(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1には、本発明の一実施形態に係る試験方法に供されるタイヤ組立体2の一部が示されている。このタイヤ組立体2は、空気入りタイヤとしてのタイヤ4と、正規リムとしてのリム6とからなっている。このタイヤ4は、リム6に組み付けられている。
図1において、上下方向がタイヤ4の半径方向であり、左右方向が軸方向であり、紙面との垂直方向が周方向である。ここでいう正規リムとは、タイヤ4が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0019】
このタイヤ4は、
図1中の一点鎖線CLを中心としたほぼ左右対称の形状を呈する。この一点鎖線CLは、タイヤ4の赤道面を表す。直線BLは、ビードベースラインを表す。このビードベースラインは、リム6のリム径を規定する線である。このタイヤ4は、トラック、バス等に装着される重荷重用タイヤである。
【0020】
このタイヤ4は、トレッド8、一対のサイドウォール10、一対のクリンチ12、一対のビード14、カーカス16、ベルト18、インナーライナー20、一対のクッション層22及び一対のチェーファー24を備えている。このタイヤ4は、チューブレスタイプである。このタイヤ4は、空気が充填されるタイヤであればよく、チューブを備えるチューブタイプであってもよい。
【0021】
トレッド8は、架橋ゴムからなる。トレッド8は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド8は、トレッド面26を備えている。このトレッド面26は、路面と接地する。トレッド面26には溝28が刻まれている。
【0022】
図1の両矢印Cは、トレッド8のセンター領域を表している。両矢印Sは、トレッド8のショルダー領域を表している。このトレッド8は、センター領域Cと一対のショルダー領域Sとを備えている。センター領域Sは、赤道面を跨いでトレッド8の軸方向中央に位置している。それぞれのショルダー領域Sは、センター領域Cの軸方向外側に位置している。このタイヤ4では、例えば、センター領域Cはトレッド面26の幅の25%の領域であり、一対のショルダー領域Sはそれぞれトレッド面26の幅の37.5%の領域である。
【0023】
このトレッド8では、センター領域Cに溝28cが形成され、ショルダー領域Sに溝28sが形成されている。この溝28c及び溝28sは周方向に延びている。この溝28c及び溝28sは、トレッド面26を周方向に一周している。この溝28c及び溝28sは、主溝と称される。この溝28c及び溝28sと、更に図示されない他の溝とにより、トレッドパターンが形成されている。
【0024】
それぞれのサイドウォール10は、トレッド8の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール10は、架橋ゴムからなる。それぞれのクリンチ12は、サイドウォール10の半径方向略内側に位置している。クリンチ12は、軸方向において、ビード14及びカーカス16よりも外側に位置している。クリンチ12は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。クリンチ12は、リム6のフランジ6fと当接する。
【0025】
それぞれのビード14は、クリンチ12の軸方向内側に位置している。ビード14は、コア30及びエイペックス32を備えている。コア30はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス32は、コア30から半径方向外向きに延びている。このエイペックス32は、第一エイペックス32a及び第二エイペックス32bを備えている。第一エイペックス32aは、高硬度な架橋ゴムからなる。第二エイペックス32bは、第一エイペックス32aよりも軸方向外側且つ半径方向外側に位置している。第二エイペックス32bは、第一エイペックス32aよりも軟質である。
【0026】
カーカス16は、カーカスプライ34からなる。カーカスプライ34は、両側のビード14の間に架け渡されており、トレッド8及びサイドウォール10の内側に沿っている。このカーカスプライ34はコア30の周りを折り返されている。カーカスプライ34は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス16はラジアル構造を有する。コードの材質は、スチールであり、有機繊維であってよい。カーカス16は、2枚以上のカーカスプライから形成されてもよい。このカーカス16は、ラジアル構造に代えて、所謂バイアス構造を有してもよい。
【0027】
ベルト18は、トレッド8の半径方向内側に位置している。ベルト18は、カーカス16と積層されている。ベルト18は、軸方向において、トレッド面26の一端の近傍から他端の近傍まで延びている。ベルト18は、カーカス16を補強する。このベルト18は、第一層18a、第二層18b、第三層18c及び第四層18dを備えている。半径方向内側から外側に向かって、この第一層18a、第二層18b、第三層18c、第四層18dの順で、各層が積層されている。
【0028】
図示されていないが、第一層18a、第二層18b、第三層18c及び第四層18dのそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードは、メッキ層を有するスチールからなる。このコードは、赤道面に対して傾斜している。第一層18aのコードの赤道面に対する傾斜方向は、第二層18bのコードの赤道面に対する傾斜方向とは同じである。第二層18bのコードの赤道面に対する傾斜方向は、第三層18cのコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。第三層18cのコードの赤道面に対する傾斜方向は、第四層18dのコードの赤道面に対する傾斜方向とは同じである。それぞれの層において、コードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、15°から70°である。このベルト18では、第一層18a及び第二層18bのコードと、第三層18c及び第四層18dのコードとは交差して延びている。このベルト18は、2層以上の複数層であればよい。
【0029】
インナーライナー20は、カーカス16の内側に位置している。インナーライナー20は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー20の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー20は、タイヤ4の内圧を保持する。
【0030】
ぞれぞれのクッション層22は、ベルト18の端の近傍において、カーカス16と積層されている。クッション層22は、半径方向においてカーカス16とベルト18との間に位置する。クッション層22は、軟質な架橋ゴムからなる。クッション層22は、ベルト18の端の応力を吸収する。
【0031】
チェーファー24は、ビード14の近傍に位置している。タイヤ4がリム6に組み込まれると、このチェーファー24がリム6のシート面と当接する。この当接により、ビード14の近傍が保護される。このチェーファー24は、クリンチ12と一体にされている。このチェファー24の材質は、クリンチ12のそれと同じである。チェーファー24は、クリンチ12と別体であってもよい。チェーファー24は、布とこの布に含浸したゴムとからなってもよい。
【0032】
図2には、タイヤ4の試験方法のフローチャートが示されている。この試験方法は、外観検査工程、気体充填工程、内圧安定工程、内圧検査工程、内圧調整工程、試験工程及び評価工程を備えている。
【0033】
図3には、この試験工程のフローチャートが示されている。この試験工程は、熱劣化工程、気体入替工程及び走行工程を含んでいる。
【0034】
図4には、この走行工程で使用されるドラム式試験機36がタイヤ組立体2と共に示されている。この試験機36は、タイヤ支持部38及びドラム支持部40を備えている。タイヤ支持部38は、負荷装置42及びスピンドル44を備えている。図示されないが、このタイヤ支持部38は、操舵角付与機構及びキャンバー角付与機構等を備えている。
【0035】
負荷装置42は、スピンドル44を上下方向に移動させうる。負荷装置42は、スピンドル44に下向きの試験荷重を負荷しうる。負荷装置42は、この試験荷重の大きさを制御可能にされている。スピンドル44の先端には、タイヤ組立体2が着脱可能に取り付けられている。スピンドル44は、その軸線を回転軸にして回転可能にされている。スピンドル44は、正転向きと逆転向きとのいずれにも回転可能にされている。
【0036】
ドラム支持部40は、ドラム46及び本体48を備えている。ドラム46は、円筒形状を備えている。このドラム46の外周面は、走行面50を形成している。タイヤ組立体2は、この走行面50を走行する。ドラム46は、その軸線を回転軸にして回転可能にされている。このドラム46は、正転向きと逆転向きとのいずれにも回転可能にしている。
【0037】
図2から
図4を参照しつつ、本発明に係るタイヤ4の試験方法が説明される。
図2の外観検査工程では、タイヤ4の外観が検査される。タイヤ4の表面にキズ等異常がないか目視検査がされる。異常がないことが確認されたタイヤ4は、リム6に組み込まれて、タイヤ組立体2が得られる。
【0038】
気体充填工程では、このタイヤ組立体2に気体が充填される。このタイヤ組立体2の内圧は、所定の試験内圧Pb(kPa)にされる。例えば、試験内圧Pbは、タイヤ4の正規内圧Pより高くされる。例えば、試験内圧Pbは、正規内圧Pの1.25倍にされる。この試験内圧Pbは、熱劣化工程の試験条件として予め定められている。
【0039】
この試験方法の正規内圧Pとは、タイヤ4が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、この正規内圧Pである。
【0040】
この気体充填工程では、例えば、気体として酸素と窒素との混合気体が充填される。この混合気体では、酸素と窒素とは予め定められた濃度で混合されている。混合気体では、例えば、酸素濃度が90%であり、窒素濃度が10%である。この試験内圧Pbにおいて、酸素の分圧をPo(kPa)とし、窒素の分圧をPn(kPa)とする。このとき酸素の分圧Poは試験内圧Pbの0.9倍であり、窒素の分圧Pnは試験内圧Pbの0.1倍である。
【0041】
このときの酸素濃度は、酸素の分圧Poとタイヤ組立体2の全圧である試験内圧Pbとから、以下の式で求められる。
酸素濃度(%) = (Po/Pb)・100
同様に、窒素濃度は、窒素の分圧Pnと試験内圧Pbとから、以下に式で求められる。
窒素濃度(%) = (Pn/Pb)・100
【0042】
この混合気体は、更に水分を含んでいてもよい。例えば、図示されない加熱可能な水タンクが準備される。この水タンク内の水が加熱されて、水蒸気にされる。混合気体は、この水蒸気を含んでいてもよい。この混合気体に試験工程の予め定められた濃度で水蒸気が混合されて、所定の水分濃度にされてもよい。この気体充填工程では、この混合気体がタイヤ組立体2に充填されてもよい。また、この気体充填工程では、予め定められた質量の水がタイヤ組立体2に充填されてもよい。
【0043】
内圧安定工程では、混合気体が充填されて試験内圧Pbにされたタイヤ組立体2が、室温で所定の保管時間保管される。この室温は、例えば25℃である。この室温は、一般的には、20℃以上30℃以下である。この保管時間は、例えば2時間である。
【0044】
内圧検査工程では、混合気体が充填されてからの経過時間が、内圧安定工程の保管時間以上であるか否かが判定されている。ここでは、経過時間が2時間以上であるか否かが判定されている。この経過時間が2時間以上のときに、タイヤ組立体2の内圧安定工程後の測定内圧Pb’(kPa)が測定される。内圧Pbにされたタイヤ組立体2の内圧は、経過時間とともに徐々に変化する。内圧安定工程の保管時間の経過によって、測定内圧Pb’と試験内圧Pbとに差が生じる。
【0045】
内圧調整工程では、測定内圧Pb’が試験内圧Pbより低くければ、タイヤ組立体2に混合気体が充填される。このタイヤ組立体2の内圧は、試験内圧Pbに再調整される。一方で、測定内圧Pb’が試験内圧Pbより高ければ、タイヤ組立体2から混合気体が排出される。このタイヤ組立体2の内圧は、試験内圧Pbに再調整される。この様にして、タイヤ組立体2の内圧は、試験内圧Pbに再び調整される。例えば、試験内圧Pbと測定内圧Pb’との差が1(kPa)以上のときに、その差が1(kPa)未満に調整される。内圧調整工程で試験内圧Pbにされたタイヤ組立体2は、試験工程に送られる。
【0046】
図3の熱劣化工程では、内圧調整工程で試験内圧Pbに調整されたタイヤ組立体2が室温より高温の雰囲気で所定の放置期間放置される。例えば、このタイヤ組立体2が60℃の雰囲気で、5週間放置される。
【0047】
気体入替工程では、この熱劣化工程後のタイヤ組立体2が室温の雰囲気に置かれる。タイヤ組立体2から混合気体が排出される。この混合気体に代えて、タイヤ組立体2に空気が充填される。タイヤ組立体2の内圧が予め定められた走行工程の試験内圧Pr(kPa)にされる。例えば、この試験内圧Prは、タイヤ4の正規内圧Pより高くされる。例えば、この内圧Prは、正規内圧Pの1.25倍にされる。この試験工程は、気体入替工程と走行工程の間に、更に、前述の内圧安定工程、内圧検査工程及び内圧調整工程と同様の工程を備えていてもよい。
【0048】
図4に示される様に、走行工程では、試験機36に、試験内圧Prのタイヤ組立体2がセットされる。タイヤ4のトレッド面26は、ドラム46の走行面50に接地する。
【0049】
負荷装置42は、タイヤ組立体2に所定の荷重Fr(kN)を負荷する。この荷重Frによって、タイヤ4は、ドラム46の走行面50に押し当てられる。例えば、この荷重Frは正規荷重の1.4倍にされる。ドラム64が回転する。走行面50に接地したタイヤ4が回転する。これにより、タイヤ4が走行面50を走行する。タイヤ4の走行速度は、ドラム46の回転速度により調整される。タイヤ4は、所定の走行速度で走行する。例えば、この走行速度は80(km/h)にされる。
【0050】
この走行工程では、所定時間間隔でタイヤ4の外観が観察される。タイヤ4に損傷が確認されたときに、走行工程が終了する。タイヤ4に損傷が確認されないときは、予め定められた走行距離で走行工程が終了する。
【0051】
評価工程では、走行後のタイヤ4について、ベルト18の層間剥離の有無が検査される。この検査はタイヤ4の外観を目視で確認することで行われる。この検査がX線検査装置で撮影した写真を確認することで行われてもよい。また、シアログラフィ(真空としてシアロ縞の干渉から空気の閉じ込みの有無を判断)により検査され、空気の閉じ込みの有無が調べられてもよい。このシアログラフィによる検査の結果と照らし合わせて、タイヤ4の解体箇所を決定してもよい。このとき、層間剥離が発生するまでの走行工程の走行時間が計測されている。この走行時間が長いほど、層間剥離に対する耐久性が高いと判断される。
【0052】
この評価工程では、予め定められた所定距離を走行させた後に、層間剥離の耐久性が評価されてもよい。この所定距離は、そのタイヤ4が装着される実車の走行距離を基準にして定められても良い。この所定距離を走行させたタイヤ4で、層間剥離の発生の有無が評価される。また、複数の試験タイヤを同じ条件で試験をして、層間剥離の耐久性が相対評価されてもよい。この層間剥離が評価されることで、タイヤ4の構造の変更、インナーライナー20の厚さ、ゴム組成物の配合等の種々の改良の効果が高精度に確認されうる。この評価で得られた知見が層間剥離の耐久性に優れたタイヤ4の開発に活かされうる。
【0053】
図5には、タイヤ組立体2の内圧と時間との関係がグラフで示されている。
図5の横軸は空気が充填されてからの経過時間T(min)であり、縦軸はタイヤ組立体2の内圧Pm(kPa)である。このタイヤ4のサイズは「12R22.5」であり、リム6のサイズは「22.5x8.25」である。このタイヤ組立体2に空気が充填されて、正規内圧Pの800(kPa)にされた。このタイヤ組立体2が室温で放置された。
図5には、タイヤ組立体2の内圧の変化が表されている。
【0054】
図5に示され様に、タイヤ組立体2の内圧は、時間の経過に伴って低下している。この内圧の減少量は、最初の30分が特に大きい。この減少量は、その後60分(1時間)、90分(1時間30分)と経過時間が長くなるにつれて漸減する。
【0055】
このタイヤ組立体4の内圧の低下は、主にタイヤ4の寸法成長によるものである。ゴムを主材料とするタイヤ4は、内圧によって寸法成長する。タイヤ4の寸法成長によって、空気が充填される容積が増大する。これにより、タイヤ組立体2の内圧が低下する。この容積の変化量は、時間の経過に伴って漸減する。これにより、内圧の減少量も経過時間が長くなるにつれて漸減する。
【0056】
この試験方法は、気体充填工程の後に、内圧安定工程と内圧検査工程と内圧調整工程とを備えている。この内圧調整工程を経たタイヤ組立体2が試験工程で試験される。この試験工程では、タイヤ組立体4は高い精度で試験内圧Pbにされている。この試験方法は、タイヤ組立体4の試験内圧Pbのバラツキが抑制されている。この試験内圧Pbのバラツキに起因する評価結果のバラツキが抑制されている。この試験方法は高精度にタイヤ4の評価をしうる。
【0057】
このタイヤ4は、トラック、バス等に装着される重荷重用タイヤである。このタイヤ4の正規内圧Pは、800(kPa)である。一般に乗用車用タイヤの正規内圧は、約200(kPa)程度である。タイヤ4の正規内圧Pは、乗用車用タイヤのそれに比べて高い。正規内圧Pの高いタイヤ4では、寸法成長が生じ易い。また、タイヤ4の外径は乗用車用タイヤのそれに比べて大きい。タイヤ4の寸法成長による容積の変化量は、乗用車用タイヤのそれに比べて大きい。容積の変化量が大きいので、内圧の減少量も大きい。この試験方法は、タイヤ4の様な重荷重用タイヤの試験の評価精度を特に向上しうる。
【0058】
図5に示した様に、タイヤ4の内圧は、時間の経過に伴って漸減する。内圧安定工程における保管時間を長くすることで、試験工程でのタイヤ組立体2の内圧を高い精度で管理できる。この観点から、この保管時間は、好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは2時間以上であり、特に好ましくは3時間以上である。一方で、効率的に試験をする観点から、この保管時間は、好ましくは7時間以下である。
【0059】
この試験方法では、ベルト18の層間剥離の耐久が評価されている。このベルト18の層間剥離は、充填される気体の酸素濃度や水分濃度の影響を受ける。これは、充填された気体の酸素や水分が、タイヤ内部に浸透することで、ベルト18の層間剥離を助長するためである。
【0060】
具体的には、タイヤ4の回転によって、タイヤ4は周方向に変形箇所が移動する。タイヤ4は周期的な変形を繰り返す。ベルト18の各層間に剪断歪みが生じる。特に、コードの傾斜方向の異なる第二層18bと第三層18cとの間に大きな剪断歪みが生じる。また、トレッド4の他部に比べて、溝28sの底部では、大気中の酸素の浸透と繰り返し変形との影響よって、ベルト18近傍のゴムの劣化が生じ易い。このベルト18の剪断歪みと、溝28sの底部のゴムの劣化によって、ベルト18に微小な剥離が生じる。走行時のタイヤ4の繰り返し変形によって、この微小な剥離が成長する。やがて、ベルト18に層間剥離が生じる。
【0061】
充填された気体の酸素は、ベルト18の層間剥離に影響する。このベルト18の層間剥離の評価では、酸素濃度は評価の精度に影響する。この評価精度を向上させる観点から、この内圧検査工程では、好ましくは、酸素濃度が測定される。公知のガス濃度測定装置を用いて酸素濃度が測定される。例えば、第一熱研社製の酸素濃度計で酸素濃度が測定される。この酸素濃度は、充填された気体を僅かに抽出して、この抽出された気体で測定されてもよい。この内圧調整工程では、好ましくは、酸素濃度が調整される。例えば、充填された気体より酸素濃度の高い混合気体と酸素濃度が低い混合気体とが準備される。内圧調整工程では、充填された気体の一部を酸素濃度の高い混合気体又は酸素濃度の低い混合気体と入れ替えることで、酸素濃度が調整されうる。また、内圧検査工程で、窒素濃度が測定されてもよい。内圧調整工程で、窒素濃度が調整されてもよい。窒素濃度の測定は、公知のガス濃度測定装置で測定される。窒素濃度は、酸素濃度と同様にして調整されうる。窒素等の不活性ガスの濃度を調整することは、評価精度の更なる向上に寄与する。
【0062】
水分は、ベルト18の層間剥離に影響する。このベルト18の層間剥離の評価では、充填された気体の水分濃度は評価の精度に影響する。この評価精度を向上させる観点から、内圧検査工程で、好ましくは、この水分濃度が測定される。公知の水分計を用いて水分濃度が測定される。例えば、ミッシェルジャパン社製の水分計で水分濃度が測定される。この内圧調整工程では、好ましくは、水分濃度が調整される。例えば、充填された気体より水分濃度の高い混合気体と水分濃度が低い混合気体とが準備される。内圧調整工程では、充填された気体の一部を水分濃度の高い混合気体又は水分濃度の低い混合気体と入れ替えることで、水分濃度が調整されうる。
【0063】
ここでは、ベルト18の層間剥離を例示したが、他のタイヤの熱劣化試験や走行耐久試験において、酸素濃度、窒素濃度及び水分濃度を調整することで、評価精度を向上しうる。
【0064】
また、例えば、タイヤ4のトレッド8の繰り返し変形による耐久評価や熱劣化の評価では、タイヤ組立体2に、窒素が充填されてもよい。窒素を用いることで、酸素や水分による、タイヤ4の内部の劣化が抑制されている。これにより、酸素や水分の影響を排除して、タイヤ4のトレッド8の耐久性を評価しうる。この様な評価では、窒素濃度が評価の精度に特に影響する。この観点から、内圧検査工程で、窒素濃度が測定されてもよい。内圧調整工程で、窒素濃度が調整されてもよい。
【0065】
この気体充填工程及び内圧調整工程では、試験内圧Pbは、タイヤ4の正規内圧P以上にされる。高い試験内圧Pbによって、酸素や水分のタイヤ4への浸透が促進される。高い試験内圧Pbは、ベルト18の層間剥離の発生を助長する。ベルト18の層間剥離を助長する観点から、試験内圧Pbは、好ましくは正規内圧Pの1.0倍以上であり、更に好ましくは1.2倍以上である。一方で、この試験圧力Pbが高過ぎるタイヤ4では、ベルト18の層間剥離が急速に進む。後の走行工程において、急激にタイヤ4が劣化する。急激なタイヤ4の劣化は、タイヤ4の耐久性の評価精度を低下させる。この観点から、この試験内圧Pbは、好ましくは正規内圧Pの1.4倍以下であり、更に好ましくは1.3倍以下である。
【0066】
このベルト18の層間剥離の評価では、熱劣化工程の雰囲気温度を、常温の室温よりも高くすることで、この剥離の発生と進行を助長している。この剥離を促進する観点から、熱劣化工程の雰囲気温度は、好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは55℃以上である。一方で、この温度が高過ぎると、ゴムの劣化が急速に進む。急速な劣化は、ベルト18の層間剥離評価の精度を低下させる。この観点から、この温度は好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは95℃以下である。
【0067】
この熱劣化工程では、タイヤ4に酸素や水分等を十分に浸透させて、ベルト18の剥離の発生と進行とを助長している。この剥離を促進する観点から、熱劣化工程の放置期間は、好ましくは1週間以上、更に好ましくは2週間以上、特に好ましくは3週間以上である。一方で、この放置期間が必要以上に長くされると、効率的な試験評価が出来ない。この観点から、この放置期間は、好ましくは9週間以下であり、更に好ましくは8週間以下であり、特に好ましくは7週間以下である。
【0068】
また、タイヤ4に酸素を浸透させてベルト18の剥離を促進する観点から、この酸素濃度は好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上である。この酸素濃度は100%以下である。
【0069】
この試験工程は、熱劣化工程を含む。熱劣化工程では、タイヤ組立体2が室温より高温の雰囲気で所定の放置期間放置される。熱劣化工程は、タイヤ4の劣化を促進する。この熱劣化工程を備えることで、この走行工程に要する時間が短縮される。この熱劣化工程を備えることで、短時間で評価がされうる。
【0070】
この試験工程は走行工程を備えている。この走行工程を備えることで、走行するタイヤ4で発生する現象の再現性に優れている。この試験工程が走行工程を備えることで、ベルト8の層間剥離の評価が容易にされている。
【0071】
この走行工程では、試験内圧Prは、タイヤ4の正規内圧Pより高い。高い試験内圧Prのタイヤ4は、気体が正規内圧Pで充填された状態に比べて、硬い。硬いタイヤ4では、トレッド面26が走行面50に接地するときの衝撃が大きい。この硬いタイヤ4では、ベルト18の層間剥離の発生が助長される。この剥離を助長する観点から、試験内圧Prは、好ましくは正規内圧Pの1.1倍以上であり、更に好ましくは1.2倍以上である。一方で、この試験圧力Prが高過ぎるタイヤ4では、ベルト18の層間剥離が急速に進む。走行工程において、急激にタイヤ4が劣化する。急激なタイヤ4の劣化は、タイヤ4にベルト18の層間剥離以外の損傷を生じさせる。この層間剥離の評価精度が低下する。この観点から、この試験内圧Prは、好ましくは正規内圧Pの2.1倍以下であり、更に好ましくは2.0倍以下である。
【0072】
この走行工程では、タイヤ4に半径方向の荷重Frが負荷されて走行面50に押し付けられる。この荷重Frが負荷されることで、トレッド8に大きな負荷がかけられている。この荷重Frにより、ベルト18の層間剥離が生じ易くされている。この観点から、荷重Frは、好ましくは正規荷重Fの1.1倍以上であり、更に好ましくは1.2倍以上であり、特に好ましくは1.3倍以上である。一方で、タイヤ4に大きな荷重Frが負荷されると、トレッド8の接地部分の歪みが大きくなる。この大きな歪みにより、タイヤ4の発熱が大きくなる。この発熱の増大は、ベルト18の層間剥離以外の損傷を発生させる。この層間剥離の評価に支障を来す。この観点から、荷重Frは、好ましくは正規荷重Fの2.0倍以下であり、更に好ましくは1.9倍以下であり、特に好ましくは1.8倍以下である。
【0073】
本明細書において正規荷重Fとは、タイヤ4が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重Fである。
【0074】
この走行工程のタイヤ4の走行速度が速くされることで、ベルト18の層間剥離が促進される。この層間剥離の促進により、効率的に試験評価がされうる。この観点から、試験タイヤの走行速度は、好ましくは60km/h以上であり、更に好ましくは70km/h以上である。一方で、この走行速度が速過ぎると、タイヤ4の発熱が大きくなる。この発熱の増大はベルト18の層間剥離以外の損傷を発生させる。この層間剥離の評価に支障を来す。この観点から、走行速度は、好ましくは100km/h以下であり、更に好ましくは90km/h以下である。
【0075】
この試験工程は、熱劣化工程と走行工程との間に、気体入替工程を備えている。この気体入替工程において、タイヤ4の劣化を促進する気体から通常の空気に入れ替えられている。これにより、走行工程において、急激にタイヤ4が劣化することが抑制されている。この方法は、気体入替工程を備えることで、タイヤ4の評価精度が向上している。この気体入替工程で入れ替えられる気体は空気に限られない。この気体は、例えば、窒素や酸素を主成分とする混合気体であってもよい。
【0076】
この走行工程では、正規内圧Pと走行試験内圧Prと正規荷重Fと試験荷重Frとから、総荷重指数FIが以下の数式(1)で求められうる。
【数1】
【0077】
この総荷重指数FIが小さ過ぎるタイヤ4では、ベルト18の層間剥離以外の損傷が発生する。この剥離以外の損傷の発生は、ベルト18の層間剥離の評価を阻害する。一方で、この総荷重指数FIが大き過ぎるタイヤ4でも、ベルト18の層間剥離以外の損傷が発生する。このベルト18の層間剥離を適切に評価する観点から、この総荷重指数FIは、好ましくは1.05以上である。同様の観点から、この総荷重指数FIは、好ましくは1.30以下である。
【0078】
この試験工程は、層間剥離の試験に限られない。この試験工程は、熱劣化工程と走行工程を備えていたが、いずれか一方の工程からなってもよい。この試験工程が熱劣化工程からなってもよい。この熱劣化工程によって、タイヤ4の劣化が評価されてもよい。この熱劣化工程でのタイヤ組立体2の内圧を高精度に管理することで、タイヤ4の熱劣化の評価精度を向上しうる。更に、タイヤ組立体に充填された気体の酸素濃度、窒素濃度、水分濃度等を高精度に管理することで、タイヤ4の熱劣化の評価精度を向上しうる。
【0079】
同様に、試験工程が走行工程からなってもよい。この走行工程によって、タイヤ4の走行耐久性が評価されてもよい。この走行工程でのタイヤ組立体2の内圧を高精度に管理することで、タイヤ4の走行耐久性の評価精度を向上しうる。タイヤ組立体2に充填された気体の酸素濃度、窒素濃度、水分濃度等を高精度に管理することで、タイヤ4の走行耐久性の評価精度を向上しうる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0081】
[熱劣化テスト]
試験タイヤが準備された。このタイヤは、
図1に示される構造を備えていた。このタイヤサイズは、「12R22.5 152/149L SP391 T/L」であった。このタイヤの正規内圧は、800kPaであった。このタイヤは、トラック、バスに装着される重荷重用タイヤである。このタイヤが正規リム「22.5x8.25」に組み付けられて、タイヤ組立体にされた。このタイヤ組立体が5本準備された。
【0082】
この5本のタイヤ組立体について、熱劣化試験がされた。この熱劣化試験は、
図2の試験方法の気体充填工程、内圧安定工程、内圧検査工程、内圧調整工程、熱劣化工程及び評価工程を備えている。この熱劣化試験は、気体入替工程及び走行工程を備えていない。
【0083】
この気体充填工程では、混合気体が準備された。この混合気体は、酸素濃度が95%であり、窒素濃度が5%であった。この混合気体が、タイヤ組立体に内圧800kPaで充填された。内圧安定工程では、このタイヤ組立体が室温25℃で1時間保管された。内圧検査工程で、内圧安定工程後のタイヤ組立体の内圧が測定された。内圧調整工程では、タイヤ組立体に混合気体が充填されて、内圧が800kPaに再調整された。その後、熱劣化工程では、このタイヤ組立体が乾熱オーブンに投入された。このタイヤ組立体は、80℃で4週間、熱劣化された。
【0084】
この評価工程では、熱劣化工程後のタイヤ組立体において、カーカスとベルトとの間の剥離が評価された。このタイヤから、試験サンプルが採取された。このサンプルを幅25mmに切断し、カーカスとベルトとの界面での剥離抗力(単位:N/25mm)を測定した。この剥離抗力の測定は、インテスコ社製の引張試験機を用いて、速度50(mm/sec)で行った。
【0085】
表1には、タイヤE1からE5として、それぞれのタイヤの内圧検査工程で測定された内圧と、評価工程で測定された剥離抗力と、剥離抗力の平均値と、標準偏差とが、示されている。この表1では、この剥離抗力、剥離抗力の平均値及び標準偏差は、タイヤE1からE5の剥離抗力の平均値を100として、指数(%)で示されている。
【0086】
[熱劣化比較テスト]
内圧安定工程、内圧検査工程及び内圧調整工程を備えない他は、前述の熱劣化テストと同様にして、5本のタイヤのカーカスとベルトとの間の剥離が評価された。このテストでは、気体充填工程後に、直ちに熱劣化工程が実施された。その後に、評価工程で、剥離抗力が測定された。表1には、タイヤC1からC5として、それぞれのタイヤの評価工程で測定された剥離抗力と、剥離抗力の平均値と、標準偏差とが、示されている。この表1では、タイヤC1からC5の剥離抗力、剥離抗力の平均値及び標準偏差は、前述のタイヤE1からE5の剥離抗力の平均値を100として、指数(%)で示されている。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示される様に、タイヤE1からE5の剥離抗力のバラツキは、タイヤC1からC5のそれに比べて小さい。タイヤE1からE5の剥離抗力の平均がタイヤC1からC5のそれに比べて大きいのは、内圧調整工程で混合気体(酸素)が更に充填されたことによる。
【0089】
表1に示されるように、本発明に係る試験方法では、比較例の試験方法に比べて評価精度が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0090】
[層間剥離テスト]
4種類のタイヤが準備された。いずれのタイヤも、
図1と同様のベルトを備えている。これらのタイヤサイズはいずれも「12R22.5」であった。これらのタイヤは、ベルトの層間剥離の耐久性が異なっている。実車でのベルトの層間剥離の耐久性は、タイヤS4がも最も優れていた。タイヤS3は、タイヤS2及びS1より優れていた。タイヤS2は、タイヤS1より優れていた。
【0091】
[実施例]
図2に示される試験方法で、ベルトの層間剥離の評価がされた。タイヤS1からS3では、ベルト層間剥離が確認された。タイヤS4では、ベルト層間剥離が発生せずに、ベルト端での剥離であるベルトエッジルースが確認された。このタイヤS4でベルトエッジルースが確認されるまでの走行距離を100として、タイヤS1からS3でベルト層間剥離が確認されるまでの走行距離を指数化した。この指数が、表2に示されている。この指数の値が大きいほど、走行距離が長い。この評価結果は、指数が大きいほど、好ましい。
【0092】
[比較例]
内圧安定工程、内圧検査工程及び内圧調整工程を備えない他は、実施例の試験方法と同様にして、ベルトの層間剥離の評価がされた。この試験でも、タイヤS1からS3では、ベルト層間剥離が確認された。タイヤS4では、ベルト層間剥離が発生せずに、ベルト端での剥離であるベルトエッジルースが確認された。このタイヤS4でベルトエッジルースが確認されるまでの走行距離を100として、タイヤS1からS3でベルト層間剥離が確認されるまでの走行距離を指数化した。その指数が、表2に示されている。
【0093】
【表2】
【0094】
表2の実施例の評価結果は、実車でのベルト層間剥離の評価と一致している。一方で、比較例の評価結果は、実施での評価結果とタイヤS2とS3との評価結果が逆転していた。
【0095】
ベルトの層間剥離の耐久性の試験方法は、これまで確立されていない。この試験方法は、このベルトの層間剥離の耐久性を、効率的にかつ高精度に評価しうる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。