特許第6852598号(P6852598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852598
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20210322BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210322BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20210322BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B32B27/36
   B32B27/00 L
   C08L67/02
   C08K3/22
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-131754(P2017-131754)
(22)【出願日】2017年7月5日
(65)【公開番号】特開2019-14109(P2019-14109A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂口 善彦
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−151529(JP,A)
【文献】 特開2016−212182(JP,A)
【文献】 特開2004−237451(JP,A)
【文献】 特開2012−52885(JP,A)
【文献】 特開平7−125165(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/208519(WO,A1)
【文献】 特開2017−105985(JP,A)
【文献】 特開2009−108220(JP,A)
【文献】 特開2016−064635(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0243371(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2018−0064192(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08K 3/22
C08L 67/02
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(i)〜(iii)を満たす少なくとも2層以上から構成される積層フィルム
(i)150℃におけるフィルムMD方向の10%伸張時応力が5〜30MPaであること。
(ii)表層(A)側から測定したAFM弾性率が1900〜2200MPaであること。
(iii)基材層(B)のみに1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールから選ばれる少なくとも1つを共重合成分とするポリエステルを含有すること。
【請求項2】
表層(A)にアルミナあるいはジルコニアを含有する請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
偏光板部材製造用の離型フィルムとして使用される請求項1または2の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板部材製造用の離型フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン、液晶テレビ等の種々の画面表示装置に複屈折性を利用した高コントラストな液晶表示装置(LCD)が使用されている。近年、特に携帯電話等のモバイル向けLCDは高精細化が進み、視野角の拡大などの光学補償性能の向上が求められている。視野角特性を改善するために、LCDには光学フィルムとして各種の位相差フィルムが用いられている。しかしながら、従来の位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、斜め方向で、コントラスト比が低下したり、見る角度に伴って変化する画像の色づきが生じたりして、液晶パネルの画面全体で、表示が不均一となることが問題となっていた。
【0003】
視野角特性を改善するために、可視光線領域において長波長ほど高い位相差を有する光学フィルムが位相差フィルムとして使用される。このような光学フィルムの製造方法として、高分子フィルムを延伸する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
しかし、特許文献1のように基材から剥離したフィルムを延伸する場合、フィルムがロールや空気と直接接触することから、フィルムへの異物巻き込みやキズが発生しやすいという問題がある。また、特許文献2では基材と塗膜の積層体を延伸するものの、延伸はカットシートサイズでのバッチ処理であり、生産性の悪いものであった。
【0004】
異物巻き込みやキズ発生を低減して、しかもロールtoロールで延伸することができる生産性の高い光学フィルムの製造を実現するための基材フィルムとして成型性、寸法安定性に優れたフィルムが提案されている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−106848
【特許文献2】特開2011−227429
【特許文献3】特開2016−064635
【特許文献4】特開2016−089150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、キズ等の外観欠点の品質要求はますます厳しくなっており、特許文献3,4に記載の従来技術では光学フィルム側にキズの形状が転写され、品位として十分ではない。本発明では、上記従来の検討では達成し得なかった耐キズ性、成型性、寸法安定性に優れたフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、次の(1)〜(3)のいずれかの手段を採用する。
(1)次の(i)〜(iii)を満たす少なくとも2層以上から構成される積層フィルム
(i)150℃におけるフィルムMD方向の10%伸張時応力が5〜30MPaであること。
(ii)表層(A)側から測定したAFM弾性率が1900〜2200MPaであること。
(iii)基材層(B)のみに1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールから選ばれる少なくとも1つを共重合成分とするポリエステルを含有すること。
(2)表層(A)にアルミナあるいはジルコニアを含有すること。
(3)偏光板部材製造用の離型フィルムとして使用される(1)または(2)の積層フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来技術では達成し得なかった耐キズ性、成型性、寸法安定性に優れたフィルムを提供することができる。特にキズの発生が少なく、キズが発生しても従来より浅くすることができるため、積層フィルム上の塗布層へのキズの転写も少なくすることができ、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、前記課題、すなわち成型性、寸法安定性に優れたフィルムにおいて表層(A)の弾性率を特定の範囲にし、硬度が高い粒子を選択することで前記課題を一気に解決することを究明したものである。以下、本発明にかかる積層フィルムについて詳細を説明する。
[積層フィルムの基本構成]
本発明の積層フィルムは、表層(A)と基材層(B)とからなり、製膜の容易さと効果を考慮すると2層以上の構成が必要であり、3層構成が好ましい。特に層(A)にて層(B)を保護する形態、すなわち、表層(A)/基材層(B)/表層(A)の3層構成が好ましい。また、さらに多層となる場合、芯層部が層(B)であり、片側または両側の表層部が層(A)であることが好ましい。
【0010】
[ポリエステル]
本発明では、成型性、外観、耐熱性、寸法安定性、経済性の点から、ポリエステルを構成するグリコール単位の60モル%以上がエチレングリコール由来の構造単位であり、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸由来の構造単位であることが好ましい。なお、ここで、ジカルボン酸単位(構造単位)あるいはジオール単位(構造単位)とは、重縮合によって除去される部分が除かれた2価の有機基を意味し、要すれば、以下の一般式で表される。
【0011】
ジカルボン酸単位(構造単位): −CO−R−CO−
ジオール単位(構造単位): −O−R’−O−
(ここで、R、R’は二価の有機基)
なお、トリメリット酸単位やグリセリン単位など3価以上のカルボン酸あるいはアルコール並びにそれらの誘導体が含まれる場合は、3価以上のカルボン酸あるいはアルコール単位(構造単位)についても、同様に、重縮合によって除去される部分が除かれた3価以上の有機基を意味する。
【0012】
本発明の積層フィルムに用いるポリエステルを与える、グリコールあるいはその誘導体としては、エチレングリコール以外に、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、並びに、それらの誘導体が挙げられる。中でも、成型性、取り扱い性の点で、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく用いられる。
【0013】
また、本発明の積層フィルムに用いるポリエステルを与えるジカルボン酸あるいはその誘導体としては、テレフタル酸以外には、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、並びに、それらの誘導体を挙げることができる。ジカルボン酸の誘導体としてはたとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2−ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどのエステル化物を挙げることができる。中でも、成型性、取り扱い性の点で、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、および、それらのエステル化物が好ましく用いられる。
【0014】
[基材層(B)に含有する共重合ポリエステル]
積層フィルム全体として成型性と表層(A)における耐キズ性を両立するためには非晶成分である1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールから選ばれる少なくとも1つを共重合成分とするポリエステルは基材層(B)のみに含まれることが好ましい。表層(A)に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールから選ばれる少なくとも1つを共重合成分とするポリエステルを含有すると、表層(A)側から測定したAFM弾性率が低下し、キズが発生しやすくなる。共重合成分の中でも1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合成分とするポリエステルを含有していると、150℃におけるフィルムMD方向10%伸張時応力が15MPa以上であり、フィルムMD方向の熱収縮率が1.5%以下となり、本発明では最も好ましい。
【0015】
[150℃におけるフィルムのMD方向10%伸張時応力]
本発明の積層フィルムは塗布層を設けた後に少なくとも一軸方向に延伸するため、150℃におけるフィルムMD方向の10%伸張時応力が5〜30MPaである必要がある。
【0016】
150℃におけるフィルムMD方向10%伸張時応力とは、試験長50mmの矩形型に切り出したフィルムサンプルを予め150℃に設定した恒温槽中にフィルムサンプルをセットし、90秒間の予熱後に、300mm/分のひずみ速度で引張試験を行った際、サンプルが10%伸張したときのフィルムにかかる応力を示す。
【0017】
なお、評価は、フィルムの任意の位置における主配向軸方向をTD方向とし、その位置を中心(以下、TD方向中心とも言う。)として、TD方向に沿って2方向それぞれ700mm幅をとって、1400mm幅としたフィルムのTD方向中心、TD方向中心からTD方向の任意の一方向(A方向)の650mmの位置、TD方向中心からTD方向のA方向と反対の方向(B方向)の650mmの位置3点でそれぞれ5回行い、その15個の値の平均値を150℃におけるフィルムMD方向10%伸張時応力とした。延伸性の観点から、150℃におけるフィルムMD方向10%伸張時応力は、15MPa以上25MPa以下であればさらに好ましい。
【0018】
本発明の積層フィルムにおいて、150℃におけるフィルムのMD方向10%伸張時応力を上記の範囲とする方法としては、B層のポリエステルを構成するグリコール成分として、1,3−プロパンジオール成分、1,4−ブタンジオール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上のグリコール成分を含むことが挙げられるが、エチレングリコール成分を60モル%以上含有することが好ましい。なかでも、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上含まれることが好ましく、中でも1,4−シクロヘキサンジメタノール成分が成形性、耐熱性の観点で最も好ましい。
【0019】
[フィルムMD方向の熱収縮率]
また、本発明の積層フィルムは、フィルムMD方向の熱収縮率が5%以下であることが好ましい。ここで、MD方向の熱収縮率とは、フィルムをMD方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルに100mmの間隔で標線を描き(中央部から両端に50mmの位置)、3gの錘を吊るして150℃に加熱した熱風オーブン内に30分間設置し加熱処理を行った前後の標線間距離の変化率を指す。
本発明の積層フィルムは、フィルムMD方向の熱収縮率を5%以下とすることで、光学フィルム用樹脂組成物を塗布して乾燥する際に、フィルム収縮に起因した塗布ムラや光学特性のムラを抑制することができる。フィルムMD方向の熱収縮率は1.5%以下であればさらに好ましい。
【0020】
MD方向の熱収縮率を5%以下とする方法としては、例えば、二軸延伸後のフィルムの熱処理条件を調整する方法が挙げられる。処理温度は高温とすることで、配向緩和がおこり、熱収縮率は低減される傾向になるが、寸法安定性、フィルムの品位の観点から二軸延伸後の熱処理温度は200〜240℃であれば好ましく、210〜235℃であればさらに好ましく、215〜230℃であれば最も好ましい。
【0021】
なお、本発明の積層フィルムの熱処理温度は、示差走査型熱量計(DSC)において窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で測定したときのDSC曲線に熱履歴に起因する微小吸熱ピークから微小吸熱ピーク温度(Tmeta)を測定することで求めることができる。
【0022】
また、好ましい熱処理時間としては、5〜60秒間で任意に設定することができるが、成型性、寸法安定性、色調、生産性の観点から、10〜40秒とすることが好ましく、15〜30秒とすることが好ましい。また、熱処理は、長手方向及び/又は幅方向に弛緩させながら行うことで、熱収縮率を低減させることができる。熱処理時に弛緩させる際の弛緩率(リラックス率)は、1%以上が好ましく、寸法安定性、生産性の観点からは、1〜10%であれば好ましく、1〜5%であれば最も好ましい。
【0023】
さらに、2段階以上の条件で熱処理する方法も非常に好ましい。200℃〜240℃の高温での熱処理後に、熱処理温度より低い温度で、長手方向及び/又は幅方向に弛緩させながら熱処理することで、さらに熱収縮率を低減させることが可能となる。このときの2段目の熱処理温度は120〜200℃未満であれば好ましく、150〜180℃であればさらに好ましい。
【0024】
[表層(A)側から測定したAFM弾性率]
本発明における表層(A)側から測定したAFM弾性率が1900〜2200MPaであることが好ましい。本発明におけるキズの形状は長さ100〜300μm、幅1〜3μm、深さ30〜200nm程度の微細なキズのため、キズの発生領域におけるナノオーダーでの弾性率とキズとの相関を取る必要がある。表層(A)側から測定したAFM弾性率が1900MPa未満の場合、キズ深さが200nm以上となり、2200MPaより大きくなると弾性率が高くなり成形加工性が悪化する。キズの深さの観点から2000〜2200MPaが好ましい。
【0025】
[表層(A)中の粒子]
表層(A)中には2種以上の粒子を含有させることができる。1種類はフィルムの搬送性、離型性を向上させるための粒子であり、無機粒子であれば酸化ケイ素、ケイ酸アルミ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなど、有機粒子としてはポリスチレン系、アクリル系、シリコーン系の架橋粒子を使用することができる。平均粒子径は0.5μ〜1.5μmが好ましく、含有量は表層(A)全体を100重量%として0.01重量%〜0.5重量%が好ましく、経済性・モース硬度の観点から炭酸カルシウムあるいは架橋ポリスチレン粒子が最も好ましい。
【0026】
もう1種類は表層(A)における粒子の存在しない部分(地肌)のキズの発生が少なくし、キズが発生しても従来より浅くするための粒子であり、モース硬度が高く、粒子径の比較的小さい粒子を適用することができる。その点では、α―アルミナ、γ―アルミナ、δ−アルミナ、ジルコニアなどを使用することができる。平均粒子径は50nm〜400nmが好ましく、含有量は表層(A)全体を100重量%として0.01重量%〜0.50重量%が好ましい。ポリエステルとの親和性・経済性・モース硬度の観点からδ−アルミナ粒子が最も好ましい。平均粒子径や含有量が上限を超えるとモース硬度が高いため、巻き取り時にキズが発生しやすくなり、下限を下回るとキズ抑制効果が薄れることがある。
【0027】
[積層フィルムの製造方法]
次に本発明の積層フィルムの具体的な製造方法の例について記載するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0028】
まず、基材層(B)に使用するポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂(a)と1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)を所定の割合で計量する。また、表層(A)に使用するポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂(a)と2種類以上の粒子を所定の割合で計量する。
【0029】
そして、混合したポリエステル樹脂をベント式二軸押出機に供給し溶融押出する。この際、押出機内を流通窒素雰囲気下で、酸素濃度を0.7体積%以下とし、樹脂温度は265℃〜295℃に制御することが好ましい。ついで、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を各々行い、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出する。その際、高電圧を掛けた電極を使用して静電気で冷却ドラムと樹脂を密着させる静電印加法、キャスティングドラム温度をポリエステル樹脂のガラス転移点〜(ガラス転移点−20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から、静電印加する方法が好ましく使用される。
【0030】
本発明の積層フィルムは、耐熱性、寸法安定性の観点から二軸配向フィルムとすることが必要である。二軸配向フィルムは、未延伸フィルムを長手方向次いで幅方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。
【0031】
かかる延伸方法における延伸倍率とは、長手方向に、好ましくは2.8倍以上3.8倍以下、さらに好ましくは3.1倍以上3.5倍以下が採用される。また、延伸速度は1000%/分以上200000%/分以下であることが望ましい。また長手方向の延伸温度は、70℃以上90℃以下とすることが好ましい。また、幅方向の延伸倍率としては、好ましくは3.1倍以上4.5倍以下、さらに好ましくは3.5倍以上4.2倍以下が採用される。
【0032】
さらに、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。この熱処理は120℃以上ポリエステルの結晶融解ピーク温度以下の温度で行われるが、好ましくは200℃以上240℃以下であり、210℃以上235℃以下であればさらに好ましく、215℃以上230℃以下であれば最も好ましい。ここで好ましい熱処理温度とは、二軸延伸後に行う熱処理温度の中で最も高温となる温度を示す。
【0033】
[積層フィルムの用途]
本発明の積層フィルムは偏光板部材製造用の離型フィルムとして好適に使用できる。その他にもコンデンサ用セラミックスシート、貼付薬・シップ材等の医療用粘着材離型フィルムそして有機ELディスプレイのキズ等の外観欠点要求の厳しい用途にて用いることができる。
【実施例】
【0034】
(1)ポリエステルの組成
ポリエステル樹脂およびフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、1H−NMRおよび13C−NMRを用いて各モノマー残基成分や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量することができる。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取し、評価することができる。なお、本発明のフィルムについては、フィルム製造時の混合比率から計算により、組成を算出した。
【0035】
(2)層厚み
フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルム断面をミクロトームで切り出した。該断面を透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)で5000倍の倍率で観察し、各層の厚みを求めた。任意に採取した5サンプルについて上記測定を実施し、その数平均を「層厚み」とした。
【0036】
(3)150℃におけるフィルムMD方向の10%伸張時応力
フィルムをMD方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出したサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期張力チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムのMD方向に引張試験を行った。測定は予め150℃に設定した恒温槽中にフィルムサンプルをセットし、90秒間の予熱の後で引張試験を行った。サンプルが10%伸張したとき(チャック間距離が55mmとなったとき)のフィルムにかかる荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値を10%伸張時応力とした。任意に採取した5サンプルについて上記測定を実施し、その数平均を「150℃におけるフィルムMD方向の10%伸張時応力」とした。
【0037】
(4)フィルムMD方向の熱収縮率
フィルムをMD方向およびTD方向にそれぞれ長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔(中央部から両端に50mmの位置)で標線を描き、3gの錘を吊るして所定温度(150℃)に加熱した熱風オーブン内に30分間設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から下記式により熱収縮率を算出した。任意に採取した5サンプルについて上記測定を実施し、その数平均を「フィルムMD方向の熱収縮率」とした。
熱収縮率(%)={(加熱処理前の標線間距離)−(加熱処理後の標線間距離)}/(加熱処理前の標線間距離)×100。
【0038】
(5)表層(A)側から測定したAFM弾性率
離型フィルムの離型層表面について、AFM(Burker Corporation製 DimensionIcon)を用い、PeakForceQNMモードにて測定を実施し、得られたフォースカーブから付属の解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」を用いて、JKR接触理論に基づいた解析を行い、弾性率分布を求めた。
【0039】
具体的にはPeakForceQNMモードのマニュアルに従い、カンチレバーの反り感度、バネ定数、先端曲率の構成を行った後、下記の条件にて測定を実施し、得られたDMT Modulusチャンネルのデータを表面の弾性率として採用した。なお、バネ定数および先端曲率は個々のカンチレバーによってバラつきを有するが、測定に影響しない範囲として、バネ定数0.3(N/m)以上0.5(N/m)以下、先端曲率半径15(nm)以下の条件を満たすカンチレバーを採用し、測定に使用した。
【0040】
測定条件は下記に示す。
測定装置 : Burker Corporation製原子間力顕微鏡(AFM)
測定モード : PeakForceQNM(フォースカーブ法)
カンチレバー: ブルカーAXS社製SCANASYST-AIR
(材質:Si、バネ定数K:0.4(N/m)、先端曲率半径R:2(nm))
測定雰囲気 : 23℃・大気中
測定範囲 : 3(μm)四方
分解能 : 512×512
カンチレバー移動速度: 10(μm/s)
最大押し込み荷重 : 10(nN)
次いで得られたDMT Modulusチャンネルのデータを解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」にて解析し、Roughnessにて処理することにより得られた、ResultsタブのImage Raw Meanの値を、離型層表面の弾性率とした。更に得られた弾性率のヒストグラムの各階級値および観測頻度を表計算ソフト「Microsoft Office Excel 2010」に取り込み、STDEVP関数を用いることで、弾性率分布の標準偏差を算出した。任意に採取した5サンプルについて上記測定を実施し、その数平均を「表層(A)側から測定したAFM弾性率」とした。
【0041】
(6)結晶融解前の微小吸熱ピーク温度(Tmeta)
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用い、JIS K7121−1987、JIS K7122−1987に準拠して測定および、解析を行った。ポリエステルフィルムを5mg、サンプルに用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際の結晶融解ピークの前に現れる微小の吸熱ピーク温度をTmetaとして読み取った。任意に採取した5サンプルについて上記測定を実施し、その数平均を「結晶融解前の微小吸熱ピーク温度」とした。
【0042】
(7)寸法安定性
1000mm幅のポリエステルフィルム表面に、ポリアリレート/MEK分散体をダイコーターにて塗工・乾燥を行った。(乾燥温度:150℃、乾燥時間:1分、巻出張力:200N/m、巻取張力:100N/m)。乾燥後のポリエステルフィルムの幅を測定し、下記の基準で評価を行った(乾燥後のポリアリレート厚みは25μm)。
A:幅縮みが10mm未満(乾燥後のポリエステルフィルムの幅が990mm以上)であった。
B:幅縮みが10mm以上15mm未満(乾燥後のポリエステルフィルムの幅が985mm以上)であった。
C:幅縮みが15mm以上(乾燥後のポリエステルフィルムの幅が985mm未満)であった。
【0043】
なお、幅縮みの評価は、塗工・乾燥後のフィルムの任意の10箇所を選定して幅測定を行い、その任意10箇所のフィルム幅平均値を幅縮み量として採用した。
【0044】
(8)成型加工性
(7)で得られたポリアリレートが塗布されたポリエステルフィルムを、熱風オーブンに投入し、長手方向に一軸延伸を行った(オーブン温度:150℃、幅方向フリー)。フィルムの延伸性(成型加工性)について、下記の基準で評価を行った。
A:延伸張力1200N/m未満で、1.1倍延伸が可能であった。
B:延伸張力1200N/m以上1500N/m未満で、1.1倍延伸が可能であった。
C:延伸張力1500N/mで1.1倍延伸ができなかった。
【0045】
(9)キズ評価
新東科学社製摩擦磨耗試験機HEIDONを用いて、磨耗材を装着せずに接触面積15mmφ、荷重1.13g/mm、速度30mm/min、ストローク長60mmにて摩擦試験と実施した。
次いで、キーエンス社製レーザー顕微鏡VK−9700を用いて、摩擦試験にて得られたサンプルを観察し、深さが50nm以上、長さ200nmで検出される部分をキズとし、同一のキズを5回測定し、測定された深さの数平均を算出した。任意に採取した5つのキズについて上記測定を実施し、数平均を「キズ深さ」とした。また、下記判定を実施し、B級以上を合格した。
A:キズ深さが100nm未満である
B:キズ深さが100nm以上200nm未満である
C:キズ深さが200nm以上である。
【0046】
(ポリエステルの製造)
製膜に供したポリエステル樹脂および粒子マスターは以下のように準備した。
【0047】
(ポリエステルA)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0048】
(ポリエステルB)
1,4−シクロヘキサンジメタノールがグリコール成分に対し33モル%共重合された共重合ポリエステル(イーストマン・ケミカル社製 GN001)を、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステルとして使用した。
【0049】
(ポリエステルC)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が70モル%、ネオペンチルグリコール成分が30モル%であるネオペンチルグリコール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0050】
(ポリエステルD)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が82.5モル%、イソフタル酸成分が17.5モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0051】
(粒子マスターA)
ポリエステルA中に数平均粒子径1.1μmの炭酸カルシウム粒子を粒子濃度2質量%で含有したポリエステルAの粒子マスター。
(粒子マスターB)
ポリエステルA中に数平均粒子径0.8μmの架橋ポリスチレン粒子を粒子濃度2質量%で含有したポリエステルAの粒子マスター。
(粒子マスターC)
ポリエステルA中に数平均粒子径250nmのδ―アルミナを粒子濃度2質量%で含有したポリエステルAの粒子マスター。
【0052】
(実施例1〜5)
組成を表の通りとして、原料をそれぞれ酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を277℃で溶融し、A層とB層合流後の短管温度を277℃、口金温度を280℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させA層/B層/A層からなる3層未延伸フィルムを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、延伸温度85℃で長手方向に3.1倍延伸し、すぐに40℃に制御した金属ロールで冷却した。
【0053】
次いでテンター式横延伸機にて延伸前半温度95℃、延伸中盤温度105℃、延伸後半温度140℃で幅方向に3.7倍延伸し、そのままテンター内にて、熱処理前半温度200℃、熱処理中盤温度225℃で熱処理を行った。このとき、熱処理前半で幅方向に5%微延伸を行い、さらに熱処理中盤で幅方向に3%微延伸を行いながら熱処理を施した。その後、熱処理後半温度180℃で、幅方向に3%のリラックスを掛けながら熱処理を行い、フィルム厚み50μmの積層フィルムを得た。
【0054】
(比較例1〜4)
組成を表の通りに変更し、実施例1−5と同様にして厚み50μmの積層フィルムを得た。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、従来技術では達成し得なかった耐キズ性、成型性、寸法安定性に優れたフィルムを提供することができる。特にキズの発生が少なく、キズが発生しても従来より浅くすることができるため、積層フィルム上の塗布層へのキズの転写も少なくすることができ、生産性を向上することができる。
偏光板部材製造用だけでなく、その他にもコンデンサ用セラミックスシート、貼付薬・シップ材等の医療用粘着材離型フィルムそして有機ELディスプレイのキズ等の外観欠点要求の厳しい用途にて広く利用することができる。