特許第6852267号(P6852267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6852267核酸検出反応液中のプローブの安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852267
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】核酸検出反応液中のプローブの安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6837 20180101AFI20210322BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20210322BHJP
【FI】
   C12Q1/6837 Z
   C12Q1/6844 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-52403(P2016-52403)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-163904(P2017-163904A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永友 寛一郎
【審査官】 小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−520232(JP,A)
【文献】 PCRおよびRT−PCRの成功率を高めるために,株式会社 キアゲン,2011年 9月16日,pp. 1-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 −15/90
C12Q 1/6837− 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブを用いた核酸検出法において用いられる核酸検出反応液中に、1mMから40mMの濃度で硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムを共存させることを特徴とするプローブを安定化させる方法(但し、核酸検出反応液中にポリオールおよび/またはポリビニルピロリドンが存在する場合を除く)。
【請求項2】
プローブがTaqMan(登録商標)プローブである、請求項1に記載のプローブを安定化させる方法。
【請求項3】
核酸検出反応液が、DNAポリメラーゼ、基質、及び/又は金属イオンを含有する、請求項1又は2に記載のプローブを安定化させる方法。
【請求項4】
核酸検出反応液が、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素を含有する、請求項1〜のいずれかに記載のプローブを安定化させる方法。
【請求項5】
核酸検出法がプローブを用いたPCRである請求項1〜のいずれかに記載のプローブを安定化させる方法。
【請求項6】
5℃から35℃の温度条件下で、核酸検出液を24時間保存した後に、(a)または(b)のいずれかの要件を満たすことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のプローブを安定化させる方法。
(a)保存前のCt値/保存後のCt値>0.8
(b)保存前のサイクル初期の蛍光強度/保存後のサイクル初期の蛍光強度>0.3
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子増幅率或いは遺伝子変異の検出等の分子生物学的検出法における、核酸検出反応液中の核酸検出プローブ(以下「プローブ」と略す)の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子・核酸の検出は分子生物学において重要な操作法である。核酸検出法は現在までに様々な方法が開発されており、プローブハイブリダイゼーション法やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法が比較的一般に普及している。
【0003】
PCRでは、近年、測定感度の高さや迅速性から、増幅産物の生成過程を経時的にモニタリングすることが可能なリアルタイムPCR(以下「qPCR」と略す)が広く実施される。主なqPCRに各種蛍光プローブを用いて、PCRをハイブリダイゼーションプロービングと組み合わせた手法がある。プローブを用いたqPCRとして、TaqMan(登録商標)(例えば、非特許文献1を参照)、Molecular Beacon、Hybridization Probe、Cycling Probeなどの方法が存在し、蛍光エネルギー転移などの技術を利用して、増幅核酸の量に相関して蛍光が増減するように工夫されている。
【0004】
例えば、一般的に広く普及しているTaqMan(登録商標)プローブ法は5’末端に蛍光物質を、3’末端に消光物質(クエンチャー)を結合させたプローブを使用する方法である。このプローブは鋳型にアニールするが、励起光を照射してもクエンチャーにより蛍光は抑制されている。相補鎖が伸長される際、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によりプローブが加水分解され、蛍光物質がプローブから遊離し、クエンチャーから離れることにより蛍光を発する。この蛍光を検出することで、増幅による蛍光強度の増加をモニタリングすることができる。
【0005】
プローブを用いた核酸検出法において、HTS(High Throughput Screening)など、大量サンプルの遺伝子解析を行う場合等においては、反応液を調製後に長時間(数時間から数日間)放置されることが想定されるが、発明者らの検討によれば、前記反応液を常温で放置することでプローブの分解が懸念されることが明らかになった。例えば、TaqMan(登録商標)プローブ法では、調製後の反応液を常温で放置することで、Ct値が遅れる、あるいは検出そのものが不能になる現象が複数例確認された。上述のような理由より、核酸検出反応液において、より効果的にプローブを安定化することが新たな課題として見出された。
【0006】
本発明者らは、前記のTaqManプローブ法における検出不能現象等についてさらに考察した。その結果、前記の検出不能例ではバックグラウンドの蛍光が異常に上昇することが観察されており、その原因は、核酸検出反応液において、ホットスタート法(DNAポリメラーゼに対する抗体を用いて常温におけるDNAポリメラーゼの活性をブロックする手法、例えば非特許文献2を参照)によるDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性の抑制が完全にできておらず、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼがプローブを分解することにあると考えた。
上記の考察を基に、本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、キレート作用を持つ物質(以下「キレート剤」という)を核酸検出反応液に共存させることで、プローブの分解を抑制できることを見出した。しかし上述の方法のみでは、プローブの分解抑制が不十分な場合があり、プローブの分解を抑制する新規な方法が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hollandら,Proc.Natl.Acad.Sci.第88巻,1991年,第7276−7280頁
【非特許文献2】Kelloggら, Biotechniques, 第16巻, 1994年,第1134−1137頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プローブを用いた核酸検出法において、核酸検出反応液(以下、「反応液」と記載することもある。)中での、プローブの分解を抑制する新規方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、硫酸アンモニウムまたは酢酸テトラメチルアンモニウムを核酸検出反応液に共存させることで、プローブの分解を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
項1.プローブを用いた核酸検出法において用いられる核酸検出反応液中に、硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムを共存させることを特徴とするプローブを安定化させる方法。
項2.硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムを、1mMから40mMの濃度で共存させることを特徴とする項1に記載のプローブを安定化させる方法。
項3.核酸検出法がプローブを用いたPCRである項1または2に記載のプローブを安定化させる方法。
項4.5℃から35℃の温度条件下で、核酸検出液を24時間保存した後に、(a)または(b)のいずれかの要件を満たすことを特徴とする項1から3のいずれかに記載のプローブを安定化させる方法。
(a)保存前のCt値/保存後のCt値>0.8
(b)保存前のサイクル初期の蛍光強度/保存後のサイクル初期の蛍光強度>0.3
【発明の効果】
【0011】
本発明により、プローブを用いる核酸検出法において、検出手順などの条件を変えることや、特殊な前処理を行うことなく、極めて簡単に核酸検出反応液中でのプローブの分解を抑制し、安定した核酸検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において、プローブ(IL6)を用いたqPCRの増幅曲線を示した図である。
図2】実施例1において、プローブ(IL6)を用いたqPCRのMulticomponentで蛍光強度を確認した図である。
図3】実施例1において、プローブ(IL6)を用いたqPCRの増幅曲線を示した図である。
図4】実施例1において、プローブ(IL6)を用いたqPCRのMulticomponentで蛍光強度を確認した図である。
図5】実施例2において、プローブ(CDK10)を用いたqPCRの増幅曲線を示した図である。
図6】実施例2において、プローブ(CDK10)を用いたqPCRのMulticomponentで蛍光強度を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の実施形態の一つは、核酸検出法であって、プローブを用い、かつ、核酸検出反応液に硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムを共存させる方法である。
【0014】
(プローブ)
本発明において、「プローブ」とは、検出目的とする標的核酸により選択される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。プローブの配列及び長さは、特に限定されず、標的配列によって、従来公知の方法により適宜決定される。
プローブは、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、ビオチン、アビジン、蛍光色素など標識物質を結合してもよい。プローブの標識は限定されないが、蛍光色素が好ましい。標識プローブの標識位置は、塩基配列中の末端もしくは末端の近傍に標識されていることが好ましい。
【0015】
(核酸検出法)
本発明における「核酸検出法」は、プローブを用いて核酸を検出する方法であれば特に限定されない。核酸増幅を伴うものであっても良いし、伴わないものであっても良い。核酸増幅を利用しない方法では、例えば、Fluorescence in situ hybridization(FISH)法、Hybrid Capture法、Invader法などが挙げられる。
核酸検出法は、核酸の増幅工程を伴ってもよい。この場合において、増幅は検出の前に行われてもよいし、検出と同時に行われてもよい。
増幅を伴う核酸検出法は特に限定されないが、例えば、PCR法が挙げられる。また、これに限らず、例えば、Loop−Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法、Transcriprtion Reverse Transcription Concerted Reaction (TRC)法、Nucleic Acid Sequence−Based Amplification (NASBA)法などであることができる。
【0016】
核酸検出法がqPCRである場合、プローブとしては、TaqMan(登録商標)Probe、Molecular Beacon、Hybridization Probe、Cycling Probe、Q Probeなどが挙げられ、任意のプローブを選択することができる。
【0017】
(核酸検出反応液)
本発明における「核酸検出反応液」は、核酸検出反応を実行するのに必要な成分(物質)が揃っていれば特に限定されない。一般に、核酸のハイブリダイゼーションに必要な金属イオンを含んでいることが好ましい。核酸検出法がqPCRである場合は、プライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオシド三リン酸等の基質を含んでおり、さらに金属イオンも含んでいればより好ましい。
【0018】
核酸検出法がDNAポリメラーゼによる増幅を伴う場合、前記核酸検出反応液に用いる「DNAポリメラーゼ」は特に限定されない。種々の耐熱性細菌由来のDNAポリメラーゼが使用できる。具体的には、ファミリーA(PolI型)に属するTaq DNAポリメラーゼやTth DNAポリメラーゼ、ファミリーB(α型)に属するKOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pwo DNAポリメラーゼなどが挙げられる。その中でも5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しTaqMan(登録商標)Probe法に用いられることから、Taq DNAポリメラーゼやTth DNAポリメラーゼなどが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
(硫酸アンモニウムおよび酢酸テトラメチルアンモニウムの定量方法)
本発明において、核酸検出反応液中の硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムを定量する際にはGC/MS法で検出するものとする。
【0020】
(本発明の効果)
本発明の核酸検出法を用いることにより、プローブを用いる核酸検出法において、核酸検出反応液に硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムを共存させることにより、核酸検出反応液中のプローブの分解を抑制することができる。
【0021】
(プローブの分解)
本発明において「プローブの分解」の程度は、以下の(1)または(2)のいずれかの方法で定量的に確認することができる。
(1)プローブを反応液に添加して時間が経過したものと、反応液に入れた直後のものでPCRでのCt値を比較する。
(2)プローブを反応液に添加して時間が経過したものと、反応液に入れた直後のものでPCRサイクル初期の蛍光強度を比較する。
【0022】
本発明における「プローブの分解を抑制」とは、理想的には、5〜35℃の温度条件下で放置することにより分解するプローブを反応液に加えて、常温で保存した前後において、上記の方法で測定したときに、保存前と比較し、保存後でCt値が同等あるいはサイクル初期の蛍光強度が同等であることを言う。
具体的には、アプライドバイオシステムズのTaqMan(登録商標) Gene Expression Assays、Gene Name:Interleukin 6、Assay ID: Hs00985639_m1(以下「IL6」と略す)、あるいはGene Name: cyclin―dependent kinase 10、Assay ID: Hs00177586_m1(以下「CDK10」と略す)を加えた核酸検出反応液を24時間常温放置で、以下の式を満たす場合、プローブの分解は抑制されている。
(1)保存前のCt値/保存後のCt値>0.8
(2)保存前のサイクル初期の蛍光強度/保存後のサイクル初期の蛍光強度>0.3
上記(1)における値は、より好ましくは0.9以上である。また、上記(2)における値は、より好ましくは0.5以上である。
【0023】
本明細書では、核酸検出反応液を25℃で3時間以上保存した後で、前記の評価方法に基づいて保存前と保存後とでCt値あるいはサイクル初期の蛍光強度を比較し、その少なくとも一方が同等であれば、プローブの分解が抑制されていると結論され、プローブが安定化していると判断する。
25℃でさらに保存時間を延ばして(64時間)試験を行った後でプローブの分解が抑制されていれば、安定化の程度が保存時間の長さに応じて、さらに高くなっていると判断できる。
【0024】
本発明者らは、上述のとおり、PCR法を例にとって検討を行い、核酸検出反応液におけるプローブの分解が、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によるものであることを見出した。
前記ヌクレアーゼ活性を有する酵素としては、前述の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼに限定されない。例えば、一般にマグネシウム、カルシウム、マンガン、亜鉛などの金属イオンが必要と言われている、DNase I、DNase II、DNAポリメラーゼおよび制限酵素等が挙げられる。
これらの酵素は、PCR法におけるDNAポリメラーゼのように核酸増幅に用いられ核酸検出反応液に含まれるものに由来するものでもよいし、通常は核酸検出反応液に含まれないはずのコンタミナントに由来するものでもよい。
【0025】
(核酸検出反応液に硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムを共存させる方法)
本発明において、核酸検出反応液に硫酸アンモニウムまたは酢酸テトラメチルアンモニウムを共存させる方法は特に限定されない。硫酸アンモニウムまたは酢酸テトラメチルアンモニウムのいずれか一方のみを共存させてもよいし、両方を共存させてもよい。
【0026】
硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムについては、核酸検出反応液にあらかじめ加えておいても良いし、プローブと共に反応液に加えても良い。ただし、核酸検出反応液中に、検出反応に必要である酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)が含まれる場合、硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムはプローブと同時か、あるいはプローブより先に反応液に加えることが好ましい。
また、核酸検出反応液が、例えば、核酸検出キット等において、反応開始前にいくつかの組成に分割されていて、反応時に混合して用いるように供されている場合は、その分割されている組成物のいずれか1つ以上の中に加えておけばよい。
【0027】
本発明において、硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウムの核酸検出反応液中の濃度は、1mMから40mMであることが好ましく、より好ましくは1mMから20mM、さらに好ましくは1mMから10mMである。
【0028】
本発明により、簡便かつ効果的にプローブの分解を抑制することが可能になり、従来技術と比べて顕著な効果を示す。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は実施例により特に限定されるものではない。
【0030】
実施例1:プローブの分解及び硫酸アンモニウムおよび/または酢酸テトラメチルアンモニウム添加による安定化効果
常温放置によるプローブの分解並びに硫酸アンモニウムおよび酢酸テトラメチルアンモニウムによるプローブの安定化を確認する目的で、qPCRを用いて解析を行った。
サンプルは、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来の細胞)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの作製には、MMLV由来の逆転写酵素を用いたSuperPrep(登録商標) Cell Lysis & RT Kit for qPCR(東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。THUNDERBIRD(登録商標) Probe qPCR Mix(東洋紡株式会社)を用いて20μLの反応液をそれぞれ調製した。TaqManプローブ及びプライマーは、アプライドバイオシステムズのTaqMan(登録商標) Gene Expression Assays、Gene Name:Interleukin 6、Assay ID: Hs00985639_m1(以下「IL6」と略す)を用いた。本製品は、20倍濃度のプライマー・プローブ混合液である。反応は95℃、1分の前反応の後、「95℃、15秒→60℃、60秒」を40サイクル繰り返すスケジュールでリアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を用いて行った。
調製後の反応液の、プローブの濃度は0.25μMとなる。
【0031】
調製後の反応液を25℃で3時間放置した。
(硫酸アンモニウムの効果)
プローブ(IL6)を用いたqPCRにより得られた増幅曲線を図1に示した。図中の番号は、以下を示す通りである。
1:反応液常温放置後にプローブを添加(Ct31.7、31.8) 2:硫酸アンモニウムを10mM添加(Ct32.5、32.7) 3:添加なし(Ct33.2、33.9)
【0032】
その結果、プローブIL6において、添加していない場合は、プローブを3時間に加えたコントロールと比較してCt値の遅れが見られた(図1、No.1、3)。一方、硫酸アンモニウムを添加した場合は、添加していない場合と比較して、プローブを3時間後に加えたコントロールにより近いCt値を示した(図1、No.1〜3)。
【0033】
図2に、プローブ(IL6)を用いたqPCRのMulticomponentで蛍光強度を確認した結果を示した。図中の番号は、以下を示す通りである。
1:反応液常温放置後にプローブを添加 2:硫酸アンモニウムを10mM添加 3:添加なし
【0034】
この際、サイクル初期の蛍光強度は、添加していない場合に高い(図2;No.3)。これは、常温放置により、サイクル開始前にプローブが分解され、蛍光標識がプローブから遊離し、クエンチャーによる消光が解除され蛍光を発したためと推測される。一方、硫酸アンモニウムを添加したものやプローブを3時間後に加えたコントロールではサイクル初期の蛍光強度は低い(図2;No.1、2)。これは、プローブが分解されておらず、クエンチャーによる消光が維持されているためと考えられる。
【0035】
(酢酸テトラメチルアンモニウムの効果)
図3にプローブ(IL6)を用いたqPCRの増幅曲線を示した。図中の番号は、以下に示す通りである。
1:反応液常温放置後にプローブを添加(Ct31.7、31.8) 2:酢酸テトラメチルアンモニウムを20mM添加(Ct32.1、32.2) 3:添加なし(Ct33.2、33.9)
また、図4に、プローブ(IL6)を用いた場合のqPCRのMulticomponentで蛍光強度を確認した図を示した。反応液は調製後常温で3時間放置した。酢酸テトラメチルアンモニウム20mMを添加した。図中の番号は、以下を示す通りである。
1:反応液常温放置後にプローブを添加 2:酢酸テトラメチルアンモニウム20mM添加 3:添加なし
【0036】
酢酸テトラメチルアンモニウムについても硫酸アンモニウムと同様の傾向がみられ、添加していない場合と比較して、酢酸テトラメチルアンモニウム20mMを添加した場合は、Ct値遅れの改善がみられた(図3;No.2、3)。
この際、サイクル初期の蛍光強度は硫酸アンモニウムと同様に、酢酸テトラメチルアンモニウムを添加すると低く抑えられる(図4)。
ただし、硫酸アンモニウムや酢酸テトラメチルアンモニウムを添加しても、プローブを3時間後に加えたコントロールほどは低く抑えられていない。よって、プローブの分解は完全には抑えられておらず、より好ましい効果を得るためには添加濃度調節が必要と考えられる(図2、4)。
【0037】
実施例2:硫酸アンモニウム添加による不安定プローブ安定化効果
常温放置によるプローブの分解抑制効果について、詳細に確認する目的で、実施例1と異なる不安定プローブを用いて、硫酸アンモニウムの濃度を変えて添加し、qPCRを用いて解析を行った。
qPCRは実施例1の方法に従った。TaqManプローブ及びプライマーは、アプライドバイオシステムズ社のTaqMan(登録商標) Gene Expression Assays、Gene Name: cyclin―dependent kinase 10、Assay ID: Hs00177586_m1(以下「CDK10」と略す)を用いた。
調製後の反応液を25℃で64時間放置した。
【0038】
qPCRにより得られた増幅曲線を図5に示した。図中の番号は、以下に示す通りである。
1:反応液常温放置後にプローブを添加(Ct29.2、28.7) 2:硫酸アンモニウムを40mM添加(Ct29.2、29.3) 3:硫酸アンモニウムを20mM添加(Ct30.5、検出不可) 4:硫酸アンモニウムを10mM添加(Ct35.8、37.3) 5:添加なし(検出不可、検出不可)
【0039】
その結果、プローブCDK10において、添加していない場合はCt値が検出されなかった(図5、No.5)。一方、硫酸アンモニウムを添加した場合は、濃度依存的にプローブを64時間後に加えたコントロールに近いCt値を示した(図5、No.1〜4)。
【0040】
図6に、プローブ(CDK10)を用いたqPCRのMulticomponentで蛍光強度を確認した結果を示した。図中の番号は、以下を示す通りである。
1:反応液常温放置後にプローブを添加 2:硫酸アンモニウムを40mM添加 3:硫酸アンモニウムを20mM添加 4:硫酸アンモニウムを10mM添加 5:添加なし
【0041】
この際、サイクル初期の蛍光強度は、添加していない場合にもっとも高く、硫酸アンモニウムの濃度が上がるほど、プローブを64時間後に加えたコントロールに近く低い(図6)。これは、硫酸アンモニウムの濃度を上げるほど、プローブが分解されておらず、クエンチャーによる消光が維持されているためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明はプローブの安定化に効果的に働く。これにより、室温で反応液が放置されることが想定される大量の遺伝子発現解析に際して、安定したデータ収集を可能にする。本発明は、調製後の反応液が常温で長時間に及んで放置されることが想定される大量の検体における遺伝子発現解析を行う場合に特に有用であり、研究用途のみならず臨床診断や環境検査等にも利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6