特許第6852214号(P6852214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6852214-下水処理システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852214
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】下水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20060101AFI20210322BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20210322BHJP
   C02F 11/121 20190101ALI20210322BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20210322BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   C02F3/34 Z
   C02F11/02
   C02F11/121
   !C12M1/00 D
   !C12N1/20 D
   !C12N1/20 F
【請求項の数】18
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-152441(P2020-152441)
(22)【出願日】2020年9月11日
(62)【分割の表示】特願2020-91824(P2020-91824)の分割
【原出願日】2019年8月16日
(65)【公開番号】特開2021-3699(P2021-3699A)
(43)【公開日】2021年1月14日
【審査請求日】2020年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2018-235072(P2018-235072)
(32)【優先日】2018年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518395555
【氏名又は名称】株式会社京玉エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】松井 三郎
(72)【発明者】
【氏名】杉原 孝文
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−018357(JP,A)
【文献】 特開2008−126169(JP,A)
【文献】 特開2010−227790(JP,A)
【文献】 特開2001−162297(JP,A)
【文献】 特開2004−275960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 11/00− 11/20
C02F 3/28− 3/34
C12N 1/00− 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最初沈殿池、生物処理槽および最終沈殿池のうち少なくとも生物処理槽および最終沈殿池を備え、下水の処理を行う下水処理設備を備えた下水処理システムにおいて、
前記最初沈殿池および最終沈殿池のうち少なくとも最終沈殿池に接続され、最初沈殿池からの余剰汚泥および最終沈殿池からの返送汚泥のうち少なくとも最終沈殿池からの返送汚泥を受け、これを脱水するための脱水手段、
この脱水手段からの脱水汚泥を、温度を60℃〜110℃に保った状態で、酸素を供給して、前記脱水汚泥中のグラム陽性の好気性微生物により好気性発酵させ、これによりグラム陰性の嫌気性および通性嫌気性微生物を分解死滅させるとともに、この好気性発酵以降に生成された好気性微生物の芽胞を含有する微生物資材を製造する微生物資材製造装置、
後述する微生物活性化装置に、該下水処理システムの系のいずれかからの水を給送するための水給送手段、
後述する微生物活性化装置に、酸素を供給するための酸素供給手段、および
前記微生物資材製造装置からの微生物資材を受け、かつ前記酸素供給手段からの酸素、および前記水給送手段からの水の供給を受けると共に、この水の温度を10℃〜40℃に、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記芽胞を発芽させて、活性化させ、この活性化された微生物資材を前記生物処理槽に供給する微生物活性化装置を備え、
前記好気性微生物が、フィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、および/または放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、および/またはクロロフレクサス門のグラム陽性菌を含む
ことを特徴とする下水処理システム。
【請求項2】
前記好気性微生物が、放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するものを含む請求項1の下水処理システム。
【請求項3】
前記微生物資材は、それに含まれる微生物のうち、放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するものが最も多い請求項2の下水処理システム。
【請求項4】
前記微生物活性化装置へ供給する前記水が、前記下水処理設備により処理済みの水である請求項1〜3のいずれかの下水処理システム。
【請求項5】
前記微生物活性化装置へ供給する前記水は、前記下水処理設備が、前記最終沈殿池からの水を消毒するための消毒槽を備えている場合、この消毒槽における消毒前の水である請求項4の下水処理システム。
【請求項6】
前記水給送手段からの水の温度を15℃〜40℃の範囲に維持する請求項1〜5のいずれかの下水処理システム。
【請求項7】
前記水給送手段からの水が、前記芽胞の発芽に必要な栄養素を備えている請求項1〜6のいずれかの下水処理システム。
【請求項8】
前記酸素供給手段からの酸素が、空気の形態で供給される請求項1〜7のいずれかの下水処理システム。
【請求項9】
前記嫌気性および通性嫌気性微生物が、腸内に存在するプロテオバクテリア門のグラム陰性の硫酸塩還元菌を含むもの、および/またはバクテロイデス門のグラム陰性のものである請求項1〜8のいずれかの下水処理システム。
【請求項10】
下水のための中継ポンプ場と、最初沈殿池、生物処理槽および最終沈殿池のうち少なくとも生物処理槽および最終沈殿池を備え、下水道管渠を介して、前記中継ポンプ場からの下水を受け、これを処理する下水処理設備とを備えた下水処理システムにおいて、
前記最初沈殿池および最終沈殿池のうち少なくとも最終沈殿池に接続され、最初沈殿池からの余剰汚泥および最終沈殿池からの返送汚泥のうち少なくとも最終沈殿池からの返送汚泥を受け、これを脱水するための脱水手段、
この脱水手段からの脱水汚泥を、温度を60℃〜110℃に保った状態で、酸素を供給して、前記脱水汚泥中のグラム陽性の好気性微生物により好気性発酵させ、これによりグラム陰性の嫌気性および通性嫌気性微生物を分解死滅させるとともに、この好気性発酵以降に生成された好気性微生物の芽胞を含有する微生物資材を製造する微生物資材製造装置、
後述する第1微生物活性化装置に、該下水処理システムの系のいずれかからの水を給送するための第1水給送手段、
後述する第1微生物活性化装置に、酸素を供給するための第1酸素供給手段、
前記微生物資材製造装置からの微生物資材を受け、かつ前記第1酸素供給手段からの酸素、および第1水給送手段からの水の供給を受けると共に、この水の温度を10℃〜40℃に、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記芽胞を発芽させて、活性化させ、この活性化された微生物資材を前記生物処理槽に供給する第1微生物活性化装置、
後述する第2微生物活性化装置に、該下水処理システムの系のいずれかからの水を給送するための第2水給送手段、
後述する第2微生物活性化装置に、酸素を供給するための第2酸素供給手段、および
前記微生物資材製造装置からの微生物資材を受け、かつ前記第2酸素供給手段からの酸素、および第2水給送手段からの水の供給を受けると共に、この水の温度を10℃〜40℃に、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記芽胞を発芽させて、活性化させ、この活性化された微生物資材を前記中継ポンプ場に供給する第2微生物活性化装置を備え、
前記好気性微生物が、フィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、および/または放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、および/またはクロロフレクサス門のグラム陽性菌を含む
ことを特徴とする下水処理システム。
【請求項11】
前記好気性微生物が、放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するものを含む請求項10の下水処理システム。
【請求項12】
前記微生物資材は、それに含まれる微生物のうち、放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するものが最も多い請求項11の下水処理システム。
【請求項13】
前記第1微生物活性化装置へ供給する前記水が、前記下水処理設備により処理済みの水である請求項10〜12のいずれかの下水処理システム。
【請求項14】
前記第1微生物活性化装置へ供給する前記水は、前記下水処理設備が、前記最終沈殿池からの水を消毒するための消毒槽を備えている場合、この消毒槽における消毒前の水である請求項13の下水処理システム。
【請求項15】
前記第1および第2水給送手段からの水の温度を15℃〜40℃の範囲に維持する請求項10〜14のいずれかの下水処理システム。
【請求項16】
前記第1および第2水給送手段からの水が、前記芽胞の発芽に必要な栄養素を備えている請求項10〜15のいずれかの下水処理システム。
【請求項17】
前記第1および第2酸素供給手段からの酸素が、空気の形態で供給される請求項10〜16のいずれかの下水処理システム。
【請求項18】
前記嫌気性および通性嫌気性微生物が、腸内に存在するプロテオバクテリア門のグラム陰性の硫酸塩還元菌を含むもの、および/またはバクテロイデス門のグラム陰性のものである請求項10〜17のいずれかの下水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理システムに関し、更に詳細には、家庭や工場・企業などから排出される下水のための中継ポンプ場と、最初沈殿池、生物処理槽および最終沈殿池を備え、下水道管渠を介して、前記中継ポンプ場からの下水を受け、これを処理する下水処理設備とを備えた下水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
排水や汚水等の被処理液を処理する方法として、活性汚泥により被処理液を処理する活性汚泥処理が広く行われている。
例えば、特開2013−233482号公報等に広く開示されているように、活性汚泥法を適用する廃水処理システムは、基本的には最初沈殿池(なお小規模下水処理システムでは省略する場合がある)と、反応槽と、最終沈殿池とから構成される。そして、活性汚泥法に従って、供給された廃水から最初沈殿池で生汚泥が分離された後、流路を通って供給された廃水に対して反応槽の中で曝気・エアレーションによって酸素を溶解させると同時に攪拌混合し、その中に主に好気性微生物からなる活性汚泥を浮遊滞留させた後、流路を通って供給された最終沈殿池で活性汚泥を沈殿させて、上澄みの水を放流水として流出させる。反応槽は、曝気槽、反応タンク、エアレーションタンク、生物処理槽などと呼ばれることもあり、曝気時間は6〜14時間である。最終沈殿池で沈殿した活性汚泥の一部は、返送汚泥として再び反応槽に戻されて、残りは余剰汚泥として機械濃縮設備で濃縮される。
【0003】
以上のようにして、最終沈殿池で沈殿した活性汚泥の一部を有効利用しているが、これに留まるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−233482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、一歩進んで、活性汚泥を処理して、生物反応槽で更に有効に作用する微生物資材を製造する微生物資材製造装置を備えた下水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、下記構成の本発明の下水処理システムによって達成される。
すなわち、本発明の下水処理システムは、家庭や工場・企業などから排出される下水のための中継ポンプ場と、最初沈殿池(場合によって省略)、生物処理槽および最終沈殿池を備え、下水道管渠を介して、前記中継ポンプ場からの下水を受け、これを処理する下水処理設備とを備えた下水処理システムにおいて、
前記最初沈殿池および/または最終沈殿池に接続され、最初沈殿池からの余剰汚泥および/または最終沈殿池からの返送汚泥を受け、これを脱水するための脱水手段、
この脱水手段からの脱水汚泥を、温度を60℃〜110℃に保った状態で、酸素を供給して、前記脱水汚泥中のグラム陽性の好気性微生物により好気性発酵させ、これによりグラム陰性の嫌気性および通性嫌気性微生物を分解死滅させるとともに、この好気性発酵以降に生成された好気性微生物の芽胞を含有する微生物資材を製造する微生物資材製造装置、
後述する微生物活性化装置に、該下水処理システムの系のいずれかからの水を給送するための第1水給送手段、
後述する第1微生物活性化装置に、酸素を供給するための第1酸素供給手段、
前記第1微生物資材製造装置からの微生物資材を受け、かつ前記第1酸素供給手段からの酸素、および第1水給送手段からの水の供給を受けると共に、この水の温度を10度〜40度、特に15度〜40度に、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記芽胞を発芽させて、活性化させ、この活性化された微生物資材を前記生物処理槽に供給する第1微生物活性化装置、
後述する第2微生物活性化装置に、該下水処理システムの系のいずれかからの水を給送するための第2水給送手段、
後述する第2微生物活性化装置に、酸素を供給するための第2酸素供給手段、
前記微生物資材製造装置からの微生物資材を受け、かつ前記第1酸素供給手段からの酸素、および第1水給送手段からの水の供給を受けると共に、この水の温度を15度〜40度に、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記芽胞を発芽させて、活性化させ、この活性化された微生物資材を前記生物処理槽に供給する第1微生物活性化装置を備え、
前記好気性微生物が、フィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、および/または放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、および/またはクロロフレクサス門のグラム陽性菌を含む
ことを特徴とする。
前記微生物活性化装置へ供給する前記水は、前記下水処理設備により処理済みの水である
前記酸素供給手段からの酸素は、空気の形態で供給されることが好ましい。
前記微生物活性化装置へ供給する前記水は、前記下水処理設備が、前記最終沈殿池からの水を消毒するための消毒槽を備えている場合は、消毒槽における消毒前の水であることが好ましい。
前記前記水給送手段からの水は、前記芽胞の発芽に必要な栄養素を備えている。
前記酸素供給手段からの酸素は、空気の形態で供給されることが好ましい。
前記好気性微生物は、例えば、フィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、および/または放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、および/またはクロロフレクサス門のグラム陽性菌を含むことが望ましい。
前記嫌気性および通性嫌気性微生物としては、腸内に存在するプロテオバクテリア門のグラム陰性の硫酸塩還元菌を含むもの、および/またはバクテロイデス門のグラム陰性のものが挙げられる。
本発明の下水処理システムは、また、家庭や工場・企業などから排出される下水のための中継ポンプ場と、最初沈殿池、生物処理槽および最終沈殿池を備え、下水道管渠を介して、前記中継ポンプ場からの下水を受け、これを処理する下水処理設備とを備えた下水処理システムにおいて、
前記最初沈殿池および/または最終沈殿池に接続され、最初沈殿池からの余剰汚泥および/または最終沈殿池からの返送汚泥を受け、これを脱水するための脱水手段、
この脱水手段からの脱水汚泥を、温度を60℃〜110℃に保った状態で、酸素を供給して、前記脱水汚泥中のグラム陽性の好気性微生物により好気性発酵させ、これによりグラム陰性の嫌気性および通性嫌気性微生物を分解死滅させるとともに、この好気性発酵以降に生成された好気性微生物の芽胞を含有する微生物資材を製造する微生物資材製造装置、
後述する第1微生物活性化装置に、該下水処理システムの系のいずれかからの水を給送するための第1水給送手段、
後述する第1微生物活性化装置に、酸素を供給するための第1酸素供給手段、
前記微生物資材製造装置からの微生物資材を受け、かつ前記第1酸素供給手段からの酸素、および第1水給送手段からの水の供給を受けると共に、この水の温度を10度〜40度、特に15度〜40度に、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記芽胞を発芽させて、活性化させ、この活性化された微生物資材を前記に供給する第1微生物活性化装置
後述する第2微生物活性化装置に、該下水処理システムの系のいずれかからの水を給送するための第2水給送手段、
後述する第2微生物活性化装置に、酸素を供給するための第2酸素供給手段、および
前記微生物資材製造装置からの微生物資材を受け、かつ前記第1酸素供給手段からの酸素、前記第2水給送手段からの水を受けると共に、この水の温度を10度〜40度の範囲、特に15度〜40度の範囲、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記芽胞を発芽させて、活性化させ、この活性化された微生物資材を前記中継ポンプ場に供給する第2微生物活性化装置を備えており、
前記好気性微生物が、フィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、および/または放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、および/またはクロロフレクサス門のグラム陽性菌を含む
ことを特徴とする。
前記第1微生物活性化装置へ供給する前記水は、前記下水処理設備により処理済みの水であり、特に、前記下水処理設備が、前記最終沈殿池からの水を消毒するための消毒槽を備えている場合は、消毒槽における消毒前の水である
ことを特徴とする。
この下水処理システムにおける酸素、水等の条件は、上記とほぼ同様であるので、これ以上の説明は省略する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の下水処理システムにおいては、微生物資材製造装置を設けて、下水処理に有用な微生物を主として芽胞の形で存在させ、この微生物資材製造装置によって製造された微生物資材を、前記微生物活性化装置によって、前記芽胞を発芽させ、下水中の有機物の分解に有用な微生物であるフィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、および/または放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、および/またはクロロフレクサス門のグラム陽性菌がリッチな状態とする。以上により、生物処理槽における処理を、活性汚泥および微生物活性化装置からの微生物により行うようにしたもので、極めて効率よく下水汚泥の有機物を分解処理できる。
一般に活性汚泥の細菌相は プロテオバクテリア門,バクテロイデス門等が最も多いが、本発明の下水処理システムにおける微生物資材には、フィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、クロロフレクサス門のグラム陽性菌の存在がリッチな状態(例えば微生物資材中の微生物のうち、アクチノバクテリアが50%強、フィルミクテスが20%強、クロロフレクサス門が10%強含まれる)で存在することで、活性汚泥生物処理槽において、前記プロテオバクテリア門,バクテロイデス門等の存在が減り、活性汚泥濃度MLSSが2000-4000mg/Lに上昇して運転しても、活性汚泥の沈降性が良くBOD減少が安定して浄化処理されることから、従来からの課題、すなわち、(1)バルキング問題の改善、(2)硝化脱窒素改善、(3)脱リン処理改善および(4)最終沈殿池における発砲・スカム問題の改善の全てについて有効であった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施の形態による下水処理システムの構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態による下水処理システム10について説明する。
【0010】
下水処理システム10は、家庭や工場・企業などから排出される下水のための中継ポンプ場20、および下水道管渠100を介して、前記中継ポンプ場20からの下水を受け、これを処理する下水処理設備50を備えている。この下水処理設備50は、通常の活性汚泥法によるものと同様、最初沈殿池52、生物処理槽(曝気槽)54、最終沈殿池56および消毒槽58を備えており、下水は、以上を経て、浄化され、消毒され、下水管渠を介して放流される。下水処理設備50の上記した構成については、この種下水処理システム10においては、通常のものであるので、これ以上の詳細は省略する。また、中継ポンプ場20は、各家庭や工場等から延びる下水管渠に接続されたポンプPを備えている。
【0011】
前記下水処理システム10は、さらに前記最初沈殿池52および最終沈殿池56に接続され、最初沈殿池からの余剰汚泥および最終沈殿池からの返送汚泥を受け、これを脱水するための脱水装置を備えている。この脱水装置60には、前記余剰汚泥および返送汚泥の一方のみを受け、これを脱水するようにしてもよい。この脱水装置60としては、遠心分離型、フィルタープレス型や機械濃縮型等のいずれの形式の脱水方法を行うものであってもよく、この脱水装置60によって、前記余剰汚泥および/または返送汚泥を含水率65〜85%の脱水汚泥とする。
【0012】
この脱水装置には、微生物資材製造装置62が接続されている。この微生物資材製造装置62は、前記脱水装置60からの脱水汚泥を、温度を60℃〜110℃に保った状態で、酸素を供給して、前記脱水汚泥中のグラム陽性の好気性微生物により好気性発酵させる。この好気性発酵で費やした脱水汚泥中の水分および栄養分の枯渇により、グラム陰性の嫌気性微生物を分解死滅、あるいは少なくとも一部死滅をさせるとともに、好気性微生物が芽胞となることを利用して、有害なグラム陰性の嫌気性および通性嫌気性微生物を極力含まず、有益な好気性微生物の芽胞を高率(微生物資材中の微生物のうち、アクチノバクテリアが50%強、フィルミクテスが20%強、クロロフレクサス門が10%強含まれる)で含有する微生物資材を製造する。この微生物資材製造装置62は、上記の温度管理のため、ヒータを備えており、また必要により酸素(空気)供給装置を備える。この微生物資材製造装置62により、比較的乾燥したサラサラの粒子上微生物資材が製造される。
【0013】
前記下水処理システム10は、前記下水処理設備50に設置され、あるいは接続された第1微生物活性化装置70を備えている。この微生物活性化装置70には、該下水処理システムの系のいずれかからの水を該微生物活性化装置70に給送するための第1水給送手段72が接続されている。この微生物活性化装置70には、必要に応じて、および酸素を該微生物活性化装置70に給送するための第1酸素供給手段74が接続されている。前記水給送手段72が供給する水としては、処理を受ける前の下水(例えば、前記中継ポンプ場20のポンプPより上流の下水)や、消毒槽58前の最終沈殿池56から流れ出る水であることが好ましい。これらの水は、前記芽胞を発芽させるために必要な栄養素を含有しており、芽胞の発芽に必要な水分と栄養素を同時に提供できる。
第1水給送手段72からの水中の溶存酸素量が不足している場合には、第1酸素供給手段74から酸素を供給する。この供給される酸素は、空気の形で供給されても良い。この場合、酸素発生装置や酸素タンクを特別に設ける必要はない
なお、従来技術(特開2001−271510号公報参照)において、本発明の微生物資材にほぼ相当する発酵物(肥料のための)を下水汚泥に直接添加するものがあるが、その目的は、活性汚泥の沈殿の促進であり、その目的が本発明の目的とは異なっている。また、前記従来技術からは、当該発酵物を前記生物反応槽に直接添加することも考えられるが、前記生物反応槽には、栄養素を優先して消費する他の微生物(グラム陰性菌等)が多く存在し、芽胞の発芽のための栄養素等が枯渇し、あるいは少なくなっているため、生物反応槽に直接添加された芽胞は、発芽することなく、あるいは発芽に長時間を必要とする。したがって、有用微生物の下水処理の機能の発揮は限定的であると思われる。
【0014】
前記第1微生物活性化装置70は、前記微生物資材製造装置62からの微生物資材を受け、該微生物資材に、前記水給送手段72からの水を供給すると共に、この水の温度を10度〜40度の範囲、特に15度〜40度の範囲、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記胞子を発芽させて、活性化させる。前記水温を前記の範囲に維持するため、冷暖設備を備えていても良い。また、酸素濃度を前記の範囲に維持するため、前記酸素供給手段74からの酸素(空気)の供給を受けるようにする。なお、この微生物活性化装置70において、芽胞が発芽するには、発芽の環境が整ってから、5分以上掛かるため、微生物資材が競合するグラム陰性菌を極力含まないこの微生物活性化装置70に5分以上滞留した後、生物処理槽54に投入される。
【0015】
以上の構成により、本下水処理システム10においては、生物処理槽54中に微生物資材製造装置62からの微生物資材中の芽胞が発芽した微生物(好気性)が、通常の活性汚泥に追加されて供給され、活性汚泥中の有用微生物とともに、下水の有機物の分解処理を効率よく行う。
【0016】
なお、本発明において、前記好気性微生物としては、例えば、フィルミクテス門のグラム陽性のバシラス綱に属するもの、および/または放線菌門のグラム陽性のアクチノバクテリア綱に属するもの、および/またはクロロフレクサス門のグラム陽性を含み、そして場合により酵母菌をも挙げることができる。
一方、前記嫌気性および通性嫌気性微生物としては、腸内に存在するプロテオバクテリア門のグラム陰性の硫酸塩還元菌を含むもの、および/またはバクテロイデス門のグラム陰性のものを挙げることができる。
【0017】
本下水処理システム10は、前記中継ポンプ場20に設置され、あるいは接続された第2微生物活性化装置80を更に備えている。この微生物活性化装置80には、該下水処理システムの系のいずれかからの水を該第2微生物活性化装置80に給送するための第2水給送手段82、および酸素を該第2微生物活性化装置80に給送するための第2酸素供給手段84が接続されている。前記第2水給送手段72が供給する水としては、処理を受ける前の下水(例えば、前記中継ポンプ場20のポンプPより上流の下水)や、消毒槽58前の最終沈殿池56から流れ出る水であることが好ましい。これらの水は、前記芽胞を発芽させるために必要な栄養素を含有しており、芽胞の発芽に必要な水分と栄養素を同時に提供できる。
【0018】
また、第2酸素供給手段74から供給される酸素は、上述した第1酸素供給手段74と同様、空気の形で供給されても良い。この場合、酸素発生装置や酸素タンクを特別に設ける必要はない。また、下水中の酸素濃度が、発芽に十分と認められる場合には、空気を、前記ポンプP中の下水、ポンプPから排出された直後の下水に導入してもよい。
【0019】
前記第2微生物活性化装置80は、前記第1微生物活性化装置70と同様、前記微生物資材製造装置62からの微生物資材を受け、該微生物資材に、前記第2水給送手段82からの水を供給すると共に、この水の温度を10度〜40度の範囲、特に15度〜40度の範囲、酸素濃度を1〜10mg/Lに維持して、前記微生物資材の前記胞子を発芽させて、活性化させる。前記水温を前記の範囲に維持するため、冷暖設備を備えていても良い。また、酸素濃度を前記の範囲に維持するため、前記酸素供給手段74からの酸素(空気)の供給を受けるようにする。前記酸素供給手段74からの酸素(空気)は、また、前記中継ポンプ場20のいずれかの箇所の下水に供給され、下水中の溶存酸素量を増大させる。なお、この微生物活性化装置80において、芽胞が発芽するには、上記と同様、通常、発芽の環境が整ってから、5分以上掛かるため、微生物資材が競合するグラム陰性菌を極力含まないこの微生物活性化装置80に5分以上滞留した後、下水(例えば、前記ポンプ中の下水)に投入されることが好ましい。
【0020】
以上の構成により、本下水処理システム10においては、中継ポンプ場20より下流の下水管渠に、発芽した好気性微生物およびもともと下水中に存在していた好気性微生物の酸素の消費にかかわらず、下水中には、十分な酸素が溶存した状態(酸素濃度が増大した状態)となる。
下水の酸素濃度が増大した結果、嫌気性細菌である硫酸塩還元菌を失活化させ硫化水素の生成を抑制する結果として、硫酸生成菌の抑制により硫酸の生成の防止を行うとともに、好気性微生物により、中継ポンプ場直下からの下水管渠の壁面のバイオフィルム内細菌条件を良好な状態に改善させることができ、これによって、硫酸の発生を抑制し、下水管渠の腐食を防止し、長寿命化するとともに、前記好気性微生物の活動により下水自体の清浄化を図り、後の設備の負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0021】
10 下水処理システム
20 中継ポンプ場
50 下水処理設備
52 最初沈殿池
54 生物処理槽
56 最終沈殿池
58 消毒槽
60 脱水装置
62 微生物資材製造装置
70 第1微生物活性化装置
72 第1水給送手段
74 第1酸素供給手段
80 第2微生物活性化装置
82 第2水給送手段
84 第2酸素供給手段
100 下水管渠
P ポンプ

図1