【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 発行日 2015年11月2日 刊行物 成形加工シンポジア‘15 (その2) 開催日 2015年11月2日から2015年11月3日 集会名、開催場所 第23回プラスチック成形加工学会秋季大会 福岡大学 11号館、14号館、1号館(福岡市城南区七隈8丁目19−1) (その3) 送付日 2015年10月26日 刊行物 成形加工シンポジア‘15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂よりなる。ここで、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分として含有する。本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。上記の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス−(4−カルボキシフェニルエタン)、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサン−1、4−ジカルボン酸等が挙げられる。上記の他のグリコール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA等のエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。この他、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸成分も利用され得る。
【0014】
このようなポリエチレンテレフタレート系樹脂(以下、単にPETという)の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0015】
また、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂の固有粘度は、0.45dl/g〜0.70dl/gの範囲が好ましい。固有粘度が0.45dl/gよりも低いと、フィルムが裂けやすくなり、0.70dl/gより高いと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となる。
【0016】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂には、微粒子を添加してフィルムの作業性(滑り性)を良好なものとすることが好ましい。微粒子としては任意のものが選べるが、たとえば、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、カオリナイト、タルクなどの無機粒子やその他の有機粒子が挙げられる。特に透明性の観点から、樹脂成分と屈折率が比較的近い、シリカ粒子が好ましく、特に不定形シリカが好適である。
【0017】
本発明の好ましい実施態様として、良好な透明性と安定な作業性(特に表面摩擦特性)を得るためには、多層構成を有するフィルムであって表層にのみ微粒子を含有するポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることもできる。このような基材フィルムとしては、中心層(b層)の両面に微粒子を含有する表層(a層)が共押出法により積層されてなる多層構成(a/b/a)を有するポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。表裏の表層を構成する層は、互いに同種であっても、異種であっても良いが、基材フィルムの平面性を保持する為には、表裏の表層のポリエチレンテレフタレート系樹脂は同構成とすることが望ましい。
【0018】
表層中に含まれる微粒子の平均粒径は1.0〜5.0μmが好ましく、より好ましくは1.5〜4.0μmの範囲であり、更に好ましくは2.0〜3.0μmの範囲である。微粒子の平均粒径が1.0μm以上であれば、表面に易滑性付与に好適な凹凸構造を付与することができ好ましい。一方、微粒子の平均粒径が5.0μm以下であれば、高い透明性が維持されるので好ましい。また、表層中の微粒子の含有量は、0.10〜0.20質量%であることが望ましく、好ましくは0.10〜0.15質量%である。表層中の微粒子の含有量が0.10質量%以上であれば、表層表面に易滑性付与に好適な凹凸構造を付与することができ好ましい。一方、表層中の微粒子の含有量が0.20質量%以下であれば、高い透明性が維持されるので好ましい。
【0019】
中心層に含まれる微粒子の平均粒径は1.0〜5.0μmが好ましく、より好ましくは1.5〜4.0μmの範囲であり、更に好ましくは2.0〜3.0μmの範囲である。微粒子の平均粒径が1.0μm以上であれば、フィルムヘーズの調整を容易に行うことができ好ましい。一方、微粒子の平均粒径が5.0μm以下であれば、高い透明性が維持されるので好ましい。また、中心層に含まれる微粒子の含有量は、0.10質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下が更に好ましい。なお、下限は0.00質量%である。
【0020】
なお、上記の微粒子の平均粒径の測定は下記方法により行う。微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で写真を撮り、最も小さい微粒子1個の大きさが2〜5mmとなるような倍率で、300個の微粒子の最大径(最も離れた2点間の距離)を測定し、その平均値を平均粒径とする。
【0021】
本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。高精細化に対応して光学フィルムの検査精度が向上している。異物の検出を向上させるためには、光学フィルム検査用フィルムとしては透明性が高いことが望ましい。そのため、本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの全光線透過率は85%以上が好ましく、87%以上がより好ましく、89%以上が更に好ましい。光学フィルム検査工程での視認性向上のためには、全光線透過率は高ければ高いほど良いが、易滑り性のために粒子を含有したポリエチレンテレフタレートフィルムにおいては100%の全光線透過率は技術的に達成困難であり、実質的な上限は91%である。
【0022】
また、本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、ヘーズが15%以下であることが好ましい。異物の存在を際立たせ、より高い検査精度を得るためには、高いコントラストを得ることが望ましい。そのため、本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおけるヘーズは15%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2.8%以下が特に好ましい。高いコントラストを得るためには、ヘーズは低い方が好ましいが、易滑り性のために粒子を含有したポリエチレンテレフタレートフィルムにおいては1%が下限であると思われる。なお、上記ヘーズおよび全光線透過率は、JIS−K7105に準じ、濁度計を使用して、測定することができる。
【0023】
本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、最大配向角が12°以下であることが好ましい。これにより、クロスニコル下での高いコントラスト得ることができる。最大配向角が12°より大きくなると、光学フィルム検査用フィルムを積層した光学フィルムのクロスニコル下での光の漏れが大きくなり目視検査性を阻害するため高精度の目視検査に使用できない場合がある。最大配向角は、好ましくは11°以下であり、より好ましくは10°以下であり、更に好ましくは9°以下であり、より更に好ましくは8°以下である。最大配向角は、後述する実施例の(1)に示す方法で測定される。
【0024】
本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、150℃で30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率が1.0%以下であることが好ましい。熱収縮率は、0.8%以下であることがより好ましい。前記熱収縮率が1.0%以下であると、150℃以上の高温熱処理加工であっても高い寸法安定性が得られるので、生産性の向上に著しく寄与しえる。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0%程度が下限と考える。一実施形態において、本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、150℃で30分間加熱したときの幅方向の熱収縮率も1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましい。幅方向の熱収縮率の下限は0%程度である。
【0025】
本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、200℃で30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率が4.0%以下であることが好ましい。熱収縮率は、3.0%以下であることがより好ましく、2.5%以下が更に好ましい。前記熱収縮率が4.0%以下であると、200℃以上の高温熱処理加工であっても高い寸法安定性が得られるので、生産性の向上に著しく寄与しえる。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から2%程度が下限と考える。一実施形態において、本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、200℃で30分間加熱したときの幅方向の熱収縮率も4.0%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることが更に好ましい。幅方向の熱収縮率の下限は0%程度である。熱収縮率は、後述する実施例の(2)に示す方法で測定される。
【0026】
また、本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは特に制限されるものではなく任意であるが、9〜300μmであることが好ましく、12〜100μmの範囲であることがより好ましく、14〜50μmがよりさらに好ましい。厚さが300μmを超えるとコスト面で問題があり、またリターデーションが大きくなり、クロスニコル化での視認性が低下しやすくなる。また、厚さが9μmに満たない場合は、機械的特性が低下し、保護フィルムとしての機能が果たせないおそれがある。
【0027】
また、中心層(b層)の両面に微粒子を含有する表層(a層)が共押出法により積層されてなる多層構成(a/b/a)の2種3層構成の場合は、片面における表層の厚さは、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。表層の厚みが上記範囲を超える場合は、フィルムのヘーズが低下する場合がある。
【0028】
本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得るための制御の指標として、結晶子長を使用することができる。すなわち、広角X線回折測定で得られるフィルム(−105)面の結晶子長が71Å以上80Å以下、かつフィルム(010)面の結晶子長が65Å以上75Å以下となるよう制御することが好ましい。より好ましくは(−105)面の結晶子長が71Å以上77Å以下、かつ(010)面の結晶子長が65Å以上74Å以下である。更に好ましくは、(−105)面の結晶子長が71Å以上73Å以下、かつ(010)面の結晶子長が65Å以上69Å以下である。フィルムの結晶子長を上記範囲とすることにより、幅方向・長手方向に結晶子が成長した構造とすることができる。すなわち、結晶子が非晶鎖を固定し、熱収縮しにくい構造となる。
【0029】
なお、ここで(−105)面は、PET結晶子の分子鎖とほぼ垂直な面であり、その結晶子長は、分子鎖に平行な方向の結晶子サイズを反映する。また(010)面は、PET結晶子の分子鎖とほぼ平行な面であり、その結晶子長は、分子鎖に垂直な方向の結晶子サイズを反映する。しかるに、幅方向に延伸されたフィルムでは、PET分子鎖は多分に幅方向に配向していることから、(−105)面は幅方向の結晶子サイズをよく反映し、(010)面は長手方向の結晶子サイズをよく反映すると考えられる。結晶子長は、後述する実施例の(3)に示す方法で測定される。
【0030】
本発明の光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造方法について説明する。ポリエチレンテレフタレートのペレットを用いた代表例について詳しく説明するが、当然本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
まず、フィルム原料を水分率が100ppm未満となるように、乾燥あるいは熱風乾燥する。次いで、各原料を計量、混合して押し出し機に供給し、シート状に溶融押出を行う。さらに、溶融状態のシートを、静電印加法を用いて回転金属ロール(キャスティングロール)に密着させて冷却固化し、未延伸PETシートを得る。
【0032】
また、溶融樹脂が280℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ好適である。
【0033】
表層(a層)と中間層(b層)とを共押出し積層する場合は、2台以上の押出し機を用いて、各層の原料を押出し、多層フィードブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて両層を合流させ、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。あるいは多層フィードブロックを用いる代わりにマルチマニホールドダイを用いても良い。
【0034】
次に、前記の方法で得られた未延伸フィルムを逐次二軸延伸し、次いで熱処理を行う。本発明では、以下のような延伸方法を行い、延伸工程で加えられる温度と、フィルムの配向状態を制御することにより、これまでに困難であった耐熱性と偏光検査性を高い領域で両立させるに至った。
【0035】
本発明における二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルムを得るためには、長手方向の延伸を下記範囲において行うことが好ましい。下記範囲を外れると、続く幅方向の延伸において良好な製膜性を得ることが困難となる。
【0036】
まず、未延伸フィルムを長手方向に縦延伸する。延伸温度をガラス転移温度〜ガラス転移温度+30℃、延伸倍率を2〜4倍とすることが好ましい。より好ましくは、ガラス転移温度〜ガラス転移温度+10℃、延伸倍率2.5〜3.0倍であるが、縦延伸後のシートの複屈折Nx−(Ny+Nz)/2が0.075〜0.110となる条件であれば、特に限定されるものではない。なお、ここで、Nxはフィルム長手方向の屈折率、Nyはフィルム幅方向の屈折率、Nzはフィルム厚み方向の屈折率である。
【0037】
縦延伸後のシートの複屈折Nx−(Ny+Nz)/2は、0.075〜0.110の範囲とすることが好ましい。より好ましくは0.080〜0.098、更に好ましくは0.09〜0.095である。Nx−(Ny+Nz)/2が0.075より低いと、長手方向の配向が低いために強度が劣り、また長手方向での厚み変動が大きくなりやすい。Nx−(Ny+Nz)/2が0.11より高いと、長手方向の配向が高いために配向結晶化が進行し、横延伸時の破断や幅方向での厚みむらが生じやすくなる。
【0038】
縦延伸後のシートの複屈折の測定方法は、特に限定されない。縦延伸後のシートをロールに抱いてサンプリングし、アッベ屈折率計により測定する方法、オンライン複屈折計を用いる方法等、任意の方法が利用され得る。
【0039】
次に縦延伸後の樹脂シートを加熱する。加熱温度は、50℃〜120℃の範囲とすることが好ましい。より好ましくは70℃〜110℃、更に好ましくは90℃〜100℃である。上記範囲の温度での加熱により、樹脂シートの熱結晶化が充分に進行し、横延伸時の破断や厚みむらが低減される。また、加熱時間は1秒を超えない時間であることが好ましいが、熱結晶化が充分に進行する加熱時間であれば、特に限定されるものではない。
【0040】
縦延伸後の樹脂シートの加熱方法としては、近赤外線ヒーター照射、熱風噴射、マイクロ波照射等の任意の加熱方法が利用され得る。
【0041】
つづいて、加熱後の樹脂シートを幅方向に延伸する。延伸工程は、樹脂シートを予熱する工程と、幅方向に延伸する工程を含む。
【0042】
本発明における二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルムを得るために重要なこととして、幅方向の延伸を下記範囲にて行うことが挙げられる。下記範囲を外れると、高温での熱寸法安定性を得ることが困難となる。
【0043】
これまで、150℃より低温での長手方向の熱収縮を小さくするために、延伸処理後に延伸張力を緩める方法、フィルムを把持するクリップの間隔を狭くする方法、弛緩してアニール処理を施す方法などが提案されてきた。しかしながら、150℃以上の高温での長手方向の熱収縮を小さくするためには、本願発明では、幅方向に延伸する際の温度を結晶化温度より充分に高くし、つづく熱固定ときわめて近しい温度とした。
【0044】
延伸温度が150℃以上の高温での長手方向の熱収縮に及ぼす作用については定かではないが、以下のように非晶と結晶構造が変化するためであると考えている。すなわち。非晶部分については、結晶化温度より充分に高い温度での延伸では、非晶鎖の運動性が上昇するため、延伸時の応力が低下する。非晶部分は延伸の進行に伴い幅方向に配向するが、応力が低いため、幅方向への配向が進行しやすく、長手方向の配向は残りにくいと考えられる。ゆえに延伸後フィルムでは長手方向の非晶鎖の配向度が低下すると考えられる。
【0045】
その一方で結晶部分は、以下のようであると考えている。すなわち。長手方向に延伸したシートでは、一般に長手方向に配向した結晶が形成されている。該シートを幅方向の延伸に供する際、ガラス転移温度付近での延伸では、結晶子およびラメラ構造は延伸初期に一度崩壊し、延伸後期に幅方向に配向した構造が形成される。しかし、結晶化温度より充分に高い温度での延伸では、結晶子およびラメラ構造は崩壊せず、構造を維持したまま回転して配向が変化する。ゆえに延伸後のフィルムでは、長手方向と幅方向ともに結晶子サイズが成長すると考えられる。
【0046】
しかるに、長手方向において非晶配向が緩和して縮みにくく、結晶構造が成長して構造を固定しているために、長手方向の熱収縮率が低下すると考えられる。
【0047】
ただし、延伸応力の極度な低下は、一方で、延伸過程での脆性破壊や延伸むらを生じやすくする。そのため、良好な延伸性を得るために、長手方向に延伸した後に、テンターでの予熱とは別に、フィルムに加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理によってフィルムに熱結晶が導入され、結晶が分子鎖間を架橋するために、延伸応力の極度の低下による破壊やむらを抑制し、良好な延伸性が得られると考えられる。
【0048】
まず予熱温度は、140℃以上190℃以下の温度とする。好ましくは、150℃以上180℃以下、より好ましくは170℃以上180℃以下である。また、延伸温度との温度差は、延伸温度−20℃〜延伸温度−0℃の範囲であることが好ましい。更に好ましくは、延伸温度−10℃〜延伸温度−0℃である。140℃より下では、予熱不足のためにフィルム全面の白化、破断などが起こりやすい。190℃より上では、予熱過剰のために延伸むらの発生や、脆性破壊が起こりやすい。
【0049】
つづいて、延伸温度は、160℃以上190℃以下とすることが好ましい。より好ましくは170℃以上190℃以下、更に好ましくは180℃以上185℃以下である。延伸温度が160℃より下では、温度不足のためにフィルム全面が白化する。また非晶鎖の緩和および結晶子の成長が充分に起こらず、配向角の低減効果が小さい。一方で延伸温度が190℃より上では、温度過剰のため、延伸応力が低下して延伸むらが発生しやすい。また熱により結晶構造が融解しやすいため、結晶子の充分な成長が見られない。いずれにおいても、150℃より高温での熱寸法安定性を維持するのが困難となる。
【0050】
また、延伸倍率は5.5倍以上7.0倍以下とすることが好ましい。より好ましくは6.0倍以上7.0倍以下、更に好ましくは6.0倍以上6.5倍以下である。延伸倍率が5.5倍より下では、延伸残が発生し品位が損なわれる。5.5倍以上では、幅方向の厚みむらが低減されるため好ましく、加えて幅方向の強度が付与されるため好ましい。延伸倍率が7.0倍以下では、幅方向の耐破れ性を奏する上で好ましく、加えて破断が抑えられるため好ましい。
【0051】
幅方向に延伸後、つづいてフィルムに熱固定を行う。熱固定工程では、フィルムを200℃以上240℃以下の温度で熱固定した後、7%程度緩和する。熱固定の温度は、より好ましくは210℃以上240℃以下、更に好ましくは230℃以上240℃以下である。200℃より下ではフィルムの熱結晶化が充分に進行せず、構造が固定されないため、高温延伸処理の効果が充分に得られない。240℃より上では、融点に近いために構造が融解し、脆性破壊が起こりやすい。また、フィルムの緩和率は特に限定されず、任意の率が設定され得る。
【0052】
本発明のフィルムは上記方法により製造することができるが、上記の方法で得られるものに限定されるものではない。本発明のフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、縦延伸、横延伸、熱固定を限られた範囲で高精度の制御をすることである。
【0053】
上記製造方法によれば、フィルム全幅においては配向角が小さいフィルムを得ることができる。特に、製膜後のフィルム全幅の端縁を0%、他の端縁を100%としたとき、80%〜90%の領域においても最大配向角を12°以下にすることができる。
【0054】
制御の指標として、フィルムの配向を使用することができる。すなわち、フィルム長手方向の屈折率Nxが1.63以上1.65以下、かつ幅方向の屈折率Nyが1.67以上1.70以下、かつ厚み方向の屈折率Nzが1.48以上1.49以下となるよう制御することが好ましい。フィルム長手方向の屈折率Nxは、より好ましくは1.63以上1.64以下である。フィルムの配向を上記範囲とすることにより、幅方向の非晶鎖の配向度が上昇する一方で、長手方向の非晶鎖の配向度が低下した構造とすることができる。すなわち、長手方向の非晶鎖の配向が緩和し、熱収縮しにくい構造となる。
【0055】
熱収縮率は、収縮時に作用する応力が低いほど低下する。そのため、本発明のフィルムはフィルム長手方向の熱収縮応力曲線において、高温での収縮応力が低いことが望ましい。ゆえに、熱収縮応力曲線において、応力の立ち上がり温度が150℃以上であることが好ましく、より好ましくは155℃以上、更に好ましくは160℃以上である。応力の立ち上がり温度は高ければ高いほど良いが、200℃以上とすることは、製造上の点から、延伸過程での融解の恐れがあるため達成困難であり、実質的な上限は190℃である。
【0056】
上記範囲を外れると、熱寸法安定性が不良となり、高温下での熱寸法安定性が維持されない。
【0057】
本発明の光学フィルム検査用フィルムが積層される光学フィルムは、特に制限されず任意である。光学フィルムとしては、例えば、偏光板、位相差偏光板、及び位相差板等を挙げることができる。光学フィルム検査用フィルムは、光学フィルムの両面に積層されても良く、いずれか一方の面のみに積層されても良い。光学フィルム検査用フィルムを光学フィルムに積層する手段は任意であり、光学フィルムに離型フィルム又はプロテクティブフィルムを積層する際に一般的に採用される手段を用いることができる。
【0058】
本発明のフィルムは上記方法により製造し得るものであるが、上記技術思想の範囲であれば、上記具体的に開示された方法に限定されるものはない。本発明のフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、上述の製造条件について極めて狭い範囲で高精度の制御をすることである。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。
【0060】
(1)最大配向角
各実施例で得られた光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの幅において、端縁を0%とし、他の端縁を100%とする。上記フィルム幅の10%に相当する領域から90%に相当する領域について、幅方向に100mmピッチで連続してn個の100mm四方の正方形のフィルムサンプルを切り出した。該正方形のフィルムサンプルは長手方向、又は幅方向のいずれかの軸を基準に直角に切り出した。各フィルムサンプルについて、王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計を用いて、フィルム長手方向に対する分子鎖主軸の配向角(θi、−90°≦θi≦90°)、及び下記式によって定義される機械軸方向(長手方向、または幅方向のいずれか)に対する光学主軸の傾斜角(ξi)を測定した。それぞれ長手方向に3箇所サンプリングしその平均値を求めた。なお、nは、フィルム全幅に0.8を乗じ、100mmで除した数値の小数点以下を切り上げた整数である。また、iはサンプル番号を表し、i=1〜nである。
このうち、光学主軸の傾斜角(ξi)の値が最大のものを、最大配向角とした。
|θ|≦45度のとき ξ=|θ|
|θ|>45度のとき ξ=|90度−|θ||
【0061】
(2)150℃および200℃熱収縮率(長手方向及び幅方向の熱収縮率)
JIS C 2318−1997 5.3.4(寸法変化)に準拠して測定した。測定すべき方向(長手方向または幅方向)に対し、フィルムを幅10mm、長さ190mmに切り取り、10mm間隔で印をつけ、印の間隔(A)を測定した。フィルムを150℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で150℃±3℃で30分間加熱処理した後、印の間隔(B)を測定した。以下の式より150℃加熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(A−B)/A×100
また、同様の方法でフィルムを200℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で200℃±3℃で30分間加熱処理し、200℃加熱収縮率を求めた。測定は、各実施例で得られた光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの中央部にて行った。
【0062】
(3)結晶子長
理学電機製X線回折装置RINT2500を用い、透過法にて測定した。フィルムを装置に設置し、フィルム面に対して垂直にX線を照射する。次いで、結晶格子面間隔に対する(−105)面の結晶ピーク強度および(010)面の結晶ピーク強度を測定する。得られる結晶ピーク曲線においてピークの半値幅を算出し、また、ピークが最も高くなる時のX線回折角を算出した。半値幅およびX線回折角をSchrrerの式「ACS=kλ/βcosθ」に代入し、見かけの結晶子長ACSを計算した。ここで、kは補正定数、λはX線波長、βは半値幅の二乗から装置のブロードニング定数の二乗を除いた値の平方根、θはX線回折角である。
【0063】
(4)熱収縮応力
セイコーインスツルメンツ社製TMA/SS6100型熱機械的分析装置を用い測定した。測定すべき方向に対し、フィルムを幅2mm、長さ30mmに切り取った。次いで、フィルムを装置に設置し、測定時の下側荷重を1.0763mNに設定する。組立L制御モードを選択し、室温から250℃まで速度20℃/分で昇温する。得られる熱収縮応力曲線において、熱収縮応力曲線が立ち上がる前のベースラインと、熱収縮応力が立ち上がったあと、傾きが最大となる点における接線との交点の温度を熱収縮曲線の立ち上がり温度とした。測定は、各実施例で得られた光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの中央部にて行った。
【0064】
(5)屈折率
JIS K 7142に準拠して測定した。アッベ屈折率計により、NaD線光で屈折率を測定した。接触液はヨウ化メチレンを用い、長手方向の屈折率(Nx)、幅方向の屈折率(Ny)及び厚み方向の屈折率(Nz)を測定した。測定は、各実施例で得られた光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの中央部において行った。
【0065】
(6)全光線透過率、ヘーズ
JIS K 7136「プラスチック 透明材料のヘイズの求め方」に準拠して測定した。測定器には、日本電色工業社製NDH−5000型濁度計を用いた。
【0066】
(7)熱しわ判定法
得られたフィルムの片面に下記の成分を含むシリコーン塗布液を加工張力10kg/mを印可した状態でダイコート方式でシリコーンを塗布し、150℃のオーブンで乾燥させた。
(シリコーン塗布液)
硬化性シリコーン(KS847H、信越化学) 100質量部
硬化剤(CATPL−50T、信越化学) 2質量部
希釈剤 メチルエチルケトン/キシレン/メチルイソブチルケトン 898質量部
得られたシリコ−ン塗布後のサンプルをロ−ルからカットして、平坦なテ−ブルの上に5mの長さを広げて、塗布面に蛍光灯の光を反射させて下記評価方法により熱しわの有無を確認する。
○:熱しわは全く見られず良好。
△:全面に熱しわは見られないが部分的に熱しわがみられる。
×:全面に熱しわが確認できる。
【0067】
(8)延伸性
フィルム製膜を20分間連続で行い、途中破断する回数を計測した。
○:破断が起こらない
△:破断が発生するが、フィルム採取は可能
×:破断が頻発し、フィルム採取不可能
【0068】
(9)易検査性
得られたフィルムの長手方向と検査用カットサンプルの長手方向が平行になるようにサンプルを切り出し、検査用サンプルを作製した。白色光源の上に2枚の偏光板をクロスニコルに配置し、その間に一方の偏光板における偏光方向とサンプルの端面が平行となるように、得られたフィルムを配置した。光源として180Wのメタハラ伝送ライトを用いた。クロスニコルを通して見られる偏光板像より易検査性を評価した。
○:クロスニコルを通した際のコントラストが良好で、検査性が良い。
△:延伸むら、未延伸部、白化のいずれかが、観察するフィルムの全面積中の50%をこえない範囲で見られるため、検査性がやや悪い。
×:延伸むら、未延伸部、白化のいずれかが、観察するフィルムの全面積中の50%をこえる範囲で見られたり、コントラスト性が悪いため検査性が悪い。
【0069】
実施例1
(1)PET樹脂(A)の製造
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部からなるスラリーを仕込み、攪拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部及びトリエチルアミンを0.16質量部添加した。次いで、加圧昇温を行いゲージ圧3.5kgf/cm
2、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った。その後、エステル化反応缶内を常圧に戻し、酢酸マグネシウム4水和物0.071質量部、次いでリン酸トリメチル0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部、次いで酢酸ナトリウム0.0036質量部を添加した。15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、減圧下260℃から280℃へ徐々に昇温し、285℃で重縮合反応を行った。
【0070】
重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたPET樹脂(A)は、融点が257℃、固有粘度が0.616dl/g、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。
【0071】
(2)PET樹脂(B)の製造
添加剤としてシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製、サイリシア310、平均粒径2.7μm)を2000ppm含有させた以外はPET(A)樹脂と同様の製法で、PET樹脂(B)を作成した。
【0072】
(3)光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造
表層(a)の原料として、PET樹脂(A)40質量部と、PET樹脂(B)60質量部とをペレット混合し、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機1に供給した。また、中間層(b)層の原料としてPET樹脂(A)82質量部と、PET樹脂(B)18質量部とをペレット混合し、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2に供給した。押出機2、及び押出機1に供給された各原料を、押出機の溶融部、混練り部、配管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂温度は280℃、その後の配管では275℃とし、3層合流ブロックを用いてa/b/aとなるように積層し、口金よりシート状に溶融押し出した。なお、a層とb層との厚み比率は、a/b/a=8/84/8となるように、各層のギアポンプを用いて制御した。また、前記のフィルターには、いずれもステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm粒子を95%カット)を用いた。また、口金の温度は、押出された樹脂温度が275℃になるように制御した。
【0073】
そして、押し出した樹脂を、表面温度30℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ680μmの未延伸フィルムを作成した。
【0074】
得られた未延伸シートを長手方向に105℃で3.0倍延伸した。縦延伸後のシートの複屈折は0.095であった。次いで縦延伸後のフィルムを1秒間100℃で加熱した。加熱後のフィルムをテンターに導き、170℃で予熱し、180℃で幅方向に6.0倍延伸した後、7%の弛緩処理を行いつつ230℃にて熱処理を行った。得られた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム幅において、端縁を0%とし、他の端縁を100%とした場合の50%に相当する領域から55%に相当する領域について、スリットを行い、厚さ38μmの光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。フィルムの製造条件を表1に示す。得られたフィルム物性を表2に示す。得られたフィルムは、延伸むらや熱しわがみられず、品位良好なフィルムであった。
【0075】
実施例2
フィルムの切り取り位置を上記フィルム幅の80%に相当する領域から90%に相当する領域に変更する以外は実施例1に記載と同様にして光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0076】
実施例3
製膜条件を表1に記載の条件へと変更する以外は、実施例1と同様の方法にて光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0077】
比較例1
製膜条件を表1に記載の条件へと変更する以外は、実施例1と同様の方法にて光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0078】
比較例2
製膜条件を表1に記載の条件へと変更する以外は、実施例1と同様の方法にて光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。アニール処理については、得られたポリエチレンテレフタレートフィルムを190℃の乾燥炉内にて長手方向に3%の弛緩処理を行った。得られたフィルムは、微細なむらや白化部が全面にみられた。更には全面に微小なしわが見られたため、熱しわ判定法による評価が困難であった。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0079】
比較例3、4
製膜条件を表1に記載の条件へと変更する以外は、実施例1と同様の方法にて光学フィルム検査用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。破断が多発し、フィルムが得られなかった。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】