(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルカリ金属炭酸塩が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、及び炭酸セシウムから成る群から選ばれる1種以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスラリー。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本実施形態の各数値範囲における上限値及び下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
【0024】
《非水系ハイブリッドキャパシタ》
非水系ハイブリッドキャパシタは、一般に、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素として有する。電解液としては、アルカリ金属塩等の電解質を溶解させた有機溶媒(以下「非水系電解液」という。)を用いる。
【0025】
本願明細書において、プレドープ前における正極状態のことを「正極前駆体」、プレドープ後における正極状態のことを「正極」と定義する。本明細書では、正極前駆体又は正極の製造用であるスラリーを「正極スラリー」という。正極スラリーは、既知のスラリーの形態だけでなく、既知の懸濁液、分散液、乳化液、組成物又は混合物の形態も含んでよい。本実施形態に係る正極スラリーは、単に、塗工液、塗液等と呼ばれることがある。
【0026】
本実施形態における正極スラリーは、例えば、正極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより、非水系ハイブリッドキャパシタの正極となる正極前駆体に加工することができる。
本実施形態の正極スラリーには正極活物質以外のアルカリ金属炭酸塩が含まれており、加工された正極前駆体にも、アルカリ金属炭酸塩が含有される。本実施形態では非水系ハイブリッドキャパシタを組み立てる際に、負極にアルカリ金属イオンをプレドープすることが好ましい。プレドープ方法としては、アルカリ金属炭酸塩を含む正極前駆体と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを用いて非水系ハイブリッドキャパシタを組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加することが好ましい。
【0027】
<正極スラリー>
本実施形態における正極スラリーは、活性炭を含む正極活物質と、正極活物質以外のアルカリ金属炭酸塩と、結着剤と、溶媒とを含有する。正極スラリーの全質量を基準として、上記溶媒を除く全固形成分の質量比をW
T%とするとき、W
Tは、10≦W
T≦50であり、正極スラリーの全固形成分の全質量を基準として、アルカリ金属炭酸塩の質量比をW
A質量%とするとき、W
Aは、5≦W
A≦50である。正極スラリーを容器中で撹拌後7日間静置した状態における正極スラリーの全体積を高さ方向で3分割した際の、最上層液及び最下層液の粘度をそれぞれη
U、η
L(mPa・s)とするとき、0.50≦η
U/η
L≦1.00である。負極へのプレドープを短時間かつ均一に行い、高エネルギー密度かつ高入出力であり、高温耐久性にも優れた非水系ハイブリッドキャパシタ用の正極スラリーの構成が、W
T、W
A及びη
U/η
Lの全ての数値範囲により特定される。
【0028】
本実施形態における正極スラリーは、上記の正極活物質、アルカリ金属炭酸塩、結着剤、及び溶媒の他に、導電性フィラー、分散安定剤、pH調整剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0029】
[正極活物質]
本実施形態に係る正極活物質は活性炭を含む。正極活物質としては、活性炭を単独で使用してよく、1種類以上の活性炭以外の炭素材料を混合して使用してよく、又は炭素材料以外の材料(例えばアルカリ金属と遷移金属との複合酸化物等)を含んよい。活性炭以外の炭素材料としては、カーボンナノチューブ、導電性高分子、及び多孔性の炭素材料等が挙げられる。
【0030】
活性炭の種類及びその原料は特に制限されない。しかしながら、非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだときに高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV
1(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV
2(cc/g)とするとき、
(1)高い入出力特性を得るためには、0.3<V
1≦0.8、及び0.5≦V
2≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m
2/g以上3,000m
2/g以下である活性炭(以下「活性炭1」ともいう。)が好ましく、また、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V
1≦2.5、及び0.8<V
2≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m
2/g以上4,000m
2/g以下である活性炭(以下「活性炭2」ともいう。)が好ましい。
【0031】
以下、上記(1)活性炭1及び上記(2)活性炭2について、個別に順次説明する。
【0032】
(活性炭1)
活性炭1のメソ孔量V
1は、非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだときの入出力特性を大きくする観点で、0.3cc/gより大きい値であることが好ましい。一方で、正極の嵩密度の低下を抑える観点から、0.8cc/g以下であることが好ましい。上記V
1は、より好ましくは0.35cc/g以上0.7cc/g以下、更に好ましくは0.4cc/g以上0.6cc/g以下である。
【0033】
活性炭1のマイクロ孔量V
2は、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.5cc/g以上であることが好ましい。一方で、活性炭の嵩を抑え、電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、1.0cc/g以下であることが好ましい。上記V
2は、より好ましくは0.6cc/g以上1.0cc/g以下、更に好ましくは0.8cc/g以上1.0cc/g以下である。
【0034】
活性炭1のマイクロ孔量V
2に対するメソ孔量V
1の比(V
1/V
2)は、0.3≦V
1/V
2≦0.9の範囲であることが好ましい。すなわち、高容量を維持しながら入出力特性の低下を抑えることができる程度に、マイクロ孔量に対するメソ孔量の割合を大きくするという観点から、V
1/V
2が0.3以上であることが好ましい。一方で、高入出力特性を維持しながら容量の低下を抑えることができる程度に、メソ孔量に対するマイクロ孔量の割合を大きくするという観点から、V
1/V
2は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.4≦V
1/V
2≦0.7、更に好ましくは0.55≦V
1/V
2≦0.7である。
【0035】
活性炭1のV
1、V
2及びV
1/V
2については、それぞれ上記で説明された好適な範囲の上限と下限を、任意に組み合わせることができる。
【0036】
活性炭1の平均細孔径は、得られる非水系ハイブリッドキャパシタの入出力を高くする観点から、17Å以上であることが好ましく、18Å以上であることがより好ましく、20Å以上であることが更に好ましい。また、容量を高くする観点から、活性炭1の平均細孔径は25Å以下であることが好ましい。
【0037】
活性炭1のBET比表面積は、1,500m
2/g以上3,000m
2/g以下であることが好ましく、1,500m
2/g以上2,500m
2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が1,500m
2/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、BET比表面積が3,000m
2/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。上記BET比表面積の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0038】
上記のような特徴を有する活性炭1は、例えば、以下に説明する原料及び処理方法を用いて得ることができる。
【0039】
本実施形態では、活性炭1の原料として用いられる炭素源は、特に限定されるものではない。例えば、木材、木粉、ヤシ殻、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜等の植物系原料;泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、コールタール等の化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン等の合成ゴム;その他の合成木材、合成パルプ等、及びこれらの炭化物が挙げられる。これらの原料の中でも、量産対応及びコストの観点から、ヤシ殻、木粉等の植物系原料、及びそれらの炭化物が好ましく、ヤシ殻炭化物が特に好ましい。
【0040】
これらの原料から上記活性炭1を得るための炭化及び賦活の方式としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の既知の方式を採用できる。
【0041】
これらの原料の炭化方法としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、一酸化炭素、燃焼排ガス等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分とした他のガスとの混合ガスを使用して、400〜700℃、好ましくは450〜600℃において、30分〜10時間程度に亘って焼成する方法が挙げられる。
【0042】
上記炭化方法により得られた炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法が好ましく用いられる。これらのうち、賦活ガスとして、水蒸気又は二酸化炭素を使用する方法が好ましい。
【0043】
この賦活方法では、賦活ガスを好ましくは0.5〜3.0kg/h、より好ましくは0.7〜2.0kg/hの割合で供給しながら、上記炭化物を、好ましくは3〜12時間、より好ましくは5〜11時間、更に好ましくは6〜10時間掛けて800〜1,000℃まで昇温して賦活することが好ましい。
【0044】
上記炭化物の賦活処理に先立ち、予め上記炭化物を1次賦活してもよい。この1次賦活では、通常、炭素材料を、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて、900℃未満の温度で焼成してガス賦活する方法が好ましい。
【0045】
上記炭化方法における焼成温度及び焼成時間と、上記賦活方法における賦活ガス供給量、昇温速度及び最高賦活温度とを適宜組み合わせることにより、上記の特徴を有する活性炭1を製造することができる。
【0046】
(活性炭2)
活性炭2のメソ孔量V
1は、非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだときの入出力特性を大きくする観点から、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい。V
1は、非水系ハイブリッドキャパシタの容量の低下を抑える観点から、2.5cc/g以下であることが好ましい。上記V
1は、より好ましくは1.0cc/g以上2.0cc/g以下、さらに好ましくは、1.2cc/g以上1.8cc/g以下である。
【0047】
他方、活性炭2のマイクロ孔量V
2は、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい。V
2は、活性炭の電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、3.0cc/g以下であることが好ましい。上記V
2は、より好ましくは1.0cc/gより大きく2.5cc/g以下、更に好ましくは1.5cc/g以上2.5cc/g以下である。
【0048】
上述したメソ孔量及びマイクロ孔量を有する活性炭2は、従来の電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ用として使用されていた活性炭よりもBET比表面積が高いものである。活性炭2のBET比表面積の具体的な値としては、2,300m
2/g以上4,000m
2/g以下であることが好ましい。BET比表面積の下限としては、3,000m
2/g以上であることがより好ましく、3,200m
2/g以上であることが更に好ましい。BET比表面積の上限としては、3,800m
2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が2,300m
2/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、BET比表面積が4,000m
2/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
【0049】
活性炭2のV
1、V
2及びBET比表面積については、それぞれ上記で説明された好適な範囲の上限と下限を、任意に組み合わせることができる。
【0050】
上記のような特徴を有する活性炭2は、例えば以下に説明するような原料及び処理方法を用いて得ることができる。
【0051】
活性炭2の原料として用いられる炭素源としては、通常活性炭原料として用いられる炭素源であれば特に限定されるものではなく、例えば、木材、木粉、ヤシ殻等の植物系原料;石油ピッチ、コークス等の化石系原料;フェノール樹脂、フラン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂等の各種合成樹脂等が挙げられる。これらの原料の中でも、フェノール樹脂、及びフラン樹脂は、高比表面積の活性炭を作製するのに適しており特に好ましい。
【0052】
これらの原料を炭化する方式又は賦活処理時の加熱方法としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の公知の方式が挙げられる。加熱時の雰囲気は窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分として他のガスとの混合したガスが用いられる。炭化温度は好ましくは400〜700℃、下限は、好ましくは450℃以上、更に好ましくは500℃以上、上限は、好ましくは650℃以下であり、焼成時間は好ましくは0.5〜10時間程度である。
【0053】
上記炭化処理後の炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法、及びアルカリ金属化合物と混合した後に加熱処理を行うアルカリ金属賦活法がある。高比表面積の活性炭を作製するにはアルカリ金属賦活法が好ましい。
【0054】
この賦活方法では、炭化物と水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属化合物との質量比が1:1以上(アルカリ金属化合物の量が、炭化物の量と同じかこれよりも多い量)となるように混合した後に、不活性ガス雰囲気下で好ましくは600〜900℃、より好ましくは650℃〜850℃の範囲において、0.5〜5時間に亘って加熱を行い、その後アルカリ金属化合物を酸及び水により洗浄除去し、更に乾燥を行う。
【0055】
炭化物とアルカリ金属化合物との質量比(=炭化物:アルカリ金属化合物)は好ましくは1:1以上であり、アルカリ金属化合物の量が増えるほどメソ孔量が増え、質量比1:3.5付近を境に急激に細孔量が増える傾向があるので、炭化物とアルカリ金属化合物との質量比は1:3以上であることが好ましい。炭化物とアルカリ金属化合物との質量比は、アルカリ金属化合物が増えるほど細孔量が大きくなるが、その後の洗浄等の処理効率を考慮すると、1:5.5以下であることが好ましい。
【0056】
マイクロ孔量を大きくし、メソ孔量を大きくしないためには、賦活する際に炭化物の量を多めにしてKOHと混合するとよい。マイクロ孔量及びメソ孔量の双方を大きくするためには、KOHの量を多めに使用するとよい。主としてメソ孔量を大きくするためには、アルカリ賦活処理を行った後に水蒸気賦活を行うことが好ましい。
【0057】
(活性炭の使用態様)
正極活物質に使用される活性炭としは、活性炭1及び2は、それぞれ、1種の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって上記した各々の特性値を混合物全体として示すものであってもよい。
【0058】
上記の活性炭1及び2は、これらのうちのいずれか一方を選択して使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
【0059】
正極活物質は、活性炭1及び2以外の材料(例えば、上記特定のV
1及び/若しくはV
2を有さない活性炭、又は上記の活性炭以外の炭素材料、又は炭素材料以外の材料(例えば、アルカリ金属と遷移金属との複合酸化物等))を含んでもよい。活性炭1の含有量、又は活性炭2の含有量、又は活性炭1及び2の合計含有量は、それぞれ、正極活物質の総質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、又は100質量%であってもよい。他の材料との併用による効果を良好に得る観点から、例えば、活性炭の含有率は、正極活物質の総質量に対して、好ましくは90質量%以下であり、又は80質量%以下であってもよい。
【0060】
正極スラリーにおける正極活物質の含有割合は、正極スラリーの全固形成分の全質量を基準として、35質量%以上95質量%以下であることが好ましい。正極活物質の含有割合の上限としては、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。正極活物質の含有割合の下限としては、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。この範囲の含有割合とすることにより、好適な充放電特性を発揮する。
【0061】
[アルカリ金属炭酸塩]
本実施形態の正極スラリーは、正極活物質以外のアルカリ金属炭酸塩を含む。正極スラリーを用いて、アルカリ金属炭酸塩を含む正極前駆体が作製できる。本実施形態において、非水系ハイブリッドキャパシタを組み立てる際に、負極にアルカリ金属イオンをプレドープすることが好ましい。プレドープ方法としては、アルカリ金属炭酸塩を含む正極前駆体と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを用いて非水系ハイブリッドキャパシタを組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加することが好ましい。
【0062】
本実施形態におけるアルカリ金属炭酸塩としては、正極前駆体中で分解して、アルカリ金属イオンを放出することが可能である炭酸塩化合物を用いる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、及び炭酸セシウムからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられ、中でも、単位重量当たりの容量が高いという観点から炭酸リチウムがさらに好適に用いられる。正極スラリー中に含まれるアルカリ金属炭酸塩は1種でもよく、2種以上を含んでいてもよい。正極スラリー中にアルカリ金属炭酸塩が2種以上含む場合、アルカリ金属炭酸塩は、正極スラリーに含有されるアルカリ金属炭酸塩の総質量を基準として、炭酸リチウムを10質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは、12質量%以上90質量%以下の炭酸リチウムを含む。
【0063】
また、本実施形態の正極スラリーとしては少なくとも1種のアルカリ金属炭酸塩を含んでいればよく、アルカリ金属炭酸塩の他に、MをLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれる1種以上として、M
2O等の酸化物、MOH等の水酸化物、MF又はMCl等のハロゲン化物、M
2(CO
2)
2等の蓚酸塩、RCOOM(RはH、アルキル基、アリール基)等のカルボン酸塩を1種以上含んでいてもよい。また、正極スラリーは、BeCO
3、MgCO
3、CaCO
3、SrCO
3、若しくはBaCO
3から選ばれるアルカリ土類金属炭酸塩、又はアルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属シュウ酸塩、若しくはアルカリ土類金属カルボン酸塩を1種以上含んでいてもよい。
【0064】
本実施形態において、正極スラリーの全固形成分の全質量を基準として、上記アルカリ金属炭酸塩の質量比をW
A質量%とするとき、5≦W
A≦50であり、好ましくは10≦W
A≦45、より好ましくは15≦W
A≦40である。
【0065】
W
Aが5以上であれば、負極へプレドープするアルカリ金属イオンが十分に確保されると共に、正極に適当な程度の多孔性を付与することができ、非水系ハイブリッドキャパシタの入出力特性が高まる。W
Aが50以下であれば、正極前駆体中の電子伝導性が高まるためにアルカリ金属炭酸塩の分解が促進されることにより、プレドープ時間が短縮されると共に、高エネルギー密度な非水系ハイブリッドキャパシタが得られる。
【0066】
正極スラリーが、アルカリ金属炭酸塩の他に上記アルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物を含む場合は、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の総質量が、正極スラリーの全固形成分の全質量を基準として5質量%以上50質量%以下の割合で含まれるように正極スラリーを作製することが好ましい。
【0067】
アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属の定量は、ICP−AES、原子吸光分析法、蛍光X線分析法、中性子放射化分析法、ICP−MS等により算出できる。
【0068】
アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物は粒子状であることが好ましい。微粒子化には、様々な方法を用いることができる。例えば、ボールミル、ビーズミル、リングミル、ジェットミル、ロッドミル等の粉砕機を使用することができる。
【0069】
(アルカリ金属炭酸塩及び正極活物質の平均粒子径)
本実施形態の正極スラリーにおいて、上記アルカリ金属炭酸塩の平均粒子径をX
1とするとき、0.1μm≦X
1≦10μmであることが好ましい。X
1の下限としては、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、X
1の上限としては、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。上記X
1の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0070】
X
1が0.1μm以上であれば、正極スラリー及び正極前駆体中でのアルカリ金属炭酸塩の分散均一性に優れる。X
1が10μm以下であれば、正極スラリー中でのアルカリ金属炭酸塩の沈降が抑制できると共に、アルカリ金属炭酸塩の表面積が増えるために正極前駆体を非水系ハイブリッドキャパシタ用に組み込んだときに分解反応が効率よく進行する。
【0071】
また、本実施形態の正極スラリーにおいて、上記正極活物質の平均粒子径をY
1とするとき、2μm≦Y
1≦20μmであることが好ましい。Y
1の下限としては、2.5μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。Y
1の上限としては、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。上記Y
1の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0072】
Y
1が2μm以上であれば、正極前駆体を形成したときに電極密度が高く維持できるため高エネルギー密度が得られる。Y
1が20μm以下であれば、電解質イオンとの反応面積が増加するために高い入出力特性を発現できる。
【0073】
さらに、本実施形態の正極スラリーにおいて、上記アルカリ金属炭酸塩及び上記正極活物質の平均粒子径の関係はX
1<Y
1であることが好ましい。X
1<Y
1であれば、正極スラリー及び正極前駆体中でのアルカリ金属炭酸塩及び正極活物質の分散均一性に優れると共に、正極前駆体内部で正極活物質間に生じる隙間にアルカリ金属炭酸塩が充填されるため、正極活物質間の電子伝導性を確保しつつ、エネルギー密度を高めることができる。
【0074】
[結着剤]
本実施形態の正極スラリーは結着剤を含む。結着剤の種類としては、特に制限されず、例えばフッ素含有物、ゴム系高分子、ポリイミド等が挙げられるが、正極スラリーは、結着剤としてフッ素含有物及び/又はゴム系高分子を含むことが好ましい。正極スラリーに含まれる結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
(フッ素含有物)
本実施形態の正極スラリーの結着剤としてフッ素含有物を含む場合、上記フッ素含有物としては、耐酸化性と高剥離強度の観点から、好ましくは、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が挙げられ、正極前駆体の薄膜化が容易であり、非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだときの高入出力の観点から、より好ましくはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)である。
【0076】
本実施形態の正極スラリーに含まれる結着剤の重量平均分子量は500,000以上1,800,000以下であることが好ましい。上記結着剤の重量平均分子量の上限としては、1,600,000以下が好ましく、1,450,000以下がより好ましく、1,300,000以下がさらに好ましく、下限としては、600,000以上が好ましく、700,000以上がより好ましく、800,000以上がさらに好ましい。上記結着剤の重量平均分子量の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0077】
正極スラリーに含まれる結着剤の重量平均分子量が500,000以上であれば、正極スラリー中の固形分の沈降を抑制できるとともに、正極活物質の細孔内に結着剤が入り込み難いため、正極前駆体を形成したときに、添加した結着剤が効率的に正極前駆体の構成部材同士を繋ぎ止めることができる。また、プレドープ後にアルカリ金属炭酸塩が抜けた後に残る空孔が電極に形成されても、結着剤の分子鎖が長いため、高剥離強度を確保できる。結着剤の重量平均分子量が1,800,000以下であれば、非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだときに、絶縁性である結着剤が正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。また、プレドープ時にアルカリ金属炭酸塩の酸化分解由来のアルカリ金属イオンの拡散が促進されるためにプレドープが促進される。
【0078】
本実施形態における正極スラリーはアルカリ金属炭酸塩を含有するため、アルカリ金属炭酸塩に由来して正極スラリーがアルカリ性を示すことがある。正極スラリーがアルカリ性を示すと、結着剤が架橋、ゲル化等を起こし、結着剤の分子量が低下することがある。したがって、本願明細書において、正極スラリー中の結着剤の重量平均分子量は、製造された正極スラリーに含まれる結着剤の重量平均分子量を意味する。結着剤としては、アルカリ耐性が強い、つまりアルカリ性溶液に加えても変性しない(例えば、分子量が低下しない)ことが好ましい。
【0079】
(ゴム系高分子)
本実施形態の正極スラリーの結着剤としてゴム系高分子を含む場合、上記ゴム系高分子としては、ジエン系重合体、アクリル系重合体、フッ素ゴム等が挙げられるが、正極活物質との結着性が高く、電極の強度又は柔軟性に優れる観点から、ジエン系重合体、又はアクリル系重合体が好ましい。それらの中でも、重合体の主鎖中に不飽和結合を含まず、電気化学的安定性が高いという観点から、アクリル系重合体がより好ましい。アクリル系重合体としては、特に限定されないが、アクリル酸エステル及び/若しくはメタクリル酸エステルの重合体、又はこれらと共重合可能な単量体との共重合体であることが好ましい。
【0080】
本実施形態の正極スラリーの結着剤としては、上記ゴム系高分子にフッ素が含有されていてもよく、上記フッ素含有物と上記ゴム系高分子を併用してもよく、上記フッ素含有物と上記ゴム系高分子の複合粒子であってもよい。
【0081】
正極スラリーにおける結着剤の使用量は、正極活物質100質量%に対して、好ましくは1質量%以上30質量%以下、より好ましくは3質量%以上27質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上25質量%以下である。結着剤の使用量が1質量%以上であれば、十分な電極強度が発現される。結着剤の使用量が30質量%以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現されると共に、プレドープ時にアルカリ金属炭酸塩の酸化分解由来のアルカリ金属イオンの拡散が促進されるためにプレドープも促進される。
【0082】
[溶媒]
本実施形態の正極スラリーは溶媒を含む。溶媒の種類としては、特に限定されず、有機溶剤系媒体及び/又は水系媒体が用いられ、結着剤の種類にも応じて使い分けられる。
【0083】
(有機溶剤系媒体)
本実施形態の正極スラリーの溶媒として有機溶剤系媒体を含む場合、正極スラリー中の溶媒の全質量を基準として、N−メチルピロリドン(NMP)が50質量%以上含まれることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましく、90質量%以上含まれることが更に好ましく、95質量%以上含むことがより更に好ましい。
溶媒として有機溶剤系媒体を含む場合、NMP以外の液状媒体を含有してもよい。NMP以外の液状媒体としては、例えばアミド化合物、スルホキシド、ケトン、エーテル、エステル、ラクトン、環状又は鎖状カーボネートなどを挙げることができ、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、1、4−ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが例示される。
【0084】
(水系媒体)
本実施形態の正極スラリーの溶媒として水系媒体を含む場合、正極スラリー中の溶媒の全質量を基準として、水が50質量%以上含まれることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましく、90質量%以上含まれることが更に好ましく、95質量%以上含むことがより更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。水が50質量%以上であれば、正極スラリー中の固形分が沈降し難い。正極スラリーの溶媒として用いる水は、イオン交換樹脂又は逆浸透膜浄水システムで処理された、イオン交換水又は超純水などが好ましい。
【0085】
溶媒として水系媒体を含む場合、水以外の非水液状媒体を含有してもよい。非水液状媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコールであり、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
【0086】
[正極スラリーの任意成分]
本実施形態における正極スラリーは、必要に応じて、正極活物質、アルカリ金属炭酸塩、結着剤及び溶媒の他に、導電性フィラー、分散安定剤、pH調整剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0087】
(導電性フィラー)
導電性フィラーとしては、特に制限されず、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛、カーボンナノチューブ、これらの混合物等を用いることができる。正極スラリーにおける導電性フィラーの使用量は、正極活物質100質量%に対して、好ましくは0質量%超30質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上15質量%以下である。導電性フィラーは、アルカリ金属炭酸塩と接触させることでプレドープ時の酸化分解を促進し、さらに高入出力特性の観点から、正極スラリーは導電性フィラーを含有することが好ましい。導電性フィラーの使用量が30質量%以下であれば、正極活物質の含有割合が多くなるために、非水系ハイブリッドキャパシタの体積当たりのエネルギー密度を確保することができる。
【0088】
(分散安定剤)
分散安定剤としては、特に制限されず、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体等を用いることができ、溶媒の種類に応じて使い分けられる。セルロース誘導体としては、セルロース系ポリマー、又はセルロース系ポリマーのアンモニウム塩若しくはアルカリ金属塩などの塩類が挙げられ、好ましくはカルボキシメチルセルロースが用いられる。分散安定剤の使用量は、正極活物質100質量%に対して、好ましくは、0質量%超又は0.1質量%以上、10質量%以下である。分散安定剤の使用量が10質量%以下であれば、正極スラリー中の固形分が沈降せずに分散安定性に優れ、かつ正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0089】
(pH調整剤)
本実施形態における正極スラリーは上述のようにアルカリ性を示すことがあるが、結着剤の分子量低下だけでなく、正極前駆体を作製した際に正極スラリーが強アルカリ性を示す条件下では、正極集電体の腐食が促進し、非水系ハイブリッドキャパシタの低寿命化を招くことが考えられる。従って、正極スラリーがアルカリ性を示す場合には、pH調整剤を添加することが好ましい。pH調整剤の種類は特に限定されないが、強酸又は弱酸のいずれも使用することができる。また、強酸又は弱酸は、無機酸であっても有機酸でも構わない。
【0090】
例えば、無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸などが挙げられ、有機酸としては酢酸、シュウ酸、クエン酸などが挙げられる。それらの中でも、正極前駆体及び/又は非水系ハイブリッドキャパシタの製造工程で分解又は揮発することが好ましく、酢酸、塩酸等が挙げられる。正極スラリーへのpH調整剤の使用量は、正極スラリー中の全固形分の全質量を基準として、0質量%超又は0.1質量%以上、1質量%以下であることが好ましい。pH調整剤の使用量が1質量%以下であれば、pH調整剤の残存が抑制される。
【0091】
[正極スラリーの製造]
本実施形態において、非水系ハイブリッドキャパシタ用の正極スラリーは、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極スラリーの製造技術によって製造することが可能である。例えば、正極活物質、アルカリ金属炭酸塩、及び結着剤、並びに必要に応じて使用されるその他の任意成分を、溶媒中に分散又は溶解して正極スラリーを調製する。
【0092】
正極スラリーは、正極活物質を含む各種材料粉末の一部若しくは全部をドライブレンドし、次いで溶媒を追加してもよく、及び/又はそれらに、結着剤若しくは分散安定剤が溶解若しくは分散した液状若しくはスラリー状の物質を追加して調製してもよい。代替的には、溶媒に結着剤又は分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質の中に、正極活物質を含む各種材料粉末を追加して、正極スラリーを調製してもよい。ドライブレンドする方法として、例えばボールミル等を使用して正極活物質及びアルカリ金属炭酸塩、並びに必要に応じて導電性フィラーを予備混合して、導電性の低いアルカリ金属炭酸塩に導電性フィラーをコーティングさせる予備混合をしてもよい。予備混合により、後述のプレドープにおいて正極前駆体でアルカリ金属炭酸塩が分解し易くなる。上記正極スラリーがアルカリ金属炭酸塩を加えることでアルカリ性になる場合には、必要に応じてpH調整剤を添加する。
【0093】
上記正極スラリーの分散方法としては、特に制限されず、好適にはホモディスパー又は多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機等を用いることができる。良好な分散状態の正極スラリーを得るためには、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速が1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。周速が50m/s以下であれば、分散による熱又はせん断力により各種材料が破壊され難く、再凝集が生じ難くなるため好ましい。
【0094】
本実施形態では、後述のように、非水系ハイブリッドキャパシタを組み立てた後に、アルカリ金属炭酸塩を含有する正極前駆体と負極との間に電圧を印加することで、正極前駆体のアルカリ金属炭酸塩が分解し、負極にアルカリ金属イオンがプレドープされることが好ましい。この際に、アルカリ金属炭酸塩が正極前駆体内で均一に分解されることが非常に重要である。すなわち、負極電極中にプレドープが均一に進行することで負極電位斑が抑制されると共に、プレドープ後の正極内での分解しきれなかったアルカリ金属炭酸塩の残存物も抑制されるため、高温耐久性に優れた非水系ハイブリッドキャパシタが得られる。また、アルカリ金属炭酸塩は絶縁体であるため、プレドープ後の正極内で残存物として存在すると、正極の電子伝導を阻害し、入出力特性を低下させる要因になるため、正極前駆体内にアルカリ金属炭酸塩が局在することなく、均一に分布させることが重要である。ここで、正極前駆体内の均一性を高めるためには、正極スラリー中においても固形分、特にアルカリ金属炭酸塩が沈降し難く、分散均一性が高いことが求められる。
【0095】
本実施形態の正極スラリーは、上記正極スラリーの全質量を基準として、溶媒を除く全固形成分の質量比をW
T質量%とするとき、10≦W
T≦50である。W
Tの上限としては45以下が好ましく、40以下がより好ましく、35以下がさらに好ましい。一方、W
Tの下限としては12.5以上が好ましく、15以上がより好ましい。上記W
Tの上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0096】
W
Tが10以上であれば、正極スラリー中の固形分である粒子又は高分子の運動自由度が抑制されるため、沈降が抑制され、分散均一性を維持できる。また、正極前駆体形成時の塗膜乾燥及び非水系ハイブリッドキャパシタ組み立て時の溶媒除去の工程負荷が軽減されるため、生産性が維持できる。一方、W
Tが50以下であれば、正極前駆体形成時に所望の塗膜厚み以下に制御できると共に、塗膜面内の目付斑が抑制できるため、非水系ハイブリッドキャパシタ組み込み時にも、アルカリ金属炭酸塩の分解均一性が保て、高温保存特性に優れる。
【0097】
また、本実施形態の正極スラリーは、容器中で撹拌後7日間静置した状態における上記正極スラリーの全体積を高さ方向で3分割した際の、最上層液及び最下層液の粘度をそれぞれη
U、η
L(mPa・s)とするとき、0.50≦η
U/η
L≦1.00である。η
U/η
Lの上限としては、0.98以下又は0.95以下であってもよく、η
U/η
Lの下限としては、0.60以上が好ましく、0.70以上がより好ましく、0.80以上が更に好ましく、0.85以上がより更に好ましい。上記η
U/η
Lの上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0098】
η
U/η
Lが0.50以上であれば、正極スラリーの分散安定性が高く、保存時の取扱が容易になると共に、正極前駆体の塗膜形成時に、正極活物質層の構成材料を塗膜厚み方向で均一に分布させることが可能になり、非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだ時に高入出力特性と高温保存特性に優れる。一方、η
U/η
Lが1.00以下であれば、正極スラリー内の固形分が十分に分散されており、正極前駆体を非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだ時にプレドープによりアルカリ金属炭酸塩が十分に分解され、高エネルギー密度と優れた高温保存特性が得られる。
【0099】
上記正極スラリーは、容器中で撹拌後7日間静置した状態における上記正極スラリーの全体積を高さ方向で3分割した際の、最上層液及び最下層液の密度をそれぞれρ
U、ρ
L(g/mL)とするとき、0.60≦ρ
U/ρ
L≦1.00であることが好ましく、ρ
U/ρ
Lの上限としては、0.98以下又は0.95以下であってもよく、ρ
U/ρ
Lの下限としては、0.70以上がより好ましく、0.80以上が更に好ましく、0.85以上がより更に好ましい。上記ρ
U/ρ
Lの上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0100】
ρ
U/ρ
Lが0.60以上であれば、正極スラリー中で密度の高いアルカリ金属炭酸塩が沈降し難く、正極前駆体の塗膜形成時にもアルカリ金属炭酸塩が正極集電体近傍に偏在せず、高入出特性と優れた高温保存特性を両立した非水系ハイブリッドキャパシタが得られる。一方、ρ
U/ρ
Lが1.00以下であれば、正極スラリー内の固形分が十分に分散されており、正極前駆体形成時の塗工安定性に優れ、非水系ハイブリッドキャパシタ組み立て時に負極へのアルカリ金属イオンのプレドープが均一に進む。
【0101】
上記正極スラリーの粘度(ηb)は、好ましくは1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。粘度(ηb)が20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の正極スラリーの流路における圧力損失が少なく安定に塗工でき、また所望の塗膜厚み以下に制御できる。
【0102】
上記正極スラリーのTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。
【0103】
上記正極スラリーの分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、より好ましくは粒度が80μm以下、さらに好ましくは粒度が50μm以下である。粒度が0.1μm未満では、正極活物質を含む各種材料粉末の粒子径以下のサイズとなり、正極スラリー作製時に材料を破砕していることになり好ましくない。粒度が100μm以下であれば、正極スラリーの分散均一性が維持できると共に、正極スラリー吐出時の詰まり又は塗膜のスジの発生等が少なく、安定に塗工ができる。
【0104】
<正極前駆体>
本実施形態に係る正極前駆体は、非水系ハイブリッドキャパシタの所望の構成に応じて、単に、プレドープ前の電極、プレドープ前の片側電極、ハーフセル、塗工電極、乾燥電極等と呼ばれることがある。
本実施形態における正極スラリーを、例えば、正極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより、正極集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極前駆体を作製することができる。
【0105】
[正極活物質層]
上記正極前駆体に含まれる正極活物質層は、上記正極スラリーの溶媒を除く全固形分により構成される。すなわち、正極活物質層は、活性炭を含む正極活物質と、正極活物質以外のアルカリ金属炭酸塩と、結着剤を含み、その他に導電性フィラー、分散安定剤、pH調整剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0106】
[正極集電体]
本実施形態における正極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こり難い材料であれば特に制限されず、金属箔が好ましい。正極集電体としての金属箔は、アルミニウム箔が特に好ましい。
【0107】
正極集電体は凹凸又は貫通孔を持たない金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
その中でも、正極集電体は貫通孔を持たない金属箔が好ましい。貫通孔を持たない方が、製造コストが安価であり、薄膜化が容易であるため高エネルギー密度化にも寄与でき、集電抵抗も低くできるため高入出力特性が得られる。
【0108】
正極集電体の厚みは、正極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限されず、例えば、1〜100μmが好ましい。
【0109】
[正極前駆体の製造]
本実施形態において、非水系ハイブリッドキャパシタ用の正極前駆体は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、上記正極スラリーを正極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより正極前駆体を得ることができる。得られた正極前駆体をプレスして、正極活物質層の厚み又は嵩密度を調整してもよい。
【0110】
上記正極前駆体の塗膜の形成方法は特に制限されず、好適にはダイコーター又はコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることができる。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工で形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内のアルカリ金属炭酸塩の含有量が異なるように正極スラリー組成を調整してもよい。塗工速度は、好ましくは0.1m/分以上100m/分以下、より好ましくは0.5m/分以上70m/分以下、さらに好ましくは1m/分以上50m/分以下である。塗工速度が0.1m/分以上であれば、安定に塗工できる。塗工速度が100m/分以下であれば、塗工精度を十分に確保できる。
【0111】
上記正極前駆体の塗膜の乾燥方法は、特に制限されず、好適には熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥等の乾燥方法を用いることができる。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。複数の乾燥方法を組み合わせて塗膜を乾燥させてもよい。乾燥温度は、好ましくは25℃以上200℃以下、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることができる。乾燥温度が200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れ又はマイグレーションによる結着剤の偏在、及び正極集電体又は正極活物質層の酸化を抑制できる。
【0112】
上記正極前駆体のプレス方法としては、特に制限されず、好適には油圧プレス機、真空プレス機等のプレス機を用いることができる。正極活物質層の厚み、嵩密度及び電極強度は、後述するプレス圧力、隙間、及びプレス部の表面温度により調整できる。
【0113】
プレス圧力は、好ましくは0.5kN/cm以上20kN/cm以下、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、さらに好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。プレス圧力が20kN/cm以下であれば、正極前駆体に撓み又はシワが生じることがなく、所望の正極活物質層厚み又は嵩密度に調整できる。
【0114】
当業者であれば、プレスロール同士の隙間は、所望の正極活物質層の厚み又は嵩密度となるように乾燥後の正極前駆体厚みに応じて任意の値を設定できる。当業者であれば、プレス速度は、正極前駆体に撓み又はシワが生じ難い任意の速度に設定できる。
【0115】
プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要によりプレス部を加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、使用する結着剤の融点マイナス60℃以上が好ましく、より好ましくは融点マイナス45℃以上、さらに好ましくは融点マイナス30℃以上である。加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、好ましくは使用する結着剤の融点プラス50℃以下、より好ましくは融点プラス30℃以下、さらに好ましくは融点プラス20℃以下である。例えば、結着剤にPVdF(ポリフッ化ビニリデン:融点150℃)を用いた場合、プレス部の表面温度は、好ましくは90℃以上200℃以下、より好ましく105℃以上180℃以下、さらに好ましくは120℃以上170℃以下である。結着剤にスチレン−ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、プレス部の表面温度は、好ましくは40℃以上150℃以下、より好ましくは55℃以上130℃以下、さらに好ましくは70℃以上120℃以下である。
【0116】
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
【0117】
プレス圧力、隙間、速度、及びプレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
【0118】
上記正極活物質層の厚みは、正極集電体の片面当たり、好ましくは20μm以上200μm以下、より好ましくは片面当たり25μm以上100μm以下、更に好ましくは30μm以上80μm以下である。正極活物質層の厚みが20μm以上であれば、十分な充放電容量を発現することができる。正極活物質層の厚みが200μm以下であれば、電極内のイオン拡散抵抗を低く維持することができる。そのため、十分な入出力特性が得られるとともに、セル体積を縮小することができ、従ってエネルギー密度を高めることができる。上記正極活物質層の厚みの範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。本明細書において、集電体が貫通孔又は凹凸を有する場合における正極活物質層の厚みとは、集電体の貫通孔又は凹凸を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0119】
<負極>
負極は、一般的に、負極集電体と、前記負極集電体の片面又は両面に存在する負極活物質層と、を有する。
【0120】
[負極活物質層]
負極活物質層は、アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出できる負極活物質を含むことが好ましい。負極活物質層は、負極活物質以外に、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0121】
−負極活物質−
上記負極活物質としては、アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出することが可能な物質を用いることができる。負極活物質としては、具体的には、炭素材料、チタン酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金、ケイ素化合物、錫及び錫化合物等が例示される。負極活物質の総質量に対する炭素材料の含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、又は100質量%であってもよい。他の材料との併用による効果を良好に得る観点から、炭素材料の含有率は、例えば、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であってもよい。上記炭素材料の含有率の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0122】
上記炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素材料;易黒鉛化性炭素材料;カーボンブラック;カーボンナノ粒子;活性炭;人造黒鉛;天然黒鉛;黒鉛化メソフェーズカーボン小球体;黒鉛ウイスカ;ポリアセン系物質等のアモルファス炭素質材料;炭素質材料前駆体を熱処理して得られる炭素質材料;フルフリルアルコール樹脂又はノボラック樹脂の熱分解物;フラーレン;カーボンナノフォーン;及びこれらの複合炭素材料を挙げることができる。上記炭素質材料前駆体としては、熱処理により炭素質材料となるものであれば特に制限されず、例えば、石油系のピッチ、石炭系のピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、並びに合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)が挙げられる。
【0123】
−負極活物質層の任意成分−
負極活物質層は、必要に応じて、負極活物質の他に、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0124】
導電性フィラーの種類は特に制限されず、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維等が例示される。導電性フィラーの使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部超30質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上15質量部以下である。
【0125】
結着剤としては、特に制限されず、例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ素ゴム、アクリル系重合体等を用いることができる。結着剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは2質量部以上27質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上25質量部以下である。結着剤の使用量が1質量部以上であれば、十分な電極強度が発現される。一方で結着剤の使用量が30質量部以下であれば、負極活物質へのアルカリ金属イオンの出入りを阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0126】
分散安定剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体等を用いることができる。分散安定剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは、0質量部超又は0.1質量部以上、10質量部以下である。分散安定剤の使用量が10質量部以下であれば、負極活物質へのアルカリ金属イオンの出入りを阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0127】
[負極集電体]
負極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こり難い金属箔であることが好ましい。このような金属箔としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。非水系ハイブリッドキャパシタにおける負極集電体としては、銅箔が好ましい。
【0128】
上記金属箔は凹凸又は貫通孔を持たない金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
その中でも、負極集電体は貫通孔を持たない金属箔が好ましい。貫通孔を持たない方が、製造コストが安価であり、薄膜化が容易であるため高エネルギー密度化にも寄与でき、集電抵抗も低くできるため高入出力特性が得られる。
【0129】
負極集電体の厚みは、負極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1〜100μmが好ましい。
【0130】
[負極の製造]
負極は、負極集電体の片面上又は両面上に負極活物質層を有して成る。典型的な態様において負極活物質層は負極集電体に固着している。
【0131】
負極は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、負極活物質を含む各種材料を水又は有機溶剤中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を負極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより負極を得ることができる。さらに得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。
【0132】
負極活物質層の厚みは、片面当たり、5μm以上100μm以下が好ましい。この厚みが5μm以上であれば、負極活物質層を塗工した際にスジ等が発生せず塗工性に優れる。この厚みが100μm以下であれば、セル体積を縮小することによって高いエネルギー密度を発現できる。負極活物質層の厚みの範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。集電体が貫通孔又は凹凸を有する場合における負極活物質層の厚みとは、集電体の貫通孔又は凹凸を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0133】
負極活物質層の嵩密度は、好ましくは0.30g/cm
3以上1.8g/cm
3以下である。嵩密度が0.30g/cm
3以上であれば、十分な強度を保つことができるとともに、負極活物質間の十分な導電性を発現することができる。嵩密度が1.8g/cm
3以下であれば、負極活物質層内でイオンが十分に拡散できる空孔が確保できる。
【0134】
<セパレータ>
正極前駆体及び負極は、セパレータを介して積層され、又は積層及び捲回され、正極前駆体、セパレータ、及び負極を有する電極積層体又は電極捲回体を形成することができる。
【0135】
上記セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜、又は電気二重層キャパシタで用いられるセルロース製の不織紙等を用いることができる。これらのセパレータの片面または両面に、有機または無機の微粒子から構成される膜が積層されていてもよい。セパレータの内部に有機または無機の微粒子が含まれていてもよい。
【0136】
セパレータの厚みは5μm以上35μm以下が好ましい。5μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。35μm以下の厚みとすることにより、非水系ハイブリッドキャパシタの入出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
【0137】
有機または無機の微粒子から構成される膜の厚みは、1μm以上10μm以下が好ましい。1μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。10μm以下の厚みとすることにより、非水系ハイブリッドキャパシタの入出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
【0138】
<外装体>
外装体としては、金属缶、ラミネートフィルム等を使用できる。金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。ラミネートフィルムとしては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内層樹脂フィルムから構成される3層構成のものが例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロン又はポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分及びガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。内層樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が好適に使用できる。
【0139】
<非水系電解液>
非水系ハイブリッドキャパシタに用いる電解液は非水系電解液が好ましい。すなわち、電解液は、非水溶媒を含む。上記非水系電解液は、上記非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上のアルカリ金属塩を含有する。すなわち、非水系電解液は、アルカリ金属塩を電解質として含む。非水系電解液に含まれる非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等に代表される環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等に代表される鎖状カーボネートが挙げられる。
【0140】
《非水系ハイブリッドキャパシタの製造方法》
<組立>
典型的には、枚葉の形状にカットした正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層して電極積層体を得て、電極積層体に正極端子および負極端子を接続する。あるいは、正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層及び捲回して電極捲回体を得て、電極捲回体に正極端子及び負極端子を接続する。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。
【0141】
正極端子及び負極端子の接続の方法は特に限定されず、抵抗溶接、超音波溶接などの方法を用いることができる。
【0142】
端子を接続した電極積層体または電極捲回体は、乾燥することで残存溶媒を除去することが好ましい。乾燥方法に限定されず、真空乾燥などにより乾燥する。残存溶媒は、正極活物質層または負極活物質層の重量あたり、1.5質量%以下が好ましい。残存溶媒が1.5質量%より多いと、系内に溶媒が残存し、自己放電特性を悪化させるため、好ましくない。
【0143】
乾燥した電極積層体または電極捲回体は、好ましくは露点−40℃以下のドライ環境下にて、金属缶又はラミネートフィルムに代表される外装体の中に収納し、開口部を1方だけ残した状態で封止することが好ましい。露点−40℃より高いと、電極積層体または電極捲回体に水分が付着してしまい、系内に水が残存し、自己放電特性を悪化させることがある。外装体の封止方法は特に限定されず、ヒートシール、インパルスシールなどの方法を用いることができる。
【0144】
<注液、含浸、封止>
組立の後に、外装体の中に収納された電極積層体または電極捲回体に、非水系電解液を注液する。注液した後に、正極前駆体、負極、及びセパレータを非水系電解液で十分に含浸することが望ましい。正極前駆体、負極、及びセパレータのうちの少なくとも一部に電解液が浸っていない状態では、後述するプレドープにおいて、ドープが不均一に進むため、得られる非水系ハイブリッドキャパシタの抵抗が上昇したり、耐久性が低下したりする。上記含浸の方法としては、特に制限されず、例えば、注液後の非水系ハイブリッドキャパシタを、外装体が開口した状態で、減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。含浸後には、外装体が開口した状態の非水系ハイブリッドキャパシタを減圧しながら封止することで密閉する。
【0145】
<プレドープ>
好ましいプレドープ方法としては、上記正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中のアルカリ金属炭酸塩を分解してアルカリ金属イオンを放出し、負極でアルカリ金属イオンを還元することにより負極活物質層にアルカリ金属イオンをプレドープする方法が挙げられる。
【0146】
プレドープにおいて、正極前駆体中のアルカリ金属炭酸塩の酸化分解に伴い、CO
2等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法;等を挙げることができる。
【0147】
<エージング>
プレドープの終了後に、非水系ハイブリッドキャパシタにエージングを行うことが好ましい。エージングにおいて電解液中の溶媒が負極で分解し、負極表面にアルカリ金蔵イオン透過性の固体高分子被膜が形成される。
【0148】
上記エージングの方法としては、特に制限されないが、例えば高温環境下で電解液中の溶媒を反応させる方法等を用いることができる。
【0149】
<ガス抜き>
エージングの終了後に、更にガス抜きを行い、電解液、正極、及び負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。電解液、正極、及び負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られる非水系ハイブリッドキャパシタの抵抗が上昇してしまう。
【0150】
上記ガス抜きの方法としては、特に制限されず、例えば、上記外装体を開口した状態で非水系ハイブリッドキャパシタを減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。
【0151】
<蓄電素子の特性評価>
(静電容量)
本明細書では、静電容量F(F)とは、以下の方法によって得られる値である。
先ず、非水系ハイブリッドキャパシタと対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQとする。ここで得られたQを用いて、F=Q/(3.8−2.2)により算出される値をいう。
【0152】
ここで電流のCレートとは、上限電圧から下限電圧まで定電流放電を行う際、1時間で放電が完了する電流値のことを1Cという。本明細書では、上限電圧3.8Vから下限電圧2.2Vまで定電流放電を行う際に1時間で放電が完了する電流値のことを1Cとする。
【0153】
(内部抵抗)
本明細書では、内部抵抗Ra(Ω)とは、以下の方法によって得られる値である。
先ず、非水系ハイブリッドキャパシタを25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行う。続いて、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間−電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間2秒及び4秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をVoとしたときに、降下電圧ΔV=3.8−Vo、及びRa=ΔV/(20Cの電流値)により算出される値である。
【0154】
(電力量)
本明細書では、電力量E(Wh)とは、以下の方法によって得られる値である。
先に述べた方法で算出された静電容量F(F)を用いて、
F×(3.8
2−2.2
2)/2/3600により算出される値をいう。
【0155】
(体積)
蓄電素子の体積V(L)は、電極積層体又は電極捲回体のうち、正極活物質層および負極活物質層が積重された領域が、外装体によって収納された部分の体積を指す。
【0156】
例えば、ラミネートフィルムによって収納された電極積層体又は電極捲回体の場合は、電極積層体又は電極捲回体のうち、正極活物質層および負極活物質層が存在する領域が、カップ成形されたラミネートフィルムの中に収納されるが、この蓄電素子の体積(V
x)は、このカップ成形部分の外寸長さ(l
x)と外寸幅(w
x)、およびラミネートフィルムを含めた蓄電素子の厚み(t
x)により、V
x=l
x×w
x×t
xで計算される。
【0157】
角型の金属缶に収納された電極積層体又は電極捲回体の場合は、蓄電素子の体積としては、単にその金属缶の外寸での体積を用いる。すなわち、この蓄電素子の体積(V
y)は、角型の金属缶の外寸長さ(l
y)と外寸幅(w
y)、外寸厚み(t
y)により、V
y=l
y×w
y×t
yで計算される。
【0158】
円筒型の金属缶に収納された電極捲回体の場合においても、蓄電素子の体積としては、その金属缶の外寸での体積を用いる。すなわち、この蓄電素子の体積(V
z)は、円筒型の金属缶の底面または上面の外寸半径(r)、外寸長さ(l
z)により、V
z=3.14×r×r×l
zで計算される。
【0159】
[高温保存試験]
本明細書では、高温保存試験時のガス発生量、及び高温保存試験後の常温内部抵抗上昇率は、以下の方法によって測定する:
先ず、非水系ハイブリッドキャパシタと対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を10分間行う。その後、セルを60℃環境下に保存し、2週間毎に60℃環境下から取り出し、前述の充電工程にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを60℃環境下で保存する。この工程を繰り返し行い、保存開始前のセル体積Va、保存試験3か月後のセル体積Vbをアルキメデス法によって測定する。Vb−Vaをセル電圧4.0V及び環境温度60℃において3か月間保存した際に発生するガス量とする。
上記高温保存試験後のセルに対して、上記常温内部抵抗と同様の測定方法を用いて得られる抵抗値を高温保存試験後の常温内部抵抗Rbとしたとき、高温保存試験開始前の常温内部抵抗Raに対する高温保存試験後の常温内部抵抗上昇率はRb/Raにより算出される。
【0160】
《測定方法》
<BET比表面積及びメソ孔量、マイクロ孔量、平均細孔径>
本実施形態におけるBET比表面積及びメソ孔量、マイクロ孔量、及び平均細孔径は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行なう。ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法又はBET1点法により、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。
【0161】
BJH法は一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett, Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(E. P. Barrett, L. G. Joyner and P. Halenda, J. Am. Chem. Soc., 73, 373(1951))。
【0162】
MP法とは、「t−プロット法」(B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4319(1965))を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、R.S.Mikhail, Brunauer, Bodorにより考案された方法である(R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45 (1968))。
【0163】
平均細孔径とは、液体窒素温度下で、各相対圧力下における窒素ガスの各平衡吸着量を測定して得られる、試料の質量あたりの全細孔容積を上記BET比表面積で除して求めたものを指す。
【0164】
<粘度及びTI値>
本実施形態における粘度(ηb)及びTI値は、それぞれ以下の方法により求められる値である。まず、E型粘度計を用いて温度25℃、ずり速度2s
−1の条件で2分以上測定した後の安定した粘度(ηa)を取得する。ずり速度を20s
−1に変更した他は上記と同様の条件で測定した粘度(ηb)を取得する。上記で得た粘度の値を用いて、TI値は、TI値=ηa/ηbの式により、算出される。ずり速度を2s
−1から20s
−1へ上昇させる際は、1段階で上昇させてもよいし、上記の範囲で多段的にずり速度を上昇させ、適宜そのずり速度における粘度を取得しながら上昇させてもよい。
【0165】
<粘度比、密度比>
本実施形態における粘度比η
U/η
L及び密度比ρ
U/ρ
Lは、それぞれ以下の方法により求められる値である。ここで、本発明において、η
U、η
L、ρ
U、及びρ
Lはそれぞれ、容器中で撹拌後7日間静置した状態における正極スラリーの全体積を高さ方向で3分割した際の、最上層液の粘度、最下層液の粘度、最上層液の密度、最下層液の密度を指す。
測定スラリー試料の準備として、まず、容器にスラリー試料を充填する。この際、測定に使用する容器としては、スラリーを均一に撹拌できて、安定に静置でき、スラリーの全体積を概ね混ざり合わずに3分割できる容器であれば、その容積や形状は特に限定されない。例えば、容器の容積としては50mL以上100L以下であることが好ましく、容器の形状としては略筒状であることが好ましく、円筒状であることがより好ましい。また、上記容器に充填するスラリー量は、その容器の全容積を基準にして50体積%以上90体積%以下であることが好ましい。
次いで、容器に充填されたスラリー試料を、撹拌機を用いて25℃環境下でスラリー中の構成材料が均一に分散されるように撹拌する。この際、スラリー中の構成材料が沈殿なく均一に撹拌できれば撹拌方法は特に限定されないが、例えば、撹拌機としてシンキー社製の製品名「あわとり練太郎」を用いて、回転数1000rpmで2分間撹拌する。撹拌後、スラリー試料を25℃環境下で7日間静置する。静置後、スラリー試料の全体積を高さ方向で3分割し、最上層液、中間層液及び最下層液に分取する。この際、分割した各層の液が概ね混ざり合わずに分取できれば、分割方法は特に限定されない。
得られた最上層液及び最下層液に対して、E型粘度計を用いて温度25℃、ずり速度を20s
−1の条件で2分以上測定した後の安定した粘度を、それぞれη
U及びη
Lとする。
【0166】
また、得られた最上層液及び最下層液の密度は、JIS Z8804に規定された比重瓶による密度測定方法により求められる。すなわち、水などの標準物質を比重瓶に満たして、室温(温度t℃)における空の比重瓶の質量B
1[g]及び標準物質を入れた比重瓶の質量B
2[g]を測定することによって比重瓶の内容積をまず校正する。次いで、試料液体を比重瓶に満たして、室温(温度t℃)における試料液体を入れた比重瓶の質量B
3[g]を測定する。この際、比重瓶内の試料液体に泡が入らないように、減圧操作又は振動操作等によって脱泡することが好ましい。温度t℃における試料液体の密度ρ
t[g/mL]は下記式(1)を用いて求められる。
ρ
t=(B
3−B
1)/(B
2−B
1)×(ρ
s−ρ
air)+ρ
air 式(1)
{ここで、ρ
s;温度t℃での標準物質の密度[g/mL]、ρ
air;測定環境での空気の密度[g/mL]とする。}
得られた最上層液及び最下層液を試料液体として上述の密度測定方法を用いて、それぞれρ
U及びρ
Lを求められる。
【0167】
<分散度>
本実施形態における分散度は、JIS K5600に規定された粒ゲージによる分散度評価試験により求められる値である。すなわち、粒のサイズに応じた所望の深さの溝を有する粒ゲージに対して、溝の深い方の先端に十分な量の試料を流し込み、溝から僅かに溢れさせる。スクレーパーの長辺がゲージの幅方向と平行になり、粒ゲージの溝の深い先端に刃先が接触するように置き、スクレーパーをゲージの表面になるように保持しながら、溝の長辺方向に対して直角に、ゲージの表面を均等な速度で、溝の深さ0まで1〜2秒間掛けて引き、引き終わってから3秒以内に20°以上30°以下の角度で光を当てて観察し、粒ゲージの溝に粒が現れる深さを読み取る。
【0168】
<スラリー中の溶媒を除く全固形成分の重量比>
本実施形態におけるスラリー中の溶媒を除く全固形成分の重量比W
Tの測定方法は特に限定されないが、例えば下記の方法で測定することができる。まず、スラリー試料を用意し、試料の全質量W
1[g]を測定する。次いで、上記スラリー試料を乾燥し、溶媒を揮発させて固形成分のみを得て、溶媒を除く全固形成分の質量W
2[g]を測定する。乾燥方法及び条件は特に限定されないが、大気乾燥及び真空乾燥等を組み合わせて多段的に乾燥し、乾燥温度は60〜200℃の範囲として、残存溶媒量が1質量%以下になる条件が好ましく、0.5質量%以下になる条件がより好ましい。残存溶媒量については、溶媒が有機溶剤系媒体の場合はGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)、溶媒が水系媒体の場合はカールフィッシャー法等を用いて定量することができる。以上の方法により、下記式(2)を用いて、スラリー中の溶媒を除く全固形成分の重量比W
Tを算出できる。
W
T=W
2/W
1×100 式(2)
【0169】
<アルカリ金属炭酸塩の同定方法>
正極スラリー中に含まれるアルカリ金属炭酸塩の同定方法は特に限定されないが、例えば正極集電体上に塗膜形成した正極前駆体の状態において、下記の走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析(SEM−EDX)、顕微ラマン分光、及びX線光電子分光(XPS)により同定することができる。アルカリ金属炭酸塩の同定には、以下に記載する複数の解析手法を組み合わせて同定することが好ましい。
【0170】
イオンクロマトグラフィーでは、正極前駆体を蒸留水で洗浄した後の水を解析することにより陰イオンを同定することができる。
【0171】
上記解析手法にてアルカリ金属炭酸塩を同定できなかった場合、その他の解析手法として、
7Li−固体NMR、XRD(X線回折)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)、AES(オージェ電子分光)、TPD/MS(加熱発生ガス質量分析)、DSC(示差走査熱量分析)等を用いることにより、アルカリ金属炭酸塩を同定することもできる。
【0172】
(SEM−EDX)
アルカリ金属炭酸塩及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極前駆体表面のSEM−EDX画像による酸素マッピングにより判別できる。SEM−EDX画像の測定例として、加速電圧を10kV、エミッション電流を1μA、測定画素数を256×256ピクセル、積算回数を50回として測定できる。試料の帯電を防止するために、真空蒸着、スパッタリング等の方法により金、白金、オスミウム等を表面処理することもできる。SEM−EDX画像の測定条件としては、明るさは最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%〜60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整することが好ましい。得られた酸素マッピングに対し、明るさの平均値を基準に二値化した明部を面積50%以上含む粒子をアルカリ金属炭酸塩とする。
【0173】
(顕微ラマン分光)
アルカリ金属炭酸塩及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極前駆体表面の炭酸イオンのラマンイメージングにより判別できる。測定条件の例として、励起光を532nm、励起光強度を1%、対物レンズの長作動を50倍、回折格子を1800gr/mm、マッピング方式を点走査(スリット65mm、ビニング5pix)、1mmステップ、1点当たりの露光時間を3秒、積算回数を1回、ノイズフィルター有りの条件にて測定することができる。測定したラマンスペクトルについて、1071〜1104cm
−1の範囲で直線のベースラインを設定し、ベースラインより正の値を炭酸イオンのピークとして面積を算出し、頻度を積算するが、この時にノイズ成分をガウス型関数で近似した炭酸イオンピーク面積に対する頻度を上記炭酸イオンの頻度分布から差し引く。
【0174】
(XPS)
正極前駆体の電子状態をXPSにより解析することにより、正極前駆体中に含まれる化合物の結合状態を判別することができる。
【0175】
測定条件の例として、X線源を単色化AlKα、X線ビーム径を100μmφ(25W、15kV)、パスエネルギーをナロースキャン:58.70eV、帯電中和を有り、スイープ数をナロースキャン:10回(炭素、酸素)20回(フッ素)30回(リン)40回(アルカリ金属)50回(ケイ素)、エネルギーステップをナロースキャン:0.25eVの条件にて測定できる。
【0176】
XPSの測定前に正極前駆体の表面をスパッタリングにてクリーニングすることが好ましい。スパッタリングの条件として、例えば、加速電圧1.0kV、2mm×2mmの範囲を1分間(SiO
2換算で1.25nm/min)の条件にて正極前駆体の表面をクリーニングすることができる。
【0177】
得られたXPSスペクトルについて、
Li1sの結合エネルギー50〜54eVのピークをLiO
2またはLi−C結合、
55〜60eVのピークをLiF、Li
2CO
3、
Li
xPO
yF
z(式中、x、y、zは1〜6の整数である)、
C1sの結合エネルギー285eVのピークをC−C結合、
286eVのピークをC−O結合、
288eVのピークをCOO、
290〜292eVのピークをCO
32−、C−F結合、
O1sの結合エネルギー527〜530eVのピークをO
2−(Li
2O)、
531〜532eVのピークをCO、CO
3、OH、PO
x(式中、xは1〜4の整数である)、SiO
x(式中、xは1〜4の整数である)、
533eVのピークをC−O、SiO
x(式中、xは1〜4の整数である)、
F1sの結合エネルギー685eVのピークをLiF、
687eVのピークをC−F結合、Li
xPO
yF
z(式中、x、y、zは1〜6の整数である)、PF
6−、
さらにP2pの結合エネルギーについて、
133eVのピークをPO
x(式中、xは1〜4の整数である)、
134〜136eVのピークをPF
x(式中、xは1〜6の整数である)、
Si2pの結合エネルギー99eVのピークをSi、シリサイド、
101〜107eVのピークをSi
xO
y(式中、x、yは任意の整数である)
として帰属することができる。
【0178】
得られたスペクトルについて、ピークが重なる場合には、ガウス関数又はローレンツ関数を仮定してピーク分離し、スペクトルを帰属することが好ましい。上記で得られた電子状態の測定結果及び存在元素比の結果から、存在するアルカリ金属炭酸塩を同定することができる。
【0179】
(イオンクロマトグラフィー)
正極前駆体の蒸留水洗浄液をイオンクロマトグラフィーで解析することにより、水中に溶出したアニオン種を同定することができる。使用するカラムとしては、イオン交換型、イオン排除型、逆相イオン対型を使用することができる。検出器としては、電気伝導度検出器、紫外可視吸光光度検出器、電気化学検出器等を使用することができ、検出器の前にサプレッサーを設置するサプレッサー方式、またはサプレッサーを配置せずに電気伝導度の低い溶液を溶離液に用いるノンサプレッサー方式を用いることができる。質量分析計や荷電化粒子検出器を検出器と組み合わせて測定することもできる。
【0180】
サンプルの保持時間は、使用するカラムや溶離液等の条件が決まれば、イオン種成分毎に一定であり、またピークのレスポンスの大きさはイオン種毎に異なるが濃度に比例する。トレーサビリティーが確保された既知濃度の標準液を予め測定しておくことでイオン種成分の定性と定量が可能となる。
【0181】
<アルカリ金属炭酸塩の定量方法 W
Aの算出>
正極スラリー中に含まれるアルカリ金属炭酸塩の定量方法を以下に記載する。本実施形態において、スラリー中のアルカリ金属炭酸塩の重量比W
Aは、溶媒を除く全固形成分の全質量を基準とする。スラリーの固形成分からのW
Aの算出方法としては、以下の水浸漬法又は燃焼法が用いられ、固形成分に含有されるアルカリ金属炭酸塩以外の材料の特性に応じて水浸漬法及び/又は燃焼法が選択でき、組み合わせて用いてもよい。例えば、結着剤及び/又は分散安定剤などが非水溶性であれば水浸漬法を用い、水溶性であれば燃焼法を用いることが好ましい。
【0182】
(水浸漬法)
正極スラリーの固形成分を蒸留水に浸漬し、浸漬前後の重量変化からアルカリ金属炭酸塩を定量することができる。すなわち、上述のW
Tの測定方法と同様に、スラリー試料を乾燥し、溶媒を揮発させて固形成分のみを得て、溶媒を除く全固形成分の質量W
2[g]を測定する。続いて、25℃環境下、正極スラリー固形成分の重量の100倍(100W
2[g])の蒸留水に固形成分を3日間以上十分に浸漬させ、アルカリ金属炭酸塩を水中に溶出させる。この時、蒸留水が揮発しないよう容器に蓋をする等の対策を施すことが好ましい。3日間以上浸漬させた後、蒸留水から固形成分を取り出し、真空乾燥する。真空乾燥の条件としては、例えば、温度:100〜200℃、圧力:0〜10kPa、時間:5〜20時間の範囲で固形成分中の残存水分量が1質量%以下になる条件が好ましい。水分の残存量については、カールフィッシャー法により定量することができる。真空乾燥後の固形成分の重量をW
3[g]とし、正極スラリー固形成分中に含まれるアルカリ金属炭酸塩の重量比W
A[質量%]は、下記式(3)にて算出できる。
W
A=(W
2−W
3)/W
2×100 式(3)
【0183】
(燃焼法)
正極スラリーの固形成分を燃焼させ、燃焼前後の重量変化からアルカリ金属炭酸塩を定量することができる。すなわち、上述のW
Tの測定方法と同様に、スラリー試料を乾燥し、溶媒を揮発させて固形成分のみを得る。続いて、この固形成分を白金から成る試料パンに入れ、TG測定装置にて、下記の条件にてTG曲線を得る。
・ガス:大気雰囲気下、又は圧縮空気
・昇温速度:0.5℃/min以下
・温度範囲:25℃〜500℃以上アルカリ金属炭酸塩の融点マイナス50℃の温度以下
得られるTG曲線の25℃の質量をW
2[g](溶媒を除く全固形成分の質量)とし、500℃以上の温度にて質量減少速度がW
2×0.01[g/min]以下となった最初の温度における質量をW
4[g]とする。
正極活物質に含まれる活性炭、結着剤、分散安定剤などのアルカリ金属炭酸塩以外の成分は酸素含有雰囲気(例えば、大気雰囲気)下では500℃以下の温度で加熱することですべて酸化・燃焼する。他方、アルカリ金属炭酸塩は酸素含有雰囲気下でもアルカリ金属炭酸塩の融点マイナス50℃の温度までは質量減少することがない。そのため、正極スラリー固形成分中に含まれるアルカリ金属炭酸塩の重量比W
A[質量%]は、下記式(4)にて算出できる。
W
A=W
4/W
2×100 式(4)
【0184】
<アルカリ金属元素の定量方法 ICP−MS>
正極スラリーの固形成分について、濃硝酸、濃塩酸、王水等の強酸を用いて酸分解し、得られた溶液を2%〜3%の酸濃度になるように純水で希釈する。酸分解については、適宜加熱、加圧し分解することもできる。得られた希釈液をICP−MSにより解析するがこの際に内部標準として既知量の元素を加えておくことが好ましい。測定対象のアルカリ金属元素が測定上限濃度以上になる場合には、上記希釈液を酸濃度を維持したまま更に希釈することが好ましい。得られた測定結果に対し、化学分析用の標準液を用いて予め作成した検量線を基に、各元素を定量することができる。
【0185】
<アルカリ金属炭酸塩及び正極活物質の平均粒子径 X
1及びY
1>
正極スラリー中におけるアルカリ金属炭酸塩及び正極活物質の平均粒子径X
1及びY
1の測定方法については特に限定されないが、例えば正極集電体上に塗膜形成した正極前駆体の状態において、正極前駆体断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像、及び走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)による画像から算出することができる。正極断面の形成方法は、例えば、正極前駆体上部からArビームを照射し、試料直上に設置した遮蔽板の端部に沿って平滑な断面を作製するBIB(Broad Ion Beam)加工を用いることができる。また、正極前駆体断面のラマンイメージングを測定することで炭酸イオンの分布を求めることもできる。
【0186】
(アルカリ金属炭酸塩と正極活物質の判別方法)
アルカリ金属炭酸塩及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極前駆体断面のSEM−EDX画像による酸素マッピングにより判別できる。SEM−EDX画像の測定方法条件は、明るさは最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%〜60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整することが好ましい。得られた酸素マッピングに対し、明るさの平均値を基準に二値化した明部を面積50%以上含む粒子をアルカリ金属炭酸塩と判別できる。
【0187】
(X
1及びY
1の算出方法)
X
1及びY
1は、上記正極前駆体断面SEMと同視野にて測定した断面SEM−EDXから得られた画像を、画像解析することで求めることができる。上記正極前駆体断面のSEM画像にて判別されたアルカリ金属炭酸塩の粒子X、及びそれ以外の粒子を正極活物質の粒子Yとし、断面SEM画像中に観察されるX、Yそれぞれの粒子全てについて、断面積Sを求め、下記式(5)にて算出される粒子径dを求める。
d=2×(S/π)
1/2 式(5)
{式中、円周率をπとする。}
【0188】
得られた粒子径dを用いて、下記式(6)において体積平均粒子径X
0及びY
0を求める。
X
0(Y
0)=Σ[4/3π×(d/2)]
3×d]/Σ[4/3π×(d/2)]
3] 式(6)
【0189】
正極前駆体断面の視野を変えて5ヶ所以上測定し、それぞれのX
0及びY
0の平均値をもって平均粒子径X
1及びY
1とする。
【0190】
<結着剤の同定方法>
正極スラリーに含まれる結着剤の同定方法は特に限定されない。フッ素含有物の同定方法として、例えば、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光法)測定が挙げられる。得られたIRスペクトルのC−F吸収等を観ることで、フッ素含有物の同定が可能である。その他の解析手法として、
19F−固体NMR、
19F−溶液NMR等を用いることにより、結着剤を同定することもできる。また、ゴム系高分子の同定方法として、例えば、Py−GC/MS(熱分解ガスクロマトグラフ質量分析)測定が挙げられる。結着剤の同定には、複数の解析手法を組み合わせて同定することが好ましい。
【0191】
<結着剤の定量方法>
正極スラリーに含まれる結着剤の定量方法は特に限定されず、例えば、TG(熱重量測定)で測定可能である。TGを使用する場合の結着剤の定量方法を例示する。正極スラリーを大気乾燥及び/又は真空乾燥することで、溶媒を揮発させ固形分のみを得る。得た固形分を白金パンに掻き取り、大気雰囲気下で2〜10℃/分で昇温して重量低下量から正極スラリー固形分に含まれる結着剤の定量が可能である。例えばPVdFの場合、大気雰囲気中400〜500℃以下までの領域で分解する重量低下量で判断できる。
【0192】
フッ素含有物の定量方法であれば、例えば上記と同様に正極スラリーから溶媒を揮発させた固形分に対して管状燃焼法による燃焼イオンクロマトグラフィーでフッ素化物イオン量から定量できる。例えばPVdFの場合、測定したフッ素化物イオン量×64(CH
2CF
2)/38(2F)からPVdF量を算出できる。
【0193】
また、ゴム系高分子の定量方法であれば、例えば上記と同様に正極スラリーから溶媒を揮発させた固形分に対してPy−GC/MS(熱分解ガスクロマトグラフ質量分析)測定を用いることで定量できる。
結着剤の定量には、複数の解析手法を組み合わせて定量することが好ましい。
【0194】
<結着剤の重量平均分子量>
正極スラリーに含まれる結着剤の重量平均分子量の測定方法は特に限定されないが、例えば、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定可能である。GPCを使用する場合の結着剤の重量平均分子量の測定方法を例示する。
【0195】
正極スラリーをDMF等の溶離液でポリマー濃度が約1mg/mlになるように調整し、続いてフィルターでろ過し、ろ液をGPC測定試料とする。必要に応じて、結着剤の溶解を促進するために加熱、加圧してもよい。
【0196】
GPC測定の際に使用するカラムしては、サンプル成分を効率的に分離できれば、特に限定されない。検出器としてはサンプルの分子量が感度高く測定できれば、特に限定されないが、RI(示差屈折計)検出器を用いて、溶質成分の変化に伴う屈折率変化を検出することで、含有するポリマーの平均分子量又は分子量分布に関する情報を得ることができる。装置でデータ処理することで結着剤であるポリマーの重量平均分子量が算出される。
【0197】
正極スラリーには結着剤以外にも分散安定剤等の別のポリマーが混在することがある。GPC測定データにおいて結着剤と分離して検出されればよいが、結着剤との分離が難しい場合でも、正極スラリー中で結着剤と分散安定剤を合わせた重量平均分子量が上述の値になることが好ましい。
【実施例】
【0198】
以下、実施例及び比較例を示して本発明の実施形態を具体的に説明するが、しかしながら、本発明は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0199】
<正極活物質の調製>
[活性炭1の調製]
破砕したヤシ殻炭化物を、小型炭化炉において窒素中、500℃において3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、1kg/hの水蒸気を予熱炉で加温した状態で上記賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間掛けて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りした。115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭1を得た。
【0200】
この活性炭1について、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、4.2μmであった。ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m
2/g、メソ孔量(V
1)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V
2)が0.88cc/g、V
1/V
2=0.59であった。
【0201】
[活性炭2の調製]
破砕したヤシ殻炭化物を、小型炭化炉において窒素中、550℃において3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、1kg/hの水蒸気を予熱炉で加温した状態で上記賦活炉内へ導入し、800℃まで6時間掛けて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りした。115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭2を得た。
【0202】
この活性炭2について、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、8.8μmであった。ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が1880m
2/g、メソ孔量(V
1)が0.33cc/g、マイクロ孔量(V
2)が0.80cc/g、V
1/V
2=0.41であった。
【0203】
[活性炭3の調製]
フェノール樹脂を、窒素雰囲気下、焼成炉中600℃において2時間炭化処理した後、ボールミルにて粉砕し、分級を行って平均粒子径3.5μmの炭化物を得た。この炭化物とKOHとを、質量比1:4で混合し、窒素雰囲下、焼成炉中800℃において1時間加熱して賦活化を行い、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を、濃度2mol/Lに調整した希塩酸中で1時間撹拌洗浄した後、蒸留水でpH5〜6の間で安定するまで煮沸洗浄し、乾燥を行うことにより、活性炭3を得た。
【0204】
この活性炭3について、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、3.4μmであった。ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2612m
2/g、メソ孔量(V
1)が0.94cc/g、マイクロ孔量(V
2)が1.41cc/g、V
1/V
2=0.67であった。
【0205】
[活性炭4の調製]
フェノール樹脂を、窒素雰囲気下、焼成炉中600℃において2時間炭化処理した後、ボールミルにて粉砕し、分級を行って平均粒子径7.0μmの炭化物を得た。この炭化物とKOHとを、質量比1:5で混合し、窒素雰囲下、焼成炉中800℃において1時間加熱して賦活化を行い、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を、濃度2mol/Lに調整した希塩酸中で1時間撹拌洗浄した後、蒸留水でpH5〜6の間で安定するまで煮沸洗浄し、乾燥を行うことにより、活性炭4を得た。
【0206】
この活性炭4について、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、7.1μmであった。ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が3627m
2/g、メソ孔量(V
1)が1.50cc/g、マイクロ孔量(V
2)が2.28cc/g、V
1/V
2=0.66であった。
【0207】
[活性炭5の調製]
フェノール樹脂を、窒素雰囲気下、焼成炉中600℃において2時間炭化処理した後、ボールミルにて粉砕し、分級を行って平均粒子径17.5μmの炭化物を得た。この炭化物とKOHとを、質量比1:4.5で混合し、窒素雰囲下、焼成炉中800℃において1時間加熱して賦活化を行い、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を、濃度2mol/Lに調整した希塩酸中で1時間撹拌洗浄した後、蒸留水でpH5〜6の間で安定するまで煮沸洗浄し、乾燥を行うことにより、活性炭5を得た。
【0208】
この活性炭5について、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、17.7μmであった。ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が3130m
2/g、メソ孔量(V
1)が1.26cc/g、マイクロ孔量(V
2)が2.07cc/g、V
1/V
2=0.61であった。
【0209】
<正極スラリーの製造>
【0210】
[正極スラリー(組成a)の製造]
上記で得た活性炭1〜5のいずれか1つを正極活物質として用いて、下記方法で正極スラリー(組成a)を製造した。
【0211】
活性炭1又は2のいずれか1つを55.5質量部、アルカリ金属炭酸塩として、表1に示す平均粒子径を有する炭酸リチウムを32.0質量部又は表1に示す配合比での炭酸リチウムと炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムの混合物を計32.0質量部、ケッチェンブラックを3.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)1又は2のいずれか(PVdF1:原材料単体における重量平均分子量118万、PVdF2:原材料単体における重量平均分子量192万)を8.0質量部、及びNMP(N−メチルピロリドン)を表1に示す仕込み固形分重量比になるように適量混合し、その混合物をPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17.0m/sの条件で分散して正極スラリー(組成a)を得た。
【0212】
[正極スラリー(組成b)の製造]
活性炭3又は4のいずれか1つを64.4質量部、炭酸リチウムを21.1質量部、ケッチェンブラックを3.5質量部、PVPを1.7質量部、及びPVdF1を9.3質量部とした以外は、正極スラリー(組成a)と同様の方法で、正極スラリー(組成b)を得た。
【0213】
[正極スラリー(組成c)の製造]
活性炭3又は5のいずれか1つを71.7質量部、炭酸リチウムを12.2質量部、ケッチェンブラックを3.9質量部、PVPを1.9質量部、及びPVdF1を10.3質量部とした以外は、正極スラリー(組成a)と同様の方法で、正極スラリー(組成c)を得た。
【0214】
[正極スラリー(組成d)の製造]
活性炭1を75.4質量部、炭酸リチウムを7.6質量部、ケッチェンブラックを4.0質量部、PVPを2.0質量部、及びPVdF1を11.0質量部とした以外は、正極スラリー(組成a)と同様の方法で、正極スラリー(組成d)を得た。
【0215】
[正極スラリー(組成e)の製造]
活性炭2又は3のいずれか1つを43.1質量部、炭酸リチウムを47.2質量部、ケッチェンブラックを2.3質量部、PVPを1.2質量部、及びPVdF1を6.2質量部とした以外は、正極スラリー(組成a)と同様の方法で、正極スラリー(組成e)を得た。
【0216】
[正極スラリー(組成f)の製造]
活性炭5を78.5質量部、炭酸リチウムを3.9質量部、ケッチェンブラックを4.2質量部、PVPを2.1質量部、及びPVdF1を11.3質量部とした以外は、正極スラリー(組成a)と同様の方法で、正極スラリー(組成f)を得た。
【0217】
[正極スラリー(組成g)の製造]
活性炭2を30.8質量部、炭酸リチウムを62.3質量部、ケッチェンブラックを1.7質量部、PVPを0.8質量部、及びPVdF1を4.4質量部とした以外は、正極スラリー(組成a)と同様の方法で、正極スラリー(組成g)を得た。
【0218】
[正極スラリー(組成h)の製造]
上記で得た活性炭1を正極活物質として用いて、下記方法で正極スラリー(組成h)を製造した。
【0219】
活性炭1を61.2質量部、アルカリ金属炭酸塩として、表1に示す平均粒子径を有する炭酸リチウムを27.9質量部、ケッチェンブラックを4.3質量部、CMC(カルボキシメチルセルロース)を3.3質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)を混合し、その混合物をPRIMIX社製の混練機ハイビスミックスを用いて60rpmの条件で混練した。その後、アクリル系重合体1又は2のいずれか(アクリル系重合体1:平均粒子径200nm、アクリル系重合体2:平均粒子径100nm)を3.3質量部(固形分換算値、濃度40質量%の水分散液として添加)、並びに酢酸及び水を表1に示す仕込み固形分重量比になるように適量加え、20rpmの条件下で混練して正極スラリー(組成h)を得た。
【0220】
[正極スラリー(組成i)の製造]
活性炭5を73.8質量部、炭酸リチウムを14.6質量部、ケッチェンブラックを4.8質量部、CMCを3.6質量部、及びアクリル系重合体1を3.2質量部とした以外は、正極スラリー(組成h)と同様の方法で、正極スラリー(組成i)を得た。
【0221】
[正極スラリー(組成j)の製造]
活性炭5を82.6質量部、炭酸リチウムを4.4質量部、ケッチェンブラックを5.4質量部、CMCを4.0質量部、及びアクリル系重合体1を3.6質量部とした以外は、正極スラリー(組成h)と同様の方法で、正極スラリー(組成j)を得た。
【0222】
[正極スラリー(組成k)の製造]
活性炭1を39.7質量部、炭酸リチウムを53.2質量部、ケッチェンブラックを2.7質量部、CMCを2.2質量部、及びアクリル系重合体1を2.2質量部とした以外は、正極スラリー(組成h)と同様の方法で、正極スラリー(組成k)を得た。
【0223】
《実施例1》
<正極スラリーの製造>
活性炭1及びPVdF1を用い、上記の組成aにて、正極スラリー1を得た。
【0224】
<η
U/η
L及びρ
U/ρ
Lの算出>
上記正極スラリー1の一部を容器(容積150mL、円筒状)に100mL分取し、撹拌機としてシンキー社製の製品名「あわとり練太郎」を用いて、回転数1000rpmで2分間撹拌した。撹拌後、スラリー試料を25℃環境下で7日間静置した。静置後、スラリー試料の全体積を高さ方向で3分割し、最上層液1、中間層液1及び最下層液1に分取した。得られた最上層液1及び最下層液1に対して、E型粘度計を用いて温度25℃、ずり速度20s
−1の条件で測定し、3分後の粘度から、η
U及びη
Lを求めた。また、得られた上層液1及び最下層液1に対して、上述の比重瓶による測定方法により、温度25℃、標準物質として純水を用いて、空の比重瓶の質量B
1[g]及び純水を入れた比重瓶の質量B
2[g]を測定した。さらに試料液体を比重瓶に入れ、減圧脱泡後、試料液体を入れた比重瓶の質量B
3[g]を測定し、以上のB
1、B
2及びB
3から上記式(1)に従いρ
U及びρ
Lを求めた。以上のη
U、η
L、ρ
U及びρ
Lからη
U/η
L及びρ
U/ρ
Lを算出した。得られた結果を表1に示す。
【0225】
<W
Tの算出>
上記正極スラリー1の一部を金属容器に秤量し、スラリー試料1の全質量W
1[g]を測定した。次いで、この金属容器を熱風乾燥機に入れ、120℃で液面光沢がなくなるまでスラリー試料1を乾燥し、さらに180℃、15時間の条件で真空乾燥を実施することで、スラリー固形成分試料1を得て、溶媒を除く全固形成分の質量W
2[g]を測定した。以上のW
1及びW
2から上記式(2)に従いW
Tを算出した。得られた結果を表1に示す。
【0226】
<W
Aの算出>
(水浸漬法)
上記スラリー固形成分試料1を、100×W
2[g]の質量の蒸留水に含浸させ、25℃環境下3日間経過するまで維持することで、スラリー固形成分試料1中の炭酸リチウムを蒸留水中に溶出させた。スラリー固形成分試料1を取り出し、150℃、3kPaの条件にて12時間真空乾燥した。この時の重量W
3[g]を測定した。以上のW
2及びW
3から上記式(3)に従いW
Aを算出したところ、31.3質量%だった。水浸漬法により得られた結果を表1に示す。
【0227】
(燃焼法)
上記スラリー固形成分試料1を用いて、下記の条件でTG測定を実施し、TG曲線を得た。
・装置:日立ハイテクサイエンス社製TG/DTA6200
・ガス:圧縮空気(100mL/min)
・昇温速度:0.5℃/min
・温度範囲:25℃〜550℃(炭酸リチウムの融点:723℃)
得られたTG曲線より上述した方法により、W
2及びW
4を取得した。以上のW
2及びW
4から上記式(4)に従いW
Aを算出したところ、30.9質量%だった。
【0228】
<結着剤の重量平均分子量の算出>
上記正極スラリー1の一部をフィルターでろ過し、得られたろ液に、さらに溶離液としてDMF(5mmol/L LiBr)を加えて、ポリマー濃度が1mg/mlになるように調整し、50℃で7時間加熱後に一晩静置し、続いて0.2μmフィルターでろ過し、ろ液を試料とした。
【0229】
得られた試料についてGPC測定をした。測定条件を以下に記す。
(GPC測定条件)
・測定装置:東ソー製 HLC−8220GPC(データ処理:GPC−8020)
・カラム:Shodex KF−606M,KF−601
・検出器:RI
・試料:50μl
・オーブン温度:40℃
・較正曲線:PMMA
上記測定で得られたデータから重量平均分子量を算出したところ、101万だった。
【0230】
<正極前駆体の製造>
上記正極スラリー1を、東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて、厚み15μmのアルミニウム箔の片面及び両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度100℃で乾燥後、ロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施して、両面正極前駆体1及び片面正極前駆体1を得た。得られた両面及び片面正極前駆体1の正極活物質層の厚みを小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、両面及び片面正極前駆体1の任意の10か所で測定した厚みの平均値から、アルミニウム箔の厚みを引いて求めた。その結果、両面及び片面正極前駆体1の正極活物質層の厚みは、片面あたり60μmであった。
【0231】
<X
1及びY
1の算出>
上記両面正極前駆体1から1cm×1cmの小片を切り出し、日本電子製のSM−09020CPを用い、アルゴンガスを使用し、加速電圧4kV、ビーム径500μmの条件にて正極前駆体試料の面方向に垂直な断面を作製した。10Paの真空中にて金をスパッタリングにより断面にコーティングした。続いて以下に示す条件にて、大気暴露下で正極断面のSEM−EDXを測定した。
(SEM−EDX測定条件)
・測定装置:日立ハイテクノロジー製、電界放出型走査型電子顕微鏡 FE−SEM S−4700
・加速電圧:10kV
・エミッション電流:1μA
・測定倍率:2000倍
・電子線入射角度:90°
・X線取出角度:30°
・デッドタイム:15%
・マッピング元素:C,O,F
・測定画素数:256×256ピクセル
・測定時間:60sec.
・積算回数:50回
・明るさは最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%〜60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整した。
(SEM−EDXの解析)
上記測定した正極断面のSEM−EDXから得られた画像を、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて上述した方法で画像解析することでX
1及びY
1を算出した。その結果を表1に示す。
【0232】
<負極活物質の調製>
BET比表面積が3.1m
2/g、平均粒子径が4.8μmの市販の人造黒鉛150gをステンレススチールメッシュ製の籠に入れ、石炭系ピッチ(軟化点:50℃)15gを入れたステンレス製バットの上に置き、両者を電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置した。窒素雰囲気下、1000℃まで8時間掛けて昇温し、同温度で4時間保持することにより、両者を熱反応させ、複合炭素材料1を得た。続いて自然冷却により60℃まで冷却した後、複合炭素材料1を炉から取り出した。
【0233】
得られた複合炭素材料1について、上記と同様の方法で平均粒子径及びBET比表面積を測定した。その結果、平均粒子径は4.9μm、BET比表面積は6.1m
2/gであった。石炭系ピッチ由来の炭素質材料の人造黒鉛に対する質量比率は2%であった。
【0234】
<負極の製造>
複合炭素材料1を負極活物質として用いて、以下のように負極1を製造した。
複合炭素材料1を80質量部、アセチレンブラックを8質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を12質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、その混合物をPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速15m/sの条件で分散して塗工液を得た。得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE−35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,798mPa・s、TI値は2.7であった。上記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて、厚み10μmの電解銅箔の両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度85℃で乾燥して、両面負極1を得た。得られた負極1を、ロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。上記で得られた負極1の負極活物質層の厚みを小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、負極1の任意の10か所で測定した厚みの平均値から、銅箔の厚みを引いて求めた。その結果、負極1の負極活物質層の厚みは、片面あたり30μmであった。
【0235】
<非水系電解液の調製>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):メチルエチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、得られる非水系電解液に対してLiN(SO
2F)
2及びLiPF
6の濃度比が75:25(モル比)であり、かつLiN(SO
2F)
2及びLiPF
6の濃度の和が1.2mol/Lとなるようにそれぞれの電解質塩を混合溶媒中に溶解して非水系電解液を得た。
【0236】
得られた非水系電解液におけるLiN(SO
2F)
2及びLiPF
6の濃度は、それぞれ、0.9mol/L及び0.3mol/Lであった。
【0237】
<非水系ハイブリッドキャパシタの作製>
[蓄電素子の組立、乾燥]
得られた両面正極前駆体1、両面負極1、及び片面正極前駆体1を10cm×10cm(100cm
2)にカットした。最上面と最下面は片面正極前駆体1を用い、更に両面負極1を21枚と両面正極前駆体1を20枚とを用い、負極と正極前駆体との間に、厚み15μmの微多孔膜セパレータを挟んで積層した。負極と正極前駆体とに、それぞれ負極端子と正極端子を超音波溶接にて接続して電極積層体とした。この電極積層体を、温度80℃、圧力50Paで、乾燥時間60hrの条件で真空乾燥した。乾燥した電極積層体を露点−45℃のドライ環境下にて、アルミラミネート包材から構成される外装体内に収納し、電極端子部およびボトム部の外装体3方を、温度180℃、シール時間20sec、シール圧1.0MPaの条件でヒートシールした。
【0238】
[蓄電素子の注液、含浸、封止]
アルミラミネート包材の中に収納された電極積層体に、温度25℃、露点−40℃以下のドライエアー環境下にて、上記非水系電解液約80gを大気圧下で注入して、プレドープ処理前の非水系ハイブリッドキャパシタを形成した。続いて、減圧チャンバーの中に上記非水系ハイブリッドキャパシタを入れ、常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す操作を4回繰り返した後、蓄電素子を15分間静置した。常圧から−91kPaまで減圧した後、大気圧に戻した。同様に減圧し、大気圧に戻す操作を合計7回繰り返した(常圧から、それぞれ−95、−96、−97、−81、−97、−97、及び−97kPaまで減圧した)。以上の手順により、非水系電解液を電極積層体に含浸させた。
【0239】
非水系電解液を含浸させた電極積層体が収納された外装体を減圧シール機に入れ、−95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止し、非水系ハイブリッドキャパシタを得た。
【0240】
[プレドープ]
得られた非水系ハイブリッドキャパシタに対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.5Aで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を2時間継続する手法により初期充電を行い、負極にプレドープを行った。
【0241】
[エージング]
プレドープ後の非水系ハイブリッドキャパシタを25℃環境下、0.5Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、3.0V定電流放電を1時間行うことにより電圧を3.0Vに調整した。続いて、非水系ハイブリッドキャパシタを60℃の恒温槽に12時間保管した。
【0242】
[ガス抜き]
温度25℃、露点−40℃のドライエアー環境下で、エージング後の非水系ハイブリッドキャパシタのアルミラミネート包材の一部を開封した。続いて、減圧チャンバーの中に上記非水系ハイブリッドキャパシタを入れ、KNF社製のダイヤフラムポンプ(N816.3KT.45.18)を用いて大気圧から−80kPaまで3分間掛けて減圧した後、3分間掛けて大気圧に戻す操作を合計3回繰り返した。減圧シール機に非水系ハイブリッドキャパシタを入れ、−90kPaに減圧した後、200℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止した。
【0243】
以上の手順により、非水系ハイブリッドキャパシタを完成させた。
【0244】
<非水系ハイブリッドキャパシタの評価>
[静電容量、Ra・Fの測定]
得られた非水系ハイブリッドキャパシタについて、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、上述した方法により、静電容量Fと25℃における内部抵抗Raを算出し、Ra・Fとエネルギー密度E/Vとを得た。得られた結果を表1に示す。
【0245】
[高温保存試験後のガス発生量]
上記工程で得られた非水系ハイブリッドキャパシタについて、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。その後、非水系ハイブリッドキャパシタを60℃環境下に保存し、2週間毎に60℃環境下から取り出し、同様の充電工程にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを60℃環境下で保存した。この工程を3か月間繰り返し実施し、保存試験開始前のセル体積Va、保存試験3か月後のセルの体積Vbをアルキメデス法によって測定し、Vb−Vaによりガス発生量を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0246】
[Rb/Raの算出]
上記高温保存試験後の非水系ハイブリッドキャパシタに対して、上記のRa・Fの算出と同様にして高温保存試験後の常温内部抵抗Rbを算出した。このRb(Ω)を、上記Ra・Fの算出で求めた高温保存試験前の内部抵抗Ra(Ω)で除してRb/Raを算出した。得られた結果を表1に示す。
【0247】
《実施例2〜21および比較例1〜3》
正極スラリーの正極活物質、アルカリ金属炭酸塩の種類、配合比及びその平均粒子径、組成、仕込み固形分重量比を、それぞれ表1に示すとおりとした他は実施例1と同様にして実施例2〜21と比較例1〜3の正極スラリー及び非水系ハイブリッドキャパシタをそれぞれ作製し、各種の評価を行った。得られた評価結果を表1に示す。
【0248】
《実施例22》
正極スラリーの結着剤をPVdF2にした他は実施例1と同様にして実施例22の正極スラリー及び非水系ハイブリッドキャパシタをそれぞれ作製し、各種の評価を行った。得られた評価結果を表1に示す。また、正極スラリーに含まれる結着剤の重量平均分子量は170万だった。
【0249】
《実施例23》
<正極スラリーの製造>
活性炭1及びアクリル系重合体1を用い、上記の組成hにて、正極スラリー2を得た。
【0250】
<W
Aの算出>
(燃焼法)
上記正極スラリー2の一部を金属容器に秤量し、この金属容器を熱風乾燥機に入れ、120℃で液面光沢がなくなるまでスラリー試料1を乾燥し、さらに180℃、15時間の条件で真空乾燥を実施することで得られたスラリー固形成分試料2を用いて、下記の条件でTG測定を実施し、TG曲線を得た。
・装置:日立ハイテクサイエンス社製TG/DTA6200
・ガス:圧縮空気(100mL/min)
・昇温速度:0.5℃/min
・温度範囲:25℃〜550℃(炭酸リチウムの融点:723℃)
得られたTG曲線より上述した方法により、W
2及びW
4を取得した。以上のW
2及びW
4から上記式(4)に従いW
Aを算出した。燃焼法により得られた結果を表1に示す。
【0251】
上記正極スラリー2のη
U/η
L、ρ
U/ρ
L及びW
Tの算出については実施例1と同様にして各種評価を行った。得られた評価結果を表1に示す。
【0252】
<正極前駆体及び非水系ハイブリッドキャパシタの、製造及び評価>
上記正極スラリー2を用い、塗工時の乾燥温度を80℃にした他は、他は実施例1と同様にして実施例23の正極前駆体及び非水系ハイブリッドキャパシタをそれぞれ作製し、各種の評価を行った。得られた評価結果を表1に示す。
【0253】
《実施例24〜27および比較例4〜5》
正極スラリーの正極活物質、アルカリ金属炭酸塩の平均粒子径、結着剤、組成、仕込み固形分重量比を、それぞれ表1に示すとおりとした他は実施例23と同様にして実施例24〜27と比較例4〜5の正極スラリー及び非水系ハイブリッドキャパシタをそれぞれ作製し、各種の評価を行った。得られた評価結果を表1に示す。
【0254】
《比較例6》
<正極スラリー(組成l)及び正極前駆体の製造>
活性炭2を87.5質量部、ケッチェンブラックを3.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びPVdF1を8.0質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を表1に示す仕込み固形分重量比になるように適量混合し、その混合物をPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17m/sの条件で分散して組成lの正極スラリー3を得た。上記正極スラリー3を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚み15μmのアルミニウム箔の片面又は両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度100℃で乾燥して正極前駆体3を得た。得られた正極前駆体3を、ロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。得られた正極スラリー3及び正極前駆体3について、実施例1と同様にして評価を行った。その結果を表1に示す。
【0255】
<非水系ハイブリッドキャパシタの製造、評価>
得られた正極前駆体3と、負極活物質単位質量当たり211mAh/gに相当する金属リチウム箔を負極1の負極活物質層表面に貼り付けた負極とを用いた他は実施例1と同様にして非水系ハイブリッドキャパシタの組立及び注液、含浸、封止を実施した。
【0256】
次いで、プレドープとして、上記で得た非水系ハイブリッドキャパシタを環境温度45℃の恒温槽の中で72時間保管し、金属リチウムをイオン化させて負極1にドープした。得られた非水系ハイブリッドキャパシタについて、実施例1と同様にしてエージング、ガス抜きを実施して非水系ハイブリッドキャパシタを製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0257】
《比較例7》
<正極スラリー(組成m)及び正極前駆体の製造>
活性炭5を88.4質量部、ケッチェンブラックを4.8質量部、CMCを3.6質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)を混合し、その混合物をPRIMIX社製の混練機ハイビスミックスを用いて60rpmの条件で混練した。その後、アクリル系重合体1を3.2質量部(固形分換算値、濃度40質量%の水分散液として添加)、並びに酢酸及び水を表1に示す仕込み固形分重量比になるように適量加え、20rpmの条件で混練して組成mの正極スラリー4を得た。上記正極スラリー4を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚み15μmのアルミニウム箔の片面又は両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度80℃で乾燥して正極前駆体4を得た。得られた正極前駆体4を、ロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。得られた正極スラリー4及び正極前駆体4について、実施例23と同様にして評価を行った。その結果を表1に示す。
【0258】
<非水系ハイブリッドキャパシタの製造、評価>
得られた正極前駆体4と、負極活物質単位質量当たり211mAh/gに相当する金属リチウム箔を負極1の負極活物質層表面に貼り付けた負極とを用いた他は実施例23と同様にして非水系ハイブリッドキャパシタの組立及び注液、含浸、封止を実施した。
【0259】
次いで、プレドープとして、上記で得た非水系ハイブリッドキャパシタを環境温度45℃の恒温槽の中で72時間保管し、金属リチウムをイオン化させて負極1にドープした。得られた非水系ハイブリッドキャパシタについて、実施例23と同様にしてエージング、ガス抜きを実施して非水系ハイブリッドキャパシタを製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0260】
【表1】
【0261】
なお、表1中の実施例18〜21ではアルカリ金属炭酸塩として、炭酸リチウムと炭酸ナトリウムの混合物又は炭酸リチウムと炭酸カリウムの混合物が使用され、実施例18〜21において使用された炭酸リチウムと炭酸ナトリウムと炭酸カリウムのいずれも平均粒子径0.8μmであった。
【0262】
また、表1において、項目「平均粒子径(μm)」は、仕込み時(すなわち、分散前)の平均粒子径であり、かつ項目「X
1(μm)」は、スラリー完成後(すなわち、分散後かつ正極前駆体完成後)の平均粒子径である。
【0263】
上記で説明したとおり、正極スラリー及び正極前駆体に含まれるアルカリ金属炭酸塩が分解し、充放電に関与できるアルカリ金属イオンが負極にプレドープされること、または電解液中に放出されることで、非水系ハイブリッドキャパシタの充放電が進行するようになる。
【0264】
実施例1〜27及び比較例1〜7の対比から分かるように、正極スラリーの溶媒を除く全固形成分の重量比W
T(質量%)が10≦W
T≦50であり、正極スラリーのアルカリ金属炭酸塩の重量比W
A(質量%)が5≦W
A≦50であり、撹拌後7日間静置した状態における正極スラリーの全体積を高さ方向で3分割した際の、最上層液及び最下層液の粘度η
U及びη
L(mPa・s)が0.50≦η
U/η
L≦1.00であれば、正極スラリーを正極集電体上に塗膜形成した正極前駆体を非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだときにRa・Fが小さく(内部抵抗が低い、すなわち入出力特性が高い)、エネルギー密度E/Vが高く、かつ高温保存試験後のガス発生量及びRb/Raが低い(高温保存特性に優れる)特性を持つ非水系ハイブリッドキャパシタが得られることが分かる。
【0265】
理論に拘束されないが、これらは、W
Aが5以上であれば、正極スラリーから塗膜形成した正極前駆体を非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだ時に充放電に関与できるアルカリ金属イオンが十分に確保されるために静電容量Fが高く、高いエネルギー密度を示す非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。また、アルカリ金属炭酸塩が酸化分解した後に残る適度な空孔が正極中に形成されることで、高い入出力特性を示す非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。W
Aが50以下であれば、正極前駆体中の電子伝導性が高まるためにアルカリ金属炭酸塩の分解が促進されることでプレドープが十分に進行すると共に、正極中の正極活物質比率を十分に確保できるため、高エネルギー密度な非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。
【0266】
W
Tが10以上であれば、正極スラリー中の固形分である粒子又は高分子の沈降が抑制され、正極前駆体内でアルカリ金属炭酸塩が凝集又は偏析することなく均一に分布されるため、正極中の電子伝導性を確保でき、高入出力な非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。また、アルカリ金属炭酸塩が効率的に分解し、負極へのプレドープが十分に進行し、負極電位が十分に下がるため、高エネルギー密度を有する非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。W
Tが50以下であれば、正極前駆体形成時に塗膜面内の目付斑が抑制できるため、負極へのプレドープ後のアルカリ金属炭酸塩の残存又は負極面内の電位斑が抑制でき、高温保存特性に優れた非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。
【0267】
η
U/η
Lが0.50以上であれば、正極スラリーの分散安定性が高く、正極前駆体の塗膜形成時に、正極活物質層の構成材料を塗膜厚み方向で均一に分布させることが可能になり、高入出力特性と優れた高温保存特性を示す非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。η
U/η
Lが1.00以下であれば、正極スラリー内の固形分が十分に分散されており、非水系ハイブリッドキャパシタに組み込んだ時にプレドープでアルカリ金属炭酸塩が十分に分解され、高エネルギー密度と優れた高温保存特性を示す非水系ハイブリッドキャパシタが得られると考えられる。