(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1遊星歯車機構の軸方向に沿ったギヤの幅である第1ギヤ幅は、前記第2遊星歯車機構の前記軸方向に沿ったギヤの幅である第2ギヤ幅よりも小さい、請求項1から5の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、車両用駆動装置100の軸方向断面図であり、
図2は、車両用駆動装置100のスケルトン図である。車両用駆動装置100は、例えば、内燃機関及び回転電機を第1車輪501及び第2車輪502の駆動力源とするハイブリッド自動車や、回転電機を第1車輪501及び第2車輪502の駆動力源とする電気自動車に搭載される駆動装置である。
図1及び
図2に示すように、車両用駆動装置100は、第1車輪501及び第2車輪502の駆動力源として回転電機2のみを備えている。2輪駆動の4輪車の場合には、これによって電気自動車が実現できる。また、4輪駆動の4輪車の場合には、他の2輪を内燃機関の駆動力によって駆動することでハイブリッド車両が実現できる。当然ながら、4輪駆動の4輪車の場合には、本実施形態の車両用駆動装置100を他の2輪にも適用することで、4輪駆動の電気自動車を実現することもできる。
【0012】
尚、以下の説明において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。尚、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。但し、下記において説明する減速装置3及び差動歯車装置4において、各回転要素について「駆動連結」という場合には、当該装置が備える3つ以上の回転要素に関して互いに他の回転要素を介することなく駆動連結されている状態を指すものとする。
【0013】
また、以下の説明において、「筒状」、「円筒状」などと表現した場合、多少の異形部分を有していたとしてもその全体としての概略形状が筒や円筒であることを意味する。これらに限らず、形状等に関して「状」を付して用いる他の表現に関しても同様である。
【0014】
図1及び
図2に示すように、車両用駆動装置100は、ケース1と、駆動力を出力するためのロータ軸27を有する回転電機2と、遊星歯車機構を含む減速装置3と、差動歯車装置4とを備えている。減速装置3は、回転電機2の回転を減速して差動歯車装置4に駆動力を伝達する。差動歯車装置4は、第1ドライブシャフト51及び第2ドライブシャフト52のそれぞれに回転電機2からの駆動力を分配する。尚、本実施形態では、第1ドライブシャフト51は、分配出力軸53に駆動連結されている。差動歯車装置4は、第2ドライブシャフト52及び分配出力軸53に駆動力を分配し、第1ドライブシャフト51は、分配出力軸53を介して分配された駆動力を伝達される。
【0015】
本実施形態の車両用駆動装置100においては、回転電機2、減速装置3、差動歯車装置4、第1ドライブシャフト51、第2ドライブシャフト52、及び分配出力軸53が、回転電機2のロータ軸27を基準として同軸配置されている。従って、回転電機2のロータ軸27に沿った方向は、車両用駆動装置100の回転軸に沿った方向と等価であり、回転電機2のロータ軸27の径に沿った方向は、車両用駆動装置100の径に沿った方向と等価である。本実施形態では、回転電機2のロータ軸27に沿った方向を車両用駆動装置100の軸方向Lと称し、回転電機2のロータ軸27の径に沿った方向を車両用駆動装置100の径方向Rと称する。また、軸方向Lにおいて、減速装置3に対して回転電機2が配置される側を軸方向第1側L1と称し、減速装置3に対して差動歯車装置4が配置される側を軸方向第2側L2と称する。また、径方向Rにおいて、ロータ軸27とは反対の外側を径方向外側R1と称し、ロータ軸27側の内側を径方向内側R2と称する。
【0016】
また、本実施形態の車両用駆動装置100においては、動力伝達経路の順で、回転電機2、減速装置3、差動歯車装置4の順に並んで配置されている。後述するように、減速装置3は、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とを有している。これを考慮すると、動力伝達経路の順で、回転電機2、第1遊星歯車機構31、第2遊星歯車機構32、差動歯車装置4が記載の順に並んで配置されている。また、回転電機2と減速装置3(第1遊星歯車機構31及び第2遊星歯車機構32)と差動歯車装置4とは、軸方向Lに沿って、回転電機2、第1遊星歯車機構31、第2遊星歯車機構32、差動歯車装置4の順に並んで配置されている。つまり、動力伝達経路の順、軸方向Lに沿った配置の順の何れにおいても、第1遊星歯車機構31は第2遊星歯車機構32よりも回転電機2の側に配置されている。
【0017】
ケース1は、回転電機2、減速装置3、及び差動歯車装置4を内部に収容している。また、本実施形態では、ケース1は、さらに、第1ドライブシャフト51の一部(軸方向第2側L2の端部)、第2ドライブシャフト52の一部(軸方向第1側L1の端部)、及び分配出力軸53も内部に収容している。ケース1は、回転電機2、減速装置3、及び差動歯車装置4の径方向外側R1を囲む筒状の周壁部10を備えて形成されている。ケース1は、ケース本体11(第1ケース部)と、本体カバー12(第2ケース部)と、底部カバー13とを有している。ケース本体11は、軸方向第1側L1の端部に位置する底部11aを有する有底筒状に形成され、底部11aとは反対側(軸方向第2側L2)に開口部を有している。本体カバー12は、軸方向第1側L1においてケース本体11に当接してその開口部を覆うように配置され、軸方向第2側L2に向かうに従って小径となる錐形筒状に形成されている。底部カバー13は、ケース本体11の底部11aよりも軸方向第1側L1で底部11aを覆うように配置される。ケース本体11と本体カバー12とは、互いに固定部材(本実施形態においては、ボルト)によって固定されている。同様に、ケース本体11と底部カバー13とも、互いに固定部材(本実施形態においては、ボルト)によって固定されている。
【0018】
回転電機2及び減速装置3の一部(第1遊星歯車機構31)は、ケース本体11の内部空間に配置されている。減速装置3の他の一部(第2遊星歯車機構32)、差動歯車装置4、及び第2ドライブシャフト52の一部(軸方向第1側L1の端部)は、本体カバー12の内部空間に配置されている。第1ドライブシャフト51の一部(軸方向第2側L2の端部)は、ケース本体11と底部カバー13とによって形成される内部空間に配置されている。分配出力軸53は、ケース本体11と本体カバー12と底部カバー13とによって形成される内部空間に配置されている。
【0019】
図3に示すように、ケース1は、支持部材14を有している。本実施形態においては、支持部材14は、第1支持材141と第2支持材142とを含む。第1支持材141はケース本体11に一体的に固定され、第2支持材142は第1支持材141に一体的に固定されている。第1支持材141は、周壁部10(ここでは、周壁部10におけるケース本体11により構成される部分)に固定されている。すなわち、本実施形態では、支持部材14は、ケース1の周壁部10に支持されている。なお、支持部材14が周壁部10と一体的に形成された構成とすることも可能である。第1支持材141は、回転電機2と減速装置3(第1遊星歯車機構31)との間において、径方向R及び周方向に沿って延在するように形成されている。第1支持材141の周方向の少なくとも一箇所において、第1支持材141の径方向外側R1の端部とケース本体11とが固定部材(本実施形態ではボルト)によって固定されている。第2支持材142は、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32との間において、径方向R及び周方向に沿って延在するように形成されている。第2支持材142の周方向の少なくとも一箇所において、第2支持材142の径方向外側R1の端部と第1支持材141とが固定部材(本実施形態ではボルト)によって固定されている。尚、第2支持材142は、第1支持材141よりも軸方向第2側L2において、第1支持材141に一体的に固定されている。
【0020】
回転電機2は、ロータコア22の内部に永久磁石23を備えたロータ21と、ステータコア25にステータコイル26が巻き回されたステータ24と、ロータコア22に連結されたロータ軸27とを備えた永久磁石型回転電機である。ステータ24(具体的には、ステータコア25)は、ケース1に固定されており、具体的には、ケース1の周壁部10に固定されている。ロータコア22の径方向内側R2で、ロータ軸27がロータコア22に連結され、ロータ21とロータ軸27とが一体的に回転する。尚、本実施形態においては、回転電機2は永久磁石型回転電機であるが、例えば誘導型回転電機など他の方式の回転電機であっても良い。
【0021】
ロータ軸27は、円筒状に形成されている。ロータ軸27における軸方向Lに沿ってロータコア22よりも軸方向第1側L1に突出した部分は、第1ロータ軸受61を介して、ケース1のケース本体11に回転可能に支持されている。ロータ軸27における軸方向Lに沿ってロータコア22よりも軸方向第2側L2に突出した部分は、第2ロータ軸受62を介して、支持部材14の第1支持材141に回転可能に支持されている。
【0022】
上述したように、本実施形態においては、減速装置3は、第1遊星歯車機構31と、第2遊星歯車機構32とを含む。第1遊星歯車機構31は、回転電機2に駆動連結される第1回転要素と、第2回転要素と、固定部材に対し回転不能に連結される第3回転要素とを備える。第2遊星歯車機構32は、第1遊星歯車機構31の第2回転要素と駆動連結される第4回転要素と、差動歯車装置4に駆動連結される第5回転要素と、固定部材に対し回転不能に連結される第6回転要素とを備える。本実施形態では、支持部材14が「固定部材」に相当する。なお、固定部材が周壁部10に支持された支持部材14とされる構成に代えて、固定部材を周壁部10(周壁部10の一部)により構成してもよい。
【0023】
第1遊星歯車機構31は、第1サンギヤS31(第1回転要素)と、第1リングギヤR31(第3回転要素)と、第1キャリヤC31(第2回転要素)と、複数の第1ピニオンギヤP31とを有するシングルピニオン型の遊星歯車機構である。第1サンギヤS31は、第1遊星歯車機構31の入力要素であり、回転電機2のロータ軸27と一体回転するように連結されている。第1リングギヤR31は、第1遊星歯車機構31の固定要素であり、回転しないように第1支持材141に支持されている。第1キャリヤC31は、第1遊星歯車機構31の出力要素であり、後述するように第2遊星歯車機構32の第2サンギヤS32(第4回転要素)に連結されている。
【0024】
第1ピニオンギヤP31は、第1サンギヤS31と第1リングギヤR31とに噛み合うように配置され、第1キャリヤC31により回転可能に支持されている。第1ピニオンギヤP31は、第1ピニオンギヤP31の軸心回りに回転(自転)すると共に、第1サンギヤS31の軸心回りに回転(公転)するように構成されている。尚、図示は省略するが、第1ピニオンギヤP31は、第1ピニオンギヤP31の公転軌跡に沿って、互いに間隔を空けて複数設けられている。
【0025】
上述したように、第2遊星歯車機構32は、第1遊星歯車機構31に対して軸方向第2側L2に配置、つまり、第1遊星歯車機構31に対して回転電機2側とは反対側に配置されている。第2遊星歯車機構32は、第2サンギヤS32(第4回転要素)と、第2リングギヤR32(第6回転要素)と、第2キャリヤC32(第5回転要素)と、複数の第2ピニオンギヤP32とを有するシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0026】
第2サンギヤS32は、第2遊星歯車機構32の入力要素である。上述したように、第2サンギヤS32(第4回転要素)は、第1遊星歯車機構31の出力要素である第1キャリヤC31(第2回転要素)に連結されている。本実施形態では、第2サンギヤS32は、第1キャリヤC31とスプライン係合によって連結されている。つまり、本実施形態では、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とがそれぞれ独立して形成され、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とがスプライン係合によって連結されている形態を例示している。しかし、第1キャリヤC31と第2サンギヤS32とが別の部材によって構成されている形態に限らず、第1キャリヤC31と第2サンギヤS32とが一つの部品で構成されていてもよい。例えば、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とが一体的に構成されて、1つの減速装置3が形成されていてもよい。また、第1キャリヤC31と第2サンギヤS32とが別の部材によって構成されている場合においても、スプライン係合に限らず、例えば溶接等によって両者が連結されていてもよい。
【0027】
ところで、
図1及び
図2に示すように、第2ドライブシャフト52は軸方向Lにおいて差動歯車装置4に隣接して配置されているが、軸方向Lにおいて第1ドライブシャフト51と差動歯車装置4との間には、回転電機2及び減速装置3が存在する。このため、第1ドライブシャフト51は、回転電機2及び減速装置3を貫通する分配出力軸53を介して差動歯車装置4に連結されている。本実施形態では、一体的に回転する第1キャリヤC31及び第2サンギヤS32は、ブッシュ等の滑り軸受を介して分配出力軸53に対して回転可能に支持されている。
【0028】
第2リングギヤR32(第6回転要素)は、第2遊星歯車機構32の固定要素であり、周方向へ回転しないように第2支持材142に支持されている。第2キャリヤC32(第5回転要素)は、第2遊星歯車機構32の出力要素である。本実施形態では、第2キャリヤC32は、差動歯車装置4の差動ケースD4と一体的に形成されている。また、本実施形態では、第2キャリヤC32の軸方向第1側L1の端部は、減速装置3の第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32との間において、第1差動ケース軸受66を介して、第2支持材142に回転可能に支持されている。
【0029】
第2ピニオンギヤP32は、第2サンギヤS32と第2リングギヤR32とに噛み合うように配置され、第2キャリヤC32により回転可能に支持されている。第2ピニオンギヤP32は、第2ピニオンギヤP32の軸心回りに回転(自転)すると共に、第2サンギヤS32の軸心回りに回転(公転)するように構成されている。尚、図示は省略するが、第2ピニオンギヤP32は、第2ピニオンギヤP32の公転軌跡に沿って、互いに間隔を空けて複数設けられている。
【0030】
図3に示すように、支持部材14(固定部材の一例)は、第1リングギヤR31を支持する第1支持部14aと、第2リングギヤR32を支持する第2支持部14bとを有している。本実施形態では、支持部材14が備える第1支持材141に第1支持部14aが形成され、支持部材14が備える第2支持材142に第2支持部14bが形成されている。そして、第1リングギヤR31は、第1支持部14aによって外周側から少なくとも部分的に覆われた状態で、第1支持部14aに支持され、第2リングギヤR32は、第2支持部14bによって外周側から少なくとも部分的に覆われた状態で、第2支持部14bに支持されている。具体的には、第1支持部14aは、スプライン嵌合により第1リングギヤR31に対して径方向外側R1から連結されることで、第1リングギヤR31を周方向に回転不能に支持している。ここでは、第1支持部14aは、周方向の全域に亘って連続的に形成されており、第1リングギヤR31を周方向の全域に亘って覆うように配置されている。また、第2支持部14bは、スプライン嵌合により第2リングギヤR32に対して径方向外側R1から連結されることで、第2リングギヤR32を周方向に回転不能に支持している。ここでは、第2支持部14bは、周方向の全域に亘って連続的に形成されており、第2リングギヤR32を周方向の全域に亘って覆うように配置されている。
【0031】
差動歯車装置4は、減速装置3を介して伝達される回転電機2からの駆動力を第1車輪501と第2車輪502とに分配する。具体的には、差動歯車装置4は、減速装置3を介して伝達される回転電機2からの駆動力を、分配出力軸53に駆動連結された第1ドライブシャフト51と、第2ドライブシャフト52とを介して、それぞれ第1車輪501と第2車輪502とに分配する。本実施形態では、差動歯車装置4は、入力要素としての差動ケースD4と、差動ケースD4と一体回転するように差動ケースD4に支持されたピニオンシャフトF4と、ピニオンシャフトF4に対して回転可能に支持された第1差動ピニオンギヤP41及び第2差動ピニオンギヤP42と、分配出力要素としての第1サイドギヤB41及び第2サイドギヤB42とを有している。ここでは、第1差動ピニオンギヤP41、第2差動ピニオンギヤP42、第1サイドギヤB41、及び第2サイドギヤB42は、いずれも傘歯車である。つまり、差動歯車装置4は、傘歯車型のギヤ機構を備えた差動歯車装置である。
【0032】
差動ケースD4は、中空の部材であり、差動ケースD4の内部には、ピニオンシャフトF4と、一対の差動ピニオンギヤP4(第1差動ピニオンギヤP41及び第2差動ピニオンギヤP42)と、第1サイドギヤB41及び第2サイドギヤB42とが収容されている。本実施形態においては、差動ケースD4は、第2遊星歯車機構32の第2キャリヤC32と一体的に形成されており、第2キャリヤC32が差動ケースD4の一部として構成されている。そのため、本実施形態においては、第2キャリヤC32の軸方向第1側L1の端部が、差動ケースD4の第1被支持部D4aとして機能する。第1被支持部D4aは、軸方向Lにおける第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32との間に配置されている。第1被支持部D4aは、支持部材14を介してケース1に固定された第1差動ケース軸受66によって直接支持されている。上述したように、第1支持材141がケース本体11に一体的に固定され、第1支持材141と第2支持材142とが互いに一体的に固定されている。そのため、第1被支持部D4aは、第1差動ケース軸受66を介してケース本体11に支持されている。
【0033】
また、差動ケースD4は、軸方向Lにおける第1被支持部D4aとは反対側(軸方向第2側L2)に位置する第2被支持部D4bを有している。ここでは、第2被支持部D4bは、軸方向Lに沿って第2サイドギヤB42よりも軸方向第2側L2に突出するように形成されている。第2被支持部D4bは、第1サイドギヤB41及び第2サイドギヤB42と同軸の円筒状に形成されている。第2被支持部D4bは、ケース1の本体カバー12に固定された第2差動ケース軸受67によって直接支持されている。つまり、第2被支持部D4bは、第2差動ケース軸受67を介して回転可能にケース1の本体カバー12に支持されている。
【0034】
ピニオンシャフトF4は、一対の差動ピニオンギヤP4に挿通され、それらを回転可能に支持している。ピニオンシャフトF4は、差動ケースD4に径方向Rに沿って形成された貫通孔に挿入されており、係止部材43により差動ケースD4に係止されている。
【0035】
一対の差動ピニオンギヤP4は、径方向Rに沿って互いに間隔を空けて対向した状態でピニオンシャフトF4に取り付けられ、差動ケースD4の内部空間においてピニオンシャフトF4を中心として回転するように構成されている。
【0036】
第1サイドギヤB41及び第2サイドギヤB42は、差動歯車装置4における分配後の回転要素である。第1サイドギヤB41と第2サイドギヤB42とは、軸方向Lに沿って互いに間隔を空けて、ピニオンシャフトF4を挟んで対向するように設けられ、差動ケースD4の内部空間においてそれぞれの周方向に回転するように構成されている。第1サイドギヤB41と第2サイドギヤB42とは、それぞれ第1差動ピニオンギヤP41及び第2差動ピニオンギヤP42に噛み合っている。第1サイドギヤB41の内周面には、分配出力軸53を連結するためのスプラインが形成されている。第2サイドギヤB42の内周面には、第2ドライブシャフト52を連結するためのスプラインが形成されている。
【0037】
分配出力軸53は、差動歯車装置4によって分配された回転電機2からの駆動力を第1ドライブシャフト51に伝達する部材である。分配出力軸53は、回転電機2のロータ軸27の径方向内側R2を軸方向Lに貫通している。分配出力軸53における軸方向第2側L2の端部の外周面には、差動歯車装置4の第1サイドギヤB41に連結するためのスプラインが形成されている。当該スプラインと第1サイドギヤB41の内周面のスプラインとが係合することにより、分配出力軸53と第1サイドギヤB41とが一体的に回転するように連結されている。分配出力軸53の軸方向第1側L1の端部には、第1ドライブシャフト51を連結するための連結部53aが形成されている。
【0038】
連結部53aは、ケース本体11の内部空間における回転電機2よりも軸方向第1側L1の部分から底部カバー13の内部空間にかけて延在している。連結部53aは、分配出力軸53における連結部53a以外の部分と同軸の円筒状に形成されている。連結部53aは、分配出力軸53における連結部53a以外の部分の外径よりも大きい外径を有している。連結部53aは、第1出力軸受68を介して回転可能にケース1の底部カバー13に支持されていると共に、第2出力軸受69を介して回転可能にケース本体11の底部11aに支持されている。連結部53aにおける軸方向第2側L2の部分の内周面には、第1ドライブシャフト51を連結するためのスプラインが形成されている。
【0039】
第1ドライブシャフト51は、第1車輪501に駆動連結され、第2ドライブシャフト52は、第2車輪502に駆動連結されている。尚、本実施形態においては、分配出力軸53の軸方向第1側L1の端部に連結部53aが設けられ、第1ドライブシャフト51と分配出力軸53の連結部53aとがスプラインによって連結されている。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、分配出力軸53の軸方向第1側L1の端部に、連結部53aの代わりにフランジヨークが設けられ、当該フランジヨークと第1ドライブシャフト51とがボルトによって締結された構成であっても良い。
【0040】
以下、第1遊星歯車機構31及び第2遊星歯車機構32を備えた減速装置3の詳細な構成について説明する。上述したように、第1遊星歯車機構31は、入力要素である第1サンギヤS31が回転電機2(具体的には、回転電機2のロータ軸27)に駆動連結され、回転電機2の回転を第1減速比で減速して、出力要素である第1キャリヤC31から駆動力を出力する。第2遊星歯車機構32は、入力要素である第2サンギヤS32が第1遊星歯車機構31の第1キャリヤC31に駆動連結され、回転電機2の回転をさらに第2減速比で減速して、出力要素である第2キャリヤC32から駆動力を出力する。
【0041】
ここで、第1遊星歯車機構31の減速比である第1減速比が、第2遊星歯車機構32の減速比である第2減速比よりも小さいと好適である。第1減速比と第2減速比とが同等の場合に比べて、第1減速比が第2減速比よりも小さいと、第2遊星歯車機構32に入力される回転速度が高くなると共に、第2遊星歯車機構32への入力トルクが小さくなる。第2遊星歯車機構32は、入力トルクが小さくなることにより、必要な機械的強度が低減されて小型化が可能となる。大きな入力トルクに対応して機械的な強度を向上させる場合には歯車機構の歯幅を軸方向Lに長くすることが多い。この場合、例えば、軸方向Lに沿った第1遊星歯車機構31及び第2遊星歯車機構32のギヤの幅(第1ギヤ幅W1、第2ギヤ幅W2:
図3参照)を長くすることになる。
【0042】
上述したように、第2遊星歯車機構32の入力トルクを低減させることで、第2遊星歯車機構32のギヤ幅である第2ギヤ幅W2を小さくすることができる。第1遊星歯車機構31は、第2遊星歯車機構32よりも高回転・低トルクであるから、伝達トルクが多少大きくなっても、第1遊星歯車機構31のギヤ幅である第1ギヤ幅W1はそれほど大きくはならない。つまり、第1減速比と第2減速比との関係によって、第2ギヤ幅W2の減少分の方が、第1ギヤ幅W1の増分よりも大きくなるので、減速装置3の全体として軸方向Lの長さを低減することができる。このように、減速装置3が備える2つの遊星歯車機構(31,32)のギヤ比を適切に設定することで、減速装置3の軸方向Lの長さを短縮することができる。
【0043】
尚、第1減速比と第2減速比との大小関係に拘わらず、
図3に示すように、第1ギヤ幅W1は、第2ギヤ幅W2よりも小さいと好適である。第2遊星歯車機構32は、動力伝達経路の順で第1遊星歯車機構31に対して減速装置3の出力側に配置されており、第1遊星歯車機構31で減速された後の回転電機2の駆動力が第2遊星歯車機構32に伝達される。従って、伝達トルクは、第1遊星歯車機構31に比べて、第2遊星歯車機構32の方が大きい。上述したように、機械的な強度等の観点より、伝達トルクが大きいほど、軸方向Lに沿ったギヤの幅を大きくすることが好ましい。相対的に伝達トルクが大きい第2遊星歯車機構32の第2ギヤ幅W2に比べて、相対的に伝達トルクが小さい第1遊星歯車機構31の第1ギヤ幅W1を小さくすることで、伝達トルクの大きさに応じた適切な構造を有する減速装置3を構成することができる。
【0044】
さらに、第2ギヤ幅W2は、第1ギヤ幅W1に第1減速比を乗じた長さよりも小さいと好ましい。第1ギヤ幅W1と第2ギヤ幅W2との比率を、それぞれの入力トルクに比例させた場合には、第2ギヤ幅W2は第1ギヤ幅W1に第1減速比を乗じた長さとなる。但し、第2遊星歯車機構32は、伝達トルクが第1遊星歯車機構31よりも大きいものの、回転速度は第1遊星歯車機構31よりも低い。つまり、回転速度が低いために、第1ギヤ幅W1に第1減速比を乗じた長さより、第2ギヤ幅W2が小さくても必要な耐久性を確保することができる。第2ギヤ幅W2が第1ギヤ幅W1に第1減速比を乗じた長さよりも小さければ、第2遊星歯車機構32の軸方向Lの長さを短縮することができ、それによって減速装置3の全体の軸方向Lの長さも短縮することができる。
【0045】
また、第2サンギヤS32の径である第2サンギヤ径φ2が、第1サンギヤS31の径である第1サンギヤ径φ1よりも小さいと好ましい。上述したように、第1遊星歯車機構31及び第2遊星歯車機構32は、リングギヤを固定要素とし、サンギヤを入力要素とし、キャリヤを出力要素とする。例えば、リングギヤが同一径であれば、サンギヤの径が小さいほど、減速比が大きくなる。つまり、径や歯数などの各ギヤの構成が多少異なっていたとしても、サンギヤの径が小さい方が減速比を大きくすることが容易である。
図3に示すように、本実施形態では、第2サンギヤ径φ2が第1サンギヤ径φ1よりも小さい。従って、第1減速比が第2減速比よりも小さい減速装置3が適切に実現される。
【0046】
ところで、本実施形態では、第1遊星歯車機構31及び第2遊星歯車機構32は、平歯車よりも強度が高く、ギヤノイズが小さいために高回転での使用にも適した斜歯歯車を用いて構成されている。但し、斜歯歯車は、構造上、回転軸に沿った方向への力であるスラスト力を生じさせる。斜歯歯車を用いた歯車装置が軸方向へ移動しようとする荷重を受け止めるために、斜歯歯車を用いた歯車装置には、一般的にスラスト軸受が設けられる。
図1及び
図3に示すように、第1遊星歯車機構31に対して軸方向第1側L1には第1スラスト軸受71が設けられ、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32との軸方向Lの間には第2スラスト軸受72が設けられ、第2遊星歯車機構32に対して軸方向第2側L2には第3スラスト軸受73が設けられている。より詳しくは、第1スラスト軸受71は、第1サンギヤS31に対して軸方向第1側L1に設けられている。本実施形態では、
図3に示すように、上述した支持部材14が、第1遊星歯車機構31に対して第2遊星歯車機構32が配置される側とは軸方向Lの反対側(すなわち、第1遊星歯車機構31に対して軸方向第1側L1)に配置される部分(対象部分14c)を有するように、ケース1の周壁部10に支持されている。ここでは、ケース1が備える対象部分14cは、支持部材14が備える第1支持材141に形成されている。そして、軸方向Lにおける第1サンギヤS31と支持部材14(具体的には、対象部分14c)との間に第1スラスト軸受71が配置されている。なお、支持部材14が周壁部10と一体的に形成された構成とする等、対象部分14cが周壁部10と一体的に形成された構成とすることもできる。第2スラスト軸受72は、第1サンギヤS31に対して軸方向第2側L2であって第1キャリヤC31と第2サンギヤS32との連結部分に対して軸方向第1側L1に設けられている。第3スラスト軸受73は、第2サンギヤS32に対して軸方向第2側L2に設けられている。
【0047】
図4は、減速装置3の斜歯の構成及びスラスト力を示している。第1遊星歯車機構31及び第2遊星歯車機構32は、第1遊星歯車機構31のスラスト力である第1スラスト力SF1と第2遊星歯車機構32のスラスト力である第2スラスト力SF2とが、軸方向Lにおいて互いに逆方向となるように斜歯のねじれ角が形成されている。共に斜歯歯車を用いて構成された第1遊星歯車機構31及び第2遊星歯車機構32がそれぞれ発生させるスラスト力(SF1,SF2)の向きが互いに逆方向であれば、それぞれのスラスト力(SF1,SF2)の少なくとも一部が打ち消し合うようにすることが可能となる。本実施形態では、第1サンギヤS31に発生する第1スラスト力SF1と、第2サンギヤS32に発生する第2スラスト力SF2とが、互いに対向する方向となるように、斜歯のねじれ角が設定されている。これにより、第1サンギヤS31及び第2サンギヤS32に対して軸方向Lの外側に配置された第1スラスト軸受71及び第3スラスト軸受73に掛かる荷重を低減できる。
【0048】
スラスト力が大きい場合にはスラスト軸受への負荷が大きくなり、減速装置3の耐久性にも影響する。しかし、これらのスラスト軸受を大型化すると減速装置3が軸方向Lに長くなって小型化の妨げとなる。第1サンギヤS31に発生する第1スラスト力SF1と第2サンギヤS32に発生する第2スラスト力SF2の少なくとも一部が打ち消し合うようにすることによって第1スラスト軸受71及び第3スラスト軸受73への負荷を軽減できる。その結果、第1スラスト軸受71及び第3スラスト軸受73が小型であっても、減速装置3の耐久性を確保することができる。
【0049】
図4に示すように、スラスト力は、斜歯に直交する方向に生じる力を、回転軸(ここでは軸方向Lに一致する)に平行な方向と回転軸に直交する方向とにベクトル分解した内の、回転軸に平行な成分に相当する。つまり、スラスト力は、斜歯に直交する方向に生じる力が大きいほど大きくなる。このため、スラスト力の大きさは、伝達トルクとの間に相関関係を有し、伝達トルクが大きいほどスラスト力も大きくなる。
【0050】
上述したように、第2遊星歯車機構32の伝達トルクは、第1遊星歯車機構31の伝達トルクに比べて大きいため、第2スラスト力SF2は第1スラスト力SF1よりも大きくなる傾向がある。また、スラスト力の大きさは、斜歯歯車における斜歯のねじれ角との間にも相関関係を有し、ねじれ角が大きいほどスラスト力も大きくなる。ここで、ねじれ角とは、斜歯歯車の回転軸と斜歯歯車の歯筋とのなす角度である。斜歯に直交する方向に生じる力が同じ場合には、ねじれ角が大きいほど、回転軸に沿った成分であるスラスト力が大きくなる。
【0051】
図4に示すように、第1遊星歯車機構31の斜歯のねじれ角である第1ねじれ角θ1が、第2遊星歯車機構32の斜歯のねじれ角である第2ねじれ角θ2よりも大きいと、歯車機構から出力される力の中でスラスト力の占める割合が、第2遊星歯車機構32に比べて第1遊星歯車機構31の方が大きくなる。上述したように、第1遊星歯車機構31の伝達トルクに比べて、第2遊星歯車機構32の伝達トルクの方が大きいため、第2遊星歯車機構32の方がスラスト力も大きくなる傾向がある。しかし、第1ねじれ角θ1が第2ねじれ角θ2よりも大きいと、伝達トルクの差に起因するスラスト力の大きさの差を低減させることができる。
【0052】
尚、本実施形態では、第1サンギヤS31に発生する第1スラスト力SF1と第2サンギヤS32に発生する第2スラスト力SF2とが、互いに対向する方向に作用して互いの力の少なくとも一部を打ち消し合う形態を例示した。しかし、このような構成に限らず、例えば、第1リングギヤR31及び第2リングギヤR32が回転するように構成され、これらがスラスト軸受により軸方向Lに支持される構成とされている場合には、第1リングギヤR31に発生する第1スラスト力SF1と第2リングギヤR32に発生する第2スラスト力SF2とが、互いに対向する方向に作用するように斜歯のねじれ角が設定されていると好適である。この場合にも、互いの力の少なくとも一部が打ち消し合うようにすることで、減速装置3の全体のスラスト力を低減することができる。なお、この場合、第1サンギヤS31に発生する第1スラスト力SF1と第2サンギヤS32に発生する第2スラスト力SF2とは、互いに離間する方向に作用する。
【0053】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0054】
(1)上記においては、傘歯車型の差動歯車装置4を例示した。しかし、差動歯車装置4は、傘歯車型に限定されることなく、
図5に示す第3遊星歯車機構9のように遊星歯車式であってもよい。
図5に示すように、第3遊星歯車機構9は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であり、第3サンギヤS9、第3キャリヤC9、及び第3リングギヤR9を有している。第3リングギヤR9は、第3遊星歯車機構9の入力要素であり、第2遊星歯車機構32の第2キャリヤC32と一体回転するように連結されている。また、第3サンギヤS9及び第3キャリヤC9が第3遊星歯車機構9の分配出力要素である。ここでは、第3キャリヤC9は分配出力軸53に連結され、第3サンギヤS9はスプライン係合により第2ドライブシャフト52に連結されている。
【0055】
(2)上記においては、差動歯車装置4の差動ケースD4が、第2遊星歯車機構32の第2キャリヤC32と一体的に形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、差動ケースD4と第2キャリヤC32とが互いに分離可能な構成(例えば、ボルト、スプライン等で互いに連結された構成)であっても良い。
【0056】
(3)上記においては、第2ギヤ幅W2が、第1ギヤ幅W1に第1減速比を乗じた長さよりも小さい構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第2ギヤ幅W2を、第1ギヤ幅W1に第1減速比を乗じた長さと同じ、或いはそれよりも大きくしても良い。
【0057】
(4)上記においては、第2サンギヤ径φ2が第1サンギヤ径φ1よりも小さい構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第2サンギヤ径φ2を第1サンギヤ径φ1よりも大きくしても良い。この場合、第1遊星歯車機構31の第1減速比が第2遊星歯車機構32の第2減速比よりも小さくなるようにするため、第2リングギヤR32の径を第1リングギヤR31の径よりも大きくすると良い。
【0058】
(5)上記においては、第1遊星歯車機構31のスラスト力(第1スラスト力SF1)と第2遊星歯車機構32のスラスト力(第2スラスト力SF2)とが、軸方向Lにおいて互いに逆方向となるように斜歯のねじれ角が形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1スラスト力SF1と第2スラスト力SF2とが、軸方向Lにおいて互いに同じ方向となるように斜歯のねじれ角が形成されていても良い。
【0059】
(6)上記においては、第1遊星歯車機構31の斜歯のねじれ角(第1ねじれ角θ1)が、第2遊星歯車機構32の斜歯のねじれ角(第2ねじれ角θ2)よりも大きい構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1ねじれ角θ1と、第2ねじれ角θ2とが同じであっても良い。また、第1ねじれ角θ1が、第2ねじれ角θ2よりも小さくても良い。
【0060】
(7)上記においては、減速装置3が軸方向Lにおける回転電機2と差動歯車装置4との間に配置されている形態を例示した。しかし、減速装置3及び差動歯車装置4が回転電機2と同軸に配置され、減速装置3を介して伝達される回転電機2からの駆動力を差動歯車装置4が2つの車輪(501,502)に分配する構造が満足できれば、減速装置3が軸方向Lにおける回転電機2と差動歯車装置4との間に配置されていなくてもよい。
【0061】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置(100)の概要について簡単に説明する。
【0062】
車両用駆動装置(100)は、1つの態様として、
第1車輪(501)及び第2車輪(502)の駆動力源となる回転電機(2)と、
前記回転電機(2)の回転を減速する減速装置(3)と、
前記減速装置(3)を介して伝達される前記回転電機(2)からの駆動力を前記第1車輪(501)と前記第2車輪(502)とに分配する差動歯車装置(4)と、を備え、
前記減速装置(3)及び前記差動歯車装置(4)が前記回転電機(2)と同軸に配置され、
前記減速装置(3)は、第1遊星歯車機構(31)と第2遊星歯車機構(32)とを有し、動力伝達経路の順で前記第1遊星歯車機構(31)が前記第2遊星歯車機構(32)よりも前記回転電機(2)の側に配置され、
前記第1遊星歯車機構(31)の減速比である第1減速比が、前記第2遊星歯車機構(32)の減速比である第2減速比よりも小さい。
【0063】
この構成によれば、減速装置(3)及び差動歯車装置(4)が回転電機(2)と同軸に配置されるため、これら3つの装置(3,4,5)が互いに平行な3つの軸に分かれて配置される場合に比べて、車両用駆動装置(100)の径方向(R)の寸法を小さく抑えることができる。その上で、この構成によれば、以下に述べるように減速装置(3)の全体の軸方向(L)の長さを短縮することができるため、車両用駆動装置(100)が軸方向(L)に大型化することを抑制しつつ、これら3つの装置(3,4,5)を同軸上に配置することができる。
【0064】
第1遊星歯車機構(31)の第1減速比と、第2遊星歯車機構(32)の第2減速比とが同等の場合に比べて、第1減速比が第2減速比よりも小さいと、第2遊星歯車機構(32)に入力される回転速度が高くなると共に、第2遊星歯車機構(32)への入力トルクが小さくなる。第2遊星歯車機構(32)は、入力トルクが小さくなることにより、必要な機械的強度が低減されて小型化が可能となる。大きな入力トルクに対応して機械的な強度を向上させる場合には歯車機構の歯幅を軸方向(L)に長くすることが多い。従って、第2遊星歯車機構(32)への入力トルクを低減させることで第2遊星歯車機構(32)の軸方向(L)の長さを短縮することができ、それによって減速装置(3)の全体の軸方向(L)の長さも短縮することができる。この結果、車両用駆動装置(100)の軸方向(L)の長さの短縮を図ることができる。
このように、本構成によれば、径方向(R)及び軸方向(L)の双方における車両用駆動装置(100)の全体の小型化を図ることができる。
【0065】
ここで、前記第1遊星歯車機構(31)は、前記回転電機(2)に駆動連結される第1回転要素(S31)と、第2回転要素(C31)と、固定部材(14)に対し回転不能に連結される第3回転要素(R31)とを備え、前記第2遊星歯車機構(32)は、前記第1遊星歯車機構(31)の第2回転要素(C31)と駆動連結される第4回転要素(S32)と、前記差動歯車装置(4)に駆動連結される第5回転要素(C32)と、前記固定部材(14)に対し回転不能に連結される第6回転要素(R32)とを備えると好適である。
【0066】
この構成によれば、動力伝達経路の順で第1遊星歯車機構(31)が第2遊星歯車機構(32)よりも回転電機(2)の側に配置され、第2遊星歯車機構(32)が第1遊星歯車機構(31)よりも回転電機(2)の側に配置された減速装置(3)を適切に構成することができる。
【0067】
上記のように、前記第1遊星歯車機構(31)が、前記第1回転要素(S31)、前記第2回転要素(C31)、及び前記第3回転要素(R31)を備え、前記第2遊星歯車機構(32)が、前記第4回転要素(S32)、前記第5回転要素(C32)、及び前記第6回転要素(R32)を備える場合において、前記第1遊星歯車機構(31)は、前記第1回転要素(S31)である第1サンギヤ(S31)と、前記第2回転要素(C31)である第1キャリヤ(C31)と、前記第3回転要素(R31)である第1リングギヤ(R31)と、を有し、前記第2遊星歯車機構(32)は、前記第4回転要素(S32)である第2サンギヤ(S32)と、前記第5回転要素(C32)である第2キャリヤ(C32)と、前記第6回転要素(R32)である第2リングギヤ(R32)と、を有し、前記固定部材(14)は、第1支持部(14a)と第2支持部(14b)とを有し、前記第1リングギヤ(R31)は、前記第1支持部(14a)によって外周側から少なくとも部分的に覆われた状態で、前記第1支持部(14a)に支持され、前記第2リングギヤ(R32)は、前記第2支持部(14b)によって外周側から少なくとも部分的に覆われた状態で、前記第2支持部(14b)に支持されていると好適である。
【0068】
この構成によれば、第1リングギヤ(R31)及び第2リングギヤ(R32)を支持部(14a,14b)によって外周側から支持することで、第1リングギヤ(R31)及び第2リングギヤ(R32)を固定部材(14)に対し回転不能に連結することができる。なお、本開示に係る車両用駆動装置(100)のように、減速装置(3)及び差動歯車装置(4)が回転電機(2)と同軸に配置される場合には、車両用駆動装置(100)の径方向(R)の寸法を小さく抑えるために、第1遊星歯車機構(31)や第2遊星歯車機構(32)に対して径方向外側(R1)には空間の余裕が少なくなりやすい。この点に関し、上記の構成によれば、リングギヤ(R31,R32)を外周側から少なくとも部分的に覆うように支持部(14a,14b)が配置されるため、リングギヤ(R31,R32)を適切に支持するために必要な支持部(14a,14b)の径方向(R)の寸法を小さく抑えることができる。よって、第1遊星歯車機構(31)や第2遊星歯車機構(32)に対して径方向外側(R1)に空間の余裕が少ない場合であっても、第1リングギヤ(R31)及び第2リングギヤ(R32)を支持部(14a,14b)によって適切に支持することができる。
【0069】
ここで、前記回転電機(2)のステータ(24)が固定されるケース(1)を更に備え、前記固定部材(14)が、前記ケース(1)の周壁部(10)により構成され、又は、前記周壁部(10)に支持された支持部材(14)であると好適である。
【0070】
この構成によれば、第1リングギヤ(R31)及び第2リングギヤ(R32)を、回転電機(2)のステータ(24)が固定されるケース(1)に対して回転不能に連結することができる。なお、上述したように、第1遊星歯車機構(31)や第2遊星歯車機構(32)に対して径方向外側(R1)に空間の余裕が少ない場合であっても、第1リングギヤ(R31)及び第2リングギヤ(R32)を支持部(14a,14b)によって適切に支持することができるため、周壁部(10)を第1遊星歯車機構(31)及び第2遊星歯車機構(32)に対して近づけて配置して、車両用駆動装置(100)の径方向(R)における小型化を図ることができる。
【0071】
また、前記減速装置(3)は、軸方向(L)における前記回転電機(2)と前記差動歯車装置(4)との間に配置されていると好適である。
【0072】
この構成によれば、簡素な車両用駆動装置(100)を構成することができ、車両用駆動装置(100)の小型化が実現される。
【0073】
ここで、前記第1遊星歯車機構(31)の軸方向(L)に沿ったギヤの幅である第1ギヤ幅(W1)は、前記第2遊星歯車機構(32)の前記軸方向(L)に沿ったギヤの幅である第2ギヤ幅(W2)よりも小さいと好適である。
【0074】
第2遊星歯車機構(32)は、動力伝達経路の順で第1遊星歯車機構(31)に対して減速装置(3)の出力側に配置されており、第1遊星歯車機構(31)で減速された後の回転電機(2)の駆動力が第2遊星歯車機構(32)に伝達される。従って、伝達トルクは、第1遊星歯車機構(31)に比べて、第2遊星歯車機構(32)の方が大きい。機械的な強度等の観点より、伝達トルクが大きいほど、軸方向(L)に沿ったギヤの幅を大きくすることが好ましい。相対的に伝達トルクが大きい第2遊星歯車機構(32)の第2ギヤ幅(W2)に比べて、相対的に伝達トルクが小さい第1遊星歯車機構(31)の第1ギヤ幅(W1)を小さくすることで、伝達トルクの大きさに応じた構造を持つ減速装置(3)を構成することができる。これにより、減速装置(3)の軸方向(L)の長さを短く抑えることができる。
【0075】
また、上記のように、前記第1遊星歯車機構(31)の前記軸方向(L)に沿ったギヤの幅である第1ギヤ幅(W1)が、前記第2遊星歯車機構(32)の前記軸方向(L)に沿ったギヤの幅である第2ギヤ幅(W2)よりも小さい場合において、前記第2ギヤ幅(W2)が、前記第1ギヤ幅(W1)に前記第1減速比を乗じた長さよりも小さいと好適である。
【0076】
第1ギヤ幅(W1)と第2ギヤ幅(W2)との比率を、それぞれの入力トルクに比例させた場合には、第2ギヤ幅(W2)は第1ギヤ幅(W1)に第1減速比を乗じた長さとなる。但し、第2遊星歯車機構(32)は、伝達トルクが第1遊星歯車機構(31)よりも大きいものの、回転速度は第1遊星歯車機構(31)よりも低い。従って、第1ギヤ幅(W1)に第1減速比を乗じた長さに対して第2ギヤ幅(W2)が小さくても必要な耐久性を確保することができる。第2ギヤ幅(W2)が第1ギヤ幅(W1)に第1減速比を乗じた長さよりも小さいことにより、第2遊星歯車機構(32)の軸方向(L)の長さを短縮することができ、それによって減速装置(3)の全体の軸方向(L)の長さも短縮することができる。
【0077】
また、前記第1遊星歯車機構(31)が、第1サンギヤ(S31)と第1キャリヤ(C31)と第1リングギヤ(R31)とを有し、前記第2遊星歯車機構(32)が、第2サンギヤ(S32)と第2キャリヤ(C32)と第2リングギヤ(R32)とを有し、前記第2サンギヤ(S32)の径(φ2)が、前記第1サンギヤ(S31)の径(φ1)よりも小さいと好適である。
【0078】
例えば、同一径のリングギヤを固定要素とし、サンギヤを入力要素とし、キャリヤを出力要素とする遊星歯車機構の場合、サンギヤの径が小さいほど、減速比が大きくなる。従って、各ギヤの構成(径、歯数等)が多少異なっていたとしても、サンギヤの径が小さい方が減速比を大きくし易い。第2サンギヤ(S32)の径(φ2)が、第1サンギヤ(S31)の径(φ1)よりも小さいと、第1遊星歯車機構(31)に比べて第2遊星歯車機構(32)の減速比を大きくし易くなる。従って、本構成によれば、第1減速比が、第2減速比よりも小さい減速装置(3)を容易に実現することができる。
【0079】
尚、上述したように、第1遊星歯車機構(31)が、回転電機(2)に駆動連結される第1回転要素(S31)と、第2回転要素(C31)と、固定部材(14)に対し回転不能に連結される第3回転要素(R31)を備え、第2遊星歯車機構(32)が、第1遊星歯車機構(31)の第2回転要素(C31)と駆動連結される第4回転要素(S32)、差動歯車装置(4)に駆動連結される第5回転要素(C32)、固定部材(14)に対し回転不能に連結される第6回転要素(R32)を備える場合には、第1回転要素(S31)が第1サンギヤ(S31)に対応し、第2回転要素(C31)が第1キャリヤ(C31)に対応し、第3回転要素(R31)が第1リングギヤ(R31)に対応し、第4回転要素(S32)が第2サンギヤ(S32)に対応し、第5回転要素(C32)が第2キャリヤ(C32)に対応し、第6回転要素(R32)が第2リングギヤ(R32)に対応すると好適である。
【0080】
また、軸方向(L)に沿って前記第1遊星歯車機構(31)が前記第2遊星歯車機構(32)よりも前記回転電機(2)の側に配置されている場合、前記第1遊星歯車機構(31)及び前記第2遊星歯車機構(32)には、前記第1遊星歯車機構(31)のスラスト力(SF1)と前記第2遊星歯車機構(32)のスラスト力(SF2)とが、前記軸方向(L)において互いに逆方向となるように斜歯のねじれ角が形成され、前記第1遊星歯車機構(31)の斜歯のねじれ角(θ1)が、前記第2遊星歯車機構(32)の斜歯のねじれ角(θ2)よりも大きいと好適である。
【0081】
斜歯歯車は、その構造上、回転軸に平行なスラスト力を発生させる。共に斜歯歯車を用いて構成された第1遊星歯車機構(31)及び第2遊星歯車機構(32)がそれぞれ発生させるスラスト力(SF1,SF2)の向きが互いに逆方向であれば、それぞれのスラスト力(SF1,SF2)が打ち消し合うようにすることが可能となる。一般的に、スラスト力による軸方向(L)への斜歯歯車からの荷重を受け止めるために、斜歯歯車には軸方向(L)に隣接してスラスト軸受が配置される。発生するスラスト力が大きいとこのスラスト軸受への負荷が大きくなり、減速装置(3)並びに車両用駆動装置(100)の耐久性にも影響する。スラスト軸受を大型化すると車両用駆動装置(100)の小型化の妨げとなる。本構成によれば、2つの遊星歯車機構(31,32)によるスラスト力が打ち消し合うようにすることによってスラスト軸受(71,73)への負荷を軽減でき、スラスト軸受(71,73)を小型化することができる。
【0082】
但し、スラスト力の大きさは、伝達トルクとの間に相関関係を有し、伝達トルクが大きいほどスラスト力も大きくなる。第2遊星歯車機構(32)の伝達トルクは、第1遊星歯車機構(31)の伝達トルクに比べて大きいため、第2遊星歯車機構(32)のスラスト力(SF2)は第1遊星歯車機構(31)のスラスト力(SF1)よりも大きくなる。また、スラスト力の大きさは、斜歯歯車における斜歯のねじれ角との間にも相関関係を有し、ねじれ角が大きいほどスラスト力も大きくなる。第1遊星歯車機構(31)の斜歯のねじれ角(θ1)が、第2遊星歯車機構(32)の斜歯のねじれ角(θ2)よりも大きいと、歯車機構から出力される力の内でスラスト力の占める割合が、第2遊星歯車機構(32)に比べて第1遊星歯車機構(31)の方が大きくなる。即ち、本構成によれば、伝達トルクの差によって生じるスラスト力の大きさの差を、斜歯のねじれ角によって低減することができる。つまり、2つの遊星歯車機構(31,32)によるスラスト力が適切に打ち消し合うようにして、スラスト軸受(71,73)への負荷を軽減することができる。その結果、軸方向(L)の長さが短く、耐久性に優れた減速装置(3)並びに車両用駆動装置(100)を実現することができる。