特許第6852223号(P6852223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852223
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20210322BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210322BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/013
   C08K3/04
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-507773(P2020-507773)
(86)(22)【出願日】2019年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2019011089
(87)【国際公開番号】WO2019181828
(87)【国際公開日】20190926
【審査請求日】2020年3月11日
(31)【優先権主張番号】特願2018-52474(P2018-52474)
(32)【優先日】2018年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】塚口 晋悟
(72)【発明者】
【氏名】青柳 太洋
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−518463(JP,A)
【文献】 特開2010−006998(JP,A)
【文献】 特開昭60−144367(JP,A)
【文献】 特開2014−098849(JP,A)
【文献】 特開昭59−056435(JP,A)
【文献】 特開2015−093910(JP,A)
【文献】 特表2003−510416(JP,A)
【文献】 特開2007−191515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(但し、ポリ(アリーレンエーテル)を除く)及び導電性フィラーを含有する導電性樹脂組成物(但し、耐衝撃性改良剤を含むものを除く)であって、
導電性を向上させるための成分である染料をさらに含有し、
前記染料が、ペリノン系染料、ペリレン系染料、キノリン系染料、アンスラキノン系染料、アゾメチン系染料、ジスアゾ系染料、及びチオキサンテン系染料の少なくともいずれかであり、
前記導電性フィラーが、カーボンブラック、マルチウォールカーボンナノチューブ、シングルウォールカーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンの少なくともいずれかであり、
前記染料の含有量が、前記熱可塑性樹脂と前記導電性フィラーの合計100質量部に対して0.3〜1質量部であり、
前記導電性フィラーの含有量が、前記熱可塑性樹脂と前記導電性フィラーの合計100質量部に対して0.5〜25質量部であり、
前記熱可塑性樹脂、前記導電性フィラー、及び前記染料を含有する原料混合物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下で混錬又は成型して得られる導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記原料混合物を、前記染料の融点以上の温度条件下で混錬又は成型して得られる請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、及びポリフェニレンスルフィドの少なくともいずれかである請求項1又は2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂、導電性フィラー、及び染料を含有する原料混合物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下で混錬又は成型する工程を有する導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物を、前記染料の融点以上の温度条件下で混錬又は成型する請求項に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物を射出成型する請求項又はに記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物及び導電性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気絶縁性の熱可塑性樹脂に導電性フィラーを配合し、熱可塑性樹脂に導電性を付与することが行われている。このような目的に用いられる導電性フィラーとしては、金属繊維や金属粉末等の金属材料の他、カーボンナノチューブやカーボンブラック等の炭素系材料などがある。これらの導電性フィラーを熱可塑性樹脂に配合して得られる導電性樹脂組成物は、例えば、電子・電気部品等の構成材料として用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂に配合する導電性フィラーの量は、所定の導電性が付与される範囲内であれば、可能な限り少ないことが望ましい。導電性フィラーの配合量を少なくすれば、熱可塑性樹脂本来の特性が維持されやすくなるとともに、コスト面でも有利となるためである。
【0004】
そして、近年、得られる導電性樹脂組成物の導電性をより向上させるべく、導電性フィラーの形状や比表面積等の物性を制御することが検討されている。また、導電性を向上させるための成分をさらに配合するといった試みもなされている。具体的には、繊維径が所定の範囲内にある炭素繊維を、その破断率を20%以下に抑えて熱可塑性樹脂に配合して得られる導電性の樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。また、炭素系の導電性フィラー及びアルキルスルホン酸金属塩を熱可塑性樹脂に配合した導電性の樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
【0005】
なお、得られる樹脂組成物の導電性が成型方法によって変動することが知られている。なかでも、射出成型の場合、高速で射出するほど導電性が低下する傾向にある。成型方法に依拠することなく導電性に優れた樹脂組成物を製造すべく、例えば、導電性材料の増量や、樹脂との相溶性が低い第三成分の添加などの材料面での工夫がなされていた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−097006号公報
【特許文献2】特開2007−277313号公報
【特許文献3】特許第6076542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2で提案された樹脂組成物であっても、必ずしも導電性が十分に向上しているとは言えなかった。また、特許文献1で提案された樹脂組成物は、導電性フィラーである炭素繊維の形状等を厳密に制御して製造する必要があるため、汎用性にやや欠けるものであった。さらに、特許文献2で提案された樹脂組成物は、アルキルスルホン酸金属塩を必須成分として含有するため、熱可塑性樹脂本来の特性が損なわれやすくなるといった懸念もある。
【0008】
また、導電性材料の増量や第三成分の添加などの工夫によって、ある程度導電性の良好な樹脂組成物を得ることは可能ではあった。しかしながら、熱可塑性樹脂以外の成分の含有割合が増加することになるため、熱可塑性樹脂本来の特性が損なわれやすいといった課題があった。さらに、成型方法によらず、導電性に優れた導電性樹脂組成物を安定して製造する方法が要望されていた。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、熱可塑性樹脂本来の特性が維持されやすく、導電性フィラーの配合量が少なくても、より優れた導電性を示す導電性樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記導電性樹脂組成物の簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、「導電性を向上させる」といった機能を有することが従来知られていなかった染料を樹脂に添加することで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示す導電性樹脂組成物が提供される。
[1]熱可塑性樹脂(但し、ポリ(アリーレンエーテル)を除く)及び導電性フィラーを含有する導電性樹脂組成物(但し、耐衝撃性改良剤を含むものを除く)であって、導電性を向上させるための成分である染料をさらに含有し、前記染料が、ペリノン系染料、ペリレン系染料、キノリン系染料、アンスラキノン系染料、アゾメチン系染料、ジスアゾ系染料、及びチオキサンテン系染料の少なくともいずれかであり、前記導電性フィラーが、カーボンブラック、マルチウォールカーボンナノチューブ、シングルウォールカーボンナノチューブ、グラファイト、及びグラフェンの少なくともいずれかであり、前記染料の含有量が、前記熱可塑性樹脂と前記導電性フィラーの合計100質量部に対して0.3〜1質量部であり、前記導電性フィラーの含有量が、前記熱可塑性樹脂と前記導電性フィラーの合計100質量部に対して0.5〜25質量部であり、前記熱可塑性樹脂、前記導電性フィラー、及び前記染料を含有する原料混合物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下で混錬又は成型して得られる導電性樹脂組成物。
[2]前記原料混合物を、前記染料の融点以上の温度条件下で混錬又は成型して得られる前記[1]に記載の導電性樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、及びポリフェニレンスルフィドの少なくともいずれかである前記[1]又は[2]に記載の導電性樹脂組成物
【0012】
また、本発明によれば、以下に示す導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
]前記[1]〜[]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の製造方法であって、熱可塑性樹脂、導電性フィラー、及び染料を含有する原料混合物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下で混錬又は成型する工程を有する導電性樹脂組成物の製造方法。
]前記原料混合物を、前記染料の融点以上の温度条件下で混錬又は成型する前記[]に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
]前記原料混合物を射出成型する前記[]又は[]に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導電性フィラーの配合量が少なくても、より優れた導電性を示す導電性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記導電性樹脂組成物の簡便な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<導電性樹脂組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び導電性フィラーを含有するものであり、導電性を向上させるための成分である染料をさらに含有する。そして、本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、導電性フィラー、及び染料を含有する原料混合物を、熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下、好ましくは染料の融点以上の温度条件下で混錬又は成型して得られるものである。以下、本発明の導電性樹脂組成物の詳細について説明する。
【0015】
(熱可塑性樹脂)
本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有する。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルスルフィド、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアセタール(POM)などを挙げることができる。なかでも、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、及びポリフェニレンスルフィドが好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
導電性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、導電性樹脂組成物の全体を基準として、70質量%以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が70質量%未満であると、成形性が低下する場合がある。
【0017】
(導電性フィラー)
本発明の導電性樹脂組成物は、導電性フィラーを含有する。導電性フィラーとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラックの他、マルチウォールカーボンナノチューブ、シングルウォールカーボンナノチューブ、カップスタック型カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェンなどを挙げることができる。なかでも、カーボンブラック、マルチウォールカーボンナノチューブ、シングルウォールカーボンナノチューブ、カップスタック型カーボンナノチューブが好ましく、カーボンブラック、マルチウォールカーボンナノチューブ、シングルウォールカーボンナノチューブがさらに好ましい。これらの導電性フィラーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
導電性樹脂組成物中の導電性フィラーの含有量は、熱可塑性樹脂と導電性フィラーの合計100質量部に対して0.01〜30質量部であることが好ましく、0.5〜25質量部であることがさらに好ましい。導電性フィラーの含有量が熱可塑性樹脂と導電性フィラーの合計100質量部に対して0.01質量部未満であると、導電性樹脂組成物及びそれを用いて(成型して)得られる成形物の導電性が不足する場合がある。一方、導電性フィラーの含有量が熱可塑性樹脂と導電性フィラーの合計100質量部に対して30質量部超であると、熱可塑性樹脂本来の特性が損なわれやすくなる傾向にある。
【0019】
(染料)
本発明の導電性樹脂組成物は、導電性を向上させるための成分である染料を含有する。染料と導電性フィラーを比較すると、染料のほうが熱可塑性樹脂との相溶性が高い。このため、染料を含有させることで、熱可塑性樹脂との相溶性が相対的に低い導電性フィラーが樹脂組成物の表面に配向されやすくなり、導電性樹脂組成物の表面抵抗値が低くなる(導電性が向上する)と考えられる。すなわち、染料は、樹脂中における導電性フィラーの分散性向上に寄与する機能を有する成分であり、染料が分散材として機能することで導電性フィラーが樹脂中に良好な状態で分散され、得られる樹脂組成物の導電性が低下したものと推測される。したがって、本発明の導電性樹脂組成物は、導電性フィラーの配合量が少ない場合であっても、より優れた導電性を示すものである。さらに、導電性フィラーの配合量を減らすことができるため、熱可塑性樹脂本来の特性が維持されやすいといった利点もある。
【0020】
染料としては、樹脂を着色するために用いられる一般的な染料(樹脂着色用染料)を用いることができる。染料としては、ペリノン系染料、ジスアゾ系染料、アンスラキノン系染料、複素環系染料、ペリレン系染料、アゾ系染料、メチン系染料、ナフタルイミド系染料、アゾメチン系染料、クマリン系染料、アンスラピリドン系染料、アジン系染料、フタロシアニン系染料、チオインジゴ系染料、キノリン系染料、チオキサンテン系染料などを挙げることができる。なかでも、より少ない量で導電性を効率的に向上させることができることから、ペリノン系染料、ペリレン系染料、キノリン系染料、アンスラキノン系染料、ジスアゾ系染料、アゾメチン系染料、及びチオキサンテン系染料が好ましく、ペリノン系染料、ペリレン系染料、キノリン系染料、アンスラキノン系染料、アゾメチン系染料、及びチオキサンテン系染料がさらに好ましい。これらの染料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
導電性樹脂組成物中の染料の含有量は、熱可塑性樹脂と導電性フィラーの合計100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましく、0.1〜3質量部であることがさらに好ましく、0.3〜1質量部であることが特に好ましい。染料の含有量が熱可塑性樹脂と導電性フィラーの合計100質量部に対して0.01質量部未満であると、導電性の向上効果がやや不足する場合がある。一方、染料の含有量が熱可塑性樹脂と導電性フィラーの合計100質量部に対して5質量部超であると、ブリードアウトや、機械物性の低下等の懸念がある。
【0022】
(その他の成分)
導電性樹脂組成物には、必要に応じて、熱可塑性樹脂、導電性フィラー、及び染料以外の成分(その他の成分)を配合することができる。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、難燃剤、滑剤などを挙げることができる。
【0023】
<導電性樹脂組成物の製造方法>
本発明の導電性樹脂組成物は、前述の熱可塑性樹脂、導電性フィラー、及び染料を含有する原料混合物を、熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下で混錬又は成型して得られるものである。すなわち、本発明の導電性樹脂組成物の製造方法は、上記の原料混合物を、熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下で混錬又は成型する工程(混錬・成型工程)を有する。
【0024】
混錬・成型工程では、例えば、熱可塑性樹脂、導電性フィラー、及び必要に応じて配合されるその他の成分を溶融混練した後、押出機を使用してペレットに造粒する。溶融混練の方法は特に限定されず、公知の溶融混練方法を採用することができる。具体的には、タンブラーやヘンシェルミキサーをはじめとする高速ミキサー等の各種混合機を用いて各成分を予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等の混練装置で溶融混練する方法を挙げることができる。なかでも、生産効率の観点から、押出機を用いる方法が好ましく、二軸押出機を用いる方法がさらに好ましい。
【0025】
次いで、造粒したペレットと染料を混合して原料混合物を得るとともに、得られた原料混合物を、熱可塑性樹脂の融点以上の温度条件下で混錬又は成型する。これにより、導電性樹脂組成物(導電性樹脂成形物)を得ることができる。原料混合物を混錬又は成型する際の温度が熱可塑性樹脂の融点未満であると、導電性樹脂組成物を得ることができない。また、原料混合物を、染料の融点以上の温度条件下で混錬又は成型することが好ましい。染料の融点以上の温度で原料混合物を混錬又は成型すると、染料を熱可塑性樹脂中により良好な状態で溶融させることができ、得られる導電性樹脂組成物の導電性をさらに向上させることができる。
【0026】
成型方法としては、熱可塑性樹脂を成型するための公知の成型方法を採用することができる。成型方法の具体例としては、射出成型法、プレス成型法、押出成形法などを挙げることができる。なかでも、原料混合物を射出成型することが、より生産性が向上するために好ましい。射出成型法としては、公知の射出成型法を採用することができる。
【0027】
前述の通り、通常、得られる導電性樹脂組成物の導電性は成型方法によって変動する。特に、射出成型の場合、高速で射出するほど得られる製品の導電性が低下しやすい。これに対して、本発明の導電性樹脂組成物の製造方法では、導電性を向上させるための成分であるとともに、導電性フィラーの分散性を向上させる分散剤としての機能をも有することが期待される染料を含有する原料混合物を上述した特定の条件で混錬又は成型する。このため、射出成型によって、なかでも高速で射出する射出成型によって原料混合物を成型した場合であっても、得られる導電性樹脂組成物の導電性が低下しにくく、導電性に優れた導電性樹脂組成物(成型品)を製造することができる。また、高速で射出する射出成型によっても導電性に優れた導電性樹脂組成物が得られるため、短時間で大量の製品を製造することができ、生産性を高めることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0029】
<導電性樹脂組成物(射出成型物)の製造>
(実施例1)
ポリカーボネート(商品名「L1225WP」、帝人社製、融点:約250℃)95部、及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT、商品名「NC7000」、Nanocyl社製)5部をミキサー(商品名「スーパーミキサー 型式SMB−20」、川田製作所社製)に投入し、1分間混合して混合物を得た。設定温度280℃の二軸押出機(商品名「TEX30」、日本製鋼所社製)に得られた混合物を投入し、溶融混錬及び造粒して造粒物を得た。得られた造粒物、及びSolvent Red 179(商品名「MACROLEX RED E2GGRAN」、ランクセス社製)0.5部をポリ袋に入れて混合し、原料混合物1を得た。
【0030】
射出成型機(型式「J110AD−180H」、日本製鋼所製)を使用し、シリンダー温度320℃、金型温度120℃の条件で得られた原料混合物1を低速(20mm/s)、及び高速(300mm/s)の2パターンで射出成型してプレート(150mm×80mm×2mmt)を製造した。
【0031】
(実施例2、3、5〜9、11、及び14〜20、参考例4、10、12、及び13、比較例1〜7)
表1−1及び1−2に示す配合(単位:部)としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして原料混合物2〜24を調製した。また、原料混合物1に代えて、調製した原料混合物2〜24をそれぞれ用いたこと、及びシリンダー温度を表3に示す温度(成型温度)としたこと以外は、前述の実施例1と同様にしてプレートを製造した。使用した染料の詳細を表2に示す。なお、ポリブチレンテレフタレートの融点は約220℃であり、ポリフェニレンスルフィドの融点は約280℃であり、ポリアミド6の融点は約225℃である。また、表1−1及び1−2中の「カーボンブラック」は、デンカ社製のアセチレンブラック(商品名「デンカブラック粒状」)である。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
<評価(1)>
(表面抵抗値の測定(1))
抵抗率計(商品名「ロレスタGP」、型式「MCP−HT450」、三菱ケミカルアナリテック社製)を使用し、製造したプレートの表面抵抗値を測定した。なお、プローブにはASPプローブ(型番「MCP−TP03P」、三菱ケミカルアナリテック社製)を使用し、印加電圧90Vの条件でプレートの表面抵抗値を測定した。測定結果を表3に示す。
【0036】
【0037】
<導電性樹脂組成物(プレス成型物)の製造>
参考例21)
ポリカーボネート(商品名「L1225WP」、帝人社製、融点:約250℃)100部、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWNT、商品名「TUBALL」、OCSiAl社製)0.03部、及びSolvent Red 179(商品名「MACROLEX RED E2GGRAN」、ペリノン系染料、融点255℃、ランクセス社製)0.05部を設定温度280℃のラボプラストミル(東洋精機社製)に投入し、溶融混錬して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を設定温度280℃のプレス成型機(神藤金属工業所社製)を使用してプレス成型し、1mmtのプレス成型物を製造した。
【0038】
(比較例8)
Solvent Red 179を用いなかったこと以外は、前述の参考例21と同様にしてプレス成型物を製造した。
【0039】
<評価(2)>
(表面抵抗値の測定(2))
前述の「表面抵抗値の測定(1)」と同様にして、製造したプレス成型物の表面抵抗値を測定した。その結果、参考例21で得たプレス成型物の表面抵抗値は8.60E+06(Ω/□)であり、比較例8で得たプレス成型物の表面抵抗値は1.00E+08≦(Ω/□)であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の導電性樹脂組成物は、電子・電気部品等の構成材料として有用である。