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特許6852015空室率推計装置及び方法並びにコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852015
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】空室率推計装置及び方法並びにコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/16 20120101AFI20210322BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20210322BHJP
【FI】
   G06Q50/16
   G06Q10/04
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-89197(P2018-89197)
(22)【出願日】2018年5月7日
(65)【公開番号】特開2019-197252(P2019-197252A)
(43)【公開日】2019年11月14日
【審査請求日】2019年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】514082262
【氏名又は名称】株式会社タス
(74)【代理人】
【識別番号】100090284
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 常雄
(72)【発明者】
【氏名】浅田 義久
(72)【発明者】
【氏名】石井 健太朗
【審査官】 永野 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−191648(JP,A)
【文献】 特開2004−133517(JP,A)
【文献】 特開2001−344328(JP,A)
【文献】 特開2017−016321(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/002299(WO,A1)
【文献】 特開2013−161293(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1693354(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象棟に関する物件特性データ(X)を入力する入力手段と、
賃貸住宅募集データベース(28、128)を参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析手段(40、140)と、
当該分析手段の分析結果(32、156)に当該評価対象棟の当該物件特性データ(X)を適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率P(X)及び市場滞留期間T(X)を計算する募集確率・滞留期間計算手段(42、142)と、
当該評価対象棟の当該募集確率P(X)に当該評価対象棟の当該市場滞留期間T(X)を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出手段(44、144)
とを有することを特徴とする空室率推計装置。
【請求項2】
当該分析手段(140)がサーバ(150)に配置され、
当該募集確率・滞留期間計算手段(142)及び当該空室率算出手段(144)が、当該サーバに接続可能なクライアント(110)に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の空室率推計装置。
【請求項3】
当該分析手段(40,140)は、賃貸住宅の棟単位の当該募集確率及び当該市場滞留期間を複数のエリアのそれぞれについて回帰分析し、
当該募集確率・滞留期間計算手段(42,142)は、当該複数のエリアのうちの、当該評価対象棟が位置するエリアについての当該分析手段の分析結果(32)に当該評価対象棟の当該物件特性データ(X)を適用する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の空室率推計装置。
【請求項4】
評価対象棟に関する物件特性データ(X)と所在地情報を入力する入力手段と、
賃貸住宅募集データベース(28)を参照して、当該評価対象棟の所在地を含むエリアで賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析手段(240)と、
当該分析手段の分析結果に当該評価対象棟の当該物件特性データ(X)を適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率P(X)及び市場滞留期間T(X)を計算する募集確率・滞留期間計算手段(242)と、
当該評価対象棟の当該募集確率P(X)に当該評価対象棟の当該市場滞留期間T(X)を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出手段(244)
とを有することを特徴とする空室率推計装置。
【請求項5】
当該分析手段は、所定の回帰モデル式に基づき、当該賃貸住宅募集データベース(28、128)を参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を回帰分析する回帰分析手段(40、140、240)であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の空室率推計装置。
【請求項6】
当該所定の回帰モデル式は、立地に関する説明変数(LD)及び時点に関する説明変数(TD)を含むことを特徴とする請求項5に記載の空室率推計装置。
【請求項7】
評価対象棟に関する物件特性データ(X)をコンピュータに入力する入力ステップと、
当該コンピュータ、賃貸住宅募集データベース(28、128)を参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析ステップ(40、140)と、
当該コンピュータが、当該分析ステップの分析結果(32、156)に当該評価対象棟の当該物件特性データ(X)を適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率P(X)及び市場滞留期間T(X)を計算する募集確率・滞留期間計算ステップ(42、142)と、
当該コンピュータが、当該評価対象棟の当該募集確率P(X)に当該評価対象棟の当該市場滞留期間T(X)を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出ステップ(44、144)
とを有することを特徴とする空室率推計方法。
【請求項8】
サーバ(150)が、当該分析ステップ(140)を実行し、
当該サーバに接続可能なクライアント(142)が、当該募集確率・滞留期間計算ステップ(142)及び当該空室率算出ステップ(144)を実行する
ことを特徴とする請求項7に記載の空室率推計方法。
【請求項9】
当該分析ステップ(40,140)は、賃貸住宅の棟単位の当該募集確率及び当該市場滞留期間を複数のエリアのそれぞれについて回帰分析し、
当該募集確率・滞留期間計算ステップ(42,142)は、当該複数のエリアのうちの、当該評価対象棟が位置するエリアについての当該分析ステップの分析結果(32)に当該評価対象棟の当該物件特性データ(X)を適用する
ことを特徴とする請求項7または8に記載の空室率推計方法。
【請求項10】
評価対象棟に関する物件特性データ(X)と所在地情報をコンピュータに入力する入力ステップと、
当該コンピュータが、賃貸住宅募集データベース(28)を参照して、当該評価対象棟の所在地を含むエリアで賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析ステップ(240)と、
当該コンピュータが、当該分析ステップの分析結果に当該評価対象棟の当該物件特性データ(X)を適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率P(X)及び市場滞留期間T(X)を計算する募集確率・滞留期間計算ステップ(242)と、
当該コンピュータが、当該評価対象棟の当該募集確率P(X)に当該評価対象棟の当該市場滞留期間T(X)を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出ステップ(244)
とを有することを特徴とする空室率推計方法。
【請求項11】
当該分析ステップは、所定の回帰モデル式に基づき、当該賃貸住宅募集データベース(28、128)を参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を回帰分析するステップ(40、140、240)であることを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の空室率推計方法。
【請求項12】
当該所定の回帰モデル式は、立地に関する説明変数(LD)及び時点に関する説明変数(TD)を含むことを特徴とする請求項11に記載の空室率推計方法。
【請求項13】
コンピュータに、
賃貸住宅募集データベース(28、128)を参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析機能(40、140)と、
当該分析機能の分析結果(32、156)に評価対象棟に関する物件特性データ(X)を適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率P(X)及び市場滞留期間T(X)を計算する募集確率・滞留期間計算機能(42、142)と、
当該評価対象棟の当該募集確率P(X)に当該評価対象棟の当該市場滞留期間T(X)を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出機能(44、144)
とを実現させるためのコンピュータプログラム。
【請求項14】
サーバ(150)に当該分析機能を実現させるプログラムと、
当該サーバに接続可能なクライアントに、当該募集確率・滞留期間計算機能(142)及び当該空室率算出機能(144)を実現させるプログラム
とからなることを特徴とする請求項13に記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
当該分析機能(40,140)は、賃貸住宅の棟単位の当該募集確率及び当該市場滞留期間を複数のエリアのそれぞれについて回帰分析し、
当該募集確率・滞留期間計算機能(42,142)は、当該複数のエリアのうちの、当該評価対象棟が位置するエリアについての当該分析手段の分析結果(32)に当該評価対象棟の当該物件特性データ(X)を適用する
ことを特徴とする請求項13または14に記載のコンピュータプログラム。
【請求項16】
コンピュータに、
賃貸住宅募集データベース(28)を参照して、価対象棟の所在地を含むエリアで賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析機能(240)と、
当該分析機能の分析結果に当該評価対象棟の件特性データ(X)を適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率P(X)及び市場滞留期間T(X)を計算する募集確率・滞留期間計算機能(242)と、
当該評価対象棟の当該募集確率P(X)に当該評価対象棟の当該市場滞留期間T(X)を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出機能(244)
とを実現させるためのコンピュータプログラム。
【請求項17】
当該分析機能は、所定の回帰モデル式に基づき、当該賃貸住宅募集データベース(28、128)を参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を回帰分析する回帰分析機能(40、140、240)であることを特徴とする請求項13から16のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項18】
当該所定の回帰モデル式は、立地に関する説明変数(LD)及び時点に関する説明変数(TD)を含むことを特徴とする請求項17に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、賃貸不動産の空室率を推計する空室率推計装置及び方法並びにコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
賃貸不動産の空室率は、ある期間において入居者がいない期間、則ち家主が賃貸収入を得られない期間の割合である。空室率は、収益率の算定または評価に決定的な役割を果たす(例えば、特許文献1参照)。従って、空室率を精度良く推計出来ることが、不動産の収益評価の精度に直結する。
【0003】
特許文献1には、賃貸不動産募集データから月次募集戸数と月次募集棟数を抽出し、月次募集棟数から推定する総戸数で当該月次募集戸数を除算し月次で平均化することで、空室率を推計する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6270589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
賃貸不動産の収益評価は、棟単位となる場合、棟単位で空室率を評価出来ればよい。特許文献1に記載される技術で得られる空室率は都道府県や市区町村単位の地域毎の指標であって、棟単位の空室率ではない。従って、特許文献1に記載される手法では、棟単位の収益評価には不十分である。
【0006】
また、例えば、3月及び9月等の引越し時期では瞬間的に募集が増加するが、この引越し時期とこれ以外の平常期とでは、特許文献1に記載される手法で推計した空室率は、平均化処理がなされるにしても変動が激しく、従って、収益評価に使いづらい。
【0007】
本発明は、棟単位での空室率を精度良く推計出来る空室率推計装置及び方法並びにコンピュータプログラムを提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空室率推計装置は、評価対象棟に関する物件特性データを入力する入力手段と、賃貸住宅募集データベースを参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析手段と、当該分析手段の分析結果に当該評価対象棟の当該物件特性データを適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を計算する募集確率・滞留期間計算手段と、当該評価対象棟の当該募集確率に当該評価対象棟の当該市場滞留期間を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る空室率推計装置は、評価対象棟に関する物件特性データと所在地情報を入力する入力手段と、賃貸住宅募集データベースを参照して、当該評価対象棟の所在地を含むエリアで賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析手段と、当該分析手段の分析結果に当該評価対象棟の当該物件特性データを適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を計算する募集確率・滞留期間計算手段と、当該評価対象棟の当該募集確率に当該評価対象棟の当該市場滞留期間を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る空室率推計方法は、評価対象棟に関する物件特性データをコンピュータに入力する入力ステップと、当該コンピュータ、賃貸住宅募集データベースを参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析ステップと、当該コンピュータが、当該分析ステップの分析結果に当該評価対象棟の当該物件特性データを適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を計算する募集確率・滞留期間計算ステップと、当該コンピュータが、当該評価対象棟の当該募集確率に当該評価対象棟の当該市場滞留期間T(X)を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出ステップとを有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る空室率推計方法は、評価対象棟に関する物件特性データと所在地情報をコンピュータに入力する入力ステップと、当該コンピュータが、賃貸住宅募集データベースを参照して、当該評価対象棟の所在地を含むエリアで賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析ステップと、当該コンピュータが、当該分析ステップの分析結果に当該評価対象棟の当該物件特性データを適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を計算する募集確率・滞留期間計算ステップと、当該コンピュータが、当該評価対象棟の当該募集確率に当該評価対象棟の当該市場滞留期間を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出ステップとを有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、賃貸住宅募集データベースを参照して賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析機能と、当該分析機能の分析結果に評価対象棟に関する物件特性データを適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を計算する募集確率・滞留期間計算機能と、当該評価対象棟の当該募集確率に当該評価対象棟の当該市場滞留期間を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出機能とを実現させるためのコンピュータプログラムである。
【0013】
本発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、賃貸住宅募集データベースを参照して、価対象棟の所在地を含むエリアで賃貸住宅の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を分析する分析機能と、当該分析機能の分析結果に当該評価対象棟の件特性データを適用することで、当該評価対象棟の棟単位の募集確率及び市場滞留期間を計算する募集確率・滞留期間計算機能と、当該評価対象棟の当該募集確率に当該評価対象棟の当該市場滞留期間を乗算して当該評価対象棟の空室率を算出する空室率算出機能とを実現させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、定量的に推計された棟単位での募集確率と市場滞留期間(空室となる期間)を乗算することで、棟単位の空室率を計算するので、従来方法に比べて精度良く空室率を推計出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1の概略構成ブロック図である。
図2】解約募集とこれに伴う空室期間の説明図である。
図3】回帰分析の説明変数の表である。
図4】本発明の実施例2の概略構成ブロック図である。
図5】本発明の実施例3の概略構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の一実施例の概略構成ブロック図を示す。本実施例は、単一または互いに連係動作する複数のコンピュータ装置上で動作する空室率推計プログラムにより実現されるが、もちろん、専用装置として実現することも可能である。
【0018】
図1に示す空室率推計装置10はコンピュータからなり、CPU12、ROM14、RAM16、キーボード18、モニタ20、HDD(またはSSD)22及び通信装置24が、バス26に接続する。通信装置24は、ネットワークを介して賃貸住宅募集データベース28に接続可能である。詳細は後述するが、空室率推計のために、CPU12は、通信装置24を介して賃貸住宅募集データベース28にアクセス可能である。
【0019】
CPU12は、HDD22に格納される空室推計プログラム30をRAM16に読み込んで実行することにより、回帰分析機能40、募集確率・滞留期間計算機能42及び空室率算出機能44を実現する。HDD22には、回帰分析機能40の回帰分析結果32(回帰モデル式の係数値)も、格納される。
【0020】
図2は、ある棟αの3つの部屋A,B,Cについての空室発生状況例を示す。図2に示す例では、部屋A,Cで解約募集があり、空室期間が発生している。図2では、1ヶ月単位で例示しているが、この期間は例示目的である。
【0021】
図2に示す例では、空室率推計の単位期間(1ヶ月)に、棟αの部屋Aと部屋Cで解約募集が発生している。解約募集から成約入居までの期間(市場滞留期間または滞留期間)が、賃貸収入を得られない空室相当の期間である。募集が公開されている期間に一定期間を加えた期間が空室期間となるような募集データベースに対しては、募集公開期間にその一定期間を加算した期間を市場滞留期間Tとする。市場滞留期間Tは、棟αの物件特性データXに依存する。物件特性データXは例えば、賃料、最寄り駅からの距離、専有面積、最寄駅までの距離、部屋数及び躯体構造等の要素からなる。部屋数は例えば、当該建物の総階数から推定され得る。他方、棟αで空部屋(図2に示す例では部屋A,C)になり借り手を募集する確率、則ち、募集確率も、物件特性Xに依存する。
【0022】
このような考察に基づき、空室率推計装置10では、回帰分析により、募集確率と募集の市場滞留期間を棟単位で推定し、得られた募集確率と市場滞留期間とから空室率を推計する。すなわち、重回帰分析によって推定した一ヶ月あたりの部屋ごとの市場滞留期間(日数)をT(X)とし、ロジスティック回帰分析によって推定した棟ごとの募集確率をP(X)としたとき、当該棟の1ヶ月当たりの空室率Vrを、
Vr=P(X)×T(X)/30
とする。
【0023】
不動産賃貸募集データベース(DB)28は、不動産情報サイトで公開されるデータベース、または、この公開データベースから生成されたものであり、回帰分析用に個々の不動産の物件特性データとして一般的に以下の情報を含む。すなわち、賃料単価(管理費・共益費込みの平米単価)、新築情報(新地の場合に1、新築でない場合に0)、築年数、専有面積、総階数、所在階、駅時間(最寄り駅までの所要時間)、バス利用情報(バス利用の場合に1、それ以外は0)、都心までの時間(最寄り駅から中心業務地区の駅までの時間)、建物構造情報(RC,SRC,鉄骨造またはこれら以外)、アパート/マンション分類情報(アパートかマンションか)及び所在地情報等を含む。新築か否かは、築年数から判定しても良い。
【0024】
回帰分析機能40は、不動産賃貸募集DB28を参照し、棟単位の募集確率と市場滞留期間に関する回帰モデルの回帰係数を決定する。回帰分析機能40は例えば、全国を分ける21エリア別、及びアパート・マンション別で回帰分析を実行する。もちろん、回帰分析機能40は、評価対象棟の所在するエリアについて、アパートかマンションかの対応する家屋分離で、回帰分析を実行しても良い。回帰分析機能40は、エリア別及びアパート・マンション別の分析結果(回帰モデル式の係数値)32をハードディスク22に格納する。
【0025】
回帰分析機能40の回帰モデルは、
【数1】
で一般的に表現され得る。説明変数X,LD,TDの詳細を図3に示す。説明変数LDは、立地による個別性(例えば、東京都で言えば、渋谷区と中央区の政策の違い)を排除するために導入される。説明変数TDは、時間による個別性(例えば、2013年と2017年の物価の違い)を排除するために導入される。目的変数(被説明変数)は、募集確率(式(1))に対しては棟ごとの募集確率P(X)(月単位)であり、市場滞留期間(式(2))に対しては、募集日数(募集公開から成約までの日数)の自然対数である。
【0026】
上記式(1)、(2)は一例であり、種々の変更が可能である。例えば、変数の表現に対数形式でなくべき乗形式に採用するように変更することもありうるし、的変数に対する影響度の大きさ等を考慮し、エリアごとに回帰分析モデル式を異らせることもある。
【0027】
また、図3に示す説明変数群は一例であり、別の説明変数を追加しても良いし、一部の変数を他の変数に変更してもよい。例えば、式(1)、(2)に対し、同じ市区町村内でも最寄り駅の沿線の違いによる個別性を排除する説明変数(沿線を示す説明変数ED)を追加しても良い。説明変数EDは例えば、東京都中央区における東京駅までのアクセスの容易さ(京葉線では東京駅まで乗り換え不要であるのに対し、有楽町線では乗り換えが必要になる)を反映する。
【0028】
CPU12上で動作する空室率推計プログラム30は、モニタ20の画面上に、空室率を評価したい棟(評価対象棟)の物件情報データ(X,LD,TDに対応するデータ)の入力画面を表示する。オペレータは、この入力画面にキーボード18を使って評価対象棟の物件情報データを入力する。CPU12上の空室率推計プログラム30は、入力されたデータを募集確率・滞留期間計算機能42に入力する。募集確率・滞留期間計算機能42は、評価対象棟の所在地を含むエリアの分析結果を回帰分析結果32から読み出し、評価対象棟の物件情報データを適用して、評価対象棟の月ごとの空室率P(X)と市場滞留期間(募集開始から成約までの募集日数)T(X)を算出し、空室率算出機能44に供給する。
【0029】
空室率算出機能44は、募集確率・滞留期間計算機能42からの空室率P(X)と市場滞留期間T(X)に対し、評価対象棟の1ヶ月辺りの空室率Vrを、
Vr=P(X)×T(X)/30
により、算出する。
【0030】
本実施例では、棟ごとの募集確率及び市場滞留期間を回帰分析により推定し、これらに基づき棟辺りの空室率を算定しているので、実態に即した空室率を推計出来る。すなわち、推計に用いる物件の個別性のみならず評価対象棟の個別性をも排除でき、空室率として客観的な値を得ることができる。
【0031】
賃貸住宅募集データベースから空室を見込む単位期間を1ヶ月としたが、これは、一般的に、賃貸市場の空室率の動きを把握するのが1ヶ月単位だからであり、その他の期間、例えば、4半期とか6ヶ月であってもよい。
【0032】
賃貸住宅募集データベース28により参照出来るデータが十分に多い場合、いわゆる教師ありの機械学習によっても、募集確率及び滞留期間と、物件特性データ等との関係を定量的に決定出来る。すなわち、回帰分析機能40における重回帰分析及びロジスティック回帰は、教師あり機械学習による分析に置換可能である。
【実施例2】
【0033】
実施例1と同様の機能をサーバ/クライアントモデルで構成できる。図4は、その概略構成ブロック図を示す。クライアント110に、募集確率・滞留期間計算機能42に相当する募集確率・滞留期間計算機能142と、空室率算出機能44に相当する空室率算出機能144を残し、サーバ150には回帰分析機能40に対応する回帰分析機能140を配置する。賃貸住宅募集データベース128は、賃貸住宅募集データベース28と同様の構成からなる。
【0034】
サーバ150の回帰分析機能140は、定期的または間欠的に賃貸住宅募集データベース128にアクセスして、実施例1と同様の回帰モデル式の下で、棟単位の募集確率のロジスティック回帰分析と市場滞留期間の重回帰分析を実行し、回帰分析結果156を、サーバ150に付属するHDD154に格納する。すなわち、回帰分析機能140は、通信装置152により賃貸住宅募集データベース128にアクセスし、回帰分析機能40と同様に、全国を分ける20エリア別、及びアパート・マンション別で、棟単位の募集確率と市場滞留期間の回帰分析を実行する。回帰分析機能140は、エリア別及びアパート・マンション別の分析結果(回帰モデル式の係数値)156をハードディスク154に格納する。
【0035】
クライアント110では、CPU112上で動作する空室率推計プログラム(クライアント部分)は、モニタ120の画面上に、空室率を評価したい棟(評価対象棟)の物件情報データ(X,LD,TDに対応するデータ)の入力画面を表示する。オペレータは、この入力画面にキーボード118を使って評価対象棟の物件情報データを入力する。CPU112上の空室率推計プログラムは、入力されたデータを募集確率・滞留期間計算機能142に入力する。CPU112上の空室率推計プログラムはまた、サーバ150の回帰分析結果156から評価対象棟の所在地を含むエリアの回帰分析結果を読み込み、募集確率・滞留期間計算機能142に入力する。
【0036】
募集確率・滞留期間計算機能142は募集確率・滞留期間計算機能42と同様に、評価対象棟の所在地を含むエリアの分析結果に評価対象棟の物件情報データを適用して、評価対象棟の月ごとの空室率P(X)と市場滞留期間T(X)を算出し、空室率算出機能144に供給する。
【0037】
空室率算出機能144は空室率算出機能44と同様に、募集確率・滞留期間計算機能142からの空室率P(X)と市場滞留期間T(X)から、評価対象棟の1ヶ月辺りの空室率Vrを、
Vr=P(X)×T(X)/30
により、算出する。
【実施例3】
【0038】
回帰分析を評価対象棟の所在地を含むエリアに対して必要時に実行するようにしてもよい。図5は、図1に示す実施例をそのように変更した構成の概略構成ブロック図を示す。図1に示す構成と同様の構成要素には同じ符号を付してある。
【0039】
図5に示す空室率推計装置210のCPU212上で動作する空室率推計プログラム230は、モニタ20の画面上に、空室率を評価したい棟(評価対象棟)の所在地と物件情報データ(X,LD,TDに対応するデータ)の入力画面を表示する。オペレータは、この入力画面にキーボード18を使って評価対象棟の所在地と物件情報データを入力する。CPU212上の空室率推計プログラム230は、入力された所在地(及び必要によりアパート・マンション別)を回帰分析機能240に入力し、入力された物件情報データを募集確率・滞留期間計算機能42に入力する。
【0040】
回帰分析機能240は、通信装置24により賃貸住宅募集データベース28にアクセスし、評価対象棟の所在地を含むエリアでアパート・マンション別に、棟単位の募集確率のロジスティック回帰分析と滞留期間の重回帰分析を実行する。回帰分析機能240は、分析結果(回帰モデル式の係数値)を募集確率・滞留期間計算機能242に供給する。
【0041】
募集確率・滞留期間計算機能242は、募集確率・滞留期間計算機能42と同様に、評価対象棟の所在地を含むエリアの分析結果に評価対象棟の物件情報データを適用して、評価対象棟の月ごとの空室率P(X)と市場滞留期間T(X)を算出する。空室率算出機能244は、空室率算出機能44と同様の演算式に従い、募集確率・滞留期間計算機能242からの空室率P(X)と市場滞留期間T(X)から空室率Vrを算出する。
【0042】
この実施例では、必要なエリアについてのみ演算を実行するので、小さな処理能力でも、比較的短時間に所望の結果を得ることが可能になる。
【0043】
上述した各実施例において、参照出来る公開データが多い場合、回帰分析機能40,140,240における重回帰分析及びロジスティック回帰を、教師ありの機械学習に置換できる。すなわち、回帰分析機能40,140,240は、物件特性と、募集期間及び滞留期間との定量的な関係を教師ありの機械学習により決定する分析機能に置換できる。
【0044】
特定の説明用の実施例を参照して本発明を説明したが、特許請求の範囲に規定される本発明の技術的範囲を逸脱しないで、上述の実施例に種々の変更・修整を施しうることは、本発明の属する分野の技術者にとって自明であり、このような変更・修整も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10:空室率推計装置
12:CPU
14:ROM
16:RAM
18:キーボード
20:モニタ
22:HDD(またはSSD)
24:通信装置
26:バス
28:賃貸住宅募集データベース(DB)
30:空室率推計プログラム
32:回帰分析結果
40:回帰分析機能
42:募集確率・滞留期間計算機能
44:空室率算出機能
110:クライアント
112:CPU
118:キーボード
120:モニタ
124:通信装置
128:賃貸住宅募集データベース(DB)
140:回帰分析機能
142:募集確率・滞留期間計算機能
144:空室率算出機能
150:サーバ
152:通信装置
154:HDD
156:回帰分析結果
210:空室率推計装置
212:CPU
230:空室率推計プログラム
240:回帰分析機能
242:募集確率・滞留期間計算機能
244:空室率算出機能
図1
図2
図3
図4
図5