(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
油分で汚染された土壌を浄化する方法として、土壌中に存在する微生物の油分解性能を利用したバイオレメディエーションが知られている。
【0003】
バイオレメディエーションを行う際には、微生物自体を活性化させるために、土壌に窒素やリン酸のような栄養塩を添加することが一般的である。
【0004】
また、バイオレメディエーションには、有機汚染物質の分解性能を備えた好気性微生物を活性化させて有機汚染物質を発酵分解させる、通気型の工法もある(特許文献1参照)。
【0005】
このような通気型のバイオレメディエーションにおいて微生物自体を活性化させるための方法として、特許文献2には人工腐植土と糖類を利用する方法が開示されており、特許文献3には糟糠類を利用する方法が開示されている。また、特許文献4には、糟糠類を含有する発酵助材を添加した汚染土壌の温度を維持するために通気量を制御する方法も開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
==実施形態==
本実施形態は、油分で汚染された汚染土壌を油分解細菌により浄化する汚染土壌の浄化方法に関する。本実施形態に係る浄化方法においては、汚染土壌に対して脂肪酸エステル系の薬剤を添加する。
【0013】
[油分]
本実施形態に係る浄化方法が対象とする油分は、たとえば、ガソリン、灯油、軽油、重油、機械油、潤滑油、原油等の石油由来の油分や、タールやベンゼン等の石炭由来の油分、石油化学製品由来の油分である。
【0014】
[油分解細菌]
油分解細菌は、土壌中に存在する一般的な細菌(一般細菌)のうち、上記の油分を分解することができる細菌である。具体的には、油分解細菌は、油分に含まれるアルカンを分解する酵素を有する細菌である。本実施形態に係る浄化方法では、土壌中に元々存在する油分解細菌を利用してもよいし、浄化方法を実施する際に新たな油分解細菌を土壌に添加することでもよい。
【0015】
[脂肪酸エステル系の薬剤]
脂肪酸エステル型の薬剤は、オレイン酸系のポリエチレングリコールを用いることができる。本実施形態では、ジオレイン酸ポリエチレングリコールを用いる。ジオレイン酸ポリエチレングリコールは、油分に含まれるアルカンよりも土壌中における分解速度が速い。油分解細菌は、土壌中で分解したジオレイン酸ポリエチレングリコールを栄養源として増殖する。油分解細菌が増殖することにより、土壌中の油分の分解が促進される。
【0016】
[浄化方法]
本実施形態に係る浄化方法は、油分で汚染された汚染土壌に対してジオレイン酸ポリエチレングリコールを添加することができれば特に限定されない。ジオレイン酸ポリエチレングリコールは、油分量よりも低い濃度となることが好ましく、土壌に対して重量比で0.01〜1.0%添加することが好ましい。
【0017】
==実施例==
[油分の分解試験]
土壌に含まれる油分の分解について、以下の試験(実施例1、比較例1、及び比較例2)により検証した。
【0018】
試験用の汚染土として、軽油汚染土を使用した。軽油汚染土は、油分濃度が約2450mg/kgのものを使用した。油分濃度は、TPH試験法(油汚染対策ガイドライン(平成18年3月)資料3 GC−FID法によるTPH試験方法参照)により求めた。
【0020】
(実施例1:ジオレイン酸ポリエチレングリコール+尿素+過リン酸石灰)
軽油汚染土6kgを容器に分取し、軽油汚染土に対して重量比で尿素肥料を0.1%、過リン酸石灰を0.9%、ジオレイン酸ポリエチレングリコール(原液)を0.9%添加し、撹拌・混合した。その後、軽油汚染土をワグネルポット(硬質樹脂製。容量17L)に入れ、20℃の温度下で保管し、1週間毎に撹拌をおこなった。
【0021】
(比較例1:対象区)
軽油汚染土6kgをワグネルポット(硬質樹脂製。容量17L)に入れ、20℃の温度下で保管し、1週間毎に撹拌をおこなった。
【0022】
(比較例2:尿素+過リン酸石灰)
軽油汚染土6kgを容器に分取し、軽油汚染土に対して重量比で尿素肥料を0.1%、過リン酸石灰を0.9%添加し、撹拌・混合した。その後、軽油汚染土をワグネルポット(硬質樹脂製。容量17L)に入れ、20℃の温度下で保管し、1週間毎に撹拌をおこなった。
【0023】
<油分濃度の測定>
実施例1、比較例1及び比較例2それぞれの汚染土について、7日後、50日後の油分濃度を上記TPH試験法により測定した。表1は、油分濃度の変化、及び50日後の油分の残存率(50日後の油分濃度/初期の油分濃度)を示したものである。
【0025】
<一般細菌数の測定>
また、実施例1、比較例1及び比較例2それぞれの汚染土における一般細菌数の変化を希釈平板法(日本土壌肥料学会監修、土壌環境分析法編集委員会編、「土壌環境分析法」、株式会社博友社、p138−141。培地:アルブミン培地、温度:28℃)により測定した。
図1は、軽油汚染土中の一般細菌数を示すグラフである。縦軸は一般細菌数(個/g・湿土)であり、横軸は試験開始からの経過日数である。
【0026】
表1から明らかなように、実施例1においては7日経過時点で油分濃度が大きく低下し、50日後には油分の残存率が0.30まで減少した。
【0027】
一方、比較例2においては、油分濃度の低下は見られたがその割合は小さく、実施例1のように、油分濃度が大きく減少することは無かった。
【0028】
また、
図1から明らかなように、実施例1においては、比較例1及び比較例2に比べて土中の一般細菌が大きく増殖した。また、増殖した一般細菌の数は、50日経過後でもほとんど変わらないことが明らかとなった。
【0029】
以上の結果から明らかなように、油で汚染された汚染土壌中にジオレイン酸ポリエチレングリコールを添加することにより一般細菌を増殖させることができ、その結果、油分の分解が促進することが明らかとなった。
【0030】
[油分解細菌の増殖試験]
上述の通り、油分の分解試験の結果によりジオレイン酸ポリエチレングリコールを添加することで一般細菌が増殖することが明らかとなった。一方、油分の分解には一般細菌に含まれる油分解細菌が寄与していると考えられる。そこで、一般細菌の増殖及び油分解細菌の増殖に関して、以下の試験(実施例2、比較例3〜比較例5)により検証した。
【0031】
試験用の汚染土として、実施例1等と同様の軽油汚染土を用いた。
【0032】
また、NH
4NO
3:5g、K
2HPO
4:2.5g、MgSO
4・7H
2O:1.0g、滅菌水1Lを混合・撹拌した後、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行うことにより作成した無機培地を用いた。
【0034】
(実施例2:ジオレイン酸ポリエチレングリコール)
汚染土1gを滅菌した200mL三角フラスコに分取し、無機培地100mLを添加した。その後、滅菌水で5%に希釈したジオレイン酸ポリエチレングリコール10mLを添加し、シリコ栓をした後、25℃で3日間、振とう培養した(回転数:121rpm)。
【0035】
(比較例3:対象区)
汚染土1gを滅菌した200mL三角フラスコに分取し、無機培地100mLを添加した。シリコ栓をした後、25℃で3日間、振とう培養した(回転数:121rpm)。
【0036】
(比較例4:グルコース)
汚染土1gを滅菌した200mL三角フラスコに分取し、無機培地100mLを添加した。その後、グルコース0.5gを添加し、シリコ栓をした後、25℃で3日間、振とう培養した(回転数:121rpm)。
【0037】
(比較例5:軽油)
汚染土1gを滅菌した200mL三角フラスコに分取し、無機培地100mLを添加した。その後、軽油0.5mLを添加し、シリコ栓をした後、25℃で3日間、振とう培養した(回転数:121rpm)。
【0038】
<遺伝子数の測定>
振とう培養後の懸濁液をスターラーで撹拌しながら、懸濁液の上澄みを土粒子ごと300μL分取した。市販の抽出キッド(ISOIL for Beads Beating、株式会社ニッポンジーン製)を用い、分取した懸濁液に含まれている細菌のDNAを抽出した。
【0039】
そして、抽出したDNAを適切な濃度に希釈し、表2に示す反応条件により、リアルタイムPCR装置(Rotor−Gene Q、QIAGEN製)で細菌の遺伝子数を測定した。油分解細菌用としては、アルカンの分解酵素を特異的に判別するalkB検出用プライマー(表3参照。出典:DioGO Jurelevicius et.al.“The use of a Combination of alkB Primers to Better Characterize the Distribution of Alkane−Degrading Bacteria” PLOS ONE,Vol.8(6)e66565(2013))を用いた。一般細菌用としては、16SrDNAを用いた。増幅酵素は、TITANIUM(登録商標) Taq DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)を用いた。蛍光酵素は、SYBR(登録商標) Green I(タカラバイオ株式会社製)を用いた。
【0042】
図2は、一般細菌の遺伝子数(16Sリボゾームの遺伝子数)を示すグラフである。
図3は、油分解細菌の遺伝子数(alkBの遺伝子数)を示すグラフである。いずれのグラフも縦軸は遺伝子数(個/g−wet)である。
【0043】
図2及び
図3から明らかなように、実施例2では、一般細菌が増殖すると共に、油分解細菌も増殖した。
【0044】
一方、一般的に細菌の栄養源として広く知られているグルコースを添加した場合(比較例4)、一般細菌は実施例1の場合と同程度増殖しているが、油分解細菌はほとんど増殖しなかった。
【0045】
また、油分解細菌の栄養源となりうる軽油を添加した場合(比較例5)、一般細菌数及び油分解細菌のいずれも対象区(比較例3)と同程度しか増殖しなかった。
【0046】
以上の結果から、土壌にジオレイン酸ポリエチレングリコールを添加することにより、一般細菌に含まれる油分解細菌を特に増殖できることが明らかとなった。
【0047】
上記実施例1〜2及び比較例1〜5の結果を総合すると、ジオレイン酸ポリエチレングリコールを油分で汚染された汚染土壌に添加することにより、油分解細菌の増殖を促し、その結果、土壌中の油分を効率よく分解できることが明らかとなった。
【0048】
上記実施形態等は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。