(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852561
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】燃料電池発電装置及びその制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/483 20070101AFI20210322BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20210322BHJP
【FI】
H02M7/483
H01M8/04 H
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-100491(P2017-100491)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-196296(P2018-196296A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幹介
【審査官】
麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−033565(JP,A)
【文献】
特開2015−015778(JP,A)
【文献】
特開2013−230027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/483
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
前記燃料電池の両極間に直列に接続された第1,第2のコンデンサからなるコンデンサ直列回路と、
前記コンデンサ直列回路の両端及び中点が直流入力側にそれぞれ接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記両端及び中点の電位を出力可能な3レベルインバータと、
前記燃料電池と前記コンデンサ直列回路との間に接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記第1,第2のコンデンサを充放電させるバランサと、
を備えた燃料電池発電装置において、
前記バランサを動作させることにより発生する損失によって、前記3レベルインバータから前記燃料電池へ逆流する電力を相殺することを特徴とする燃料電池発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載した燃料電池発電装置において、
前記3レベルインバータの交流出力側を電力系統に連系させて運転する連系運転と、前記3レベルインバータの交流出力側を電力系統に連系させずに負荷に交流電力を供給する自立運転と、を選択可能であることを特徴とする燃料電池発電装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した燃料電池発電装置において、
前記燃料電池の出力電流の向きが発電時とは逆向きである時に、前記バランサの動作を有効とする手段を備えたことを特徴とする燃料電池発電装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載した燃料電池発電装置において、
前記燃料電池の出力電流の向きが発電時とは逆向きである時、または、燃料電池発電装置が電力系統に連系されずに自立運転中である時、または、燃料電池発電装置の交流出力電力が一定値以下である時、もしくは、前記第1,第2のコンデンサの電圧の偏差が一定値以上である時に、前記バランサの動作を有効とする手段を備えたことを特徴とする燃料電池発電装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した燃料電池発電装置において、
前記バランサが、
前記燃料電池の両極間に接続される第1,第2の半導体スイッチング素子の直列回路と、前記第1,第2の半導体スイッチング素子同士の接続点と前記コンデンサ直列回路の中点との間に接続されたリアクトルと、
からなることを特徴とする燃料電池発電装置。
【請求項6】
燃料電池と、
前記燃料電池の両極間に接続された第1,第2のコンデンサからなるコンデンサ直列回路と、
前記コンデンサ直列回路の両端及び中点が直流入力側にそれぞれ接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記両端及び中点の電位を出力可能な3レベルインバータと、
前記燃料電池と前記コンデンサ直列回路との間に接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記第1,第2のコンデンサを充放電させて前記第1,第2のコンデンサの電圧を均等化するバランサと、
を備えた燃料電池発電装置を制御するための制御装置において、
前記3レベルインバータの半導体スイッチング素子に対する駆動信号を生成するインバータ制御部と、前記バランサの半導体スイッチング素子に対する駆動信号を生成するバランサ制御部と、を有し、
前記バランサ制御部は、前記バランサを動作させて前記第1,第2のコンデンサの電圧を均等化することに加えて、前記3レベルインバータから前記燃料電池への逆流電流が流れている際に、バランサ動作を継続することを特徴とする燃料電池発電装置の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載した燃料電池発電装置の制御装置において、
前記インバータ制御部は、前記3レベルインバータの交流電力指令に従って電圧指令を生成する手段と、前記第1,第2のコンデンサの電圧の偏差を零にするような補正信号を生成して前記電圧指令を補正する補正手段と、を備え、
前記バランサ制御部により前記バランサを動作させている期間は、前記補正信号を無効にすることを特徴とする燃料電池発電装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池発電装置及びその制御装置に関し、詳しくは、負荷の急減時において燃料電池に逆電流が流れるのを防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、特許文献1に記載された燃料電池発電装置の構成図である。
図6において、燃料電池1は、燃料電池スタック1a及びダイオード1b,1cからなる直列スタックと、燃料電池スタック1d及びダイオード1e,1fからなる直列スタックとを並列に接続して構成されている。燃料電池1の両極は、開閉器2a,2bを介してインバータ3に接続され、その交流出力側は、変圧器4を介して外部の負荷に接続されている。
【0003】
この燃料電池発電装置の通常動作としては、燃料電池1により発電された直流電力をインバータ3が交流電力に変換し、変圧器4を介して負荷に供給する。
上記のように、複数の直列スタックを並列に接続して燃料電池1を構成することにより、出力電流を増加させて大容量化を図ることができる。
【0004】
ここで、燃料電池においては、発電電圧と逆極性の電圧を印加すると電気分解に近い現象が発生し、燃料電池の構成部材が劣化することが知られている。
このため、例えば、燃料電池スタック1a,1dの発電電圧に差が生じた場合や、何らかの理由によりインバータ3の直流電圧が燃料電池1の発電電圧より高くなった場合には、燃料電池スタック1a,1dに逆電圧が印加される恐れがある。そこで、
図6の回路では、図示の極性でダイオード1b,1c,1e,1fを接続することにより、燃料電池スタック1a,1dに対する逆電圧の印加、逆電流の流入を防止している。
【0005】
しかし、この回路構成によると、通常動作時にダイオード1b,1c,1e,1fを流れる電流によって損失が発生するため、発電装置全体としての効率が悪いという問題がある。
上記の点に鑑み、特許文献2には、逆流防止用のダイオードを用いる代わりに、燃料電池とインバータとの間を流れる電流が逆電流にならないようにインバータの交流電力を制御する技術が開示されている。
【0006】
図7は、特許文献2に記載された逆流保護装置の構成図である。
図7において、燃料電池5はインバータ6を介して電力系統7に連系されており、インバータ6は、主回路部6aとその制御部6bとを備えている。
インバータ6の入力電圧V
DC及び出力電圧V
ACと、変流器8a,8bにより検出される入力電流I
DC及び出力電流I
ACとは、逆流保護部9に入力され、この逆流保護部9の出力信号が制御部6bに加えられている。
【0007】
逆流保護部9には、インバータ6の交流電力指令を所定の下限値に制限するリミッタが設けられている。そして、交流電力指令が低下して電力系統7側からインバータ6を介して燃料電池5側に電力が供給される状態になると、上記リミッタの動作によりインバータ6の交流電力指令、言い換えれば入力電力が減少する。従って、特許文献1のように逆流防止用のダイオードを用いなくても、インバータ6から燃料電池5側に電流が逆流するのを防止することができる。
なお、インバータ6の交流電力指令は、直流側の制御方式(定電力制御,定電流制御,定電圧制御等)に応じて直流側の測定値(電力,電流,電圧)を各指令値にフィードバックすることにより生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−50902号公報(
図1等)
【特許文献2】特許第5041198号公報(
図2〜
図8等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、パワコンディショナー等の制御分野において、系統電圧の瞬低や停電等が発生した場合にも運転を継続させる系統異常時運転継続機能(FRT:Fault Ride Through)が知られている。このFRTは、インバータを介して系統に連系される燃料電池発電装置に対しても求められる機能である。
【0010】
ここで、
図8は、系統の瞬低発生時に燃料電池発電装置がFRT動作した場合の系統電圧(
図8(a))、燃料電池電圧等の直流電圧(
図8(b))及び直流電流(
図8(c))を示している。
図8(a)に示すように瞬低が発生した場合、FRT動作により燃料電池が定格レベルで発電を継続すると、燃料電池から出力された電力の行き場がなくなり、この電力はインバータの直流中間回路(直流中間コンデンサ)に蓄積される。これにより、
図8(b)に示す如くインバータの直流中間電圧が上昇し、燃料電池セルは化学反応により徐々に開放電圧に向かって増加する。このため、結果的に、
図8(c)に示すように燃料電池に逆電流が流れてしまい、セル等の構成材料が劣化するという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の解決課題は、FRT動作等によってインバータの直流電圧が上昇した場合でも、燃料電池に逆電流が流れないようにして燃料電池を保護可能とした燃料電池発電装置及びその制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る燃料電池発電装置は、
燃料電池と、
前記燃料電池の両極間に直列に接続された第1,第2のコンデンサからなるコンデンサ直列回路と、
前記コンデンサ直列回路の両端及び中点が直流入力側にそれぞれ接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記両端及び中点の電位を出力可能な3レベルインバータと、
前記燃料電池と前記コンデンサ直列回路との間に接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記第1,第2のコンデンサを充放電させるバランサと、
を備えた燃料電池発電装置において、
前記バランサを動作させることにより発生する損失によって、前記3レベルインバータから前記燃料電池へ逆流する電力を相殺することを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る燃料電池発電装置は、請求項1に記載した燃料電池発電装置において、前記3レベルインバータの交流出力側を電力系統に連系させて運転する連系運転と、前記3レベルインバータの交流出力側を電力系統に連系させずに負荷に交流電力を供給する自立運転と、を選択可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る燃料電池発電装置は、請求項1または2に記載した燃料電池発電装置において、前記燃料電池の出力電流の向きが発電時とは逆向きである時に、前記バランサの動作を有効とする手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る燃料電池発電装置は、請求項1または2に記載した燃料電池発電装置において、前記燃料電池の出力電流の向きが発電時とは逆向きである時、または、燃料電池発電装置が電力系統に連系されずに自立運転中である時、または、燃料電池発電装置の交流出力電力が一定値以下である時、もしくは、前記第1,第2のコンデンサの電圧の偏差が一定値以上である時に、前記バランサの動作を有効とする手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る燃料電池発電装置は、請求項1〜4の何れか1項に記載した燃料電池発電装置において、前記バランサが、前記燃料電池の両極間に接続される第1,第2の半導体スイッチング素子の直列回路と、前記第1,第2の半導体スイッチング素子同士の接続点と前記コンデンサ直列回路の中点との間に接続されたリアクトルと、からなることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る燃料電池発電装置の制御装置は、
燃料電池と、
前記燃料電池の両極間に接続された第1,第2のコンデンサからなるコンデンサ直列回路と、
前記コンデンサ直列回路の両端及び中点が直流入力側にそれぞれ接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記両端及び中点の電位を出力可能な3レベルインバータと、
前記燃料電池と前記コンデンサ直列回路との間に接続され、半導体スイッチング素子の動作により前記第1,第2のコンデンサを充放電させて前記第1,第2のコンデンサの電圧を均等化するバランサと、
を備えた燃料電池発電装置を制御するための制御装置において、
前記3レベルインバータの半導体スイッチング素子に対する駆動信号を生成するインバータ制御部と、前記バランサの半導体スイッチング素子に対する駆動信号を生成するバランサ制御部と、を有し、
前記バランサ制御部は、前記バランサを動作させて前記第1,第2のコンデンサの電圧を均等化することに加えて、前記3レベルインバータから前記燃料電池への逆流電流が流れている際に、バランサ動作を継続することを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る燃料電池発電装置の制御装置は、請求項6に記載した制御装置において、
前記インバータ制御部は、前記3レベルインバータの交流電力指令に従って電圧指令を生成する手段と、前記第1,第2のコンデンサの電圧の偏差を零にするような補正信号を生成して前記電圧指令を補正する補正手段と、を備え、
前記バランサ制御部により前記バランサを動作させている期間は、前記補正信号を無効にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、FRT動作等によってインバータの直流側電圧が上昇した場合でも、燃料電池に逆電流が流れないようにして燃料電池セル等の構成部材を確実に保護することができる。
なお、インバータの直流回路の過電圧対策として、いわゆるブレーキチョッパ等が知られているが、この種の保護回路を別個に設ける場合にはコストの上昇を招く。これに対し、本発明においては、連系運転及び自立運転を行う3レベルインバータに通常、設けられているバランサを利用して直流回路の過電圧保護を図ると同時に、燃料電池への逆電流を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池発電装置の構成図である。
【
図2】
図1におけるバランサ制御部の構成図である。
【
図4】
図1におけるバランサ内のスイッチング素子及びリアクトルの電圧・電流波形図である。
【
図5】
図1におけるインバータ制御部の構成図である。
【
図6】特許文献1に記載された従来技術の構成図である。
【
図7】特許文献2に記載された従来技術の構成図である。
【
図8】本発明の課題を説明するための電圧・電流波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池発電装置の構成図である。この燃料電池発電装置は、燃料電池発電部100と制御装置200とを備えている。
【0022】
始めに、燃料電池発電部100の構成を説明する。
燃料電池101の両極間には、バランサ102と、コンデンサ103,104の直列回路と、3レベルインバータとしてのインバータ105とが、互いに並列に接続されている。
ここで、バランサ102は、コンデンサ103,104(インバータ105の直流コンデンサ)の電圧を均等化するためのものであり、半導体スイッチング素子102a,102bの直列回路と、スイッチング素子102a,102b同士の接続点とコンデンサ103,104同士の接続点(中点)Mとの間に接続されたリアクトル102cとを備えている。
【0023】
インバータ105は、コンデンサ103,104の直列回路の正側端子P、負側端子N、及び中点Mの間に接続された半導体スイッチング素子105a,105b,105c,105dを備えている。なお、スイッチング素子105c,105dは双方向スイッチを構成している。
このインバータ105は、スイッチング素子105a,105b,105c,105dのオン・オフにより、スイッチング素子105a,105b同士の接続点である出力端子Oから正側端子P、負側端子N及び中点Mの3つの電位を出力可能である。
【0024】
インバータ105の出力端子Oは、リアクトル106及び開閉器107の直列回路を介して電力系統110に接続されている。また、リアクトル106と開閉器107との接続点は、コンデンサ108を介して前記中点Mに接続されている。
【0025】
燃料電池101の正極とバランサ102との間の正側母線には、電圧検出器111及び電流検出器112が接続され、これらによってそれぞれ検出される直流電圧V
PN及び直流電流I
PNが制御装置200に入力されている。なお、正側母線上の符号117は、配線インダクタンスである。
【0026】
バランサ102内のリアクトル102cの一端と中点Mとの間には電流検出器113及び電圧検出器114が接続され、これらによってそれぞれ検出されるバランサ電流I
BL及び直流電圧V
MNが制御装置200に入力されている。
また、開閉器107の両側には電流検出器115及び電圧検出器116が接続され、これらによってそれぞれ検出される交流電流I
AC及び交流電圧V
ACが制御装置200に入力されている。
【0027】
一方、制御装置200は、燃料電池発電部100における各部の電圧、電流に基づいて、バランサ102及びインバータ105のスイッチング素子をそれぞれ駆動するためのバランサ制御部200BL及びインバータ制御部200INVを備えている。
【0028】
インバータ105は、インバータ制御部200INVが生成したゲート信号に従ってスイッチング素子105a,105b,105c,105dをオン・オフさせることにより、正側端子P、負側端子N及び中点Mの3つの電位を出力する。燃料電池発電部100の連系運転時には、開閉器107を閉じてインバータ105を電力系統110に連系させ、燃料電池発電部100の自立運転時には開閉器107を開いた状態で、出力端子Oに接続された負荷(図示せず)に交流電力を供給する。
【0029】
また、バランサ102は、バランサ制御部200BLが生成したゲート信号に従ってスイッチング素子102a,102bをオン・オフさせることにより、コンデンサ103,104の電圧を均等化すると共に、インバータ105側から燃料電池101側に逆電流が流れないように機能するものである。
【0030】
次に、
図2に基づいて、制御装置200内のバランサ制御部200BLの構成及び動作を説明する。
図2において、オアゲート206には4つの信号が入力されており、これらの信号の論理和によって「High」レベルの信号が後述のゲートブロック制御部214に入力されたときに、バランサ102に対するゲート信号が出力されるようになっている。なお、ゲートブロック制御部214は、装置の故障検出時等にゲート信号の出力を停止させる機能を有する。
【0031】
オアゲート206の第1の入力信号は、燃料電池発電装置が電力系統110に連系しておらず、自立運転している時に発生する自立運転検出信号である。
第2の入力信号は、交流電流I
AC及び交流電圧V
ACを用いて交流電力演算部201が演算した交流電力が、レベル検出部202により予め設定された一定値以下であるときに発生する信号である。
【0032】
第3の入力信号は、直流電流I
PNがレベル検出部203により予め設定された一定値以下(直流電流I
PNがインバータ105側から燃料電池101に向かう逆電流)であるときに発生する信号である。
また、第4の入力信号は、減算器208の出力信号の絶対値を絶対値演算部204により演算し、そのレベルがレベル検出部205により予め設定された一定値を超えたときに発生する信号である。
【0033】
なお、仮にバランサ102を常に動作させたとすると、スイッチング損失や導通損失等により発電装置としての効率が低下してしまう。そこで、バランサ制御部200BLでは、コンデンサ103,104の電圧を等しくしてバランサ102の本来の機能を果たす場合(第1,第2,第4の入力信号)と、本形態の特徴である燃料電池101側への逆流防止が必要な場合(第3の入力信号)との何れかに限って、オアゲート206及びゲートブロック制御部214を介してバランサ102を起動させることとした。
【0034】
図2における減算器208は、電圧検出器111が検出した直流電圧V
PNと、電圧検出器114が検出した直流電圧V
MNを乗算器207により2倍した値との偏差を演算する。すなわち、バランサ102は、インバータ105の直流側のコンデンサ103,104の電圧V
PM,V
MNを等しくするべく設けられているため、乗算器207及び減算器208により、下記の数式1を演算して電圧アンバランス量を求める。
[数式1]
V
PN−V
MN×2=(V
PM+V
MN)−V
MN×2=V
PM−V
MN
【0035】
この電圧アンバランス量(V
PM−V
MN)は、前述のように絶対値演算部204に入力されると共に、減算器209により「0」との偏差が求められ、PI調節器210は上記偏差を零にするように動作してバランサ電流指令を出力する。
そして、バランサ電流指令とバランサ電流I
BLとの偏差が減算器211によって演算され、P(比例)調節器212は上記偏差を零にするように動作してバランサ102に対する電圧指令が生成される。
【0036】
上記電圧指令は、PWM(パルス幅変調)回路213により、「0」を中心とした三角波のキャリアと比較されてPWMパルスが生成される。なお、電圧V
PM,V
MNが等しく、電圧アンバランス量(V
PM−V
MN)が0である場合には、PWMパルスのデューティ比は50%になる。
このPWMパルスはゲートブロック制御部214に入力されており、オアゲート206から「High」レベルの信号が入力された時に、バランサ102のスイッチング素子102a,102bに対するゲート信号が出力される。
【0037】
次いで、
図3は、バランサ102の動作説明図である。
図3(a)において、スイッチング素子102aがオンすると、コンデンサ103が放電して経路aに電流が流れる。これにより、リアクトル102cにエネルギーが蓄積される。
【0038】
スイッチング素子102aがオフすると、リアクトル102cに蓄積されたエネルギーにより、
図3(b)に示すように、コンデンサ104とスイッチング素子102bの還流ダイオードとを通る経路bに電流が流れる。これによってコンデンサ104が充電され、リアクトル102cのエネルギーが0になると経路bの電流も0になる。
【0039】
次に、スイッチング素子102bがオンすると、
図3(c)に示すように、コンデンサ104が放電して経路cに電流が流れる。これにより、リアクトル102cには
図3(a)に対して逆向きにエネルギーが蓄積される。
【0040】
そして、スイッチング素子102bがオフすると、リアクトル102cに蓄積されたエネルギーにより、
図3(d)に示すように、コンデンサ103とスイッチング素子102aの還流ダイオードとを通る経路dに電流が流れる。これによってコンデンサ103が充電され、リアクトル102cのエネルギーが0になると経路dの電流も0になる。
【0041】
図3(a)の期間が
図3(d)の期間より長い場合には、コンデンサ103の電圧がコンデンサ104の電圧よりも低くなり、逆に、
図3(a)の期間が
図3(d)の期間より短い場合には、コンデンサ103の電圧がコンデンサ104の電圧よりも高くなる。
図2のバランサ制御部200BLでは、コンデンサ103,104の電圧V
PM,V
MNの偏差の絶対値を所定のレベルと比較してスイッチング素子102a,102bをオン・オフさせ、
図3(a)〜
図3(d)の動作を繰り返すことで、電圧V
PM,V
MNを均等化する制御が行われる。言い換えれば、
図3(a)の期間と
図3(d)の期間とを等しくする制御が行われる。
【0042】
なお、インバータ105の直流側から燃料電池101に逆電流が流れるのを防止するためには、直流電圧V
PNを燃料電池101による発電電圧より低くする必要がある。
この点に関し、
図3(a)〜
図3(d)の動作を実行すれば、スイッチング素子102a,102bにおけるスイッチング損失や導通損失、リアクトル102cにおける鉄損、銅損等によってコンデンサ103,104が保有するエネルギーが消費される。このため、直流電圧V
PNは、上記の各損失に相当する電圧分だけ、燃料電池101の両極間の電圧より低くなるため、インバータ105の直流側から燃料電池101側に向かって逆電流が流れるのを防止することができる。
【0043】
ここで、
図4(a),(b)は、バランサ102内のスイッチング素子102a,102bの電圧、電流を示す波形図、
図4(c)はリアクトル102cの電圧、電流を示す波形図である。
【0044】
図4(a),(b)に示した電流については、正方向がスイッチング素子102a,102bの本体に流れる電流であり、負方向が還流ダイオードに流れる電流である。また、時間軸上のiはスイッチング素子のターンオン損失が発生する期間、iiはスイッチング素子の導通損失が発生する期間、iiiはスイッチング素子のターンオフ損失が発生する期間、ivは還流ダイオードの導通損失が発生する期間である。
なお、
図4(c)に動作波形を示したリアクトル102cでは、電流が流れることにより銅損が発生し、電圧が印加されることにより鉄損が発生する。
【0045】
バランサ102における発生損失が小さいと、コンデンサ103,104の放電時間が増加して燃料電池101に逆電流が流れる時間が長くなり、バランサ102における発生損失が大きいと、効率が低下する反面、コンデンサ103,104の放電時間が減少して燃料電池101に逆電流が流れる時間が短くなる。
従って、逆電流による燃料電池101の劣化を最小限に抑制するには、逆電流通流時間が許容範囲内に収まるように、スイッチング素子やリアクトルの素子を適切に選定し、スイッチング周波数を最適値に設定する等の方法により、バランサ102における発生損失を適宜調整することが必要である。
【0046】
次に、
図5は、制御装置200内のインバータ制御部200INVの構成図である。
このインバータ制御部200INVは、インバータ105の出力電力を指令通りに制御する出力電力制御と、直流側のコンデンサ103,104の電圧V
PM,V
MNを均等化するバランス制御とを行う。
【0047】
まず、出力電力制御では、出力電力指令P
AC*と交流電圧V
ACとを電流指令演算部221に入力して交流電流指令I
AC*を演算し、この交流電流指令I
AC*と交流電流I
ACとの偏差を減算器222により求めてP調節器223に入力する。
【0048】
P調節器223は上記偏差を零にするように動作し、その出力と交流電圧V
ACとを加算器224により加算して電圧指令を生成する。減算器225は、上記電圧指令から後述のPI調節器231から出力される補正信号を減算して電圧指令を補正し、PWM回路226が補正後の電圧指令とキャリアとを比較してPWMパルスを生成する。このPWMパルスを、ゲートブロック制御部227を介してインバータ105のスイッチング素子105a,105b,105c,105dに対するゲート信号として出力する。
【0049】
一方、バランス制御においては、乗算器228及び減算器229によりコンデンサ103,104の電圧V
PM,V
MNの偏差を求め、この偏差を減算器230により「0」から減算してPI調節器231に入力する。
これらの乗算器228、減算器229,230、及びPI調節器231は、出力電力制御系の電圧指令を補正するための補正手段として機能している。
【0050】
PI調節器231には、バランサ102の運転状態を示すバランサ運転検出信号が入力されている。バランサ102の運転時には「High」レベルのバランサ運転検出信号がPI調節器231に入力され、これによってPI調節器231から出力される補正信号がゼロホールドされ、無効にされる。これは、
図2に示したバランサ制御部200BLによるバランサ102の動作と、
図5のインバータ制御部200INVによるバランス制御とが干渉し合うのを防止するためである。
なお、バランサ102が運転されていない場合には、PI調節器231から出力される補正信号を減算器225に入力し、インバータ制御部200INVによるバランス制御を有効にするものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、FRT動作時に限らず何らかの原因によってインバータの直流電圧が上昇した場合に、インバータの直流側の直列コンデンサの電圧を均等化しつつ燃料電池への逆電流を防止することができ、連系運転、自立運転を選択可能な燃料電池発電装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
100:燃料電池発電部
101:燃料電池
102:バランサ
102a,102b:半導体スイッチング素子
102c:リアクトル
103,104:コンデンサ
105:インバータ
105a,105b,105c,105d:半導体スイッチング素子
106:リアクトル
107:開閉器
108:コンデンサ
110:電力系統
111,114,116:電圧検出器
112,113,115:電流検出器
117:配線インダクタンス
200:制御装置
200BL:バランサ制御部
200INV:インバータ制御部
201:交流電力演算部
202,203,205:レベル検出部
204:絶対値演算部
206:オアゲート
207:乗算器
208,209,211:減算器
210:PI調節器
212:P調節器
213:PWM回路
214:ゲートブロック制御部
221:電流指令演算部
222,225,229,230:減算器
223:P調節器
224:加算器
226:PWM回路
227:ゲートブロック制御部
228:乗算器
231:PI調節器