(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852402
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】観測装置
(51)【国際特許分類】
G01W 1/11 20060101AFI20210322BHJP
G01N 1/02 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
G01W1/11 Z
G01N1/02 D
G01W1/11 E
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-129(P2017-129)
(22)【出願日】2017年1月4日
(65)【公開番号】特開2018-109559(P2018-109559A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和文
【審査官】
佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/111212(WO,A1)
【文献】
実開昭60−134151(JP,U)
【文献】
実開昭58−097572(JP,U)
【文献】
中国実用新案第204807545(CN,U)
【文献】
中国特許出願公開第105758461(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 − 1/44 、
G01W 1/00 − 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有し、中心軸方向の両端において開口する筒状に形作られた塩分捕集可能な捕集材と、
前記捕集材の内側に配設された湿度センサと、
前記捕集材の一方の開口から他方の開口への向きに前記捕集材の内側に空気を送風する送風機と、を備える観測装置。
【請求項2】
前記送風機が前記捕集材の前記一方の開口側に配置され、前記送風機の送風向きが前記中心軸方向である請求項1に記載の観測装置。
【請求項3】
前記送風機を間欠的に作動させる制御部を更に備える請求項1又は2に記載の観測装置。
【請求項4】
通気性を有し、前記捕集材の内側において前記湿度センサを包囲したフィルタを更に備える請求項1から3の何れか一項に記載の観測装置。
【請求項5】
前記捕集材、前記湿度センサ及び前記送風機を収容し、日光を遮蔽し、雨水の浸入を防止し、通気性を有した遮蔽箱を更に備える請求項1から4の何れか一項に記載の観測装置。
【請求項6】
前記捕集材の内側に配設された温度センサを更に備える請求項1から5の何れか一項に記載の観測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の塩分を捕集するとともに湿度を測定する観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電系統の碍子や鉄塔等に利用される各種の材料(例えば、絶縁体、金属材料)の腐食状態を調査するために、大気中に飛散している塩分の量(以下、単位体積あたりに含まれる塩分の量を気中塩分密度といい、これに風速を乗じたものを飛散塩分量という。)を測定する必要がある。大気中の塩分密度や飛散塩分量の測定のためには、大気中に飛散している塩分を捕集する必要がある。
【0003】
JIS Z2382で規定されているドライガーゼ法は、木枠にガーゼをはめ込んで、雨に濡れない風通しの良い場所に木枠及びガーゼを設置し、ガーゼに付着した塩分の量を測定するというものである。
特許文献1に記載の飛散塩分捕獲装置は、ガーゼが円筒状に丸められて、立てられた状態で保持されたものである。
特許文献2に記載の海塩粒子の捕捉分析方法は、海塩粒子よりも目が細かいフィルタを通して大気を吸引することにより、海塩粒子をフィルタで捕捉するというものである。
特許文献3に記載の飛散塩分捕獲装置は、風による上昇気流中の塩分を捕獲する機構が円錐台形状のルーフの下に配置されているというものである。
特許文献4に記載の飛散塩分捕獲装置は、屋根材の下に筐体が設けられ、その筐体の側面には複数の窓が異なる向きに設けられ、これら窓に塩分捕集布が張設されることによって多方向の風の飛散塩分の捕獲に対応できるようにしたものである。
【0004】
材料の腐食要因としては、気中塩分の他に温度及び湿度による影響もある。そのため、大気中の塩分量を測定するほかに、温度及び湿度も測定する必要がある。また、大気中の塩分の捕獲と温度測定と湿度測定とを同一機器で実現することが望まれる。
温度の測定には、電気特性の変化が温度変化に依存する感温素子をセンサとして利用した電子式温度計を用い、湿度の測定には、電気特性の変化が湿度変化に依存する感湿素子をセンサとして利用した電子式湿度計を用いるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5876615号公報
【特許文献2】特開2010−112719号公報
【特許文献3】特許第5677595号公報
【特許文献4】特開2015−021796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、塩の飽和水溶液と平衡にある空気の相対湿度は塩の種類と溶液の温度で定まるため(JIS B 7920:2000 参照)、析出された塩に気中の水分が混じると、その塩の周囲が一定の湿度に保たれてしまう。そのため、大気中の塩分の捕獲と湿度測定とを同一機器で実現すると、ガーゼ等に捕獲した塩分が湿度センサの周囲の湿度を一定に保つように作用し、湿度センサによる測定湿度が大気中の実際の湿度と異なる。それゆえ、湿度センサによる測定湿度に誤差が生じる。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。その発明の目的とするところは、大気中の塩分の捕獲と湿度測定とを同一機器で実現した場合に、捕獲した塩分が湿度測定に悪影響を及ぼさないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための主たる発明は、通気性を有し、
中心軸方向の両端において開口する筒状に形作られた塩分捕集可能な捕集材と、前記捕集材の内側に配設された湿度センサと、
前記捕集材の一方の開口から他方の開口への向きに前記捕集材の内側に空気を送風する送風機と、を備える観測装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空気が送風機によって湿度センサに吹き付けられるので、塩分が捕集材に捕集されても、その塩分が湿度センサの湿度測定に悪影響を及ぼさない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0012】
1. 観測装置の構成
図1は、観測装置10の斜視図である。
図2は、観測装置10の内部を示す縦断面図である。
観測装置10は、遮蔽箱(百葉箱)1と、遮蔽箱1の内側に収容された観測機器本体20及び制御盤(制御部)90とを備える。
【0013】
遮蔽箱1は日光の遮蔽及び雨水の浸入防止をするとともに、通気性を有する。遮蔽箱1が直方体箱状に形成されており、四つの側面に開口(導風口)が形成され、それら開口にルーバー2が設けられている。ルーバー2は、外側から内側に向かって上りに約45°で傾斜する複数の鎧板(整流板)が上下に配列された構成である。遮蔽箱1の下面は開口している。また、遮蔽箱1の上端には天板3が設けられており、この天板3は観測機器本体20を出し入れするための蓋としても機能する。つまり、天板3の縁部がヒンジ8によって遮蔽箱1の上端に連結され、天板3の反対側の縁部がロック・アンロック可能な留め具9によって固定されている。
この遮蔽箱1は、上下に延在した中心軸が鉛直になるように屋外等の測定場所に設置される。
【0014】
観測機器本体20は、遮蔽箱1の四つの側面及び天板3から内側に離れた状態で、遮蔽箱1の内側に収容されている。また、この観測機器本体20は、遮蔽箱1の内側に設けられた支持具(図示略)によって遮蔽箱1に支持されているとともに、その支持具に対して着脱可能である。
観測機器本体20はホルダ30、筒体40、捕集ガーゼ(捕集材)50、温湿度測定器60、フィルタ70及び送風機80を備える。
【0015】
ホルダ30は上述の支持具によって着脱可能に遮蔽箱1に支持されている。このホルダ30が柱状に設けられており、ホルダ30の外周面31が円柱面状に形成されている。ホルダ30の中央部には、装着孔32がホルダ30を上下に貫通するように形成されている。
【0016】
温湿度測定器60は、気中の温度及び湿度(特に相対湿度)を測定して、測定温度及び測定湿度を表す電気信号を出力するものである。この温湿度測定器60は本体部61、プローブ62、温度センサ(感温素子)63及び湿度センサ(感湿素子)64を有する。
【0017】
プローブ62の基端部が本体部61に接続され、このプローブ62が本体部61から延出している。プローブ62がホルダ30を上下に貫通するように装着孔32に装着され、これにより温湿度測定器60がホルダ30に支持されている。
【0018】
プローブ62の先端には温度センサ63及び湿度センサ64が設けられている。温度センサ63は例えばサーミスタ、測温抵抗体又は熱電対である。湿度センサ64は例えば電気容量式湿度センサ又は電気抵抗式湿度センサである。本体部61には計測回路65が内蔵されており、温度センサ63の測定温度及び湿度センサ64の測定湿度が計測回路65によって電気信号に変換される。計測回路65は制御盤90によって制御される。
【0019】
プローブ62の先端にはフィルタ70が装着され、フィルタ70の内側が空洞となっている。このフィルタ70の内側に温度センサ63及び湿度センサ64が収容されている。フィルタ70は通気性を有し、フィルタ70を通過する空気の塵埃等がフィルタ70に捕捉される。
【0020】
ホルダ30には中空円柱状の筒体40が外装されている。具体的には、ホルダ30が筒体40の下側開口に嵌め込まれ、止め輪33が筒体40の外側から筒体40をホルダ30に締め付けている。筒体40の上側の大部分がホルダ30の外周面31から上方へ延出しており、温度センサ63及び湿度センサ64が筒体40の内側に配置されている。筒体40とプローブ62が同軸状に配置され、温度センサ63及び湿度センサ64がホルダ30の上方において筒体40の中心軸上に配置されている。また、筒体40の中心軸と遮蔽箱1の中心軸が一致しており、遮蔽箱1の四つの側面が筒体40の径方向外側において筒体40を囲繞する。遮蔽箱1の中心軸と同様に、筒体40の中心軸も鉛直に設置される。
【0021】
筒体40の上部には捕集ガーゼ50が巻き付けられている。これにより、可撓性の捕集ガーゼ50が円筒状の形状に維持されており、捕集ガーゼ50の中心軸が鉛直に設置される。
筒体40が網状であるため、多数の通気孔が筒体40に形成されている。そのため、捕集ガーゼ50が筒体40に巻き付けられていても、捕集ガーゼ50の通気性が確保される。
捕集ガーゼ50がホルダ30の外周面31から上に離間しており、捕集ガーゼ50の下側において筒体40が露出している。そのため、捕集ガーゼ50とホルダ30との間では、筒体40の内側の空間と外側の空間が筒体40の通気孔によって通じている。
【0022】
筒体40の上側には送風機80が取り付けられている。この送風機80は、その下方にある筒体40の上側開口に向けられている。送風機80による送風の向きは上から下に向かう向きであり、送風機80によって下向きの強制対流が筒体40の内側に生じる。
この送風機80は制御盤90によって制御される。
【0023】
制御盤90は電源(例えば、太陽光発電セル、一次電池、二次電池、電源回路)及び制御回路などを有する。なお、電源が太陽光発電セルの場合、その太陽光発電セルが遮蔽箱1の外側に設置されている。
【0024】
制御盤90は間欠的に送風機80及び温湿度測定器60(特に計測回路65)を作動させる。具体的には、制御盤90は、所定期間(例えば、1時間)経過する毎に送風機80及び計測回路65を同時に作動させて、送風機80及び計測回路65の作動状態を所定時間(所定時間は前記所定期間よりも短く、例えば1分間である。)保持した後に送風機80及び計測回路65を停止させる。従って、温度センサ63及び湿度センサ64によって間欠的に湿度及び温度が測定されて、その測定タイミングに同期した強制対流が温度センサ63及び湿度センサ64の周囲に送風機80によって発生する。なお、送風機80及び計測回路65の各回の作動時間は、送風機80及び計測回路65の各回の停止時間よりも短い。
【0025】
制御盤90は、半導体メモリ等の記録媒体を有して、データロガーとしての機能を有していてもよい。具体的には、制御盤90は、計測回路65から入力した測定温度及び測定湿度を測定時刻(計測回路65の作動時刻)に対応付けて、記録媒体に記録する。
【0026】
2. 観測装置の使用方法及び作用効果
遮蔽箱1及び筒体40の中心軸が鉛直になるように、観測装置10を屋外等の測定場所に設置する。1つの遮蔽箱1に温湿度測定器60及び捕集ガーゼ50が収容されていて、観測装置10が小型化且つ軽量であるので、観測装置10の設置作業が容易であるとともに、観測装置10の設置場所の省スペース化も図れる。
晴天時には日光がルーバー2によって遮蔽され、降雨時には雨水がルーバー2によって遮られる。
観測装置10の設置後、制御盤90をオン状態にする。そうすると、送風機80及び計測回路65が制御盤90によって間欠的に作動される。
【0027】
ルーバー2の隣り合う鎧板の間には隙間が存在するので、風がそれら隙間を通って遮蔽箱1の外側から内側を経由して外側へ吹き抜ける。ここで、遮蔽箱1の四つの側面にルーバー2が設けられているので、風向きにかかわらず風が遮蔽箱1を吹き抜ける。そして、捕集ガーゼ50が遮蔽箱1の中央において筒体40によって円筒状に立てられた状態で保持されているので、遮蔽箱1に飛来してきた塩分が飛来の向きにかかわらず捕集ガーゼ50に付着する。捕集ガーゼ50に付着する塩分の量は、遮蔽箱1を吹き抜ける風の風速や気中塩分密度に応じたものとなる。
【0028】
この捕集ガーゼ50の内側にフィルタ70が配置されているので、送風機80の停止中には、捕集ガーゼ50の内側では気中塩分密度が低くなり、フィルタ70には塩分が殆ど付着しない。一方、送風機80の作動中には、送風機80によって空気が筒体40の上側から筒体40の内側へ流入して、温度センサ63及び湿度センサ64に吹き付けられる。それゆえ、捕集ガーゼ50に付着した塩分の影響を受けずに、大気中の温度及び湿度が温度センサ63及び湿度センサ64によって正確に測定される。また、送風機80の停止中に塩分がフィルタ70に殆ど付着しないので、送風機80の作動中に流れる空気がフィルタ70を通過する際にその空気の気中塩分密度が変化しない。よって、温度及び湿度が温度センサ63及び湿度センサ64によって正確に測定される。
【0029】
送風機80によって筒体40の内側に流れる空気は、筒体40のうち捕集ガーゼ50とホルダ30との間の部分を内側から外側へ通過する。よって、捕集ガーゼ50に付着した塩分が送風機80の強制対流によって捕集ガーゼ50から離脱するのを防止できる。
【0030】
3. 変形例
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。以上の実施形態からの変更点について以下に説明する。以下に述べる変更点は可能な限り組み合わせて適用してもよい。
【0031】
(1) 上記実施形態では、筒体40が円筒状に形成されていたが、筒体40が角筒状等の他の筒形状に形成されていてもよい。
【0032】
(2) 観測機器本体20を上下反転させるようにして、遮蔽箱1内に設置してもよい。
【0033】
(3) 通気孔がホルダ30を上下に貫通するように形成されていてもよい。この場合、送風機80によって生じた風が通気孔によってホルダ30を上から下に向かって吹き抜ける。
【0034】
(4) 制御盤90が遮蔽箱1の以外の防雨遮蔽箱内に設置され、その制御盤90から計測回路65及び送風機80まで配線が配索されていてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…遮蔽箱, 10…観測装置, 40…筒体, 50…捕集ガーゼ(捕集材), 63…温度センサ, 64…湿度センサ, 65…計測回路, 70…フィルタ, 80…送風機, 90…制御盤(制御部)