2H、θ
2Lとする。
【0021】
まず、角周波数ω
C1+ω
B1の送信信号について位相を考える。装置A1からは上記(1)式に示す送信信号が出力される。装置A2における受信信号rx2(t)は、下記(11)式で与えられる。
rx2(t)=cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
1H−θ
2×Hτ1} …(11)
装置A2においては、2つの信号cos{(ω
C2+ω
B2)t+θ
2H}及びsin{(ω
C2+ω
B2)t+θ
2H}と式(11)の受信波とを乗算することにより、受信波を同相成分(I信号)と直交成分(Q信号)とに分離して復調する。受信波の位相(以下、検出位相又は単に位相という)は、I,Q信号から簡単に求めることができる。即ち、検出位相θ
H1(t)は下記(12)式で表される。なお、下記(12)式では、角周波数ω
C1+ω
C2近傍の高調波の項は、復調時に除去されるので省略している。
θ
H1(t)=tan
−1(Q(t)/I(t))=−{(ω
C1−ω
C2)t+(ω
B1−ω
B2)t+θ
1H−θ
2H−θ
2×Hτ1} …(12)
同様に、装置A1から角周波数ω
C1−ω
B1の送信信号を送信した場合において、装置A2において得られるI,Q信号から求められる検出位相θ
L1(t)は、下記(13)式で与えられる。なお、下記(13)式では、角周波数ω
C1+ω
C2近傍の高調波の項は、復調時に除去されるので省略している。
θ
L1(t)=tan
−1(Q(t)/I(t))=−{(ω
C1−ω
C2)t−(ω
B1−ω
B2)t+θ
1L−θ
2L−θ
2×Lτ1} …(13)
これらの2つの検出位相の位相差(以下、検出位相差又は単に位相差という)θ
H1(t)−θ
L1(t)は、下記(14)式で表される。
θ
H1(t)−θ
L1(t)=−2(ω
B1−ω
B2)t+(θ
1H−θ
1L)−(θ
2H−θ
2L)+(θ
2×Hτ1−θ
2×Lτ1) …(14)
反射波を利用した従来の測距装置は、装置A1と装置A2とが同一の装置であって局部発振器を共有していることになるので、下記(15)式〜(17)式を満足する。
ω
B1=ω
B2 …(15)
θ
1H=θ
2H …(16)
θ
1L=θ
2L …(17)
(15)式〜(17)式が成立する場合には、(14)式は上述した(7)式と等しくなり、装置A2における受信信号に対するI,Q復調処理によって求めた位相差により、装置A1と装置A2との間の距離Rを算出できることになる。
【0022】
しかしながら、装置A1と装置A2とは離間して設けられ、局部発振器は相互に独立して動作するので、上記式(15)〜式(17)は満足しない。この場合には、初期位相の差分等の未知の情報が(14)式に含まれており、正しく距離を算出することはできない。
(実施の形態の基本的な測距方法)
第1装置が送信した上述した2つの角周波数の信号を第2装置において受信して各信号の位相を求めると共に、第2装置が送信した上述した2つの角周波数の信号を第1装置において受信して各信号の位相を求める。更に、第1装置と第2装置のいずれか一方から他方に、位相情報を伝送する。本実施の形態においては、後述するように、基本的には第1装置の受信によって求められる2つの信号の位相差と第2装置の受信によって求められる2つの信号の位相差とを加算することにより、第1装置と第2装置との間の距離Rを求めるようになっている。なお、位相情報としては、I,Q信号であってもよく、I,Q信号から求めた位相の情報であってもよく、周波数が異なる2つの信号から求めた位相の差の情報であってもよい。
(構成)
図1において、第1装置1(以下、装置1ともいう)と第2装置2(以下、装置2ともいう)とは距離Rだけ離間して配置されている。装置1と装置2の少なくとも一方は移動自在であり、距離Rはこの移動に伴って変化する。装置1には、制御部11が設けられている。制御部11は、装置1の各部を制御する。制御部11は、CPU等を用いたプロセッサによって構成されて、図示しないメモリに記憶されたプログラムに従って動作して各部を制御するものであってもよい。
【0023】
発振器13は、制御部11に制御されて、内蔵する基準発振器をもとに2つの周波数の発振信号(ローカル信号)を発生する。発振器13からの各発振信号は、送信部14及び受信部15に供給される。発振器13が発生する発振信号の角周波数は、送信部14の送信波の角周波数としてω
C1+ω
B1、ω
C1−ω
B1及びω
C1の3波を生成するために必要な角周波数に設定される。
【0024】
送信部14は例えば直交変調器によって構成することができる。送信部14は、制御部11に制御されて、角周波数がω
C1+ω
B1の送信信号、角周波数がω
C1−ω
B1及び角周波数がω
C1の送信信号の3つの送信波を出力することができるようになっている。送信部14からの送信波はアンテナ回路17に供給される。
【0025】
アンテナ回路17は、1つ以上のアンテナを有しており、送信部14からの送信波を送信することができるようになっている。また、アンテナ回路17は、後述する装置2からの送信波を受信して受信信号を受信部15に供給するようになっている。
【0026】
受信部15は例えば直交復調器によって構成することができる。受信部15は、制御部11に制御されて、発振器13からの例えば角周波数がω
C1,ω
B1の信号を用いて、装置2からの送信波を受信して復調し、受信波の同相成分(I信号)及び直交成分(Q信号)を分離して出力することができるようになっている。
【0027】
装置2の構成は装置1と同様である。すなわち、第2装置には、制御部21が設けられている。制御部21は、装置20の各部を制御する。制御部21は、CPU等を用いたプロセッサによって構成されて、図示しないメモリに記憶されたプログラムに従って動作して各部を制御するものであってもよい。
【0028】
発振器23は、制御部21に制御されて、内蔵する基準発振器をもとに2つの周波数の発振信号を発生する。発振器23からの各発振信号は、送信部24及び受信部25に供給される。発振器23が発生する発振信号の角周波数は、送信部24の送信波の角周波数としてω
C2+ω
B2及びω
C2−ω
B2の2波を生成するために必要な角周波数に設定される。
【0029】
送信部24は例えば直交変調器によって構成することができる。送信部24は、制御部21に制御されて、角周波数がω
C2+ω
B2の送信信号及び角周波数がω
C2−ω
B2の送信信号の2つの送信波を出力することができるようになっている。送信部24からの送信波はアンテナ回路27に供給される。
【0030】
アンテナ回路27は、1つ以上のアンテナを有しており、送信部24からの送信波を送信することができるようになっている。また、アンテナ回路27は、装置1からの送信波を受信して受信信号を受信部25に供給するようになっている。
【0031】
受信部25は例えば直交復調器によって構成することができる。受信部25は、制御部21に制御されて、発振器23からの例えば角周波数がω
C2,ω
B2の信号を用いて、装置1からの送信波を受信して復調し、受信波の同相成分(I信号)及び直交成分(Q信号)を分離して出力することができるようになっている。
【0032】
図4は
図1中の送信部14及び受信部15の具体的な構成の一例を示す回路図である。また、
図5は
図1中の送信部24及び受信部25の具体的な構成の一例を示す回路図である。
図4及び
図5はイメージ抑圧方式の送受信器を示しているが、この構成に限定されるものではない。
【0033】
なお、イメージ抑圧方式の構成は公知であり、その特徴は、高周波用のローカル角周波数、ここではω
C1又はω
C2を中心として、より高い角周波数帯を復調するときには、より低い角周波数帯の信号は減衰され、より低い角周波数帯を復調するときには、より高い角周波数帯の信号は減衰されるというものである。このフィルタリング効果は信号処理に起因するものである。なお、送信についても同様である。ω
C1又はω
C2を中心としてより高い角周波数帯を復調するときは、
図4及び
図5中のsin(ω
B1t+θ
B1)又はsin(ω
B2t+θ
B2)を用い、より低い角周波数帯を復調するときは、
図4及び
図5中、−sin(ω
B1t+θ
B1)又は−sin(ω
B2t+θ
B2)を用いる。この極性の変更により復調する周波数帯が決まる。
【0034】
なお、イメージ抑圧方式の受信器では、角周波数ω
C1+ω
C2近傍の高調波の項は、復調時に除去されるので、下記演算においては、この項を省略して示している。
【0035】
送信部14は、乗算器TM11,TM12及び加算器TS11によって構成されている。乗算器TM11,TM12には、発振器13から角周波数がω
C1で位相が相互に90度異なる発振信号がそれぞれ与えられる。また、乗算器TM11,TM12には角周波数がω
B1で位相が相互に90度異なる発振信号がそれぞれ与えられる。また、乗算器TM12には、発振器13から角周波数がω
B1の発振信号の反転信号も与えられる。
【0036】
乗算器TM11,TM12はそれぞれ2入力を乗算して、乗算結果を加算器TS11に与える。加算器TS11は乗算器TM11,TM12の出力を加算して加算結果を送信波tx1として出力するようになっている。
【0037】
受信部15は、乗算器RM11〜RM16及び加算器RS11,RS12によって構成されている。乗算器RM11,RM12には、装置2の送信波がアンテナ回路17を介して受信信号rx1として入力される。乗算器RM11,RM12には、発振器13から角周波数がω
C1で位相が相互に90度異なる発振信号がそれぞれ与えられる。乗算器RM11は2入力を乗算して乗算結果を乗算器RM13,RM14に与え、乗算器RM12は2入力を乗算して乗算結果を乗算器RM15,RM16に与える。
【0038】
乗算器RM13,RM15には、発振器13から角周波数(ベースバンド用ローカル角周波数)がω
B1の発振信号が与えられる。乗算器RM13は2入力を乗算して乗算結果を加算器RS11に与え、乗算器RM14は2入力を乗算して乗算結果を加算器RS12に与える。
【0039】
また、乗算器RM14,RM16には、発振器13から角周波数がω
B1の発振信号か又はその反転信号で乗算器RM13に与えるω
B1の発振信号と直交した信号が与えられる。乗算器RM14は2入力を乗算して乗算結果を加算器RS12に与え、乗算器RM16は2入力を乗算して乗算結果を加算器RS11に与える。
【0040】
加算器RS11は乗算器RM13,RM16の出力を加算して減算結果をI信号として出力するようになっている。また、加算器RS12は乗算器RM14,RM15の出力を加算して加算結果をQ信号として出力するようになっている。受信部15からのI,Q信号は制御部11に供給される。
【0041】
図4及び
図5の回路は同一の回路を示している。即ち、
図5において、乗算器TM21,TM22,RM21〜RM26及び加算器TS21,RS21,RS22の構成は、夫々
図4の乗算器TM11,TM12,RM11〜RM16及び加算器TS11,RS11,RS12の構成と同様である。発振器23の発振信号の周波数及び位相が発振器13と異なることから、
図5においては、
図4の角周波数ω
B1に代えてベースバンド用ローカル角周波数ω
B2が入力され、
図4の角周波数ω
C1に代えてω
C2が入力される点が異なるのみである。受信部25からのI,Q信号は制御部21に供給される。
【0042】
本実施の形態においては、装置1の制御部11は、送信部14を制御して、角周波数がω
C1+ω
B1及びω
C1−ω
B1の2つの送信波をアンテナ回路17を介して送信させる。
【0043】
一方、装置2の制御部21は、送信部24を制御して、角周波数がω
C2+ω
B2及びω
C2−ω
B2の2つの送信波をアンテナ回路27を介して送信させる。
【0044】
装置1の制御部11は、受信部15を制御して、装置2からの2つの送信波を受信させてI,Q信号を夫々取得する。制御部11は、2つの受信信号によりそれぞれ得られるI,Q信号から求めた2つの位相の差を求める。
【0045】
同様に、装置2の制御部21は、受信部25を制御して、装置1からの2つの送信波を受信させてI,Q信号を夫々取得する。制御部21においても、2つの受信信号によりそれぞれ得られるI,Q信号から求めた2つの位相の差を求める。
【0046】
本実施の形態においては、装置1の制御部11は、取得したI,Q信号に基づく位相情報を送信部14に与えて送信させる。なお、上述したように、位相情報としては、例えば所定の初期値を与えたり、2つの受信信号から求めたI,Q信号であってもよく、これらのI,Q信号から求めた位相の情報であってもよく、これらの位相の差の情報であってもよい。
【0047】
例えば、制御部11は、角周波数がω
B2の受信信号の位相情報に基づくI,Q信号を生成して乗算器TM11,TM12にそれぞれ供給することで、位相情報を送信するようにしてもよい。
【0048】
また、制御部11は、角周波数がω
B1の発振信号の送信時に、角周波数がω
B1の発振信号の初期位相に角周波数ω
B2の受信信号の位相情報を加算したI,Q信号を生成し、乗算器TM11,TM12にそれぞれ供給することで、位相情報を送信するようにしてもよい。
【0049】
装置2の受信部25は、アンテナ回路27を介して送信部14が送信した位相情報を受信する。受信部25は受信信号を復調して、位相情報のI,Q信号を得る。このI,Q信号は制御部21に供給される。制御部21は、受信部25からの位相情報により、装置1の制御部11によって取得された位相差を含む値を得る。算出部としての制御部21は、受信部25の受信結果によって得た位相差と、装置2から送信された位相情報に基づく位相差とを加算することで、第1装置1と第2装置2との間の距離Rを算出する。
(2波を用いた測距の説明)
次に、このような測距システムの動作を2波を用いた場合について
図6のフローチャートを参照して説明する。
図6は左側に装置1の動作を示し、右側に装置2の動作を示している。
図6において装置1,2のステップ相互間を結ぶ矢印は装置1,2間で通信が行われることを示している。なお、ステップS4、S5、S14、S15はほぼ同時に実行される。
【0050】
装置1の制御部11は、ステップS1において、測距開始の指示があったか否かを判定し、測距開始の指示があると発振器13を制御して必要な発振信号の出力を開始させる。また、装置2の制御部21は、ステップS11において、測距開始の指示があったか否かを判定し、測距開始の指示があると発振器23を制御して必要な発振信号の出力を開始させる。
【0051】
なお、後述するように、制御部11はステップS9において発振を終了させ、制御部21はステップS20において発振を終了させている。制御部11,21における発振の開始及び終了の制御は、測距のための送信及び受信期間中には、発振器13,23の発振を停止させないことを示すものであり、実際の発振の開始及び終了タイミングは
図6のフローに限定されない。発振器13,23の発振が継続している期間には、各発振器13,23の初期位相が新たに設定されることはない。
【0052】
装置1の制御部11は、ステップS3において2つの送信信号を生成して、これらの送信信号を送信波としてアンテナ回路17から送信させる(ステップS4)。また、装置2の制御部21は、ステップS13において2つの送信信号を生成して、これらの送信信号を送信波としてアンテナ回路27から送信させる(ステップS14)。
【0053】
装置1の発振器13から出力される周波数がω
C1の発振信号の初期位相はθ
C1であり、周波数がω
B1の発振信号の初期位相はθ
B1であるものとする。なお、上述したように、これらの初期位相θ
C1,θ
B1は、発振器13の発振が継続する限り、新たに設定されることはない。
【0054】
なお、装置2の発振器23から出力される周波数がω
C2の発振信号の初期位相はθ
C2であり、周波数がω
B2の発振信号の初期位相はθ
B2であるものとする。これらの初期位相θ
C2,θ
B2についても、発振器23の発振が継続する限り、新たに設定されることはない。
【0055】
なお、2周波の同時送信、同時受信を想定した場合は、装置1に
図4の無線部が2つ、装置2に
図5の無線部が2つ必要となる。もしくはスーパーヘテロダイン方式等の無線機を用いる。ただし、それぞれの発振器は同一のものを使用するものとする。
(装置1からの角周波数がω
C1+ω
B1の送信波の送受信)
送信部14を構成する乗算器TM11,TM12及び加算器TS11によって、装置1からは角周波数がω
C1+ω
B1とω
C1−ω
B1の2送信波が出力される。角周波数がω
C1+ω
B1の送信信号tx1(t)は、下記(18)式で表される。
tx1(t)=cos(ω
C1t+θ
C1)cos(ω
B1t+θ
B1)−sin(ω
C1t+θ
C1)sin(ω
B1t+θ
B1)
=cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
C1+θ
B1} …(18)
装置1、2相互間の距離をRとし、装置1からの送信波が装置2において受信されるまでの遅延をτ
1とすると、装置2の受信信号rx2(t)は、下記(19),(20)式によって示すことができる。
rx2(t)=cos{(ω
C1+ω
B1)(t−τ
1)+θ
C1+θ
B1}
=cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
C1+θ
B1−θ
τH1} …(19)
θ
τH1=(ω
C1+ω
B1)τ
1 …(20)
この受信信号rx2(t)がアンテナ回路27によって受信されて受信部25に供給される。
図5の受信器においては、受信信号rx2(t)は、乗算器RM21,RM22に入力される。次に、
図5の受信器の各ノードにおける信号を順次計算する。乗算器RM21,RM23,RM24の出力を夫々I
1(t),I
2(t),I
3(t)とし、乗算器RM22,RM26,RM25の出力を夫々Q
1(t),Q
2(t),Q
3(t)とし、加算器RS21,RS22の出力を夫々I(t),Q(t)とする。これらの出力は、下記(21)式〜(26)式によって示される。
I
1(t)=cos(ω
C2t+θ
C2)×cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
C1+θ
B1−θ
τH1} …(21)
Q
1(t)=sin(ω
C2t+θ
C2)×cos{(ω
C1+ω
B1)t+θ
C1+θ
B1−θ
τH1} …(22)
I
2(t)=I
1(t)×cos(ω
B2t+θ
B2) …(23)
Q
2(t)=Q
1(t)×sin(ω
B2t+θ
B2) …(24)
I
3(t)=I
1(t)×sin(ω
B2t+θ
B2) …(25)
Q
3(t)=Q
1(t)×cos(ω
B2t+θ
B2) …(26)
加算器RS21の出力I(t)は、I(t)=I
2(t)+Q
2(t)であり、加算器RS22の出力Q(t)は、Q(t)=I
3(t)−Q
3(t)である。これらのI(t),Q(t)から得られる位相θ
H1(t)は、下記(27)で示される。
θ
H1(t)=tan
−1(Q(t)/I(t))=−{(ω
C1−ω
C2)t+(ω
B1−ω
B2)t+θ
C1−θ
C2+θ
B1−θ
B2−θ
τH1} …(27)
(装置2からの角周波数がω
C2+ω
B2の送信波の送受信)
同様に、装置2から送信される角周波数ω
C2+ω
B2の信号tx2(t)が遅延τ
2後に、装置1で受信された場合において、装置1で検出するI(t),Q(t)信号から得られる位相θ
H2(t)を求める。
tx2(t)=cos(ω
C2t+θ
C2)cos(ω
B2t+θ
B2)−sin(ω
C2t+θ
C2)sin(ω
B2t+θ
B2)
=cos{(ω
C2+ω
B2)t+θ
C2+θ
B2} …(28)
rx1(t)=cos{(ω
C2+ω
B2)(t−τ
2)+θ
C2+θ
B2}
=cos{(ω
C2+ω
B2)t+θ
C2+θ
B2−θ
τH2} …(29)
θ
τH2=(ω
C2+ω
B2)τ
2 …(30)
この受信信号rx1(t)がアンテナ回路17によって受信されて受信部15に供給される。
図4の受信器においては、受信信号rx1(t)は、乗算器RM11,RM12に入力される。次に、
図4の受信器の各ノードにおける信号を順次計算する。乗算器RM11,RM13,RM14の出力を夫々I
1(t),I
2(t),I
3(t)とし、乗算器RM12,RM16,RM15の出力を夫々Q
1(t),Q
2(t),Q
3(t)とし、加算器RS11,RS12の出力を夫々I(t),Q(t)とする。これらの出力は、下記(31)式〜(36)式によって示される。
I
1(t)=cos(ω
C1t+θ
C1)×cos{(ω
C2+ω
B2)t+θ
C2+θ
B2−θ
τH2} …(31)
Q
1(t)=sin(ω
C1t+θ
C1)×cos{(ω
C2+ω
B2)t+θ
C2+θ
B2−θ
τH2} …(32)
I
2(t)=I
1(t)×cos(ω
B1t+θ
B1) …(33)
Q
2(t)=Q
1(t)×sin(ω
B1t+θ
B1) …(34)
I
3(t)=I
1(t)×sin(ω
B1t+θ
B1) …(35)
Q
3(t)=Q
1(t)×cos(ω
B1t+θ
B1) …(36)
加算器RS11の出力I(t)は、I(t)=I
2(t)+Q
2(t)であり、加算器RS12の出力Q(t)は、Q(t)=I
3(t)−Q
3(t)である。これらのI(t),Q(t)から得られる位相θ
H2(t)=tan
−1(Q(t)/I(t))は、下記(37)で示される。
θ
H2(t)=(ω
C1−ω
C2)t+(ω
B1−ω
B2)t+θ
C1−θ
C2+θ
B1−θ
B2+θ
τH2 …(37)
(装置1からの角周波数がω
C1−ω
B1の送信波の送受信)
次に、装置1から送信される角周波数ω
C1−ω
B1の信号tx1(t)について、同様の演算を行う。
tx1(t)=cos(ω
C1t+θ
C1)cos(ω
B1t+θ
B1)+sin(ω
C1t+θ
C1)sin(ω
B1t+θ
B1)
=cos{(ω
C1−ω
B1)t+θ
C1−θ
B1} …(38)
となる。装置1、装置2間の距離はRで、遅延時間はτ
1であるので、装置2での受信信号rx2(t)は、下記(39),(40)式で与えられる。
rx2(t)=cos{(ω
C1−ω
B1)(t−τ
1)+θ
C1−θ
B1}
=cos{(ω
C1−ω
B1)t+θ
C1−θ
B1−θ
τL1} (39)
θ
τL1=(ω
C1−ω
B1)τ
1 (40)
装置2の各ノードの信号は、下記(43)〜(47)式に示すことができる。
I
1(t)=cos(ω
C2t+θ
C2)×cos{(ω
C1−ω
B1)t+θ
C1−θ
B1−θ
τL1} …(41)
Q
1(t)=sin(ω
C2t+θ
C2)×cos{(ω
C1−ω
B1)t+θ
C1−θ
B1−θ
τL1} …(42)
I
2(t)=I
1(t)×cos(ω
B2t+θ
B2) …(43)
Q
2(t)=Q
1(t)×−sin(ω
B2t+θ
B2) …(44)
I
3(t)=I
1(t)×−sin(ω
B2t+θ
B2) …(45)
Q
3(t)=Q
1(t)×cos(ω
B2t+θ
B2) …(46)
加算器RS21から得られるI(t)=I
2(t)−Q
2(t)と、加算器RS22から得られるQ(t)=I
3(t)+Q
3(t)から装置2で検出する位相θ
H1(t)=tan
−1(Q(t)/I(t))は、下記(47)式で与えられる。
θ
L1(t)=tan
−1(Q(t)/I(t))=−{(ω
C1−ω
C2)t−(ω
B1−ω
B2)t+θ
C1−θ
C2−(θ
B1−θ
B2)−θ
τL1} …(47)
(装置2からの角周波数がω
C2−ω
B2の送信波の送受信)
同様に、装置2から送信される角周波数ω
C2−ω
B2の信号tx2(t)が遅延
τ2後に、装置1で受信された場合において、装置1で検出するI(t),Q(t)信号から得られる位相θ
L2(t)を求める。
tx2(t)=cos(ω
C2t+θ
C2)cos(ω
B2t+θ
B2)+sin(ω
C2t+θ
C2)sin(ω
B2t+θ
B2)
=cos{(ω
C2−ω
B2)t+θ
C2−θ
B2} …(48)
rx1(t)=cos{(ω
C2−ω
B2)(t−τ
2)+θ
C2−θ
B2}
=cos{(ω
C2−ω
B2)t+θ
C2−θ
B2−θ
τL2} …(49)
θ
τL2=(ω
C2−ω
B2)τ
2 …(50)
装置1の各ノードの信号は、下記(53)〜(57)式に示すことができる。
I
1(t)=cos(ω
C1t+θ
C1)×cos{(ω
C2−ω
B2)t+θ
C2−θ
B2−θ
τL2} …(51)
Q
1(t)=sin(ω
C1t+θ
C1)×cos{(ω
C2−ω
B2)t+θ
C2−θ
B2−θ
τL2} …(52)
I
2(t)=I
1(t)×cos(ω
B1t+θ
B1) …(53)
Q
2(t)=Q
1(t)×−sin(ω
B1t+θ
B1) …(54)
I
3(t)=I
1(t)×−sin(ω
B1t+θ
B1) …(55)
Q
3(t)=Q
1(t)×cos(ω
B1t+θ
B1) …(56)
加算器RS11から得られるI(t)=I
2(t)−Q
2(t)と、加算器RS12から得られるQ(t)=I
3(t)+Q
3(t)から装置1で検出する位相θ
H1(t)=tan
−1(Q(t)/I(t))は、下記(57)式で与えられる。
θ
L2(t)=(ω
C1−ω
C2)t−(ω
B1−ω
B2)t+θ
C1−θ
C2−(θ
B1−θ
B2)+θ
τL2 …(57)
装置1の制御部11は、
図6のステップS6において、受信部15が受信したI,Q信号を取得し、ステップS7において、上記(27),(47)式に示す位相θ
τH1(t)及びθ
τL1(t)を算出する。また、装置2の制御部21は、
図6のステップS16において、受信部25が受信したI,Q信号を取得し、ステップS17において、上記(37),(57)式に示す位相θ
τH2(t)及びθ
τL2(t)を算出する。
【0056】
制御部11は、取得した位相情報を送信部14に与えて送信させる(ステップS8)。例えば、制御部11は、
図4の乗算器TM11,TM12に供給する発振信号に代えて、位相情報に基づくI,Q信号を供給する。なお、位相情報を伝送するための別の送信器を用いてもよい。
【0057】
装置2の制御部21は、ステップS18において、装置1からの位相情報を受信する。上述したように、位相情報としては、装置1の受信部15からのI,Q信号であってもよく、このI,Q信号から得られた位相の情報であってもよく、また、これらの位相の差の情報であってもよい。
【0058】
制御部21は、ステップS19において、下記(58)式の演算を行って距離を算出する。下記(58)式は、(27)式と(47)式との差分と、(37)式と(57)式との差分とを加算するものである。
{θ
H1(t)−θ
L1(t)}+{θ
H2(t)−θ
L2(t)}=(θ
τH1−θ
τL1)+(θ
τH2−θ
τL2) …(58)
また、下記(59)式及び(60)式が成立する。
θ
τH1−θ
τL1=(ω
C1+ω
B1)τ
1−(ω
C1−ω
B1)τ
1
=2ω
B1τ
1 …(59)
θ
τH2−θ
τL2=(ω
C2+ω
B2)τ
2−(ω
C2−ω
B2)τ
2
=2ω
B2τ
2 …(60)
また、装置1、装置2間の電波の遅延τ
1,τ
2は進行方向によらず同じなので、式(58)から下記(61)式が得られる。
{θ
H1(t)−θ
L1(t)}+{θ
H2(t)−θ
L2(t)}=(θ
τH1−θ
τL1)+(θ
τH2−θ
τL2)
=2×(ω
B1+ω
B2)τ
1 …(61)
上記(61)式は、装置2で検出したI,Q信号による2周波の位相差と装置1で検出したI,Q信号による2周波の位相差の加算により距離Rの2倍に比例する値が求まることを示す。装置1の発振器13による角周波数ω
B1と装置2の発振器13による角周波数ω
B2とは、一般に数十ppmのオーダーの誤差で一致させることができる。従って、上記(61)式による距離Rの算出は、少なくとも1m程度の分解能以上の分解能で求めることができる。
【0059】
制御部11は、ステップS9において発振器13を停止させ、制御部21は、ステップS20において発振器23を停止させる。なお、上述したように、制御部11,21は、ステップS4,S5,S14,S15における送受信の期間に発振を継続させればよく、発振器13,23の発振の開始及び終了タイミングは
図6の例に限定されるものではない。
(2πの剰余による距離の算出)
ところで、装置1と装置2で検出した位相差の加算を行うとき、その結果が−π(rad)以下になる場合や、π(rad)より大きくなる場合がある。この場合には2πの剰余をとることで検出位相に対する正しい距離Rを求めることができる。
【0060】
図7及び
図8は剰余系を用いた距離の算出手法を説明するための説明図である。
【0061】
例えば、R=11m、ω
B1=ω
B2=2π×5Mとしたとき、装置1によって得られる検出位相差Δθ
12と装置2によって得られる検出位相差Δθ
21とが、それぞれ下記(62)式及び(63)式に示すものとなるものとする。
Δθ
12=θ
τH1−θ
τL1=−1.8849 …(62)
Δθ
21=θ
τH2−θ
τL2=−6.0737 …(63)
上記(61)式から下記(61a)式が得られる。
【0062】
(1/2)[{Δθ
12}+{Δθ
21}]=(ω
B1+ω
B2)(R/c) …(61a)
図7は上記(62)式及び(63)式の位相関係を示している。位相0度を基準に時計方向に回転する一番内側の矢印で示すΔθ
21と内側から2番の矢印で示すΔθ
12との和の位相は、内側から3番目の矢印で示す+Δθ
21の加算分(破線)だけ加算した位相(破線太線)に示すものとなる。この位相の半分の角度は、一番外側の矢印で示す太線の位相となる。
【0063】
(61a)式から、−0.3993=(ω
B1+ω
B2)(R/c)となる。この式を解くと、R=−19mとなり、検出位相差が−π(rad)よりも大きいことから距離を正しく求めることができていないことが分かる。
【0064】
そこで、本実施の形態においては、このような場合には、
図8に示すように、Δθ
12及びΔθ
21のいずれも2πだけ加算して計算を行う。即ち、位相0度を基準に反時計方向に回転する一番内側の矢印で示す2π+Δθ
21と内側から2番の矢印で示す2π+Δθ
12との和の位相は、内側から3番目の矢印で示す+Δθ
21の加算分(破線)だけ加算した位相(破線太線)に示すものとなる。この位相の半分の角度は、一番外側の矢印で示す太線の位相となる。
【0065】
2π+(Δθ
12+Δθ
21)/2=2.3008であり、(61a)式から、R=11mと求まる。
【0066】
以上から、本実施の形態においては、検出位相差を加算する場合には2πの剰余をとって距離Rを求めればよい。なお、位相加算において2πの剰余を用いる手法は、後述する他の例においても同様に適用可能である。
(複数の距離候補からの選択)
ところで、2πを超えた検出位相差を検出することはできないことから、算出された検出位相差に対して複数の距離の候補が存在する。複数存在する距離の候補から正しい距離を選択する手法として、角周波数が異なる3つ目の送信波を送信する方法と、受信電力により判定する方法とがある。
【0067】
図9は横軸に距離をとり縦軸に位相をとって、角周波数が異なる3つ目の送信波を送信する例を示す説明図である。
【0068】
上記(61)式から下記(64)式が得られる。
(1/2)×{(θ
τH1−θ
τL1)+(θ
τH2−θ
τL2)}=(ω
B1+ω
B2)×(R/c) …(64)
左辺をθ
detと記すと、距離Rとθ
detの関係は、
図9の実線に示すものとなる。ただし、上記(64)式で計算される検出位相差の和θ
detは、−π(rad)とπ(rad)の間以外の値も取り得るが、この検出位相差の和θ
detは、−π(rad)とπ(rad)の間に変換したものである。これは、一般に、位相角は範囲[−π(rad),π(rad)]内で表示されることによる。
【0069】
図9を参照すると、検出位相差の和θ
detによる距離の候補としては、R
1、R
2、R
3がある。ここで、検出位相差の和θ
detは、角周波数ω
C1+ω
B1,ω
C1−ω
B1,ω
C2+ω
B2,ω
C2−ω
B2の各送信波の送受信により得た位相の加減算結果であるが、新たに、角周波数ω
C1+ω
B1/Q,ω
C2+ω
B2/Qの送信波の送受信により得た位相の加減算結果を考える。但し、Qは下記(65)式を満足する有理数とする。
Q>1 …(65)
新たな角周波数での検出位相と距離Rとの関係は、
図9の破線によって示すことができる。上記距離の候補R
1〜R
3から正しい距離を選択するには、新たな角周波数で得られた検出位相の結果を参照する。すなわち、θ
det1が検出されれば、距離R
1と判断し、θ
det2が検出されれば、距離R
2と判断する。なお、電波のカバー範囲を小さく抑えれば、上記の位相折り返しによる検査は不要である。なお、上記説明では異なる3つの周波数の送信について述べたが、同様なことは異なる3つ以上の周波数を送信しても実現できる。
【0070】
次に、
図10の説明図を参照して検出した信号の振幅観測により、正しい距離を選択する方法について説明する。
【0071】
上記(8)式では、距離Rに応じて減衰L
1で振幅が減衰するものと説明したが、自由空間の伝搬減衰は下記(66)式で表される。
L
1=(λ/4πR)
2 …(66)
ここで、λは波長である。(66)式によれば、距離Rが大きければ減衰L
1も大きく、距離Rが小さければ減衰L
1も小さい。
図10はこの関係を示している。送受信のアンテナ利得を1、送信電力をP
0と仮定すると、距離R
1での受信電力P
1と距離R
2での受信電力P
2はそれぞれ下記(67)式又は(68)式によって与えられる。
P
1=(λ/4πR
1))
2×P
0 …(67)
P
2=(λ/4πR
2))
2×P
0 …(68)
この受信電力と検出位相差の和θ
detから距離R
1とR
2の区別が可能となる。
【0072】
なお、この場合、位相加算においても2πの剰余を用いることで、確実な測距が可能となる。
【0073】
このように本実施の形態においては、基本的には第1装置及び第2装置においてそれぞれ2つの送信波を採用し、第1装置及び第2装置からそれぞれ2つの角周波数の信号をそれぞれ第2装置及び第1装置に送信すると共に、第1及び第2装置においてそれぞれ角周波数が異なる2つの受信信号の2つの位相を求める。そして、第1装置と第2装置のいずれか一方から他方に、求めた位相情報を伝送する。位相情報を受信した装置は、第1装置により受信した2つの受信信号の位相差と第2装置により受信した2つの受信信号の位相差との加算結果により、第1装置と第2装置の発振器の初期位相に拘わらず、第1装置と第2装置との間の距離を正確に算出する。この測距システムでは、反射波を用いておらず、第1装置及び第2装置からの直接波のみによって、正確な測距を行っており、測距可能な距離を拡大することができる。
(時系列送受信における課題)
上述の説明では、上記(58)式において電波の遅延τ
1,τ
2が同一であるものとして、検出位相差の加算から距離を求める上記(61)式を求めた。しかしながら、この(58)式は、装置1,2において送受信する処理が同時に行われた場合の例である。
【0074】
しかしながら、国内電波法の規定から、同時送受信ができない周波数帯が存在する。例えば、920MHz帯などがその一例となる。このような周波数帯で測距を行う場合には時系列で送受信を行わざるを得ない。
【0075】
図11Aは時系列送受信におけるフローチャートであり、
図11B乃至
図15はこのような時系列送受信における課題と解決方法を説明するための説明図である。
【0076】
装置1,2間において、同時刻には1波しか送受信できないものと規定した場合には、測距に必要な少なくとも4波の送受信を時系列で実施する必要がある。しかしながら、時系列送受信を実施すると、検出位相に時系列で生じた遅延分の位相が加算されてしまい、伝搬に要した位相が求められなくなる。上記(58)式を変形してこの理由について説明する。
【0077】
なお、
図6の破線部分はほぼ同時に実行されるものであるが、時系列に1波ずつ送受信する場合、破線の部分は
図11Aのようになる。
【0078】
上記説明と同様に、互いに距離Rだけ離間する装置1,2において、装置1から送信した角周波数ω
C1+ω
B1の信号を装置2において検出した場合の位相(シフト量)をθ
H1とし、装置1から送信された角周波数ω
C1−ω
B1の信号を装置2において検出した場合の位相をθ
L1とし、装置2から送信した角周波数ω
C2+ω
B2の信号を装置1において検出した場合の位相(シフト量)をθ
H2とし、装置2から送信された角周波数ω
C2−ω
B2の信号を装置1において検出した場合の位相をθ
L2とする。
【0079】
いま、例えば、位相検出順序をθ
H1、θ
L2、θ
H2、θ
L1とする。また、
図11B及び
図11Cに示すように、各送信信号は、時間Tだけずれて送受信されるものとする。この場合には、上記(27)式、(37)式、(47)式及び(57)式の(t)に時間を代入し、上記(58)式を変形した下記(120)式が成立する。
{θ
H1(t)−θ
L1(t+3T)}+{θ
H2(t+2T)−θ
L2(t+T)}
=(θ
τH1−θ
τL1)+(θ
τH2−θ
τL2)+(ω
C1−ω
C2)4T …(120)
上記(120)式の最終項が時系列送受信により付加された位相である。この付加された位相は、受信するRF(高周波)信号の角周波数とほぼ同じローカル角周波数に対する装置1、装置2の誤差角周波数と遅延4Tの乗算結果となる。ローカル周波数を920MHz、周波数誤差を40ppm、遅延Tを0.1msとした場合、付加された位相は、360°×14.7となり、付加された位相による誤差が大き過ぎて、正しく測距できないことが分かる。
【0080】
次に、位相検出順序をθ
H1,θ
L1,θ
H2,θ
L2とするものとする。
図12A及び
図12Bはこの場合の例を示している。この場合には、下記(58)式を変形して、下記(121)式が得られる。
{θ
H1(t)−θ
L1(t+T)}+{θ
H2(t+2T)−θ
L2(t+3T)}
=(θ
τH1−θ
τL1)+(θ
τH2−θ
τL2)+(ω
B1−ω
B2)4T …(121)
この(121)式の最終項が時系列送受信により付加された位相である。この付加された位相は、受信する高周波信号の低い角周波数とほぼ同じベースバンド用ローカル角周波数に対する装置1、装置2の誤差角周波数と遅延4Tの乗算結果となる。ローカル周波数を5MHz、周波数誤差を40ppm、遅延Tを0.1msとした場合、360°×0.08=28.8°となり、前例より正確に測距できることが分かる。
【0081】
しかし、この場合においても、誤差分がシステム仕様の許容誤差内にあるか否かはシステム依存となる。本実施の形態は、時系列送受信により発生する距離誤差を小さくする時系列の手順を提示するものである。なお、本実施の形態は、電波法により規定された送受信の規制を考慮した手順を示すものである。
(具体的な手順)
先ず、送信遅延による影響を考える。
【0082】
上記(58)式を変形して、下記(122)式を得る。
{θ
H1(t)+θ
H2(t)}−{θ
L1(t)+θ
L2(t)}=(θ
τH1+θ
τH2)−(θ
τL1+θ
τL2) (122)
なお、ここで、
θ
H1(t)+θ
H2(t)=θ
τH1+θ
τH2 …(123)
θ
L1(t)+θ
L2(t)=θ
τL1+θ
τL2 …(124)
である。
【0083】
無線通信において、自分宛ての信号を受信したとき、キャリアセンスなしで返信できる規定がある。これに従い、装置1から装置2へ信号を送信終了後、ただちに、装置2から装置1へ返信することにする。解析を簡単にするため、装置1が送信してからt
0後に装置2が送信1へ返信すると仮定する。(111)式及び(112)式から下記(125)式が得られる。
θ
H1(t)+θ
H2(t+t
0)=θ
τH1+θ
τH2+{(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(125)
遅延t
0は時系列的には最短の時間であり、装置1から装置2へ角周波数ω
C1+ω
B1の信号を送る時間、送受タイミングマージン、伝搬遅延を含むものである。右辺、第3項、第4項は遅延t
0による位相誤差になる。周波数が高いことから第4項が特に問題となるが、これについては後で言及する。
【0084】
次に、(125)式の左辺に、さらに遅延Tを追加するものとする。
図13はこのような伝送手順を示している。
図13に示すように、この場合の検出位相の加算値は、遅延Tの追加に拘わらず同一である。従って、下記(126)式が得られる。
θ
H1(t+T)+θ
H2(t+t
0+T)=θ
τH1+θ
τH2+{(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(126)
上記(126)式の右辺と上記(125)式の右辺とは同じである。即ち、相対的時間差が同一であれば(上記例ではT)、装置1から送信された信号を装置2で受信した位相と装置2から送信された信号を装置1で受信した位相の加算結果は、遅延Tに拘わらず変化しない。つまり、これらの位相の加算結果は、遅延Tに依存しない値となる。
【0085】
次に、角周波数ω
C1−ω
B1信号の装置1、装置2間の送受信においても同様に示す。即ち、上記(47)式及び(57)式から、下記(127)式、(128)式が得られる。
θ
L1(t)+θ
L2(t+t
0)=θ
τL1+θ
τL2+{−(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(127)
θ
L1(t+T)+θ
L2(t+t
0+T)=θ
τL1+θ
τL2+{−(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(128)
上記考察から、角周波数ω
C1+ω
B1の双方向の送受信後、角周波数ω
C1−ω
B1信号の送受信を行うシーケンスを考える。装置1から角周波数ω
C1+ω
B1信号の送信開始時間を基準として、装置1から角周波数ω
C1−ω
B1信号の送信開始時間をTとすると、上記(125)式及び(128)式から下記(129)式が得られる。ただし、T>t
0である。
θ
H1(t)+θ
H2(t+t
0)−{θ
L1(t+T)+θ
L2(t+t
0+T)}
=θ
τH1−θ
τL1+θ
τH2−θ
τL2+2(ω
B1−ω
B2)t
0 …(129)
上記(129)式の左辺の最終項が送信遅延による位相誤差である。受信した高周波用のローカル周波数の遅延誤差は角周波数ω
C1+ω
B1信号と角周波数ω
C1−ω
B1信号の差分をとることで打ち消されている。したがって、位相誤差は時系列的には最短の遅延時間t
0とベースバンド用のローカル角周波数(例えば2π×5MHz)の誤差の乗算となる。遅延時間t
0を小さく設定すれば誤差は小さくなる。従って、遅延時間t
0の値によっては、実使用上は、精度上問題無い測距が可能と言える。
【0086】
次に、距離推定誤差要因である上記(129)式の最終項を除去する手法について説明する。
【0087】
上記(27)式と(37)式から、下記(130)式が得られる。
θ
H1(t+t
0)+θ
H2(t)=θ
τH1+θ
τH2−{(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(130)
この(130)式の左辺に所定の遅延Dを加えても、上述したように、右辺の値は変化しない。従って、下記(131)式が得られる。
θ
H1(t+t
0+D)+θ
H2(t+D)=θ
τH1+θ
τH2−{(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(131)
上記(125)式と(131)式を加算すると、下記(132)式が得られる。
θ
H1(t)+θ
H2(t+t
0)+θ
H1(t+t
0+D)+θ
H2(t+D)=2(θ
τH1+θ
τH2) …(132)
図14の左側は上記(132)式の状態を示している。この(132)式においてD=t
0とすると、下記(133)式が得られる。
θ
H1(t)+2θ
H2(t+t
0)+θ
H1(t+2t
0)=2(θ
τH1+θ
τH2) …(133)
上記(133)式の右辺は、時間依存のない距離に応じた電波伝搬遅延の項のみとなる。
【0088】
上記(47)式及び(57)式から、下記(134)式が得られる。
θ
L1(t+t
0)+θ
L2(t)=θ
τL1+θ
τL2−{−(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(134)
この(134)式の左辺に所定の遅延Dを加えても、右辺の値は変化しない。従って、下記(135)式が得られる。
θ
L1(t+t
0+D)+θ
L2(t+D)=θ
τL1+θ
τL2−{−(ω
B1−ω
B2)+(ω
C1−ω
C2)}t
0 …(135)
上記(127)式と(135)式を加算すると、下記(136)式が得られる。
θ
L1(t)+θ
L2(t+t
0)+θ
L1(t+t
0+D)+θ
L2(t+D)=2(θ
τL1+θ
τL2) …(136)
この(136)式において、D=t
0とすると、下記(137)式が得られる。
θ
L1(t)+2θ
L2(t+t
0)+θ
L1(t+2t
0)=2(θ
τL1+θ
τL2 …(137)
上記(137)式の右辺は、時間依存のない距離に応じた電波伝搬遅延の項のみとなる。
【0089】
上記(133)式及び(137)式は、装置1の送信信号を装置2で位相検出し、t
0後に装置2の送信信号を装置1で位相検出し、2t
0後に再度装置1の送信信号を装置2で位相検出するシーケンスを意味している。以下、装置1の送信信号の送信及びこれに対する装置2の位相検出と、装置2の送信信号の送信及びこれに対する装置1の位相検出とが交番すると共に、これらの位相検出を時間をずらして再度測定することを「繰返し交番」と呼ぶことにする。
【0090】
即ち、装置1,2において、それぞれ2つのキャリア信号を送信して受信すると共に、もう一度装置1又は2から他方の装置に対してt
0間隔でキャリア信号を送受信する繰返し交番を行うことによって、送信の順序及び時間は制限される代わりに、時間依存を受けることない正確な測距が可能となる。
【0091】
更に、キャリア信号の送受信シーケンスによっては、繰返し交番をt
0間隔で行わなくても、時間に依存しない正確な測距が可能となる。
【0092】
即ち、上記(136)式の左辺に固定遅延Tを加えても右辺は一定なので、
θ
L1(t+T)+θ
L2(t+t
0+T)+θ
L1(t+t
0+D+T)+θ
L2(t+D+T)=2(θ
τL1+θ
τL2) …(138)
上記(132)式と(138)式から、下記(139)式が得られる。
θ
H1(t)+θ
H2(t+t
0)+θ
H1(t+t
0+D)+θ
H2(t+D)
−{θ
L1(t+T)+θ
L2(t+t
0+T)+θ
L1(t+t
0+D+T)+θ
L2(t+D+T)}
=2{(θ
τH1−θ
τL1)+(θ
τH2−θ
τL2)}=4×(ω
B1+ω
B2)τ
1 …(139)
上記(139)式は、角周波数ω
C1+ω
B1、ω
C2+ω
B2の往復を時間間隔Dで繰返し交番したのち、測定開始からT後に角周波数ω
C1−ω
B1、ω
C2−ω
B2の往復を時間間隔Dで繰返し交番するシーケンスを示しており、このシーケンスを採用することで、上記(129)式の最終項の距離推定誤差要因を除去して、正確な測距が可能であることを示している。
【0093】
図14及び
図15はこのシーケンスを示している。このようなシーケンスで位相を計測することにより伝搬遅延成分のみ取り出すことができる。即ち、装置1の制御部11は、所定タイミングで角周波数がω
C1+ω
B1の送信波(以下、送信波H1Aという)を送信する。装置2の制御部21は、送信波H1Aの受信直後に、角周波数がω
C2+ω
B2の送信波(以下、送信波H2Aという)を送信する。更に、装置2の制御部21は、送信波H2Aの送信後に角周波数がω
C2+ω
B2の送信波(以下、送信波H2Bという)を再度送信する。装置1の制御部11は、2回目の送信波H2Bの受信後に、再び角周波数がω
C1+ω
B1の送信波(以下、送信波H1Bという)を送信する。
【0094】
また、更に制御部11は、角周波数がω
C1−ω
B1の送信波(以下、送信波L1Aという)を送信する。装置2の制御部21は、送信波L1Aの受信直後に、角周波数がω
C2−ω
B2の送信波(以下、送信波L2Aという)を送信する。更に、装置2の制御部21は、送信波L2Aの送信後に角周波数がω
C2−ω
B2の送信波(以下、送信波L2Bという)を再度送信する。装置1の制御部11は、2回目の送信波L2Bの受信後に、再び角周波数がω
C1−ω
B1の送信波(以下、送信波L1Bという)を送信する。
【0095】
こうして、
図14及び
図15に示すように、装置2の制御部21は、所定の基準時間0から所定時間において送信波H1Aに基づく位相θ
H1(t)を取得し、時間t
0+Dから所定時間において送信波H1Bに基づく位相θ
H1(t+t
0+D)を取得し、時間Tから所定時間において送信波L1Aに基づく位相θ
L1(t+T)を取得し、時間t
0+D+Tから所定時間において送信波L1Bに基づく位相θ
L1(t+t
0+D+T)を取得する。
【0096】
また、装置1の制御部11は、時間t
0から所定時間において送信波H2Aに基づく位相θ
H2(t+t
0)を取得し、時間Dから所定時間において送信波H2Bに基づく位相θ
H2(t+D)を取得し、時間t
0+Tから所定時間において送信波L2Aに基づく位相θ
L2(t+t
0+T)を取得し、時間D+Tから所定時間において送信波L2Bに基づく位相θ
L2(t+D+T)を取得する。
【0097】
装置1又は2の少なくとも一方は、他方に、位相情報、即ち、求めた4つの位相又は2つの位相差又は位相差の上記(139)式の演算結果を送信する。位相情報を受信した装置1又は2の制御部は、上記(139)式の演算によって、距離を算出する。なお、
図6のステップS7、S17では位相差算出と記載したが、この場合、必ずしもステップS7、S17で位相差を算出する必要はなく、S19の距離算出時に位相差の算出を行なってもよい。
【0098】
このように本実施の形態においては、第1装置及び第2装置からのキャリア信号を繰返し交番させることで、同時にキャリア信号を送受信できない場合でも、正確な測距が可能である。例えば、第1装置及び第2装置はそれぞれ2つの角周波数の信号を2回ずつそれぞれ第2装置及び第1装置に所定のシーケンスで送信して、第1及び第2装置のそれぞれにおいて位相差を求める。そして、第1装置と第2装置のいずれか一方から他方に、求めた位相情報を伝送し、位相情報を受信した装置は、第1装置及び第2装置により求めた8つの位相に基づいて、第1装置と第1装置との間の距離を算出する。これにより、第1装置と第2装置の発振器の初期位相に拘わらず、第1装置と第2装置との間の距離を正確に算出する。このように、各角周波数の信号を同時に送ることなく、相互にずれたタイミングで送受信した場合でも、距離推定の誤差を除去して正確な測距が可能である。
(マルチパスの課題)
上記説明では、装置1からの角周波数ω
C1+ω
B1、ω
C1−ω
B1の送信信号2波を装置2で受信して位相θ
H1(t)、θ
L1(t)を検出し、装置2からの角周波数ω
C2+ω
B2、ω
C2−ω
B2の送信信号2波を装置1で受信して位相θ
H2(t)、θ
L2(t)を検出し、これら4つの位相を用いることにより距離測定が可能であることを示した。
【0099】
しかしながら、マルチパスの影響により受信波の位相が変化し、距離に応じた伝搬遅延分の位相を正確に抽出できなくなる問題がある。以下、マルチパスの影響で厳しい条件とされる2波モデルを用いてこの問題について説明する。
【0100】
図16は距離測定におけるこのようなマルチパス環境による問題を説明するための説明図である。
【0101】
図16に示すように、自動車Cから送信される正弦波y(t’)=sinωt’は、直接キーKに伝搬する経路(距離R)と壁Wを反射してキーKに伝搬する2つの経路(距離R+ΔR)を介してキーKに到達する。自動車Cから直接キーKに伝搬する経路を通る直接波の伝搬遅延はτであり、自動車Cから壁Wに反射してキーKに伝搬する経路を通る遅延波の伝搬遅延はτ+τ
1であるものとする。
【0102】
キーKは、伝搬遅延τでキーKへ伝搬する経路を伝搬する波と、壁で反射し伝搬遅延τ+τ
1でキーへ伝搬する経路を伝搬する波との2波を受信することを想定する。この場合に、キーKが受信する信号y(t’)は、この2波を加算した信号となり、下記(69)式で表される。
y(t’)=sin{ω(t’−τ)}+Asin{ω(t’−τ−τ
1)+θ
1} …(69)
ここで、θ
1は壁で反射したときに生じる位相シフトを示し、Aは反射による損失及び距離誤差ΔR分の伝搬損失を考慮した振幅を示す。ここで、計算を簡単にするため、t=t’−τとして、キーKにおける時間tの信号を下記(70)式に示す。
y(t)=sinωt+Asin{ω(t−τ
1)+θ
1}
={1+Acos(ωτ
1−θ
1)}sinωt−Asin(ωτ
1−θ
1)cosωt …(70)
上記(70)式を三角関数の合成公式を用いて変形すると、下記(71)式及び(72)式が得られる。
y(t)={1+A
2+2Acos(ωτ
1−θ
1)}
1/2sin(ωt+φ) …(71)
φ=−tan
−1(Asin(ωτ
1−θ
1)/{1+Acos(ωτ
1−θ
1)} …(72)
式(71)、式(72)から壁Wを反射した遅延波Asin{ω(t−τ
1)+θ
1}の影響によって、キーKの受信信号は、振幅及び位相が直接波のみの場合に比べて変化することが分かる。この位相変化分のうち角周波数ω=ω
C1+ω
B1に対応する位相変化分をφ
Hとし、角周波数ω=ω
C1−ω
B1に対する位相変化分をφ
Lとする。この位相変化分の差分φ
L−φ
Hを計算すると、下記(73)式となる。
φ
L−φ
H=−tan
−1[Asin{(ω
C1−ω
B1)τ
1−θ
1}]/[1+Acos{(ω
C1−ω
B1)τ
1−θ
1}]+tan
−1[Asin{(ω
C1+ω
B1)τ
1−θ
1}]/[1+Acos{(ω
C1+ω
B1)τ
1−θ
1}] …(73)
上記(73)式は、遅延波が存在することにより生ずる位相検出誤差を示している。τ
1は直接波に対する遅延波の遅延時間を表し、伝搬距離の差分に比例した値である。(73)式からわかるように、φ
L−φ
Hは、θ
1にも依存するが、伝搬距離に関係はない、反射物、入射角度に依存する。
【0103】
図17は横軸に時間をとり縦軸に振幅をとって、遅延時間τ
1と位相変化分の差φ
L−φ
Hとの関係を示すグラフである。なお、
図17では、A=0.5、θ
1=0(rad)、τ
1=16.8(ns)、ω
C1=2π×900M(Hz)、ω
B1=2π×5M(Hz)の場合の関係を示している。
【0104】
角周波数がω
C1+ω
B1とω
C1−ω
B1それぞれに対応する位相変化分φ
H、φ
Lは、直接波と遅延波との遅延時間の差がτ
1なので、下記(74)式及び(75)式で表される。
φ
H=(ω
C1+ω
B1)τ
1 …(74)
φ
L=(ω
C1−ω
B1)τ
1 …(75)
(74)式、(75)式から、τ
1=(φ
H−φ
L)/2ωB
1なので、パスの差による距離誤差ΔRは、下記(76)式によって示される。
ΔR=cτ
1=c×(φ
H−φ
L)/(2ω
B1) …(76)
ここで、ω
B1=2π×5M(Hz)とすると、τ
1が16(ns)近傍では、−0.8≦φ
H−φ
L≦0.4なので、距離誤差ΔRは1.9mから3.8m程度になる。即ち、このような条件の測距システムにおける距離精度として2mが要求される場合には、許容できない距離誤差で測距が行われることになる。従って、この場合、マルチパスによる影響を補償する必要がある。
(課題を解決する具体例)
そこで、本実施の形態においては、送信部14,24は、角周波数ω=ω
C1+ω
B1、ω=ω
C1−ω
B1の送信波とは別に、角周波数ω=ω
C1の信号を送信するようになっている。
【0105】
これら3波の振幅比、具体的には角周波数ω
C1に対する角周波数ω
C1+ω
B1の振幅比ΔA
H0および、角周波数ω
C1に対する角周波数ω
C1−ω
B1の振幅比ΔA
L0を求めた結果を用いる。ここで、追加した角周波数ω
C1の信号は、ω
C1+ω
B1とω
C1−ω
B1の平均の角周波数であるが、追加信号の角周波数が平均値から多少ずれても効果は失われるものではない。
【0106】
キーKにおいて、時間tで受信される受信信号について、角周波数がω
C1+ω
B1の振幅A
H、ω
C1の振幅A
0、ω
C1−ω
B1の振幅A
Lを上記(71)式からそれぞれ求めると、下記(77)式〜(79)式となる。
A
H=[1+A
2+2Acos{(ω
C1+ω
B1)τ
1−θ
1}]
1/2 …(77)
A
0={1+A
2+2Acos(ω
C1τ
1−θ
1)}
1/2 …(78)
A
L=[1+A
2+2Acos{(ω
C1−ω
B1)τ
1−θ
1}]
1/2 …(79)
ただし、反射時に壁Wによって生じる位相シフトθ
1は、適用する周波数範囲では同一の値と仮定する。上記(77)式〜(79)式から、振幅比ΔA
H0及びΔA
L0をデシベル表示した下記(80)式及び(81)式が求められる。
ΔA
H0=10log{1+A
2+2Acos{(ω
C1+ω
B1)τ
1−θ
1)}
−10log{1+A
2+2Acos(ω
C1τ
1−θ
1)} …(80)
ΔA
L0=10log{1+A
2+2Acos{(ω
C1+ω
B1)τ
1−θ
1)}
−10log{1+A
2+2Acos(ω
C1τ
1−θ
1)} …(81)
図18は
図17と同様の表示によって、上記(80)式、(81)式およびΔsum=ΔA
H0+ΔA
L0とτ
1との関係を示すグラフである。
図18はθ
1=0(rad)として示している。なお、θ
1の変化は横軸τ
1がシフトすることと等価であり、グラフ中の各特性曲線の形状が変わることはない。
【0107】
図17及び
図18の比較から分かるように、φ
H−φ
LとΔsum=ΔA
H0+ΔA
L0の極大値をとる遅延時間τ
1は等しい。そこで、本実施の形態においては、この点に注目して位相誤差φ
H−φ
Lを、Δsum=ΔA
H0+ΔA
L0を用いて補正する。
【0108】
図19は
図17,
図18と同様の表示によって、φ
L−φ
Hのτ
1依存性とΔsum/4=(ΔA
H0+ΔA
L0)/4のτ
1依存性を説明するためのグラフである。
【0109】
図19に示すように、φ
H−φ
Lの特性曲線と、Δsum/4=(ΔA
H0+ΔA
L0)/4の特性曲線とは、同一ではないが類似した変化を示している。この関係を利用して、2波を用いて検出した位相から(ΔA
H0+ΔA
L0)/4を減算すれば、マルチパスによる位相誤差を大幅に軽減できることになる。なお、ここでは振幅比の加算に対して(1/4)倍を乗算したが、対象とするτ
1を変えれば必ずしも(1/4)が最適な値ではない。この乗算値は設計パラメータであり、場合により変更すればよい。
【0110】
マルチパスによる位相誤差から(ΔA
H0+ΔA
L0)/4を引いた値に対して、距離誤差ΔRを求めると、下記(82)が得られる。
ΔR={φ
L−φ
H|in rad−(ΔA
H0+ΔA
L0|in dB)/4}×c/(2ω
B1) …(82)
図20は
図17〜
図19と同様の表示によって、補正無しの距離誤差ΔRと補正有りの距離誤差ΔRとを示すグラフである。なお、
図20の縦軸は距離誤差ΔR(m)である。上記(82)式から、τ
1が0(ns)から20(ns)の範囲では、検出した位相から(ΔA
H0+ΔA
L0)/4を引くことにより、距離誤差ΔRを1.8m以下にすることができることが分かる。また、τ
1が0(ns)から10(ns)の範囲では、距離誤差ΔRを1.2mに抑えることができる。このように、本実施の形態においては、3波目を用いた振幅比の情報を利用することにより、距離精度を改善することができる。
(マルチパスに対応した3波を用いた測距の動作)
次に、このような測距システムの動作を3波を用いた場合について
図21のフローチャートを参照して説明する。
図21において
図6と同一の手順には同一符号を付して説明を省略する。
図21は左側に装置1の動作を示し、右側に装置2の動作を示している。
図21において装置1,2のステップ相互間を結ぶ矢印は装置1,2間で通信が行われることを示している。
【0111】
図21の例は、装置1側でステップS21,S22の手順を追加し、装置2側でステップS31〜S34を追加した点が
図6のフローと異なる。ステップS21は、装置1から3波目の追加信号である角周波数がω
C1の1波の送信信号(追加信号)を生成する手順であり、ステップS22は、生成した追加信号に基づく1波の追加送信波を送信する手順である。
【0112】
装置2は、ステップS31においてこの追加送信波を受信すると、ステップS32において、I,Q信号を取得し、ステップS33において距離誤差を算出する。装置2は、ステップS34においてステップS19において求めた距離から距離誤差を減算して、補正した距離を求める。
【0113】
なお、
図21のフローにおいても
図6のフローと同様に、必ずしもステップS7、S17で位相差を算出する必要はなく、S19の距離算出時に位相差の算出を行なってもよい。
【0115】
ところで、ステップS33における距離誤差の算出は、上述した(82)式に基づくものであり、振幅比ΔA
H0及び振幅比ΔA
L0は、上記(80)式及び(81)式に示すように、時間の影響を受けない。従って、追加信号はいずれの時間タイミングで送信してもよい。例えば、
図21の例では位相差算出の後に追加信号を送信した例を示しているが、例えば、2送信波の送信直後に追加信号を送信してもよく、また、2送信波の送信よりも前に追加信号を送信してもよい。
【0116】
また、
図21の例では、装置1が送信した追加信号を装置2において受信して距離誤差を求める例を説明したが、装置2から角周波数がω
C2の追加信号を送信し、装置1において受信した追加信号と受信した2送信波とを用いて距離誤差を算出し、算出した距離誤差の情報を装置2に送信して、装置2において距離を補正するようにしてもよい。
【0117】
他の作用は2波を用いた場合と同様である。
【0118】
このように本実施の形態においては、第1装置及び第2装置からのキャリア信号を相互に2波送信すると共に、追加信号を1波送信することで、マルチパスにおける距離誤差を算出して、マルチパスの影響を低減した測距が可能である。
【0119】
なお、上記マルチパスに関する処理、2πの剰余による距離の算出処理、複数の距離候補からの選択処理及び時系列送受信における処理等は適宜組み合わせて用いることができる。
(第2の実施の形態)
図22及び
図23は本発明の第2の実施の形態を示す説明図である。本実施の形態は上記各測距システムをスマートエントリシステムに適用した例を示すものである。
【0120】
図22において、キー31は自動車32のドアの解錠及び施錠並びに自動車32のエンジンの起動を可能にする信号を無線によって送信することができるようになっている。即ち、キー31は図示しないデータ送受信部を有しており、データ送受信部によって認証のための暗号化された固有データを送信することができるようになっている。キー31のデータ送受信部からの電波は、自動車32に搭載された図示しない車両制御装置35において受信される。
【0121】
図23に示すように車両制御装置35には、制御部36が設けられている。制御部36は、車両制御装置35の各部を制御する。制御部36は、CPU等を用いたプロセッサによって構成されて、メモリ38に記憶されたプログラムに従って動作して各部を制御するものであってもよい。
【0122】
車両制御装置35には、データ送受信部37が設けられている。データ送受信部37は、アンテナ35aを介してキー31のデータ送受信部との間で無線通信を行うことができる。データ送受信部37は、キー31から送信された固有データを受信し、所定の応答データをキー31に送信することで、キー31と自動車32との認証を行うようになっている。
【0123】
データ送受信部37は、電界強度を細かく設定できるようになっており、キー31がデータ送受信部37の送信データを受信可能な比較的近い位置、即ち、自動車32の近傍に位置しなければ、認証は行われない。
【0124】
例えば、
図22の破線に示すように、キー31が自動車32の十分近くに位置するものとする。この場合には、データ送受信部37はキー31との間で互いに通信が可能であり、データ送受信部37はメモリ37aに記録されている固有データとの照合によってキー31を認証する。データ送受信部37は、制御部36に対してキー31を認証したことを示す信号を出力する。これにより、制御部36は、解錠・施錠装置39を制御して、解錠及び施錠の許可を与える。
【0125】
図22において中継装置33,34はリレーアタックの攻撃者が所持する。中継装置33はキー31との間で通信が可能であり、中継装置34は自動車32内のデータ送受信部37との間で通信が可能であって、中継装置33,34はキー31とデータ送受信部37との間の通信を中継する。これにより、キー31が
図22のように十分に自動車32から離間して、キー31とデータ送受信部37との直接通信ができない場合においても、中継装置33,34を経由することで、データ送受信部37はキー31を認証できてしまう。
【0126】
そこで、本実施の形態においては、制御部36は、データ送受信部37の認証結果と第2装置2からの測距結果とに基づいて、解錠及び施錠並びにエンジンの始動等を許可するか否かを決定するようになっている。
【0127】
キー31には上記第1の実施の形態における第2装置2が内蔵されている。一方、車両制御装置35には上記第1の実施の形態における装置1が搭載されている。装置1からの送信波は、アンテナ27aを介して装置2において受信され、装置2からの送信波は、アンテナ27aを介して装置1において受信される。装置1からの送信波は、直接アンテナ27aに受信される場合と、中継装置33,34を経由してアンテナ27aに受信される場合とがある。同様に、第2装置からの送信波は、アンテナ27aから直接装置1に受信される場合と、アンテナ27aから中継装置33,34を経由して直接装置1に受信される場合とがある。
【0128】
中継装置33,34において装置1,装置2からの送信波の位相が変化しないものとすると、装置1,2において求めた位相に基づいて、装置2はキー31との間の距離を算出することができる。装置2は、算出した距離を制御部36に出力する。メモリ38には、キー31の認証を許可する距離閾値が格納されており、制御部36は、装置2によって算出された距離がメモリ38から読み出した距離閾値以内の場合には、キー31が認証されたものとして、解錠及び施錠並びにエンジンの始動等を許可する。また、制御部36は、装置2によって算出された距離がメモリ38から読み出した距離閾値よりも大きい場合には、キー31の認証を許可しない。従って、この場合には、解錠及び施錠並びにエンジンの始動等は許可されない。
【0129】
なお、中継装置33,34において、装置1,装置2からの送信波の位相を変化させることができるものとする。この場合でも、装置1,2の初期位相が不明であることから、装置2によって算出される距離がメモリ38から読み出された距離閾値以内の値とするために必要な移相量を中継装置33,34において求めることはできない。このため、中継装置33,34を用いたとしても、キー31の認証が許可される可能性は十分に小さい。
【0130】
このように本実施の形態においては、上記第1の実施の形態における測距システムを利用することで、スマートエントリシステムに対するリレーアタックによって、車両の解錠等が行われることを防止することができる。
(送信シーケンス)
図24〜
図35は上記各実施の形態で採用可能な各種シーケンスを示す説明図である。
【0131】
図24はキャリアセンスを行い、応答無しで且つ繰返し交番無しのシーケンスを示している。このシーケンスの例は、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0132】
図25はキャリアセンスを行い、応答無しで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0133】
図26 はキャリアセンスを行い、応答有りで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0134】
図27はキャリアセンス無しで、応答無しで且つ繰返し交番無しのシーケンスを示している。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0135】
図28はキャリアセンス無しで、応答無しで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0136】
図29はキャリアセンス無しで、応答有りで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。
【0137】
図30はキャリアセンスがある場合と無い場合があり、応答無しで且つ繰返し交番無しのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0138】
図31はキャリアセンスがある場合と無い場合があり、応答無しで且つ繰返し交番無しのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0139】
図32はキャリアセンスがある場合と無い場合があり、応答無しで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0140】
図33はキャリアセンスがある場合と無い場合があり、応答有りで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0141】
図34はキャリアセンスを行い、応答有りで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
【0142】
図35はキャリアセンスがある場合と無い場合があり、応答有りで且つ繰返し交番有りのシーケンスを示している。このシーケンスの例も、キャリアセンスにより測距周波数の有無を判断するものである。キャリアセンスにより感知した場合には、(a)所定時間(例えば数ms)後再度最初から始めるようにしてもよく、(b)キャリアセンス除外規定シーケンスで始めるようにしてもよい。なお、中央周波数の送信波は他の送信波との振幅比のみを求めるためのものであり、各送信波の受信後にいずれのタイミングで計測してもよい。
(マルチパスに関する変形例)
図36はマルチパスを考慮した変形例における動作を示すフローチャートであり、
図21に対応したものである。
図36において
図21と同一の手順には同一符号を付して説明を省略する。
【0143】
図17に示したように、遅延波の存在による位相検出誤差(φ
L−φ
H)は、遅延時間差軸上では所定の間隔で極大値が生じる。換言すると、極大値が生じていない遅延時間差軸上では、遅延波の存在による位相検出誤差φ
L−φ
Hの値は小さくなる。
図17のグラフを得る上記(73)式に示すように、角周波数ω
C1,ω
B1を変化させることで、φ
L−φ
Hの値を小さくすることが可能である。なお、周波数差を拡大したり、中心周波数をシフトするように周波数を再設定すると、式(80)、式(81)から
図18の波形が横軸にシフトすることになるので、これからも最悪な位相劣化の条件を回避することが可能であることが分かる。
【0144】
そこで、本変形例では、遅延波による位相変動が大きいか否かを判定し、位相変動が大きいと判定した場合に、キャリア周波数を変化させる制御を行い、位相変動が小さいと判定した場合に、距離誤差を算出して距離を補正する。
【0145】
例えば、本変形例では、位相変動が大きいか否かを上記(80)式及び(81)式によるΔA
H0及びΔA
L0により求めてもよい。
図18から明らかなように、遅延差τ1のパスによる位相変動が大きくなるときはΔA
H0とΔA
L0は共に正になる。一方、ΔA
H0とΔA
L0が共に負になる場合についても、式(73)、(80)の対比から明らかなように位相変動が大きくなる。
【0146】
そこで、本変形例では、振幅比ΔA
H0,ΔA
L0を観測して、ΔA
H0とΔA
L0が共に正又は負になった場合には、マルチパスによる位相誤差が比較的大きいと判断し、周波数差を拡大するか、中心周波数をシフトするか、再度周波数を設定し直して測距を行うようになっている。これにより、距離精度劣化を軽減することが可能である。
【0147】
なお、ΔA
H0+ΔA
L0の加算結果が第1所定閾値(TH1)より小さい場合、または、第2所定閾値(TH2)より大きい場合には、マルチパスによる位相誤差が大きいと判断して同様な操作を行うことも効果がある。
【0148】
図36は第2装置において、距離を算出する例を示しており、制御部21は、ステップS32において、I,Q信号を取得すると、次のステップS41において距離誤差の判定を行う。例えば、制御部21は、TH1≦ΔA
H0+ΔA
L0≦TH2が成立しているか否かを判定する。制御部21は、成立している場合には距離の誤差は比較的小さいものと判定して処理をステップS33に移行して距離誤差を算出する。
【0149】
一方、制御部21は、ステップS41において、ΔA
H0+ΔA
L0が閾値TH1よりも小さいか又は閾値TH2よりも大きい場合には、マルチパスによる位相誤差が大きいと判定して、処理をステップS42に移行する。制御部21は、ステップS42において、キャリア周波数を再設定して処理をステップS3,S13に戻す。以後同様の動作が繰り返されて、距離誤差が比較的小さいと判定された場合に、距離が補正される。
【0150】
なお、
図36のフローにおいても
図21のフローと同様に、必ずしもステップS7、S17で位相差を算出する必要はなく、S19の距離算出時に位相差の算出を行なってもよい。
【0151】
なお、
図21及び
図36のステップS34における補正は、上記(82)式に示すように、(ΔA
H0+ΔA
L0|in dB)/4を検出位相差から減算したものであるが、補正の精度を上げるには例えば(ΔA
H0+ΔA
L0|in dB)を意図的に歪ませた後に減算することもできる。一例としてsin{(ΔA
H0+ΔA
L0|in dB)/4}などがあげられる。図示しないが、この場合、sin関数により遅延τ1が大きいとき振幅が圧縮され、位相精度が向上する。
(変形例)
図37から
図39は変形例を示す。この変形例は初期位相を固定すべき期間を説明するものである。
図37は送信シーケンスと初期位相を維持する期間との関係を示す説明図。
図38は測距に用いるキャリア周波数を示す説明図であり、
図39は変形例を示すフローチャートである。
【0152】
第1の実施の形態においては、装置1,2からの各2周波の同時送信、同時受信を想定した。そして、この送受信の期間において、初期位相が変化しないように、発振器13,23に発振を継続させる。これに対し、第2の実施の形態においては、装置1,2間において、同時刻には1波しか送受信できないものと規定して測距に必要な少なくとも4波の送受信を時系列で実施すると共に、装置1,2からのキャリア信号を繰返し交番させることで、時系列送受信を行う場合でも正確な測距を可能にした。
【0153】
例えば、上述したように、
図15の例では、装置1からの角周波数ω
C1+ω
B1の送信波の送受信、装置2からの角周波数ω
C2+ω
B2の送信波の2回の送受信、装置1からの角周波数ω
C1+ω
B1の送信波の送受信を行う。
【0154】
更に、装置1からの角周波数ω
C1−ω
B1の送信波の送受信、装置2からの角周波数ω
C2−ω
B2の送信波の2回の送受信、装置1からの角周波数ω
C1−ω
B1の送信波の送受信を行う。
【0155】
図15の最初の4波の送受信により、装置1,2において得られる位相の加算結果は、上記(139)式の前半部分(第1〜第4項)に示してある。この第1〜第4項の加算結果は、上記(132)式に示すように、2(θ
τH1+θ
τH2)であり、上記(20)式及び(30)式に示すように、初期位相の項を含まない。即ち、
図15の最初の4波の送受信によって得られる位相の演算結果には初期位相の情報が含まれないことから、上記(139)式の第1〜第4項の演算は、この4波の送受信期間のみ初期位相を変化させなければ正しい結果が得られることになる。
【0156】
同様に、
図15の最後の4波の送受信により、装置1,2において得られる位相の加算結果は、上記(139)式の後半部分(第5〜第8項)に示してある。この第5〜第8項の加算結果は、上記(138)式に示すように、2(θ
τL1+θ
τL2)であり、上記(40)式及び(50)式に示すように、初期位相の項を含まない。即ち、
図15の最後の4波の送受信によって得られる位相の演算結果には初期位相の情報が含まれないことから、上記(139)式の第5〜第8項の演算は、この4波の送受信期間のみ初期位相を変化させなければ正しい結果が得られることになる。
【0157】
図37はこの状態を示しており、角周波数ω
C1+ω
B1,ω
C2+ω
B2を用いた測距期間において初期位相を一定に維持すると共に、角周波数ω
C1−ω
B1,ω
C2−ω
B2を用いた測距期間において初期位相を一定に維持することを示している。
【0158】
即ち、例えば、
図15のシーケンスを採用する場合には、最初の4波の送受信の期間において初期位相が変化しないように発振器13,23の発振を継続させると共に、最後の4波の送受信の期間において初期位相が変化しないように発振器13,23の発振を継続させればよく、4波目の送受信の後、5波目の送受信までの間に、発振器13,23の発振が停止し初期位相が変化しても、上記(139)式を元に正確な距離を算出できる。
【0159】
ところで、上記各実施の形態においては、装置1,2が送信する2つのキャリア信号は、例えば比較的高い角周波数ω
C1,ω
C2と例えば比較的低い角周波数ω
B1,ω
B2との和又は差の周波数である例を示した。なお、角周波数ω
C1とω
C2とは略同一の周波数に設定され、角周波数ω
B1とω
B2とは略同一の周波数に設定される。
(2つのキャリア信号について)
しかし、上記各実施の形態における測距においては、以下に示すように、装置1,2は、夫々所定の周波数差を有する2つのキャリア信号を送信すればよい。
【0160】
角周波数ω
C+ω
Bと角周波数ω
C−ω
Bは以下のように変形できる。
ω
C+ω
B=(ω
C−Δω
C)+(Δω
C+ω
B)=ω’
C+ω
H …(201)
ω
C−ω
B=(ω
C−Δω
C)+(Δω
C−ω
B)=ω’
C+ω
L …(202)
いま、角周波数がω
Cと角周波数がω
Bの送信波を周波数軸上でf
C,f
Bとして示すと、角周波数がω
C+ω
Bと角周波数ω
C−ω
Bの送信波は
図38の左側に示すものとなる。
【0161】
上記(201)式及び(202)式は、周波数を変更することなく、表現方法を変えたものであり、角周波数がω
C+ω
Bの送信波は、角周波数がω’
Cと角周波数がω
Hとの和によって得られ、角周波数がω
C−ω
Bの送信波は、角周波数がω’
Cと角周波数がω
Lとの和によって得られることを示している。
【0162】
図38の中央はこの表現に基づく送信波を示しており、角周波数がω’
C、ω
H及びω
Lの送信波をそれぞれ周波数軸上でf’
C,f
H,f
Lとして示す。
図38の左側の周波数f
C−f
Bの送信波と、周波数f
C+f
Bの送信波とは、それぞれ同一周波数のf’
C+f
Lの送信波とf’
C+f
Hの送信波として表現できることを示している。
【0163】
即ち、上記(201)式及び(202)式は、装置1,2が送信する2つのキャリアは、2つの周波数の和及び差によって得る必要はなく、装置1,2は、所定の周波数差を有する2つのキャリアを生成して送信すればよいことを示している。
【0164】
図38の左側に示す角周波数ω
C+ω
Bと角周波数ω
C−ω
Bの送信波を得る例としては、例えば、
図1の発振器13,23において、比較的高いローカル周波数(以下、RF−LO周波数という)として角周波数ω
Cのローカル信号と比較的低いローカル周波数(以下、IF−LO周波数)として角周波数がω
Bのローカル信号を発生し、送信部14,24において、これらのローカル周波数の和及び差の信号を送信信号として生成すればよい。
【0165】
これに対し、
図38の中央の送信波は、RF−LO周波数として角周波数ω’
Cのローカル信号を発生すると共に、IF−LO周波数として角周波数がω
L,ω
Hの2つのローカル信号を発生し、送信部14,24において、これらのローカル周波数の和の信号を送信信号として生成することにより得られる。即ち、RF−LO周波数を固定とし、IF−LO周波数を変更することで、
図38の中央の送信波が得られる。
【0166】
また、角周波数ω
C−ω
Bは、以下のように変形することができる。
ω
C−ω
B=(ω
C−2ω
B)+(2ω
B−ω
B)=ω”
C+ω
B …(203)
図38の右側は(203)式の表現に基づく送信波を示しており、角周波数がω”
Cの送信波を周波数軸上でf”
Cとして示すと、
図38の左側の周波数f
C−f
Bの送信波は、同一周波数のf”
C+f
Bの送信波として表現できることを示している。
【0167】
例えば、
図38の右側の送信波は、RF−LO周波数として角周波数ω’
Cのローカル信号と角周波数ω”
Cのローカル信号を発生すると共に、IF−LO周波数として角周波数がω
Bのローカル信号を発生し、送信部14,24において、これらのローカル周波数の和の信号を送信信号として生成することにより得られる。即ち、
図38の右側の送信波は、IF−LO周波数を固定し、RF−LO周波数を変更して得られる。
(キャリア周波数の変更)
このように、装置1,2は、測距に際して夫々所定の周波数差を有する2つのキャリア信号を送信すればよい。しかも、
図15のシーケンスのように2つのキャリアのうち高い周波数のキャリアの送受信が交番して行われ、次に、低い周波数のキャリアの送受信が交番して行われる場合には、高い周波数のキャリアの送受信と低い周波数のキャリアの送受信とで、初期位相が異なっていてもよい。
【0168】
更に、上記(139)式を分解した上記(132)式の演算には高い周波数のキャリアのみが用いられ、上記(138)式の演算には低い周波数のキャリアのみが用いられる。即ち、上記(132)式の演算と上記(138)式の演算とは独立に行えばよく、高い周波数のキャリアの送受信期間と低い周波数のキャリアの送受信期間との間においてキャリア周波数が変更されてもよい。
【0169】
このような初期位相の変化やキャリア角周波数の変化を許容すると、
図11Aのフローに代えて
図39のフローを採用することができる。
【0170】
図39のフローにおいては、装置1において1波送信信号生成の前に、第1ローカル(LO)周波数を設定し、装置2において装置1からの1波送信波の受信の前に、第1ローカル(LO)周波数を設定する。装置1は第1LO周波数のローカル信号を用いて、例えば、1波送信信号として、高い周波数のキャリアを生成し、装置2はこの高い周波数のキャリアを用いて1波送信波を受信してI,Q信号を取得する。
【0171】
また、装置1は、装置2からの送信波に基づくI,Q信号の取得後、次の1波送信信号の生成前に、第2ローカル(LO)周波数を設定する。同様に、装置2は、装置1への1波送信波の送信後、次の1波送信波の受信前に、第2ローカル(LO)周波数を設定する。装置1において、第2LO周波数のローカル信号を用いて、例えば、1波送信信号として、低い周波数のキャリアが生成される。また、装置2はこの低い周波数のキャリアを用いて装置1の送信波を受信してI,Q信号を取得する。
(発振器と送受信器の構成例)
このように、装置1,2は、所定の周波数差を有する2つのキャリア信号を生成して送信できればよく、
図1の発振器13,23、送信部14,24及び受信部15,25としては種々の構成の回路を採用することができる。
【0172】
図40Aは装置1の発振器13、送信部14及び受信部15の構成の一例を簡略化して示す説明図である。また、
図40Bは装置2の発振器23、送信部24及び受信部25の構成の一例を簡略化して示す説明図である。
【0173】
装置1及び装置2は、
図40A及び
図40Bに示すように、IF−LO周波数を発生する発振器とRF−LO周波数を発生する発振器とを備える。これらの発振器の発振周波数は例えば固定であり、RF−LO周波数にIF−LO周波数を加算又は減算することによって、周波数差を有する2つのキャリア信号を生成することができる。
【0174】
図41Aは装置1の発振器13、送信部14及び受信部15の構成の一例を簡略化して示す説明図である。また、
図41Bは装置2の発振器23、送信部24及び受信部25の構成の一例を簡略化して示す説明図である。
【0175】
図41A及び
図41Bの例は、周波数可変の発振器と分周器(N−div)とによって、周波数差を有する2つのキャリア信号を生成する例である。
【0176】
また、
図42は、
図4において、乗算器TM11,TM12に与える信号を生成する回路の一例を具体的に示す回路図であり、
図43は、
図5において、乗算器TM21,TM22に与える信号を生成する回路の一例を具体的に示す回路図である。
【0177】
図42において、乗算器TM15は、I
T信号と発振器13からのローカル信号cos(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果を加算器TS15に与え、乗算器TM16は、Q
T信号と発振器13からのローカル信号±sin(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果を加算器TS15に与える。加算器TS15は2入力を加算して加算結果を乗算器TM11に与える。
【0178】
また、乗算器TM17は、I
T信号と発振器13からのローカル信号±sin(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果を加算器TS16に与え、乗算器TM18は、Q
T信号と発振器13からのローカル信号cos(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果を加算器TS16に与える。加算器TS16は乗算器TM17の出力から乗算器TM18の出力を減算して減算結果を乗算器TM12に与える。他の構成は
図4と同様である。
【0179】
図43において、乗算器TM25は、I
T信号と発振器23からのローカル信号cos(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果を加算器TS25に与え、乗算器TM26は、Q
T信号と発振器23からのローカル信号±sin(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果を加算器TS25に与える。加算器TS25は2入力を加算して加算結果を乗算器TM21に与える。
【0180】
また、乗算器TM27は、I
T信号と発振器23からのローカル信号±sin(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果を加算器TS26に与え、乗算器TM28は、Q
T信号と発振器23からのローカル信号cos(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果を加算器TS26に与える。加算器TS26は乗算器TM27の出力から乗算器TM28の出力を減算して減算結果を乗算器TM22に与える。他の構成は
図5と同様である。
【0181】
図44は
図1中の送信部14及び受信部15の具体的な構成の一例を示す回路図である。また、
図45は
図1中の送信部24及び受信部25の具体的な構成の一例を示す回路図である。なお、
図44及び
図45はヘテロダイン構成の送受信器を示している。
【0182】
図44において、乗算器TM1Aは、I
T信号と発振器13からのローカル信号cos(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果を加算器TS1Aに与え、乗算器TM1Bは、Q
T信号と発振器13からのローカル信号sin(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果を加算器TS1Aに与える。加算器TS1Aは乗算器TM1Aの出力から乗算器TM1Bの出力を減算して減算結果を乗算器TM1Cに与える。乗算器TM1Cは、加算器TS1Aの出力とローカル信号cos(ω
C1t+θ
C1)とを乗算し、乗算結果を送信信号tx1として出力する。
【0183】
また、乗算器RM1Aは、受信信号rx1とローカル信号cos(ω
C1t+θ
C1)とを乗算してI
1信号を得て、乗算器RM1B,RM1Cに出力する。乗算器RM1BはI
1信号とローカル信号cos(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果をI信号として出力する。また、乗算器RM1CはI
1信号とローカル信号sin(ω
B1t+θ
B1)との乗算結果をQ信号として出力する。
【0184】
図45において、乗算器TM2Aは、I
T信号と発振器23からのローカル信号cos(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果を加算器TS2Aに与え、乗算器TM2Bは、Q
T信号と発振器23からのローカル信号sin(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果を加算器TS2Aに与える。加算器TS2Aは乗算器TM2Aの出力から乗算器TM2Bの出力を減算して減算結果を乗算器TM2Cに与える。乗算器TM2Cは、加算器TS2Aの出力とローカル信号cos(ω
C2t+θ
C2)とを乗算し、乗算結果を送信信号tx2として出力する。
【0185】
また、乗算器RM2Aは、受信信号rx2とローカル信号cos(ω
C2t+θ
C2)とを乗算してI
1信号を得て、乗算器RM2B,RM2Cに出力する。乗算器RM2BはI
1信号とローカル信号cos(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果をI信号として出力する。また、乗算器RM2CはI
1信号とローカル信号sin(ω
B2t+θ
B2)との乗算結果をQ信号として出力する。
【0186】
また、
図46は
図1中の送信部14及び受信部15の具体的な構成の一例を示す回路図である。また、
図47は
図1中の送信部24及び受信部25の具体的な構成の一例を示す回路図である。なお、
図46及び
図47は直接変換方式を採用した送受信器を示している。
【0187】
図46において、乗算器TM1Dは、I
T信号と発振器13からのローカル信号cos(ω
C1t+θ
C1)との乗算結果を加算器TS1Cに与え、乗算器TM1Eは、Q
T信号と発振器13からのローカル信号sin(ω
C1t+θ
C1)との乗算結果を加算器TS1Cに与える。加算器TS1Cは乗算器TM1Dの出力から乗算器TM1Eの出力を減算して減算結果を送信信号tx1として出力する。
【0188】
また、乗算器RM1Dは、受信信号rx1とローカル信号cos(ω
C1t+θ
C1)とを乗算して乗算結果をI信号として出力する。また、乗算器RM1Eは、受信信号rx1とローカル信号sin(ω
C1t+θ
C1)とを乗算して乗算結果をQ信号として出力する。
【0189】
図47において、乗算器TM2Dは、I
T信号と発振器23からのローカル信号cos(ω
C2t+θ
C2)との乗算結果を加算器TS2Cに与え、乗算器TM2Eは、Q
T信号と発振器23からのローカル信号sin(ω
C2t+θ
C2)との乗算結果を加算器TS2Cに与える。加算器TS2Cは乗算器TM2Dの出力から乗算器TM2Eの出力を減算して減算結果を送信信号tx2として出力する。
【0190】
また、乗算器RM2Dは、受信信号rx2とローカル信号cos(ω
C2t+θ
C2)とを乗算して乗算結果をI信号として出力する。また、乗算器RM2Eは、受信信号rx2とローカル信号sin(ω
C2t+θ
C2)とを乗算して乗算結果をQ信号として出力する。
(位相情報の伝送例)
上記各実施の形態においては、第1装置と第2装置のいずれか一方から他方に、位相情報を伝送しているが、上述したように、位相情報の伝送方法は特に限定されるものではない。例えば、受信信号から得た位相分だけ、送信するキャリア信号の位相をずらすことで、位相情報を伝送するようにしてもよい。
【0191】
例えば、この場合には、
図6の破線部分を
図48のフローに代えると共に、
図6のステップS7,S8,S18を省略したフローを採用することができる。
【0192】
図48は
図11Aに対応して、第2装置が第1装置に位相情報を送信する例を示すフローチャートである。
図48は
図11Aの第2装置におけるI,Q信号の取得ステップと、1波送信信号生成ステップとの間に、受信位相と初期位相とを加算するステップを有する。これにより、装置2の初期位相に受信信号から検出した位相が加算されたキャリア信号が生成される。装置1は、装置2からのキャリア信号を受信して位相を求めることで、装置2が求めた位相情報を取得することができる。
【0193】
また、
図49は
図39に対応した例を示すフローチャートである。
図49のフローでは、
図39の第2装置におけるI,Q信号の取得ステップと、1波送信信号生成ステップとの間に、受信位相と初期位相とを加算するステップを有する。このように、測距の途中でキャリア周波数を変更する場合でも、位相情報を測距のために送信するキャリア信号の位相の情報に含めて送信してもよい。
【0194】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。