【文献】
Zhurnal Organichnoi ta Farmatsevtichnoi Khimii,2008年,Vol.6(4),p.46-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本開示のビオロゲン化合物について説明する。本明細書において、ビオロゲン化合物とは、4,4’−ビピリジンの両端の窒素にそれぞれ置換基を導入した構造を有する化合物をいう。本開示のビオロゲン化合物は、4,4’−ビピリジニウムを含む基本骨格の両端にカルボン酸アルカリ金属塩が直接的に又は間接的に結合した複素環部位と、前記4,4’−ビピリジニウムと対をなすアニオン部位と、を備えた結晶性のものである。結晶性の有無は、例えばビオロゲン化合物のXRDプロファイルに現れるピーク形状によって判断することができる。
【0015】
複素環部位において、4,4’−ビピリジニウムを含む基本骨格は、4,4’−ビピリジニウムを1つ以上含んでいてもよいが、4,4’−ビピリジニウムを1つ含むことが好ましい。カルボン酸アルカリ金属塩は、4,4’−ビピリジニウムを含む基本骨格に分岐を有していてもよいアルキレン鎖又は芳香族炭化水素鎖を介して間接的に結合していることが好ましい。アルキレン鎖は、主鎖の炭素数が1以上3以下のものが好ましく、メチレン基がより好ましい。分岐を有するアルキレン鎖において、分岐は、メチル基及びエチル基のうちの少なくとも1つとしてもよい。芳香族炭化水素鎖は、1以上3以下のフェニレン基で構成されていることが好ましい。アルカリ金属は、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群より選ばれる1以上が好ましく、リチウムがより好ましい。
【0016】
アニオン部位は、特に限定されるものではないが、テトラフルオロボレート(BF
4-)、ヘキサフルオロフォスフェート(PF
6-)、ヘキサフルオロシリケート(SiF
62-)、ヘキサフルオロアンチモナート(SbF
6-)、パークロレート(ClO
4-)、テトラシアノボレート(B(CN)
4-)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェート([(C
2F
5)
3PF
3]
-)、ジシアンアミド([(CN)
2N]
-)、トリフルオロメタンスルホネート(CF
3SO
3-)、トリフルオロアセタート(CF
3CO
2-)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(N(FSO
2)
2-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N(CF
3SO
2)
2-)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(N(C
2F
5SO
2)
2-)からなる群より選ばれる1以上であることが好ましく、BF
4-、PF
6-、SiF
62-、SbF
6-、ClO
4-がより好ましい。こうしたアニオンでは、F
-、Cl
-、Br
-、I
-のようなハロゲンアニオンよりもイオン半径が大きく、複素環部位や他のアニオン部位との相互作用が比較的小さいため、ビオロゲン化合物の安定性をより高めることができると考えられる。また、イオン半径が大きすぎないため、複素環部位の構造の隙間に良好な状態で存在できると考えられる。
【0017】
このビオロゲン化合物は、例えば、式(1)で表されるものとしてもよい。式(1)において、A
-はアニオン部位であり、Mはアルカリ金属であり、Rは分岐を有していてもよいアルキレン鎖又は芳香族炭化水素鎖であり、mは0又は1である。ビオロゲン化合物は、式(2)又は式(3)で表されるものとしてもよい。
【0020】
このビオロゲン化合物では、複素環部位は、基本骨格の両端にカルボン酸アニオンが直接的に又は間接的に結合した有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属が結合したアルカリ金属元素層と、を備えた三次元構造体であるものとしてもよい。このような三次元構造体では、アルカリ金属元素が結合した有機骨格層に空間が生じ、この空間にアニオン部位のアニオンが存在すると考えられる。この三次元構造体は、層状構造体であってもよく、芳香族複素環化合物のπ電子相互作用により層状に形成されていてもよい。この三次元構造体は、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有していてもよい。この三次元構造体は、カルボン酸アニオンの酸素2つ以上とアルカリ金属元素1つとが結合した構造を備えていてもよく、異なるカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素1つとが結合した構造を備えていてもよい。
図1に、三次元構造体である複素環部位と、アニオン部位と、を備えたビオロゲン化合物の構造の一例を示す。
図1のビオロゲン化合物では、アニオン部位はBF
4-であるものとした。また、複素環部位は、基本骨格である4,4’−ビピリジニウムの両端の窒素に、カルボン酸リチウム塩が置換基を有さないメチレン基を介して結合しているものとした。
【0021】
このビオロゲン化合物は、CuKα線を用いたXRDプロファイルにおいて、強度が最大となるピークのピークトップ位置をT°としたときにT−5°≦2θ≦T+5°の範囲に5個以上などの複数のピークが確認されるものとしてもよい。アモルファスのようにブロードなピークを有するものでは、このような狭い範囲に複数のピークは確認されないと推察される。このビオロゲン化合物は、上述したXRDプロファイルにおいて、2θ=20〜25°の範囲に強度が最大となるピークのピークトップが現れるものとしてもよい。
【0022】
このビオロゲン化合物は、球状に形成されていてもよい。このビオロゲン化合物は、直径10μm以下や8μm以下に形成されていてもよく、0.1μm以上や0.5μm以上としてもよい。
【0023】
このビオロゲン化合物は、例えば、蓄電デバイスの電極活物質としてもよい。その場合、対極の電位に応じて正極に用いてもよいし負極に用いてもよいが、負極に用いることが好ましい。電極活物質として用いる場合、アニオン部位は、BF
4-、PF
6-、CF
3SO
3-などが好ましい。例えば、アニオン部位がBF
4-であれば、分子量が小さく、且つイオン伝導度が高いため負極活物質単位重量当たりの理論容量を高めることができ好ましい。また、PF
6-、CF
3SO
3-であれば、BF
4-に比して分子量が大きく活物質単位重量当たりの理論容量が減少する反面、イオン伝導度が高く低温特性を高めることができると考えられる。電極活物質として用いる場合、充放電時には、アニオン部位のアニオンがビオロゲン化合物の構造内に吸蔵放出されると考えられる。三次元構造体の複素環部位を有するビオロゲン化合物では、アルカリ金属元素に結合した有機骨格層に空間が生じ、この空間にアニオンが吸蔵放出されると考えられる。
【0024】
次に、本開示のビオロゲン化合物の製造方法について説明する。この製造方法は、(a)調製溶液を準備する工程と、(b)ビオロゲン化合物を析出させる工程と、を含む。
【0025】
工程(a)では、4,4’−ビピリジニウムを含む基本骨格の両端にカルボン酸が直接的に又は間接的に結合した複素環部位と、4,4’−ビピリジニウムと対をなすアニオン部位と、を備えた複素環化合物と、アルカリ金属化合物と、を用意し、複素環化合物に対するアルカリ金属化合物のアルカリ金属カチオンのモル比が2.0以上2.5以下の調製溶液を準備する。
【0026】
複素環化合物及びアルカリ金属化合物は、目的とするビオロゲン化合物に応じて適宜選択すればよい。複素環化合物の基本骨格は、上述したビオロゲン化合物における基本骨格と同様とすることができる。カルボン酸と基本骨格との結合は、上述したビオロゲン化合物におけるカルボン酸アルカリ金属塩と基本骨格との結合と同様とすることができる。アニオン部位は、上述したビオロゲン化合物におけるアニオン部位と同様とすることができる。アルカリ金属化合物のアルカリ金属は、上述したビオロゲン化合物におけるアルカリ金属と同様とすることができる。アルカリ金属化合物は、例えば、水酸化物や上述したアニオンの金属化合物などとすることができ、このうち、水酸化物が好ましい。
【0027】
この工程では、調製溶液を調製してもよいし、すでに調製された調製溶液を準備してもよい。調製溶液の溶媒は、特に限定されず、水系溶媒としてもよいし、有機系溶媒としてもよいが、水であることが好ましい。この工程では、複素環化合物のモル数A(mol)に対するアルカリ金属化合物のアルカリ金属カチオンのモル数B(mol)の比であるモル比B/Aが2.0以上2.5以下の調製溶液を準備すればよいが、2.1以上2.3以下がより好ましい。こうした範囲では、結晶性のビオロゲン化合物を得られる。この工程では、複素環化合物の濃度が0.1mol/L以上、より好ましくは、0.2mol/L以上の調製溶液を準備することが好ましい。また、この工程では、複素環化合物の濃度が5mol/L以下の調製溶液を準備することが好ましい。このような濃度範囲では、次工程の噴霧乾燥をより行いやすい。
【0028】
工程(b)では、工程(a)で調整した調製溶液をスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することにより、複素環化合物に含まれるカルボン酸の酸素アニオンにアルカリ金属化合物のアルカリ金属カチオンが結合した結晶性のビオロゲン化合物を析出させる。このビオロゲン化合物は、上述した本開示のビオロゲン化合物であり、4,4’−ビピリジニウムを含む基本骨格の両端にカルボン酸アルカリ金属塩が直接的に又は間接的に結合した複素環部位と、4,4’−ビピリジニウムと対をなすアニオン部位と、を備えている。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する電極活物質の量によって適宜調整すればよい。乾燥温度は、例えば、100℃以上250℃以下の範囲とすることが好ましい。100℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、250℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、120℃以上がより好ましく、230℃以下がより好ましい。また、供給液量は、作製する規模にもよるが、例えば、0.1L/h以上2L/h以下の範囲としてもよい。また、調製溶液を噴霧するノズルサイズは、作製する規模にもよるが、例えば、直径0.5mm以上5mm以下の範囲としてもよい。このように噴霧乾燥することにより、複素環化合物のカルボン酸の酸素アニオンにアルカリ金属化合物のアルカリ金属カチオンを結合させることができる。
【0029】
次に、本開示の負極活物質について説明する。この負極活物質は、上述した本開示のビオロゲン化合物を含む。この負極活物質は、アニオンの授受が可能である。この負極活物質では、充電時にはビオロゲン化合物の構造内からアニオン部位のアニオンが放出されて負極活物質が還元され、放電時にはビオロゲン化合物の構造内にこのアニオンが吸蔵されて負極活物質が酸化されると考えられる。
図2に、充放電時におけるビオロゲン化合物の酸化還元の様子の一例の模式図を示す。
【0030】
次に、本開示の蓄電デバイスについて説明する。本開示の蓄電デバイスは、上述した負極活物質を含む負極と、アニオンの授受が可能な正極活物質を含む正極と、正極と負極との間に介在し、アニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。アニオンの授受が可能とは、アニオンをその内部に吸蔵及び放出することが可能であるか、アニオンをその表面に吸着及び脱離することが可能であるか、の一方又は両方を満たすことをいう。この蓄電デバイスでは、充電時には負極からアニオンが放出され又は脱離し正極にこのアニオンが吸蔵又は吸着され、放電時には正極からアニオンが放出され又は脱離し負極にこのアニオンが吸蔵又は吸着される。こうした蓄電デバイスでは、正極及び負極で充放電に関与するのがアニオンであるため、アルカリ金属の析出等のおそれがリチウムイオン電池などよりも極めて低く、より安全性が高い。また、アニオンの移動のみで充放電反応が進行し電解液中のアニオン濃度の変化が小さいため、リザーブ型電池などよりも電解液の量を少なくすることができ、エネルギー密度をより高めることができる。この蓄電デバイスは、例えば、アニオン放出負極利用キャパシタなどとしてもよい。
図3に、本開示の蓄電デバイスの一例であるアニオン放出負極利用キャパシタの作動原理の一例の模式図を示す。アニオン放出負極利用キャパシタでは、充電時には負極からアニオンが放出され正極にこのアニオンが吸着され、放電時には正極からアニオンが脱離し負極にこのアニオンが吸蔵される。
【0031】
この蓄電デバイスにおいて、正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、アニオンの授受が可能なものであれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、アニオン交換型導電性高分子、金属酸化物などが挙げられる。炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、活性炭などが挙げられ、黒鉛を主成分とするものであることが好ましい。ここで、「黒鉛を主成分とする」とは、黒鉛を50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上含むものとすることができる。このようなものであれば、非晶質炭素を含んでいてもよいし、その他の活物質を含んでいてもよい。黒鉛としては、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などが挙げられるが、人造黒鉛であれば、蓄電デバイスの電位をより高めることができ、エネルギー密度を高めることができる点で好ましい。更に、アルカリ賦活した人造黒鉛を用いると、黒鉛の層間が広がりイオンの出入りが容易となり出力特性が向上するため、好ましい。具体的には、NaやKなどのアルカリを黒鉛に添加し、不活性雰囲気中、600℃〜1000℃の高温で処理することにより、アルカリ賦活することができる。アニオン交換型導電性高分子としては、ビオロゲン高分子などが挙げられる。正極活物質として活性炭や黒鉛、アニオン交換型導電性高分子を用いれば、アニオンを可逆的に授受しやすく、好ましい。
【0032】
導電材は、電極性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極の集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0033】
この蓄電デバイスにおいて、負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質は、上述したビオロゲン化合物とする。負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0034】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体としては、アニオンを伝導可能なものを用いることができ、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。このイオン伝導媒体は、イオン液体やカーボネート系などの有機溶媒を含むものとしてもよい。カーボネート系の有機溶媒を含むものとすれば、低温での凍結などを防止し、低温での出力特性などの低温特性をより良好にすることができる。また、カーボネート系の有機溶媒を添加すれば、粘度を低下させて出力特性を良好にすることができる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0035】
イオン液体は、常温で溶融しているカチオンとアニオンとの塩であるが、カチオンとしては、イミダゾリウム、アンモニウム、コリン、ピリジニウム、ピペリジニウムなどが挙げられる。イミダゾリウムとしては、1−(ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム等が挙げられ、アンモニウムとしては、N,N−ジメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられ、ピリジニウムとしては、1−ブチル−3−メチルピリジニウムや1−ブチルピリジニウム等が挙げられ、ピペリジニウムとしては、1−エチル−1−メチルピペリジニウム等が挙げられる。また、アニオンとしては、BF
4-、PF
6-、ClO
4-、CF
3SO
3-、TFSI
-、BETI
-、Br
-、Cl
-、F
-などのうち1以上が挙げられる。アニオンをBF
4-とするものとしては、具体的には、ジエチルメチル(2メトキシエチル)アンモニウム・BF
4などが挙げられる。アニオンをTFSIとするものとしては、具体的には、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PP13TFSI)、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TMPATFSI)、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。このうち、ジエチルメチル(2メトキシエチル)アンモニウム・BF
4が好ましい。イオン液体と有機溶媒とを混合して用いる場合、イオン液体の濃度は、0.5M以上2.0M以下が望ましい。
【0036】
支持塩は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiSbF
6、LiSiF
6、LiAlF
4、LiSCN、LiClO
4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl
4などが挙げられる。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。なお、支持塩やイオン液体に含まれるアニオンは、ビオロゲン化合物のアニオン部位と同種のものが好ましい。また、カチオンは、ビオロゲン化合物のカルボン酸アルカリ金属塩のアルカリ金属と同種のものが好ましい。この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0037】
本開示の蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ガラス繊維製のガラスフィルタや、ポリプロピレン製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。このうち、ガラスフィルタであれば、例えばBF
4系のイオン液体などの電解液との濡れ性が良好であり、アニオンの移動を円滑にすることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0038】
本開示の蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0039】
以上詳述した本開示のビオロゲン化合物では、アニオンの授受が可能である。そのため、アニオンの移動により充放電しアニオンを電荷のキャリアとする新規な蓄電デバイスを提供することができる。こうした効果が得られる理由は、スプレードライヤーを用いて瞬間的に結晶を作製することで、目的とする結合によるネットワークが形成され、アニオン授受可能なパスを結晶内部に形成することで、アニオン授受による可逆な充放電が可能になるためと推察される。また、本開示の蓄電デバイスでは、アニオンをキャリアとして用いる蓄電デバイスであるため、例えばLiイオン電池などに比して、過負荷によるショートなどの発生を著しく低くすることができる。また、蓄電系はキャパシタ的な挙動でアニオンの出し入れを行うため、高出力が期待される。また構成される電極は、いずれも大気中で安定であるため、その製造過程も非常に容易である。
【0040】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0041】
以下には、本開示のビオロゲン化合物を具体的に合成し蓄電デバイスの活物質に用いた例について実施例として説明する。なお、実験例1〜2が実施例に相当し、実験例3〜5が比較例に相当する。
【0042】
(ビオロゲンジカルボン酸ジリチウムの合成)
[実験例1]
以下の合成スキームに従って、本開示のビオロゲン化合物の一例であるビオロゲンジカルボン酸ジリチウムを合成した。
【0043】
【化3】
【0044】
(1)7.0gの4,4’−ビピリジンと15.0gのエチルブロモ酢酸とを200mLのアセトニトリルに溶解し24時間加熱環流した。室温まで冷却した後、ろ過してエタノールで洗浄し、合成中間体(1)を得た。
【0045】
(2)21.0gの合成中間体(1)を120mLの10%塩酸水溶液に溶解し24時間加熱還流し、室温まで冷却し溶媒を留去し、合成中間体(2)を得た。合成中間体(2)は既知の材料である(Dalton Trans., 2010, vol.39, pp7714-7722)。
【0046】
(3)16.0gの合成中間体(2)を100mLの水に溶解し、13.8gのテトラフルオロホウ酸リチウムを溶解した50mLの水を加え撹拌した。得られた粉末をろ過し、エタノールで洗浄し、合成中間体(3)を得た。
【0047】
(4)5.00gの合成中間体(3)を30mLの水に溶解し0.58gの水酸化リチウムを溶解した25mLの水を加え撹拌した。ビオロゲンジカルボン酸のモル数Aに対する水酸化リチウムのモル数の比であるのモル比B/Aが2.2となるように調製した水溶液を用いてスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B-290、日本ビュッヒ製)により、乾燥空気温度150℃、原料溶液噴霧量約400mL/hで噴霧・乾燥した。ノズルは、直径1.5mmのものを用いた。こうして、目的とするビオロゲンジカルボン酸ジリチウムを得た。これを実験例1の試料とした。
【0048】
[実験例2〜4]
(4)の工程において、乾燥空気温度を200℃とした以外は、実験例1と同様に実験例2の試料を合成した。(4)の工程において、モル比B/Aが3.0となるようにした以外は、実験例2と同様に実験例3の試料を合成した。(4)の工程において、モル比B/Aが4.0となるようにした以外は、実験例2と同様に実験例4の試料を合成した。
【0049】
[実験例5]
(1)〜(3)の合成は実験例1と同様とした。(4)の工程において、4.5gの合成中間体(3)を30mLの水に懸濁し、0.5gの水酸化リチウムを溶解した20mLの水を加え、1000Paの減圧条件下、50℃まで加熱して撹拌した。室温まで冷却したのち、得られた微結晶をろ過した。モル比B/Aは2.2とした。こうして得られたビオロゲン化合物を実験例5の試料とした。
【0050】
(ビオロゲンジカルボン酸ジリチウム電極の作製)
上記手法で作製したビオロゲンジカルボン酸ジリチウムを65質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を15質量%、繊維状炭素導電材として気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工)を10質量%,結着材としてポリフッ化ビニリデン(KFポリマ,クレハ製)を10質量%、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりのビオロゲンジカルボン酸ジリチウムが10g/m
2となるように活物質を均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2cm
2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。
【0051】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、支持電解質のLiBF
4を1.0モル/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の手法にて作製したビオロゲンジカルボン酸ジリチウム電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0052】
(充放電試験)
上述した二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.03mAで1.0V(または1.5V)まで還元し、その後、0.03mAで3.4V(または3.0V)まで酸化し、この還元と酸化の操作を合計10回行った。各操作における還元容量と酸化容量を求め、還元容量を放電容量とし、酸化容量を充電容量とした。2、5、10サイクル目の充放電カーブから電位差に対する容量の変化量(微分値)を算出し、充電および放電の反応電位に相当する微分曲線を描いた。
【0053】
(実験結果)
図4に、合成した試料のSEM写真を示す。
図4Aは実験例1の試料のSEM写真、
図4Bは実験例2の試料のSEM写真、
図4Cは実験例3の試料のSEM写真、
図4Dは実験例5の試料のSEM写真である。これらのSEM写真から、実験例5の減圧加熱により溶媒を除去して得られた試料は棒状の形態をとるのに対して、実験例1〜4のスプレードライで得られた試料は球状の形態となることが分かった。また、実験例5では粒子の長さが約20μm程度と比較的大きな粒子であるのに対して、実験例1〜4では粒径が10μm以下の小さな粒子が確認された。また、スプレードライにおいて、実験例3、実験例4のようにLi割合が多くなると、球状粒子が凝集した形態となった。
【0054】
図5に、合成した試料のIRスペクトルを示す。IRスペクトル測定は、Thermo Nicolet製のAvatar 360 FT−IRを用いて行った。全ての試料で1000cm
-1付近にBF
4アニオンに帰属される吸収が確認された。これは中間合成体(3)の合成において、ブロモイオンからBF
4アニオンに交換できたことを意味する。また、1400cm
-1から1750cm
-1にかけてカルボキシ基に帰属される吸収が確認された。減圧加熱によって得られた実験例5では合成中間体(3)から吸収の位置が変わっていないのに対して、スプレードライによって得られた実験例1〜4ではカルボン酸Liに相当する吸収ピークの変化が確認された。
【0055】
図6に、合成した試料のXRDプロファイルを示す。
図6Aは実験例1〜4のXRDプロファイル、
図6Bは実験例5のXRDプロファイルである。XRD測定は、放射線としてCu−K線を使用し、理学製のRINT−TTRを用いて行った。減圧加熱によって得られた実験例5では結晶性を示すシャープなピークが確認された。また、スプレードライによって得られた実験例1,2においても結晶性を示すシャープなピークが確認されたが、実験例3,4のようなLi割合の多い条件ではブロードなピークが確認され、スプレードライ合成において水酸化リチウム量が多くなると結晶性が低下しアモルファスな材料になっていることが確認された。
【0056】
図7に、合成中間体(3)のLiOH水溶液による滴定の結果を示す。中間合成体(3)とLiOHとを混合するだけでビオロゲンジカルボン酸ジリチウム(4)が得られるとすれば、合成中間体(3)の2つのカルボキシ基と水酸化リチウムが反応して中和され、n=1付近でpHが大きく変化すると考えられる。しかし、実際には、1つのカルボキシ基と水酸化リチウムが反応したn=0.5付近でpHが変化し、中和反応が進行しなかった。このことから、水酸化リチウムはカルボキシ基と反応せず、中間合成体(3)のジカルボン酸の状態が溶液内で安定に存在していることがわかった。したがって、中間合成体(3)とLiOHとを混合するだけではビオロゲンジカルボン酸ジリチウム(4)は得られないことがわかった。
【0057】
図8に、合成した試料を用いた電極の単極充放電時の充放電曲線を示す。
図8Aは実験例1の充放電曲線であり、
図8Bは実験例3の充放電曲線であり、
図8Cは実験例4の充放電曲線であり、
図8Dは実験例5の充放電曲線である。また、
図9に、合成した試料を用いた電極の単極充放電時の微分曲線を示す。
図9Aは実験例1の微分曲線であり、
図9Bは実験例2の微分曲線であり、
図9Cは実験例3の微分曲線であり、
図9Dは実験例4の微分曲線である。なお、
図8,9は、1.0−3.4Vの充放電電圧条件で充放電を行ったときの結果である。減圧加熱によって得られた実験例5に対して、スプレードライで合成した結晶性の実験例1では、高容量となることが分かった。一方、スプレードライで合成したものであっても、Liの多い条件で合成したアモルファス性の実験例3および実験例4では、容量が低下することが分かった。また、微分曲線より、実験例1では、実験例3〜5よりも電気化学的に活性であることが分かった。
【0058】
図10に、合成した試料を用いた電極の単極充放電時の充放電曲線を示す。
図10Aは実験例1の充放電曲線であり、
図10Bは実験例2の充放電曲線であり、
図10Cは実験例5の充放電曲線である。また、
図11に、合成した試料を用いた電極の単極充放電時の微分曲線を示す。
図11Aは実験例1の充放電曲線であり、
図11Bは実験例2の充放電曲線であり、
図11Cは実験例3の充放電曲線である。なお、
図10,11は、1.5−3.0Vの充放電電圧条件で充放電を行ったときの結果である。この条件でも、減圧加熱によって得られた実験例5に比べて、スプレードライで合成した結晶性の実験例1,2ではすぐれた容量を放出することが分かった。また、微分曲線より、実験例1,2では、実験例5よりも電気化学的に活性であることが分かった。
【0059】
以上より、噴霧乾燥をすることで、本開示のビオロゲン化合物が得られることがわかった。特に、モル比B/Aが2〜2.5である実験例1,2では、結晶性であり、こうしたものでは、特に充放電特性が良好であった。こうした実験例1,2では、結晶性であることやその構造式などから、
図1のような構造を有していると推察された。すなわち、複素環部位が、基本骨格の両端にカルボン酸アニオンが直接的に又は間接的に結合した有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属が結合したアルカリ金属元素層と、を備えた三次元構造体であると推察された。このような三次元構造体では、例えばアルカリ金属が結合した有機骨格層に空間が生じ、この空間にアニオンが吸蔵・放出されると考えられる。この三次元構造体は、例えば、芳香族複素環化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有し、異なるカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素1つとが結合した構造を備えていると推察された。