【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明によれば、糖に化学的に結合されたデクスパンテノールによって特徴付けられる化合物によって解決される。
【0009】
第1段階として、本発明は、含まれる作用物質の遅延放出により作用期間が制御される化粧品、クリーム、そして薬剤が市販されているという事実を考慮に入れている。それは、例えば含まれる作用物質の被覆、包埋又はマイクロカプセル化によって達成される。それというのも、これによってスキンケア製品又は薬品からの作用物質の放出が減速されるからである。更に、スキンケア製品の場合には、脂溶性作用物質と水溶性作用物質とが同時に皮膚を通過し、次々に放出される多重エマルジョンが使用される。その作用は、作用物質の遅延放出によって対応して延長され得る。医薬品の場合には、定義された時間的推移で薬物放出を達成することができる、いわゆる徐放性剤形が存在する。
【0010】
第2段階として、本発明は、特に作用物質が配糖体として使用される場合に、作用物質の遅延放出が達成できることを、認識している。そのような配糖体は、即ち、以下に更に詳細に記述するように、天然に存在する酵素によって、体内又は体表で初めて作用物質を放出しつつ徐々に分解される。第3段階として、本発明は、孤立した分子としてではなく配糖体の形で使用する点で、上記認識を作用物質のデクスパンテノールに対して、転用している。本発明により述べられる化合物は、糖に化学的に結合されたデクスパンテノールを特徴としている。そのようなデクスパンテノールの変性によって、デクスパンテノールの所望の作用物質遅延放出が可能となる。
【0011】
上記化合物が単独で又は組成物の成分として皮膚に塗布される場合に、デクスパンテノールは、該化合物の開裂に際して初めて、つまり遅延的に放出される。従ってまた、デクスパンテノールは、結合の開裂が行なわれた後に初めて作用物質として有効になる。言い換えれば、デクスパンテノールの作用期間は、化学的に結合された糖の脱離に依存して延長される。
【0012】
上記結合の開裂は、好ましくは、上記化合物と1種以上の酵素との反応によって行なわれる。有利には、該化合物は、グルコシダーゼの存在下で開裂される。グルコシダーゼは、とりわけ皮膚上に天然に存在する細菌及び真菌によって産生される酵素である。上記化合物が皮膚上に塗布された後に、該化合物は、細菌及び/又は真菌により酵素として産生されるグルコシダーゼによって、デクスパンテノールを放出しつつ開裂される。言い換えれば、デクスパンテノールと糖との間の結合が分離される。
【0013】
更に、糖に化学的に結合されたデクスパンテノールの化合物は、独自の研究によれば、純粋なデクスパンテノールと比べて極性が高められている。それにより、水和が強められ、つまり水分子が集積して、水和物の外殻を形成する。結果として、純粋なデクスパンテノールと比べて減速された皮膚への浸透が観察される場合があり、このことは、デクスパンテノールの作用期間の延長という観点から、上述の化合物の更なる利点である。
【0014】
特に有利には、デクスパンテノール及び糖は、グリコシド結合を介して化学的に互いに結合されている。グリコシド結合とは、グリコン、つまり糖、のアノマー炭素原子、とアグリコン、つまり「非糖」、のヘテロ原子又はより稀には炭素原子、との間の化学結合を表わす。グリコシド結合を含む化合物は、一般的に配糖体と呼ばれる。配糖体中のグリコシド結合の加水分解は、特にグルコシダーゼにより可逆的に触媒され、その際、グリコン、本発明では糖、とアグリコン、本明細書ではデクスパンテノール、とが水分子を消費しながら放出される。
【0015】
好ましくは、上記糖は単糖である。単糖は、1つのカルボニル基(−C=O)と少なくとも1つのヒドロキシ基(−OH)とを有する、少なくとも3つの連なった炭素原子からなる基本骨格を有する単一の糖である。
【0016】
特に有利には、単糖は、ペントース及びヘキソースを含む群から選択される。ヘキソース(C
6H
12O
6)は、6つの炭素原子を持つ炭素基本骨格を有し、原則的にカルボニル官能基の種類によって区別される。非末端カルボニル官能基(R
1−C(O)−R
2)、つまりケト基、の場合には、それはケトヘキソースと呼ばれる。末端カルボニル官能基、つまりアルデヒド基、の場合には、それはアルドヘキソースである。ペントース(C
5H
10O
5)は、5つの炭素原子を持つ炭素基本骨格を有する。
【0017】
ヘキソースは、好ましくは、α−グルコース、β−グルコース、α−フルクトース、β−フルクトース、α−マンノース、β−マンノース、α−ガラクトース及びβ−ガラクトースを含む群から選択される。どの糖がデクスパンテノールに化学的に結合されているかに応じて、化合物の命名法も異なる。
【0018】
デクスパンテノールに化学的に結合されたα−グルコース又はβ−グルコースは、α−グリコシル化デクスパンテノール又はβ−グリコシル化デクスパンテノールである。化学的に結合された糖がα−ガラクトース又はβ−ガラクトースである場合には、それはα−ガラクトシル化デクスパンテノール又はβ−ガラクトシル化デクスパンテノールと呼ばれる。α−フルクトース又はβ−フルクトースが糖としてデクスパンテノールに結合されている場合には、それはα−フルクトシル化デクスパンテノール又はβ−フルクトシル化デクスパンテノールである。
【0019】
有利には、ペントースは、アラビノース及びキシロースを含む群から選択される。
【0020】
本発明の特に有利な実施形態においては、α−グルコースは、グリコシド結合を介してデクスパンテノールに結合されている。α−グリコシル化デクスパンテノールの合成は、α−グルコース及びデクスパンテノールからの水の脱離下に行なわれる。この場合には、α−グリコシル化デクスパンテノールが生成される。
【0021】
上記化合物は、好ましくは、以下の構造式:
【化1】
を特徴としている。
【0022】
α−グリコシル化デクスパンテノールの合成に際して、α−グルコースとデクスパンテノールとの間で、グリコシド結合が形成される。この結合は、特に有利には、選択的にデクスパンテノールの1’−炭素原子に結合されたヒドロキシ基を介して行なわれる。α−グルコースとデクスパンテノールとを架橋する酸素原子は、デクスパンテノールに由来する。基本的には、この結合形成は、使用される糖とは無関係に、好ましくは、選択的にデクスパンテノールの1’−炭素原子に結合されたヒドロキシ基を介して、行なわれる。この場合に、結合形成の選択性に対する要因となるのは、もっぱら配糖体の製造に際して使用される酵素のみである。
【0023】
上記化合物は、治療効果及び/又は美容効果を有する。従って、該化合物は、有利には治療法及び/又は美容法において使用するために想定されている。この場合に、該化合物は、デクスパンテノールの遅延放出のもと、皮膚損傷及び皮膚老化の予防のためにも、スキンケアのためにも用いられる。
【0024】
特に、上記化合物は、スキンケア製品として治療効果及び/又は美容効果を有する。従って有利には、該化合物は、スキンケアにおいて使用することが想定されている。より長時間に亘り保護用に使用される場合に、該化合物は集中的に皮膚老化に対して作用し、又は皮膚老化を予防する。デクスパンテノールの水和作用は、作用時間延長又は時間遅延放出に基づいて、より長い時間に亘り発揮される。更に、デクスパンテノールは、予防用に使用される場合に、皮膚を刺激から守る能力を有する。この効果は、デクスパンテノールを遅延的に放出する化合物によって強化される。
【0025】
更に、上記化合物は、皮膚病を防止するために及び/又は皮膚病を治療するために予防効果を有する。従って有利には、該化合物は、皮膚病の予防のために及び/又は皮膚病の治療のために想定されている。デクスパンテノールの一貫した使用において、水和作用の改善により、皮膚バリアの安定化が達成される。このように、デクスパンテノールの使用によって、皮膚老化現象及び皮膚病変を予防することができる。
【0026】
これには、例えば、乾性湿疹等の湿疹性皮膚病変、そして静脈瘤、心不全及び腎不全、並びにリンパ水腫の場合のうっ血性湿疹も、接触湿疹も該当する。更に、例えば帯状疱疹及び帯状ヘルペス等の細菌感染症、例えばカンジダ(酵母菌)真菌症等の皮膚及び粘膜の真菌感染症、並びに糸状菌病を予防し、又はこれらを治療することができる。同様に、デクスパンテノールは、皮膚腫瘍、例えば脂漏性角化症(「年寄りイボ」)、日光性角化症(前癌状態)、基底細胞癌(基底細胞腫)及び扁平上皮癌の予防又は治療のために使用することができる。
【0027】
更に、上記化合物は、創傷治癒の促進のための治療効果を有する。従って特に有利には、該化合物は、創傷治癒の促進のための医薬として想定されている。1992年にS.Hauptmann、H.Schaefer、A.Fritz及びP.Hauptmannは、雑誌「Der Hausarzt:Zeitschrift fuer Dermatologie,Venerologie und verwandte Gebiete」において、0.5%から10%までの濃度範囲におけるインビトロでの歯肉のヒト線維芽細胞の創傷治癒に対するデクスパンテノールの効果に関する研究を発表した。この場合に、分裂指数、つまり細胞分裂指数、が全ての試験された濃度で高められることが確認された。
【0028】
最良の結果は0.5%の最低濃度で達成され、10%の最高濃度では最も低い効果となった。糖に化学的に結合されたデクスパンテノールの化合物に関しては、今度は長い時間に亘りデクスパンテノールを創傷治癒及び細胞再生のための局所療法において、効果的な濃度で、つまり特に低い濃度で、利用可能であることを意味する。
【0029】
以下に、本発明の実施例を、化合物の製造方法及び図面を参照して、より詳細に説明する。