特許第6852087号(P6852087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852087
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】デクスパンテノール配糖体含有化合物
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/04 20060101AFI20210322BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20210322BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20210322BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALN20210322BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20210322BHJP
   A61K 8/60 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   C07H15/04 FCSP
   !A61P17/00
   !A61P17/02
   !A61K31/7032
   !A61Q19/00
   !A61K8/60
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-550753(P2018-550753)
(86)(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公表番号】特表2019-513141(P2019-513141A)
(43)【公表日】2019年5月23日
(86)【国際出願番号】EP2017057038
(87)【国際公開番号】WO2017167652
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年1月25日
(31)【優先権主張番号】102016205474.0
(32)【優先日】2016年4月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510232393
【氏名又は名称】ユリウス・マクシミリアンス−ウニヴェルジテート・ヴュルツブルク
【氏名又は名称原語表記】Julius Maximilians−Universitaet Wuerzburg
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ザイベル,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ティム,マルテ
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 Agric. Biol. Chem.,1978年,42,1675−1679
【文献】 Agr. Biol. Chem.,1973年,37,545−551
【文献】 Biochim. Biophys. Acta,1972年,286,91−97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 15/04
A61K 31/7032
A61P 17/00
A61P 17/02
A61K 8/60
A61Q 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デクスパンテノールと、
グリコシド結合を介して、前記デクスパンテノールに化学的に結合された単糖と、
からなる医薬化合物であって、
前記α−グルコースであり、前記医薬化合物以下の式(1)で示される構造を有する、医薬化合物
【請求項2】
デクスパンテノールと、
グリコシド結合を介して、前記デクスパンテノールに化学的に結合された単糖と、
からなる医薬化合物であって、
前記β−グルコースであり、前記医薬化合物以下の式(2a)及び(2b)で示される構造を有する、医薬化合物
【請求項3】
デクスパンテノールと、
グリコシド結合を介して、前記デクスパンテノールに化学的に結合された単糖と、
からなる医薬化合物であって、
前記β−ガラクトースであり、前記医薬化合物以下の式(3a)及び(3b)で示される構造を有する、医薬化合物
【請求項4】
デクスパンテノールと、
グリコシド結合を介して、前記デクスパンテノールに化学的に結合された単糖と、
からなる医薬化合物であって、
前記β−フルクトースであり、前記医薬化合物以下の式(4)で示される構造を有する、医薬化合物
【請求項5】
治療法及び/又は美容法において使用するための請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬化合物。
【請求項6】
スキンケアにおいて使用するための請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬化合物。
【請求項7】
皮膚病の予防及び/又は皮膚病の治療において使用するための請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬化合物。
【請求項8】
創傷治癒の促進のための医薬として使用するための請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療法及び/又は美容法において使用するために特に適しているデクスパンテノール含有化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の皮膚は、人間の表面最大の器官であり、人体のいわゆる外被器官としての役割を果たす。皮膚は、代謝及び免疫学の分野で重要な機能を果たし、多岐にわたる順応メカニズムを有している。
【0003】
皮膚の最も重要な機能は、そのバリア機能、つまりは生体を乾燥から守ることである。健康な皮膚は、通常、自然含水量の保持のための補助剤を一切必要としない。それというのも、皮膚含水量は、表皮、即ち最上皮膚層、において、皮膚新生に際して再生され続ける天然保湿因子、いわゆる「Natural Moisturizing Factors」(NMF)によって調節されるからである。しかしながら、環境汚染も乾燥した空気も紫外線への曝露も、皮膚から水分を奪うこと及び/又は天然保湿因子を破壊することの一因となる。
【0004】
皮膚への水分供給が足りないと、特に加齢に伴い、例えば皮膚の色素沈着、しわの形成、たるみ及び炎症が現れることがある。皮膚が乾燥すると、例えばしわ及び微小亀裂が形成されることがあり、そこに病原菌が侵入し、それらの病原菌は、後で、表皮において皮膚感染症を引き起こすことがある。
【0005】
それを避けるために又は悪影響を最小限にするために、作用物質としてデクスパンテノールを有するクリーム及びローションが、しばしば使用される。デクスパンテノールは、スキンケアのためにも皮膚病の局所的治療のためにも使用される。その吸湿特性に基づき、デクスパンテノールは、皮膚の保湿を改善し、肌荒れを軽減し、皮膚刺激の緩和に役立ち、従って、炎症を間接的に軽減する。デクスパンテノールは、軟膏の成分として、例えば表層の皮膚損傷及び粘膜損傷の場合に、また、泡状スプレーにおいて、I度の熱傷の治療の場合にも、有効性が実証されている。更に、デクスパンテノールは、細胞成長を活発にするため、創傷の治癒時間を短くする。
【0006】
しかしながら、デクスパンテノールは、皮膚によって素早く吸収され、血液循環によって、プロビタミンB5としても知られるパントテン酸へと変換される。従って、皮膚への塗布後のデクスパンテノールの作用時間は、時間的に限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、治療法及び/又は美容法において皮膚に塗布されるデクスパンテノールの作用時間を延長することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明によれば、糖に化学的に結合されたデクスパンテノールによって特徴付けられる化合物によって解決される。
【0009】
第1段階として、本発明は、含まれる作用物質の遅延放出により作用期間が制御される化粧品、クリーム、そして薬剤が市販されているという事実を考慮に入れている。それは、例えば含まれる作用物質の被覆、包埋又はマイクロカプセル化によって達成される。それというのも、これによってスキンケア製品又は薬品からの作用物質の放出が減速されるからである。更に、スキンケア製品の場合には、脂溶性作用物質と水溶性作用物質とが同時に皮膚を通過し、次々に放出される多重エマルジョンが使用される。その作用は、作用物質の遅延放出によって対応して延長され得る。医薬品の場合には、定義された時間的推移で薬物放出を達成することができる、いわゆる徐放性剤形が存在する。
【0010】
第2段階として、本発明は、特に作用物質が配糖体として使用される場合に、作用物質の遅延放出が達成できることを、認識している。そのような配糖体は、即ち、以下に更に詳細に記述するように、天然に存在する酵素によって、体内又は体表で初めて作用物質を放出しつつ徐々に分解される。第3段階として、本発明は、孤立した分子としてではなく配糖体の形で使用する点で、上記認識を作用物質のデクスパンテノールに対して、転用している。本発明により述べられる化合物は、糖に化学的に結合されたデクスパンテノールを特徴としている。そのようなデクスパンテノールの変性によって、デクスパンテノールの所望の作用物質遅延放出が可能となる。
【0011】
上記化合物が単独で又は組成物の成分として皮膚に塗布される場合に、デクスパンテノールは、該化合物の開裂に際して初めて、つまり遅延的に放出される。従ってまた、デクスパンテノールは、結合の開裂が行なわれた後に初めて作用物質として有効になる。言い換えれば、デクスパンテノールの作用期間は、化学的に結合された糖の脱離に依存して延長される。
【0012】
上記結合の開裂は、好ましくは、上記化合物と1種以上の酵素との反応によって行なわれる。有利には、該化合物は、グルコシダーゼの存在下で開裂される。グルコシダーゼは、とりわけ皮膚上に天然に存在する細菌及び真菌によって産生される酵素である。上記化合物が皮膚上に塗布された後に、該化合物は、細菌及び/又は真菌により酵素として産生されるグルコシダーゼによって、デクスパンテノールを放出しつつ開裂される。言い換えれば、デクスパンテノールと糖との間の結合が分離される。
【0013】
更に、糖に化学的に結合されたデクスパンテノールの化合物は、独自の研究によれば、純粋なデクスパンテノールと比べて極性が高められている。それにより、水和が強められ、つまり水分子が集積して、水和物の外殻を形成する。結果として、純粋なデクスパンテノールと比べて減速された皮膚への浸透が観察される場合があり、このことは、デクスパンテノールの作用期間の延長という観点から、上述の化合物の更なる利点である。
【0014】
特に有利には、デクスパンテノール及び糖は、グリコシド結合を介して化学的に互いに結合されている。グリコシド結合とは、グリコン、つまり糖、のアノマー炭素原子、とアグリコン、つまり「非糖」、のヘテロ原子又はより稀には炭素原子、との間の化学結合を表わす。グリコシド結合を含む化合物は、一般的に配糖体と呼ばれる。配糖体中のグリコシド結合の加水分解は、特にグルコシダーゼにより可逆的に触媒され、その際、グリコン、本発明では糖、とアグリコン、本明細書ではデクスパンテノール、とが水分子を消費しながら放出される。
【0015】
好ましくは、上記糖は単糖である。単糖は、1つのカルボニル基(−C=O)と少なくとも1つのヒドロキシ基(−OH)とを有する、少なくとも3つの連なった炭素原子からなる基本骨格を有する単一の糖である。
【0016】
特に有利には、単糖は、ペントース及びヘキソースを含む群から選択される。ヘキソース(C12)は、6つの炭素原子を持つ炭素基本骨格を有し、原則的にカルボニル官能基の種類によって区別される。非末端カルボニル官能基(R−C(O)−R)、つまりケト基、の場合には、それはケトヘキソースと呼ばれる。末端カルボニル官能基、つまりアルデヒド基、の場合には、それはアルドヘキソースである。ペントース(C10)は、5つの炭素原子を持つ炭素基本骨格を有する。
【0017】
ヘキソースは、好ましくは、α−グルコース、β−グルコース、α−フルクトース、β−フルクトース、α−マンノース、β−マンノース、α−ガラクトース及びβ−ガラクトースを含む群から選択される。どの糖がデクスパンテノールに化学的に結合されているかに応じて、化合物の命名法も異なる。
【0018】
デクスパンテノールに化学的に結合されたα−グルコース又はβ−グルコースは、α−グリコシル化デクスパンテノール又はβ−グリコシル化デクスパンテノールである。化学的に結合された糖がα−ガラクトース又はβ−ガラクトースである場合には、それはα−ガラクトシル化デクスパンテノール又はβ−ガラクトシル化デクスパンテノールと呼ばれる。α−フルクトース又はβ−フルクトースが糖としてデクスパンテノールに結合されている場合には、それはα−フルクトシル化デクスパンテノール又はβ−フルクトシル化デクスパンテノールである。
【0019】
有利には、ペントースは、アラビノース及びキシロースを含む群から選択される。
【0020】
本発明の特に有利な実施形態においては、α−グルコースは、グリコシド結合を介してデクスパンテノールに結合されている。α−グリコシル化デクスパンテノールの合成は、α−グルコース及びデクスパンテノールからの水の脱離下に行なわれる。この場合には、α−グリコシル化デクスパンテノールが生成される。
【0021】
上記化合物は、好ましくは、以下の構造式:
【化1】
を特徴としている。
【0022】
α−グリコシル化デクスパンテノールの合成に際して、α−グルコースとデクスパンテノールとの間で、グリコシド結合が形成される。この結合は、特に有利には、選択的にデクスパンテノールの1’−炭素原子に結合されたヒドロキシ基を介して行なわれる。α−グルコースとデクスパンテノールとを架橋する酸素原子は、デクスパンテノールに由来する。基本的には、この結合形成は、使用される糖とは無関係に、好ましくは、選択的にデクスパンテノールの1’−炭素原子に結合されたヒドロキシ基を介して、行なわれる。この場合に、結合形成の選択性に対する要因となるのは、もっぱら配糖体の製造に際して使用される酵素のみである。
【0023】
上記化合物は、治療効果及び/又は美容効果を有する。従って、該化合物は、有利には治療法及び/又は美容法において使用するために想定されている。この場合に、該化合物は、デクスパンテノールの遅延放出のもと、皮膚損傷及び皮膚老化の予防のためにも、スキンケアのためにも用いられる。
【0024】
特に、上記化合物は、スキンケア製品として治療効果及び/又は美容効果を有する。従って有利には、該化合物は、スキンケアにおいて使用することが想定されている。より長時間に亘り保護用に使用される場合に、該化合物は集中的に皮膚老化に対して作用し、又は皮膚老化を予防する。デクスパンテノールの水和作用は、作用時間延長又は時間遅延放出に基づいて、より長い時間に亘り発揮される。更に、デクスパンテノールは、予防用に使用される場合に、皮膚を刺激から守る能力を有する。この効果は、デクスパンテノールを遅延的に放出する化合物によって強化される。
【0025】
更に、上記化合物は、皮膚病を防止するために及び/又は皮膚病を治療するために予防効果を有する。従って有利には、該化合物は、皮膚病の予防のために及び/又は皮膚病の治療のために想定されている。デクスパンテノールの一貫した使用において、水和作用の改善により、皮膚バリアの安定化が達成される。このように、デクスパンテノールの使用によって、皮膚老化現象及び皮膚病変を予防することができる。
【0026】
これには、例えば、乾性湿疹等の湿疹性皮膚病変、そして静脈瘤、心不全及び腎不全、並びにリンパ水腫の場合のうっ血性湿疹も、接触湿疹も該当する。更に、例えば帯状疱疹及び帯状ヘルペス等の細菌感染症、例えばカンジダ(酵母菌)真菌症等の皮膚及び粘膜の真菌感染症、並びに糸状菌病を予防し、又はこれらを治療することができる。同様に、デクスパンテノールは、皮膚腫瘍、例えば脂漏性角化症(「年寄りイボ」)、日光性角化症(前癌状態)、基底細胞癌(基底細胞腫)及び扁平上皮癌の予防又は治療のために使用することができる。
【0027】
更に、上記化合物は、創傷治癒の促進のための治療効果を有する。従って特に有利には、該化合物は、創傷治癒の促進のための医薬として想定されている。1992年にS.Hauptmann、H.Schaefer、A.Fritz及びP.Hauptmannは、雑誌「Der Hausarzt:Zeitschrift fuer Dermatologie,Venerologie und verwandte Gebiete」において、0.5%から10%までの濃度範囲におけるインビトロでの歯肉のヒト線維芽細胞の創傷治癒に対するデクスパンテノールの効果に関する研究を発表した。この場合に、分裂指数、つまり細胞分裂指数、が全ての試験された濃度で高められることが確認された。
【0028】
最良の結果は0.5%の最低濃度で達成され、10%の最高濃度では最も低い効果となった。糖に化学的に結合されたデクスパンテノールの化合物に関しては、今度は長い時間に亘りデクスパンテノールを創傷治癒及び細胞再生のための局所療法において、効果的な濃度で、つまり特に低い濃度で、利用可能であることを意味する。
【0029】
以下に、本発明の実施例を、化合物の製造方法及び図面を参照して、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】α−グリコシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトルを示す図である。
図2】α−グリコシル化デクスパンテノールの例示的な13C−NMRスペクトルを示す図である。
図3】β−グルコシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトルを示す図である。
図4】β−グルコシル化デクスパンテノールの例示的な13C−NMRスペクトルを示す図である。
図5】β−ガラクトシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトルを示す図である。
図6】β−ガラクトシル化デクスパンテノールの例示的な13C−NMRスペクトルを示す図である。
図7】フルクトシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトルを示す図である。
図8】フルクトシル化デクスパンテノールの例示的な13C−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(1)α−グリコシル化デクスパンテノールの製造
デクスパンテノール(0.05モル/L)及びサッカロース(0.4モル/L)を、0.05Mのリン酸塩緩衝液(0.05モル/L、pH=6)中に溶解し、微生物(プロトアミノバクター・ルブルム(Protaminobacter rubrum)Z12(CBS 574.77))の懸濁液を加えた。
【0032】
サッカロースは、α,β−1,2−グリコシド結合を介して結合されているα−D−グルコースとβ−D−フルクトースとからなる。微生物のプロトアミノバクター・ルブルムZ12は、α−グルコシダーゼ酵素を含む。該酵素は、使用されるサッカロースのα−D−グルコース及びβ−D−フルクトースへの開裂を触媒する。その反応の間に、α−D−グルコースは、化学的にデクスパンテノールに結合する。
【0033】
このために、反応混合物を、37℃の温度で水浴中において振盪する。最適な生成物形成後に、その反応は停止される。生成物のα−グリコシル化デクスパンテノールは、溶離液として6:3:1のEE−iPrOH−HOを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて白色の固体の形で得られた。最適な生成物形成は、連続的な試料採取及び薄層クロマトグラフィーによって測定される。
【0034】
α−グリコシル化デクスパンテノールの分光的検出のために、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを記録した。図1は、α−グリコシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトル1を示す。
【0035】
H−NMRスペクトル1は、重水素化メタノール中において400MHzで記録され、それらのシグナルの帰属は、表1に確認される。
【0036】
[表1]α−グリコシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル1のシグナル帰属
【表1】
【0037】
図2には、α−グリコシル化デクスパンテノールの例示的な13C−NMRスペクトル11が示されている。13C−NMRスペクトル11は、同様に、重水素化メタノール中において100MHzで記録された。それらのシグナルの帰属は、表2に挙げられている。
【0038】
[表2]α−グリコシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル11のシグナル帰属
【表2】
【0039】
それぞれ上記表から確認することができるH原子又はC原子のシグナルの化学シフト及び積分値(H原子の場合)により、一義的にα−グルコシル化デクスパンテノールと定められる。
【0040】
(2)β−グルコシル化デクスパンテノールの製造
デクスパンテノール(0.05モル/L)及びセロビオース(0.4モル/L)を、酢酸ナトリウム緩衝液(0.05モル/L、pH=5.2)中に溶解し、β−グルコシダーゼ溶液(酢酸ナトリウム緩衝液中100U、アーモンド由来のβ−グルコシダーゼ、BioChemika 49290、CAS 9001−22−3)を加えた。セロビオースは、互いにβ−1,4−グルコシド結合された2つのグルコース分子からなる二糖である。酵素のβ−グルコシダーゼにより、セロビオースのグルコースへ分解が起きる。その反応の間に、グルコースは、化学的にデクスパンテノールに結合する。
【0041】
同様に、反応混合物を、37℃の温度で水浴中にて振盪する。最適な生成物形成後に、その反応は停止される。生成物のβ−グルコシル化デクスパンテノールは、溶離液として6:3:1のEE−iPrOH−HOを用いたカラムクロマトグラフィーにより白色の固体の形で得られた。
【0042】
β−グルコシル化デクスパンテノールの分光的検出のために、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを記録した。図3は、β−グルコシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトル21を示す。この反応により、グルコシル化生成物2a及び2bが生じる。
【0043】
【化2】
【0044】
H−NMRスペクトル21は、重水素化メタノール中において400MHzで記録され、それらのシグナルの帰属は、以下の表3a及び表3bに確認される。
【0045】
[表3a](C−1’Oを介して結合された)β−グルコシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル21のシグナル帰属
【表3a】
【0046】
[表3b](C−8’Oを介して結合された)β−グルコシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル21のシグナル帰属
【表3b】
【0047】
図4には、β−グルコシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル41が示されている。13C−NMRスペクトル41は、同様に重水素化メタノール中において100MHzで記録された。それらのシグナルの帰属は、表4a及び表4bに挙げられている。
【0048】
[表4a](C−1’Oを介して結合された)β−グルコシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル41のシグナル帰属
【表4a】
【0049】
[表4b](C−8’Oを介して結合された)β−グルコシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル41のシグナル帰属
【表4b】
【0050】
それぞれ上記表から確認することができるH原子又はC原子のシグナルの化学シフト及び積分値(H原子の場合)により、一義的にβ−グルコシル化デクスパンテノールと定められる。
【0051】
(3)β−ガラクトシル化デクスパンテノールの製造
デクスパンテノール(0.05モル/L)及びラクトース(0.4モル/L)を、酢酸ナトリウム緩衝液(0.05モル/L、pH=5.2)中に溶解させ、β−ガラクトシダーゼ溶液(酢酸ナトリウム緩衝液中100U、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来のβ−ガラクトシダーゼ、Sigma G5160、CAS 9031−11−2)を加えた。ラクトースは、β−1,4−グリコシド結合を介して結合されているD−ガラクトースとD−グルコースとからなる。β−ガラクトシダーゼは、この結合の加水分解を酵素触媒して、ガラクトースを生成し、その反応の間に、ガラクトースは、化学的にデクスパンテノールに結合する。
【0052】
そのために、その反応混合物を、37℃の温度で水浴中において振盪する。最適な生成物形成後に、その反応は停止される。生成物のβ−ガラクトシル化デクスパンテノールは、溶離液として6:3:1のEE−iPrOH−HOを用いたカラムクロマトグラフィーにより白色の固体の形で得られた。
【0053】
β−ガラクトシル化デクスパンテノールの分光的検出のために、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを記録した。図5は、β−ガラクトシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトルを示す。この反応により、以下に示されるガラクトシル化生成物3a及び3bが生じる。
【0054】
【化3】
【0055】
H−NMRスペクトル51は、重水素化メタノール中において400MHzで記録され、それらのシグナルの帰属は、表5a及び表5bに確認される。
【0056】
[表5a](C−1’Oを介して結合された)β−ガラクトシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル51のシグナル帰属
【表5a】
【0057】
[表5b](C−8’Oを介して結合された)β−ガラクトシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル51のシグナル帰属
【表5b】
【0058】
図6には、β−ガラクトシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル61が示されている。13C−NMRスペクトル61は、同様に重水素化メタノール中において100MHzで記録された。それらのシグナルの帰属は、表6a及び表6bに挙げられている。
【0059】
[表6a](C−1’Oを介して結合された)β−ガラクトシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル61のシグナル帰属
【表6a】
【0060】
[表6b](C−8’Oを介して結合された)β−ガラクトシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル61のシグナル帰属
【表6b】
【0061】
それぞれ上記表から確認することができるH原子又はC原子のシグナルの化学シフト及び積分値(H原子の場合)により、一義的にβ−ガラクトシル化デクスパンテノールと定められる。
【0062】
(4)フルクトシル化デクスパンテノールの製造
デクスパンテノール(0.05モル/L)及びサッカロース(0.4モル/L)を、酢酸ナトリウム緩衝液(0.05モル/L、pH=5.2)中に溶解させ、フルクトシダーゼ溶液(酢酸ナトリウム緩衝液中100U、Boehringer Mannheim GmbH社、酵母由来のβ−フルクトシダーゼ 注文番号104914)を加えた。該フルクトシダーゼ溶液は、サッカロースのα−D−グルコース及びβ−D−フルクトースへの開裂を酵素触媒する。その反応の間に、β−D−フルクトースは、化学的にデクスパンテノールに結合する。
【0063】
このために同様に、その反応混合物を、37℃の温度で水浴中において振盪する。最適な生成物形成後に、その反応は停止される。生成物のフルクトシル化デクスパンテノールは、溶離液として6:3:1のEE−iPrOH−HOを用いたカラムクロマトグラフィーにより白色の固体の形で得られた。生成物のフルクトシル化デクスパンテノールは、構造式:
【化4】
を有する。
【0064】
フルクトシル化デクスパンテノールの分光的検出のために、同様にH−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを記録した。図7は、フルクトシル化デクスパンテノールの例示的なH−NMRスペクトル71を示す。図8には、フルクトシル化デクスパンテノールの例示的な13C−NMRスペクトル81が示されている。上記スペクトル71、81からのシグナルをもとに、フルクトース及びデクスパンテノールからの結合された生成物を確認することができる。それらのシグナルの帰属は、表7又は表8に確認することができる。
【0065】
[表7]
【表7】
【0066】
[表8]
【表8】
【0067】
それぞれ表7及び表8から確認することができるH原子又はC原子のシグナルの化学シフト及び積分値(H原子の場合)により、一義的にフルクトシル化デクスパンテノールと定められる。
【符号の説明】
【0068】
1 α−グルコシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル
11 α−グルコシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル
21 β−グルコシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル
41 β−グルコシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル
51 β−ガラクトシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル
61 β−ガラクトシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル
71 β−フルクトシル化デクスパンテノールのH−NMRスペクトル
81 β−フルクトシル化デクスパンテノールの13C−NMRスペクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8