特許第6852000号(P6852000)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852000
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】電車線異常検知方法及び検知装置
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/28 20060101AFI20210322BHJP
   G01R 31/00 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   B60M1/28 R
   !G01R31/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-10277(P2018-10277)
(22)【出願日】2018年1月25日
(65)【公開番号】特開2019-127167(P2019-127167A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】小山 達弥
(72)【発明者】
【氏名】池田 充
(72)【発明者】
【氏名】臼田 隆之
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−150996(JP,A)
【文献】 特開2017−035973(JP,A)
【文献】 特開2015−150997(JP,A)
【文献】 特開2014−028535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/28
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車のパンタグラフがしゅう動するトロリ線、ならびにそれを支持する線条類および金具類の異常を検知する方法であって、
前記金具類には、前記トロリ線をまくらぎ方向に支持する曲線引金具及び/又は振止金具を含まれており、
前記曲線引金具及び/又は振止金具に作用する力を測定し、
該力の変化を解析することにより電車線の異常可能性を判定し、
ここで、前記力の時間平均値を算定し、該時間平均値が上限の閾値を超過したときに前記電車線に異常が生じた可能性ありと判定するとともに、前記時間平均値が下限の閾値を下回ったときにも電車線に異常が生じた可能性ありと判定することを特徴とする電車線異常検知方法。
【請求項2】
電気車のパンタグラフがしゅう動するトロリ線、ならびにそれを支持する線条類および金具類の異常を検知する方法であって、
前記金具類には、前記トロリ線をまくらぎ方向に支持する曲線引金具及び/又は振止金具を含まれており、
前記曲線引金具及び/又は振止金具に作用する力を測定し、
該力の変化を解析することにより電車線の異常可能性を判定し、
前記力から所定振動数以上の振動成分を取り除き、取り除いた後の力が上限の閾値を超過したとき、及び、下限の閾値を下回ったときに、電車線に異常可能性ありと判定することを特徴とする電車線異常検知方法。
【請求項3】
前記異常が、トロリ線の断線、曲線引金具若しくは振止金具の破損若しくはトロリ線からの外れ、又は、ちょう架線(補助ちょう架線含む)の位置ずれを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の電車線異常検知方法。
【請求項4】
電気車のパンタグラフがしゅう動するトロリ線、ならびにそれを支持する線条類および金具類の異常を検知する装置であって、
前記金具類には、前記トロリ線をまくらぎ方向に支持する曲線引金具及び/又は振止金具を含まれており、
前記曲線引金具及び/又は振止金具に作用する力を測定する測定手段と、
該力の変化を解析することにより電車線の異常可能性を判定する判定手段と、を備え、
ここで、前記判定手段が、前記力の時間平均値を算定し、該時間平均値が上限の閾値を超過したときに前記電車線に異常が生じた可能性ありと判定するとともに、前記時間平均値が下限の閾値を下回ったときにも電車線に異常が生じた可能性ありと判定するものであることを特徴とする電車線異常検知装置。
【請求項5】
電気車のパンタグラフがしゅう動するトロリ線、ならびにそれを支持する線条類および金具類の異常を検知する装置であって、
前記金具類には、前記トロリ線をまくらぎ方向に支持する曲線引金具及び/又は振止金具を含まれており、
前記曲線引金具及び/又は振止金具に作用する力を測定する測定手段と、
該力の変化を解析することにより電車線の異常可能性を判定する判定手段と、を備え、
前記判定手段が、前記力から所定振動数以上の振動成分を取り除き、取り除いた後の力が上限の閾値を超過したとき、及び、下限の閾値を下回ったときに、電車線に異常可能性ありと判定するものであることを特徴とする電車線異常検知装置。
【請求項6】
前記異常が、トロリ線の断線、曲線引金具若しくは振止金具の破損若しくはトロリ線からの外れ、又は、ちょう架線(補助ちょう架線含む)の位置ずれを含むことを特徴とする請求項4又は5記載の電車線異常検知装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線の断線などの、電気鉄道における電車線異常を検知する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道においては、軌道(レール)の上方に架設されるカテナリちょう架式電車線(以下、単に「電車線」と記す)が広く使用されており、このような電車線を使用している多くの路線で、集電装置としてパンタグラフが使用されている。電車線にはいくつかの種類があるが、主に在来線などで使用されているシンプル架線は、パンタグラフすり板がしゅう動するトロリ線、トロリ線を水平に保つためにトロリ線上方に設けられるちょう架線、ちょう架線からトロリ線を吊るすためのハンガ、トロリ線にジグザグ偏位(左右偏位)を与えるための曲線引金具及び/又は振止金具から構成される。電車線は、予備系統のない一重系のシステムであるため、その故障により長時間の運転阻害が生じる可能性がある。例えば、このような故障の一つとしてトロリ線の断線がある。トロリ線が断線するとその復旧に数時間を要するため、社会的影響が大きい。
【0003】
トロリ線の断線の原因には、次のようなものがある。
(1)トロリ線の摩耗などトロリ線自体の不良に起因するもの
(2)トロリ線と接触するパンタグラフに起因するもの
(3)電車線の構成不良に起因するもの
(4)外部要因(例えば、ブームを格納し忘れたクレーン車が踏切を通過する際に、ブーム等がトロリ線に接触してトロリ線を断線させる)
【0004】
トロリ線の断線を検知する方法として、いくつかの異常検知手法が考案されている。
特許文献1(特開平7-55657「断線検知装置」)は、電車線が断線したときの電車線引留め柱の振動を検出することにより、トロリ線の断線を検知するものである。
特許文献2(特開昭63-305262「電車線の断線検知装置」)は、電車線の張力変化又はその伸縮量を、電車線引留点(電車線端部の固定点)において検出し、その変動に応じた電気信号を発する変化量検出装置により、断線検知を行う。
特許文献3(特開2014-12506「電車線断線の検出装置及び検出方法」)は、トロリ線に光ファイバ(断線検知線)を内蔵させておき、その光ファイバに通っている光信号の変化によって、トロリ線の断線を検知するものである。
【0005】
上述のように、特許文献1、及び、特許文献2は、電車線の引留点において断線を検知するものである。しかし、図2に一例を示すように、断線時のトロリ線11の移動が妨げられるような場合、例えばトロリ線11を支持する金具(ハンガ13や曲線引金具21など)が、トロリ線11にレール長手方向の力を与えるような場合は、引留点において張力が変動しないため、断線検知を行えないおそれがある。特許文献3については、如何なる箇所でトロリ線が断線しようとも、その検知を行うことができるが、光ケーブルをトロリ線に内蔵するため、高価な設備となってしまう。
【0006】
電車線に電力を送っている変電所では、電車線の電気的な異常を監視している。上記のように、クレーン車のブームがトロリ線に接触しトロリ線が断線する事故が発生したとき、断線したトロリ線が地表等に接触している場合は、変電所では地絡として検知するため、送電を停止する。ところで、地絡は飛来物や鳥獣等により生じることが多く、この場合は地絡状態が短時間で解消されることから、一般的には地絡による送電停止後に、一定時間をあけて送電を開始するシステムを、鉄道事業者は採用している。断線したトロリ線が地表等に接触している状態が継続されている場合は、再送電を行っても地絡状態となるため、再度送電を停止する。このように地絡状態が継続する場合は、現地調査が行われるため、断線を認識することが可能である。しかし、図2のように断線したトロリ線が地表等に接触していない場合は、電気的には正常な状態であるため変電所は送電を続け、当然前述の現地調査も行われないことから、断線を認識することができない。
【0007】
このような状況では、送電が停止されないため、断線区間の前後においては、電車は走行が可能である。運転手がトロリ線の断線に気が付かず、電車がトロリ線断線箇所に進入すると、断線したトロリ線とパンタグラフが接触することで、パンタグラフの損傷や電車線の新たな故障が生じ、被害が拡大することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-55657
【特許文献2】特開昭63-305262
【特許文献3】特開2014-12506
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、電車線引留点から離れた踏切などの地点において電車線に異常が生じた場合にも、即座にかつ安価にこの異常を検知する方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電線異常検知方法は、電気車のパンタグラフがしゅう動するトロリ線、ならびにそれを支持する線条類および金具類の異常を検知する方法であって、 前記金具類には、前記トロリ線をまくらぎ方向に支持する曲線引金具及び/又は振止金具を含まれており、 前記曲線引金具及び/又は振止金具に作用する力を測定し、 該力の変化を解析することにより電車線の異常可能性を判定することを特徴とする。なお、線条類とは、シンプル架線においてはちょう架線を、コンパウンド架線においてはちょう架線および補助ちょう架線を意味する。金具類とは、ちょう架線支持金具、曲線引金具及び/又は振止金具を意味し、特にコンパウンド架線においては前記金具に加え補助アームが含まれる。
【0011】
本発明の電車線異常検知装置は、電気車のパンタグラフがしゅう動するトロリ線、ならびにそれを支持する線条類および金具類の異常を検知する装置であって、 前記金具類には、前記トロリ線をまくらぎ方向に支持する曲線引金具及び/又は振止金具を含まれており、 前記曲線引金具及び/又は振止金具に作用する力を測定する測定手段と、 該力の変化を解析することにより電車線の異常可能性を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
トロリ線に左右方向偏位を与える振止金具もしくは曲線引金具(以下、「曲線引金具」と総称する)に作用する力を、センサなどで測定する。そして、測定した力が上限閾値を超えたとき、あるいは、下限閾値を下回ったときなどに、電車線に異常可能性有りと判定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電車線引留点から離れた踏切などの地点において電車線に異常が生じた場合にも、即座にかつ安価に異常を検知する方法などを提供することができる。これにより、電車線異常区間における電車の走行を抑止するなどして、電車線やパンタグラフの破損や、その拡大を未然に防ぐことで、列車の安定輸送に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る電車線異常検知装置の構成を模式的に示す図である。(A)は、荷重センサ付き曲線引金具の周りの構成を示す図であり、(B)は、装置の信号処理系統の動作を示すフローチャートである。
図2】トロリ線は断線したが、曲線引金具はトロリ線から外れなかった場合における、同金具の挙動を説明するための模式的な図であって、(A)は鳥瞰図であり、(B)は平面図である。
図3】トロリ線が断線し、曲線引金具がトロリ線から外れた場合における、同金具の挙動を説明するための模式的な鳥瞰図である。
図4】曲線引金具に作用する力の推移を示す模式的なグラフである。
図5】ちょう架線支持金具の破損等により、ちょう架線が位置ずれする異常が発生した場合における、電車線の状態を模式的に示す図である。(A)は鳥瞰図であり、(B)は平面図である。
図6】シンプルカテナリ式の電車線及びその支持構造物の概要を模式的に示す斜視図である。
図7】電車線の支持構造物の一例であるビームや曲線引金具の配置状態を示す正面図である。
図8】トロリ線の架設状態を模式的に示す平面図である。
図9】トロリ線とちょう架線の端末部分における、ターンバックル式の手動張力調整装置の概要を示す図である。
図10】錘を用いる滑車式自動張力調整装置の概要を示す図である。
図11】ばね式自動張力調整装置の概要を示す図である。(A)は、装置全体の図であり、(B)は、ばねシリンダの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0015】
1;電車線、11;トロリ線、11b;端末部、11x・11y;断線部、12;屈曲点、
13;ハンガ、15;ちょう架線、15b;端末部、16;碍子
21;曲線引金具、23;引手金具部、24;アーム、24a;直線部、24b;曲線部、25;イヤー
61;歪ゲージ、62;信号線、63;FMテレメータ、64;受信機、
65;電車線異常判定部、69;電車運行指令
7;支持構造物、71;可動ブラケット、73;水平パイプ、74;支持金具
76;ビーム、 79;電柱
8;鉄道軌道、81;レール、83;まくらぎ
90;碍子、91・95;ワイヤーターンバックル、99;電柱
100;滑車式自動張力調整装置、101;ワイヤーターンバックル、
102;ヨーク、103;碍子、105;ワイヤー、107;支柱滑車、
107b;小径円胴部、107g;大径円胴部、108;ワイヤー、109;重錘、119;電柱
120;ばね式自動張力調整装置、121;ワイヤー、123;碍子、
125;ばねシリンダ、125b;内筒、125d;接続金具、125f;外筒、125j;スプリング、
125p;金具、128;バンド、129;電柱
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の電車線の異常検知方法及び検知装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
まず、図6〜8を参照しつつ、カテナリ式電車線の概要を説明する。
【0017】
図6においては、鉄道軌道8(レール81やまくらぎ83)が、図の下部において左右に延びるように示されている。この軌道8の長手方向(電車の進行方向)を「レール方向」といい、軌道面におけるレール方向の直角横方向(電車から見た左右方向)を「まくらぎ方向」という。軌道8の上方には、レール方向に延びるトロリ線11などを含む電車線1が示されている。トロリ線11は銅製などの棒状のものであって、電車のパンタグラフ(図示されず)しゅう動し、電車に電気が供給される。
【0018】
トロリ線11は、上下に延びるハンガ13を介して、ちょう架線15によって、軌道8と平行になるように支持されている。ちょう架線15は、レール方向に延びており、上下方向には山なりのカテナリ曲線の形態となっている。これらのトロリ線11・ハンガ13・ちょう架線15などを電車線1と総称している。
【0019】
電車線1を支持する支持構造物7は、例えば、図6に示される電柱79や、それに支持された可動ブラケット71などを含む。あるいは、図7に示される電柱79や、それに支持されたビーム76などを含む。支持構造物7は、図7ビーム76の下に示すように、碍子16を介して、ちょう架線15を上下方向に支えている。また、支持構造物7は、トロリ線11をまくらぎ方向に保持する曲線引金具21を支えている。
【0020】
曲線引金具は、風圧およびパンタグラフのしゅう動などによるトロリ線の動揺を抑制し、トロリ線を所定の位置に架設してトロリ線位置を良好に保持するために用いられる。一般的には、直線路においては振止金具が、曲線路においては曲線引金具(狭義)がそれぞれ使用されている。なお、本明細書中では、「曲線引金具」は、広義には、「振止金具」を含む意味に用いることもある。このような曲線引金具21は、トロリ線11の横張力やトロリ線11に作用する風圧荷重などの引張力に耐えうる強度を有する。
【0021】
次に図8を参照しつつ、トロリ線11の水平面(軌道面に対して平行な面)における架設状況を説明する。図8に示すように、トロリ線11は、平面視で、軌道中心線Cをあるピッチで繰り返し横切るように、ジグザグに架設されている(このジグザグを左右偏位といい、ジグザクの角部を屈曲点12という)。これにより、トロリ線11とパンタグラフすり板(図示されず)とのしゅう動位置が、まくらぎ方向に分散されて、パンタグラフすり板の摩耗が平均化されるようになっている。屈曲点12には、曲線引金具21が設けられている。
【0022】
曲線引金具には、定常的にまくらぎ方向の力(横張力)が作用する。例えば図8のような電車線構成の場合、支持点i(電柱79-2の部分)の曲線引金具21-2に作用する横張力TL,i
【数1】

となる。ここで、Tはトロリ線の張力である。曲線路においては、直線路に比べて横張力が大きくなる。風が作用しているときは、トロリ線が風荷重を受けるので曲線引金具に作用する横張力はさらに増加する。
【0023】
次に、連続した一本のトロリ線11やちょう架線15の端末部分について説明する。トロリ線は、製造や運搬・架設工事などの都合上、一本の長さが数100m〜1.5km程度になっている。電車線を構成するちょう架線やトロリ線などの線条は、気温変化により伸縮する。この伸縮により線条の張力が増減し電車線に不整が生じる。この影響を防止するために、電車線には、張力を線条に与えかつ温度変化があっても張力を調整する装置(張力調整装置)が備えられている。
【0024】
張力調整装置には大きく分けて2種類あり、ターンバックルを手動で調整する手動張力調整装置(図9、次述)と、錘やばねなどの機械要素により自動的に張力を調整する自動張力調整装置とがある(図10図11、後述)。なお、各図は、「鉄道電気技術者のための電力概論」(電車線路シリーズ3 電車線[II]、社団法人日本鉄道電気技術協会、2008年3月)から引用したものである。
【0025】
図9は、トロリ線11とちょう架線15の端末部分における、ターンバックル式の手動張力調整装置の概要を示す図である。トロリ線11の端末部11bは、碍子90を介して、ワイヤーターンバックル91に接続されている。ワイヤーターンバックル91は、電車線の端を支える電柱99に固定されている。同様に、ちょう架線15の端末部15bは、碍子90を介して、ワイヤーターンバックル95に接続されている。ワイヤーターンバックル95は、電車線の端を支える電柱99に固定されている。
【0026】
自動張力調整装置は大きく分けて2種類あり、錘を用いる滑車式自動張力調整装置(図10)と、ばねを用いるばね式自動張力調整装置(図11)とがある。
図10は、錘を用いる滑車式自動張力調整装置100の概要を示す図である。トロリ線11及びちょう架線15の端部は、各々、ワイヤーターンバックル101を介して、1個のヨーク102に、まとめて接続されている。ワイヤーターンバックル101は、トロリ線11とちょう架線15の、個々の張力を相対的に手動調整するためのものである。ヨーク102は、碍子103を介して、ワイヤー105に接続されている。
【0027】
ワイヤー105は、支柱滑車107の小径円胴部107bに巻き回されている。滑車107の大径円胴部107gには、重錘109につながるワイヤー108が巻き回されている。ワイヤー108は、下に延びて重錘109の上端部に接続されている。滑車107は、電車線の端を支える電柱119に、回転可能に取り付けられている。重錘109は、電柱119に、上下動可能に取り付けられている。トロリ線11及びちょう架線15には、重錘109の重さ分の張力がかかる。重錘109は、トロリ線11及びちょう架線15の伸び縮み応じて上下する。
【0028】
図11は、ばね式自動張力調整装置120の概要を示す図である。(A)は、装置全体の図であり、(B)は、ばねシリンダ125の構造を示す断面図である。(A)において、電車線端部のワイヤー121は、碍子123を介して、ばねシリンダ125の接続金具125dに接続されている。ばねシリンダ125は、図11(B)に示すように、外筒125fや、それに内蔵されたスプリング125j、内筒125bなどからなる。外筒125f内において、内筒125bは、スプリング125jによって、図の左方向(レール方向)に付勢されている。外筒125fは、金具125pを介して、バンド128により、電柱129に支持されている。結局、電車線端部のワイヤー121には、スプリング125jの付勢力が張力としてかかっている。
【0029】
これらの張力調整装置の架設方法は、以下の4種類(1)〜(4)がある。
(1)引留点においてちょう架線とトロリ線の双方に手動張力調整装置を架設する方法(図9参照)。これは駅構内などの側線に簡易調整用として使用される。
(2)ちょう架線については(1)と同様に手動張力調整装置を架設するが(図9参照)、トロリ線にのみ自動張力調整装置を付加する方法(図10参照、ワイヤー105がトロリ線11にのみ接続されている状態)。
(3)ちょう架線とトロリ線に、それぞれ異なるばね式自動張力調整装置を付加する方法(図9のワイヤーターンバックル91・95を、それぞれ異なるばね式自動張力調整装置(図11参照)に置き換えた状態)。
(4)ちょう架線とトロリ線を1つの自動張力調整装置で引く方法(図10参照)。
【0030】
引留点から離れた地点で電車線に断線のような異常が生じた場合、いずれの張力調整の方式であっても、張力調整装置に変動が生じない可能性がある。そのため、特許文献1や特許文献2のような「引留点において異常を検知する手法」では、断線検知を行えない可能性がある。
【0031】
次に、図2〜4を参照しつつ、引留点から離れた地点でトロリ線が断線した場合の状況を説明する。
図2は、トロリ線断線時の、曲線引金具が外れなかった場合における、同金具の挙動を説明するための模式的な図であって、(A)は鳥瞰図、(B)は平面図である。
図3は、トロリ線断線時の、曲線引金具が外れた場合における、同金具の挙動を説明するための模式的な鳥瞰図である。
図4は、曲線引金具に作用する力の推移を示す模式的なグラフである。
【0032】
まず、トロリ線が断線時に曲線引金具が外れなかった場合について説明する。図2には、全体として図6と同様の電車線1が示されている。しかし、トロリ線11に断線(断線部11x)が生じている。この影響で、断線部11xの両側のトロリ線11は、それぞれの端部の引留点(図示されず)に向けて、レール方向に互いに離れるように、引っ張られている。
【0033】
このため、断線部11xの近くの曲線引金具21は、それが把持しているトロリ線11により、引留点に向けて引っ張られている。図2(B)において、破線で示されているのが正常状態のトロリ線11´と曲線引金具21´であり、実線で示されているのが、断線後のトロリ線11と曲線引金具21である。この状態では、トロリ線11により曲線引金具11がレール方向にも引っ張られることとなるため、断線が生じていない場合の横張力よりも大きな力が、断線部11x近傍の曲線引金具21に作用する(図4を参照しつつ後述)。
【0034】
次に、トロリ線の断線時に曲線引金具が外れた場合について説明する。図3には、図2と同様の、断線(断線部11y)が生じたトロリ線11が示されている。この影響で、断線部11yの両側のトロリ線11は、それぞれの端部の引留点(図示されず)に向けて、レール方向に互いに離れるように、引っ張られている。そして、断線部11yの近くの曲線引金具21”は、トロリ線11を把持しきれずに、トロリ線11から外れている。この状態では、曲線引金具21”には、トロリ線11の横張力も、縦張力も、かからなくなる。
【0035】
図4には、トロリ線断線時における、曲線引金具21に作用する力の時系列変化が、模式的に示されている。横軸は時間の経過を示し、縦軸は、曲線引金具21に作用するまくらぎ方向の力(比較的短い時間の平均値)を示す。このグラフでは、時間tの時点で、電車線の異常が発生している。そして、tの時点の前は、前述(段落0022)の横張力が定常的にかかっている(このグラフからは、電車線の振動に伴う張力変化は、平均化処理によりキャンセルされている)。
【0036】
時点tの後は、図2を参照しつつ前述した、曲線引金具21がトロリ線11から外れない状態では、曲線引金具21には、定常の横張力に加えて、トロリ線11の縦張力の分がかかり、力が大きく増加している。一方、図3を参照しつつ前述した、曲線引金具21がトロリ線11から外れた状態では、曲線引金具21には、定常の横張力も消失し、力が大きく減少している(曲線引金具の自重程度)。
【0037】
トロリ線の断線以外にも、(ア)曲線引金具そのものの破損やトロリ線からの外れ(次述)や、(イ)ちょう架線支持金具の破損等により、ちょう架線15が位置ずれする(図5、後述)などの異常が発生した場合でも、曲線引金具に作用する力は変動する。また、コンパウンド架線(図示せず)においては、補助ちょう架線にジグザグ偏位(左右偏位)を与えるための補助アーム(図示せず)の破損等により補助ちょう架線が位置ずれするなどの異常が発生した場合でも、ちょう架線支持金具の破損等と同様に曲線引金具に作用する力は変動する。なお、これらの異常については、特許文献1や特許文献2のような張力調整装置の張力変動の監視手法でも、さらに特許文献3のトロリ線断線検知を用いても、検知することは難しい。
【0038】
上記の「(ア)曲線引金具そのものの破損やトロリ線からの外れ」の場合、破損あるいは外れた曲線引金具には、電車線の横張力も縦張力もかからないため、曲線引金具に作用する力は、ほとんどゼロになる。また外れなどした曲線引金具の隣の曲線引金具にかかる横張力も、大きく変動する。例えば、図8において、レール方向中央の支持点iにおける曲線引金具21-2がトロリ線11から外れた場合、支持点i-1と支持点i+1との間のトロリ線変位はなくなり、その分、支持点i-1と支持点i+1にかかる横張力は下がる。そのため、曲線引金具21-1及び曲線引金具21-3に作用する力も小さくなる。
【0039】
図5は、(イ)ちょう架線支持金具の破損等により、ちょう架線15が位置ずれする異常が発生した場合における、電車線の状態を模式的に示す図である。(A)は鳥瞰図、(B)は平面図である。図5(A)において、可動ブラケット71の先端部71xのちょう架線支持金具から、ちょう架線15が外れて、同線15は、正規の位置(破線のちょう架線15´)から下に下がっている。なお、このとき、曲線引金具21は、異常はなく、トロリ線11を把持している。
【0040】
図5の(B)の平面図で見ると、トロリ線11は、隣り合う曲線引金具21-1・2・3により、交互に左右(まくらぎ方向)に引かれて、図8で説明したとおりの「左右変位」(ジグザグ形状)を保っている。しかし、外れたちょう架線15の部分は、軌道中心線C−Cに寄るように位置ずれしている(これに伴いハンガ13は斜めになっている)。そのため、ちょう架線支持金具からちょう架線15が外れた部分の曲線引金具21-2は、まくらぎ方向の中央に寄ろうとする、ちょう架線15が、トロリ線11を引く力をも、受けている。そのため、曲線引金具21-2に作用する力は増大している。
【0041】
そこで、曲線引金具に作用する力を常時監視し、ある程度の時間間隔(例えば10分)で平均化したときの平均値が上限の規定値より超過したとき、もしくは、下限の規定値を下回ったときに、電車線に異常が生じたものと判定する。前者のような場合とは、図2の「トロリ線断線時に曲線引金具が外れなかった場合」や、図5の「ちょう架線15が位置ずれする異常が発生した場合」である。後者のような場合とは、図3の「トロリ線断線時に曲線引金具が外れた場合」や、上述の(ア)のような場合である。
【0042】
次に、図1を参照しつつ、本発明の実施形態に係る電車線異常検知装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電車線異常検知装置の構成を模式的に示す図である。(A)は、荷重センサ付きの曲線引金具21周りの構成、並びに、信号伝送系統(FMテレメータ63など)の配置状態を示す図であり、(B)は、装置の信号処理系統の動作を示すフローチャートである。
【0043】
図1(A)の上部には、支持構造物7(図2参照)の一部である水平パイプ73が示されている。水平パイプ73の下方には、支持金具74を介して、曲線引金具21が取り付けられている。曲線引金具21は、支持金具74に支持されている基端部(左端)から先(右)に向かって、引手金具部23・アーム24・イヤー25などの部分を有する。曲線引金具21は、支持金具74に対して上下方向に回動可能に支持されている。アーム24の先端にはイヤー25が接続されており、このイヤー25によってトロリ線11が把持されている。この曲線引金具21によって、トロリ線11は、水平方向に保持されている。なお、前述のように、トロリ線11は、鉛直方向にはハンガー13・ちょう架線15により吊下げられており、ある程度は上下動が可能である。このトロリ線11の上下動に合わせて、曲線引金具21は、上下方向に傾く。
【0044】
本実施形態の装置においては、曲線引金具21のアーム24の曲線部24bに、荷重センサとしての歪ゲージ61が貼られている。荷重センサは、歪ゲージの他に、ロードセルやFBGセンサなどを用いることができる。荷重センサは、曲線引金具21のアーム24の直線部24aやイヤー部25、引手金具部23などに取り付けることもできる。歪ゲージ61には信号線(有線)62が接続されており、同線62は水平パイプ73上のFMテレメータ63まで延びている。
【0045】
図1(B)に示すように、本発明の実施形態に係る電車線異常検知装置は、上述の歪ゲージ61及びFMテレメータ63の他に、受信機64と、電車線異常判定部65を含んでいる。FMテレメータ63は、無線で歪信号を近くの受信機64まで送信する。受信機64は、電柱の近くなどに配置されている。
【0046】
受信機64は、歪信号を、電車線異常判定部65に送信し、同部65は、歪信号を受けて、曲線引金具に作用する力を常時監視する。電車線異常判定部65は、曲線引金具に作用する力を、ある程度の時間間隔(例えば10分)で平均化し、電車線の振動に伴う力の成分をキャンセルする。そして、その平均値が上限の規定値より超過したとき、もしくは、下限の規定値を下回ったときに、電車線に異常が生じたものと判定する。なお、電車線異常判定部65の機能は、コンピュータ装置(図示されず)のプロセッサーが、記憶媒体(図示されず)に記憶されたプログラムをロードして実行することにより、実現される。電車線異常が検知された場合には、電車運行指令69に情報が伝達され、電車の運行抑止や、現地調査、送電停止、運転士への警告などの処置がとられる。
【0047】
電車線の振動に伴う力の成分をキャンセルする方法としては、上記の平均化の他に、電車線の固有振動数の数分の一以下の振動数のみを通すローパスフィルタを用いる方法もありうる。本発明の電車線異常検知装置の設置部位は、踏切の近傍や、引留点から最も離れた地点、あるいは数百mおきなどが考えられる。
図1
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図11