(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851929
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】ダイナミックダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/124 20060101AFI20210322BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20210322BHJP
F16C 3/02 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
F16F15/124 Z
F16F15/12 L
F16C3/02
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-145035(P2017-145035)
(22)【出願日】2017年7月27日
(65)【公開番号】特開2019-27465(P2019-27465A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 崇義
【審査官】
杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2003/0040370(US,A1)
【文献】
特開2004−150543(JP,A)
【文献】
特開2013−217405(JP,A)
【文献】
特開2013−217431(JP,A)
【文献】
特開平07−280013(JP,A)
【文献】
特開平05−172174(JP,A)
【文献】
特開平05−223137(JP,A)
【文献】
特開2000−073617(JP,A)
【文献】
特開2017−129200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/124
F16C 3/02
F16F 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパイプの内周側に円周上複数のゴム足を介してダンパマスを接続したダイナミックダンパにおいて、
前記ダンパマスの偏芯量を所定量までに規制するマスストッパ部を設け、
前記マスストッパ部は、互いに隣り合う前記ゴム足間で前記アウターパイプおよび前記ダンパマス間に布体を架設した構造よりなることを特徴とするダイナミックダンパ。
【請求項2】
請求項1記載のダイナミックダンパにおいて、
前記布体は、その長さ方向にゆるみを備えて前記アウターパイプおよび前記ダンパマス間に架設されていることを特徴とするダイナミックダンパ。
【請求項3】
請求項1または2記載のダイナミックダンパにおいて、
前記布体は、基布よりなることを特徴とするダイナミックダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振技術に係るダイナミックダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にダイナミックダンパ51は
図5(A)(B)に示すように、アウターパイプ52の内周側に円周上複数のゴム足53を介してダンパマス54を連結した構造とされ、この構造からして、軸方向、軸直角方向、ねじり方向および、こじり方向に各々の固有振動数を有する。
【0003】
ダイナミックダンパ51は、自動車の駆動力伝達に供する中空プロペラシャフト61内に搭載され、プロペラシャフト61の振動を抑制し、走行時の静粛性の向上を図り、プロペラシャフト61自身の共振による強度低下を抑制するためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−150543号公報
【0005】
ところで、近年における車両軽量化等に伴い、ダイナミックダンパ51に求められる軸直角方向(径方向)の固有振動数は低下してきている。軸直角方向の固有振動数低下に伴い、通常領域の回転数でダンパマス54が大きく偏芯し、ゴム破損に至る可能性がある。また、車両によっては通常領域の入力が大きく、ゴム破損に至る可能性もある。
【0006】
従来のダンパマス偏芯対策としては
図6に示すように、互いに隣り合うゴム足53間でアウターパイプ52の内周面にストッパとしてゴム状弾性体よりなる凸形状55を設けるものがあり、このストッパ構造によれば、過大荷重入力時にダンパマス54が凸形状55に接触することによりダンパマス54の偏芯量を規制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ダンパマス54の偏芯量を目標値に規制するにはダンパマス54および凸形状55間のクリアランスcを狭める必要があり、その場合、防振効果が得られる領域を十分に確保できないと云う問題が生じる。
【0008】
また、ストッパがゴム状弾性体よりなる場合、ストッパとして必要とされる剛性を確保できず、十分なダンパマス偏芯量規制が得られないことがある(
図3のグラフ図における比較例に示すように、Aポイントにてダンパマス54が凸形状55に接触することによりストッパ作動が行なわれてもその後、凸形状55が圧縮されることによりマス偏芯量が増加の傾向を示す)。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて、防振効果が得られる領域を十分に確保することができ、しかもダンパマス偏芯量規制を十分に行うことができるダイナミックダンパを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のダイナミックダンパは、アウターパイプの内周側に円周上複数のゴム足を介してダンパマスを接続したダイナミックダンパにおいて、前記ダンパマスの偏芯量を所定量までに規制するマスストッパ部を設け、前記マスストッパ部は、互いに隣り合う前記ゴム足間で前記アウターパイプおよび前記ダンパマス間に布体を架設した構造よりなることを特徴とする。
【0011】
また、実施の態様として、上記記載のダイナミックダンパにおいて、前記布体は、その長さ方向にゆるみを備えて前記アウターパイプおよび前記ダンパマス間に架設されていることを特徴とする。
【0012】
また、実施の態様として、上記記載のダイナミックダンパにおいて、前記布体は、基布よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、マスストッパ部が、互いに隣り合うゴム足間でアウターパイプおよびダンパマス間に布体を架設した構造よりなるため、ダンパマスが偏芯すると、布体が張力による高反力を発揮することによりストッパ作動が行なわれる。布体は従来のゴム状弾性体よりなる凸形状のように大きな容積を必要とせずクリアランスの設定も必要としない。したがってダンパマスの径方向変位による防振効果の発揮を阻害しないので、防振効果が得られる領域を十分に確保することができる。また、張力により限度まで張った布体はそれ以上伸びることがないので、偏芯量規制が確実に行われる。したがってダンパマスの偏芯量規制を十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係るダイナミックダンパの正面図
【
図2】ダンパマスが偏芯した状態を示す同ダイナミックダンパの正面図
【
図4】同ダイナミックダンパを製造するための金型の要部斜視図
【
図5】背景技術に係るダイナミックダンパを示す図で、(A)はその正面図、(B)はその中心軸線を含む平面によって裁断した断面図
【
図6】比較例に係るダイナミックダンパを示す図で、その軸直角方向の平面によって裁断した断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、実施の形態に係るダイナミックダンパ11は、回転軸であるプロペラシャフト(図示せず)の中空部に装着されるシャフト内挿型・インナータイプのダイナミックダンパである。
【0016】
ダイナミックダンパ11はその構成部品として、プロペラシャフトの中空部の内周面に嵌合されるアウターパイプ(外筒)12を有し、このアウターパイプ12の内周側に円周上複数(図では5等配)のゴム足13を介してダンパマス14が同芯上に連結されている。アウターパイプ12の表面はゴム足13と一体のゴム状弾性体で被覆されていても良く、ダンパマス14の表面はこれもゴム足13と一体のゴム状弾性体で被覆されていても良い。
【0017】
また、ダンパマス14の偏芯量を所定量までに規制するためのマスストッパ部21が設けられており、このマスストッパ部21は、円周上互いに隣り合うゴム足13間でアウターパイプ12およびダンパマス14間に布体22を軸直角方向(径方向)に架設した構造とされている。布体22はゴム足13と同数(図では5等配)が配置され、ゴム足13と円周上交互に配置されている。布体22を構成する繊維間の間隙内にはゴム足13と一体のゴム状弾性体が充填されていても良く、布体22の表面はゴム足13と一体のゴム状弾性体で被覆されていても良い。
【0018】
また、布体22は、その長さ方向にゆるみを備えた状態でアウターパイプ12およびダンパマス14間に架設されている。ゆるみは、アウターパイプ12およびダンパマス14間の間隔よりも布体22の架設長さを大きくすることにより設定される。ゆるみを設定されることにより布体22は架設状態で波状もしくは蛇行状とされることが多い。布体22は例えば、基布とされる。
【0019】
上記構成のダイナミックダンパ11では、マスストッパ部21が、円周上互いに隣り合うゴム足13間でアウターパイプ12およびダンパマス14間に布体22を架設した構造とされているため、
図2に示すようにダンパマス14が偏芯すると、偏芯方向(矢印B)と180度対称位置近傍に配置された布体22がダンパマス14に引っ張られ、ゆるみが消失し、布体22が限度まで張った時点で高反力を発揮する。したがってマスストッパ部21がストッパ作動し、ダンパマス14の偏芯量を所定量までに抑えることができる。
【0020】
換言すると、本発明は、プロペラシャフト高速回転時にダンパマス14の偏芯を抑制し、軸直角方向共振に対する耐久性を確保するものである。この観点からして本発明では、プロペラシャフト高速回転時にダンパマス14が偏芯する際に、布体22が高反力のストッパとして作動することで、ダンパマス14の偏芯を抑制することができる。
【0021】
また、布体22は、従来のゴム状弾性体よりなる凸形状55のように大きな容積を必要とせずにクリアランスcの設定も必要としない。したがってダンパマス14の径方向変位による防振効果の発揮を阻害しないので、防振効果が得られる領域を十分に広く確保することができる。
【0022】
また、限度まで張った布体22はそれ以上長さが大きくなることがないので、偏芯量の規制が確実に行われる。したがってダンパマス14の偏芯量規制を十分に行うことができる。
【0023】
図3のグラフ図に示すように、
図6の比較例では上記したように、Aポイントにてダンパマス54が凸形状55に接触することによりストッパ作動が行なわれてもその後、凸形状55が圧縮されることによりマス偏芯量が増加の傾向を示すのに対し、上記実施の形態では、Dポイントにて布体22が限度まで張ってストッパ作動が行なわれるとその後、マス偏芯量は増加しない。したがってダンパマス14の偏芯量規制を十分に行うことができるものである。
【0024】
また、AおよびDポイントの位置の相違から判るように実施の形態によれば、ストッパ作動開始のタイミングを目標偏芯量に近付けることができ、ストッパ作動開始のタイミングを遅らせることができる(ストッパ作動後の更なる偏芯を考慮する必要がないため)。
【0025】
また、荷重負荷に対し変形量の少ない布体22を利用することで、従来のストッパと比較して過大荷重入力発生時に低変位量で変位を規制することができる。そのため、目標変位量への規制を実現することが可能とされる。
【0026】
また、布体22の張力に加えて、ゴム状弾性体の弾性力を利用することで、過大荷重入力時に対し更なる低変位での規制が可能とされる。
【0027】
つぎに、上記ダイナミックダンパ11の製造方法について説明すると、上記ダイナミックダンパ11の製造にはゴム成形用金型によるインサート成形を実施する。
【0028】
金型にはその一部として、
図4に示す上型および下型(図では下型)31を使用する。上型および下型31は筒状部32を有し、この筒状部32の外周側にアウターパイプ12をセットするとともに筒状部32の内周側にダンパマス14をセットする。筒状部32には、円周上複数(図では5等配)の切り欠き33が設けられているので、この切り欠き33に注入・充填するゴム材料によってゴム足13を成形する。また、筒状部32には、切り欠き33と円周上交互に小幅・波形状の切り欠き34が複数(図では5等配)設けられているので、この切り欠き34に布体22をセットし、この切り欠き34に注入・充填するゴム材料によって布体22をアウターパイプ12およびダンパマス14に対し連結する。したがってこの製造方法によれば、ゴム足13の成形と布体22の連結を1回の加硫成形で同時に行うことが可能とされる。
【符号の説明】
【0029】
11 ダイナミックダンパ
12 アウターパイプ
13 ゴム足
14 ダンパマス
21 マスストッパ部
22 布体
31 上型および下型(分割型)
32 筒状部
33 切り欠き(ゴム足成形用切り欠き)
34 切り欠き(布体一体化用切り欠き)