(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切り欠き部に前記試料が設置されていないときと、前記切り欠き部に前記試料が設置されているときとにおける前記測定部による測定結果の変化に基づいて、前記試料の金属不純物の混入度合を分析する分析処理部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の金属不純物測定装置。
前記切り欠き部に前記試料が設置されていない状態において、前記検出コイルにて誘導電圧が発生しないように調整されていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属不純物測定装置。
前記切り欠き部は、前記サンプル保持部として、前記試料を収容するサンプルホルダを設置可能に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属不純物測定装置。
前記切り欠き部は、前記サンプル保持部として、液体である前記試料が通過するチューブを設定可能に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属不純物測定装置。
前記第1の励磁部、前記第2の励磁部、前記検出部、前記第1の連結部、前記第2の連結部、前記切り欠き部、および前記切り欠き部に設置された前記試料を保持する前記サンプル保持部を包囲する、磁性体材料からなる磁気シールド部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の金属不純物測定装置。
前記第2の連結部に形成され、前記切り欠き部と同等の形状の第2の切り欠き部をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の金属不純物測定装置。
コア材に第1の励磁コイルを巻き回して形成された第1の励磁部と、コア材に第2の励磁コイルを巻き回して形成された第2の励磁部との間に、コア材に検出コイルを巻き回して形成された検出部を配置するとともに、前記第1の励磁部のコア材と前記検出部のコア材との両端を第1の連結部によってそれぞれ互いに連結し、前記第2の励磁部のコア材と前記検出部のコア材との両端を第2の連結部によってそれぞれ互いに連結し、
前記第1の励磁コイルにより発生する磁界の方向と前記第2の励磁コイルにより発生する磁界の方向とが互いに逆になるように、前記第1の励磁コイルおよび前記第2の励磁コイルを高周波電源に接続し、
前記第1の連結部に形成された切り欠き部に、金属不純物を含有する試料を保持するサンプル保持部を設置したときに、前記検出コイルに発生する誘導電圧もしくは誘導電流を測定し、
測定された前記誘導電圧もしくは前記誘導電流に基づいて、前記試料の金属不純物の混入度合を分析することを特徴とする金属不純物測定方法。
【背景技術】
【0002】
世界中の様々な環境下で、大型の建設機械、鉱業機械といった大型機械が稼働している。このような大型機械を安全、かつ、安定に稼働させるためには、定期的に潤滑オイル(ギアオイル、エンジンオイル等)を分析し、必要に応じて潤滑オイルの交換や補充、機構部品の交換などのメンテナンスを行う必要がある。
潤滑オイルには、大型機械の稼働によってナノパーティクル(例えば、鉄(Fe)や銅(Cu)などの金属成分)が徐々に混入し得る。ナノパーティクルの混入量が増加すると、潤滑オイルとしての性能が損なわれ、結果として、大型機械の動作不良に繋がる。
そのため、潤滑オイルの不純物の混入度合を分析することで、大型機械の駆動部の磨耗の進行状況を判定し、潤滑オイルのメンテナンスの時期やメンテナンスの必要項目を割り出す必要がある。
【0003】
潤滑オイルの不純物の混入度合の分析には、例えば、質量分析法、発光分光分析法、蛍光X線分析法などを用いることができる。
また、潤滑オイルにおけるナノパーティクルのような金属不純物の混入度合の分析には、例えば、特許文献1に記載の磁性粉濃度測定技術を用いることができる。この技術は、磁界が対向する2つの励磁コイルによる合成磁界が零となる位置に配置された検出コイルを用い、一方の励磁コイルの内部に磁性粉の混入した試料を挿入したときに、検出コイルに誘起される誘導電圧に基づいて当該試料に含まれる磁性粉の濃度を測定するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、エンジンの高性能化の要求により、潤滑オイルに含有される金属不純物濃度の低減化が進んでいる。それに伴い、測定器に対しても高感度化が要求されるようになっており、例えば100ppm以下の低濃度の金属不純物に対する高い測定精度が要求されている。
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、励磁コイルの内部は空洞であり、発生する磁束はほぼ漏れ磁束となる。そのため、磁性粉混入試料の金属不純物濃度が小さい場合、一対の励磁コイルによる合成磁界の磁気バランス変動は、周囲環境に左右されやすくなる。例えば、温度変動によるインダクタンスの変化の影響を無視できず、検出コイルにて発生する誘導電圧の値も大きく変動することになってしまう。したがって、上記特許文献1に記載の技術では、試料に含有される金属不純物濃度を高感度で測定することができなかった。特に、上記のような低濃度の金属不純物を精度良く測定することはできなかった。
そこで、本発明は、高感度で精度良く試料に含有される金属不純物を測定することができる金属不純物測定装置および金属不純物測定方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る金属不純物測定装置の一態様は、コア材に第1の励磁コイルを巻き回して形成された第1の励磁部と、コア材に第2の励磁コイルを巻き回して形成された第2の励磁部と、コア材に検出コイルを巻き回して形成され、前記第1の励磁部と前記第2の励磁部との間に位置する検出部と、前記第1の励磁部のコア材と前記検出部のコア材との両端をそれぞれ互いに連結する第1の連結部と、前記第2の励磁部のコア材と前記検出部のコア材との両端をそれぞれ互いに連結する第2の連結部と、前記第1の励磁コイルにより発生する磁界の方向と、前記第2の励磁コイルにより発生する磁界の方向とが互いに逆になるように、前記第1の励磁コイルおよび前記第2の励磁コイルに接続された高周波電源と、前記第1の連結部に形成され、金属不純物を含有する試料を保持するサンプル保持部が設置される切り欠き部と、前記検出コイルに発生する誘導電圧もしくは誘導電流を測定する測定部と、を備える。
【0007】
このような構成により、切り欠き部に金属不純物を含有する試料を保持するサンプル保持部が設置された場合には、検出コイルに誘起される誘導電圧が変化し、測定部は、その変化を適切に測定することが可能である。ここで、第1の励磁コイルおよび第2の励磁コイルは、それぞれコア材に巻回されており、空洞コイルではない。そのため、各励磁コイルにおける磁束の漏れは少なく、切り欠き部においても磁束密度は大きい。したがって、試料が含有する金属不純物濃度が低くても、切り欠き部にサンプル保持部が挿入されたときの検出コイルでの電磁誘導の変化は比較的顕著となる。すなわち、高感度で試料の金属不純物濃度に応じた誘電電圧の変化を測定することができる。また、高感度で試料の金属不純物濃度に応じた誘導電流の変化を測定することも可能である。
【0008】
また、上記の金属不純物測定装置において、前記切り欠き部に前記試料が設置されていないときと、前記切り欠き部に前記試料が設置されているときとにおける前記測定部による測定結果の変化に基づいて、前記試料の金属不純物の混入度合を分析する分析処理部をさらに備えていてもよい。
例えば、試料が機械の潤滑オイルである場合、試料の金属不純物の混入度合を分析することで、機械の機構部の磨耗状態を判定することができる。したがって、当該分析結果をもとに、機構部品の点検(交換)や潤滑オイルの交換等のメンテナンスの要否判断やメンテナンスの時期予測などが可能となる。
【0009】
また、上記の金属不純物測定装置において、前記切り欠き部に前記試料が設置されていない状態において、前記検出コイルにて誘導電圧が発生しないように調整されていてもよい。つまり、切り欠き部に試料が設置されていない状態において、第1の励磁コイルと第2の励磁コイルとによる磁界が互いに打ち消されて磁気のバランスが取れた状態であってもよい。
この場合、金属不純物が含有された試料が切り欠き部に設置されることで上記の磁気のバランスが崩れ、測定部は、試料の金属不純物濃度に応じた誘導電圧もしくは誘導電流を測定することになる。したがって、切り欠き部に試料が設置されたときの測定部による測定結果をそのまま換算することで、容易に試料の金属不純物濃度を分析することができる。また、検出コイルに発生する誘導電圧が零である状態からの電圧変化を測定することができることで、容易かつ安価な測定が可能となる。
【0010】
さらにまた、上記の金属不純物測定装置において、前記高周波電源は、定電流交流電源であってもよい。この場合、環境温度の変化やコイル自身の発熱により、巻線抵抗が変化した場合であっても、定電流制御により磁界の変動が抑制され、測定部による測定結果の精度を向上させることができる。
また、上記の金属不純物測定装置において、前記切り欠き部は、前記サンプル保持部として、前記試料を収容するサンプルホルダを設置可能に構成されていてもよい。このように、サンプル保持部としてサンプルホルダを用いた場合、金属不純物測定装置における測定の後、更なる精密な測定を行うために異なる分析拠点へ試料を送る際に、他のボトル等に移し替えることなく、当該サンプルホルダをそのまま移送することができる。
さらに、上記の金属不純物測定装置において、前記切り欠き部は、前記サンプル保持部として、液体である前記試料が通過するチューブを設定可能に構成されていてもよい。このように、サンプル保持部としてチューブを用いた場合、試料が流体である場合には、連続的に金属不純物濃度を測定することが可能となる。
【0011】
また、上記の金属不純物測定装置において、前記第1の励磁部、前記第2の励磁部、前記検出部、前記第1の連結部、前記第2の連結部、前記切り欠き部、および前記切り欠き部に設置された前記試料を保持する前記サンプル保持部を包囲する、磁性体材料からなる磁気シールド部材をさらに備えていてもよい。この場合、磁気シールド部材によって、外乱ノイズの影響を防止することができる。
さらに、上記の金属不純物測定装置において、前記第2の連結部に形成され、前記切り欠き部と同等の形状の第2の切り欠き部をさらに備えていてもよい。この場合、第1の励磁コイルと第2の励磁コイルとによる磁気のバランスが取れやすくなる。
【0012】
また、本発明に係る金属不純物測定方法の一態様は、コア材に第1の励磁コイルを巻き回して形成された第1の励磁部と、コア材に第2の励磁コイルを巻き回して形成された第2の励磁部との間に、コア材に検出コイルを巻き回して形成された検出部を配置するとともに、前記第1の励磁部のコア材と前記検出部のコア材との両端を第1の連結部によってそれぞれ互いに連結し、前記第2の励磁部のコア材と前記検出部のコア材との両端を第2の連結部によってそれぞれ互いに連結し、前記第1の励磁コイルにより発生する磁界の方向と前記第2の励磁コイルにより発生する磁界の方向とが互いに逆になるように、前記第1の励磁コイルおよび前記第2の励磁コイルを高周波電源に接続し、前記第1の連結部に形成された切り欠き部に、金属不純物を含有する試料を保持するサンプル保持部を設置したときに、前記検出コイルに発生する誘導電圧もしくは誘導電流を測定し、測定された前記誘導電圧もしくは前記誘導電流に基づいて、前記試料の金属不純物の混入度合を分析する。
これにより、高感度で試料に含有される金属不純物濃度に応じた誘電電圧の変化を測定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属不純物測定装置では、高感度で精度良く試料に含有される金属不純物を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態における金属不純物測定装置10の概略構成図である。
金属不純物測定装置10は、試料に含有される金属不純物を測定する装置である。本実施形態では、金属不純物測定装置10が、大型機械(建設機械、鉱業機械など)が使用されている現場にて、当該大型機械に用いられている潤滑オイル(エンジンオイル、ギアオイルなど)の金属不純物を測定する装置である場合について説明する。ここで、潤滑オイルの金属不純物測定とは、潤滑オイル中のナノパーティクル(金属不純物)の混入度合を測定することをいう。
【0016】
金属不純物測定装置10は、筐体11を備える。筐体11は、潤滑オイルの一部を測定対象であるオイルサンプル(金属不純物含有試料)23として収容するサンプルホルダ20を設置可能なサンプルホルダ収容部11aを備える。
ここで、サンプルホルダ20は、底部を有する、例えば円筒形状の本体部21と、本体部21の開口部に対して着脱可能に構成された蓋部22と、を有する。本体部21は、磁性体ではなく、樹脂等の非金属製材料により構成されている。また、蓋部22を構成する材料は、本体部21と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0017】
大型機械から採取されたオイルサンプル(以下、単に「試料」ともいう。)23は、サンプルホルダ20の本体部21の開口部から本体部21内部の収容空間に挿入され、蓋部22よって封止される。蓋部22の径は本体部21の径よりも大きく、蓋部22が本体部21に装着された状態では、蓋部22の周縁部はサンプルホルダ20のフランジ部となる。
サンプルホルダ収容部11aは、サンプルホルダ20の本体部21の形状に対応した穴部からなり、サンプルホルダ20の本体部21は、筐体11の上面に形成されたホルダ挿入用孔部11bからサンプルホルダ収容部11aに挿入され、収容されるようになっている。ここで、ホルダ挿入用孔部11bは、サンプルホルダ20のフランジ部(蓋部22)よりも小さく形成されている。そのため、サンプルホルダ20は、サンプルホルダ収容部11aに挿入された際、フランジ部と筐体11の上面とにより所定位置で位置決めされる。この所定位置は、サンプルホルダ20の本体部21の少なくとも一部が、後述するコア材の切り欠き部125の間に配置される位置である。
【0018】
筐体11内部には、素子部12と、回路部13とが設けられている。
素子部12は、コア材121aに第1の励磁コイル121bを巻き回して形成された第1の励磁部と、コア材122aに第2の励磁コイル122bを巻き回して形成された第2の励磁部と、コア材123aに検出コイル123bを巻き回して形成された検出部と、を備える。さらに、素子部12は、第1の励磁部のコア材121aと検出部のコア材123aとの両端をそれぞれ互いに連結する第1の連結部124aと、第2の励磁部のコア材122aと検出部のコア材123aとの両端をそれぞれ互いに連結する第2の連結部124bと、を備える。
コア材121a、122aおよび123a、ならびに連結部124aおよび124bは、いずれも磁性体からなる。コア材121a、122aおよび123a、ならびに連結部124aおよび124bの材質としては、例えばフェライトを用いることができる。
【0019】
このように、本実施形態では、EIコア形状やEEコア形状のような8の字形状のコア材を用いる。そして、8の字状コアの一端側に第1の励磁コイル121bを巻き回し、8の字コアの他端側に第2の励磁コイル122bを巻き回し、8の字状コアの中央部に検出コイル123bを巻き回す。
8の字形状コアの一部には、切り欠き部125が設けられている。本実施形態では、切り欠き部125は、第1の励磁部のコア材121aと検出部のコア材123aとを連結する第1の連結部124aに形成されている場合について説明する。なお、本実施形態における切り欠き部125は、サンプルホルダ20の本体部21が設置される孔であり、少なくともサンプルホルダ20の本体部21と同等の大きさ(例えば、数十mm)のギャップを有する。つまり、一般に磁気飽和を抑制するためにコア材に設けられるコアギャップとは異なる。なお、切り欠き部125の大きさは、サンプルホルダ20が挿入可能なぎりぎりの大きさであることが好ましい。
【0020】
回路部13は、高周波電源(PS)131と、調整回路132と、測定部(M)133と、を備える。
高周波電源131は、励磁コイル121b、122bとそれぞれ接続されている。ここで、励磁コイル121b、122bと高周波電源131とは、第1の励磁コイル121bに発生する磁界の向きと、第2の励磁コイル122bに発生する磁界の向きとが互いに逆向きとなるように接続されている。
【0021】
調整回路132は、切り欠き部125に試料23が設置されてないときに、検出コイル123bで誘導電圧が発生しないように調整する。具体的には、調整回路132は、切り欠き部125に試料23が収容されていない空のサンプルホルダ20を設置した状態で、検出コイル123bで誘導電圧が発生しないように調整する。
なお、励磁コイル121b、122bや高周波電源131の回路パラメータ(励磁コイル121b、122bの巻き数、高周波の周波数など)の設定により、切り欠き部125に試料23が設置されてないときに、検出コイル123bで誘導電圧が発生しないように、ある程度調整しておくことが好ましい。この場合、調整回路132による調整が容易となる。また、上記回路パラメータの設定により、切り欠き部125に試料23が設置されてないときに、検出コイル123bで誘導電圧が発生しないように調整可能である場合、調整回路132による調整は不要である。
【0022】
測定部133は、検出コイル123bにおいて発生する誘導電圧、もしくは誘導電流を測定し、測定結果を外部装置30へ出力する。本実施形態では、測定部133が交流電圧計である場合について説明する。
外部装置30は、測定部133から出力された上記測定結果に基づいて、試料23の金属不純物の混入度合を分析する分析処理部を備える。外部装置30は、例えば、携帯のタブレット端末やクラウドコンピュータ等によって構成することができる。
潤滑オイルの潤滑性能が損なわれる原因として、潤滑オイルへの金属パーティクルのような不純物の混入が挙げられる。この潤滑オイルへの金属不純物の混入度合は、大型機械の機構部の磨耗が進むほど高くなる。そこで、外部装置30は、試料23の金属不純物の混入度合を分析することで、上記磨耗がどの程度進んでいるかを分析し、機構部品の点検や交換といったメンテナンスの要否、および将来的に必要となるメンテナンス時期の予測を行う。
【0023】
試料23を保持するサンプルホルダ20の本体部21の一部が、切り欠き部125に配置されると、励磁コイル121b、122bによる合成磁界のバランスが崩れ、検出コイル123bにおいて、電磁誘導現象が発生する。すなわち、検出コイル123bによって誘導電圧が誘起される。そして、このとき、交流電圧計である測定部133によって、上記の誘導電圧が測定される。
測定部133により測定された誘導電圧は、試料23に含まれる金属不純物濃度(磁性粉濃度)に応じた磁気バランスの変動に相当する。したがって、切り欠き部125に試料23が設置されていないときと、切り欠き部125に試料23が設置されているときとにおける測定部133による測定結果の変化量を換算することにより、試料23に含まれる金属不純物濃度が求められる。
【0024】
ここで、本実施形態では、切り欠き部125に試料23が設置されてないときに、検出コイル123bで誘導電圧が発生しないように調整されている。そのため、切り欠き部123に試料23が設置されているときに測定部133により測定された誘導電圧をそのまま換算することで、容易に金属不純物濃度を求めることができる。このように、検出コイル123bで発生する誘導電圧が零である状態からの電圧変化を測定することができるので、検出系を簡易化することができ、安価な測定が可能となる。
【0025】
本実施形態の金属不純物測定装置10において、励磁コイル121b、122bおよび検出コイル123bは、空洞コイルではなく、内部にコア材が貫通した構成である。また、サンプルホルダ20が設置される切り欠き部125以外は、コア材が閉じた構成を有する。そのため、各コイルにおける磁束の漏れは少なく、切り欠き部125においても磁束密度は大きい。
したがって、切り欠き部125に挿入されるサンプルホルダ20内の試料23が含有する金属不純物濃度が低くても、磁気バランスの変動による検出コイル123bでの電磁誘導の発生は比較的顕著となる。すなわち、試料23の金属不純物濃度が低くても、比較的高い誘電電圧を得ることができる。このように、温度変動等の周囲環境の変動による影響を小さくし、高精度に金属不純物濃度を測定することができる。
【0026】
ここで、上記した高周波電源131は、交流電圧源であっても交流電流源であってもよいが、特に定電流交流電源であることが好ましい。上記した環境温度の変化や、コイル自身の発熱により巻線抵抗が変化したとしても、定電流交流電源の場合、定電流制御をするので、結果的に磁界の変動が抑制され、検出コイル123bでの測定結果の精度が向上する。
【0027】
また、筐体11内に配置される素子部12や、切り欠き部125に挿入されるサンプルホルダ20の周囲(サンプルホルダ収容部11aの周囲)は、磁気シールド部材によって包囲されていることが好ましい。この磁気シールド部材によって、外乱ノイズの影響を防止することができる。磁気シールド部材の材質としては、例えば、鉄、パーマロイテープなどを用いることができる。なお、筐体11が磁気シールド部材により構成されていてもよい。
このような構成とすることにより、素子部12によって生成される磁界の形状や磁束密度が、周囲部材の影響により変動することが抑制され、検出コイル123bでの測定結果が安定する。
【0028】
さらに、本実施形態では、切り欠き部125に対して、
図1の上方から(筐体11の上面に垂直な方向から)試料23が収容されたサンプルホルダ20を挿入する場合について説明したが、サンプルホルダ20の挿入方向は上記に限定されない。例えば、切り欠き部125に対して、筐体11の側面に垂直な方向からサンプルホルダ20を挿入してもよい。
【0029】
また、本実施形態では、切り欠き部125に、試料23が収容されたサンプルホルダ20を設置する場合について説明したが、液体状の試料23が流れるチューブを設置するようにしてもよい。
図2は、液体状の試料23が流れるチューブ24を、筐体11の側面に垂直な方向から切り欠き部125に対して設置した場合の図であり、
図3は、
図2におけるA−A断面図である。このように構成することにより、試料23が流体である場合、連続的に金属不純物濃度を測定することが可能となる。
なお、上記実施形態のようにサンプルホルダ20を用いた場合、金属不純物測定装置10における測定を1次測定とし、更なる精密な測定を行うために異なる分析拠点へ試料23を送る場合には、他のボトル等に移し替えることなく、当該サンプルホルダ20をそのまま移送することができるという効果がある。この場合、試料23を移送用のボトル等へ移し替える手間が削減されると共に、移し替え時の不所望な不純物の混入を回避することができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、第1の連結部124aに切り欠き部125を形成する場合について説明したが、
図4に示すように、第2の連結部124bにも切り欠き部125と同様の切り欠き部126を形成してもよい。この場合、励磁コイル121b、122bによる合成磁界の磁気バランスが取りやすくなり、調整回路132による調整が容易となる。なお、切り欠き部126には、試料23は設置されないが、試料23を収容していない空のサンプルホルダ20を設置してもよい。
【0031】
(実施例)
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。
発明者らは、上記実施形態における金属不純物測定装置10と、比較例としての金属不純物測定装置とを用いて、試料23内の金属不純物濃度を測定した。
ここで、比較例としての金属不純物測定装置としては、
図5に示す金属不純物測定装置100を用いた。
金属不純物測定装置100は、筐体101内に直列接続された一対の等価な励磁コイルL1、L2が垂直な共通軸芯P上に配置された構成を有する。励磁コイルL1、L2は磁界が対向するように電源装置PSに接続されている。また、共通軸芯P上で一対の励磁コイルL1、L2による合成磁界が零となる位置には、検出コイルL3が配置されている。検出コイルL3には、鉄芯FCを螺合している。励磁コイルL1、L2には、数十kHzの励磁電流が電源装置PSより供給される。
【0032】
ここで、試料23を保持するサンプルホルダ20が励磁コイルL1の内部に挿入されると、一対の励磁コイルL1、L2による合成磁界のバランスが崩れ、検出コイルL3において、誘導電圧が誘起される。この誘導電圧は、交流電圧計である測定部Mにより測定される。この誘導電圧は、試料23に含まれる金属不純物濃度に応じた励磁コイルL1内部の透磁率の変化による磁気バランスの変動に相当するので、当該誘導電圧を換算することにより、試料23に含まれる金属不純物濃度が求められる。
【0033】
図6に、
図5に示す金属不純物測定装置100での測定結果を示す。
測定対象のサンプルとしては、ディーゼルエンジンオイル(パルスター社製、CD−30)に鉄粉を混入させて得た鉄粉添加サンプルと、建築機械から採取した金属不純物(ナノパーティクル)が含有したオイルサンプル(試料23)とを用いた。そして、各サンプルの鉄粉濃度を予め求めておき、鉄粉濃度と検出コイルで発生する誘導電圧値との関係を調べた。なお、オイルサンプルにおける鉄粉濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により求めた。また、励磁コイルL1、L2には、電源装置PSにより1kHz、0.5Vの高周波電圧を印加した。
【0034】
ここで、
図6の横軸は、サンプル中の鉄粉濃度[ppm]、縦軸は、検出コイルL3で発生する誘導電圧(電圧[mV])である。また、
図6における白い四角形で示すプロットは、鉄粉添加サンプルを用いたときの検出コイルL3で発生した誘導電圧を測定部Mにより検出した測定結果であり、黒いひし形で示すプロットは、オイルサンプル(試料23)を用いたときの検出コイルL3で発生した誘導電圧を測定部Mにより検出した測定結果である。
【0035】
この
図6からも明らかなように、鉄粉添加サンプルについては、鉄粉濃度100ppm〜2800ppmの範囲において、鉄粉濃度と測定電圧との関係はほぼ線形となっている。しかしながら、建築機械から採取したオイルサンプルについては、鉄粉濃度と測定電圧との間に線形性は確認できなかった。オイルサンプルにおいて線形性が確認できなかったのは、オイルサンプル内には鉄粉以外の金属不純物(磁性材料)が混入しているためと考えられる。
【0036】
さらに、特に鉄粉濃度300ppm以下では、鉄粉濃度に対する測定電圧との関係は、著しく変動していることがわかる。これは、
図5の金属不純物測定装置100では、各コイルが空芯コイルであるので、コイルにおける磁束密度が小さく、鉄粉濃度が小さい場合は、一対の励磁コイルL1、L2による合成磁界の磁気バランス変動が周囲温度等の周囲環境条件に大きく影響を受けるためと考えられる。この影響は、鉄粉以外の金属不純物(磁性材料)が混入している影響よりも大きいと考えられ、そのため、検出コイルL3にて発生する誘導電圧の値が鉄粉濃度300ppm以下の領域において、誘導電圧の値が大きく変動しているものと思われる。
【0037】
図7に、上記実施形態における金属不純物測定装置10での測定結果を示す。
測定対象のサンプルは、上述した金属不純物測定装置100と同様の鉄粉添加サンプルとオイルサンプル(試料23)とを用いた。そして、各サンプルの鉄粉濃度を予め求めておき、鉄粉濃度と検出コイルで発生する誘導電圧値との関係を調べた。ここで、励磁コイル121b、122bには、高周波電源131から1kHz、0.5Vの高周波電圧を印加した。
【0038】
なお、金属不純物測定装置10での測定においては、鉄粉濃度100ppm以下について、ある程度精度の高い測定が可能であるかどうかを確認することを目的とした。
図7の横軸は、サンプル中の鉄粉濃度[ppm]、縦軸は、検出コイル123bで発生した誘導電圧を測定部133で検出した測定結果(電圧[mV])であるが、鉄粉濃度100ppm以下の測定では誘導電圧の値も小さくなるので、検出コイル123bで発生した誘導電圧を周知の増幅手段により増幅後、測定部133で検出するようにした。そのため、
図6の縦軸と
図7の縦軸とは対応していない。
【0039】
この
図7からも明らかなように、鉄粉添加サンプルについては、鉄粉濃度100ppm以下の低濃度であっても、鉄粉濃度と測定電圧との関係はほぼ線形となっている。また、建築機械から採取したオイルサンプルについては、鉄粉添加サンプルのような明確な線形性は見られないものの、比較的良好な線形性を見せている。すなわち、鉄粉濃度100ppm以下の低濃度領域でも、金属不純物測定装置10によれば、精度良く金属不純物測定が可能であることが確認できた。
【0040】
なお、
図7において、オイルサンプルの鉄粉濃度が0ppmのときの誘導電圧が0mVではないのは、オイルサンプル内に鉄粉以外の金属不純物(磁性材料)が混入しているためであると考えられる。
また、比較例の金属不純物測定装置100を用いて、オイルサンプルの場合の鉄粉濃度100ppm以下の低濃度領域について、誘導電圧を増幅手段で増幅して測定部Mで検出してみたが、非常のノイズが多く、測定することは不可能であった。すなわち、目的の誘導電圧に相当する信号を判別することはできなかった。
【0041】
以上のように、本実施形態における金属不純物測定装置10は、試料23に混入した金属不純物濃度が100ppm以下と小さい場合であっても、精度良く金属不純物濃度を測定可能であることが確認できた。
近年、エンジンの高性能化の要求により、例えば金属不純物濃度が70ppm程度で潤滑オイルの交換を行うといったことが行われている。上記のように、100ppm以下の低濃度の金属不純物を精度良く測定することができることで、エンジンの高性能化に適切に対応することができる。
【0042】
(変形例)
上記実施形態においては、切り欠き部125に試料23が設置されてないときに、検出コイル123bで誘導電圧が発生しないように調整する場合について説明した。しかしながら、切り欠き部125に試料23が設置されていない状態から、切り欠き部125に試料23が設置された状態となったときの、検出コイル123bで発生する電磁誘導の変化量を検出できればよく、必ずしも、切り欠き部125に試料23が設置されてないときに、検出コイル123bにより誘導電圧が発生しないように調整する必要はない。
【0043】
また、上記実施形態においては、金属不純物測定装置10が大型機械の潤滑オイルを測定する場合について説明したが、測定対象は潤滑オイルに限定されるものではなく、例えば、海水であってもよい。海水には、硫黄やカドミウム、水銀等が含まれ得る。したがって、金属不純物測定装置10を海水測定装置として構成し、海水の金属不純物測定を行うようにしてもよい。