(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の駆動輪との間で動力の伝達が可能な駆動軸と、斜板と、を有し、前記斜板の角度に応じて動作可能な斜板式ポンプ・モータと、供給される作動油により前記斜板の傾斜角を調整可能な斜板調整部と、所定の制御用圧力の作動油の供給を受け、前記斜板調整部に対する作動油の供給及び/又は排出を制御する制御弁と、前記斜板式ポンプ・モータから供給される前記作動油を加圧状態で蓄積可能であるとともに、蓄積されている前記作動油を前記斜板式ポンプ・モータに供給可能なアキュムレータと、前記斜板式ポンプ・モータと前記アキュムレータとの間の作動油を前記所定の制御用圧力まで減圧可能な減圧弁と、
を有する油圧システムであって、
前記制御弁に供給する前記所定の制御用圧力の作動油を吐出可能な電動ポンプと、
前記制御弁と前記減圧弁との間を連通させる状態と、前記制御弁と前記電動ポンプとの間を連通させる状態とを切り替え可能な切替弁と、
前記車両の状態に応じて、前記制御弁による前記斜板調整部に対する前記作動油の供給及び/又は排出を制御する調整制御手段と、
前記減圧弁から前記制御弁への前記制御用圧力の前記作動油の供給が適切か否かを判定する供給状態判定手段と、
前記供給状態判定手段により前記制御弁への前記作動油の供給が適切でないと判定された場合に、前記切替弁により前記電動ポンプと前記制御弁との間を連通させる状態に切り替えるとともに、前記電動ポンプを動作させる切替制御手段と、
前記斜板式ポンプ・モータと前記アキュムレータとの間における前記作動油の圧力を検出する第1圧力センサと、
前記斜板式ポンプ・モータと所定の低圧タンクとの間における前記作動油の圧力を検出する第2圧力センサと、を備え、
前記供給状態判定手段は、前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとにより検出された前記作動油の圧力差に基づいて、前記斜板式ポンプ・モータの軸トルクを推定し、前記調整制御手段による制御の開始から、推定された前記軸トルクが制御目標の軸トルクである目標軸トルクとなるまでの時間が所定の基準時間を超える場合に、前記制御弁への前記作動油の供給が適切でないと判定する
油圧システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、上記した特許文献1の技術によると、パイロット油圧源は、斜板の傾斜角を可変制御する必要がない場合においても常に駆動軸により回転され、作動油の供給を行っている。このように、駆動軸によりパイロット油圧源を常に回転させるために、エネルギ損失を発生させ、燃費悪化をもたらす。
【0006】
これに対して、例えば、アキュムレータに蓄積された作動油を用いて斜板の傾斜角を調整させるようにすることにより、エネルギ損失を低減することができると考えられる。この場合においては、アキュムレータに蓄積された作動油の圧力は、高圧となるので、その圧力のまま、斜板を調整させるための制御弁に供給することはできない。そこで、高圧の作動油を減圧弁により減圧させた後に制御弁に供給する必要がある。
【0007】
このような構成において、高圧の作動油がアキュムレータに蓄積されていない場合には、制御弁に十分な圧力の作動油を供給することができないので、斜板の傾斜角を調整することができず、斜板式ポンプ・モータをポンプとして動作させるようにすることができない。また、アキュムレータに蓄積された作動油の圧力が十分な場合であっても、減圧弁に故障等が発生してしまうと、斜板の傾斜角を調整することができず、斜板式ポンプ・モータをモータとして動作させることができない。
【0008】
そこで、本発明は、エネルギ損失を低減しつつ、斜板式ポンプ・モータの斜板の傾斜角を適切に制御することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明の一観点に係る油圧システムは、車両の駆動輪との間で動力の伝達が可能な駆動軸と、斜板と、を有し、斜板の角度に応じて動作可能な斜板式ポンプ・モータと、供給される作動油により斜板の傾斜角を調整可能な斜板調整部と、所定の制御用圧力の作動油の供給を受け、斜板調整部に対する作動油の供給及び/又は排出を制御する制御弁と、斜板式ポンプ・モータから供給される作動油を加圧状態で蓄積可能であるとともに、蓄積されている作動油を斜板式ポンプ・モータに供給可能なアキュムレータと、斜板式ポンプ・モータとアキュムレータとの間の作動油を所定の制御用圧力まで減圧可能な減圧弁と、を有する油圧システムにおいて、制御弁に供給する所定の制御用圧力の作動油を吐出可能な電動ポンプと、制御弁と減圧弁との間を連通させる状態と、制御弁と電動ポンプとの間を連通させる状態とを切り替え可能な切替弁と、車両の状態に応じて制御弁による斜板調整部に対する作動油の供給及び/又は排出を制御する調整制御手段と、減圧弁から制御弁への制御用圧力の作動油の供給が適切か否かを判定する供給状態判定手段と、供給状態判定手段により制御弁への作動油の供給が適切でないと判定された場合に、切替弁により電動ポンプと制御弁との間を連通させる状態に切り替えるとともに、電動ポンプを動作させる切替制御手段と、を有する。
【0010】
上記油圧システムにおいて、斜板式ポンプ・モータとアキュムレータとの間における作動油の圧力を検出する第1圧力センサと、斜板式ポンプ・モータと所定の低圧タンクとの間における作動油の圧力を検出する第2圧力センサと、を更に備え、供給状態判定手段は、第1圧力センサと第2圧力センサとにより検出された作動油の圧力差に基づいて、斜板式ポンプ・モータの軸トルクを推定し、調整制御手段による制御の開始から、推定された軸トルクが制御目標の軸トルクである目標軸トルクとなるまでの時間が所定の基準時間を超える場合に、制御弁への作動油の供給が適切でないと判定するようにしてもよい。
【0011】
また、上記油圧システムにおいて、斜板式ポンプ・モータとアキュムレータとの間における作動油の圧力を検出する第1圧力センサと、斜板式ポンプ・モータと所定の低圧タンクとの間における作動油の圧力を検出する第2センサとを更に備え、供給状態判定手段は、第1圧力センサと第2圧力センサとにより検出された作動油の圧力差に基づいて、斜板式ポンプ・モータの軸トルクの変化の割合を推定し、推定された軸トルクの変化の割合が、調整制御手段による制御の目標とする軸トルクの変化の割合未満である場合に、制御弁への作動油の供給が適切でないと判定するようにしてもよい。
【0012】
また、上記油圧システムにおいて、斜板式ポンプ・モータを通過する作動油の量を測定する流量計を更に備え、供給状態判定手段は、流量計により測定された作動油の量に基づいて斜板式ポンプ・モータの軸トルクを推定し、調整制御手段による制御の開始から、推定された軸トルクが制御目標の軸トルクである目標軸トルクとなるまでの時間が所定の基準時間を超える場合に、制御弁への作動油の供給が適切でないと判定するようにしてもよい。
【0013】
また、上記油圧システムにおいて、減圧弁と制御弁との間に、作動油の圧力を検出する圧力センサを更に備え、供給状態判定手段は、圧力センサにより検出された作動油の圧力が所定の圧力未満である場合に、制御弁への前記作動油の供給が適切でないと判定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エネルギ損失を低減しつつ、斜板式ポンプ・モータの斜板の傾斜角を適切に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る油圧システムを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る油圧システムを搭載した車両の模式的な全体構成図である。
【0018】
駆動源の一例としてのエンジン10の出力軸は、クラッチ11を介して、変速機12の図示しない入力軸(インプットシャフト)に接続されている。変速機12の図示しない出力軸は、プロペラシャフト13、差動装置14、ドライブシャフト15を介して駆動輪(左右後輪)16L,16Rにそれぞれ接続されている。
【0019】
クラッチ11は、エンジン10の出力軸と、変速機12の入力軸との間の動力伝達経路を断接する。
【0020】
変速機12は、例えば、自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT)である。
【0021】
変速機12の内部の1つの軸(例えば、インプットシャフトと平行に配置されているカウンタシャフト)には、動力伝達可能に入出力機構部(PTO:Power take−off)17が連結されている。例えば、入出力機構部17の入出力軸17Aは、複数のギヤを介して、変速機12の1つの軸に接続されている。したがって、変速機12の軸から入出力軸17Aへの動力の伝達、及び入出力軸17Aから変速機12の軸への動力の伝達が可能となっている。
【0022】
入出力軸17Aは、車両1の制動時における駆動輪16L,16Rの駆動力のエネルギを回収し、そのエネルギを発進時や加速時等に利用可能な油圧システム20の後述する斜板式ポンプ・モータ33の駆動軸となっている。
【0023】
油圧システム20は、斜板式ポンプ・モータユニット21と、バルブユニット22と、油圧維持ユニット23と、低圧タンク24と、アキュムレータ25と、配管71,72,76,81等と、電子制御ユニット(以下、ECUと称する)60とを備える。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に係る油圧システムの詳細な構成図である。
【0025】
低圧タンク24は、低圧の作動油を貯溜するタンクである。低圧タンク24には、低圧タンク24内の空気を排出するための空気抜き配管78と、斜板式ポンプ・モータユニット21と接続される配管71と、バルブユニット22と接続される配管76と、油圧維持ユニット23と接続される配管79とが接続されている。なお、配管71と、配管76とには、通過する作動油を冷却する冷却器27,28が設けられている。
【0026】
アキュムレータ25は、供給される作動油の圧力によるエネルギを蓄えること(蓄圧すること)ができ、また、蓄えたエネルギにより作動油を供給すること(エネルギの放出)ができる。アキュムレータ25は、作動油を収容する作動油収容部25Aと、気体(例えば、窒素ガス)が封入されている気体収容部25Bとを有する。アキュムレータ25では、作動油収容部25Aに高圧の作動油が供給されると、それに応じて気体収容部25Bの気体が圧縮されて、エネルギを蓄積する一方、気体収容部25Bの気体を膨張させて、作動油収容部25Aの作動油を外部に供給することによりエネルギを放出する。アキュムレータ25には、配管74が接続されている。
【0027】
斜板式ポンプ・モータユニット21は、入出力軸17Aを駆動軸とし、斜板33Aを有する斜板式ポンプ・モータ33と、斜板33Aの傾斜角を調整する斜板調整部34と、斜板調整部34を制御する作動油の供給を制御する制御弁ユニット30とを有する。
【0028】
斜板式ポンプ・モータ33は、例えば、斜板式アキシャルピストンポンプ・モータであり、一方のポートは、低圧側(低圧タンク24側)に連通する配管71が接続され、他方のポートには、高圧側(例えば、アキュムレータ25側)に連通する配管72が接続されている。斜板式ポンプ・モータ33は、斜板33Aの傾斜角(具体的には、傾斜の向き)に応じて、入出力軸17Aの駆動力を用いて配管71から配管72側に作動油を供給するポンプとしての動作や、アキュムレータ25から配管72を介して供給される作動油のエネルギにより入出力軸17Aに駆動力を与えるモータとしての動作を行うことができる。また、斜板式ポンプ・モータ33は、それぞれの動作に関わる駆動力は、斜板33Aの傾斜角(具体的には、傾斜角の大きさ)に応じて変えることができる。
【0029】
斜板調整部34は、ピストン36を収容するシリンダ35を有する。シリンダ35内は、ピストン36によって、2つの油圧室37,38に区画されている。ピストン36には、斜板33Aと連結されたロッド39が固定されている。このような構成により、油圧室37,38内の作動油の量を調整してピストン36を移動させることにより、ロッド39を介して斜板33Aの傾斜角を調整することができる。
【0030】
制御弁ユニット30は、第1制御弁31と、第2制御弁32とを有する。第1制御弁31は、油圧室37と連通する配管82と、油圧維持ユニット23と連通する配管81又は所定の作動油排出先と連通する配管84のいずれとを連通させるかを切替可能となっている。第1制御弁31により、配管82と配管84とが連通されると、圧力室37内の作動油が配管82、配管84を介して作動油排出先に排出される。一方、第1制御弁31により、配管82と配管81とが連通されると、配管81から供給される作動油が、配管82を介して圧力室37に供給される。
【0031】
第2制御弁32は、油圧室38と連通する配管83と、油圧維持ユニット23と連通する配管81又は所定の作動油排出先と連通する配管85のいずれとを連通させるかを切替可能となっている。第2制御弁32により、配管83と配管85とが連通されると、圧力室38内の作動油が配管83、配管85を介して作動油排出先に排出される。一方、第2制御弁32により、配管83と配管81とが連通されると、配管81から供給される作動油が、配管83を介して圧力室38に供給される。第1制御弁31及び第2制御弁32は、ECU60の制御信号に従って制御される。
【0032】
バルブユニット22は、三方バルブ40と、バルブ41と、リリーフバルブ42と、減圧バルブ43とを有する。
【0033】
三方バルブ40は、斜板式ポンプ・モータユニット21と連通する配管72と、低圧タンク24に連通する配管76と連通可能な配管75と、アキュムレータ25と連通する配管74との内の何れか2つの配管を選択的に連通させることができる。通常の使用時には、三方バルブ40は、配管72と配管74とが連通するように設定されている。バルブ41は、配管75と、配管76との間を開閉可能となっている。バルブ41は、例えば、アキュムレータ25に蓄積された作動油を単に低圧タンク24に排出する際に開状態とされる。リリーフバルブ42は、三方バルブ40の内部や、配管75の作動油の圧力が高圧となった場合に、作動油を排出する。減圧バルブ43は、配管72から分岐された配管73と、油圧維持ユニット23に繋がる配管77との間に配置され、配管73側の高圧の作動油を所定の制御用の圧力(制御圧)に減圧させて、配管77側に供給する。
【0034】
油圧維持ユニット23は、電動ポンプ50と、切替弁51とを有する。電動ポンプ50は、電力により動作するモータの駆動力により、低圧タンク24に連通する配管79から切替弁51に繋がる配管80へ制御圧に相当する圧力の作動油を供給可能である。切替弁51は、減圧弁43と連通する配管77と、電動ポンプ50と連通する配管80とのいずれの配管を、斜板式ポンプ・モータユニット21に接続された配管81に連通させるかを切替可能である。切替弁51の動作は、ECU60からの信号に従って制御される。
【0035】
この油圧システム20においては、配管71,76,79が、低圧用の配管であり、配管72,73,74,75が高圧用の配管であり、配管77,80,81が制御圧用(高圧と低圧との間の圧力)の配管である。また、油圧システム20は、斜板式ポンプ・モータ33の高圧側の作動油の圧力(本例では、配管74の圧力)を測定する第1圧力センサ44と、低圧側の作動油の圧力(本例では、配管71の圧力)を測定する第2圧力センサ26とを備えている。
【0036】
ECU60は、油圧システム20における各種制御等を行うものであり、公知のCPU、ROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備える。
【0037】
ECU60は、調整制御手段の一例としての調整制御部61と、供給状態判定手段の一例としての供給状態判定部62と、切替制御手段の一例としての切替制御部63とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、一体のハードウエアであるECU60に含まれるものとして説明するが、これらの何れか一部を別体のハードウエアに設けることもできる。
【0038】
調整制御部61は、車両1の状態(例えば、アクセル開度の変化や、ブレーキペダルのオン等)に応じて、斜板式ポンプ・モータ33を制御する制御要求を出力する。具体的には、調整制御部61は、車両1の状態に応じて、斜板調整部34により斜板33Aを目標の傾斜角とするための制御弁ユニット30(第1制御弁31及び第2制御弁32)に対する制御内容(作動油の供給及び/又は排出)を決定し、斜板式ポンプ・モータユニット21に制御内容に応じた制御信号を出力する。また、調整制御部61は、その制御信号により実現する斜板式ポンプ・モータ33の目標軸トルクを供給状態判定部62に通知する。
【0039】
供給状態判定部62は、第1圧力センサ44と第2圧力センサ26とにより検出された圧力の差(差圧)を特定し、その差圧時における斜板式ポンプ・モータ33の軸トルク(推定軸トルクという)を推定する。ここで、斜板式ポンプ・モータ33については、設計に基づいて、又は実験を行うこと等により、差圧と、斜板式ポンプ・モータ33による作動油の吐出量や、斜板式ポンプ・モータ33の軸トルクとの対応関係を特定しておくことができ、本実施形態では、供給状態判定部62は、この対応関係に基づいて、差圧から推定軸トルクを推定している。
【0040】
また、供給状態判定部62は、調整制御部61による制御の開始から、推定軸トルクが目標軸トルクになるまでの時間を計測する。
【0041】
また、供給状態判定部62は、減圧弁43から制御弁ユニット30への制御圧の作動油の供給が適切か否かを判定し、判定結果を切替制御部63に通知する。本実施形態では、供給状態判定部62は、推定軸トルクが目標軸トルクになるまでの時間(応答時間α)が、予め決められた許容限界の基準時間(許容限界値β)以下であるか否かを判定し、応答時間αが許容限界値β以下でない場合には、減圧弁43から制御弁ユニット30への制御圧の作動油の供給が適切でないと判定し、応答時間αが許容限界値β以下である場合には、減圧弁43から制御弁ユニット30への制御圧の作動油の供給が適切であると判定する。
【0042】
切替制御部63は、供給状態判定部62から制御弁43への作動油の供給が適切でないとの判定結果を受け取った場合には、切替弁51により電動ポンプ50側の配管80と制御弁ユニット30側の配管81とを連通させる状態に切り替えるとともに、電動ポンプ50を動作させる。これにより、電動ポンプ50から供給される制御圧の作動油が制御弁ユニット30に適切に供給されることとなる。
【0043】
次に、一実施形態に係る油圧システム20における処理動作について説明する。
【0044】
図3は、本発明の一実施形態に係る制御用油圧維持処理のフローチャートである。
【0045】
制御用油圧維持処理は、例えば、車両の電源ON(イグニッションスイッチのキースイッチON)の状態において、調整制御部61により斜板式ポンプ・モータ33による動作を制御する要求が出力された場合に実行される。
【0046】
供給状態判定部62は、調整制御部61による制御の開始から、推定軸トルクが目標軸トルクになるまでの時間の計測を開始する(ステップS11)。
【0047】
次いで、供給状態判定部62は、第1圧力センサ44と第2圧力センサ26とにより検出された圧力の差(差圧)を特定し、その差圧時における斜板式ポンプ・モータ33の推定軸トルクを特定し、推定軸トルクが調整制御部61から通知された目標軸トルクに到達したか否かを判定する(ステップS12)。この結果、推定軸トルクが目標軸トルクに到達していない場合(ステップS12:NO)には、供給状態判定部62は、処理をステップS12に進める。
【0048】
一方、推定軸トルクが目標軸トルクに到達している場合(ステップS12:YES)には、供給状態判定部62は、推定軸トルクが目標軸トルクになるまでの時間の計測を終了し、その時点の計測時間、すなわち、応答時間αが、予め決められている許容限界値β以下であるか否かを判定する(ステップS13)。
【0049】
この結果、応答時間αが許容限界値β以下である場合(ステップS13:YES)には、減圧弁43から制御弁ユニット30への制御圧の作動油の供給が適切であることを意味しているので、供給状態判定部62は、処理を終了する。
【0050】
一方、応答時間αが許容限界値β以下でない場合(ステップS13:NO)には、減圧弁43から制御弁ユニット30への制御圧の作動油の供給が適切でない可能性が高いことを意味しているので、供給状態判定部62は、その旨を切替制御部63に通知し、通知を受けた切替制御部63は、切替弁51により電動ポンプ50と制御弁ユニット30との間の配管80、81を連通させる状態に切り替えるとともに、電動ポンプ50を動作させ、処理を終了する。これにより、以降の斜板式ポンプ・モータ33による動作の制御要求時においては、制御弁ユニット30は、電動ポンプ50から供給される制御圧の作動油を用いて、斜板調整部34を制御することとなり、アキュムレータ25の作動油の圧力が低い場合や、減圧弁43が故障している場合であっても、斜板式ポンプ・モータ33の斜板33Aの傾斜角を適切に制御できる。なお、本実施形態では、電動ポンプ50の動作は、車両の電源がOFFとなるまで実行するようになっている。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る油圧システム20によると、制御用圧力の作動油を吐出可能な電動ポンプ50と、制御弁ユニット30と減圧弁43との間を連通させる状態と、制御弁ユニット30と電動ポンプ50との間を連通させる状態とを切り替え可能な切替弁51と、車両1の状態に応じて制御弁ユニット30による斜板調整部35に対する作動油の供給及び/又は排出を制御する調整制御部61と、減圧弁43から制御弁ユニット30への制御用圧力の作動油の供給が適切か否かを判定する供給状態判定部62と、供給状態判定部62により制御弁43への作動油の供給が適切でないと判定された場合に、切替弁51により電動ポンプ50と制御弁ユニット30との間を連通させる状態に切り替えるとともに、電動ポンプ50を動作させる切替制御部63と、を備えるようにしたので、高圧側の配管における作動油の油圧が低下した場合や、減圧弁43自体が故障した場合等のように、制御用の作動油として必要な圧力の作動油を制御弁ユニット30に供給できない場合において、電動ポンプ50を動作させて、制御用の作動油を制御弁ユニット30に適切に供給することができ、傾斜板式ポンプ・モータ33の傾斜板33Aの傾斜角を適切に調整することができる。また、電動ポンプ50を動作させるのは、制御弁43への作動油の供給が適切でないと判定された以降に限られており、無駄なエネルギの消費を抑えることができる。
【0052】
次に、本発明の第1変形例に係る油圧システムについて説明する。
【0053】
図4は、本発明の第1変形例に係る油圧システムの構成図である。
【0054】
第1変形例に係る油圧システム20は、上記実施形態に係る油圧システム20において、第2圧力センサ26を備えずに、斜板式ポンプ・モータ33の高圧側の配管72に流量計91を配置し、供給状態判定部62に代えて供給状態判定部64を設けるようにしたものである。
【0055】
流量計91は、斜板式ポンプ・モータ33に流れる作動油の流量を測定する。供給状態判定部64は、上記実施形態の供給状態判定部62とは、斜板式ポンプ・モータ33の軸トルクの推定方法が違うものであり、供給状態判定部64は、流量計91により検出された作動油の流量に基づいて、斜板式ポンプ・モータ33の軸トルクを推定する。なお、作動油の流量と、軸トルクとの関係は、斜板式ポンプ・モータ33の設計値や、斜板式ポンプ・モータ33を用いた実験等により把握しておくことができる。
【0056】
第1変形例に係る油圧システム20によると、斜板式ポンプ・モータ33の軸トルクを推定する際に、実際の作動油の流量を正確に把握することができるので、上記実施形態に係る油圧室システム20に比べて、より高精度に斜板式ポンプ・モータ33の軸トルクを推定することができ、より適切に電動ポンプを駆動させるか否かを判定することができる。
【0057】
次に、本発明の第2変形例に係る油圧システムについて説明する。
【0058】
図5は、本発明の第2変形例に係る油圧システムの構成図である。
【0059】
第2変形例に係る油圧システム20は、上記実施形態に係る油圧システム20において、第1圧力センサ26を備えずに、減圧弁43の減圧側の配管77に圧力センサ92を配置し、供給状態判定部62に代えて供給状態判定部65を設けるようにしたものである。
【0060】
圧力センサ92は、減圧弁43の減圧側の配管77内の作動油の圧力を測定する。供給状態判定部65は、圧力センサ92から測定された作動油の圧力が、制御圧として必要な所定の圧力以上であるか否かを判定し、測定された作動油の圧力が必要な所定の圧力以上でない場合には、制御弁ユニット30に作動油が適切に供給されていないと判定し、判定結果を切替制御部63に通知する。
【0061】
第2変形例に係る油圧システム20によると、圧力センサ92により減圧弁43からの作動油の圧力を直接測定するようにしているので、制御用の作動油の圧力状態を直接的に把握することができ、制御弁ユニット30に作動油が適切に供給されているか否かをより高精度に判定することができる。
【0062】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態では、斜板式ポンプ・モータ33の軸トルクが目標トルクになるまでの時間が基準時間を超えるか否かにより、制御弁ユニット30への作動油の供給が適切であるか否かを判定するようにしていたが、本発明はこれに限られず、斜板式ポンプ・モータ33の軸トルクの変化の割合を求め、その変化の割合が基準となる所定の値を超えているか否かによって、制御弁ユニット30への作動油の供給が適切であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0064】
また、上記第1変形例では、流量計91を高圧側の配管72に配置するようにしていたが、本発明はこれに限られず、例えば、斜板式ポンプ・モータ33の低圧側の配管71に配置するようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態及び変形例において、電動ポンプ50を動かした場合には、制御弁ユニット30に作動油が適切に供給されていない状態が発生したことを表す情報を、ECU60のメモリに記憶するようにしてもよく、また、車両1の運転者に対して、その旨を示す情報を出力するようにしてもよい。