(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0008】
[ポリアミド樹脂組成物]
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、非円形断面を有するガラス繊維と、アミド基1個に対する炭素原子数が6を超える構成単位を含むポリアミド樹脂と、を含み、前記ポリアミド樹脂の数平均分子量が20000以上40000以下であり、前記ガラス繊維の含有率が15質量%以上60質量%以下である。炭素原子数が多い構成単位を含みかつ特定範囲の数平均分子量を有するポリアミド樹脂に、非円形断面を有するガラス繊維を特定の含有率で含有させたポリアミド樹脂組成物で成形体を形成すると、吸水時の寸法安定性と、吸水後の優れた耐摩耗性と、優れた耐衝撃強度と、高い表面硬度とを達成することができる。吸水時の寸法安定性と、吸水後の優れた耐摩耗性とを達成するのは、本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物が優れた低吸水性を示すからである。
【0009】
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂は、アミド基1個に対する炭素原子数が6を超える構成単位(以下、「特定構成単位」ともいう)を含むものであれば特に制限されない。特定構成単位におけるアミド基1個に対する炭素原子数は、吸水時の寸法安定性と吸水後の優れた耐摩耗性と耐衝撃性との観点から、7以上12以下が好ましく、8以上12以下がより好ましい。ここで構成単位におけるアミド基1個に対する炭素原子数は、例えば、ポリアミド6やポリアミド66であれば、アミド基1個に対する炭素原子数は6であり、ポリアミド11であれば11であり、ポリアミド12であれば12であり、ポリアミド612であれば9である。
【0010】
ポリアミド樹脂は、全構成単位におけるアミド基1個に対する平均炭素原子数が6を超えることが好ましく、7以上12以下がより好ましく、8以上12以下がさらに好ましい。全構成単位におけるアミド基1個に対する平均炭素原子数は、例えば、ポリアミド6/66共重合体であれば6であり、ポリアミド6/12共重合体(共重合比1:1)であれば9になる。
【0011】
ポリアミド樹脂としては、ジアミンとジカルボン酸とからなるもの、ラクタム又はアミノカルボン酸からなるもの及びこれらの2種以上の共重合体からなるものが挙げられる。
【0012】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカンジアミン、テトラデカンジアミン、ペンタデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、ヘプタデカンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミン、エイコサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、2,2,4/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−/1,4−シクロヘキシルジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3−/1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、5−アミノ−2,2,4−トリメチル−1−シクロペンタンメチルアミン、5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ビス(アミノエチル)ピペラジン、ノルボルナンジメチレンアミン等の脂環式ジアミン、m−/p−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。これらの中でも炭素原子数が6より多いジアミンが好ましい。
【0013】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、トリデカンジオン酸、テトラデカンジオン酸、ペンタデカンジオン酸、ヘキサデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−/1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン−4,4’−ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−/1,8−/2,6−/2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも炭素原子数が6より多いジカルボン酸が好ましい。
【0014】
ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ウンデカンラクタム、ドデカンラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン等が挙げられる。また、アミノカルボン酸としては6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸が挙げられる。これらの中でも炭素原子数が6より多いラクタム及びアミノカルボン酸が好ましい。
【0015】
アミド基1個に対する炭素原子数が6を超える構成単位を有するポリアミド樹脂の単一重合体としては、例えば、ポリウンデカン酸ラクタム(ポリアミド11)、ポリラウリルラクタム(ポリアミド12)、ポリテトラメチレンドデカミド(ポリアミド412)、ポリペンタメチレンアゼラミド(ポリアミド59)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリペンタメチレンドデカミド(ポリアミド512)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリノナメチレンアジパミド(ポリアミド96)、ポリノナメチレンアゼラミド(ポリアミド99)、ポリノナメチレンセバカミド(ポリアミド910)、ポリノナメチレンドデカミド(ポリアミド912)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンアゼラミド(ポリアミド109)、ポリデカメチレンデカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリドデカメチレンアゼラミド(ポリアミド129)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1210)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリアミド122等が挙げられる。
【0016】
アミド基1個に対する炭素原子数が6を超える構成単位を有するポリアミド樹脂の共重合体としては、例えば、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアゼライン酸共重合体(ポリアミド6/69)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸共重合体(ポリアミド6/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノウンデカン酸共重合体(ポリアミド6/611)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノドデカン酸共重合体(ポリアミド6/612)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ポリアミド6/11)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ポリアミド6/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウリルラクタム(ポリアミド6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸(ポリアミド6/66/610)、及びカプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノドデカンジカルボン酸(ポリアミド6/66/612)等が挙げられる。
【0017】
これらの単一重合体、共重合体は、各々単独又は混合物の形で用いる事ができる。
これらの中でも、吸水時の寸法安定性、耐衝撃強度及び表面強度の観点から、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/12、ポリアミド6/66/12からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610及びポリアミド612からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0018】
ポリアミド樹脂の分子量は、数平均分子量として20000以上40000以下であり、好ましくは22000以上38000以下であり、より好ましくは23000以上36000以下である。ポリアミド樹脂の数平均分子量が上記範囲内にあることにより、吸水後のより優れた耐摩耗性を達成することができる。
【0019】
ポリアミド樹脂の相対粘度には特に制限はないが、ポリマー1gを96%濃硫酸100mlに溶解し、25℃で測定した相対粘度が1.8以上5.0以下であることが好ましく、2.0以上3.5以下がより好ましい。相対粘度が上記数値範囲の上限以下であると、良好な加工性が得られる傾向があり、上記下限以上であると、機械的強度がより向上する傾向がある。
【0020】
ポリアミド樹脂のポリアミド樹脂組成物の総量中における含有率は、機械物性及び吸水時の寸法安定性の観点から、40質量%以上85質量%以下が好ましく、55質量%以上80質量%以下がより好ましく、65質量%以上75質量%以下が更に好ましい。
【0021】
(ガラス繊維)
ガラス繊維としては、断面が非円形のものであれば特に制限はない。断面が非円形とは、ガラス繊維の長さ方向に垂直な断面において、断面の外周の2点のうち、距離が最大となる2点を結ぶ長径と、長径に直交する直線のうち断面の外周と交差する2点間の距離が最大となる2点を結ぶ短径とが存在し、長径と短径の長さが異なる形状を意味する。ガラス繊維の長径の短径に対する比は、1より大きければよく、力学特性の観点から、例えば1.2以上10以下であり、1.5以上6以下が好ましく、1.7以上4.5以下がより好ましい。
【0022】
ガラス繊維の断面形状に特に制限はなく、通常、まゆ形、長円形、半円形、円弧形、長方形、平行四辺形またはこれらの類似形のものが用いられる。実用上は、流動性、力学特性、低反り性の観点から、まゆ形、長円形または長方形が好ましい。ガラス繊維の断面形状については、例えば特開昭62−268612号公報の記載を参照できる。
【0023】
ガラス繊維の太さは特に制限されない。ガラス繊維の短径は通常0.5μm以上25μm以下であり、長径は1.25μm以上300μm以下である。
ガラス繊維の繊維長は、通常1mm以上15mm以下、好ましくは1.5mm以上12mm以下、より好ましくは2mm以上6mm以下である。
ガラス繊維の長径と短径の平均値で繊維長を除して得られるアスペクト比は、通常10以上であり、剛性、機械的強度、流動性の観点から、15以上100以下が好ましい。
【0024】
ガラス繊維を構成するガラスとしては、Aガラス、Cガラス、Eガラス等の組成からなるものが挙げられ、ポリアミド樹脂の熱安定性の観点から、Eガラスが好ましい。またガラス繊維は、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の高分子または低分子の表面処理剤で表面処理されていてもよい。表面処理されていることで、ポリアミド樹脂中への分散性及び密着性が向上する。
【0025】
ガラス繊維のポリアミド樹脂組成物の総量中における含有率は、15質量%以上60質量%以下であり、耐衝撃強度、吸水時の寸法安定性及び表面硬度の観点から、20質量%以上45質量%以下が好ましく、25質量%以上35質量%以下がより好ましい。
【0026】
ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば、可塑剤、耐衝撃材、耐熱材、発泡剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料等の機能性付与剤等を適宜配合することができる。
【0027】
ポリアミド樹脂組成物は、上記のポリアミド樹脂及び所定量の非円形断面のガラス繊維を、一軸あるいは二軸押出機、バンバリーミキサー等で溶融混練することにより製造される。
得られるポリアミド樹脂組成物を成形することにより、所望の成形体を得ることができる。成形方法としては、押出成形法、ブロー成形法、射出成形法等が採用できる。
【0028】
ポリアミド樹脂組成物は、自動車や機械のギア、プーリー、カム、軸受、ケーブルハウジング等に用いられるものであるが、他の同様の機能を要求される部材に用いても差し支えはない。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用した樹脂及び成形品の物性測定方法を以下に示す。
【0030】
(1)シャルピー衝撃強さ:ISO179−1に従い、常温下、Aノッチ入り厚み4mmの試験片を用いてエッジワイズ衝撃試験を行った。(n=10)
【0031】
(2)吸水時の寸法変化率:住友重機械工業(株)製SE−100D射出成形機にて200×40×3mmの成形品を作製し、真空状態で48時間放置後に、成形品表面に転写されたケガキ線間距離をOLYMPUS製マイクロスコープにて測定し、吸水処理前の寸法とした。
次に23℃、50%RH雰囲気下にて168時間放置後に、成形品表面に転写されたケガキ線間距離をOLYMPUS製マイクロスコープにて測定し、吸水処理後の寸法とした。
上記にて得られた、吸水処理前の寸法と吸水処理後の寸法を用いて次の計算式にて吸水時寸法変化率を算出した。
吸水時寸法変化率
= (吸水処理後の寸法−吸水処理前の寸法)/吸水処理前の寸法×100
【0032】
(3)ロックウェル硬度Rスケール:ISO2039−2に従い、Rスケールにて硬度を測定した。ロックウェル硬度Rスケールの測定は試験用試料の水中処理前(未処理)と水中処理後とに行った。水中処理としては、試験用試料を設定温度80℃に設定したトーマス科学器械(株)製恒温水槽T104NBにて2時間及び6時間の浸漬処理を行った。
【0033】
(4)分子量:東ソー(株)製HLC−802Aを用いて、下記条件にてGPC測定を行いPMMA換算にて数平均分子量を算出した。
カラム:Shodex HFIP−LG+HFIP−806M
溶離液:HFIP−10mM CF
3COONa
温度:40℃
流速:0.8ml/min
試料濃度:約0.1wt/vol%
注入量:500μl
【0034】
(5)吸水時の耐摩耗性(水中処理後摩耗量):住友重機械工業(株)製SE−100D射出成形機にて40mm×50mm×3mmtの成形品を作成し、試験用試料とした。相手材料として外径25.6m、内径20mm、長さ15mmの中空形状のものを材質S45Cにて作成した。摩擦磨耗試験機としては(株)エーアンドデイ製EFM−III−ENを用いた。試験用試料を設定温度80℃に設定したトーマス科学器械(株)製恒温水槽T104NBにて2時間及び6時間の浸漬処理をした。上記処理後、試験用試料の表面の水分を拭き取り、真空状態で48時間放置した。上記に得られた80℃水中処理後の試料を用いて、試験用試料の初期重量を測定した後、試験機下部に取り付け、相手材料を試験機上部に取り付け、試験荷重25kgf、周速度100mm/secにて240分間試験を行い、試験後に試験用試料の重量を測定した。上記から得られた、80℃水中処理後の初期重量と試験後の重量の差から磨耗量を算出した。
【0035】
・ポリアミド樹脂
PA6−1 : 数平均分子量13000のポリアミド6
PA6−2 : 数平均分子量30000のポリアミド6
PA66−1 : 数平均分子量20000のポリアミド66
PA66−2 : 数平均分子量34000のポリアミド66
PA12−1 : 数平均分子量24000のポリアミド12
PA12−2 : 数平均分子量30000のポリアミド12
PA12−3 : 数平均分子量35000のポリアミド12
PA12−4 : 数平均分子量14000のポリアミド12
PA12−5 : 数平均分子量41000のポリアミド12
【0036】
・ガラス繊維
GF1:断面形状長方形のガラス繊維(日東紡績株式会社製 CSG3PA−820S)
長径と短径の比4、繊維径7×28μm
GF2:断面形状円形のガラス繊維(日本電気硝子株式会社製 ECS03T249H)
繊維径10.5μm
【0037】
実施例1から6、比較例1から7
表1に記載したポリアミド樹脂およびガラス繊維をTEX44HCT二軸混練機で溶融混練し、目的とするポリアミド樹脂組成物ペレットを作製した。
次に得られたペレットをシリンダー温度290℃、金型温度80℃で射出成形し、各種試験片を製造し、各種物性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】