(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
  以下、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。ただし、以下に示す形態は、本実施形態の技術思想を具現化するための光照射装置を例示するものであって、以下に限定するものではない。図面に示す光照射装置の部材および被処理体である媒体は、説明を明確にするために、大きさや位置関係等を誇張していることがあり、また、形状を単純化していることがある。また、以下の説明において、同一のまたは同質の部材については、同一の符号を付し、説明を適宜省略する。
 
【0011】
〔実施形態〕
  本発明の実施形態に係る光照射装置の構成について、
図1、
図2、および
図3を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る光照射装置の要部の構成を示す外観図であり、
図2は、
図1に示す光照射装置の側面図である。
図3および
図4は、実施形態に係る光照射装置、従来の光照射装置のそれぞれによる媒体の搬送を説明するモデルであって、
図1のA−A線における断面図に相当する。本明細書において、光照射装置とは、加熱されることによって膨張する層を備えたシート状の媒体である熱膨張性シートを被処理体とし、光を照射して、前記層を膨張させて立体画像を製造する装置である。まず、熱膨張性シートについて説明する。
 
【0012】
  (熱膨張性シート)
  熱膨張性シートWは、厚口の紙等を基材として、その一方の面に一定の厚さに熱膨張層が形成されている。熱膨張層は、熱可塑性樹脂をバインダとして熱膨張性のマイクロカプセルを含有する。マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成され、揮発性溶媒を内包し、膨張温度域、具体的には前記熱可塑性樹脂や揮発性溶媒の種類にもよるが約80℃以上に加熱されると、加熱温度、さらには加熱時間に応じた大きさに膨張する。これにより、熱膨張層は、最大で膨張前の10倍程度の厚さに膨張させることができる。そのため、熱膨張性シートWは、部分的に加熱されることで、この部分で熱膨張層が発泡、膨張して厚さが増大して、熱膨張層を設けた側の表面に凹凸が形成される。
 
【0013】
  熱膨張性シートWは、所望の領域に限定して、かつ所望の高さの凸状に形成するために、光照射装置10での処理前に、熱膨張層側の表面または基材側の表面(以下、裏面)、あるいは両面に、特定の波長域の光、例えば近赤外線光(波長780nm〜2.5μm)を熱に変換する材料を付着される。具体的にはカーボンブラックを含有する一般的な印刷用の黒色インクで、前記領域の形状で濃淡を有するパターンを描画されている。黒色インクの濃い、より黒く、すなわちカーボンブラックの面積あたりの付着量の多い(面密度の高い)領域ほど光を照射されたときの発熱温度が高く、その結果、この領域における熱膨張層がより大きく膨張して高い凸状の表面に形成される。なお、本実施形態において、熱膨張性シートWは、幅方向における両外側の2辺(搬送方向に平行な2辺)のそれぞれから所定長さまでの縁においては、凹凸が形成されないように、黒色インクのパターンを描画されないことが好ましい。熱膨張性シートWは、凹凸によらない画像が表面に付された立体画像とするために、光照射装置10での処理前にさらに、表面、すなわち熱膨張層の表面に、黒色インクを含まない色インクで所望の画像パターンを描画されていてもよい。なお、画像パターンにおける黒色は、色インクの混色で表現する。画像パターンは、黒色インクのパターンと同様に、一般的な印刷機を使用して描画することができる。
 
【0014】
  (光照射装置)
  
図1および
図2に示すように、本実施形態に係る光照射装置10は、熱膨張性シート(媒体)Wに光を照射する光照射部(光照射手段)2、熱膨張性シートWを白抜き矢印で示す一方向に搬送するシートローダ(搬送手段)50,50、シート押さえ板(媒体変形抑制手段)4、搬出案内部61,62、および光照射部2近傍を冷却する冷却器(
図3に示す冷却ファン3)を筐体(図示省略)の内部に備える。光照射装置10はさらに、シートローダ50,50以外の搬送機構、光照射部2の温度を検知する温度センサ、熱膨張性シートWの裏面に付されたバーコード類を読み取る読取り機、光照射装置10の動作を制御する制御回路、ならびに、筐体の外側に設けられた、熱膨張性シートWを載置する供給トレイ、光照射後の熱膨張性シートW(立体画像)が排出されるための排出トレイ、運転操作のためのスイッチ類や表示パネル(図示省略)等を備える。ここでは、光照射装置10は、熱膨張性シートWを水平にして搬送しながら、上面に光を照射する構造である。ただし、光照射装置10は、下面に光を照射する構造であってもよく、また、熱膨張性シートWを鉛直や傾斜させて処理する構造であってもよい。なお、本明細書においては、別途記載のない限り、
図2、
図3およびその他の断面図における上下を同じく上下として説明する。以下、光照射装置の各部材の構成について、詳細に説明する。
 
【0015】
  (光照射部)
  光照射部2は、光照射装置10における主要部であり、水平に搬送される熱膨張性シートWの上面に光を照射するように、熱膨張性シートWの搬送経路の上方に設けられる。光照射部2は、熱に変換される近赤外線光を含む光を放射する光源21、および反射板22を備え、熱膨張性シートWの、搬送方向での所定長さの範囲において、幅方向(搬送方向に直交する方向)における両端(以下、両縁と称する)を除いた全体に光を照射する。この、光照射部2から光を照射される範囲を光照射領域1i(
図3参照)と称する。光源21は、例えばハロゲンランプであり、熱膨張性シートWへその両縁を除いた全幅にわたって設けられる。反射板22は、光源21から熱膨張性シートWへ光を効率的に照射するために設けられ、略半円柱の柱面形状の曲面に形成されて内側に鏡面を有し、光源21の熱膨張性シートWと対向する側の反対側、すなわち上側を覆う。光照射領域1iは光照射部2の直下であり、搬送方向においては、反射板22の内面の両端間(始端から終端まで)である。
 
【0016】
  (シートローダ)
  シートローダ50,50は光照射装置10における搬送機構であり、熱膨張性シートWをその両縁のみで支持して、光照射領域1iを通過するようにその後方近傍から前方まで水平に搬送する。なお、
図2の側面図および
図3以降の断面図において、搬送方向は右向きに示され、すなわち図中右側が前である。シートローダ50のそれぞれは、熱膨張性シートWの縁を両面から挟持するように、上下に2本の搬送ベルト51,52を備える。上側の搬送ベルト51は駆動ローラ53,55で張架され、下側の搬送ベルト52は駆動ローラ54,56で張架される。光照射部2の後方近傍に設けられた駆動ローラ53,54、および前方に設けられた駆動ローラ55,56は、それぞれ、搬送ベルト51,52を介在して熱膨張性シートWの縁を十分な強さで挟持するような間隔で回転軸が支持される。駆動ローラ53〜56は、モータ(図示省略)からその回転をプーリやギア等(図示省略)によって伝達され、同期して回転する。さらに、駆動ローラ53,55間に押さえローラ57が、駆動ローラ54,56間に押さえローラ58が、それぞれ回転自在に支持されて、搬送ベルト51,52によって駆動ローラ53〜56に協働して回転する。押さえローラ57,58は、駆動ローラ53〜56と同様に、搬送ベルト51,52を介在して熱膨張性シートWを光照射部2の前方近傍で挟持する。このような押さえローラ57,58が設けられていることにより、熱膨張性シートWの変形(熱膨張層の膨張、湾曲)が進行する光照射部2の前方近傍で、熱膨張性シートWの両縁が搬送ベルト51,52間からずれることを抑制する。なお、光照射装置10においては、熱膨張性シートWの両縁が搬送ベルト51,51で遮られて光照射部2からの光が照射されず、この両縁においては立体画像の表面に凹凸が形成されない。また、シートローダ50,50は、搬送ベルト51,52を設けずに、駆動ローラ53,54、駆動ローラ55,56、および押さえローラ57,58で、直接に熱膨張性シートWを挟持する構造としてもよく、この場合、光照射領域1iで熱膨張性シートWを挟持する小径の押さえローラ(図示せず)をさらに設けることが好ましい。
 
【0017】
  (シート押さえ板)
  シート押さえ板4は、板状の部材であり、熱膨張性シートWを、その膨張層の膨張に伴う変形を抑制し、光照射領域1iからその前方の搬送路(搬出案内部61,62間)へ案内するために、熱膨張性シートWの光を照射される側の面に対面させて設けられる。熱膨張性シートWの変形とは、平面状態から少なくとも一部が曲面になることを指し(膨張層の膨張による表面のみの高さ位置の変化を除く)、特に、光照射部2の側へ部分的に近付くような反りや浮き上がりである。熱膨張性シートWの反りや浮き上がりについては、本実施形態に係る光照射装置10のように、両縁をシートローダ50,50で挟持されている場合の、後記にて説明するような幅方向中央部の浮き上がりを含む。シート押さえ板4は、十分な耐熱性と、光照射部2が照射する光、特に近赤外線光に対するできるだけ高い透過性とを有する材料で形成されることが好ましく、また、熱膨張性シートWに対面する側の面(下面)の摩擦が小さいことが好ましく、例えばガラス板が適用される。シート押さえ板4は、このような透過性の高い材料で形成されるので、熱膨張性シートWに到達する光の減衰が少なく、光源21の出力の効率の低下が抑制され、また、光照射部2が照射する光を吸収し難く、発熱して高温になることがない。さらに、シート押さえ板4は、例えば金属のような放熱効果の高い材料は適用されない。したがって、熱膨張性シートWが、シート押さえ板4に接触した箇所で局所的に、高温によって熱膨張層が変形したり、反対に温度が急激に降下して熱膨張層の膨張の進行が早期に停止することがない。
 
【0018】
  シート押さえ板4は、熱膨張性シートWが熱膨張層の膨張に伴って大きく湾曲しないように、搬送方向においては、熱膨張層の膨張が進行している範囲(熱膨張領域1f)に少なくとも設けられることが好ましく、本実施形態では、光照射領域1iとその前方の近傍にわたって設けられる。このように、シート押さえ板4は、光照射領域1iの全体に設けられることによって、搬送異常等が生じた場合でも、熱膨張性シートWが光照射部2に接触することを防止する効果も得られる。また、シート押さえ板4は、幅方向においては、光照射部2と熱膨張性シートWの間の、熱膨張性シートWの全幅(少なくとも、シートローダ50で挟持される両縁を除いた全幅)にわたって設けられることが好ましい。これは、熱膨張性シートWがシート押さえ板4に対面しているかいないかで、光照射部2から照射される光の強度や、冷却ファン3からの送風(冷風CB、
図3(a)参照)によって、温度差を生じるためである。また、シート押さえ板4は、高さ方向(熱膨張性シートWの厚さ方向)においては、湾曲せずに膨張層が膨張したと仮定した場合の(
図3に二点鎖線で表す設定経路FPにおける)熱膨張性シートWに接触しない位置が好ましく、本実施形態では、この熱膨張性シートWに平行に、すなわち板面を水平にして設けられる。シート押さえ板4は一方で、その搬送方向側の搬送路の入口の天井よりも、下面の位置が低いことが好ましい。本実施形態に係る光照射装置10においては、シート押さえ板4は、その前方に搬出案内部61,62が設けられているので、上側の搬出案内部61の後端よりも下面が低い位置になるように設けられている。シート押さえ板4の構成および作用等の詳細については、後記の光照射装置の動作と共に説明する。
 
【0019】
  (搬出案内部)
  搬出案内部61,62は、熱膨張領域1fを通過した熱膨張性シートWを搬出口11へ案内するために、シート押さえ板4の前方(搬送方向側)に、熱膨張性シートWを両面から挟むように設けられる。本実施形態では、搬出案内部61,62は、熱膨張性シートWの前端が幅方向中央で浮き上がっていても、間に挟まれて変形状態を矯正しつつ案内するように、光照射領域1i側の端が広がるように縁を折り曲げられた板状で、軽量化等のために小径の孔が多数空けられている。このような搬出案内部61,62は、例えばアルミニウムやステンレス等の金属で形成され、ただし、熱膨張性シートWの膨張層が変形する温度に加熱されないように、光照射部2から十分に距離を空けて配置される。
 
【0020】
  (冷却器)
  冷却ファン3は、プリンタやパーソナルコンピュータ等に内蔵される一般的な空冷式の冷却器を構成し、光照射部2による光照射装置10の過剰な温度上昇を防止する。冷却ファン3は、光照射部2(反射板22)の上方に、1つまたは幅方向に2つ以上並べて設けられて、筐体に形成された通風孔から外気を取り込んで光照射部2に向けて送風する。冷却ファン3に代えて、水冷式のラジエータ等が設けられてもよい。
 
【0021】
  (その他の部材)
  温度センサは、反射板22の温度を計測して、制御回路に伝達する。読取り機は、供給トレイ近傍に設けられて、被処理体が熱膨張性シートWのような専用の媒体であるかを判別する。読取り機は、例えば、熱膨張性シートWの裏面に付されたバーコード類を読み取るバーコードリーダ、QRコード(登録商標)リーダ、OCR(Optical character recognition)リーダであり、さらに、被処理体がいずれの面を上にして供給トレイに載置されても読み取るように、鏡を備える。搬送機構は、例えば、供給トレイに載置された熱膨張性シートWを光照射装置10の内部へ搬送して、熱膨張性シートWの前端をシートローダ50,50(駆動ローラ53,54間)に挟持させる。制御回路は、例えばCPUおよびメモリを備え、外部からの操作やセンサ類の信号等を受けて、光照射装置10を統括制御する。具体的には、例えば、光源21のON/OFF、シートローダ50,50およびその他の搬送機構の搬送開始と停止、搬送速度の切替え、温度センサからの反射板22の温度や読取り機からの信号による、運転可能か等の判定を行う。
 
【0022】
  また、光照射装置10は、シートローダ50,50で挟持された両縁を除き、熱膨張性シートWが、少なくとも光照射領域1iにおいて、好ましくはさらに熱膨張領域1fにおいて、シート押さえ板4以外には非接触であるように構成され、より好ましくはシート押さえ板4にも非接触とする。さらに、光照射装置10は、熱膨張性シートWの下側(光照射部2と対向する側の反対側)を、少なくとも光照射領域1iにおいて、好ましくはさらに熱膨張領域1fにおいて、十分な空間を設けて開放された構成とする。具体的には、光照射部2によって熱膨張性シートWに発生した熱が逃げ易く、熱膨張性シートWの下側の近傍の温度が過剰に上昇しなければよい。熱膨張性シートWの下方へ熱が逃げないと、上側のシート押さえ板4に挟まれた狭い空間で蓄熱されて熱膨張性シートWの温度の制御が困難になり、例えば、複数枚の熱膨張性シートWを連続して処理した場合に、1枚目との膨張高さの均一性が得られ難い。
 
【0023】
  なお、光照射装置10において、熱膨張性シートWが、裏面(基材側)に光を照射される等によって下方に向かって湾曲する場合には、光照射部2に接触する虞がないので、ある程度の変形は許容される。ただし、熱膨張性シートWが搬出案内部61,62間へ確実に搬送されるように、熱膨張性シートWを挟んでシート押さえ板4と対向する下側案内部(図示せず)が設けられていてもよい。下側案内部は、前記したように熱膨張性シートWに発生した熱が逃げることを妨げないように、例えば、細い棒状の金属部材を組み合わせて、幅方向にわたる2本の梁とその間に架橋された複数本の骨組で構成される。このような下側案内部は、熱膨張性シートWが、裏面に光を照射されているときに、熱膨張領域1fにおいて接触しない位置に設けられることが好ましく、下方へ突出するように湾曲した熱膨張性シートWを搬出案内部61,62間に案内するために、例えば搬送方向に上方へ傾斜するように配置される。
 
【0024】
  (光照射装置の動作)
  本発明の実施形態に係る光照射装置の動作について、
図3および
図4を参照して説明する。ここでは、熱膨張性シートWの表面(熱膨張層側)に光を照射する。
 
【0025】
  光照射部2が光NIRを照射している状態において、供給トレイから搬入された熱膨張性シートWは、シートローダ50,50(
図3では搬送ベルト51,52の一部を示す)で両縁を挟持されて、図中右方向に搬送される。熱膨張性シートWは、光照射領域1iに進入すると、黒色インクのパターンが描画された領域において温度が上昇し始める。そして、ここでは、
図3(a)に示すように、熱膨張性シートWは、光照射領域1iの中間近傍に到達した時点で、この到達した部分の温度が膨張温度域になって熱膨張層が膨張を開始し、すなわち熱膨張領域1fに進入する。熱膨張性シートWは、さらに光照射領域1iの中間を通過した直後に、膨張に伴って、表面を内側にして基材ごと前端から丸まり始める。ただし、熱膨張性シートWは、両縁が搬送ベルト51,52で挟持されているので、幅方向中央が浮き上がるように湾曲する。このような状態の熱膨張性シートWは、
図3の断面図においては、その浮き上がった幅方向中心の断面(図中、ハッチングを付した領域)の下側に、紙面奥側に存在する裏面の設定経路FPから浮き上がった部分(図中、ドットを付した領域)が表される。なお、設定経路FPは、熱膨張性シートWが湾曲せずに搬送されたと仮定した場合の表面と裏面の位置であって、さらに、表面は、膨張層が光照射装置10での処理によって設計上で最大に膨張したときの位置である。そして、熱膨張性シートWは、前端、または前端近傍の熱膨張層の凸状となった表面がシート押さえ板4の下面に当接し、この当接した箇所がシート押さえ板4で摺動されながら搬送される。そして、熱膨張性シートWは、光照射領域1iを通過すると温度が降下し始め、膨張温度域未満になると熱膨張層の膨張が完了し、すなわち熱膨張領域1fから退出し、その後、搬出案内部61,62間に進入し、搬出口11から搬出される。
 
【0026】
  このように、熱膨張性シートWは、光照射領域1iおよびその前方近傍の熱膨張領域1fにおいて膨張層が膨張し、さらに、膨張が進行すると幅方向中央が基材ごと湾曲して浮き上がる。そして、熱膨張性シートWは、このような変形が抑制されないと、
図4(b)に示すように、搬送されるにつれて、両縁が引き寄せられながら幅方向中央で大きく弧を描くように湾曲して前端が高く浮き上がって、搬出案内部61,62間や搬出口11を通過することができなくなる。
 
【0027】
  本実施形態に係る光照射装置10によれば、熱膨張性シートWは、最も高くなった箇所がシート押さえ板4によってその下面の高さ位置に押さえ付けられ、それ以上の変形の進行を停止させられる。さらに、熱膨張性シートWは、シート押さえ板4との当接箇所の後方近傍において、浮き上がりを前記高さ位置よりも低く抑制され易く、かつ、膨張層が膨張を妨げられない。その結果、
図3(b)に示すように、熱膨張性シートWは、シート押さえ板4の下を通過した後も、その下面の高さ位置よりも上へは浮き上がらず、幅方向中央を含めてシート押さえ板4の下面以下の位置を維持して、確実に搬出案内部61,62間に進入することができ、さらに湾曲等の変形が小さく抑制される。そして、熱膨張性シートWは、変形が小さいので搬出案内部61,62等によって容易に矯正される。なお、シート押さえ板4は、下面が熱膨張性シートWの設定経路FPよりも高い位置になるように設けられていることが好ましい。さらにシート押さえ板4は、熱膨張性シートWの膨張層の膨張が進行しているとき、すなわち熱膨張領域1fにおいて、熱膨張性シートWが少なくとも膨張層が設計上で最大に膨張していない状態では接触しない位置に設けられていることがより好ましい。このような構成により、熱膨張性シートWは、膨張層の膨張が妨げられず、幅方向中央の領域と両縁近傍の領域とで、凹凸の高さの誤差を生じ難い。一方で、シート押さえ板4は、設定経路FPからの距離を大きくして高い位置に設けられると、熱膨張性シートWの湾曲が大きくなるので、膨張層の膨張が妨げられない範囲でできるだけ低い位置に設けられることがさらに好ましい。
 
【0028】
  また、冷却器として冷却ファン3が設けられている場合、
図3(a)に示すように、光照射部2の上方の冷却ファン3から冷風CBが下方に送風される。冷風CBは、光照射部2の反射板22の外壁に沿って流れ、本実施形態においては、シート押さえ板4によって搬送方向側の冷風CBが遮られる。これに対して、
図4(a)に示すように、シート押さえ板4を備えない光照射装置110は、冷風CBが光照射領域1iの前方と後方とへそれぞれ流れて熱膨張性シートWに到達する。冷却ファン3の構造にもよるが、冷風CBは幅方向において均一に流れず、そのため、光照射領域1iを通過した直後の熱膨張性シートWに、幅方向に不均一な強さで冷風CBが到達する。そして、熱膨張性シートWは、冷風CBによって速やかに冷却されて温度が降下し、膨張層の膨張が完了されるため、この部分が限定的に熱膨張領域1fが短くなる。その結果、黒色インクの濃淡(明度)が同じであっても、熱膨張性シートWの凸状の高さが幅方向に不均一に形成される。すなわち、本実施形態に係る光照射装置10は、熱膨張性シートWの膨張層を黒色インクの濃淡に応じて均一に膨張させることができる。
 
【0029】
  (変形例)
  光照射装置10は、水平な平板状のシート押さえ板4が光照射領域1iとその熱膨張領域1fにわたって設けられているが、これに限られない。以下、実施形態の変形例に係る光照射装置の構成について、
図5および
図6を参照して説明する。
 
【0030】
  図5に示すように、光照射装置10Aは、シート押さえ板4Aが光照射領域1iの前方の近傍、詳しくは、反射板22の前側の端の直下から前方に設けられている。シートローダ50,50による熱膨張性シートWの搬送速度が高速である等、熱膨張性シートWの膨張層が膨張を開始する位置が搬送方向寄りで、さらに湾曲し始めるのが光照射領域1iを通過した後である場合、このように光照射領域1iを空けてシート押さえ板4Aを設けてもよい。このような構成により、光照射部2からシート押さえ板4Aを透過させずに熱膨張性シートWへ光NIRが照射されるので、光源21の出力を高効率とすることができる。また、光照射領域1iの前方近傍にシート押さえ板4Aが設けられているので、光照射装置10(
図3(a)参照)と同様、熱膨張性シートWが光照射領域1iを通過した直後に冷却ファン3からの冷風CBによって冷却されない。また、光照射装置10において、シート押さえ板4が、例えば光照射領域1iにおいて後方側の半分を空けて、光照射領域1iの前方側の半分を含む熱膨張領域1fに設けられてもよい。このような構成とすることによって、熱膨張性シートWが、光照射領域1iに到達した直後においては強い光NIRが照射される(図示せず)。
 
【0031】
  なお、本変形例のように、シート押さえ板4A(4)が光照射領域1iの全体または一部を空けて設けられている場合、光照射領域1iにおける少なくともシート押さえ板4A(4)が設けられていない部分に、光照射部2を保護するための部材を設けてもよい。具体的には、光照射部2からの光NIRを遮らないように、前記の下側案内部(図示せず)のような金属棒を組み合わせてなる部材を適用することができる。この部材は、搬送異常等を除いて熱膨張性シートWが接触することがないように、シート押さえ板4A(4)の下面よりも高い位置に設けられることが好ましい。
 
【0032】
  また、光照射装置10Aにおいて、冷却ファン3に代えてラジエータ等が設けられている場合には、主に光照射領域1i外に設けられているシート押さえ板4Aは、完全な板状でなくても熱膨張性シートWに温度のムラを生じさせない。具体的には、シート押さえ板4Aは、熱膨張性シートWが当接しても搬送を妨げられないように、例えば櫛型で、幅方向にわたる胴部から櫛歯が搬送方向へ向けて突出している。このような形状のシート押さえ板4Aは、ガラスや耐熱性の樹脂等で形成される。
 
【0033】
  また、
図6に示すように、光照射装置10Bは、シート押さえ板4Bが、その前端が設定経路FPにおける熱膨張性シートWの表面に近付くように、搬送方向に下方へ傾斜する傾斜面を有する。詳しくは、シート押さえ板4Bは、光照射領域1iにおいては水平面であり、その前方で緩やかに下方へ折れ曲がって傾斜面となり、好ましくは熱膨張領域1fまで水平面とする。熱膨張性シートWが、膨張層の膨張に伴う変形が特に大きく、高く浮き上がる場合、このような変形が進行する熱膨張領域1fでは、シート押さえ板4Bを設定経路FPからの距離の大きい高い位置に設けることによって、膨張層の膨張を妨げられないようにする。そして、熱膨張性シートWは、熱膨張領域1fを通過した後、シート押さえ板4Bの傾斜面で摺動されながら案内されることによって矯正され、搬出案内部61,62間に進入することができる。また、光照射部2と設定経路FPとの間隔等によっては、シート押さえ板4Bは、全体が傾斜面の平板状であってもよい。また、シート押さえ板4Bは、例えば
図5に示すシート押さえ板4Aのように、光照射領域1iの全体または後方側の一部を空けるように水平面を短く、または傾斜面のみの平板状としてもよい。
 
【0034】
  シート押さえ板4(4A,4B)の形状はこれらに限られず、例えば搬送方向中央が高い山型とすることもできる。ただし、シート押さえ板4(4A,4B)は、少なくとも搬送方向側の縁(前端)においては、熱膨張性シートWに平行(水平)か、搬送方向に次第に熱膨張性シートWに近付くように(下方へ)傾斜していることが好ましい。
 
【0035】
  以上のように、本発明の実施形態によれば、適切な形状および配置の板材を設けることによって、紙詰まりのような熱膨張性シートの搬送の不具合が生じ難く、また熱膨張性シートの変形を抑制することができる。
 
【0036】
  本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更実施が可能である。
 
【0037】
  以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の通りである。
〔付記〕
《請求項1》
  シート状の媒体を搬送する搬送手段と、
  前記搬送手段により搬送される前記媒体における所定の面に向けて少なくとも所定の波長の光を照射する光照射手段と、
  少なくとも前記所定の波長の光を透過させると共に、前記媒体における前記所定の面に向けた前記光の照射に伴って発生する前記所定の面側への前記媒体の反りまたは浮き上がりを所定の高さ以下に抑制する媒体変形抑制手段と、を備えることを特徴とする光照射装置。
《請求項2》
  前記媒体変形抑制手段は、板状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光照射装置。
《請求項3》
  前記媒体変形抑制手段は、前記搬送手段により搬送される前記媒体と前記光照射手段との間に位置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光照射装置。
《請求項4》
  前記媒体変形抑制手段は、前記媒体において前記光を照射される領域よりも前記搬送手段による搬送方向側に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光照射装置。
《請求項5》
  前記媒体変形抑制手段は、前記搬送手段による搬送方向側の端部が、前記媒体における前記所定の面に対して近付くように傾斜していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の光照射装置。