特許第6852146号(P6852146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大紀アルミニウム工業所の特許一覧

特許6852146ダイカスト用アルミニウム合金およびこれを用いたアルミニウム合金ダイカスト
<>
  • 特許6852146-ダイカスト用アルミニウム合金およびこれを用いたアルミニウム合金ダイカスト 図000004
  • 特許6852146-ダイカスト用アルミニウム合金およびこれを用いたアルミニウム合金ダイカスト 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852146
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】ダイカスト用アルミニウム合金およびこれを用いたアルミニウム合金ダイカスト
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20210322BHJP
   C22F 1/043 20060101ALI20210322BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   C22C21/02
   C22F1/043
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 611
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 630K
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-512133(P2019-512133)
(86)(22)【出願日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2017015176
(87)【国際公開番号】WO2018189869
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2019年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148966
【氏名又は名称】株式会社大紀アルミニウム工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】鏑木 敦夫
(72)【発明者】
【氏名】宮尻 聡
(72)【発明者】
【氏名】大城 直人
【審査官】 瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−149937(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0354032(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0045638(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/166779(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104878256(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第105177370(CN,A)
【文献】 團野瑛章、外3名,高延性ダイカスト用Al合金に及ぼすCuおよびCrの影響,第167回全国講演大会講演概要集,日本鋳造工学会,2015年10月 5日,119頁
【文献】 鏑木敦夫、外2名,高延性ダイカスト用Al合金の機械的性質に及ぼすCuの影響,第168回全国講演大会講演概要集,日本鋳造工学会,2016年 9月 5日,29頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
C22F 1/043
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、0.05%≦Cu≦0.70%、4.0%≦Si≦11.0%、0.50%<Mg≦1.0%、0.05%≦Fe≦0.60%、Mn≦0.80%、0.10%≦Cr≦0.40%、Ti≦0.30%を含有し、残部がAlと不可避不純物とからなり、鋳放し状態での伸びが9.0%以上である、ことを特徴とするダイカスト用アルミニウム合金。
【請求項2】
請求項1のダイカスト用アルミニウム合金において、
Na,SrおよびCaから選ばれる少なくとも1種を30〜200ppm添加した、ことを特徴とするダイカスト用アルミニウム合金。
【請求項3】
請求項1又は2のダイカスト用アルミニウム合金において、
Sbを0.05〜0.20重量%添加した、ことを特徴とするダイカスト用アルミニウム合金。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかのダイカスト用アルミニウム合金において、
Bを1〜50ppm添加した、ことを特徴とするダイカスト用アルミニウム合金。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかのダイカスト用アルミニウム合金からなることを特徴とするアルミニウム合金ダイカスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性と耐食性とに優れたダイカスト用アルミニウム合金および当該合金を利用したアルミニウム合金ダイカストに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、軽量であると共に、成形性や量産性に優れることから、自動車や産業機械、航空機、家庭電化製品その他各種分野において、その構成部品素材として広く使用されている。
このうち、例えば自動車用途においては、車体の軽量化やそれに伴う省燃費を目的に、ボディや足回り部品などへのアルミニウム合金ダイカストの適用が拡大している。このように近年、アルミニウム合金を用いた部品が数多く採用されて来ているが、その一方で、これらの部品の多くは重要保安部品であるため、耐力や延性と言った機械的性質のみならず、必要耐用年数や使用環境などの観点から、長期間の使用に耐え得るだけの耐食性が要求される。このため、既存合金では、かかる部品に要求される機械的特性は充足できるものの、耐食性を満足できない事態が生じ始めている。
【0003】
そこで、そのような問題を解決する技術の一つとして、例えば、下記の特許文献1には、自動車のホイール(車輪)などの安全構成要素に好適な材料として、9.5〜11.5重量%の珪素(Si),0.1〜0.5重量%のマグネシウム(Mg),0.5〜0.8重量%のマンガン(Mn),最大0.15重量%の鉄(Fe),最大0.03重量%の銅(Cu),最大0.10重量%の亜鉛(Zn),最大0.15重量%のチタン(Ti)を含み、残部がアルミニウム(Al)及び永続的微粒化剤としての30〜300ppmのストロンチウム(Sr)で構成されたダイカスト用アルミニウム合金が開示されている。
この技術によれば、電池作用によってアルミニウム合金を腐食させるCuの含有割合を最大で0.03重量%に抑えているので、高い耐食性を有するダイカスト用アルミニウム合金を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3255560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、耐食性を向上させるため、上述のようにCuの含有割合を制限すれば、実質的にスクラップ原料の使用が不可能となり、アルミニウム合金を経済的に製造できなくなるばかりでなく、循環型社会を構築する上での律速となる。また、Cuはアルミニウム合金に対して引張強さや0.2%耐力と言った機械的性質を向上させる効果を有しているが、Cuの含有割合を0.03重量%以下に制限すれば、かかる効果も期待できなくなる。
さらに、CuのみならずMgについても事情は同様である。すなわち、合金中のMgの含有割合を上述のように制限した場合、例えばサッシ屑やアルミ缶などのMg含有割合の高い材料で構成されたスクラップ原料を使用するためには、溶かしたスクラップ原料に塩素ガスを吹き込んだり塩素系フラックスを使用してスクラップ溶湯中のMgを塩化マグネシウムとして分離し、再生後合金のMg含有割合が上記範囲内となるように調整しなければならない。しかしながら、スクラップ溶湯からのMgの分離にはこのように塩素が使用されるので排ガス中にダイオキシン類が生成するなど別の問題が生じ得る。したがって、合金中のMgの含有割合を上述のように制限した場合、実質的にはスクラップ原料の使用が難しくなる場合がある。また、Mgはアルミニウム合金に対して0.2%耐力を向上させる効果を有しているが、Mgの含有割合を0.5重量%以下に制限すれば、かかる効果も期待できなくなる。
それゆえに、この発明の主たる課題は、リサイクル原料を使用して経済的且つ持続可能に生産することができるのに加え、耐食性を損なうことなく機械的性質を向上させた自動車の重要保安部品などに好適なダイカスト用アルミニウム合金と、当該合金からなるアルミニウム合金ダイカストとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における第1の発明は、「重量%で、0.05%≦Cu≦0.70%、4.0%≦Si≦11.0%、0.50%<Mg≦1.0%、0.05%≦Fe≦0.60%、Mn≦0.80%、0.10%≦Cr≦0.40%を含有し、残部がAlと不可避不純物とからなる」ことを特徴とするダイカスト用アルミニウム合金である。
この発明では、Cuを0.05重量%以上で且つ0.70重量%以下の範囲内で含有させると共にMgを0.50重量%超から1.0重量%以下の範囲内で含有させることができるので、リサイクル原料の使用が可能となるのに加え、引張強さや0.2%耐力と言った機械的性質を向上させることができる。また、耐食性を悪化させる虞のあるCuの含有割合を上記範囲内に抑える一方で、耐食性改善効果のあるCrを0.10重量%以上で且つ0.40重量%以下含有するようにしているので、ダイカスト用アルミニウム合金の耐食性の悪化を防止することができる。
以上のように、本発明では、6種類の元素成分を所定の割合で含有させるだけで、それらの相互的作用によって、鋳造性や機械的性質のみならず、耐食性にも優れたダイカスト用アルミニウム合金のインゴットを経済的に安全且つ簡便に製造することができる。
【0007】
なお、本発明のダイカスト用アルミニウム合金では、Tiを0.30重量%以下含有させるのが好ましい。こうすることにより、当該合金の結晶粒を微細化させて鋳造割れをより一層効果的に抑制できると共に、機械的性質とりわけ伸びを向上させることができる。
【0008】
また、本発明のダイカスト用アルミニウム合金では、Na,SrおよびCaから選ばれる少なくとも1種を30〜200ppm添加することや、Sbを0.05〜0.20重量%添加するのが好ましい。こうすることにより、共晶Siの粒子を細かくすることができ、アルミニウム合金の靱性や強度をより一層向上させることができる。
さらに、Bを1〜50ppm添加することも好ましい。こうすることにより、特にSi量が少ない場合や冷却速度の遅い鋳造方法を用いる場合であってもアルミニウム合金の結晶粒を微細化させることができ、その結果、当該アルミニウム合金の伸びを向上させることができる。
【0009】
本発明における第2の発明は、上記第1の発明に記載のダイカスト用アルミニウム合金からなることを特徴とするアルミニウム合金ダイカストである。
本発明のダイカスト用アルミニウム合金からなるアルミニウム合金ダイカストは、鋳造性よく量産できると共に、引張強さや硬さと言った機械的特性のみならず耐食性にも優れているため、例えば自動車の重要保安部品などの用途に好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リサイクル原料を使用して経済的且つ持続可能に生産することができるのに加え、耐食性を損なうことなく機械的性質を向上させた自動車の重要保安部品などに好適なダイカスト用アルミニウム合金と、当該合金からなるアルミニウム合金ダイカストとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ダイカスト用アルミニウム合金におけるCuの含有割合と機械的性質との関係を示すグラフである。
図2】ダイカスト用アルミニウム合金におけるMgの含有割合と機械的性質との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について具体例を示しながら詳述する。
本発明のダイカスト用アルミニウム合金(以下、単に「アルミニウム合金」とも云う。)は、重量%で、0.05%≦Cu(銅)≦0.70%、4.0%≦Si(ケイ素)≦11.0%、0.50%<Mg(マグネシウム) ≦1.0%、0.05%≦Fe(鉄)≦0.60%、Mn(マンガン)≦0.8%、0.10%≦Cr(クロム)≦0.40%を含有し、残部がAl(アルミニウム)と不可避不純物とで大略構成されている。以下、各元素の特性について説明する。
【0013】
Cu(銅)は、アルミニウム合金の耐摩耗性や機械的強度や硬さを向上させるために重要な元素である。
アルミニウム合金全体の重量に対するCuの含有割合は、上述したように0.05重量%以上で且つ0.70重量%以下の範囲内であることが好ましい。Cuの含有割合が0.05重量%未満の場合には、上述の機械的性質改善効果を得ることができなくなり、逆に、Cuの含有割合が0.70重量%を超える場合には、耐食性の著しい低下、伸びの低下、比重の増大などの問題が生じるようになるからである。
【0014】
Si(ケイ素)は、アルミニウム合金溶融時における流動性を確保し、鋳造性を向上させる重要な元素である。
アルミニウム合金全体の重量に対するSiの含有割合は、上述したように4.0重量%以上で且つ11.0重量%以下の範囲内であることが好ましい。Siの含有割合が4.0重量%未満の場合には、溶湯の流動性を確保することが難しく、一般的に多用されている通常のダイカストでの成形を考えた場合、大型部品への適用の妨げとなり、逆に、Siの含有割合が11.0重量%を超える場合には、合金の伸びが低下するようになるからである。
【0015】
Mg(マグネシウム)は、主としてアルミニウム合金中のAl母材に固溶した状態又はMgSiとして存在し、アルミニウム合金に耐力および引張強さを付与する一方で、過大量の含有により鋳造性や耐食性に悪影響を及ぼす成分である。
アルミニウム合金全体の重量に対するMgの含有割合は、上述したように0.50重量%超で且つ1.0重量%以下の範囲であることが好ましい。Mgの含有割合が0.5重量%以下の場合には、上述の効果に加え、熱処理を行うことなく合金の0.2%耐力を確保することが可能となり、逆に、Mgの含有割合が1.0重量%を超える場合には、合金の伸びや耐食性が著しく低下するようになるからである。
【0016】
Fe(鉄)は、ダイカスト時の焼付き防止効果を有することが知られている。しかしながら、このFeは、Al-Si-Feからなる針状晶を晶出し、アルミニウム合金の靱性(伸び)を低下させると共に、大量に添加すると適温での溶解を困難にする。
アルミニウム合金全体の重量に対するFeの含有割合は、上述したように0.05〜0.60重量%の範囲内であることが好ましい。Feの含有割合が0.05重量%未満の場合には、ダイカスト時の焼き付き防止効果が十分ではなく、逆に、Feの含有割合が0.6重量%より多い場合にも、上記焼き付き防止効果は十分なものになるが、当該合金の靱性が低下すると共に溶解温度が上昇して鋳造性が悪化するようになるからである。
【0017】
Mn(マンガン)は、上述したFeと同様に、主としてダイカスト時におけるアルミニウム合金と金型との焼付きを防止するためのものである。このMnもFeと同様に、大量に含有させると適温での溶解が困難になることから、本発明では、アルミニウム合金全体の重量に対するMnの含有割合を0.8重量%以下に抑えている。
なお、このMnの含有割合の下限については特に限定する必要はないが、上記焼付き防止効果を顕著に発揮させるためには、Mnを0.2重量%以上含有させるのが好ましい。
【0018】
Cr(クロム)は、上述したFeやMnと同様に、ダイカスト時におけるアルミニウム合金と金型との焼付きを防止するのに加え、合金の耐食性を向上させる効果を有する元素である。
アルミニウム合金全体の重量に対するCrの含有割合は、上述したように0.10重量%以上で且つ0.40重量%以下の範囲内であることが好ましい。Crの含有割合が0.10重量%未満の場合には、上述の効果を十分に得ることができなくなり、逆に、Crの含有割合が0.40重量%を超える場合には、これ以上添加量を増やしても添加効果が上がらなくなるからである。
【0019】
以上の含有割合に従って、Cu,Si,Mg,Fe,Mn及びCrの含有割合を調整すると、安全性の高い簡単な処方で有りながら、鋳造性や機械的性質のみならず、耐食性にも優れたダイカスト用アルミニウム合金地金を経済的に得ることができる。
【0020】
なお、上述した各元素成分のほかに、Ti(チタン)を添加するようにしてもよい。このTiは、結晶粒を微細化させる効果を有しており、一般的には鋳造割れの抑制や機械的性質のうち特に伸びを向上させることができる元素であると言われている。
アルミニウム合金全体の重量に対するこのTiの含有割合は、0.30重量%以下の範囲内であることが好ましい。Tiの含有割合が0.30重量%を超える場合には、アルミニウム合金の溶解が難しくなり、溶け残りの生じる可能性が出てくるからである。
【0021】
また、上述した各元素成分のほかに、Na(ナトリウム),Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム)およびSb(アンチモン)から選ばれる少なくとも1種を改良処理材として添加するようにしてもよい。このような改良処理材を添加することによって共晶Siの粒子を細かくすることができ、アルミニウム合金の靱性や強度をより一層向上させることができる。
ここで、アルミニウム合金全体の重量に対する改良処理材の添加割合は、当該改良処理材がNa,SrおよびCaの場合には30〜200ppm、Sbの場合には0.05〜0.20重量%の範囲であることが好ましい。改良処理材の添加割合が30ppm(Sbの場合には0.05重量%)未満の場合には、アルミニウム合金中の共晶Siの粒子を微細化するのが困難となり、逆に、改良処理材の添加割合が200ppm(Sbの場合には0.20重量%)より多い場合には、アルミニウム合金中の共晶Siの粒子は十分に微細化されており、これ以上添加量を増やしても添加効果が上がらなくなるからである。
【0022】
また、上記改良処理材に代えて、或いは改良処理材と共に、B(硼素)を添加するようにしてもよい。このようにBを添加することによってアルミニウム合金の結晶粒が微細化され、当該合金の伸びを向上させることができる。なお、かかる効果は、特にSi量が少ない場合や冷却速度の遅い鋳造方法を用いる場合に顕著となる。
アルミニウム合金全体の重量に対するBの添加割合は、1〜50ppmの範囲であることが好ましい。Bの添加割合が1ppm未満の場合には、アルミニウム合金中の結晶粒を微細化するのが困難となり、逆に、Bの添加割合が50ppmより多い場合には、アルミニウム合金中の結晶粒は十分に微細化されており、これ以上添加量を増やしても添加効果が上がらなくなるからである。
【0023】
本発明のダイカスト用アルミニウム合金を製造する際には、まず、Al,Cu,Si,Mg,Fe,Mn及びCrの各元素成分が上述した所定の割合となるように含有させた原料を準備する(必要に応じて上記のTiや改良処理材等も添加。)。続いて、この原料を前炉付溶解炉や密閉溶解炉などの溶解炉に投入し、これらを溶解させる。溶解させた原料すなわちアルミニウム合金の溶湯は、必要に応じて脱水素処理および脱介在物処理などの精製処理が施される。そして、精製された溶湯を所定の鋳型などに流し込み、固化させることによって、アルミニウム合金の溶湯を合金地金インゴットなどに成形する。
【0024】
また、本発明のダイカスト用アルミニウム合金を用いてアルミニウム合金ダイカストを鋳造した後、必要に応じて溶体化処理及び時効処理などが施される。このようにアルミニウム合金ダイカストに溶体化処理および時効処理などを施すことによってアルミニウム合金鋳物の機械的特性を改良することができる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、下記の各種合金における機械的特性(具体的には、引張強さ,伸び,0.2%耐力)は、次の方法で測定した。すなわち、型締力135トンの通常のダイカストマシン(東芝機械(株)社製・DC135EL)を用いて、射出速度1.0m/秒、鋳造圧力60MPaでダイカスト鋳造し、ASTM(American Society for Testing and Material)規格に準拠した丸棒試験片を作製した。そして、鋳放しの状態のかかる丸棒試験片について、(株)島津製作所社製の万能試験機(AG−IS 100kN)を用いて、引張強さ,伸び,0.2%耐力を測定した。
また、各種合金の合金成分は、固体発光分光分析機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 Thermo Scientific ARL4460)を用いて測定した。
【0026】
Cuのダイカスト用アルミニウム合金物性に対する影響
表1は、Cu以外の合金成分が本発明範囲内における或る一定の割合となるように調整すると共に、Cuの含有割合を変化させて製造したダイカスト用アルミニウム合金の成分組成及び各機械的特性(引張強さ,伸び,0.2%耐力)を示したものである。
【0027】
【表1】
【0028】
この表1および図1が示すように、ダイカスト用アルミニウム合金のCuの含有割合が増えるに従って当該合金の引張強さ(図1−1参照)が向上することが窺える。
これに対し、当該合金の伸びは、Cuの含有割合が0.70重量%を超えると著しく低下するような傾向が窺える(図1-2参照)。このため、本発明のダイカスト用アルミニウム合金では、Cuの含有割合を0.05重量%以上で且つ0.70重量%以下の範囲内とするのが好ましい。
なお、表1中の合金1〜3は、本発明範囲内の合金組成、すなわち実施例合金である。
【0029】
Mgのダイカスト用アルミニウム合金物性に対する影響
表2は、Mg以外の合金成分が本発明範囲内における或る一定の割合となるように調整すると共に、Mgの含有割合を変化させて製造したダイカスト用アルミニウム合金の成分組成及び各機械的特性(引張強さ,伸び,0.2%耐力)を示したものである。
【0030】
【表2】

【0031】
この表2および図2が示すように、ダイカスト用アルミニウム合金のMgの含有割合が増えるに従って当該合金の0.2%耐力が向上し、Mgの含有割合が0.50重量%を超えた辺りから当該合金の0.2%耐力が160MPaを超えるようになることが窺える(図2−1参照)。
一方、当該合金の伸びは、Mgの含有割合が増えるに従って漸減し、Mgの含有割合が1.0重量%を超えた辺りから当該合金の伸びが7%を下回るようになる傾向が窺える(図2−2)。このため、本発明のダイカスト用アルミニウム合金では、Mgの含有割合を0.50重量%超で且つ1.0重量%以下の範囲内とするのが好ましい。
なお、表2中の合金6〜8は、本発明範囲内の合金組成、すなわち実施例合金である。
【0032】
本実施形態のダイカスト用アルミニウム合金によれば、Cuを0.05重量%以上で且つ0.70重量%以下の範囲内で含有させると共にMgを0.50重量%超から1.0重量%以下の範囲内で含有させることができるので、リサイクル原料の使用が可能となるのに加え、伸びの低下を抑えつつ引張強さや0.2%耐力と言った機械的性質を向上させることができる。また、耐食性を悪化させる虞のあるCuの含有割合を上記範囲内に抑える一方で、耐食性改善効果のあるCrを0.10重量%以上で且つ0.40重量%以下含有するようにしているので、ダイカスト用アルミニウム合金の耐食性の悪化を防止することができる。
図1
図2