【実施例】
【0030】
次ぎに実施例、比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例の範囲に限定されるものではない。下記実施例及び比較例において、テント構造物用膜材の防黴性などの性能の評価に用いた基準は以下の試験方法による。
(I)
屋外展張曝露による防黴・防藻性の評価
幅20cm×長さ2mのテント構造物用膜材を、北向きに設置した曝露台(土台は苔の生えたコンクリート製)の傾斜30°方向と垂直方向にそれぞれ1mずつ連続して展張し、屋外展張る曝露を18ヶ月間行った。展張12ヶ月後、24ヶ月後、36ヶ月後のテント構造物用膜材全体を観察し、黴と藻の発生の有無、及びその発育状態をランク分けすることで防黴性(または防藻性)の評価を行った。
※屋外展張は、埼玉県草加市内において4月より開始した。
1:黴(藻)の発生(痕跡)が認められない(初期の状態を維持)
2:僅かに黴(藻)の発生(痕跡)を認める
3:部分的(試験体の9%以内のエリア)に黴(藻)発生(痕跡)を認める
4:部分的(試験体の10%以上のエリア)に黴(藻)発生(痕跡)を認める
(II)
防黴性の評価(JIS Z2911培養試験)
幅3cm×長さ3cmのテント構造物用膜材に、下記試験用黴の胞子を接種し、ポテト・デキストロース寒天培地上に置き、シャーレ中で28℃×7日間、及び14日間、黴の発生状況を観察し、以下の判定基準で評価した。
1:試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない
2:試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が,
全面積の 1/3 を超えない
3:試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が,
全面積の 1/3 を超える
〈試験用黴〉(A)+(B)+(C)の混合黴
(A)Aspergillus niger NBRC 105649(黒黴)
(B)Penicillium citrinum NBRC 6352(青黴)
(C)Cladosporium cladosporioides NBRC 6348(クロカワ黴)
(III)
防黴性の持続性評価(JIS Z2911準拠の培養試験)
幅3cm×長さ3cmのテント構造物用膜材を200ccの水(エタノール35%濃度)中に浸漬し、30℃で1週間静置する下処理を行ったものを試験片として、(II)の試験を実施した。
1:試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない
2:試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が,
全面積の 1/3 を超えない
3:試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が,
全面積の 1/3 を超える
【0031】
[
参考例1]
ポリエステル繊維平織基布(経糸1111dtexマルチフィラメント糸条:糸密度30本/2.54cm×緯糸1111dtexマルチフィラメント糸条:糸密度32本/2.54cm:空隙率0%:質量225g/m
2)を基材として、その両面に下記軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物(1)をナイフコーティング(片面あたりの付着量220〜240g/m
2)し、190℃で1分間熱処理を施して軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物(1)をゲル化固化させて、厚さ0.65mm、質量700g/m
2の膜材を得た。
〈軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物(1)〉
塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(可塑剤) 55質量部
※商品名:ヘキサモールDINCH(BASF社製)
18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)
1質量部
※−(CH
2CH
2S)
5CH
2CH
2NH−を環状にしたものが銀イオンを担持
※環状ポリエーテル金属錯体は予め可塑剤(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸
ジイソノニル)55質量部中に均一分散する手順で配合に用いた
銀イオン担持合成ゼオライト(平均粒子径1μm:防黴性物質) 1質量部
TBZ(4.5質量%)担持メソポーラスシリカ(平均粒子径5μm:防黴性物質)
11質量部
※防黴性物質は予め可塑剤(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル)
55質量部中に均一分散する手順で配合に用いた
塩素化n−パラフィン(防炎可塑剤) 10質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 5質量部
バリウム/亜鉛複合安定剤 2質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ルチル型酸化チタン(白顔料) 5質量部
ベンゾトリアゾール(紫外線吸収剤) 0.3質量部
※防黴性物質(TBZ)担持メソポーラスシリカの調製
TBZ:2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール0.5gを含む水−エタノール溶液100mlに、メソポーラスシリカ(平均粒子径5μm)10gを加え、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)1gと共に、常温1時間撹拌し、水−エタノール溶媒を減圧除去後、100℃で乾燥し、粉末を約11g得た。この粉末11gが担持するTBZの量は0.5g(4.5質量%)である。
【0032】
[
参考例2]
参考例1の軟質塩化ビニル樹脂組成物(1)において、18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)1質量部を、デシル18−クラウンエーテル−6亜鉛(環状ポリエーテル金属錯体)1質量部に置換えた以外は
参考例1と同様にして厚さ0.65mm、質量700g/m
2の膜材を得た。
※デシル18−クラウンエーテル−6亜鉛:
−(CH
2CH−C
10H
21)O(CH
2CH
2O)
5−を環状にしたものが亜鉛イオンを担持
【0033】
[
参考例3]
参考例1の軟質塩化ビニル樹脂組成物(1)において、18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)1質量部を、18−ジアザクラウンエーテル−4銅(環状ポリエーテル金属錯体)1質量部に置換えた以外は
参考例1と同様にして厚さ0.65mm、質量700g/m
2の膜材を得た。
※18−ジアザクラウンエーテル−4銅:
−〔(CH
2CH
2NH(CH
2CH
2O)
2〕
2−を環状にしたものが銅イオンを担持
【0034】
[
参考例4]
参考例1の軟質塩化ビニル樹脂組成物(1)において、18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)1質量部を、合成非晶質シリカ(2次粒子平均粒子径:9μm:BET140〜170m
2/g)10gに18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)1gを2次粒子の隙間に担持させた合成非晶質シリカ11質量部に置換えた以外は
参考例1と同様にして厚さ0.65mm、質量700g/m
2の膜材を得た。
【0035】
[実施例5〜8]
参考例1〜4の膜材に光触媒物質含有防汚層を形成したものを実施例5〜8とした。
※中間保護層の形成
下記ケイ素化合物含有樹脂の塗工液を80メッシユのグラビアロールを有するコーターで15g/m
2塗布(wet)し、100℃の熱風炉中で1分間乾燥させ中間保護層を形成した。(固形分付着量3g/m
2)
〈ケイ素化合物含有樹脂層塗工液〉
アクリル−シリコン共重合体樹脂溶液(固形分8質量%) 100質量部
メチルシリケート溶液(固形分20質量%) 8質量部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤) 1質量部
※光触媒物質含有防汚層の形成
下記光触媒物質含有防汚層形成用の塗工液を80メッシユのグラビアロールを有するコーターで15g/m
2塗布(wet)し、100℃の熱風炉中で1分間乾燥させ光触媒物質含有防汚層をゾルゲル形成(固形分付着量2g/m
2)し、各々実施例5〜8の厚さ0.65mm、質量705g/m
2の膜材を得た。
〈光触媒物質含有防汚層形成用の塗工液〉
硝酸酸性酸化チタンゾル(酸化チタン含有量10質量%相当) 100質量部
硝酸酸性シリカゾル(酸化ケイ素含有量10質量%相当) 100質量部
18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)
0.25質量部
【0036】
[実施例9〜12]
参考例1〜4の膜材に光触媒物質含有防汚層を形成したものを実施例9〜12とした。
※中間保護層の形成
実施例5〜8と同一の組成及び形成方法による。
※光触媒物質含有防汚層の形成
下記光触媒物質含有防汚層形成用の塗工液を80メッシユのグラビアロールを有するコーターで25g/m
2塗布(wet)し、100℃の熱風炉中で1分間乾燥させ光触媒物質含有防汚層を形成(固形分付着量7g/m
2)し、各々実施例9〜12の厚さ0.65mm、質量707g/m
2の膜材を得た。
〈光触媒物質含有防汚層形成用の塗工液〉
フッ化ビニリデン樹脂溶液(固形分15質量%) 100質量部
光触媒性酸化チタン(平均粒子径1μm) 8質量部
※ヒドロキシアパタイトによる表面被覆率4〜10%の部分被覆)
18−ジアザクラウンエーテル−6銅(環状ポリエーテル金属錯体) 0.5質量部
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
[
参考例1〜4、実施例5〜12の防黴効果]
軟質塩化ビニル樹脂被覆層に環状ポリエーテル金属錯体、及び防黴性物質を含む
参考例1〜4のテント構造物用膜材は、全て、防黴試験(I):屋外展張曝露36ヶ月後にも黴や藻の発生(痕跡)が認められず、初期の表面状態を維持しており、また防黴試験(II):JIS Z2911培養試験においても菌糸の増殖が認められないものであったことからテント構造物用膜材として十分な防黴効果が期待できることが明らかとなった。また長期使用を想定しての防黴試験(III):での優劣は、環状ポリエーテル金属錯体を無機多孔質粒子に担持させて用いた
参考例4の膜材が最も防黴性の長期持続性を有していた。また、
参考例1〜4のテント構造物用膜材に光触媒物質含有防汚層を形成した実施例5〜12のテント構造物用膜材は、煤塵汚れの蓄積や雨筋汚れなどの顕著な発生が長期間認められず、光触媒物質含有防汚層による降雨セルフクリ−ニングによる防汚効果、及び黴菌などの有機物分解効果、及び環状ポリエーテル金属錯体の相乗効果によって、
参考例1〜4のテント構造物用膜材よりも更に初期外観を長期間安定持続可能(防黴試験(I)48ヶ月、防黴試験(III)21日)とするものであった。
【0041】
[比較例1]
参考例1の軟質塩化ビニル樹脂組成物(1)から、18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)1質量部を省略した以外は
参考例1と同様として、厚さ0.65mm、質量700g/m
2の膜材を得た。比較例1の膜材は環状ポリエーテル金属錯体を省いたことで、防黴性物質による防黴効果のみとなり、初期的な防黴効果は良好に発現するものの、防黴試験(I)36ヶ月後には、部分的(試験体の6%程度のエリア)に黴の発生を認め、また防黴試験(III)では防黴性物質(TBZ)の抽出により、試験片の接種した部分に認められる菌糸の増殖部分の面積が全面積の1/3を超えるなど、実施例1の膜材に比較して防黴性の長期安定持続性を大きく損なうものであった。
【0042】
[比較例2]
参考例1の軟質塩化ビニル樹脂組成物(1)から、銀イオン担持合成ゼオライト(防黴性物質)1質量部及び、TBZ(4.5質量%)担持メソポーラスシリカ(防黴性物質)11質量部を省略した以外は
参考例1と同様として、厚さ0.65mm、質量700g/m
2の膜材を得た。
参考例2の膜材は、防黴性物質を省いたことで、環状ポリエーテル金属錯体による防黴効果のみとなり、初期的な防黴効果が不良となり、防黴試験(I)24ヶ月後には部分的(試験体の6%程度のエリア)に黴の発生を認め、また防黴試験(III)では、試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が全面積の1/3を超えるなど、
参考例1の膜材に比較して防黴性の初期効果を大きく損なうものであった。
【0043】
[参考例
5]
参考例1の軟質塩化ビニル樹脂組成物(1)では、18−モノアザチアクラウンエーテル−5銀(環状ポリエーテル金属錯体)1質量部の配合を、環状ポリエーテル金属錯体を予め可塑剤(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル)55質量部中に均一分散する手順で配合に用いたのに対し、環状ポリエーテル金属錯体を予め可塑剤中に分散させずに、単独で軟質塩化ビニル樹脂組成物(1)中に配合し十分攪拌した。十分な攪拌にも係わらず、環状ポリエーテル金属錯体が凝集を生じたことにより、得られた膜材表面の環状ポリエーテル金属錯体の分布が不均一、かつ非効率となったことで、防黴試験(I)24ヶ月後には部分的(試験体の6%程度のエリア)に黴の発生を認める結果となった。
【0044】
【表4】