(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1接続部が、前記第1捩り板の前記変形軸線と同軸の変形軸線に沿って当該変形軸線まわりに捩れた第2捩り板によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の接合金物。
【背景技術】
【0002】
柱や梁等で形成される四辺形の構面に対して強度や剛性を高めるために対角上に設置されるブレース材や、隅部を挟んで斜めに設置される隅部補強材等の補強用斜め材の一例として特許文献1に記載のものが知られている。
この補強用斜め材は、柱や梁等で形成される四辺形の構面に対して斜めに設置されるものであって、細長い平板を螺旋状に捩って形成した捩り板から構成されている。
このような補強用斜め材では、捩り板の捩りピッチを変えて剛性を調整することにより、適用場所に適応した補強用斜め材の提供が可能になる。
【0003】
また、土台や梁等の横材に柱を据え付けるために用いる連結金具の一例として特許文献2に記載のものが知られている。
この連結金具は、横材に形成された軸孔に埋め込まれる根元部と、柱の端面から軸線方向に形成されたスリットに差し込まれかつ柱の側面から打ち込まれるドリフトピンを挿通させるためのピン孔を有する差込板とからなり、前記差込板は、前記ピン孔から前記根元部までの範囲で、内部を切り抜いた窓を有している。
このような連結金具を用いた建物が地震に遭遇して、横材と柱を引き離す方向に荷重が作用した際は、窓の角部等に応力が集中して、早い段階で塑性変形が引き起こされ、効率よくエネルギを吸収でき、円滑に制震性を発揮することができる。
【0004】
また、各種木造構造において、土台と柱や柱と横架材等、部材同士を連結するためのホゾパイプの一例として特許文献3に記載のものが知られている。
このホゾパイプは、中空の棒状でかつ一方材と他方材との境界を貫くように埋め込まれ、側周面には、一方材から打ち込まれるドリフトピンやボルト等を挿通するための第一ピン孔と、他方材から打ち込まれるドリフトピンやボルト等を挿通するための第二ピン孔と、を備え、前記第一ピン孔と前記第二ピン孔との間には、全周を半径方向に湾曲させた拡張部を設けている。
このようなホゾパイプでは、引張荷重が作用した際、拡張部の周辺で応力が局地的に増大して、弾塑性変形を引き起こしやすくなる。そのため地震等で二部材を引き離す方向に過大な荷重が作用した際、衝撃が緩和され、建物等に及ぶ被害を軽減できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、直交集成板や集成材等からなる木材パネルによる壁等の内部が中実な壁では、壁自体にほとんど変形性能を期待できず、壁を床や基礎等の下構造物や床や梁等の上構造物に接合(締結)する接合金物によって変形性能を確保する必要がある。直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)の木材パネルを用いた従来の壁の接合構造では、コの字に折り曲げた接合金物を壁と上下の構造物とに接合する、つまり、接合金物の対向する一対の片部で壁の上部および下部をそれぞれ挟み込んだうえで、当該片部から壁に釘を打ち込んで釘接合するとともに、接合金物の一対の片部を連結する連結片部を上下の構造物にそれぞれ当接したうえ、連結片部を当該構造物にボルトによって接合するものが一般的である。
【0007】
壁に水平方向に地震力が作用すると、壁の剛体回転(ロッキング)が生じようとして接合金物に力が作用するため、壁に繰返し地震力が作用すると、接合金物と壁とをつなぐ釘接合部の破壊に起因して、壁の接合構造全体としてスリップ性状を示し、十分なエネルギ吸収性能を確保できないという課題がある。
また、壁の表裏面から接合金物の一対の片部やこの片部から打ち込んだ釘の釘頭が突出するため、壁の仕上げ手間が大きくなる課題もある。
一方、上述した特許文献1に記載の補強用斜め材は、壁と上下の構造物を接合するものではなく、特許文献2および3に記載の連結金具およびホゾパイプは壁に設けるものではなく、柱に設けるものであるので、耐荷性能が不足する課題があるために壁の接合構造には直接適用することはできない。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、繰返し地震力に対してスリップ性状を抑制した安定したエネルギ吸収性能を発揮でるとともに、壁の仕上げ手間がかからない接合金物およびこの接合金物を使用した壁の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の接合金物は、壁の上方に位置する上構造物および/または前記壁の下方に位置する下構造物に前記壁を接合する接合金物であって、
前記壁の上端部および/または下端部に接続される第1接続部と、塑性変形によりエネルギを吸収可能な変形部と、前記上構造物および/または下構造物に接続される第2接続部とを備え、
前記変形部が変形軸線に沿って当該変形軸線まわりに捩れた第1捩り板によって構成され、
前記変形部の前記変形軸線に沿う一端部に前記第1接続部が設けられ、他端部に前記第2接続部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の壁の接合構造は、壁の上方に位置する上構造物および/または前記壁の下方に位置する下構造物に、壁を前記接合金物によって接合した壁の接合構造であって、
前記壁の上端面および/または前記壁の下端面の両端部に上下方向に延在する孔が設けられ、
前記各孔に前記接合金物の前記変形部が挿入され、前記壁の内部に前記第1接続部が前記各孔の底面から挿入されて接続され、前記上構造物および/または前記下構造物に前記第2接続部が接続されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、壁としては、例えば直交集成板や集成材等の木材パネルからなり、内部が中実な壁が挙げられるが、壁はこれに限ることはない。例えば、鉄筋コンクリート製の壁パネルであってもよいし、矩形枠状の枠体の表裏両面に合板等の補強板を固定した木質の壁パネルであってもよい。枠体に補強板を固定した木質の壁パネルの場合、孔は枠体のたて枠材に設け、第1接続部はこの孔の底面からたて枠材に接続すればよい。また、壁は、耐力壁や制震壁として適用されるもので、支持壁の機能を併用させてもよい。
【0012】
本発明において、壁の剛体回転(ロッキング)による浮上りが生じると、つまり、ロッキングにより壁の四隅部のうち、上端部側の一方の隅部と、下端部側の他方の隅部とに浮き上がり(壁の上端部側の一方の隅部は上構造物に対して下方に離間するが、これも浮き上がりとする)が生じると、接合金物の第2接続部は上構造物および下構造物に接続され第1接続部は壁に接続されているので、前記両隅部側に設けられている接合金物の変形部である第1捩り板が引っ張られて変形軸線の方向に伸長して塑性変形し、剛性と耐力を確保しつつ、安定したエネルギ吸収性能を発揮できる。一方、浮き上がりが生じていない壁の上端部側の他方の隅部と、下端部側の一方の隅部はそれぞれ上構造物と下構造物とに当接して支圧抵抗を受けることで、当該両隅部に設けられている接合金物には圧縮力がほとんど作用しない。このため、壁の剛体回転が繰り返し行われても、接合金物の変形部12は、変形前の状態と伸びた状態との間で変形を繰り返すことになり、接合金物の変形部の拡幅(変形軸線と交差する方向への膨らみ)を防いで、当該変形部の前記孔の内周面への干渉を回避しながら変形部の座屈を防ぐことができる。このような機構により、本発明の接合金物を用いた接合構造を適用した壁は、スリップ性状を抑えた安定した履歴特性によるエネルギ吸収性能を確保することができる。
【0013】
また、壁の上端面および/または下端面の両端部に上下方向に延在して設けられた各孔に接合金物の変形部が挿入され、壁の内部に第1接続部が前記各孔の底面から挿入されて接続されているので、接合金物の変形部および第1接続部は壁の壁面から突出することがなく、壁の内部に内蔵されることになるので、壁の仕上げ手間を低減することができる。
【0014】
本発明の前記構成において、前記第1接続部がねじ状部材によって構成されていてもよい。この場合、壁の上端面および壁の下端面の両端部に設けられた各孔の底面に下穴を設けておくのが好ましい。また、ねじ状部材は、ラグスクリューが好適に使用されるが、これに限ることはなく、木ねじ等であってもよい。
【0015】
このような構成によれば、第1接続部であるねじ状部材を各孔の底面から壁の内部にねじ込むことによって、接合金物を壁に容易かつ確実に固定できる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記第1接続部が、前記第1捩り板の前記変形軸線と同軸の変形軸線に沿って当該変形軸線まわりに捩れた第2捩り板によって構成されていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、第1接続部が第1捩り板の変形軸線と同軸の変形軸線まわりに捩れた第2捩り板によって構成されているので、第2捩り板を第1捩り板と連続して形成することができる。したがって、接合金物の製作が容易となるとともに性能が安定し、さらに、第1接続部の剛性および耐力を容易に確保できる。
【0018】
また、本発明の前記構成において、前記第2捩り板の単位長さ当りの捩り角度と、前記第1捩り板の単位長さ当りの捩り角度とが異なっていてもよい。
【0019】
ここで、捩り板の捩り角度とは、捩り板をその変形軸線まわりに捩った場合の角度のことであり、例えば、捩る前の平板をその変形軸線まわりに1回捩ったときの捩り角度は360°となる。
【0020】
このような構成によれば、第1捩り板と第2捩り板との単位長さ当たりの捩り角度が異なるので、これら捩り角度を適宜調整することによって、第1捩り板に要するエネルギ吸収能、剛性および耐力を調整できるとともに、第2捩り板(第1接続部)に要する剛性、耐力および壁への接続抵抗を調整できる。
【0021】
また、本発明の前記構成において、前記変形部が、前記変形軸線まわりに一方側へ捩れている第1変形部と、この第1変形部と前記変形軸線の軸方向に繋がれ、前記変形軸線まわりに他方側へ捩れている第2変形部とを備えていてもよい。
【0022】
このような構成によれば、第1変形部が捩れている方向と第2変形部が捩れている方向とが反対方向とされている。このため、第1変形部と第2変形部との間の部位が変形軸線のまわりに回転しながら、第1変形部及び第2変形部が変形される。これにより、エネルギ吸収荷重(第1接続部と第2接続部との相対位置の変化を妨げる方向に作用する荷重)を安定させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、繰返し地震力に対してスリップ性状を抑えた安定した履歴特性によるエネルギ吸収性能を発揮できるとともに、壁の仕上げ手間を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は第1の実施の形態に係る壁の接合構造を透視して示す正面図、
図2は同側面図である。なお、
図1および
図2では、壁1の内部に設ける接合金物10を実線で示している。
【0026】
図1および
図2に示すように、壁1は直交集成板や集成材等の木材パネルからなり、内部が中実な壁となっている。この壁1の上方には上構造物2が設けられ、下方には下構造物3が設けられている。上構造物2は例えば床や梁であり、下構造物3は例えば基礎、床または梁である。
壁1の四隅部、つまり壁1の上端面の両端部および壁1の下端面の両端部にはそれぞれ接合金物10が設けられている。
接合金物10は、壁1を上構造物2と下構造物3とにそれぞれ接合するためのもので、第1接続部11と、変形部12と、第2接続部13とを備えている。
【0027】
第1接続部11はねじ状部材によって構成されている。具体的には第1接続部11はラグスクリューによって構成されている。
変形部12は、変形軸線L1に沿って当該変形軸線L1まわりに螺旋状に捩れた第1捩り板12によって構成されている。この第1捩り板12は、その長手方向(変形軸線L1の方向)に作用する荷重に対して少なくともその一部が塑性変形することで、エネルギを吸収することが可能とされている。この第1捩り板12は、板状に形成された鋼板材に捩り加工等が施されることにより捩られることで形成されている。
【0028】
第2接続部13は、立方体箱状または直方体箱状に形成されており、正面側にレンチ等の工具を挿入可能は開口部が形成され、この開口部を挟んで上下に対向している一方の壁部にはアンカーボルトを用いたアンカー14を挿通するための貫通孔が形成されている。この貫通孔にはアンカー14の一端部が挿通され、当該一端部に第2接続部13の内部でナット14aが螺合されるようになっている。
【0029】
そして、変形部(第1捩り板)12の変形軸線L1に沿う一端部に第1接続部11が変形軸線L1と同軸に溶接等によって固定されている。また、変形部(第1捩り板)12の変形軸線L1に沿う他端部に第2接続部13が溶接等によって固定されている。
【0030】
このような接合金物10を使用した壁1の接合構造は以下のように構成されている。
すなわち、壁1の上端面の両端部および壁1の下端面の両端部には、正面視矩形の切欠部15が設けられている。つまり、壁1の四隅部にそれぞれ切欠部15が合計4個設けられている。この切欠部15は壁1の表裏面側と側端面側に開口しており、当該切欠部15の左右の幅W1は第2接続部13の左右の幅W2以上となっている。また、切欠部15の深さH1は第2接続部13の上下の高さH2以上となっている。さらに、切欠部15の壁1の厚さ方向における幅T1は第2接続部13の壁1の厚さ方向における幅T2以上となっている。
【0031】
切欠部15によって形成される壁1の上端部および下端部の面を切欠部15の底面Cと呼ぶ。切欠部15の底面Cには、壁1の上下方向に延在する孔16が設けられている。この孔16は断面円形状に形成され、その内径は接合金物10の変形部(第1捩り板)12の最大直径より僅かに大きくなっており、孔16の深さH3(壁1の上下方向の長さ)は変形部(第1捩り板)12の変形軸線方向の長さとほぼ等しくなっている。
孔16は、変形部(第1捩り板)12の座屈拘束部となるものであり、当該孔16に変形部(第1捩り板)12がその外周縁を孔16の内周面に対向させ、かつ当該内周面と所定の隙間をもって、挿入されることによって、圧縮軸力に対する変形部(第1捩り板)12の座屈を防ぐようになっている。
また、孔16の底面Uには第1接続部(ラグスクリュー)11をねじ込むための下穴Pが孔16と同軸に設けられている。
【0032】
そして、各孔16にそれぞれ接合金物10の変形部(第1捩り板)12が挿入され、孔16の底面Uに設けられた下穴Pに第1接続部(ラグスクリュー)11がねじ込まれている。また、接合金物10の第2接続部13は切欠部15に配置されており、壁1の上端面の両端部側に設けられている第2接続部13は上構造物2に当接され、壁1の下端面の両端部側に設けられている第2接続部13は下構造物3に当接されている。
また、壁1の上端面の両端部側に設けられている第2接続部13はアンカー14によって上構造物2に固定され、壁1の下端面の両端部側に設けられている第2接続部13はアンカー14によって下構造物3に固定されている。
さらに、壁1の上端面と上構造物2の下面とには複数のシアキー18が差し込まれ、壁1の下端面と下構造物3の上面とには複数のシアキー18が差し込まれている。シアキー18は壁1の幅方向に所定間隔で複数配置され、壁1と上下の構造物2,3との間でせん断力を伝達するようになっている。
【0033】
次に、壁1を上構造物2および下構造物3に接合する方法について説明する。
まず、
図3に示すように、壁1の四隅部にそれぞれ接合金物10を設ける。この場合、壁1の四隅部にそれぞれ設けられた切欠部15から孔16に第1接続部11および変形部(第1捩り板)12を挿入し、さらに第1接続部11を孔16の底面Uに設けられている下穴Pにねじ込むことで、接合金物10を壁1に固定する。この状態において、変形部(第1捩り板)12は孔16にその内周面との間に所定の隙間をもって挿入され、第2接続部13は切欠部15に設けられるとともに、壁1の上端面の両端部側の第2接続部13の上面は壁1の上端面と面一になり、壁1の下端面の両端部側の第2接続部13の下面は壁1の下端面と面一になっている。
また、壁1の上端面および下端面にそれぞれ複数のシアキー18の一端部を差し込んでおくとともに、下構造物3にアンカー14を、その上端部を下構造物3の上面から突出させた状態で挿入固定しておく。
【0034】
次に、
図4に示すように、壁1をクレーンによって吊り下げて、下構造物3の上面に設置する。この場合、下構造物13の上面から突出しているアンカー14の上端部が第2接続部13の内部に挿入されるとともに、シアキー18の他端部(下端部)が下構造物3の上面に形成されている溝部Sに挿入されるようにして、壁1を下構造物3の上面に設置する。次に、第2接続部13の開口部からナット14aを第2接続部13の内部に挿入しアンカー14の上端部に螺合してレンチ等の工具によって当該ナット14aを締め付けることによって、第2接続部13を下構造物3に接続する。これによって、壁1を下構造物3に接合固定する。
【0035】
次に、
図5に示すように、上構造物2をクレーンによって吊り下げて、壁1の上端面に設置する。この場合、シアキー18の他端部(上端部)が上構造物2の下面に形成されている溝部Sに挿入されるようにして、上構造物2を壁1の上端面に設置する。次に、上構造物2の上面からアンカー14を当該上構造物2に設けられている貫通孔に挿通し、当該アンカー14の下端部を第2接続部13の内部に挿入したうえで、第2接続部13の開口部からナット14aを第2接続部13の内部に挿入しアンカー14の下端部に螺合してレンチ等の工具によって当該ナット14aを締め付けることによって、上構造物2を壁1の上端面に接合固定する。これによって、壁1を上構造物2に接合固定する。
なお、上構造物2の上方に上階を設けない場合、上構造物2の上面から突出しているアンカー14の上端部にナット14aを座金14bを挟んで螺合して締め付ける。一方、上構造物2の上方に上階を設ける場合、
図1に示すように、上構造物2に上階の壁1を設置し、アンカー4に固定する。この場合、上構造物2を下構造物として、上述した場合と同様にして、上階の壁1を当該下構造物に接合固定する。
【0036】
このようにして施工された壁1の接合構造では、
図6に示すように、壁1に水平方向に地震力Fが作用して、壁1の剛体回転(ロッキング)による浮上りが生じると、つまり、壁1の四隅部のうち、上端部側の一方(右方)の隅部と、下端部側の他方(左方)の隅部とに浮き上がり(壁1の上端部側の一方の隅部は上構造物2に対して下方に離間するが、これも浮き上がりとする)が生じると、壁1の上端部側の右方の接合金物10の第2接続部13は上構造物2に接続され、第1接続部11は壁1に接続され、壁1の下端部側の左方の接合金物10の第2接続部13は下構造物3に接続され、第1接続部11は壁1に接続されているので、これら接合金物10,10の変形部12である第1捩り板12が引っ張られて変形軸線の方向に伸長して塑性変形し、剛性と耐力を確保しつつ、安定したエネルギ吸収性能を発揮できる。
一方、ロッキングが生じていない壁1の上端部側の他方(左方)の隅部と、下端部側の一方(右方)の隅部はそれぞれ上構造物2と下構造物3とに当接して支圧抵抗Rを受けることで、当該両隅部に設けられている接合金物10,10には圧縮力がほとんど作用しない。このため、壁1の剛体回転が繰り返し行われても、接合金物10の変形部12は、変形前の状態と伸びた状態との間で変形を繰り返すだけであるので、接合金物10,10の変形部12の拡幅(変形軸線と交差する方向への膨らみ)を防いで、当該変形部12の孔16の内周面への干渉を回避しながら、変形部12の座屈を防ぐことができる。このような機構により、地震力Fに対して、壁1はスリップ性状を抑えた安定した履歴特性によるエネルギ吸収性能を確保することができる。
【0037】
また、壁1の上端面の両端部および壁1の下端面の両端部にそれぞれ上下方向に延在して設けられた各孔16に接合金物10の変形部12がそれぞれ挿入され、壁1の内部に第1接続部11が各孔16の底面Uからそれぞれ挿入されて接続されているので、接合金物10の変形部12および第1接続部11は壁1の壁面から突出することがなく、壁1の内部に内蔵されることになる。したがって、壁1の仕上げ手間を低減することができる。
さらに、第1接続部11がラグスクリューで構成されているので、このラグスクリューを各孔16の底面Uから壁1の内部にねじ込むことによって、接合金物10を壁1に容易かつ確実に固定できる。
【0038】
(第2の実施の形態)
図7は第2の実施の形態に係る壁の接合構造を透視して示す正面図である。なお、
図7でも、壁の内部に設ける接合金物を実線で示している。
本実施の形態に係る接合金物および壁の接合構造が第1の実施の形態と異なる点は接合金物20の変形部の構成であるので、以下ではこの相違点について説明し、第1の実施の形態と同一構成については同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0039】
本実施の形態では、変形部22は第1の実施の形態における変形部12より変形軸線方向の長さが長くなっており、変形軸線まわりに一方側へ捩れている第1変形部22aと、この第1変形部22aと変形軸線の軸方向に繋がれ、変形軸線まわりに他方側へ捩れている第2変形部22bとから構成されている。
すなわち、変形部22は、当該変形部22を変形軸線の方向に二等分する二等分線L2を挟んで対称に形成されている。この変形部22の長手方向の一端部は第1接続部11に固定され、他端部は第2接続部13に固定されている。
また、変形部22において、第1接続部11と二等分線L2との間の部分(第2変形部22b)は、第1接続部11側から見て反時計回り方向に螺旋状に捩れており、第2接続部13と二等分線L2との間の部分(第1変形部22a)は、第2接続部13側から見て時計回り方向に螺旋状に捩れている。つまり、第2変形部22bと第1変形部22aとは反対方向に捩れている。
また、孔16の軸方向の長さも変形部22の全体を挿入できるように、第1の実施の形態における孔16より長くなっている。
【0040】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる他、次のような効果を得ることができる。すなわち、変形部22の第1変形部22aが捩れている方向と第2変形部22bが捩れている方向とが反対方向とされているため、第1変形部22aと第2変形部22bとの間の部位(二等分線L2近傍の部位)が変形軸線のまわりに回転しながら、第1変形部22aおよび第2変形部22bが変形される。
これにより、第1変形部22aおよび第2変形部22bが変形される際における当該第1変形部22aおよび第2変形部22bの局所的な応力の高まりが、第1の実施の形態における変形部12のように同じ方向へ捩れている場合に比べて抑制される。その結果、第1変形部22aおよび第2変形部22bが繰り返し変形される際の局所的な応力の進展による局所的な塑性化や疲労による破壊を抑制して、エネルギ吸収荷重(第1接続部11と第2接続部13との相対位置の変化を妨げる方向に作用する荷重)を安定させることができる。
【0041】
(第3の実施の形態)
図8は第3の実施の形態に係る壁の接合構造を透視して示す正面図である。なお、
図8でも、壁の内部に設ける接合金物を実線で示している。
本実施の形態に係る接合金物および壁の接合構造が第1の実施の形態と異なる点は接合金物30の第1接続部21の構成であるので、以下ではこの相違点について説明し、第1の実施の形態と同一構成については同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0042】
本実施の形態では、第1接続部21は第1捩り板(変形部)12の変形軸線と同軸の変形軸線に沿って当該変形軸線まわりに第1捩り板(変形部)12と同方向に螺旋状に捩れた第2捩り板21によって構成されているとともに、第2捩り板21の最大直径D2は第1捩り板12の最大直径D1と概ね等しくなっている。
また、第2捩り板21の単位長さL当りの捩り角度θと、第1捩り板12の単位長さL当りの捩り角度θとが異なっており、第2捩り板21の方が第1捩り板12より単位長さ当りの捩り角度θが大きくなっている。なお、単位長さLは適宜設定すればよく、ここでは第1捩り板12および第2捩り板21の最大直径D(D1、D2)に対してL=3.0Dとしている。具体的には、第1捩り板12の単位長さL当りの捩り角度θは360°となっており、第1捩り板12は全長1.5Lにおいて540°捩れている。また、単位長さL当りの第2捩り板21の捩り角度は720°となっており、第2捩り板21は全長1.0Lにおいて720°捩れている。
孔16の底面Uには第2捩り板21の形状に合わせた螺旋状の下穴P2を形成しており、この下穴P2に第2捩り板(第1接続部)21をねじ込むことによって、接合金物30は壁1に接続されている。
【0043】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる他、次のような効果を得ることができる。
すなわち、第2捩り板(第1接続部)21の方が第1捩り板12より単位長さL当りの捩り角度θが大きくなっているので、つまり、第2捩り板(第1接続部)21の単位長さL当りの捩り量が第1捩り板12により多くなっているので、第2捩り板(第1接続部)21が壁1の内部にねじ込まれて螺合した場合の引抜き抵抗を高めることができる。したがって、第2捩り板21を第1捩り板12と捩り角度θを等しくした場合に比して、第2捩り板(第1接続部)21の軸方向における長さを小さくすることができる。
【0044】
なお、本実施の形態において、第1捩り板(変形部)12を、第2の実施の形態における第1捩り板(変形部)22に変更してもよい。
【0045】
図9(a),(b)は第3の実施の形態における接合金物30の変形例を示す正面図である。
図9(a)に示す接合金物30では、第2捩り板(第1接続部)21aと第1捩り板(変形部)12の単位長さ当りの捩り角度θおよび変形軸線方向の長さが等しくなっている。
このような構成によれば、第2捩り板(第1接続部)21aおよび第1捩り板(変形部)12を同様に形成できるので、接合金物10の製造が第3の実施の形態に比して容易となる。
【0046】
図9(b)に示す接合金物30では、第2捩り板(第1接続部)21aの方が第1捩り板(変形部)12aより単位長さ当りの捩り角度θが小さくなっている。また、第1捩り板(変形部)12aは第3の実施の形態における第1捩り板(変形部)12より単位長さ当りの捩り角度が大きくなっている。
このような構成によれば、第1捩り板(変形部)12aの単位当たりの捩り角度θが大きくなっている、つまり捩り量が多くなっているので、第1捩り板(変形部)12aが塑性変形してエネルギを吸収する際の耐力上昇を抑制できる。
【0047】
このように、第1捩り板12,12aの単位長さ当りの捩り角度と第2捩り板21,21aの捩り角度を一致させたり、また、適宜異ならせることによって、第1捩り板12,12aに要するエネルギ吸収能、剛性および耐力を調整できるとともに、第2捩り板(第1接続部)21,21aに要する剛性、耐力および壁1への接続抵抗を調整できる。
【0048】
次に、有限要素法によって、変形部(第1捩り板)の変形性状(変形部の軸方向の変形)、剛性、耐力、エネルギ吸収性能を解析した結果を説明する。
図10は解析モデルを示す。この解析モデルでは、変形部(第1捩り板)の寸法を、幅B、単位長さL、板厚t、単位長さLあたりの捩り角度θ、で表す。解析条件は以下の通りである。
(1)支持点側の端面は支持点(軸回りの回転拘束)に剛梁で結合し、載荷点側の端面は載荷点(軸回りの回転拘束)に剛梁で結合する。
(2)幅B=60mm、単位長さL=180mm、板厚t=6.0mmの第1捩り板を対象とする。
(3)第1捩り板の材料として鋼板を適用し、物性はヤング係数205Gpa、ポアソン比0.3、降伏点200Mpa、降伏後の加工硬化特定はマルチリニアの曲線で付与する。
(4)第1捩り板の単位長さ当たり捩り角度θ(単位長さLに対する捩り角度)を360°、540°として、形状の影響を確認する。
【0049】
解析結果を
図11に示す。
図11に示すグラフでは、横軸は変形部(第1捩り板)の単位長さLに対する変形量δの比率(δ/L)であり、縦軸は鋼板の引張降伏耐力(Ny:断面積に降伏応力を乗じた値)に対する変形部が軸方向に受ける荷重(エネルギ吸収荷重)Pの比率(P/Ny)である。
図11に示すグラフから明らかなように、第1捩り板(変形部)の単位長さ当たりの捩り角度θが小さいほど、同じ変形量δ(比率δ/L)における変形部の変形抵抗に相当する荷重P(比率P/Ny)が大きくなる。
したがって、捩り角度を適宜調整することによって、変形部(第1捩り板)に要するエネルギ吸収能、剛性および耐力を調整できる。
【0050】
(第4の実施の形態)
図12は第4の実施の形態に係る壁の接合構造を透視して示す正面図、
図13は同側面図である。なお、
図12および
図13でも、壁の内部に設ける接合金物を実線で示している。
本実施の形態に係る接合金物および壁の接合構造が第1の実施の形態と異なる点は接合金物40の第1接続部41の構成であるので、以下ではこの相違点について説明し、第1の実施の形態と同一構成については同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0051】
本実施の形態では第1接続部41は、縦長の矩形板状の板状部材41aと、複数本のドリフトピン等のピン41bとを備えている。
板状部材41aの幅D3は、変形部(第1捩り板)12の最大直径D4と概ね等しくなっている。また、孔16の底面Uには板状部材41aを挿入するための溝P3が形成され、この溝P3に板状部材41aが挿入されている。また、板状部材41aにはピン41bを挿入するためのピン孔が上下に所定間隔で複数設けられている。
また、壁1の前記溝P3と対向する表面には当該表面から裏面に貫通する貫通孔が設けられている。貫通孔は上下に所定間隔で複数設けられるとともに、板状部材41aに設けられたピン孔と同軸に配置されている。
そして、壁1の表面側からピン41bを貫通孔およびピン孔に挿通して固定することによって、第1接続部41が壁1に接続されている。
【0052】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる他、次のような効果を得ることができる。
すなわち、第1の実施の形態では第1接続部11がラグスクリューで構成されているので、第1接続部11を壁1に接続する場合は、接合金物10を軸回りに回転させながら孔16の底面Uに設けられた下穴にねじ込む必要があるため、第2接続部13の軸回り方向の位置を考慮して、第1接続部11をねじ込む必要があるが、本実施の形態では、第1接続部41が板状部材41aと、これを壁1に固定するピン41bとを備えているので、第1接続部41を壁1に接続する場合に、接合金物40を回転させることなく、板状部材41aを孔16の底面Uに設けられた溝P3に挿入して、ピン42bを挿通すればよい。このため、第2接続部13の軸回り回転方向の位置決めが容易であるという利点がある。