(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2004−198246号公報に記載の方法を実施するためには、転がり軸受を使用箇所から取り外して分解した後、軌道面に渦電流センサを近づける必要がある。すなわち、この方法を実施するためには、転がり軸受を使用箇所から取り外したり、分解したりするなどの、多くの手間がかかる。
【0007】
一方、特開2004−308878号公報に記載の方法によれば、転がり軸受を使用箇所から取り外すことなく、転がり軸受の転動面などに初期破損が発生したことを検知することができる。しかしながら、この方法で検知できるのは、あくまでも初期破損であり、破損が生じる前にその予兆を検知することはできない。
【0008】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、静止側軌道の破損の予兆の検知を容易化できる構造および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の回転体支持装置は、静止輪と、回転輪と、複数個の転動体とを備える。
前記静止輪は、径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する。
前記回転輪は、周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する。
前記複数個の転動体は、前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置されている。
【0010】
特に、本発明の回転体支持装置は、使用状態におけるラジアル荷重の負荷圏の円周方向中央部(ラジアル荷重が最も大きくなる円周方向位置)での前記静止輪の磁化に応じた所定の物理量を測定するための第一センサと、使用状態におけるラジアル荷重の非負荷圏の円周方向中央部(負荷圏の円周方向中央部に対して径方向反対側となる位置)での前記静止輪の磁化に応じた所定の物理量を測定するための第二センサとを、さらに備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の回転体支持装置では、前記第一センサおよび前記第二センサは、前記静止輪に保持されている構成を採用することができる。
また、前記静止輪の反軌道側周面に嵌合する嵌合側周面を有する静止輪支持体をさらに備え、前記第一センサおよび前記第二センサは、前記静止輪支持体に保持されている構成を採用することができる。
【0012】
本発明の回転体支持装置の診断システムは、本発明の回転体支持装置と、診断ユニットとを備えている。
前記診断ユニットは、前記第一センサを用いて、使用状態におけるラジアル荷重の負荷圏の円周方向中央部での前記静止輪の磁化に応じた所定の物理量を測定することにより、該測定の結果である第一測定値を取得し、かつ、前記第二センサを用いて、使用状態におけるラジアル荷重の非負荷圏の円周方向中央部での前記静止輪の磁化に応じた所定の物理量を測定することにより、該測定の結果である第二測定値を取得した場合に、前記第一測定値と前記第二測定値との双方を利用して、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する機能を有する。
【0013】
さらに、本発明の回転体支持装置の診断方法は、径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する静止輪と、周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する回転輪と、前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える、回転体支持装置に適用される。特に、本発明の回転体支持装置の診断方法は、第一センサを用いて、使用状態におけるラジアル荷重の負荷圏の円周方向中央部での前記静止輪の磁化に応じた所定の物理量を測定することにより、該測定の結果である第一測定値を取得し、かつ、第二センサを用いて、使用状態におけるラジアル荷重の非負荷圏の円周方向中央部での前記静止輪の磁化に応じた所定の物理量を測定することにより、該測定の結果である第二測定値を取得した後、前記第一測定値と前記第二測定値との双方を利用して、診断ユニットにより、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する。
【0014】
本発明を実施する場合には、前記診断ユニットに対して、たとえば、前記第一測定値と前記第二測定値との差を求め、該差が閾値よりも大きい場合に、前記静止側軌道の破損の予兆ありと判定する機能を持たせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転体支持装置を使用箇所に組み付けたままの状態で、静止側軌道の破損の予兆を検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1〜
図4を用いて説明する。
本例の回転体支持装置の診断システムは、回転体支持装置である車輪支持装置1と、診断ユニット38とを備える。
【0018】
車輪支持装置1は、トラック、バスなどの大型車両の従動輪用で、かつ、いわゆる外輪回転型である。車輪支持装置1は、
図1〜
図3に示すように、車軸2と、ハブ3と、1対の円すいころ軸受4a、4bと、第一センサである第一磁気センサ13a、13bと、第二センサである第二磁気センサ14a、14bとを備える。
【0019】
静止輪支持体である車軸2は、懸架装置を構成するもので、筒状に構成されている。車軸2は、嵌合側周面である外周面の軸方向に離隔した2箇所位置に、互いに同軸に配置された円筒状の嵌合面部5a、5bを有する。軸方向外側の嵌合面部5aは、軸方向内側の嵌合面部5bよりも、外径寸法が小さくなっている。また、車軸2は、軸方向内側の嵌合面部5bの軸方向内側に隣接する位置に、軸方向外側を向いた段差面6を有している。
【0020】
なお、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側を意味し、
図1の左側に相当する。一方、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向内側、すなわち幅方向中央側を意味し、
図1の右側に相当する。
【0021】
ハブ3は、筒状に構成されたもので、軸方向中間部の径方向外側部に、使用状態で回転体である車輪および制動用回転部材を固定するためのフランジ部7を有する。ハブ3は、軸方向両側部の内周面に、互いに同軸に配置された円筒状の嵌合面部8a、8bを有する。ハブ3は、軸方向外側の嵌合面部8aの軸方向内側に隣接する位置に軸方向外側を向いた段差面9aを有しており、軸方向内側の嵌合面部8bの軸方向外側に隣接する位置に軸方向内側を向いた段差面9bを有している。
【0022】
1対の円すいころ軸受4a、4bは、車軸2に対してハブ3を回転自在に支持するもので、車軸2の外周面とハブ3の内周面との間に、軸方向に離隔して、かつ、互いの接触角の方向が背面組合せとなるように配置されている。円すいころ軸受4a、4bは、使用状態で、下部側(地面側、鉛直方向下側)がラジアル荷重の負荷圏側となり、上部側がラジアル荷重の非負荷圏側となる。なお、以下、ラジアル荷重の負荷圏は、単に「負荷圏」と記することがあり、ラジアル荷重の非負荷圏は、単に「非負荷圏」と記することがある。
【0023】
なお、
図2は、
図1の軸方向外側の円すいころ軸受4aおよびその周辺部の拡大図である。なお、
図1の軸方向内側の円すいころ軸受4bおよびその周辺部は、軸方向外側の円すいころ軸受4aおよびその周辺部と実質的に対称に構成される。したがって、
図2および以下の説明において、軸方向内側の円すいころ軸受4bおよびその周辺部に対応する符号も、括弧書きで同時に付する。
【0024】
円すいころ軸受4a(4b)は、使用状態で回転しない静止輪である内輪10a(10b)と、使用状態で回転する回転輪である外輪11a(11b)と、それぞれが転動体である複数個の円すいころ12a(12b)とを備える。
【0025】
内輪10a(10b)は、軸受鋼製で、軌道側周面である外周面と、反軌道側周面である内周面とを有する。内輪10a(10b)は、軸方向中間部外周面に、静止側軌道である部分円すい面状の内輪軌道15a(15b)を有する。また、内輪10a(10b)は、軸方向に関して内輪軌道15a(15b)の大径側に隣接する位置に大鍔部16a(16b)を有し、軸方向に関して内輪軌道15a(15b)の小径側に隣接する位置に小鍔部17a(17b)を有する。さらに、内輪10a(10b)は、軸方向中間部内周面のうちで使用状態での上部側と下部側とのそれぞれに、径方向外側に凹んだ凹部18a(18b)を有する。本例では、凹部18a(18b)は、ラジアル荷重が最も大きくなる、内輪10a(10b)における下部側(負荷圏側)の下端部内周面と、ラジアル荷重が最も小さくなる、内輪10a(10b)における上部側(非負荷圏側)の上端部内周面とに設けられている。なお、
図1では凹部18a(18b)の図示は省略されている。
【0026】
内輪10a(10b)は、いわゆるズブ焼き入れにより熱処理されている。このため、内輪10a(10b)の材料は、大半がマルテンサイト化し、かつ、一般的には15容量%〜25容量%程度のオーステナイトが残留した、熱処理硬化組織になっている。また、内輪10a(10b)は、脱磁処理されている。
【0027】
外輪11a(11b)は、軸受鋼製で、内周面に、回転側軌道である部分円すい面状の外輪軌道19a(19b)を有する。なお、外輪11a(11b)も、内輪10a(10b)と同様に、ズブ焼き入れにより熱処理され、かつ、脱磁処理されている。
【0028】
複数個の円すいころ12a(12b)は、軸受鋼製またはセラミック製で、内輪軌道15a(15b)と外輪軌道19a(19b)との間に転動自在に配置されている。
【0029】
第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)は、検出部を有し、該検出部を通過する磁束の向きまたは大きさに応じた出力を発生するもので、たとえば、ホール素子、MR素子などを用いたガウスメータ(磁力計)である。第一磁気センサ13a(13b)は、内輪10a(10b)の軸方向中間部内周面のうちで使用状態における下端部に位置する凹部18a(18b)の内側に保持されており、第二磁気センサ14a(14b)は、内輪10a(10b)の軸方向中間部内周面のうちで使用状態における上端部に位置する凹部18a(18b)の内側に保持されている。
【0030】
したがって、第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)と内輪軌道15a(15b)とは、径方向に重畳している。換言すれば、第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)は、内輪軌道15a(15b)の軸方向中間部の径方向内側に位置している。また、第一磁気センサ13a(13b)は、内輪10a(10b)のうち、使用状態における負荷圏の円周方向中央部に配置されており、第二磁気センサ14a(14b)は、内輪10a(10b)のうち、使用状態における非負荷圏の円周方向中央部に配置されている。なお、本発明を実施する場合には、内輪の内周面に全周にわたる環状溝を設け、該環状溝の内側に第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)を保持することもできる。
【0031】
何れにしても、本例の車輪支持装置1では、負荷圏側での内輪10a(10b)の磁化に応じた所定の物理量である、負荷圏側での内輪10a(10b)の表面から出入りする磁束(外部磁束)を、第一磁気センサ13a(13b)により測定し、該測定の結果である第一測定値を取得できる。また、非負荷圏側での内輪10a(10b)の磁化に応じた所定の物理量である、非負荷圏側での内輪10a(10b)の表面から出入りする磁束を、第二磁気センサ14a(14b)により測定し、該測定の結果である第二測定値を取得できる。
【0032】
また、
図1に示すように、軸方向外側の円すいころ軸受4aは、内輪10aが車軸2の嵌合面部5aに外嵌されており、外輪11aがハブ3の嵌合面部8aに内嵌されている。この状態で、内輪10aの大径側側面である軸方向外側面は、車軸2の軸方向外端部に螺合されたナット20の軸方向内側面に当接しており、外輪11aの大径側側面である軸方向内側面は、ハブ3の段差面9aに当接している。一方、軸方向内側の円すいころ軸受4bは、内輪10bが車軸2の嵌合面部5bに外嵌されており、外輪11bがハブ3の嵌合面部8bに内嵌されている。この状態で、内輪10bの大径側側面である軸方向内側面は、車軸2の段差面6に当接しており、外輪11bの大径側側面である軸方向外側面は、ハブ3の段差面9bに当接している。
【0033】
さらに、この状態で、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間は、ゼロ、または、若干量の正もしくは負の値に設定されている。ここで、若干量の負の内部隙間とは、円すいころ軸受4a(4b)に車重によるラジアル荷重が負荷された時に、非負荷圏が現れる、すなわち負荷率が1未満の状態となるレベルの負の内部隙間である。
【0034】
診断ユニット38は、車体側に設置されており、かつ、図示しないハーネスを通じて、第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)に接続されている。第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)の出力信号は、前記ハーネスを通じて、診断ユニット38に送られるようになっている。
【0035】
さらに、診断ユニット38は、
図4に示すような、データ入力手段40と、データ処理手段41と、予兆判定手段42と、データ記憶手段43と、結果出力手段44とを備えている。これらの機能については、後述する。
【0036】
以下、本例の車輪支持装置1を用いた例における、本発明の回転体支持装置の診断方法について具体的に説明する。
本例の車輪支持装置1では、内輪10a(10b)が脱磁処理されているため、未使用状態で内輪10a(10b)の表面から出入りする磁束は殆どない。ただし、内輪10a(10b)が脱磁処理された状態では、内輪10a(10b)の磁化、すなわち残留磁気が完全に消えているのではなく、内輪10a(10b)の内部で磁化が釣り合っているに過ぎない。したがって、内輪10a(10b)の内部で非磁性体である残留オーステナイトが磁性体であるマルテンサイトに変化すると、内輪10a(10b)の内部で磁化の釣り合いが崩れ、内輪10a(10b)の表面から磁束が出入りするようになる。本例では、このような現象を利用して、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度を把握する。
【0037】
すなわち、車輪支持装置1の使用状態で、内輪10a(10b)の負荷圏側では、疲労の進行と共に、非磁性体である残留オーステナイトが磁性体であるマルテンサイトに変化して、内部の磁化の釣り合いが崩れ、表面から磁束が出入りするようになる。この磁束の大きさは、たとえば
図3の右下部に示すように、使用時間の経過に伴って増大する。
【0038】
一方、内輪10a(10b)の非負荷圏側では、疲労が進行しないため、疲労に起因する、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変化は発生しない。また、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変化は、疲労が進行しなくても発生するが、その変化速度は非常に遅い。このため、内輪10a(10b)の非負荷圏側では、表面から出入りする磁束の大きさは、たとえば
図3の右上部に示すように、使用時間の経過にかかわらず殆ど変化しない。
【0039】
したがって、第一磁気センサ13a(13b)で測定した、内輪10a(10b)の負荷圏側の表面から出入りする磁束の測定値である第一測定値と、第二磁気センサ14a、14で測定した、内輪10a(10b)の非負荷圏側の表面から出入りする磁束の測定値である第二測定値との差をモニタリングすることによって、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。
【0040】
診断ユニット38は、第一磁気センサ13a(13b)の第一測定値と第二磁気センサ14a(14b)の第二測定値との差が、閾値よりも大きくなった場合に、内輪10a(10b)の負荷圏側で内輪軌道15a(15b)の破損の予兆ありと判定す
る機能を有する。なお、前記閾値は、実験やシミュレーションの結果に基づいて、予め適宜の大きさに設定される値である。前記閾値は、円すいころ軸受4a(4b)ごとに決められる。このような診断ユニット
38の機能について、以下に具体的に説明する。
【0041】
第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)の出力信号、すなわち、第一測定値および第二測定値を表す信号は、データ入力手段40(
図4参照)に入力される。データ入力手段40は、入力された信号を、処理可能なデータに変換(たとえば、アナログデータからディジタルデータに変換)する。このように変換されたデータは、データ処理手段41に送られる。
【0042】
データ処理手段41は、データ入力手段40から送られてきた第一測定値および第二測定値のデータに基づいて、第一測定値と第二測定値との差を表すデータを作成する。このように作成されたデータは、予兆判定手段42およびデータ記憶手段43に送られる。
【0043】
予兆判定手段42は、データ処理手段41から送られてきた、第一測定値と第二測定値との差を表すデータの値が、データ記憶手段43に記憶されている閾値よりも大きい場合に、負荷圏側で内輪軌道15a(15b)の破損の予兆ありと判定し、そうでない場合は、該予兆なしと判定する。
【0044】
データ記憶手段43は、前記閾値を記憶している。また、データ記憶手段43は、データ処理手段41から送られてきた、第一測定値と第二測定値との差を表すデータを記憶する。したがって、データ記憶手段43には、この第一測定値と第二測定値との差を表すデータの初期値や時系列的な変化などが記憶されることになる。データ記憶手段43に記憶されたデータは、予兆判定手段42により、適宜、利用可能とされている。
【0045】
結果出力手段44は、予兆判定手段42による前記判定の結果を、たとえば、ディスプレイ、ランプなどの表示器やスピーカーなどの音声発生器により出力する。これにより、前記判定の結果は、車両の運転者や点検者によって確認可能となる。
【0046】
なお、診断ユニット38は、たとえば、電気回路とマイクロコンピュータとを含んで構成されており、このマイクロコンピュータ内に保持記憶されたプログラムを実行することによって、上述した各機能を発揮することができる。なお、診断ユニット38は、一体のユニットとして車体側に設置することもできるし、あるいは、複数のユニットに分散して車体側に設置することもできる。
【0047】
以上のように、本例では、車輪支持装置1を使用箇所に組み付けたままの状態で、前記破損の予兆を判定、すなわち検知することができる。つまり、円すいころ軸受4a(4b)を取り出したり、分解したりするなどの、多くの手間をかけることなく、前記破損の予兆を容易に検知することができる。このため、たとえば、数か月置きに行われる定期点検の合格車両について、次回の定期点検が行われるまでの期間内の走行量が多くなり、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度が大きく進行した場合でも、前記破損の予兆を確実に検知することができる。そして、破損の予兆が検知された内輪10a(10b)、または、これらの内輪10a(10b)を含む円すいころ軸受4a(4b)を、次回の定期点検で交換することが可能となる。
【0048】
なお、本例では、第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)は、ホール素子、MR素子などの、コイルを有しない小型のセンサである。このため、該センサを保持するために内輪10a(10b)の内周面に設ける凹部18a(18b)や環状溝を小さくすることができる。したがって、凹部18a(18b)や環状溝の存在に起因する内輪10a(10b)の強度低下を抑えられる。なお、センサを保持する凹部や環状溝を車軸2の外周面とする場合でも、同様の効果が得られる。また、第一磁気センサ13a(13b)および第二磁気センサ14a(14b)は、内輪10a(10b)の表面から出入りする磁束を検出しているので、車軸2が磁性材製であっても、当該磁束の検出が妨げられることはない。
【0049】
なお、本例では、車輪支持装置1を構成する1対の円すいころ軸受4a、4bの内輪10a、10bのそれぞれに対して、第一磁気センサおよび第二磁気センサを設置する構成を採用している。ただし、本発明を実施する場合、1対の円すいころ軸受4a、4bの内輪10a、10bのうち、何れか一方の内輪の寿命が他方の内輪の寿命よりも短くなることが予め分かっているような場合には、当該一方の内輪にのみに対して、第一磁気センサおよび第二磁気センサを設置する構成を採用することもできる。
【0050】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図5および
図6を用いて説明する。
本例の車輪支持装置は、1対の円すいころ軸受4c(4d)を構成する内輪10c(10d)の表面から出入りする磁束を測定するための磁気センサを備えていない。このため、内輪10c(10d)の内周面は、単なる円筒面になっている。
【0051】
その代わりに、本例の車輪支持装置は、負荷圏側での内輪10c(10d)の磁化に応じた所定の物理量である透磁率を測定するための、第一センサである第一透磁率計21a(21b)と、非負荷圏側での内輪10c(10d)の磁化に応じた所定の物理量である透磁率を測定するための、第二センサである第二透磁率計22a(22b)とを備えている。第一透磁率計21a(21b)は、2つの端子23a(23b)を有しており、第二透磁率計22a(22b)も、2つの端子23c(23d)を有している。第一透磁率計21a(21b)および第二透磁率計22a(22b)は、2つの端子23a(23b)、23c(23d)の先端部を被測定物に押し付けた状態で、2つの端子23a(23b)、23c(23d)間の被測定物の透磁率に応じた出力を発生するものである。
【0052】
車軸2aは、内輪10c(10d)の径方向内側に位置する箇所の外周面に、1対の凹部24a(24b)を有している。1対の凹部24a(24b)は、使用状態での下端部、すなわち負荷圏の円周方向中央部と、使用状態での上端部、すなわち非負荷圏の円周方向中央部とに位置している。
【0053】
第一透磁率計21a(21b)は、負荷圏側の凹部24a(24b)の内側に設置されており、第二透磁率計22a(22b)は、非負荷圏側の凹部24a(24b)の内側に設置されている。第一透磁率計21a(21b)および第二透磁率計22a(22b)は、2つの端子23a(23b)、23c(23d)の他に、2つの端子23a(23b)、23c(23d)を車軸2aの径方向外側に向けて付勢するばね25a(25b)を有している。2つの端子23a(23b)、23c(23d)の先端面は、ばね25a(25b)の付勢によって、内輪10c(10d)の軸方向中間部内周面に押し付けられている。
【0054】
なお、2つの端子23a(23b)、23c(23d)の先端面は、半円筒形状などの凸曲面形状になっている。これにより、車軸2aに内輪10c(10d)を組み付ける際に、2つの端子23a(23b)、23c(23d)の先端面が内輪10c(10d)に押されて、2つの端子23a(23b)、23c(23d)がばね25a(25b)の弾力に抗して、凹部24a(24b)の内側に押し込まれるようになっている。2つの端子23a(23b)、23c(23d)の周囲には、被測定物である内輪10c(10d)の透磁率の測定に対する外乱を排除するための磁気シールドが設けられている。
【0055】
第一透磁率計21a(21b)および第二透磁率計22a(22b)の出力信号は、図示しない信号線を通じて、車体側に設置された診断ユニット38(
図1参照)に送られるようになっている。
【0056】
本例の車輪支持装置では、負荷圏側での内輪10c(10d)の透磁率を、第一透磁率計21a(21b)により測定し、該測定の結果である第一測定値を取得できる。また、非負荷圏側での内輪10c(10d)の透磁率を、第二透磁率計22a(22b)により測定し、該測定の結果である第二測定値を取得できる。さらに、第一測定値と第二測定値との差をモニタリングすることによって、内輪10c(10d)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。以下、この点について説明する。
【0057】
本例の車輪支持装置の使用状態で、内輪10c(10d)の負荷圏側では、疲労の進行と共に、非磁性体である残留オーステナイトが磁性体であるマルテンサイトに変化する。このため、負荷圏側での内輪10c(10d)の透磁率は、たとえば
図6の右下部に示すように、使用時間の経過に伴って増大する。
【0058】
一方、内輪10c(10d)の非負荷圏側では、疲労が進行しないため、疲労に起因する、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変化は発生しない。また、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変化は、疲労が進行しなくても発生するが、その変化速度は非常に遅い。このため、内輪10c(10d)の非負荷圏側である上部側では、表面から出入りする磁束の大きさは、たとえば
図6の右上部に示すように、使用時間の経過にかかわらず殆ど変化しない。
【0059】
したがって、第一透磁率計21a(21b)で測定した、内輪10c(10d)の負荷圏側の透磁率の測定値である第一測定値と、第二透磁率計22a(22b)で測定した、内輪10c(10d)の非負荷圏側の透磁率の測定値である第二測定値との差をモニタリングすることによって、内輪10c(10d)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。
【0060】
本例では、内輪10c(10d)に第一透磁率計21a(21b)および第二透磁率計22a(22b)が保持されていないため、円すいころ軸受4c(4d)として、一般品を使用することができる。また、第一透磁率計21a(21b)および第二透磁率計22a(22b)は、車軸2aに組み付けられているため、円すいころ軸受4c(4d)を交換する際にも、第一透磁率計21a(21b)および第二透磁率計22a(22b)は、そのまま継続して使用することができる。また、内輪10c(10d)に第一透磁率計21a(21b)および第二透磁率計22a(22b)が保持されていないため、車軸2aに内輪10c(10d)を組み付ける際の円周方向の位相合わせが不要になり、該組み付けの作業を容易に行うことができる。したがって、本例の車輪支持装置は、走行距離が長く、部品交換の頻度が高い車両に、好ましく適用することができる。
その他の構成および作用は、実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0061】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図7および
図8を用いて説明する。
本例の回転体支持装置の診断システムは、回転体支持装置である車輪支持用のハブユニット軸受26と、診断ユニット38とを備える。
【0062】
ハブユニット軸受26は、一般的な乗用車の従動輪用で、かつ、いわゆる内輪回転型である。ハブユニット軸受26は、静止輪である外輪27と、回転輪であるハブ28と、それぞれが転動体である複数個の玉29a、29bと、第一磁気センサ13c、13dおよび第二磁気センサ14c、14dとを備える。本例では、ハブユニット軸受26は、使用状態で、上部側がラジアル荷重の負荷圏側となり、下部側がラジアル荷重の非負荷圏側となる。
【0063】
外輪27は、中炭素鋼製で、軌道側周面である内周面に、それぞれが静止側軌道である複列の外輪軌道30a、30bを有し、軸方向中間部の径方向外側部に、使用状態で懸架装置を構成するナックルに固定するための静止側フランジ31を有する。また、外輪27は、外輪軌道30a、30bの表層部に、
図7および
図8中に梨地で示されるような、高周波焼入れによる熱処理硬化層39a、39bを有している。また、外輪27は、脱磁処理されている。
【0064】
ハブ28は、外周面に、それぞれが回転側軌道である複列の内輪軌道32a、32bを有し、これらの内輪軌道32a、32bよりも軸方向外側部の径方向外側部に、車輪および制動用回転部材を固定するための回転側フランジ33を有する。本例では、ハブ28は、ハブ輪34と内輪35とを組み合わせることにより構成されている。
【0065】
なお、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側を意味し、
図7の左側に相当する。一方、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向内側を意味し、
図7の右側に相当する。
【0066】
ハブ輪34は、中炭素鋼製である。回転側フランジ33は、ハブ輪34の軸方向外側部の径方向外側部に備えられており、軸方向外側列の内輪軌道32aは、ハブ輪34の軸方向中間部の外周面に備えられている。ハブ輪34は、軸方向内側部の外周面に、小径段部36を有する。
【0067】
内輪35は、軸受鋼製で、筒状に構成されている。軸方向内側列の内輪軌道32bは、内輪35の外周面に備えられている。内輪35は、ハブ輪34の小径段部36に締り嵌めにより外嵌され、かつ、内輪35の軸方向内端部を、ハブ輪34の軸方向内端部に設けられた抑え部37により抑え付けられて、ハブ輪34に固定されている。なお、抑え部37は、ハブ輪34の中間素材の軸方向内端部を塑性加工により径方向外方に折り曲げることにより形成されている。
【0068】
玉29a、29bは、軸受鋼製またはセラミック製で、軸方向外側列の外輪軌道30aと内輪軌道32aとの間、および、軸方向内側列の外輪軌道30bと内輪軌道32bとの間に、それぞれ複数個ずつ転動自在に配置されている。軸方向外側列の玉29aと軸方向内側列の玉29bとには、背面組合せ形の接触角と共に、予圧が付与されている。
【0069】
第一磁気センサ13cは、外輪27の反軌道側周面である外周面のうちで、軸方向外側の外輪軌道30aと径方向に重畳し、かつ、使用状態で上端部、すなわち負荷圏の円周方向中央部に位置する箇所に取り付けられている。
第二磁気センサ14cは、外輪27の外周面のうちで、軸方向外側の外輪軌道30aと径方向に重畳し、かつ、使用状態で下端部、すなわち非負荷圏の円周方向中央部に位置する箇所に取り付けられている。
第一磁気センサ13dは、外輪27の外周面のうちで、軸方向内側の外輪軌道30bと径方向に重畳し、かつ、使用状態で上端部、すなわち負荷圏の円周方向中央部に位置する箇所に取り付けられている。
第二磁気センサ14cは、外輪27の外周面のうちで、軸方向内側の外輪軌道30bと径方向に重畳し、かつ、使用状態で下端部、すなわち非負荷圏の円周方向中央部に位置する箇所に取り付けられている。
【0070】
診断ユニット38は、実施の形態の第1例と同様の構成を有するもので、車体側に設置されており、かつ、図示しないハーネスを通じて、第一磁気センサ13c(13d)および第二磁気センサ14c(14d)に接続されている。第一磁気センサ13c(13d)および第二磁気センサ14c(14d)の出力信号は、前記ハーネスを通じて、診断ユニット38に送られるようになっている。
【0071】
本例のハブユニット軸受26でも、実施の形態の第1例の場合と同様、負荷圏側で外輪27の外周面から出入りする磁束を、第一磁気センサ13c(13d)により測定し、該測定の結果である第一測定値を取得できる。また、非負荷圏側で外輪27の外周面から出入りする磁束を、第二磁気センサ14c(14d)により測定し、該測定の結果である第二測定値を取得できる。さらに、第一磁気センサ13cの第一測定値と第二磁気センサ14cの第二測定値との差をモニタリングすることによって、軸方向外側の外輪軌道30aの熱処理硬化層39aの負荷圏側の疲労度を把握することができる。同様に、第一磁気センサ13dの第一測定値と第二磁気センサ14dの第二測定値との差をモニタリングすることによって、軸方向内側の外輪軌道30bの熱処理硬化層39bの負荷圏側の疲労度を把握することができる。
【0072】
なお、本例では、外輪27のうち、1対の外輪軌道30a、30bのそれぞれの径方向外側に第一磁気センサおよび第二磁気センサを設置した。ただし、本発明を実施する場合に、1対の外輪軌道30a、30bのうち、何れか一方の外輪軌道の寿命が他方の外輪軌道の寿命よりも短くなることが予め分かっているような場合には、外輪27のうち、当該一方の外輪軌道の径方向外側にのみ、第一磁気センサおよび第二磁気センサを設置する構成を採用することもできる。
その他の構成および作用は、実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0073】
本発明を実施する場合には、実施の形態の第1例および第3例の第一磁気センサおよび第二磁気センサを透磁率計に変更した構造や、実施の形態の第2例の第一透磁率計および第二透磁率計を磁気センサ(ガウスメータ)に変更した構造を採用することもできる。
【0074】
本発明は、従動輪用の車輪支持装置やハブユニット軸受に限らず、駆動輪用の車輪支持装置やハブユニット軸受に適用することもできる。
また、本発明は、トラックや乗用車に限らず、鉄道車両、風車、圧延機、工作機械、建設機械、農業機械など、各種機械装置に組み込まれる回転体支持装置に適用することができる。
また、静止側軌道と回転側軌道と複数個の転動体とにより構成される軸受部の形式は、円すいころ軸受や玉軸受に限らず、円筒ころ軸受、ニードル軸受、自動調心ころ軸受など、各種の形式を採用することができる。
また、本発明の回転体支持装置は、反軌道側周面である外周面を有する静止輪と、反軌道側周面と嵌合する嵌合側周面である内周面を有する静止輪支持体とを備えた構成を採用することもできる。また、この場合も、第一センサおよび第二センサを、静止輪または静止輪支持体に保持する構成を採用することができる。