特許第6852347号(P6852347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852347
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20210322BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20210322BHJP
   C07C 275/10 20060101ALI20210322BHJP
   C07C 275/14 20060101ALI20210322BHJP
   C07D 211/26 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
   C07C275/10CSP
   C07C275/14
   C07D211/26
【請求項の数】3
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-203792(P2016-203792)
(22)【出願日】2016年10月17日
(65)【公開番号】特開2017-138575(P2017-138575A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-15682(P2016-15682)
(32)【優先日】2016年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】秋池 利之
(72)【発明者】
【氏名】中島 彰男
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−215462(JP,A)
【文献】 特開2014−098887(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/002291(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、かつ下記式(1)で表されるジアミンに由来する構造単位を有する重合体[P]を含有する液晶配向剤。
【化2】
(式(1)中、Rは、下記式(2)で表される基、下記式(3)で表される基、又は下記(4)で表される基であり、Rは2価の有機基である。)
【化3】
(式(2)中、Aは、環状基を有する2価の有機基、単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合であり、aは1〜6の整数である。ただし、Aが単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合である場合、上記Rは、2価の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。式(3)中、Bは単結合又は2価の連結基であり、Aは単結合又は環状基であり、Rは水素原子又は1価の有機基であり、bは1〜6の整数である。式(4)中、Aは環状基を有する2価の有機基であり、cは1〜6の整数である。「*」はウレア結合中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【請求項2】
請求項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項3】
請求項に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶セル中の液晶分子の配向を制御するための液晶配向膜を備えている。液晶配向膜の材料としては、耐熱性、機械的強度、液晶との親和性などの各種特性が良好である点から、ポリアミック酸やポリイミドが一般に使用されている。
【0003】
近年、液晶パネルの表示性能の更なる向上を図るべく、種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1には、4,4’−ジアミノジフェニルアミンを用いて得られるポリアミック酸やポリイミドを液晶配向剤に含有させることにより、電圧保持特性の改善や焼き付き低減を図ることが提案されている。また、特許文献2には、ウレア結合を有するジアミンを用いて得られるポリイミド前駆体又はポリイミドを液晶配向剤に含有させることにより、良好な液晶配向性及びラビング耐性を有し、イオン密度が小さく、かつFFSモード液晶表示素子における蓄積電荷が少ない液晶配向膜を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4052307号公報
【特許文献2】国際公開第2013/008906号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶配向膜に異方性を発現させる方法の一つであるラビング法は、簡便であって、液晶分子の配向性が良好であることから一般に使用されている。しかしながら、ラビング耐性が良好な従来の液晶配向剤は、交流電圧の印加に伴う電荷の蓄積によって残像が発生しやすかったり電圧保持率が低下したりする、つまりAC残像特性及び電圧保持率とトレードオフとなることが多い。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、AC残像特性及び電圧保持率が良好な液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような課題を達成するべく鋭意検討した結果、特定の構造を有する重合体を液晶配向剤に含有させることにより、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下の手段が提供される。
【0008】
<1> ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、かつ下記式(0)で表される部分構造を有する重合体[P]を含有する液晶配向剤。
【化1】
(式(0)中、Rは、環状基及び「−NR−」(ただし、Rは水素原子又は1価の有機基である。)の少なくとも一方の基とアルカンジイル基とを有する2価の基、又は「−X20−R20−*」(ただし、X20は、単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合又は−CONR−(Rは、水素原子又は1価の有機基である。)であり、R20はアルカンジイル基である。「*」はウレア結合中の窒素原子に結合する結合手を示す。)であり、Rは2価の有機基であり、Rは環状基である。ただし、Rが「−X20−R20−*」である場合、Rは、ウレア結合を有する2価の有機基、2価の鎖状炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基である。「*」は結合手であることを示す。)
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<2>の液晶配向膜を具備する液晶素子。
<4> ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、かつ下記式(1)で表される化合物に由来する構造単位を有する重合体。
【化2】
(式(1)中、Rは、環状基及び「−NR−」(ただし、Rは水素原子又は1価の有機基である。)の少なくとも一方の基とアルカンジイル基とを有する2価の基、又は「−X20−R20−*」(ただし、X20は、単結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合であり、R20はアルカンジイル基である。「*」はウレア結合中の窒素原子に結合する結合手を示す。)であり、Rは2価の有機基である。ただし、Rが「−X20−R20−*」である場合、Rは、ウレア結合を有する2価の有機基、2価の鎖状炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基である。)
<5> 上記式(1)で表されるジアミン。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電圧保持率及び残像特性が良好な液晶素子を得ることができる。こうした効果は、液晶配向膜の形成に際しての加熱を比較的低温で実施した場合にも得ることができ、低温焼成が可能である点で好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0011】
<液晶配向剤>
本開示の液晶配向剤は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、かつ上記式(0)で表される部分構造を有する重合体[P]を含有する。
【0012】
上記式(0)において、R中のアルカンジイル基は、炭素数1〜6であることが好ましく、例えばメチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基等が挙げられる。これらは直鎖状でも分岐状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。
環状基は、置換又は無置換の環から2個の水素原子を取り除いた基である。当該環としては、例えば芳香族環、脂肪族環、複素環等が挙げられ、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、シクロヘキサン環、ピリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、ピリミジン環等が挙げられる。また、これらの環が有していてもよい置換基としては、例えば炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。得られる液晶素子の電気特性及び塗膜のラビング耐性の改善効果が高い点で、Rの環状基は、置換又は無置換のフェニレン基又はピペリジニル基であることが好ましい。
「−NR−」(ただし、Rは水素原子又は1価の有機基である。)におけるRの1価の有機基は、炭素数1〜5の1価の炭化水素基又は保護基であることが好ましい。保護基としては、例えばカルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基などが挙げられ、中でもtert−ブトキシカルボニル基が好ましい。なお、「−NR−」は、アミド結合、ウレア結合又はウレタン結合の一部を構成していてもよい。
【0013】
上記式(0)中のRは、下記式(2)で表される基、下記式(3)で表される基、又は下記(4)で表される基であることが好ましい。
【化3】
(式(2)中、Aは、環状基を有する2価の有機基、単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合であり、aは1〜6の整数である。ただし、Aが単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル結合、チオエーテル結合又はエステル結合である場合、上記Rは、2価の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。式(3)中、Bは単結合又は2価の連結基であり、Aは単結合又は環状基であり、Rは水素原子又は1価の有機基であり、bは1〜6の整数である。式(4)中、Aは環状基を有する2価の有機基であり、cは1〜6の整数である。「*」はウレア結合中の窒素原子との結合手であることを示す。)
【0014】
上記式(2)において、Aの好ましい例としては、例えば下記式(2−1)で表される基が挙げられる。なお、下記式(2−1)中のA11の環状基については、上記Rが有する環状基の説明を適用することができる。
【化4】
(式(2−1)中、A11は環状基であり、Xは、単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合又は−CONR−(Rは、水素原子、炭素数1〜6の1価の炭化水素基又は保護基である。以下同じ。)であり、Yは、単結合、エーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、−CONR−又は−NR−である。pは0又は1である。「*」はアルカンジイル基との結合手を示す。)
【0015】
上記式(3)において、Bの2価の連結基は、炭素数1〜6のアルカンジイル基であることが好ましく、炭素数1〜3のアルカンジイル基であることがより好ましい。上記式(3)のAの環状基及び上記式(4)のAが有する環状基については、上記Rが有する環状基の説明を適用することができる。なお、Aの環状基を有する2価の有機基は、環状基を1個のみ有していてもよく、2個以上有していてもよい。
【0016】
の有機基としては、例えば炭素数1〜40の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素−炭素結合間にヘテロ原子含有基を含む基、当該炭化水素基とヘテロ原子含有基とが結合してなる基などが挙げられる。また、これらの基の少なくとも1個の水素原子が、例えばハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、水酸基等の置換基で置き換えられていてもよい。ただし、Rが「−X20−R20−*」である場合、Rは、ウレア結合を有する2価の有機基、2価の鎖状炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基である。
の環状基としては、上記Rの環状基の説明で例示した基を挙げることができる。好ましくは、Rはフェニレン基又はピリジニル基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0017】
ここで、本明細書において「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状又は分岐状の炭化水素基を意味する。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含む炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有していてもよい。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「有機基」とは、炭化水素基を含む基を意味し、構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい。「ヘテロ原子含有基」とは、ヘテロ原子を有する2価以上の基を意味し、例えば−O−、−CO−、−COO−、−CONR−、−NR−、−NRCONR−、−OCONR−、−S−、−COS−、−OCOO−、−SO−等が挙げられる。
【0018】
重合体[P]は、上記式(0)で表される部分構造を有していればよいが、特に、上記式(1)で表されるジアミン(以下「特定ジアミン」と略す。)に由来する構造単位を有することが好ましい。上記式(1)中のRが上記式(2)で表される基である場合、特定ジアミンの好ましい具体例としては、下記式(11)で表される化合物、及び下記式(12)で表される化合物等が挙げられる。
【化5】
(式(12)中、Rは、炭素数1〜10の2価の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、pは0又は1である。式(11)及び式(12)中、aは1〜6の整数である。A11、X及びYは、それぞれ上記式(2−1)と同義である。式(11)中の複数のA11、複数のX、複数のY及び複数のaは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【0019】
上記式(11)について、A11の環状基は、1,4−フェニレン基、1,4−ピリジレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,4−ピペリジニル基又は1,4−ピペラジニル基であることが好ましく、これらはメチル基又はフッ素原子で置換されていてもよい。特に好ましくは、1,4−フェニレン基又は1,4−ピペリジニルである。aは2〜4が好ましい。
上記(11)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(1−1)〜式(1−5)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化6】
(式(1−1)〜式(1−5)中、Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はtert−ブトキシカルボニル基である。Rは水素原子又はメチル基である。aは1〜6の整数である。式中の複数のa、複数のR、複数のRは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【0020】
上記式(12)について、Xは、エチレン基、エステル結合又は−CONR−であることが好ましい。Yは、単結合又はエーテル結合であることが好ましい。A11の環状基は、1,4−フェニレン基、1,4−ピリジレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,4−ピペリジニル基又は1,4−ピペラジニル基であることが好ましく、これらはメチル基又はフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数2〜6のアルカンジイル基又は下記式(6)で表される基であることが好ましい。
【化7】
(式(6)中、dは1〜3の整数である。「*」は1級アミノ基に結合する結合手を示す。)
【0021】
上記(12)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(2−1)〜式(2−7)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。これらのうち、下記式(2−1)で表される化合物及び下記式(2−3)で表される化合物が好ましい。
【化8】
(式(2−1)〜式(2−7)中、R10は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はtert−ブトキシカルボニル基である。aは1〜6の整数であり、eは1〜10の整数である。)
【0022】
上記式(1)中のRが上記式(3)で表される基である場合、特定ジアミンの好ましい具体例としては、下記式(13)で表される化合物及び下記式(14)で表される化合物等が挙げられる。
【化9】
(式(13)及び式(14)中、Rは2価の有機基であり、g及びkは、それぞれ独立に炭素数1〜6の整数である。R、bは上記式(3)と同義である。式中の複数のR、複数のbは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【0023】
上記式(13)において、Rは、水素原子、メチル基又はtert−ブトキシカルボニル基であることが好ましい。bは1〜4であることが好ましい。
の2価の有機基としては、例えば炭素数1〜40の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素−炭素結合間にヘテロ原子含有基を含む基、当該炭化水素基とヘテロ原子含有基とが結合してなる基などが挙げられる。また、これらの基の少なくとも1個の水素原子が、例えばハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、水酸基等の置換基で置き換えられていてもよい。Rの好ましい例としては、下記式(7)で表される基等が挙げられる。
【化10】
(式(7)中、A13は環状基であり、Xは、単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合又は−CONR−であり、Yは、単結合、エーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、−CONR−又は−NR−である。「*」は1級アミノ基に結合する結合手を示す。h、r、q及びsは、それぞれ独立に0〜6の整数である。)
【0024】
上記(13)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(3−1)及び式(3−2)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。下記式(3−1)及び式(3−2)中のhは1又は2であることが好ましい。
【化11】
(式(3−1)及び式(3−2)中、bは1〜6の整数であり、hは0〜6の整数である。)
【0025】
上記式(14)において、Rは、水素原子、メチル基又はtert−ブトキシカルボニル基であることが好ましい。b、g及びkは、それぞれ1〜3であることが好ましい。上記(14)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(4−1)及び式(4−2)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化12】
(式(4−1)及び式(4−2)中、b、g及びkは、それぞれ独立に炭素数1〜6の整数である。)
【0026】
上記式(1)中のRが上記式()で表される基である場合、特定ジアミンの好ましい具体例としては、下記式(15)で表される化合物等が挙げられる。
【化13】
(式(15)中、R11は2価の有機基であり、cは1〜6の整数である。式中の複数のcは、互いに同じでも異なっていてもよい。)
【0027】
上記式(15)中のR11は、炭素数1〜10の2価の鎖状炭化水素基、当該鎖状炭化水素基の炭素−炭素結合間にヘテロ原子含有基を含む基、又は当該炭化水素基とヘテロ原子含有基とが結合してなる基であることが好ましい。cは1〜3であることが好ましい。上記(15)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(5−1)及び式(5−2)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化14】
(式(5−1)及び式(5−2)中、cは1〜6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立に2〜6の整数である。式中の複数のcは同じでも異なっていてもよい。)
【0028】
特定ジアミンは、公知の方法を適宜組み合わせることによって合成することができる。その一例としては、例えば、上記式(1)中の一級アミノ基に代えてニトロ基を有するニトロ中間体を合成し、次いで、得られたニトロ中間体のニトロ基を適当な還元系を用いてアミノ化する方法、上記式(1)中の一級アミノ基がt−ブトキシカルボニル基等で保護された中間体を合成し、次いで、得られた中間体を脱保護する方法などが挙げられる。
ニトロ中間体を合成する方法は、目的とする化合物に応じて適宜選択することができる。例えば、Rを有するニトロベンゼン誘導体を炭酸ビス(4−ニトロフェニル)の存在下で反応させる方法、R及びRに由来する部分構造を有するウレア基含有化合物と、ニトロ塩化ベンゾイル等のハロゲン化物とを反応させる方法、R又はRを有するイソシアネート化合物と、R又はRを有するアミン化合物とを反応させる方法等が挙げられる。ただし、特定ジアミンの合成方法は上記に限定されるものではない。
【0029】
(ポリアミック酸)
重合体[P]がポリアミック酸である場合、該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸[P]」ともいう。)は、例えばテトラカルボン酸二無水物と、上記特定ジアミンを含むジアミンとを反応させることにより得ることができる。
【0030】
ポリアミック酸の合成に用いるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、特定ジアミンとの組み合わせにおいて液晶素子の電気特性をより良好にできる点で、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、30〜100モル%であることが更に好ましい。
【0032】
ポリアミック酸[P]の合成に際しては、特定ジアミンを単独で用いてもよいが、特定ジアミン以外のジアミン(以下、「その他のジアミン」と略す。)を用いてもよい。
【0033】
その他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどが挙げられる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばm−キシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などを;
【0034】
芳香族ジアミンとして、例えばドデカノキシジアミノベンゼン、テトラデカノキシジアミノベンゼン、オクタデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、コレステリルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、下記式(E−1)
【化15】
(式(E−1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、Rは炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、RIIは単結合又は炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、dは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物などの配向性基含有ジアミン:
【0035】
p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン、ビス[2−(4−アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N−ビス(4−アミノフェニル)メチルアミン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、4−(4−アミノフェノキシカルボニル)−1−(4−アミノフェニル)ピペリジン、4,4’−[4,4’−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン、3,5−ジアミノ安息香酸などの非側鎖型のジアミン、などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0036】
上記式(E−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E−1−1)で表される化合物、下記(E−1−2)で表される化合物などが挙げられる。
【化16】
【0037】
ポリアミック酸[P]の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、塗膜のラビング耐性、並びに液晶素子の電気特性及び残像特性の改善効果を十分に得る観点から、ポリアミック酸[P]の合成に使用するジアミンの合計量に対して、5モル%以上とすることが好ましい。より好ましくは10〜70モル%であり、さらに好ましくは10〜50モル%である。なお、特定ジアミン及びその他のジアミンは、それぞれ1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を適宜選択して使用してもよい。
【0038】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸[P]は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0039】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、−20℃〜150℃が好ましい。反応時間は、0.1〜24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m−クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と他の有機溶媒(例えば、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1〜50質量%になる量とすることが好ましい。
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0040】
(ポリアミック酸エステル)
重合体[P]としてのポリアミック酸エステルは、例えばテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとを反応させる方法によって得ることができる。
使用するテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物は、テトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。テトラカルボン酸ジエステルは、例えばポリアミック酸の合成で例示したテトラカルボン酸二無水物を、メタノールやエタノール等のアルコール類と反応させることによって得ることができる。ジアミンとしては、特定ジアミンを単独で使用してもよく、その他のジアミンを併用してもよい。使用するジアミンの具体例としては、ポリアミック酸の合成の説明で例示した特定ジアミン及びその他のジアミンが挙げられる。
【0041】
重合体[P]の合成反応に供されるテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物の基「−COX(Xはハロゲン原子)」が0.2〜2当量となる割合が好ましい。テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとの反応は、好ましくは塩基の存在下、有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、−30℃〜150℃が好ましく、反応時間は0.1〜48時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成反応に使用することができる有機溶媒の説明を適用することができる。上記反応に使用する塩基としては、例えばピリジン、トリエチルアミン、N−エチル−N,N−ジイソプロピルアミン等の3級アミン;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類などを好ましく使用することができる。塩基の使用量は、ジアミン1モルに対して2〜4モルとすることが好ましい。
【0042】
以上のようにして、ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、重合体[P]としてのポリアミック酸エステルは、上記の合成方法に限らず、例えばポリアミック酸[P]と、アルコール類又はハロゲン化アルキルとを反応させる方法、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを反応させる方法などによって得ることもできる。
【0043】
(ポリイミド)
重合体[P]としてのポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸[P]を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、ポリアミック酸の反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよい。
【0044】
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。反応に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20%以上であることが好ましく、30〜99%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0045】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。このうち、後者の方法によることが好ましい。ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃である。反応時間は、好ましくは1.0〜120時間である。
このようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0046】
重合体[P]の溶液粘度は、これを濃度10質量%の溶液としたときに、10〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、重合体[P]の溶液粘度(mPa・s)は、重合体[P]の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
重合体[P]につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜500,000であり、より好ましくは2,000〜300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。
【0047】
(その他の成分)
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]以外のその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば、上記重合体[P]とは異なる重合体(以下「その他の重合体」と略す。)、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ基含有化合物」ともいう。)などが挙げられる。
【0048】
上記その他の重合体は、残像等の電気特性、透明性等の各種特性を改善するために、あるいは低コスト化などを目的として使用することができる。かかるその他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種のうち上記式(1)で表される化合物に由来する構造単位を有さない重合体、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体等が挙げられる。その他の重合体の配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体成分の合計量に対して、95質量%以下とすることが好ましく、10〜90質量%とすることがより好ましい。
【0049】
エポキシ基含有化合物は、液晶配向膜における基板表面との接着性や電気特性を向上させるために使用することができる。このようなエポキシ基含有化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル[4,4’−メチレンビスアニリン]、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン等を好ましいものとして挙げることができる。その他、国際公開第2009/096598号記載のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサンを用いてもよい。エポキシ基含有化合物を液晶配向剤に配合する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100質量部に対して、40質量部以下とすることが好ましく、0.1〜30質量部とすることがより好ましい。
【0050】
なお、その他の成分としては、上記のほか、官能性シラン化合物、分子内に少なくとも一つのオキセタニル基を有する化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤などを挙げることができる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0051】
本開示の液晶配向剤につき、重合体[P]の配合割合は、液晶素子の電気特性及び残像特性の良化を図る点で、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量に対して、5質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることがより好ましい。また、液晶配向剤中のその他の重合体を含有させる場合、液晶配向剤に含有される重合体[P]及びその他の重合体の合計量100質量部に対して、重合体[P]の配合割合を、5〜99質量部とすることが好ましく、10〜95質量部とすることがより好ましく、10〜80質量部とすることが更に好ましい。
【0052】
重合体[P]は、特定ジアミンに由来する構造単位を有することが好ましく、具体的には、下記式(p−1)で表される部分構造及び下記式(p−2)で表される部分構造よりなる群から選ばれる少なくとも一種の部分構造を有することが好ましい。
【化17】
(式(p−1)、式(p−2)中、R51は4価の有機基であり、R52は水素原子又は1価の有機基であり、R53は、上記特定ジアミンから2個の1級アミノ基を取り除いた残りの基である。複数のR52は、同じでも異なっていてもよい。)
【0053】
上記式(p−1)におけるR52の1価の有機基としては、例えば炭素数1〜10の1価の炭化水素基、桂皮酸構造を有する基などが挙げられる。R51の4価の有機基は、テトラカルボン酸二無水物から2個の酸無水物基を取り除いた残りの基である。当該テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、上記で例示したテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0054】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0055】
使用する有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,2−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0056】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10質量%の範囲である。すなわち、液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、固形分濃度が1質量%未満である場合には、塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜が得にくくなる。一方、固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜が得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布性が低下する傾向にある。
【0057】
<液晶素子>
本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定せず、例えばTN型、STN型、VA型(VA−MVA型、VA−PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型など種々のモードに適用することができる。TN型、STN型、IPS型、FFS型又はOCB型の液晶素子といった、液晶配向剤を用いて形成された塗膜に対して液晶配向能を付与する処理が必要なモードに適用した場合、ラビング法を用いても良好な電圧保持率及び残像特性を示す液晶素子が得られる点で好適である。本開示の液晶素子は、例えば以下の工程1〜工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0058】
[工程1:塗膜の形成]
先ず基板上に液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。基板への塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0059】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃である。プレベーク時間は、好ましくは0.25〜10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80〜300℃であり、ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmである。基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。
【0060】
[工程2:配向処理]
TN型、STN型、IPS型、FFS型又はOCB型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦ることによって塗膜に液晶配向能を付与するラビング処理、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理などが挙げられる。一方、垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0061】
[工程3:液晶セルの構築]
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造する方法としては、例えば、(1)それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法、(2)2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に、例えば紫外光硬化性のシール剤を塗布し、さらに液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げ、次いでシール剤を硬化する方法、などが挙げられる。
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレステリック液晶、カイラル剤、強誘電性液晶などを添加して使用してもよい。
【0062】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより液晶素子が得られる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0063】
ここで、FFS型等の横電界式の液晶素子において、ラビング処理により液晶配向膜に異方性を発現させる場合、コントラストの改善や残像の低減を図ることで表示品位をさらに良好にするべく、強いラビングをかけるようになってきている。そのため、ラビング処理時に液晶配向膜が削れて、配向欠陥が生じやすいといった問題がある。その一方で、ラビング耐性が良好な従来の液晶配向剤は、交流電圧の印加に伴う電荷の蓄積によって残像が発生しやすかったり電圧保持率が低下したりし、AC残像特性及び電圧保持率とトレードオフとなることが多い。この点、重合体[P]を含有する液晶配向剤によれば、塗膜のラビング耐性が良好であり、ラビング処理による配向欠陥が少なく、かつAC残像特性及び電圧保持率が良好な液晶素子を得ることができる。
【0064】
また、例えばカラー液晶表示素子では、液晶配向膜を形成する際の熱によって、カラーフィルタに含まれる染料が変色するなどの不都合が生じることが考えられる。また、液晶配向膜の形成に際し高温の熱処理が必要であると、液晶素子の製造において、例えばプラスチック基板等といった耐熱性が十分でない基板の適用が制限されることも考えられる。この点、重合体[P]を含有する本開示の液晶配向剤は、ポストベーク時の加熱を比較的低温で行った場合にも、高い電圧保持率と低残像を示す液晶素子が得られる点で好適である。
【0065】
なお、重合体[P]を含む液晶配向剤によれば上記の効果が得られる理由は定かではないが、例えば次のようなことが考えられる。上記式(0)で表される部分構造を有するモノマーはモノマーサイズが比較的大きく、同じ分子量で比較した場合、重合体[P]中のカルボン酸濃度が比較的低くなる。これにより、低温焼成に伴う低イミド化による電圧保持率の低下の影響が抑制されるとともに、上記式(0)中のウレア結合によってAC残像が低減されたことにより、良好な電圧保持率及びAC残像特性を示す液晶素子が得られたことが一つとして推測される。また、重合体[P]と他の重合体とをブレンドした場合、カルボン酸濃度が比較的低いことに起因して重合体[P]が上層へ分布されやすく、これにより良好な電圧保持率及びAC残像特性を示したことも考えられる。ただし、これはあくまでも推測であり、本開示の内容を限定するものではない。
【0066】
本開示の液晶素子は種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビなどの各種表示装置や、調光フィルム等に用いることができる。また、本開示の液晶配向剤を用いて形成された液晶素子は位相差フィルムに適用することもできる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0068】
以下の例において、重合体のイミド化率、重合体溶液の溶液粘度、重合体の重量平均分子量Mw及びエポキシ当量は以下の方法により測定した。以下では、式Xで表される化合物を単に「化合物X」と記すことがある。
[重合体のイミド化率]ポリイミドを含有する溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH−NMRを測定した。得られたH−NMRスペクトルから、下記数式(1)を用いてイミド化率を求めた。
イミド化率(%)=(1−A/A×α)×100 …(1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)]E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[重合体の重量平均分子量Mw]:以下の装置を用いて、以下の条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定した結果から、標準物質として単分散ポリスチレンを用いてポリスチレン換算値として求めた。
測定装置:東ソー(株)製、型式「8120−GPC」
カラム:東ソー(株)製、「TSKgelGRCXLII」
溶媒:テトラヒドロフラン
試料濃度:5重量%
試料注入量:100μL
カラム温度:40℃
カラム圧力:68kgf/cm
[エポキシ当量]:JIS C2105の「塩酸−メチルエチルケトン法」に準じて測定した。
【0069】
<化合物の合成>
[合成例1:化合物(1−1−1)の合成]
下記スキーム1のように化合物(1−1−1)を合成した。
【化18】
【0070】
・化合物(1−1−1A)の合成
窒素導入管、温度計及び還流管を備えた200mLの三口フラスコにヒドロキシベンズアルデヒド12.2g、ニトロフェニル酢酸18.1g及びピペリジン17.0gを仕込み、140℃で4時間反応させた。反応終了後、エタノールを100mL加えて、沈殿をろ取し、エタノールで洗浄した後、テトラヒドロフランとエタノールの混合溶媒で再結晶、乾燥を行うことで化合物(1−1−1A)の結晶を19.3g得た。
・化合物(1−1−1C)の合成
窒素導入管、温度計及び還流管を備えた1000mLの三口フラスコに化合物(1−1−1A)19.3g、化合物(1−1−1B)24.4g、炭酸カリウム13.2g及びN,N−ジメチルホルムアミド400mLを加えて室温で12時間撹拌した。反応終了後、反応液を2Lの水に注いで生じた沈殿をろ取し、乾燥させた。次に、窒素導入管、温度計及び還流管を備えた1000mLの三口フラスコに上記沈殿39.8g、テトラヒドロフラン200mL、エタノール200mL及びヒドラジン一水和物9.61gを加えて、5時間還流した。反応終了後、テトラヒドロフラン1L及びトルエン500mLを加えて、水で分液洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して生じた析出物をろ過、乾燥することで化合物(1−1−1C)を19.2g得た。
・化合物(1−1−1D)の合成
窒素導入管及び温度計を備えた2Lの三口フラスコに化合物(1−1−1C)19.2g、炭酸ビス(4−ニトロフェニル)9.58g、テトラヒドロフラン1200mL、トリエチルアミン40.6g及びN,N−ジメチルアミノピリジン1.63gを加えて、室温で12時間撹拌した。反応終了後、沈殿をろ過し、水とメタノールで洗浄し、さらに、テトラヒドロフランとエタノールの混合溶剤で再結晶し、ろ過、乾燥することで化合物(1−1−1D)を12.0g得た。
・化合物(1−1−1)の合成
還流管、窒素導入管及び温度計を備えた500mLの三口フラスコに化合物(1−1−1D)12.0g、5%パラジウムカーボン6.03g、テトラヒドロフラン240mL、エタノール120mL及びヒドラジン一水和物を6.03g加えて4時間還流させた。反応終了後、セライトろ過して得られたろ液を120mLまで減圧濃縮し、1.2L水に注いで生じた沈殿をろ過し、メタノールで洗浄し、真空乾燥することで化合物(1−1−1)を9.74g得た。
【0071】
[合成例2:化合物(1−2−1)の合成]
下記スキーム2のように化合物(1−2−1)を合成した。下記スキーム2に示すように、原料として化合物(1−1−1A)の代わりに4−ニトロビフェノールを用いた以外は化合物(1−1−1)と同様に合成した。
【化19】
【0072】
[合成例3:化合物(1−3−1)の合成]
下記スキーム3のように化合物(1−3−1)を合成した。
【化20】
【0073】
・化合物(1−3−1B)の合成
温度計及び窒素導入管を備えた1Lの三口フラスコに化合物(1−3−1A)を23.6g、テトラヒドロフラン400mL、炭酸ビス(4−ニトロフェニル)15.2g、トリエチルアミン20.2g及びN,N−ジメチルアミノピリジン1.22gを加えて室温で4時間反応させた。反応終了後、4Lの水に注いで得られた沈殿をろ過、真空乾燥して得た物質を500mLのナスフラスコに移して、塩化メチレン200mL及びトリフルオロ酢酸100mLを加えて、室温で2時間反応させた。反応終了後、アスピレータにより乾固した後、テトラヒドロフラン200mL及び酢酸エチル200mLを加えて飽和炭酸ナトリウム水で1回、水で3回分液洗浄した後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮して析出した結晶をろ過、乾燥することで化合物(1−3−1B)を11.4g得た。
・化合物(1−3−1C)の合成
温度計、還流管及び窒素導入管を備えた500mLの三口フラスコに化合物(1−3−1B)11.4g、テトラヒドロフラン300mL、4−フルオロニトロベンゼン14.0g及びトリエチルアミン10.0gを加えて40℃で一昼夜反応させた。反応終了後、酢酸エチル300mLを加え、水で3回分液洗浄した後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して析出した結晶をろ過、乾燥することで化合物(1−3−1C)を19.9g得た。
・化合物(1−3−1)の合成
還流管、温度計及び窒素導入管を備えた500mLの三口フラスコに化合物(1−3−1C)を19.9g、5%パラジウムカーボン1.0g、テトラヒドロフラン200mL、エタノール100mL及びヒドラジン一水和物12gを加えて2時間還流させた。反応終了後、セライトろ過して得られたろ液を200mLまで減圧濃縮し、1Lの水に注いで得られた沈殿をろ過、エタノールで洗浄、真空乾燥することで化合物(1−3−1)を15.7g得た。
【0074】
[合成例4:化合物(1−4−1)の合成]
下記スキーム4のように化合物(1−4−1)を合成した。
【化21】
【0075】
・化合物(1−4−1A)の合成
還流管、温度計及び窒素導入管を備えた500mLの三口フラスコに化合物(R−1)14.9g及びピリジン300mLを加えた後、4−ニトロ塩化ベンゾイル20.4gを加えて6時間還流した。反応終了後、3Lの水に注いで析出した沈殿をろ過、真空乾燥した後、N,N−ジメチルアセトアミドで再結晶し、ろ過、真空乾燥することで化合物(1−4−1A)を得た。
・化合物(1−4−1B)の合成
温度計及び窒素導入管を備えた1Lの三口フラスコに化合物(1−4−1A)26.8g、N,N−ジメチルアミノピリジン2.20g、ジメチルスルホキシド300mL及び二炭酸−t−ブチル29.4gを加えて40℃で一昼夜反応させた。反応終了後、3Lの水に注いで析出した沈殿をろ過、メタノール洗浄、真空乾燥することで化合物(1−4−1B)を34.1g得た。
・化合物(1−4−1)の合成
1Lのオートクレーブに化合物(1−4−1B)34.1g、5%パラジウムカーボン1.70g、テトラヒドロフラン300mL及びエタノール200mLを加えて0.4MPaまで水素ガスを吹き込み、室温で4時間反応させた。反応終了後、セライトろ過して得たろ液を200mLまで減圧濃縮し、酢酸エチル1000mLを加えて水で3回分液洗浄し、有機層を減圧濃縮して析出した個体をろ過、真空乾燥することで化合物(1−4−1)を29.5g得た。
【0076】
[合成例5:化合物(2−1−1−1)の合成]
下記スキーム5のように化合物(2−1−1−1)を合成した。
【化22】
【0077】
・化合物(2−1−1−1A)の合成
滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた1Lの三口フラスコに4−ニトロフェネチルイソシアネート19.0g及びテトラヒドロフラン200mLを加えた。滴下ロートにN−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタン16.0g及びテトラヒドロフラン200mLを仕込み、1時間かけて滴下した後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を減圧濃縮し、析出物をろ過、エタノール洗浄、真空乾燥することで化合物(2−1−1−1A)を33.5g得た。
・化合物(2−1−1−1)の合成
還流管及び窒素導入管を備えた500mLの三口フラスコに化合物(2−1−1−1A)33.5g、5%パラジウムカーボン1.68g、テトラヒドロフラン300mL及びエタノール150mLを仕込み、続いて、ヒドラジン一水和物を28.5gをゆっくり加え、2時間還流させた。反応終了後、セライトろ過して得たろ液を300mLまで減圧濃縮し、酢酸エチル300mLを加えて、水で3回分液洗浄した後、有機層を減圧濃縮して生じた析出物をろ過、真空乾燥することで化合物(2−1−1−1)を16.9g得た。
【0078】
[合成例6:化合物(2−1−2)の合成]
下記スキーム6のように化合物(2−1−2)を合成した。
【化23】
【0079】
・化合物(2−1−2A)
1Lのオートクレーブに化合物(2−1−1−1A)17.6g、5%パラジウムカーボン0.88g、テトラヒドロフラン200mL及びエタノール100mLを加えて0.4MPaまで水素ガスを吹き込み、室温で4時間反応させた。反応終了後、セライトろ過して得たろ液を150mLまで減圧濃縮し、酢酸エチル300mLを加えて水で3回分液洗浄し、有機層を減圧濃縮、乾固し、真空乾燥することで化合物(2−1−2A)を14.5g得た。
・化合物(2−1−2B)
窒素導入管及び温度計を備えた1Lの三口フラスコに化合物(2−1−2A)14.5g、4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)安息香酸10.7g及び塩化メチレン400mLを仕込み、5℃以下に氷冷した。次に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩9.49g及びN,N−ジメチルアミノピリジン1.10gを加え、5℃以下で2時間、室温で一昼夜反応させた。反応終了後、酢酸エチル1Lを加えて水で3回分液洗浄を行い、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮、乾固した後、再度、テトラヒドロフランに溶かして、アルミナカラム(展開溶剤;クロロホルム:エタノール=9:1)で分取し、濃縮、乾固することで化合物(2−1−2B)を14.6g得た。
・化合物(2−1−2)
窒素導入管を備えた500mLのナスフラスコに化合物(2−1−2B)14.6g、塩化メチレン200mL及びトリフルオロ酢酸100mLを加えて室温で2時間反応させた。反応終了後、減圧濃縮、乾固し、酢酸エチル300mL及びテトラヒドロフラン300mLを加えて飽和炭酸ナトリウム水溶液で1回、水で3回分液洗浄した後、有機層を濃縮、乾固、真空乾燥することで化合物(2−1−2)を9.24g得た。
【0080】
[合成例7:化合物(3−1−1)の合成]
下記スキーム7のように化合物(3−1−1)を合成した。
【化24】
【0081】
・化合物(3−1−1A)
還流管、温度計及び窒素導入管を備えた500mLの三口フラスコにN−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタン16.0g、アセトニトリル300mL、トリエチルアミン12.1g及び4−フルオロニトロベンゼン14.1gを仕込み、50℃で一昼夜反応させた。反応終了後、50mLまで減圧濃縮し、アルミナカラム(展開溶剤;クロロホルム:エタノール=8:2)で目的物を分取した後、減圧濃縮、乾固した。次に、塩化メチレン300mL及びトリフルオロ酢酸150mLを加えて室温で2時間反応させた。反応終了後、減圧濃縮、乾固し、酢酸エチル200mL及びテトラヒドロフラン200mLを加えて飽和炭酸ナトリウム水溶液で1回、水で3回分液洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮、乾固、真空乾燥することで化合物(3−1−1A)を14.5g得た。
・化合物(3−1−1B)
滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた1Lの三口フラスコに4−ニトロフェネチルイソシアネート15.4g及びテトラヒドロフラン200mLを加えた。滴下ロートに化合物(3−1−1A)14.5g及びテトラヒドロフラン200mLを仕込み、1時間かけて滴下した後、室温で1時間撹拌した。反応終了後減圧濃縮し、析出物をろ過、エタノール洗浄、真空乾燥することで化合物(3−1−1B)を28.4g得た。
・化合物(3−1−1)
還流管及び窒素導入管を備えた500mLの三口フラスコに化合物(3−1−1B)28.4g、5%パラジウムカーボン1.42g、テトラヒドロフラン300mL及びエタノール150mLを仕込み、続いて、ヒドラジン一水和物を20.4gをゆっくり加え、2時間還流させた。反応終了後、セライトろ過して得たろ液を300mLまで減圧濃縮し、酢酸エチル300mLを加えて、水で3回分液洗浄した後、有機層を減圧濃縮して生じた析出物をろ過、真空乾燥することで化合物(3−1−1)を20.4g得た。
【0082】
[合成例8:化合物(4−1−1)の合成]
下記スキーム8のように化合物(4−1−1)を合成した。
【化25】
【0083】
・化合物(4−1−1A)
窒素導入管を備えた500mLのナスフラスコに化合物(R−1)14.9g、テトラヒドロフラン300mL及び二炭酸−t−ブチル24.0gを加えて室温で一昼夜撹拌した。反応終了後、反応液を200mLまで減圧濃縮し、2Lのメタノールに注いで生じた沈殿をろ取し、メタノール洗浄、真空乾燥することで化合物(4−1−1A)を22.4g得た。
・化合物(4−1−1B)
滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた1Lの三口フラスコに化合物(4−1−1A)22.4gを加え、真空/窒素置換を繰り返して系内を脱水した後、テトラヒドロフランを200mL及び1.3Mリチウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液を70mL加えて5℃以下に氷冷した。次に、4−ニトロフェネチルブロミド41.4gを400mLのテトラヒドロフランに溶かした溶液をゆっくり滴下した後、メタノール70mLをゆっくり加えて反応を停止した。次に、水400mL及び酢酸エチル600mLを加え、水層を除去した後、さらに、水で3回分液洗浄を行った。次に、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮して析出した沈殿をろ過、乾燥することで化合物(4−1−1B)を28.7g得た。
・化合物(4−1−1)
1Lのオートクレーブに化合物(4−1−1B)28.7g、5%パラジウムカーボン1.44g、テトラヒドロフラン300mL及びエタノール150mLを加えて0.4MPaまで水素ガスを吹き込み、室温で4時間反応させた。反応終了後、セライトろ過して得たろ液を200mLまで減圧濃縮し、2Lのメタノールに注いで生じた沈殿をろ過、メタノール洗浄、真空乾燥することで化合物(4−1−1)を23.9g得た。
【0084】
[合成例9:化合物(1−5−1)の合成]
下記スキーム9のように化合物(1−5−1)を合成した。
【化26】
【0085】
・化合物(1−5−1A)
滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた1Lの三口フラスコに化合物(4−1−1A)24.9gを加え、真空/窒素置換を繰り返して系内を脱水した後、テトラヒドロフランを250mL及び1.3Mリチウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液を77mL加えて5℃以下に氷冷した。次に、4−ニトロベンゾイルクロリド37.1gを400mLのテトラヒドロフランに溶かした溶液をゆっくり滴下した後、メタノール80mLをゆっくり加えて反応を停止した。次に、水500mL及び酢酸エチル600mLを加え、水層を除去した後、さらに、水で3回分液洗浄を行った。次に、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮して析出した沈殿をろ過、乾燥することで化合物(1−5−1A)を31.9g得た。
・化合物(1−5−1)
1Lのオートクレーブに化合物(1−5−1A)を31.9g、5%パラジウムカーボン1.60g、テトラヒドロフラン300mL及びエタノール150mLを加えて0.4MPaまで水素ガスを吹き込み、室温で4時間反応させた。反応終了後、セライトろ過して得たろ液を200mLまで減圧濃縮し、2Lのメタノールに注いで生じた沈殿をろ過、メタノール洗浄、真空乾燥することで化合物(1−5−1)を26.5g得た。
【0086】
<重合体の合成>
[重合例1]
テトラカルボン酸二無水物として1R,2S,4S,5R−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物 100モル部、ジアミンとして化合物(1−1−1) 30モル部及び下記式(D−1)で表される化合物 70モル部を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は95mPa・sであった。ここで得られたポリアミック酸を重合体(PAA−1)とした。
【化27】
【0087】
[重合例2〜11、比較重合例1,2]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を下記表1のとおり変更した以外は上記重合例1と同様にしてそれぞれポリアミック酸を合成した。また、重合例9については、得られたポリアミック酸溶液にピリジン100モル部及び無水酢酸100モル部を添加し、90℃、8時間かけて化学イミド化を行った。化学イミド化後の反応溶液を濃縮し、濃度が10質量%となるようにNMPにて調製した。
【0088】
【表1】
【0089】
表1中、モノマー組成の数値は、重合に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の使用割合[モル部]を示す。化合物の略称は以下の通りである。
A−1;1R,2S,4S,5R−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
D−2;下記式(D−2)で表される化合物
D−3;下記式(D−3)で表される化合物
D−4;2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
【化28】
【0090】
[実施例1]
<液晶配向剤の調製>
重合体として上記重合例1で得た重合体(PAA−1)20質量部、及び上記重合例10で得た重合体(BPA)80質量部、並びに、エポキシ添加剤としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル[4,4’−メチレンビスアニリン](下記式(e−1)で表される化合物) 5質量部(重合体の合計100質量部に対する量である。)に、有機溶媒としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がNMP:BC=50:50(質量比)、固形分濃度4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いてろ過することにより液晶配向剤(G−1)を調製した。
【化29】
【0091】
<ラビング処理により発生する異物量の評価>
上記で調製した液晶配向剤(G−1)を、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面にスピンコートを用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のクリーンオーブン内で窒素下にて15分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度2cm/秒、毛足押しこみ長さ0.4mmでラビング処理を5回実施し、異物量評価用基板を得た。得られた異物量評価用基板上の異物を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の異物数を数え、以下の基準にてラビング耐性を判断した。
異物量×:500μm×500μmの領域内に異物数が10個以上
異物量△:500μm×500μmの領域内に異物数が5〜10個
異物量○:500μm×500μmの領域内に異物数が4個以下
その結果、実施例1では異物は確認されず、この塗膜はラビング耐性良好であった。
【0092】
<ラビング配向用液晶セルの製造>
基板として、櫛歯状にパターニングされたクロムからなる2系統の金属電極(電極A及び電極B)を片面に有するガラス基板上に、上記で調製した液晶配向剤(G−1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレート上で1分間のプレベークを行った後、230℃のホットプレート上で10分間ポストベークして、膜厚約80nmの塗膜を形成した。形成された塗膜面に対し、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロールの回転数1000rpm、ステージの移動速度25mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmにてラビング処理を行い、液晶配向能を付与した。さらにこの基板を超純水中で1分間超音波洗浄し、100℃クリーンオーブンで10分間乾燥することにより、櫛歯状のクロム電極を有する面上に液晶配向膜を有する基板を製造した。この液晶配向膜を有する基板を「基板A」とした。
これとは別に、電極を有さない厚さ1mmのガラス基板の一面に、上記と同様にして液晶配向剤の塗膜を形成及びラビング処理を行い、洗浄及び乾燥して、片面上に液晶配向膜を有する基板を製造した。この液晶配向膜を有する基板を「基板B」とした。
【0093】
続いて、基板のラビング処理された液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、各液晶配向膜におけるラビング方向が逆平行となるように、2枚の基板A,Bを間隙を介して対向配置し、外縁部同士を当接して圧着して接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック液晶(メルク社製、MLC−2042)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより横電界方式の液晶セルを製造した。
【0094】
<残像特性(焼き付き特性)の評価>
上記で製造した液晶セルを25℃、1気圧の環境下に置き、電極Bには電圧をかけずに、電極Aに交流電圧3.5Vと直流電圧5Vの合成電圧を2時間印加した。その直後、電極A及び電極Bの双方に交流4Vの電圧を印加した。両電極に交流4Vの電圧を印加し始めた時点から、電極A及び電極Bの光透過性の差が目視で確認できなくなるまでの時間を測定した。この時間が50秒以内であった場合をAC残像特性が「非常に良好(◎)」、50秒を超えて100秒未満であった場合を「良好(○)」、100秒以上150秒未満であった場合を「可(△)」、そして150秒を超えた場合を「不良(×)」と評価した。その結果、この実施例では「非常に良好(◎)」の評価であった。
【0095】
<電圧保持率の評価>
上記で製造した液晶セルに、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。電圧保持率が99.5%以上を「非常に良好(◎)」、99.0%以上99.5%未満を「良好(○)」、98.0%以上99.0%未満を「可(△)」、98.0%未満を「不良(×)」としたところ、この実施例では、電圧保持率は「非常に良好(◎)」と判定された。なお、電圧保持率の測定装置としては、(株)東陽テクニカ社製の型式名「VHR−1」を使用した。
【0096】
<低温焼成による評価>
ポストベーク温度を230℃から150℃に変更した以外は上記と同様にして、ラビング処理により発生する異物量の評価を行うとともに、ラビング配向用液晶セルを製造して残像特性及び電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、ポストベーク温度を230℃としたときと同等の評価が得られ、低温焼成してもラビング耐性、電圧保持率及びAC残像特性が良好であった。
【0097】
[実施例2〜9、比較例1,2]
使用する重合体の種類及び組成をそれぞれ下記表2に記載のとおり変更した以外は、上記実施例1と同様の方法により液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、それぞれの液晶配向剤について、上記実施例1と同様にしてラビング処理により発生する異物量の評価を行うとともに、横電界式の液晶セルを製造し、残像特性及び電圧保持率の評価を行った。実施例2〜9及び比較例1,2についても、実施例1と同様に、2種類のポストベーク温度(230℃、150℃)について各種評価を行った。それらの結果を下記表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示すように、重合体[P]を含む液晶配向剤(実施例1〜18)は、AC残像特性及び電圧保持率の評価が「非常に良好(◎)」又は「良好(○)」であり、またラビング耐性の評価はいずれも「○」であり、各種特性のバランスが取れていた。これに対し、重合体[P]を含まない比較例1〜4は、実施例1〜9よりもラビング耐性、AC残像特性及び電圧保持率の少なくともいずれかが劣っていた。また、実施例のものでは、ポストベーク温度を150℃に下げた場合にも各種評価において良好な結果を示したのに対し、比較例のものでは、ポストベーク温度を低下させることによって性能が低下する結果となった。このように、重合体[P]を含む本開示の液晶配向剤によれば、塗膜のラビング耐性が良好であり、かつAC残像特性及び電圧保持率が良好な液晶素子を得ることができることが分かった。
【0100】
<重合体の合成>
[重合例12〜15及び比較重合例3]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を下記表3のとおり変更した以外は上記重合例1と同様にしてそれぞれポリアミック酸を合成した。また、得られたポリアミック酸溶液につき、重合例9と同様にして化学イミド化を行い、ポリイミドをそれぞれ合成した。
【0101】
【表3】
【0102】
表3中、モノマー組成の数値は、重合に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の使用割合[モル部]を示す。化合物の略称は以下の通りである。
A−2;2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
D−5;コレスタニルオキシ−2.4−ジアミノベンゼン
【0103】
[重合例16]
ジアミンとしてパラフェニレンジアミンを100モル部、塩基としてピリジン220モル部を加え、NMPに溶解させた。次に、このジアミン溶液を撹拌しながら、テトラカルボン酸誘導体として下記式(ta−1)で表される化合物を100モル部加え、15℃で24時間反応させた。24時間撹拌後、アクリロイルクロライドを30モル部加えて、15℃で4時間反応させた。得られたポリアミック酸エステルの溶液を2−プロパノールに撹拌しながら投入し、析出した白色沈殿をろ取した。続いて、2−プロパノールで5回洗浄し、乾燥することで白色のポリアミック酸エステル樹脂粉末(これを重合体(PAE1)とする。)を得た。重合体(PAE1)の溶液粘度は96mPa・sであった。
【化30】
【0104】
[重合例17]
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応容器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン100.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機層を取り出し、これを0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄したのち、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンとして重合体(EPS1)を粘調な透明液体として得た。この重合体(EPS1)につき、H−NMR分析を行ったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にオキシラニル基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。この重合体(EPS1)の重量平均分子量は2,200、エポキシ当量は186g/モルであった。
次いで、100mLの三口フラスコに、上記で得た重合体(EPS1)9.3g、メチルイソブチルケトン26g、下記式(CA−1)で表される化合物5.6g(重合体(EPS1)が有するケイ素原子の20モル%に相当)、及び商品名「UCAT 18X」(サンアプロ社製の4級アミン塩)0.10gを仕込み、80℃で12時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物をメタノールに投入して生成した沈殿物を回収し、これを酢酸エチルに溶解して溶液とし、該溶液を3回水洗した後、溶剤を留去することにより、ポリオルガノシロキサンとして重合体(ESSQ1)を白色粉末として14.7g得た。この重合体(ESSQ1)の重量平均分子量Mwは8000であった。
【化31】
【0105】
[実施例19]
<液晶配向剤の調製>
重合体として上記重合例12で得た重合体(PI−2)100質量部に、有機溶媒としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がNMP:BC=50:50(質量比)、固形分濃度4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いてろ過することにより液晶配向剤(G−19)を調製した。
【0106】
<基板に対する密着性評価>
上記で調製した液晶配向剤(G−19)を、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面にスピンコートを用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のクリーンオーブン内で窒素下にて15分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度2cm/秒、毛足押しこみ長さ0.4mmでラビング処理を5回実施して膜に負荷をかけ、密着性評価用基板を得た。得られた密着性評価用基板上の異物を光学顕微鏡にて観察し、500μm×500μmの領域内の異物数を数え、以下の基準にて密着性を判断した。なお、基板に対する膜の密着性が良好であるほど、膜に負荷をかけても異物数が少なく良好である。
異物量×:500μm×500μmの領域内に異物数が10個以上
異物量△:500μm×500μmの領域内に異物数が5〜10個
異物量○:500μm×500μmの領域内に異物数が4個以下
その結果、実施例19では異物は確認されず、この塗膜の密着性は良好であった。
【0107】
<VA型液晶セルの製造>
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板を2枚準備し、それぞれの透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(G−19)を、スピンコーターを用いて塗布した。次いで、80℃のホットプレート上で1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で30分間加熱(ポストベーク)して、膜厚約80nmの塗膜を形成した。次いで、一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、一対の基板を液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを製造した。
【0108】
<電圧保持率の評価>
上記で製造したVA型液晶セルにつき、実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行ったところ、この実施例では、電圧保持率「非常に良好(◎)」の評価であった。
【0109】
[実施例20〜26及び比較例5,6]
使用する重合体の種類及び組成をそれぞれ下記表4に記載のとおり変更した以外は、上記実施例19と同様の方法により液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、それぞれの液晶配向剤について、上記実施例19と同様にして基板に対する密着性の評価を行うとともに、VA型液晶セルを製造して電圧保持率を測定した。それらの結果を下記表4に示す。
【0110】
[実施例27]
<液晶配向剤の調製>
重合体として上記重合例1で得た重合体(PAA−1)60質量部、及び上記重合例16で得た重合体(PAE1)40質量部に、有機溶媒としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がNMP:BC=50:50(質量比)、固形分濃度4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いてろ過することにより液晶配向剤(G−27)を調製した。
【0111】
<基板に対する密着性評価>
液晶配向剤(G−27)を用いた以外は上記実施例19と同様にして、基板に対する密着性評価を行った。その結果、この実施例では異物は確認されず、膜の密着性は良好であった。
【0112】
<光配向処理による液晶セルの製造>
櫛歯状にパターニングされたクロムからなる金属電極を有するガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とを一対とし、ガラス基板の電極を有する面と対向ガラス基板の一面とに、上記で調製した重合体組成物(G−27)を、スピンコーターを用いてそれぞれ塗布した。次いで、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行い、庫内を窒素置換したオーブンにて230℃で1時間加熱(ポストベーク)した。その後、液晶配向剤(G−27)を塗布した側の基板表面に対し、Hg−Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて、254nmの輝線を含む偏光紫外線を2,000J/mの照射量で基板面の垂直方向から照射した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、230℃のホットプレート上で10分間加熱した。これにより、膜厚約0.1μmの液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
【0113】
次いで、一対の基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、偏光紫外線を照射した際の各基板の向きが逆になるように重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化した。次いで、液晶注入口より基板間の間隙に、メルク社製液晶「MLC−7028」を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを150℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを得た。
【0114】
<電圧保持率の評価>
光配向法により製造した液晶セルにつき、実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行ったところ、この実施例では、電圧保持率「非常に良好(◎)」の評価であった。
【0115】
[実施例28〜30及び比較例7]
使用する重合体の種類及び組成をそれぞれ下記表4に記載のとおり変更した以外は、上記実施例27と同様の方法により液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、それぞれの液晶配向剤について、上記実施例19と同様にして基板に対する密着性の評価を行うとともに、上記実施例27と同様にして光配向法により横電界式の液晶セルを製造して電圧保持率を測定した。それらの結果を下記表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
表4に示したように、重合体[P]を含む液晶配向剤によれば、基板に対する密着性が良好な液晶配向膜が得られるとともに、高い電圧保持率を示すVA型液晶表示素子が得られることが分かった。また、光配向法により製造した液晶表示素子についても、高い電圧保持率を示す結果が得られた。