特許第6852607号(P6852607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852607
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】冷媒導入装置及びガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/54 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   G01N30/54 D
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-141919(P2017-141919)
(22)【出願日】2017年7月21日
(65)【公開番号】特開2019-20361(P2019-20361A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】中野 茂暢
(72)【発明者】
【氏名】小森 優輝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌之
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−173649(JP,A)
【文献】 実開昭60−165864(JP,U)
【文献】 特開2003−207246(JP,A)
【文献】 特開平06−341751(JP,A)
【文献】 米国特許第03305000(US,A)
【文献】 米国特許第05402668(US,A)
【文献】 米国特許第05271230(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第105954446(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 −30/96
B01J 20/281−20/292
G01N 35/00 −37/00
G05D 23/00 −23/32
B01L 1/00 −99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフに備えられた冷却対象を冷却するための冷媒導入装置と、前記冷媒導入装置から冷媒が導入される冷却対象としてのカラムオーブンと、前記カラムオーブン内に配置されたカラムと、前記カラムオーブン内の温度を検出する温度検出部とを備えるガスクロマトグラフであって、
前記冷媒導入装置は、
所定の時間差で間欠的に前記カラムオーブンに冷媒を供給する冷媒供給部と、
前記時間差と、前記時間差で前記カラムオーブンに冷媒を供給したときの前記カラムオーブンの温度の低下幅と、を対応付けて記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記時間差及び前記低下幅の関係に基づいて、前記カラムオーブンの温度を予測する温度予測処理部とを備え
前記低下幅が、冷媒の供給時での前記カラムオーブン内の温度と、冷媒供給後での前記カラムオーブン内の最低温度との差であることを特徴とするガスクロマトグラフ
【請求項2】
前記温度予測処理部により予測される前記カラムオーブンの温度に基づいて、前記冷媒供給部から前記カラムオーブンへの冷媒の供給を制御する冷却制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ
【請求項3】
前記冷却制御部は、冷媒を供給するか否かの判定処理を一定周期で行い、前記温度予測処理部により予測される前記カラムオーブンの温度が許容範囲内にない場合には、前記冷媒供給部から前記カラムオーブンへの冷媒の供給タイミングを延期させる判定を行うことを特徴とする請求項2に記載のガスクロマトグラフ
【請求項4】
前記供給タイミングが延期されることにより延長された前記時間差と、前記時間差で前記カラムオーブンに冷媒を供給したときの前記カラムオーブンの温度の低下幅と、を対応付けて前記記憶部に記憶させる記憶処理部をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のガスクロマトグラフ
【請求項5】
前記冷媒供給部には、前記カラムオーブン内における前記カラムが配置される領域の近傍まで延び、吐出口から冷媒を吐出させる供給管が含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項6】
前記カラムオーブン内に設けられ、当該カラムオーブン内を加熱するためのヒータをさらに備え、
前記供給管は、前記ヒータと前記カラムとの間の領域まで延びていることを特徴とする請求項に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項7】
前記供給管は、前記カラムが配置される領域の近傍において湾曲形状に形成されていることを特徴とする請求項又はに記載のガスクロマトグラフ。
【請求項8】
前記供給管は、前記カラムの形状に対応する湾曲形状に形成されていることを特徴とする請求項に記載のガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却対象を冷却するための冷媒導入装置、及び、当該冷媒導入装置を備えたガスクロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷却対象としてのカラムオーブン内に冷媒を導入し、カラムオーブン内部を冷却させる冷媒導入装置を備えたガスクロマトグラフが用いられている。分析動作の際には、カラムオーブン内に設けられたヒータの動作、及び、冷媒導入装置による冷媒の導入動作により、カラムオーブン内の温度が設定温度に近づくように制御が行われる(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
下記特許文献1に記載のガスクロマトグラフでは、カラムオーブン内において、温度を検知するための温度センサが設けられており、冷媒導入装置において、冷媒の供給量を調整するためのバルブが設けられている。そして、温度センサが検出するカラムオーブン内の温度が設定温度よりも高く、かつ、その差が大きい場合には、バルブの開度を大きくし、温度センサが検出するカラムオーブン内の温度が設定温度に近づくにつれて、バルブの開度を小さくする制御が行われる。
【0004】
このように、特許文献1に記載のガスクロマトグラフでは、設定温度、及び、カラムオーブン内の実際の温度に基づいてバルブの開度を調整する、いわゆるフィードバック制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−48191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来のガスクロマトグラフでは、カラムオーブン内を冷却させる際に温度が安定しにくいという不具合があった。
【0007】
具体的には、冷媒導入装置は、冷媒が貯留されるボンベと、ボンベ及びカラムオーブンに接続される供給管とを備えている。そして、バルブが開かれることで、ボンベ内の冷媒がカラムオーブン内に供給される。このとき、ボンベにおける冷媒の残量や、ボンベの温度などは、使用状況や使用環境によって異なる。そのため、冷媒の供給圧力が適宜変化し、バルブの開度を一定にしても、冷媒の供給量が変化してしまう。その結果、バルブの開度を一様に調整することができず、カラムオーブン内の温度が安定しにくいという不具合が生じる。
【0008】
また、冷媒がカラムオーブン内に導入されてから、その冷媒の影響によって温度センサ周囲の雰囲気温度が低下するまでの間にタイムラグが生じるため、カラムオーブン内の温度が一層安定しにくいという不具合が生じる。
【0009】
例えば、必要な量の冷媒がカラムオーブン内に導入された場合であっても、冷媒が導入された直後には、温度センサ周囲の雰囲気温度は完全には低下しない(安定しない)。そのため、温度センサの検出温度に基づいて、ガスをカラムオーブン内に導入し続けると、センサの検出温度が設定温度に到達したときには、カラムオーブン内に必要以上の冷媒が導入されることとなる。その結果、その後に冷媒の導入を停止したとしても、温度センサ周囲の雰囲気温度は、さらに低下し、最終的には、設定温度よりも大きく低下してしまう。このように、上記のガスクロマトグラフの構成では、カラムオーブン内の温度が安定しにくいという不具合が生じてしまう。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、冷却対象の温度を精度よく調整することを可能にする冷媒導入装置、及び、当該冷媒導入装置を備えたガスクロマトグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る冷媒導入装置は、ガスクロマトグラフに備えられた冷却対象を冷却するための冷媒導入装置である。前記冷媒導入装置は、冷媒供給部と、記憶部と、温度予測処理部とを備える。前記冷媒供給部は、所定の時間差で間欠的に前記冷却対象に冷媒を供給する。前記記憶部は、前記時間差と、前記時間差で前記冷却対象に冷媒を供給したときの前記冷却対象の温度の低下幅と、を対応付けて記憶する。前記温度予測処理部は、前記記憶部に記憶されている前記時間差及び前記低下幅の関係に基づいて、前記冷却対象の温度を予測する。
【0012】
このような構成によれば、温度予測処理部は、冷媒供給部が冷媒を供給する時間差と、その際の冷却対象の温度の低下幅に基づいて、冷媒供給部から冷媒を供給したと仮定した場合の冷却対象の温度を予測する。
そのため、冷媒供給部から冷媒を供給した場合の冷却対象の温度を、温度予測処理部によって精度よく予測できる。
【0013】
そして、その予測した冷却対象の温度が、分析動作に適した値である場合に、冷媒供給部から冷媒を供給すれば、冷却対象の温度を適切な温度に近づけることができる。
そのため、冷却対象の温度を精度よく調整することが可能になる。
【0014】
(2)また、前記冷媒導入装置は、冷却制御部をさらに備えてもよい。前記冷却制御部は、前記温度予測処理部により予測される前記冷却対象の温度に基づいて、前記冷媒供給部から前記冷却対象への冷媒の供給を制御する。
【0015】
このような構成によれば、いわゆるフィードバック制御によって冷媒の供給量を調整する場合に比べて、適切な量の冷媒を冷却対象に供給できる。
そのため、冷却対象の温度を精度よく調整できる。
【0016】
(3)また、前記冷却制御部は、冷媒を供給するか否かの判定処理を一定周期で行い、前記温度予測処理部により予測される前記冷却対象の温度が許容範囲内にない場合には、前記冷媒供給部から前記冷却対象への冷媒の供給タイミングを延期させる判定を行うものであってもよい。
【0017】
このような構成によれば、温度予測処理部により予測される冷却対象の温度が許容範囲内にない場合には、供給タイミングを延期させる判定処理を行って冷媒の供給を行わず、温度予測処理部により予測される冷却対象の温度が許容範囲内である場合に、冷媒を供給する判定処理を行って冷媒を供給できる。
そのため、適切なタイミングで冷却対象に冷媒を供給できる。
【0018】
(4)また、前記冷媒導入装置は、記憶処理部をさらに備えてもよい。前記記憶処理部は、前記供給タイミングが延期されることにより延長された前記時間差と、前記時間差で前記冷却対象に冷媒を供給したときの前記冷却対象の温度の低下幅と、を対応付けて前記記憶部に記憶させる。
【0019】
このような構成によれば、分析動作中において、冷媒が供給される時間差と、冷媒を供給した際の低下幅とを、リアルタイムで記憶部に記憶させることができる。そして、リアルタイムで記憶部に記憶される時間差及び低下幅に基づいて、温度予測処理部によってカラムオーブン内の温度を予測するため、カラムオーブン内の温度を精度よく予測できる。
【0020】
(5)本発明に係るガスクロマトグラフは、前記冷媒導入装置と、冷却対象としてのカラムオーブンと、カラムと、温度検出部とを備える。前記カラムオーブンには、前記冷媒導入装置から冷媒が導入される。前記カラムは、前記カラムオーブン内に配置される。前記温度検出部は、前記カラムオーブン内の温度を検出する。
【0021】
このような構成によれば、冷媒導入装置によりカラムオーブン内の温度を精度よく調整しながら、分析動作を行うことができる。
そのため、精度のよい分析を行うことができる。
【0022】
(6)また、前記冷媒供給部には、供給管が含まれてもよい。前記供給管は、前記カラムオーブン内における前記カラムが配置される領域の近傍まで延び、吐出口から冷媒を吐出させる。
【0023】
このような構成によれば、カラムオーブン内は、冷媒を内部に含む供給管によって冷却される。そして、カラムオーブン内に、供給管を介して冷媒が供給されることにより、カラムオーブン内がさらに冷却される。すなわち、カラムオーブン内は、供給管自体、及び、供給管から供給される冷媒によって段階的に冷却される。
そのため、冷媒導入装置によって、カラムオーブン内の温度を精度よく調整できる。
このような構成の場合、少量の冷媒を供給するだけで、カラムオーブン内が急激に冷却されるため、温度予測処理部の処理を行うことが一層効果的である。
【0024】
(7)また、前記ガスクロマトグラフは、ヒータをさらに備えてもよい。前記ヒータは、前記カラムオーブン内に設けられ、当該カラムオーブン内を加熱する。前記供給管は、前記ヒータと前記カラムとの間の領域まで延びていてもよい。
【0025】
このような構成によれば、冷媒を内部に含む供給管によって、ヒータとカラムとの間の領域を冷却できる。
【0026】
(8)また、前記供給管は、前記カラムが配置される領域の近傍において湾曲形状に形成されていてもよい。
【0027】
このような構成によれば、冷媒を内部に含む供給管によって、カラム周辺の雰囲気を効率的に冷却できる。
【0028】
(9)また、前記供給管は、前記カラムの形状に対応する湾曲形状に形成されていてもよい。
【0029】
このような構成によれば、冷媒を内部に含む供給管によって、カラム自体を効率的に冷却できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、温度予測処理部は、冷媒供給部が冷媒を供給する時間差と、その際の冷却対象の温度の低下幅に基づいて、冷媒供給部から冷媒を供給したと仮定した場合の冷却対象の温度を予測する。そのため、冷媒供給部から冷媒を供給した場合の冷却対象の温度を、温度予測処理部によって精度よく予測できる。そして、その予測した冷却対象の温度が、分析動作に適した値である場合に、冷媒供給部から冷媒を供給すれば、冷却対象の温度を適切な温度に近づけることができる。そのため、冷却対象の温度を精度よく調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施形態に係るガスクロマトグラフの構成例を示した概略図である。
図2図1のガスクロマトグラフに用いられる内部供給管を示した正面図である。
図3】制御部及びその周辺の部材の電気的構成を示したブロック図である。
図4】カラムオーブン内の温度の経時的変化を示したグラフである。
図5A】記憶部に記憶される温度変化テーブルの概念を示した図であって、冷媒供給が開始される前の状態を示している。
図5B】記憶部に記憶される温度変化テーブルの概念を示した図であって、一定周期のタイミングで冷媒が供給されることに応じて、情報が記憶される状態を示している。
図5C】記憶部に記憶される温度変化テーブルの概念を示した図であって、冷媒の供給タイミングが一旦延期され、その後に冷媒が供給されることに応じて、情報が記憶される状態を示している。
図6】制御部による制御動作の一例を示したフローチャートである。
図7】本発明の第2実施形態に係るガスクロマトグラフに用いられる内部供給管を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
1.ガスクロマトグラフの構成
図1は、本発明の第1実施形態に係るガスクロマトグラフ1の構成例を示した概略図である。
ガスクロマトグラフ1は、キャリアガスとともに試料ガスをカラム2内に供給することにより分析を行うためのものであり、上記カラム2以外に、カラムオーブン3、ヒータ4、ファン5、試料導入部6、検出器7及び冷媒供給部8などを備えている。
【0033】
カラム2は、カラムオーブン3内に収容されている。カラム2は、例えば、キャピラリカラムからなる。
カラムオーブン3は、ボックス形状に形成されている。カラムオーブン3が、冷却対象の一例である。
ヒータ4は、カラムオーブン3内を加熱するためのものであり、カラムオーブン3内に配置されている。ヒータ4は、カラム2と間隔を隔てて配置されている。カラムオーブン3内において、カラム2とヒータ4との間には、仕切り板9が設けられている。仕切り板9には、空気が通過するため穴や、冷媒供給部8の一部を挿通させるための穴が形成されている。
【0034】
ファン5は、カラムオーブン3内に配置されている。ファン5は、ヒータ4に対して、カラム2と反対側に設けられている。ガスクロマトグラフ1では、ファン5が設けられる側が後方側であり、カラム2が設けられる側が前方側である。
【0035】
試料導入部6は、カラム2内にキャリアガス及び試料ガスを導入するためのものであり、その内部に試料気化室(図示せず)が形成されている。この試料気化室には、液体試料が注入され、試料気化室内で気化された試料が、キャリアガスとともにカラム2内に導入される。また、試料気化室には、ガス供給流路11及びスプリット流路12が連通している。
ガス供給流路11は、試料導入部6の試料気化室内にキャリアガスを供給するための流路である。
【0036】
スプリット流路12は、スプリット導入法によりカラム2内にキャリアガス及び試料ガスを導入する際に、試料気化室内のガス(キャリアガス及び試料ガスの混合ガス)の一部を所定のスプリット比で外部に排出するための流路である。
【0037】
検出器7は、例えば、水素炎イオン化検出器(FID)や、炎光光度検出器(FPD)により構成される。検出器7は、カラム2から導入されるキャリアガスに含まれる各試料成分を順次検出する。
【0038】
冷媒供給部8は、カラムオーブン3内に冷媒を供給することにより、カラムオーブン3内を冷却するための装置である。冷媒供給部8から供給される冷媒は、例えば、N2ガスやCO2ガスなどの冷却用ガスである。冷媒供給部8は、その一部がカラムオーブン3内に配置されている。冷媒供給部8の詳細な構成については、後述する。
【0039】
ガスクロマトグラフ1において試料の測定が行われる場合には、まず、分析対象となる試料が試料導入部6に注入される。試料は、試料気化室において気化される。また、試料導入部6の試料気化室には、ガス供給流路11を介してキャリアガスが供給される。
【0040】
試料気化室内で気化された試料は、キャリアガスとともにカラム2内に導入される。カラム2内に試料が導入された後、ヒータ4及びファン5が駆動されて、カラムオーブン3内が加熱されることにより、カラムオーブン3内の温度が徐々に上昇する。試料に含まれる各試料成分は、カラム2内を通過する過程で分離されて、検出器7に順次導入される。
【0041】
そして、検出器7において、カラム2から導入されるキャリアガスに含まれる各試料成分が順次検出される。ガスクロマトグラフ1では、検出器7の検出信号に基づいてクロマトグラムが生成される。ユーザは、得られたクロマトグラムを確認して、各種分析を行う。クロマトグラムの確認後、高温空気が系外に排出されることにより、カラムオーブン3内が初期温度まで冷却される。
【0042】
このような分析動作中には、適宜、冷媒供給部8からカラムオーブン3内に冷媒が供給される。これにより、カラムオーブン3内が所定温度(目的温度)まで冷却(温調)される。このように、ガスクロマトグラフ1では、分析動作中は、冷媒供給部8によって、カラムオーブン3内が温調される。
【0043】
2.冷媒供給部の構成
冷媒供給部8は、流量調整バルブ80と、外部供給管81と、抵抗管82と、内部供給管83とを備えている。
流量調整バルブ80は、カラムオーブン3の側壁(後壁)に設けられている。流量調整バルブ80は、冷媒の流量を調整するためのバルブである。流量調整バルブ80には、外部供給管81と、抵抗管82とが接続されている。すなわち、流量調整バルブ80は、外部供給管81と、抵抗管82との間に介在されている。流量調整バルブ80は、後述する制御部30によって、その開度が調整される。
【0044】
外部供給管81は、カラムオーブン3の外部に配置されている。外部供給管81は、その下流側端部が、流量調整バルブ80に接続されている。図示しないが、外部供給管81の上流側端部は、冷媒が貯留されたボンベなどの貯留部に接続されている。そして、この貯留部から冷媒が供給される。
【0045】
抵抗管82は、カラムオーブン3の内部に配置されている。抵抗管82は、その上流側端部が、流量調整バルブ80に接続されている。抵抗管82は、その長さに応じた流路抵抗を有する管状の部材である。抵抗管82の内径は、内部供給管83の内径よりも小さい。
【0046】
内部供給管83は、カラムオーブン3の内部に配置されている。具体的には、内部供給管83は、カラム2と、ヒータ4との間の領域に配置されており(延びており)、より具体的には、カラム2と、仕切り板9との間に配置されている(延びている)。内部供給管83が供給管の一例である。
図2は、内部供給管83を示した正面図である。
内部供給管83は、湾曲形状(円弧状)に形成されている。内部供給管83は、管状部831と、接続部832とを備えている。
【0047】
管状部831は、管状に形成されている。管状部831は、上流側端部から中央部にかけて円弧状に湾曲しており、中央部(中央部からやや下流側部分)から下流側端部までの部分が直線状に延びる形状となっている。すなわち、管状部831は、円弧状に形成される部分と、直線状に形成される部分とを含んでいる。管状部831の下流側端部(直線部分の先端部)の内部空間が吐出口83Aである。管状部831の中央部は、固定部材20に保持されている。管状部831の上流側端部には、接続部832が取り付けられている。
【0048】
接続部832は、円筒状に形成されている。接続部832の内部空間は、管状部831の内部空間に連通している。接続部832の先端部(上流側端部)は、抵抗管82を取り付けることができる構成(着脱可能な構成)となっている。
【0049】
図1では、図示を省略しているが、固定部材20は、仕切り板9に取り付けられている。そして、その固定部材20によって内部供給管83(管状部831)が保持されている。これにより、内部供給管83は、仕切り板9とカラム2との間に配置された状態で保持される。この状態において、内部供給管83の下流側端部は、カラムオーブン3内における下方部分に配置されている。また、内部供給管83の吐出口83Aは、水平方向に向いている。これにより、吐出口83Aから吐出される冷媒は、カラム2に直接噴射されず、カラムオーブン3の内壁に当たって拡散するようになっている。
【0050】
内部供給管83は、カラムオーブン3内で保持された状態において、カラム2が配置される領域の近傍に設けられる。具体的には、内部供給管83は、カラム2の後方に間隔を隔てて配置されている。また、内部供給管83の形状は、カラム2の形状に対応している。具体的には、内部供給管83の外形の大きさは、カラム2の外形の大きさとほぼ同程度であり、前後方向に見たときに、内部供給管83とカラム2とは重なっている。
【0051】
カラムオーブン3内に冷媒が供給される際には、図1に示すように、外部供給管81からカラムオーブン3内に向けて冷媒が供給される。外部供給管81を通過した冷媒は、流量調整バルブ80を通過して、抵抗管82に流入する。そして、冷媒は、抵抗管82を通過した後、内部供給管83に流入し、その後、吐出口83Aからカラムオーブン3内における下方部分に吐出される。
【0052】
このように、冷媒は、抵抗管82によって流量の調整がされた後、内部供給管83の吐出口83Aから吐出される。そして、カラムオーブン3内が冷媒によって冷却される。このとき、カラムオーブン3内は、冷媒のみならず、冷媒を内部に含む内部供給管83によっても冷却される。すなわち、カラムオーブン3内は、内部供給管83及び冷媒によって、段階的に冷却される。
【0053】
3.制御部及びその周辺の部材の電気的構成
図3は、制御部33及びその周辺の部材の電気的構成を示したブロック図である。
ガスクロマトグラフ1は、上記した流量調整バルブ80に加えて、温度センサ31と、記憶部32と、制御部33とを備えている。
【0054】
図1では図示されていないが、温度センサ31は、カラムオーブン3内に配置されており、カラムオーブン3内の温度を検出するように構成されている。温度センサ31が、温度検出部の一例を構成している。
【0055】
記憶部32は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などにより構成されている。記憶部32は、目標温度情報321、時間差情報322及び低下幅情報323を記憶している。
【0056】
目標温度情報321は、分析動作中におけるカラムオーブン3内の目標温度の情報である。すなわち、目標温度情報321は、分析動作中における設定温度の情報であって、温調の際の基準となる情報である。目標温度情報321は、記憶部32に予め記憶されている。なお、目標温度情報321は、ユーザによる操作部(図示せず)での入力操作に応じて、記憶部32に記憶されてもよい。
【0057】
時間差情報322は、詳しくは後述するが、冷媒供給部8により冷媒がカラムオーブン3内に間欠的(断続的)に供給される際における、供給タイミングの時間差の情報である。
【0058】
低下幅情報323は、詳しくは後述するが、冷媒供給部8により冷媒がカラムオーブン3内に供給される際の温度の低下幅の情報である。低下幅情報323は、時間差情報322に対応づけて記憶されている。
【0059】
制御部33は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む構成である。制御部33には、温度センサ31、記憶部32及び流量調整バルブ80などが電気的に接続されている。制御部33は、CPUがプログラムを実行することにより、温度予測処理部331、冷却制御部332及び記憶処理部333などとして機能する。
【0060】
温度予測処理部331は、温度センサ31が検出するカラムオーブン3内の温度、記憶部32に記憶されている各情報に基づいて、冷媒供給部8により冷媒がカラムオーブン3内に供給されたと仮定した場合のカラムオーブン3内の温度を予測する。
冷却制御部332は、温度予測処理部331により予測されるカラムオーブン3内の温度に基づいて、流量調整バルブ80の開度を調整する。
【0061】
記憶処理部333は、冷却制御部332が流量調整バルブ80の開度を調整したことに応じて、温度センサ31が検出するカラムオーブン3内の温度の低下幅の情報を、低下幅情報323として記憶部32に記憶する。このとき、記憶処理部333は、低下幅情報323と時間差情報322とを対応づけるようにして、記憶部32に記憶する(後述する)。
【0062】
4.カラムオーブン3内の温度変化
図4は、カラムオーブン3内の温度の経時的変化を示したグラフである。
ガスクロマトグラフ1では、後述するように、冷媒供給部8からカラムオーブン3内に間欠的(断続的)に冷媒が供給される。
【0063】
図4では、このような動作が繰り返される場合のカラムオーブン3内の温度の経時的変化が示されている。この場合、カラムオーブン3内の温度は、上昇と下降とを繰り返す。この例では、温度センサ31が検出するカラムオーブン3内の温度の値の低下幅ΔTの値が算出され、その値に基づいて、後述するように制御が行われる。具体的には、この例では、冷媒の供給時でのカラムオーブン3内の温度と、冷媒供給後でのカラムオーブン3内の最低温度との差がΔTとして、随時算出される。そして、このΔTの情報は、記憶部32に低下幅情報323として格納される。
【0064】
5.温度変化テーブル
図5Aは、記憶部32に記憶される温度変化テーブルの概念を示した図であって、冷媒供給が開始される前の状態を示している。
図5Aに示す温度変化テーブルは、上段において、間欠的に冷媒が供給される際の供給タイミングの時間差の情報が入力されており、下段において、温度の低下幅の情報が随時記憶される構成となっている。温度変化テーブルにおける上段の情報が、記憶部32の時間差情報322に対応しており、温度変化テーブルにおける下段の情報が、カラムオーブン3内の温度の低下幅ΔTの情報であって、記憶部32の低下幅情報323に対応している。温度変化テーブルでは、所定の時間差の下段に低下幅ΔTの情報を記憶することにより、時間差の情報と低下幅ΔTの情報とを対応づける構成となっている。
【0065】
カラムオーブン3内に間欠的に冷媒が供給される前は、図5Aに示すように、温度変化テーブルには、カラムオーブン3内の温度の低下幅ΔTの情報は記憶されておらず(ブランクになっており)、記憶部32には、低下幅情報323は記憶されていない。
【0066】
6.制御部の制御動作
図6は、制御部33による制御動作の一例を示したフローチャートである。
ガスクロマトグラフ1では、分析動作が開始されると、まず、温度予測処理部331によって、温度センサ31が検出するカラムオーブン3内の実際の温度Taと、記憶部32が記憶する目標温度情報321の値(目標温度)Tとの差が、0.5℃以下であるか否かが判定される。カラムオーブン3内の温度Taと、目標温度Tとの差が0.5℃を超える場合には(ステップS101でNO)、温度予測処理部331は、カラムオーブン3内が高温状態であると判定する。そして、温度予測処理部331によりカラムオーブン3内が高温状態と判定された場合には、冷却制御部332は、流量調整バルブ80の開度を全開にする(ステップS102)。そして、カラムオーブン3内に、多量の冷媒が供給される。
【0067】
これにより、カラムオーブン3内が冷却されて、その内部温度が低下する。カラムオーブン3内の温度Taと、目標温度Tとの差が0.5℃を超える場合には、流量調整バルブ80の開度が全開となる状態が維持される。
【0068】
カラムオーブン3内の温度Taと、目標温度Tとの差が0.5℃以下になると(ステップS101でYES)、温度予測処理部331は、一定周期で、カラムオーブン3内の温度を予測し、その予測結果が所定値以下であるか否かを判定する。具体的には、温度予測処理部331は、一定時間(この例では、例えば、100msec)が経過すると(ステップS103でYES)、下記式(1)に基づく判定を行う。
Ta−ΔT≧T−0.1 ・・・(1)
【0069】
式(1)におけるΔTは、上記したように、間欠的に冷媒を供給したときのカラムオーブン3内の温度の低下幅の値であって、図5Aの温度変化テーブルの下段の値(記憶部32に記憶される低下幅情報323の値)である。すなわち、温度予測処理部331は、図5Aの温度変化テーブルからΔTの値を抽出し、その値を式(1)に代入して判定を行う。
【0070】
ステップS104の処理が最初に行われるときは、間欠的な冷媒供給は開始されておらず、記憶部32には、低下幅情報323が記憶されていない。そのため、図5Aに示すように、温度変化テーブルは、下段に情報が入力されていない状態(ΔTの情報がない状態)となっている。このように、温度変化テーブルにおいて、参照する情報がブランクの場合には、温度予測処理部331は、式(1)においてΔTに0を代入して判定を行う。
【0071】
具体的には、温度予測処理部331は、温度変化テーブルにおいて、経過時間である100msecに対応づけられる低下幅の情報を参照する。この例では、100msecに対応づけられる低下幅の情報はブランクであるため、式(1)においてΔTに0を代入する。さらに、温度予測処理部331は、この式(1)に、カラムオーブン3内の実際の温度Taと、記憶部32に記憶されている目標温度Tを代入する。
【0072】
そして、温度予測処理部331は、カラムオーブン3内の温度Ta(式(1)の左辺)が、目標温度から0.1℃だけ引いた値(式(1)の右辺)以上であるか否かの判定を行う。その結果、カラムオーブン3内の温度Ta(式(1)の左辺)が、目標温度から0.1℃引いた値(式(1)の右辺)以上である場合には(ステップS104でYES)、冷却制御部332は、冷媒を供給する判定処理を行う。
【0073】
このように、温度予測処理部331は、目標温度Tから0.1℃だけ引いた値を基準値とし、カラムオーブン3内の温度Taが基準値以上であるか否かを判定する。そして、カラムオーブン3内の温度Taが基準値以上である場合に、冷却制御部332は、冷媒を供給する判定処理を行う。
【0074】
冷却制御部332は、冷媒を供給する判定処理を行ったことに応じて、流量調整バルブ80を所定時間だけ開放する(ステップS105)。この例では、冷却制御部332は、例えば、100msecの周期のうち、流量調整バルブ80を20msecだけ開放する。
【0075】
また、記憶処理部333は、温度センサ31が検出する温度の値に基づいて、冷媒の供給時でのカラムオーブン3内の温度と、冷媒供給後でのカラムオーブン3内の最低温度との差をΔTとして算出し、その情報を低下幅情報323として時間差情報322に対応づけて記憶部32に格納する(ステップS106)。
【0076】
図5Bは、記憶部32に記憶される温度変化テーブルの概念を示した図であって、一定周期のタイミングで冷媒が供給されることに応じて、情報が記憶される状態を示している。
【0077】
温度変化テーブルでは、まず、算出されたカラムオーブン3内の温度の低下幅の情報が、上段の時間差の情報に対応づけて記憶される。例えば、冷媒供給部8からカラムオーブン3内に冷媒を供給した結果、ΔTとして算出される値が1.2℃だとすると、記憶処理部333は、図5Bに示すように、温度変化テーブルにおいて、100msecに対応する低下幅の情報として、1.2℃を記憶させる。すなわち、記憶処理部333は、100msecという時間差情報322と、1.2℃という低下幅情報323とを対応づけて記憶部32に記憶させる。
【0078】
このようにして、温度変化テーブルを用いて、時間差情報322と低下幅情報323とが対応づけられて記憶部32に記憶される。
そして、分析動作の継続中は(ステップS107でYES)、上記したステップS103からステップS106までの制御が繰り返される。
このとき、ステップS104で、温度予測処理部331は、図5Bに示す温度変化テーブルに基づいて判定を行う。
【0079】
具体例として、上記のように100msecが経過した後において、さらに、100msecが経過した状態を例に挙げる。この場合には、温度予測処理部331は、前回の冷媒供給開始の時点から100msecが経過しているため、温度変化テーブルにおいて、100msecに対応する低下幅情報を参照する。図5Bに示すように、温度変化テーブルには、100msecに対応する低下幅情報として、1.2℃の値が記憶されているため、温度予測処理部331は、1.2℃の値を抽出し、抽出した値をΔTとして式(1)に代入する。
温度予測処理部331は、この式(1)に、カラムオーブン3内の実際の温度Taと、記憶部32に記憶されている目標温度Tを代入する。
【0080】
そして、カラムオーブン3内の温度TaからΔT(1.2℃)だけ引いた値(式(1)の左辺)が、目標温度から0.1℃だけ引いた値(式(1)の右辺)以上である場合には(ステップS104でYES)、冷却制御部332は、冷媒を供給する判定処理を行う。すなわち、温度予測処理部331が、目標温度から0.1℃だけ引いた値を基準値とし、カラムオーブン3内の温度TaからΔTだけ引いた値が基準値以上であると判定した場合に、冷却制御部332は、冷媒を供給する判定処理を行う。
【0081】
このことは、温度変化テーブルに基づいて、冷媒供給部8から冷媒を供給したと仮定した場合のカラムオーブン3内の温度を予測し、予測した温度が基準値以上である場合に、冷媒を供給する判定処理を行うことを意味している。このように、温度予測処理部331が予測した温度(Ta−ΔT)が基準値以上となる状態が、予測した温度が許容範囲内にある状態である。
【0082】
また、冷却制御部332は、上記と同様に、冷媒を供給する判定処理を行ったことに応じて、流量調整バルブ80を所定時間だけ開放する(ステップS105)。
【0083】
そして、記憶処理部333は、温度センサ31が検出する温度の値に基づいて、冷媒の供給時でのカラムオーブン3内の温度と、冷媒供給後でのカラムオーブン3内の最低温度との差をΔTとして算出し、その情報を低下幅情報323として時間差情報322に対応づけて記憶部32に格納する(ステップS106)。このとき、記憶処理部333は、温度変化テーブルにおいて、古い情報がある場合には、その情報を新しい情報に書き換える。
【0084】
例えば、冷媒供給部8からカラムオーブン3内に冷媒を供給した結果、ΔTとして算出される値が1.2℃以外の値だとすると、記憶処理部333は、温度変化テーブルにおいて、100msecに対応する低下幅の情報を新たな情報に書き換える(図示せず)。
【0085】
また、ステップS103の後、温度予測処理部331がカラムオーブン3内の温度TaからΔTだけ引いた値(式(1)の左辺)が、目標温度から0.1℃だけ引いた値(式(1)の右辺)よりも小さい(許容範囲にない)と判定した場合には(ステップS104でNO)、冷却制御部332は、冷媒を供給しない判定処理を行う。このように、冷却制御部332は、温度予測処理部331の判定に基づいて、一定周期で、冷媒を供給するか否かの判定処理を行う。
そして、冷却制御部332は、冷媒を供給しない判定処理を行ったことに基づいて、冷媒の供給タイミングを延期させる。
【0086】
このように冷媒の供給が延期された場合には、前回の冷媒供給の開始のタイミング(前回の冷媒供給を行う判定処理が行われたタイミング)から、その後に冷媒供給が開始されるタイミング(その後に冷媒供給を行う判定処理が行われたタイミング)までの時間差が算出される。そして、温度変化テーブルにおいて、その時間差の情報に対応するように、温度の低下幅の情報が記憶される。
【0087】
図5Cは、記憶部32に記憶される温度変化テーブルの概念を示した図であって、冷媒の供給タイミングが一旦延期され、その後に冷媒が供給されることに応じて、情報が記憶される状態を示している。
【0088】
例えば、上記した制御が繰り返し行われた結果、ステップS104で2回続けてNOとなり、さらに、その後にステップS104でYESとなり、ステップS105で流量調整バルブ80が所定時間だけ開放されたとする。また、この場合の、カラムオーブン3内の温度の低下幅ΔTが、例えば、1.6℃であったとする。
【0089】
この場合には、前回の冷媒供給の開始のタイミング(前回の冷媒供給を行う判定処理が行われたタイミング)から、その後に冷媒供給が開始されるタイミング(その後に冷媒供給を行う判定処理が行われたタイミング)までの時間差が300msecとなる。
【0090】
そのため、記憶処理部333は、図5Cに示すように、温度変化テーブルにおいて、300msecに対応する低下幅の情報として、1.6℃を記憶させる。すなわち、記憶処理部333は、300msecという時間差情報322と、1.6℃という低下幅情報323とを対応づけて記憶部32に記憶させる。
その後は、分析動作が完了するまで上記動作が繰り返される。
【0091】
このように、ガスクロマトグラフ1における分析動作中は、記憶部32に記憶される温度変化テーブルは、カラムオーブン3内の温度変化に応じてリアルタイムで更新される(最新のものに更新される)。そして、リアルタイムで更新される(最新の)温度変化テーブル(記憶部32の時間差情報322及び低下幅情報323)の情報に基づいて、カラムオーブン3内の温度が予測される。さらに、その予測結果に基づいて、冷媒の供給を行うか否かの判定処理が行われる。そして、冷媒の供給を行う判定処理が行われた場合に、冷媒供給部8から冷媒が供給される。
【0092】
そのため、冷媒を貯留するボンベにおける冷媒の残量や、ボンベの温度などが変化したとしても、その変化後の最新の情報(記憶部32の時間差情報322及び低下幅情報323)に基づいて、カラムオーブン3内の温度を予測し、さらに、その予測結果に基づいて、冷媒の供給を行うことができる。すなわち、周囲環境が変化したとしても、その変化に対応して冷媒の供給を行うことができる。その結果、カラムオーブン3内の温度を精度よく調整することができる。
【0093】
7.作用効果
(1)本実施形態によれば、制御部33は、温度予測処理部331を含んでいる。温度予測処理部331は、記憶部32の時間差情報322及び時間差情報322(温度変化テーブル)に基づいて、冷媒供給部8から冷媒を供給したと仮定した場合のカラムオーブン3内の温度を予測する(式(1)の左辺)。
【0094】
そのため、冷媒供給部8から冷媒を供給した場合のカラムオーブン3内の温度を、温度予測処理部331によって精度よく予測できる。
【0095】
そして、その予測したカラムオーブン3内の温度が、分析動作に適した値である場合に、冷媒供給部8から冷媒を供給すれば、カラムオーブン3内の温度を適切な温度に近づけることができる。
【0096】
そのため、カラムオーブン3内の温度を精度よく調整することが可能になる。そして、ガスクロマトグラフ1では、カラムオーブン3内の温度を精度よく調整しながら、分析動作を行うことができるため、精度のよい分析を行うことができる。
【0097】
(2)また、本実施形態によれば、制御部33は、冷却制御部332を含んでいる。冷却制御部332は、温度予測処理部331の判定に基づいて(ステップS104)、流量調整バルブ80を所定時間だけ開放する(ステップS105)。
【0098】
そのため、従来のフィードバック制御によって冷媒の供給量を調整する場合に比べて、適切な量の冷媒をカラムオーブン3内に供給できる。
その結果、カラムオーブン3内の温度を精度よく調整できる。
【0099】
(3)また、本実施形態によれば、冷却制御部332は、冷媒を供給するか否かの判定処理を一定周期で行い、温度予測処理部331により予測されるカラムオーブン3内の温度が許容範囲内にない場合(式(1)が成り立たない場合)には、冷媒供給部8からカラムオーブン3内への冷媒の供給タイミングを延期させる判定処理を行って冷媒の供給を行わず、温度予測処理部331により予測されるカラムオーブン3内の温度が許容範囲内である場合に、冷媒を供給する判定処理を行って冷媒を供給できる。
【0100】
そのため、適切なタイミングでカラムオーブン3内に冷媒を供給できる。
【0101】
(4)また、本実施形態によれば、制御部33は、記憶処理部333を含んでいる。記憶処理部333は、冷媒の供給タイミングが延期された際の時間差情報322及び低下幅情報323を対応付けて記憶部32に記憶させる。
【0102】
そのため、分析動作中において、時間差情報322及び低下幅情報323をリアルタイムで記憶部32に記憶させることができる(温度変化テーブルをリアルタイムで更新できる)。そして、リアルタイムで記憶部32に記憶される時間差情報322及び低下幅情報323に基づいて、温度予測処理部331によってカラムオーブン3内の温度を予測するため、カラムオーブン3内の温度を精度よく予測できる。
【0103】
(5)また、本実施形態によれば、図1に示すように、ガスクロマトグラフ1の冷媒供給部8には、内部供給管83が含まれる。内部供給管83は、カラムオーブン3内におけるカラム2が配置される領域の近傍まで延びている。
【0104】
そのため、カラムオーブン3内は、冷媒を内部に含む内部供給管83によって冷却されるとともに、内部供給管83を介して冷媒が供給されることにより、さらに冷却される。すなわち、カラムオーブン3内は、内部供給管83自体、及び、内部供給管83から供給される冷媒によって段階的に冷却される。
その結果、冷媒供給部8によって、カラムオーブン3内を精度よく温調できる。
このような構成の場合、少量の冷媒を供給するだけで、カラムオーブン3内が急激に冷却されるため、制御部33の制御を行うことが一層効果的である。
【0105】
(6)また、本実施形態によれば、図1に示すように、内部供給管83は、ヒータ4とカラム2との間の領域まで延びている。
【0106】
そのため、冷媒を内部に含む内部供給管83によって、ヒータ4とカラム2との間の領域を冷却できる。
【0107】
(7)また、本実施形態によれば、図1に示すように、内部供給管83は、カラム2が配置される領域の近傍において湾曲形状に形成されている。
【0108】
そのため、冷媒を内部に含む内部供給管83によって、カラム2周辺の雰囲気を効率的に冷却できる。
【0109】
(8)また、本実施形態によれば、図1及び図2に示すように、内部供給管83は、カラム2の形状に対応する湾曲形状に形成されている。具体的には、内部供給管83の外形の大きさは、カラム2の外形の大きさとほぼ同程度であり、前後方向に見たときに、内部供給管83とカラム2とは重なっている。
【0110】
そのため、冷媒を内部に含む内部供給管83によって、カラム2自体を効率的に冷却できる。
【0111】
8.第2実施形態
以下では、図7を用いて、本発明の他の実施形態に係るガスクロマトグラフ1について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、上記と同様の符号を用いることにより説明を省略する。
図7は、本発明の第2実施形態に係るガスクロマトグラフ1に用いられる内部供給管85を示した正面図である。
【0112】
第2実施形態では、冷媒供給部8において、上記した内部供給管83に代えて、内部供給管85が用いられる。内部供給管85は、第1実施形態の内部供給管83の形状とは異なる形状を有している。
具体的には、内部供給管85は、管状部851と、接続部852とを備えている。
【0113】
管状部851は、管状に形成されており、かつ、渦巻き状に形成されている。具体的には、管状部851は、上流側端部から下流に向かって、旋回するように湾曲しており、かつ、下流に向かうにつれて中心から遠ざかる形状に形成されている。管状部851の下流側端部は、直線状に下方に向かって延びている。管状部851の下流側端部(直線部分の先端部)の内部空間が吐出口85Aである。管状部851の中間部は、固定部材20に保持されている。管状部851の上流側端部には、接続部852が取り付けられている。
【0114】
接続部852は、長尺な円筒状に形成されている。接続部852の内部空間は、管状部851の内部空間に連通している。接続部852の先端部(上流側端部)には、抵抗管82が取り付けられる。
【0115】
固定部材20は、カラムオーブン3内において仕切り板9(図1参照)に取り付けられる。そして、その固定部材20によって内部供給管85(管状部851)が保持される。この状態において、内部供給管85の吐出口85Aは、下方に向いている。これにより、吐出口85Aから吐出される冷媒は、カラム2に直接噴射されず、カラムオーブン3の底壁に当たって拡散するようになっている。
【0116】
内部供給管83は、カラムオーブン3内で保持された状態において、カラム2が配置される領域の近傍に設けられる。具体的には、内部供給管83の管状部851は、カラム2と対向しており、かつ、カラム2に沿うようにして、カラムオーブン3内に配置されている。
【0117】
そして、外部供給管81からカラムオーブン3内に向けて冷媒が供給されると、外部供給管81を通過した冷媒は、流量調整バルブ80及び抵抗管82を通過し、その後、内部供給管83を通過して、吐出口83Aからカラムオーブン3内の底壁に向かって吐出される。
【0118】
このように、第2実施形態によれば、冷媒供給部8において、内部供給管85の管状部851は、渦巻き状に形成される。そのため、カラムオーブン3内において、内部供給管83の管状部851を、カラム2と対向させて、カラム2に沿うように配置させることができる。
その結果、内部供給管85によって、カラム2を効率的に冷却できる。
【0119】
9.変形例
上記した実施形態では、冷媒供給部8(冷媒導入装置)は、カラムオーブン3内を冷却するとして説明した。しかし、冷媒供給部8(冷媒導入装置)が、上記した制御によって、試料導入部6の試料気化室や、検出器7を冷却する構成であってもよい。また、ガスクロマトグラフ1が前処理装置を備える構成である場合には、冷媒供給部8(冷媒導入装置)が、上記した制御によって前処理装置を冷却する構成であってもよい。すなわち、ガスクロマトグラフ1における冷却対象は、試料導入部6の試料気化室、検出器7、又は、前処理装置であってもよい。
【0120】
また、上記した実施形態では、制御部33は、一定周期で式(1)に基づく判定を行い、式(1)を満たす場合に冷媒を供給する制御を行うとして説明した。しかし、制御部33は、冷媒供給後に温度低下が始まると予想される時間が経過するまでの間は、式(1)を満たしていても冷媒供給をしないという制御を行ってもよい。
【0121】
また、上記した実施形態では、記憶部32の時間差情報322及び低下幅情報323は、リアルタイムで更新され、温度予測処理部331は、その記憶部32の各情報に基づいて、カラムオーブン3内の温度を予測するとして説明した。しかし、記憶部32に予め複数の時間差情報322及び低下幅情報323が記憶されており、温度予測処理部331は、これらの情報に基づいてカラムオーブン3内の温度を予測してもよい。
【0122】
また、以上の実施形態では、内部供給管83,85は、カラム2の近傍に設けられており、具体的には、カラム2の後方(カラム2とヒータ4との間の領域)に設けられるとして説明した。しかし、内部供給管83,85は、カラム2の近傍として、カラム2の前方(カラム2に対してヒータ4と反対側)に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0123】
1 ガスクロマトグラフ
2 カラム
3 カラムオーブン
4 ヒータ
8 冷媒供給部
31 温度センサ
32 記憶部
33 制御部
85 内部供給管
331 温度予測処理部
332 冷却制御部
333 記憶処理部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7