特許第6851957号(P6851957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6851957レーダシステム及びそのレーダ信号処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851957
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】レーダシステム及びそのレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/10 20060101AFI20210322BHJP
   G01S 13/46 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   G01S13/10
   G01S13/46
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-227233(P2017-227233)
(22)【出願日】2017年11月27日
(65)【公開番号】特開2019-95391(P2019-95391A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】浅古 淳
【審査官】 渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−267743(JP,A)
【文献】 特開2000−028705(JP,A)
【文献】 特開2001−305218(JP,A)
【文献】 特開2014−182010(JP,A)
【文献】 特開2015−161582(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0266857(US,A1)
【文献】 岡本佳久 大槻知明,ドップラーシフトに基づくバイスタティック3周波CWレーダによる人の位置推定アルゴリズム,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2012年 2月29日,第111巻 第451号,Pages 269-274,ISSN 0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/42
13/00 − 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス圧縮用の送信パルスを通信期間とレンジ期間に分割し、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して送信する送信装置と、
前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を前記レンジ期間の参照信号で圧縮し、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点を用いて前記通信期間を抽出して相関処理することにより前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記レンジ期間のみまたは前記通信情報を用いて、前記通信期間及び前記レンジ期間のパルス全体で相関処理することによって目標の距離を出力する受信装置と
を具備するレーダシステム。
【請求項2】
パルスを繰り返すレーダのパルス列を通信期間とドップラ期間とレンジ期間に時分割し、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して送信する送信装置と、
前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を前記ドップラ期間のFFT結果のうち、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点のドップラを用いて前記レンジ期間の参照信号を補正し、補正した参照信号により前記レンジ期間を相関処理してレンジを抽出し、通信期間の受信期間を抽出して前記ドップラで補正した参照信号により相関処理することによって前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記通信期間は前記通信情報と前記ドップラを用いて参照信号を補正し、前記レンジ期間は前記ドップラを用いて参照信号を補正し、前記通信期間、前記ドップラ期間、前記レンジ期間のうち、少なくとも前記レンジ期間を含むパルス列で用いて相関処理して目標の距離を出力する受信装置と
を具備するレーダシステム。
【請求項3】
パルスを繰り返すレーダのパルス列を通信期間とドップラ期間とレンジ期間の3通り、または通信期間及びドップラ期間とレンジ期間の2通りのパルス繰り返し周波数のパルス列とし、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して、前記通信期間、前記ドップラ期間、前記レンジ期間のパルス列を混合して送信する送信装置と、
前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を、ドップラ期間のFFT結果のうち、SN比の高い反射点のドップラを用いて前記レンジ期間の参照信号を補正し、補正した参照信号により前記レンジ期間を相関処理してレンジを抽出し、前記通信期間の受信信号を抽出して前記ドップラで補正した参照信号により相関処理することによって前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記レンジ期間は前記ドップラを用いて参照信号を補正して相関処理することで目標の距離を出力する受信装置と
を具備するレーダシステム。
【請求項4】
パルスを繰り返すレーダのパルス列をドップラ期間と通信期間及びレンジ期間の2通りのパルス繰り返し周波数のパルス列とし、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して、前記通信期間、前記ドップラ期間、前記レンジ期間のパルス列を混合して送信する送信装置と、
前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を、ドップラ期間のFFT結果のうち、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点のドップラを用いて前記レンジ期間の参照信号を補正し、補正した参照信号により前記レンジ期間を相関処理してレンジを抽出し、前記通信期間の受信信号を抽出して前記ドップラで補正した参照信号により相関処理することによって前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記通信期間は前記通信情報と前記ドップラを用いて第1の参照信号を補正し、前記レンジ期間は前記ドップラを用いて第2の参照信号を補正して、第1の参照信号と第2の参照信号を合わせた参照信号を用いて相関処理することで目標の距離を出力する受信装置と
を具備するレーダシステム。
【請求項5】
送信装置が、パルス圧縮用の送信パルスを通信期間とレンジ期間に分割し、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して送信し、
受信装置が、前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を前記レンジ期間の参照信号で圧縮し、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点を用いて前記通信期間を抽出して相関処理することにより前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記レンジ期間のみまたは前記通信情報を用いて、前記通信期間及び前記レンジ期間のパルス全体で相関処理することによって目標の距離を出力する
レーダシステムのレーダ信号処理方法。
【請求項6】
送信装置が、パルスを繰り返すレーダのパルス列を通信期間とドップラ期間とレンジ期間に時分割し、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して送信し、
受信装置が、前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を前記ドップラ期間のFFT結果のうち、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点のドップラを用いて前記レンジ期間の参照信号を補正し、補正した参照信号により前記レンジ期間を相関処理してレンジを抽出し、通信期間の受信期間を抽出して前記ドップラで補正した参照信号により相関処理することによって前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記通信期間は前記通信情報と前記ドップラを用いて参照信号を補正し、前記レンジ期間は前記ドップラを用いて参照信号を補正し、前記通信期間、前記ドップラ期間、前記レンジ期間のうち、少なくとも前記レンジ期間を含むパルス列で用いて相関処理して目標の距離を出力する
レーダシステムのレーダ信号処理方法。
【請求項7】
送信装置が、パルスを繰り返すレーダのパルス列を通信期間とドップラ期間とレンジ期間の3通り、または通信期間及びドップラ期間とレンジ期間の2通りのパルス繰り返し周波数のパルス列とし、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して、前記通信期間、前記ドップラ期間、前記レンジ期間のパルス列を混合して送信し、
受信装置が、前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を、ドップラ期間のFFT結果のうち、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点のドップラを用いて前記レンジ期間の参照信号を補正し、補正した参照信号により前記レンジ期間を相関処理してレンジを抽出し、前記通信期間の受信信号を抽出して前記ドップラで補正した参照信号により相関処理することによって前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記レンジ期間は前記ドップラを用いて参照信号を補正して相関処理することで目標の距離を出力する
レーダシステムのレーダ信号処理方法。
【請求項8】
送信装置が、パルスを繰り返すレーダのパルス列をドップラ期間と通信期間及びレンジ期間の2通りのパルス繰り返し周波数のパルス列とし、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して、前記通信期間、前記ドップラ期間、前記レンジ期間のパルス列を混合して送信し、
受信装置が、前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を、ドップラ期間のFFT結果のうち、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点のドップラを用いて前記レンジ期間の参照信号を補正し、補正した参照信号により前記レンジ期間を相関処理してレンジを抽出し、前記通信期間の受信信号を抽出して前記ドップラで補正した参照信号により相関処理することによって前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記通信期間は前記通信情報と前記ドップラを用いて第1の参照信号を補正し、前記レンジ期間は前記ドップラを用いて第2の参照信号を補正して、第1の参照信号と第2の参照信号を合わせた参照信号を用いて相関処理することで目標の距離を出力する
レーダシステムの信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、マルチスタティック方式のレーダシステム及びそのレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、レーダシステムにあっては、複数の送受信レーダ装置または複数の送信装置及び受信レーダ装置を互いに離間して配置し、各レーダ装置の観測結果により目標の位置を検出するマルチスタティック方式が開発されている。ただし、この種のレーダシステムでは、離隔したレーダ装置間の時刻同期が不十分な場合や距離精度が不十分な場合には、観測位置の誤差が大きくなる。また、送信装置が見通し外にある場合には、直接波を受信することができず、同期したマルチスタティック動作ができなくなってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】パルス圧縮、大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】位相モノパルス(位相比較モノパルス)方式、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.262-264(1996)
【非特許文献3】CFAR(Constant False Alarm Rate)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献4】BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、西村、‘ディジタル信号処理による通信システム設計、CQ出版社、pp.222-226(2006)
【非特許文献5】テーラー分布、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.134-135(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のマルチスタティック方式によるレーダシステムでは、レーダ装置間の時刻同期ずれや中心周波数のずれ等の影響で、ビート周波数を精度よく観測できず、目標の位置を算出する上で距離精度が不十分であるという課題があった。
【0005】
本実施形態は上記課題に鑑みなされたもので、レーダ装置間の時刻同期ずれや中心周波数のずれ等の影響を軽減してビート周波数の観測精度を向上させめことができ、目標の位置を算出する上で十分な距離精度が得られるレーダシステム及びそのレーダ信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダシステムは、送信装置と受信装置を備える。送信装置は、パルス圧縮用の送信パルスを通信期間とレンジ期間に分割し、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して送信する。受信装置は、前記送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を前記レンジ期間の参照信号で圧縮し、信号対雑音電力比(SN)の高い反射点を用いて前記通信期間を抽出して相関処理することにより前記通信情報を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、前記レンジ期間のみまたは前記通信情報を用いて、前記通信期間及び前記レンジ期間のパルス全体で相関処理することによって目標の距離を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係るレーダシステムの全体構成を示すブロック図。
図2】第1の実施形態に係るレーダシステムの送信装置の構成を示すブロック図。
図3】第1の実施形態に係るレーダシステムの受信装置の構成を示すブロック図。
図4】第1の実施形態において、目標に対して送信ビーム及び受信ビームが形成される様子を示す図。
図5】第1の実施形態に係るレーダシステムにおいて、通信情報の送受信による目標位置同定の距離観測及びAZ,EL観測を説明するための座標系を示す概念図。
図6】第1の実施形態に係るレーダシステムにおいて、レンジによるフィッティングを用いて目標の位置同定を行う様子を3次元座標系で示す概念図。
図7】第1の実施形態に係るレーダシステムの送信波形を示す波形図。
図8】第1の実施形態に係るレーダシステムにおいて、送信パルス内の通信変調信号を生成する様子を示す波形図。
図9】第1の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号から通信期間を抽出して通信信号を復調する様子を示す波形図。
図10】第1の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号のレンジ期間P2列の相関処理から通信期間を抽出して通信信号を復調する様子を示す波形図。
図11】第1の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号のレンジ期間P2+通信期間P3の相関処理から最大バンク信号の距離を抽出して通信信号を復調する様子を示す波形図。
図12】第2の実施形態に係るレーダシステムの送信装置の構成を示すブロック図。
図13】第2の実施形態に係るレーダシステムの受信装置の構成を示すブロック図。
図14】第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、ドップラ期間、レンジ期間、通信期間それぞれのパルス列の時分割合成による送信波形を示す波形図。
図15】第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、ドップラ期間、レンジ期間、通信期間それぞれのパルス列を時分割合成した送信信号に、通信情報の変調信号でパルス間を変調する様子を示す波形図。
図16】第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号からドップラを抽出する様子を示す波形図。
図17】第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号から通信期間を抽出して通信情報を復調する様子を示す波形図。
図18】第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号から距離を抽出する様子を示す波形図。
図19】第3の実施形態に係るレーダシステムの送信装置の構成を示すブロック図。
図20】第3の実施形態に係るレーダシステムの受信装置の構成を示すブロック図。
図21】第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、ドップラ期間、レンジ期間、通信期間それぞれのパルス列を合成して送信信号を生成する様子を示す波形図。
図22】第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、パルス列を合成した送信信号に通信情報の変調信号でパルス間を変調する様子を示す波形図。
図23】第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号からPRFが異なるパルス列を分離する様子を示す波形図。
図24】第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号から通信期間を抽出して通信情報を復調する様子を示す波形図。
図25】第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号からドップラを抽出する様子を示す波形図。
図26】第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、受信信号から距離を抽出する様子を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。尚、各実施形態の説明において、同一部分には同一符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1乃至図11を参照して、第1の実施形態に係るレーダシステムを説明する。
【0010】
図1は本実施形態に係るレーダシステムの全体構成を示し、図2はその送信装置の構成を示し、図3はその受信装置の構成を示している。
【0011】
図1に示すレーダシステムは、互いに同構成のN個の送信装置T1〜TN(図1ではN=3)と受信装置Rを備えるマルチスタティック方式を採用している。送信装置T1〜TNは、送信位置、送信周波数、送信タイミング等の通信情報をレーダ送信波に重畳し、目標Tに向けて送出する。一方、受信装置Rは、目標Tで反射されたレーダ送信波を受信して、目標Tの距離、角度、速度を観測するとともに、受信信号から通信情報を抽出し、その通信情報に基づいて目標の観測結果を補正する機能を有する。
【0012】
上記送信装置Ti(iは1〜Nのいずれか)は、図2に示すように、送信アンテナ装置T11、パルス変調器T12、周波数変換器T13、変調器T14、制御器T15、チャープ信号生成器T16、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理器T17及び通信変調信号生成器T18を備える。
【0013】
上記送信アンテナ装置T11は繰り返し供給される特定周波数の送信信号を指定方向に送出する。一方、通信変調信号生成器T18は、送信位置、送信周波数、送信タイミング、送信ビーム指向方向等を含む通信情報をビット(0,1)で表し、BPSK(非特許文献4参照)等により変調することで、通信変調信号を生成する。この通信変調信号は、IFFT処理器T17で逆フーリエ変換され、チャープ信号生成器T16で生成されるチャープ信号と共に制御器T15に送られる。制御器T15は、送信パルスを通信期間とレンジ期間に分割し、Nヒット(N>0)送信する。レンジ期間では、チャープ信号と通信変調信号について、パルス内制御によりパルス内のタイミングを制御し、変調器T14により送信パルスを生成し、周波数変換器T13で送信周波数に変換し、パルス変調器T12でパルスゲートによるパルス変調を施し、送信アンテナ装置T11で高出力増幅して送信する。
【0014】
受信装置R1は、図3に示すように、受信アンテナ装置R11、周波数変換器R12、AD(Analog-Digital)変換器R13、P2抽出器R14、相関処理パルス圧縮器R15、FFT(Slow-time)処理器R16、検出器R17、P3範囲選定器R18、P3抽出器R19、相関処理器(Slow-time)R20、復調器R21、P2+P3選定器R22、通信情報参照信号補正器R23、相関処理器R24、FFT(Slow-time)処理器R25、検出器R26、レンジ抽出器R27、出力処理器R28を備える。
【0015】
すなわち、受信アンテナ装置R11で受信した信号は、周波数変換器R12でベースバンドに周波数変換され、AD変換器R13でデジタル信号に変換される。そして、P2抽出器R24により、レンジ期間のパルスP2の変調信号(チャープ等)が抽出され、相関処理器R15で相関処理(パルス圧縮)が施され、FFT処理器R16でパルス間(slow-time軸)のFFTが行われ、検出器R17にて、最大振幅のバンク信号を用いてCFAR(非特許文献4)等による検出が行われる。ここで、複数の検出点がある場合には、SN(信号対雑音電力比)の大きな信号を抽出することができるので、P3範囲選定器R18において、その時間軸を基準に通信期間P3の時間範囲を選定し、P3抽出器R19で通信期間P3を抽出する。
【0016】
次に、FFT処理器R20で、slow-time軸のFFT処理を施して高SNとした後、復調器R21で復調して通信情報を得る。通信情報の復調により、送信源の送信時刻、送信周波数、送信位置、通信期間の参照信号を取得できる。
【0017】
また、P2+P3選定器R22において、AD変換出力から、レンジ期間P2と通信期間P3を選定し、通信情報参照信号補正器R23で通信期間P3の参照信号をレンジ期間P2に合わせ、送信処理器R24でP2+P3の相関処理を行い、FFT処理器R25でslow-time軸のFFTを行い、検出器R26でCFAR等により目標を検出し、レンジ抽出器R27でレンジを抽出し、出力処理器R28で所定の形式に変換して出力する。
【0018】
本実施形態に係るレーダシステムでは、送信装置Tiと受信装置Rとの間が離隔しているため、送信位置、送信周波数、送信タイミング、送信ビーム指向方向等の情報を共有する必要がある。特に、送信位置が移動する場合には、リアルタイムに情報を共有する必要がある。送信装置と受信装置との間で見通しがある場合には、通信回線を確保することも可能であるが、見通し外の場合には、通信回線の確保は困難になる。この対策として、レーダ送信波に通信情報を重畳し、目標からの反射信号として復調すれば、通信が可能となる。これは、見通し内の場合でも、レーダの直接波を用いて通信できれば、通信回線を別に備える必要がなくなるので有用である。本実施形態では、パルス内で通信情報を重畳し、測距を行う手法について述べる。なお、測角処理については、ΣとΔビームによるモノパルス処理等の一般的な手法(非特許文献2)を用いることができるので、記述を割愛する。
【0019】
上記構成によるレーダシステムにおいて、図4にマルチスタティックシステムの目標Tに対する送信ビーム及び受信ビームの様子を示し、図5に通信情報の送受信による目標位置同定の距離観測及びAZ,EL観測を説明するための座標系を示し、図6にレンジによるフィッティングを用いて目標の位置同定を行う様子を3次元座標系で示し、図7に送信波形を示し、図8に送信パルス内の通信変調信号を生成する様子を示し、図9に受信信号から通信期間を抽出して通信信号を復調する様子を示し、図10に受信信号のレンジ期間P2列の相関処理から通信期間を抽出して通信信号を復調する様子を示し、図10aに受信信号のレンジ期間P2+通信期間P3の相関処理から最大バンク信号の距離を抽出して通信信号を復調する様子を示す。なお、図4では、送信ビームをペンシルビームで表現しているが、送信ビームは無指向性を含むファンビームでもよい。
【0020】
本実施形態では、受信装置Rで、目標Tの距離とAZ及びELの角度を観測すれば、図5に示すように、目標Tの位置を同定できる。または、図6に示すように、複数の送信〜受信の距離を観測すれば、距離によるフィッティングによって楕円球面の交点等から目標位置を同定できる。そこで、本実施形態は、送信装置及び受信装置間の時刻同期を高精度に調整する手法を提供する。
【0021】
送信装置Tiにおいて、送信信号は、図7に示すように、送信パルスが通信期間P3とレンジ期間P2に分割され、Nヒット(N>0)送信とする。通信情報としては、送信位置、送信周波数、送信タイミング、送信ビーム指向方向等をビット(0,1)で表し、図8に示すように、BPSK(非特許文献4)等により変換した信号を生成し(T18)、IFFTして(T17)、パルス内の通信変調信号を生成する。レンジ期間については、チャープ信号を生成し(T16)、通信変調信号とともに、パルス内制御によりパルス内のタイミングを制御し(T15)、通信期間P3とレンジ期間P2を含む送信パルスを生成し(T14)、送信周波数に周波数変換して(T13)、パルスゲートによるパルス変調を施して(T12)、高出力増幅し、目標に向けて送出する(T11)。
【0022】
受信装置Rにおいて、受信アンテナ装置R11で受信した信号は、ベースバンド信号に周波数変換され(R12)、AD変換される(R13)。AD変換された受信信号は。まず、図9に示すように、レンジ期間P2が抽出され(R14)、変調信号(チャープ等)による相関処理(パルス圧縮)が施され(R15)、図10に示すようにパルス間(slow-time軸)のFFTが行われ(R16)、最大振幅のバンク信号を用いてCFAR(非特許文献4)等による検出が行われる(R17)。ここで、複数の検出点がある場合には、SN(信号対雑音電力比)の大きな信号を抽出できるので、その時間軸を基準に通信期間P3の時間範囲を選定し(R18)、通信期間P3を抽出する(R19)。次に、slow-time軸で相関処理して高SNとした後(R20)、復調して通信情報を得る(R21)。
【0023】
ここで、通信情報を復調することにより、送信源の送信時刻を取得できれば、送信と受信の時刻同期を行うことができる。また、送信周波数がわかれば、ローカル信号の同調を行うことができ、正しいドップラを得ることができる。また、送信位置がわかれば、図5図6のマルチスタティックによる目標の位置同定ができる。また、通信情報を復調できれば、通信期間の参照信号がわかるので、受信信号からレンジ期間P2と通信期間P3の選定を行い(R22)、通信期間P3の参照信号補正を行って、図11に示すように、レンジ期間P2を合わせた参照信号を生成し(R23)、P2+P3の相関処理を行い(R24)、slow-time軸のFFTを行い(R25)、CFAR等により目標を検出し(R26)、レンジを抽出し(R27)、出力する(R28)。
【0024】
以下に、変調信号について定式化して説明する。まず、レンジ期間P2の変調信号は、チャープ変調とすると、次式で表現できる。
【0025】
【数1】
【0026】
本実施形態では、チャープ変調で述べるが、符号変調方式等他の変調方式でもよい。
【0027】
次に通信期間P3の変調波形を考えると、例えばBPSK(非特許文献4)の場合は次式となる。
【0028】
【数2】
【0029】
【数3】
【0030】
これを用いて、パルス幅内の通信期間P3の変調を行う。
【0031】
次に、図8に示すように、レンジ期間P2は(1)式、通信期間P3は(3)式の変調信号で変調を用いて変調する。通信期間P3の変調は、ほかの手法でもよい。
【0032】
次に、受信信号のうちレンジ期間の信号を圧縮する手法について定式化して説明する。これは、入力信号とパルス圧縮用信号の相関処理であり、これを周波数領域で行う場合について定式化すると次の通りである。
【0033】
まず、入力信号は、次式となる。
【0034】
【数4】
【0035】
次に、参照信号は次の通りである。
【0036】
【数5】
【0037】
周波数軸の信号で乗算すると、次式となる。
【0038】
【数6】
【0039】
パルス圧縮出力は逆FFTにより算出できる。
【0040】
【数7】
【0041】
以上により、図9に示すように、レンジ抽出ができる。レンジ抽出ができると、時間軸で通信期間P3の抽出ができるため、次に通信期間P3の復調を行う。このためには、通信期間P3の信号scom(t)のFFTを行う。
【0042】
【数8】
【0043】
通信期間P3を高精度に抽出し、その期間のみによる復調処理ができるため、通信復調の精度が高まることになる。この信号の位相情報を抽出することにより、ビットを抽出して復調できる。
【0044】
なお、図9では、簡単のために1PRI分の処理について述べたが、Nヒットの複数PRIの場合には、図10に示すように、P2列の相関処理(R15)とslow-time軸のFFT(R16)を行い、ドップラ軸の最大バンク信号に対して、距離を抽出(R17)すれば、高いSNで通信期間P3を抽出でき、復調精度も高まる。
【0045】
次に、通信復調に用いた目標以外の目標のレンジングを行うことを検討する。この場合は、小目標も含まれるため、レンジングのための相関処理時には、通信期間P3+レンジ期間P2の相関処理を行う方がSNが高くなる。このため、参照信号を連結する。
【0046】
通信期間P3の参照信号は、復調信号が既知となるため、(3)式のScomと同じである。これと、(5)式のレンジ期間の参照信号Srefを連結すればよい。
【0047】
【数9】
【0048】
このScom_rを用いて相関処理を行う。
【0049】
まず、入力信号は、次式となる。
【0050】
【数10】
【0051】
次に、参照信号は次の通りである。
【0052】
【数11】
【0053】
周波数軸の信号で乗算すると、次式となる。
【0054】
【数12】
【0055】
パルス圧縮出力は逆FFTにより算出できる。
【0056】
【数13】
【0057】
以上により、信号対雑音電力比の低い反射点についても、通信期間P3+レンジ期間P2全体のパルスを用いた相関処理を行い、Nヒットの複数PRIがある場合には、図11に示すようにslow-time軸のFFT(R25)を行い、CFAR等により検出(R26)した後、高いSNでレンジ抽出(R27)できる。本実施形態は、通信期間P3のパルスの受信期間を、レンジ期間P2のパルスの相関処理結果を用いて抽出し、高いSNで通信復調して送信装置Tと受信装置Rを同期同調するともに、通信期間P3を含めた相関処理により、目標Tの距離を高いSNで抽出することに特徴を有する。
【0058】
なお、通信期間P3を含めずレンジ期間P2のみの相関処理で、目標Tが検出できれば、レンジ期間P2のみの相関処理によるレンジを出力してもよい。
【0059】
以上により、図5に示すように、送信〜受信の距離と、(13)式で検出した信号の測角処理より、受信装置からみたAZ、EL角を観測できるのので、目標の位置を同定することができる。
【0060】
また、図6に示すように送信装置を3台とすると、送信1〜受信、送信2〜受信、送信3〜受信までの各々の距離として、R1、R2、R3を得ることができる。この距離を用いて、図6に示すように、目標Tの位置(x、y、z)を算出する。この手法としては、R1の球面とR2及びR3の楕円球面の交点となる。その中で、受信装置Rにより観測したAZ角、EL角方向の3次元の位置を中心に、所定の範囲内を目標存在領域として、その中の交点を算出する。解で算出できない場合は、目標存在領域内の点を(x、y、z)の格子点に分割し、各々の点で次式の値が最小となる点(x、y、z)を算出する。
【0061】
【数14】
【0062】
なお、受信装置に送受信機能がある場合には、送信装置は2台により、同様の方法での交線の中点を目標の3次元の観測位置として出力することができる。
【0063】
以上のように、第1の実施形態に係るレーダシステムでは、送信装置はパルス圧縮用の送信パルスτ(連続波含む)を通信期間P3とレンジ期間P2に分割し、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して送信し、受信装置は送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号をレンジ期間の参照信号で圧縮して、SNの高い反射点を用いて、通信期間を抽出して相関処理することにより、通信情報(送信位置、送信時刻、送信周波数、送信ビーム指向方向等)を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、レンジ期間のみか、または、通信情報を用いて、通信期間+レンジ期間のパルス全体で相関処理して、目標の距離を出力するようにしている。
【0064】
上記の構成によれば、レンジ期間P2のパルスで通信期間P3を抽出し、復調して送信装置の位置、送信タイミング、送信周波数、送信ビーム指向方向等を通信情報から抽出することにより、送信装置と受信装置を同期同調し、補正した参照信号を用いて、通信期間P3、レンジ期間P2の長いパルス列で相関処理することで、高いSNで目標の距離を出力することができる。
【0065】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、パルスを通信期間とレンジ期間に分割する手法について述べた。しかしながら、HPRF(High Pulse Repetition Frequency)のような短パルスでは、パルスを分割することが困難である。そこで、第2の実施形態では、パルス列を分割する手法に適用する例について述べる。
【0066】
本実施形態に係るレーダシステムの送信装置Tiの構成を図12に、受信装置Rの構成を図13に示す。
【0067】
図12に示す送信装置Tiにおいて、図2と異なる点は、チャープ信号生成器T16に代わって基準信号生成器T20を用い、制御器T15に代わって時分割処理を行う制御器T19を用いたことにある。
【0068】
また、図13に示す受信装置Rにおいて、図3と異なる点は、P2抽出器R14及び相関処理器(パルス圧縮)R15に代わってP1選定器R29を用い、検出器R17の後段にドップラ抽出器R30を追加し、P3抽出器R19に代わってドップラ参照信号補正器R31を用い、P2+P3選定器R22に代わってP2選定器R32、PRI列並べ替え器R33、ドップラ参照信号補正器R34を用いたことにある。
【0069】
図12に示す送信装置Tiにおいて、送信パルス列は、図14に示すように、ドップラ期間P1、レンジ期間P2、通信期間P3に分割される。このP1、P2、P3のそれぞれのパルス列は、PRF(Pulse Repetition Frequency)が同じでも異なっていてもよい。パルス送信変調は、図15に示すように、通信情報で符号変調したBPSK(非特許文献4)をFFTして、サンプリングした変調信号でパルス間を変調する。
【0070】
受信は、図16に示すように、ドップラ期間P1のPRF1のFFTにより、SNの高い目標で信号検出する。ドップラ抽出できれば、レンジ期間P2の参照信号を補正して、レンジ圧縮し、レンジ抽出を行う。レンジ抽出ができれば、通信期間P3を時間軸で抽出できるため、図17に示すように通信期間のパルス列P3のIFFTにより、復調し、通信情報を得る。通信情報として、送信位置、送信周波数、送信タイミング、送信ビーム指向方向等のマルチスタティックレーダとしての使い方は、第1の実施形態と同様である。
【0071】
復調信号(通信情報)がわかれば、第1の実施形態と同様に通信期間P3の補正信号がわかる。レンジ抽出のためには、補正した参照信号と入力信号の相関処理を行えばよい。相関処理としては、slow-time軸×fast-time軸の全セルを用いた相関処理手法もあるが、SN(信号対雑音電力比)向上を図るために、レンジセル毎のslow-time軸の相関処理を行う。この場合、P1列、P2列、P3列のPRFが同じ場合には、図18に示すように、方式(1)ではP2列、方式(2)ではP1+P2列、または方式(3)ではP1+P2+P3列による相関処理がある。まず、パルス列の相関処理の一般形を定式化して説明する。
【0072】
まず、入力信号は、次式となる。
【0073】
【数15】
【0074】
次に、参照信号は次の通りである。
【0075】
【数16】
【0076】
周波数軸の信号で乗算すると、次式となる。
【0077】
【数17】
【0078】
相関処理は逆FFTにより算出できる。
【0079】
【数18】
【0080】
以上により、fast-time軸のレンジセル(レンジセル数Cellfast)毎でslow-time軸(セル数Cellslow)の相関処理出力が得られる。全体時間は、Cellfast×Cellslowのセル数で、1セルの時間はfast-time軸のサンプリング時間の時間である。この全体時間の中で図18に示すように、レンジを抽出することができる。
【0081】
次に、各方式(1)〜(3)は、(16)式の参照信号sref0(tslow)が異なるのみである。
【0082】
方式(1)のP2列のみの場合は、レンジ期間の変調信号をドップラにより補正した参照信号を用いる。
【0083】
【数19】
【0084】
方式(2)のP1+P2列の場合は、ドップラ期間+レンジ期間の補正を行う。
【0085】
【数20】
【0086】
方式(3)のP1+P2+P3列の場合は、方式(2)にP1列を付加する。
【0087】
【数21】
【0088】
これらの参照信号を用いて、全体の相関処理を行う。これにより、信号対雑音電力比の低い反射点についても、高いSNで小目標を検出でき、距離と速度を出力できる。なお、P1列、P2列及びP3列のPRFにおいて、異なるPRFがある場合には、少なくともレンジ期間のP2列を含む同じPRFの信号列を用いて、レンジセル毎のslow-time軸における相関処理を行えばよい。
【0089】
以上述べたように、本実施形態では、通信期間のパルスの受信期間を、ドップラ期間とレンジ期間のパルスの相関処理結果を用いて抽出し、高いSNで通信復調して送信装置と受信装置を同期同調するともに、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、通信期間、ドップラ期間、レンジ期間を含めた相関処理により、目標の距離を高いSNで抽出することに特徴を有する。
【0090】
すなわち、第2の実施形態に係るレーダシステムでは、送信装置は、パルスを繰り返すレーダのパルス列を通信期間P3とドップラ期間P1とレンジ期間P2に時分割し、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して送信し、受信装置は送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を、ドップラ期間P1のFFT結果のうち、SN比の高い反射点を用いてレンジ期間の参照信号を補正し、補正した参照信号によりレンジ期間P2を相関処理してレンジを抽出し、通信期間P3の受信信号を抽出してドップラで補正した参照信号により相関処理することによって通信情報(送信位置、送信時刻、送信周波数、送信ビーム指向方向等)を抽出する。信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、通信期間P3は、通信情報とドップラを用いて参照信号を補正し、レンジ期間P2はドップラを用いて参照信号を補正し、通信期間P3、ドップラ期間P1、レンジ期間P2のうち、少なくともレンジ期間P2を含むパルス列で用いて相関処理して、目標の距離を出力する。
【0091】
上記の構成によれば、ドップラ期間P1とレンジ期間P2のパルス列で通信期間P3を抽出し、復調して送信装置の位置、送信タイミング、送信周波数を通信情報から抽出することにより、送信装置と受信装置を同期同調し、補正した参照信号を用いて、通信期間P3、ドップラ期間P1、レンジ期間P2の長いパルス列で相関処理することで、高いSNで目標の距離を出力できる。
【0092】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、パルス列をドップラ期間、通信期間及びレンジ期間に分割する手法について述べた。この場合、時分割であるため、パルス列が長くなり、観測時間が長くなる。そこで、第3の実施形態では、これを避けるために、P1、P2、P3列を異なるPRFとして、同時送信する手法について述べる。
【0093】
本実施形態に係るレーダシステムの送信装置Tiの構成を図19に、受信装置Rの構成を図20に示す。
【0094】
図19に示す送信装置Tiにおいて、図12と異なる点は、時分割処理を行う制御器T19に代わって統合処理を行う制御器T21を用いたことにある。
【0095】
また、図20に示す受信装置Rにおいて、図13と異なる点は、通信情報参照信号補正器R23を削除したことにある。
【0096】
図19に示す送信装置Tiにおいて、送信パルス列は、図21に示すように、通信期間P3、ドップラ期間P1、レンジ期間P2があり、これを同時に送信するように合成する(T21)。送信変調は、図22に示すように、通信情報で符号変調したBPSK(非特許文献4)をFFTして、サンプリングした変調信号でパルス間を変調する。
【0097】
図20に示す受信装置Rでは、図23に示すように、各信号列P1、P2、P3のPRFが異なる場合は、PRFを用いて信号を分離できる。また、通信期間P3とドップラ期間P1のPRFが同じ場合は、図24に示すように、P1+P3とP2の2通りに分離してもよい。また、通信期間P3とレンジ期間P2のPRFが同じ場合は、P1とP2+P3の2通りに分離してもよい。
【0098】
分離した信号列を用いて、図25に示すように、ドップラ期間P1のPRF1のFFTにより、SNの高い目標で信号検出する。P1+P3の場合は、通信期間は通信変調信号によりパルス間で位相が異なるため加算されないが、ドップラ期間を長くすれば、高いSNでドップラを抽出できる。ドップラ抽出ができれば、レンジ期間の参照信号を補正して、レンジ圧縮し、レンジ抽出を行う、レンジ抽出ができれば、時間軸で、通信期間P3を時間軸で抽出できるため、通信期間のパルス列P3のIFFTにより、復調し、通信情報を得る。通信情報として、送信位置、送信周波数、送信タイミング等のマルチスタティックレーダとしての使い方は、第1の実施形態と同様である。
【0099】
次に、レンジ抽出のためには、補正した参照信号と入力信号の相関処理を行えばよい。この場合、第2の実施形態と同様に、レンジセル毎にslow-time軸で相関処理を行うためには、同じPRF列が必要である。このため、図26に示すように、P2列のみを用いて相関処理を行う。なお、通信期間+レンジ期間を同じPRFとしたP2+P3の場合は、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、通信情報を復調した信号とドップラ期間のドップラ信号を用いて補正した通信期間P3の参照信号(第1の参照信号)と、ドップラ信号により補正したレンジ期間P2の参照信号(第2の参照信号)とを合わせて全体の参照信号として、P2+P3の相関処理を行えばよい。
【0100】
これらの参照信号のドップラによる補正を含めた生成方法は、各パルス列の時間軸が図23の上図であり、時分割パルス列である第2の実施形態(図14)と異なる。このため、図23に合わせたパルス列の時間軸にする必要がある以外は、第2の実施形態と同様であるため、ここではその説明を割愛する。これらの参照信号を用いて、全体の相関処理を行う。これにより、高いSNで小目標を検出でき、距離と速度を出力できる。
【0101】
以上述べたように、本実施形態では、通信期間のパルスの受信期間を、ドップラ期間とレンジ期間のパルスの相関処理結果を用いて抽出し、高いSNで通信復調して送信装置と受信装置を同期同調するともに、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、通信期間、ドップラ期間、レンジ期間を含めた相関処理により、目標の距離を高いSNで抽出することに特徴を有する。
【0102】
すなわち、本実施形態に係るレーダシステムでは、送信装置は、パルスを繰り返すレーダのパルス列を通信期間P3とドップラ期間P1とレンジ期間P2の3通り(P3,P1,P2)、または通信期間P3及びドップラ期間P1とレンジ期間P2の2通り(P3+P1,P2)、またはドップラ期間P1と通信期間P3及びレンジ期間P2の2通り(P1,P3+P2)のPRFのパルス列とし、通信期間のパルスに送信に関する通信情報を重畳して、通信期間P3、ドップラ期間P1、レンジ期間P2のパルス列を混合して送信し、受信装置は送信装置から送信される直接波または目標からの反射波を受信し、その受信信号を、ドップラ期間P1のFFT結果のうち、SNの高い反射点のドップラを用いてレンジ期間P2の参照信号を補正し、補正した参照信号によりレンジ期間P2を相関処理してレンジを抽出し、通信期間P3の受信信号を抽出して、ドップラで補正した参照信号で相関処理することによって通信情報(送信位置、送信時刻、送信周波数、送信ビーム指向方向等)を抽出し、信号対雑音電力比の低い他の反射点についても、レンジ期間P2において参照信号をドップラで補正したパルス列を用いて相関処理して、目標の距離を出力する。
【0103】
このように、本実施形態によれば、3通りのPRFのパルス列を混合して同時に送信することで、時分割の場合に比べて送信時間を短縮化するとともに、LPI(Low Probability of intercept)性も高まり、ドップラ期間P1とレンジ期間P2のパルス列で通信期間を抽出し、復調して送信装置の位置、送信タイミング、送信周波数、送信ビーム指向方向等を通信情報から抽出することにより、送信装置と受信装置を同期同調することができる。
【0104】
なお、本実施形態は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0105】
T1〜TN…送信装置、R…受信装置、T…目標、
T11…送信アンテナ装置、T12…パルス変調器、T13…周波数変換器、T14…変調器、T15…制御器、T16…チャープ信号生成器、T17…IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理器、T18…通信変調信号生成器、T19…制御器、T20…基準信号生成器、T21…制御器、
R11…受信アンテナ装置、R12…周波数変換器、R13…AD(Analog-Digital)変換器、R14…P2抽出器、R15…相関処理パルス圧縮器、R16…FFT(Slow-time)処理器、R17…検出器、R18…P3範囲選定器、R19…P3抽出器、R20…相関処理器(Slow-time)、R21…復調器、R22…P2+P3選定器、R23…通信情報参照信号補正器、R24…相関処理器、R25…FFT(Slow-time)処理器、R26…検出器、R27…レンジ抽出器、R28…出力処理器、R29…P1選定器、R30…ドップラ抽出器、R31…ドップラ参照信号補正器、R32…P2選定器、R33…PRI列並べ替え器、R34…ドップラ参照信号補正器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図22
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