特許第6852933号(P6852933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6852933
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】熱成形装置及び熱成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/38 20060101AFI20210322BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B29C51/38
   B29C51/08
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-102085(P2020-102085)
(22)【出願日】2020年6月12日
【審査請求日】2020年8月28日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 憲一
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
【審査官】 菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−186252(JP,A)
【文献】 実開平03−126619(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00−51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型として上型と下型を備え、前記上型と前記下型の間に加熱した樹脂製シートを挟んで成形するカーナビの熱成形装置において、
前記上型または前記下型のうちいずれか一方側の成形面から突出するように備えられる押圧手段を有し、
前記押圧手段は、前記樹脂製シートのうち成形後の成形品の一部となる特定の部位を他方側の前記成形型の成形面と挟み込む機能を有し、
前記樹脂製シートのうち前記特定の部位以外を前記上型と前記下型によって挟み込み、
前記樹脂製シートを成形すること、
前記特定の部位が、前記樹脂製シートが製品となった時に透明な部分であり、前記押圧手段が、前記透明な部分を挟んだ状態で熱成形することにより、前記透明な部分から肉が引っ張られたり、しわが寄ったりすることがなく、目視では確認できない方向性を持った歪を発生させないこと、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記上型または前記下型の少なくとも一方を昇降させる駆動機構と、
前記駆動機構を制御する制御装置を備え、
前記上型と前記下型を閉じた状態で、前記駆動機構を制御する制御装置によって位置制御またはトルク制御を行い、前記上型に対する前記下型の位置を制御すること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項3】
成形型として上型と下型を備え、前記上型と前記下型の間に加熱した樹脂製シートを挟んで成形するカーナビの熱成形方法において、
前記上型または前記下型のうちいずれか一方側の成形面から突出するように備えられる 押圧手段と、他方側の前記成形型の成形面とで、前記樹脂製シートのうち成形後の成形品の一部となる特定の部位を挟み込み、
前記上型と前記下型とで、前記樹脂製シートのうち前記特定の部位以外を挟み込み、前記樹脂製シートを成形すること、
前記特定の部位が、前記樹脂製シートが製品となった時に透明な部分であり、前記押圧手段が、前記透明な部分を挟んだ状態で熱成形することにより、前記透明な部分から肉が引っ張られたり、しわが寄ったりすることがなく、目視では確認できない方向性を持った歪を発生させないこと、
を特徴とする熱成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形装置を用いて樹脂成形シートを成形するにあたって、成形品の特定の部位に樹脂成形シート成形時に生じる歪みを残さずに成形可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱成形装置を用いて樹脂製のシートを成形するにあたって、成形型として上型と下型を用いて加圧し、加熱した樹脂製シートを変形させ成形する手法がある。加熱して軟化した樹脂製シートを上型と下型で挟んで加圧することにより成形を行う。例えば特許文献1に示すような方法である。
【0003】
特許文献1には、型締め装置および型締め方法に関する技術が開示されている。枠上縁部と枠下縁部に挟持されたシートを加熱して軟化させ、下型に相当する雌型に対して上型に相当するプラグを近接させ、その間に保持している樹脂成形シートを成形する構成となっている。この際に上テーブル側に備えた把持部材によって下テーブル側に樹脂成形シートを押しつけるようにすることで、樹脂成形シートが動かないように保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3602051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術を用いた場合であっても、成形型の形状によっては樹脂製シートの成形をする際に成形品の内部に歪が生じてしまい、その結果、その成形品を使った製品の機能に影響してしまう問題があった。例えば、成形に用いる樹脂製シートが厚手のシートである場合、金型を用いて成形するため狙った形状に成形はされるが、内部に歪みが残る問題が生じる。この内部に残った歪みが、成形品が製品となった場合にその製品の機能に影響する懸念がある。
【0006】
具体的な例を挙げると、例えば、成形品が自動車に取り付けるカーナビのカバーに使われ、このカバーに操作窓として使う透明部分があるような場合である。目視では成形品の歪みが確認できなくとも、成形品内部には方向性を持った歪みが形成されることがあり、サングラスなど偏光グラスを採用するレンズを通してカーナビの画面を見ると、表示の一部が欠損して見えるケースがあることを出願人は確認している。また、表示画面にLEDバックライトなどを採用している場合などには、内部歪みの影響によって干渉縞が現れることがある。このように成形品の内部に残った歪みが問題になるケースがあるため、対策が求められている。
【0007】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、内部の歪みが特定部分に残らないような成形が可能な熱成形装置及び熱成形方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による熱成形装置は、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)成形型として上型と下型を備え、前記上型と前記下型の間に加熱した樹脂製シートを挟んで成形する熱成形装置において、前記上型または前記下型のうちいずれか一方側の成形面から突出するように備えられる押圧手段を有し、前記押圧手段は、前記樹脂製シートのうち成形後の製品の一部となる特定の部位を他方側の前記成形型の成形面と挟み込む機能を有し、前記樹脂製シートのうち前記特定の部位以外を前記上型と前記下型によって挟み込み、前記樹脂製シートを成形すること、を特徴とする。
【0010】
(2)(1)に記載の熱成形装置において、前記特定の部位が、前記樹脂製シートが製品となった時に透明な部分であること、を特徴とする。
【0011】
上記(1)に記載の態様により、樹脂製シートのうち特定の部位を押さえた状態で、成形型によって成形するという手法を採用することで、押さえた部分の内部に内部歪みを溜めにくくすることができる。このため、(2)に記載の態様のように、特定の部位が透明な部分であった場合には、歪みの影響で光が偏光して透過するなどし、製品として問題となる。このため、特定の部分を押圧手段によって最初に押さえてから成形をすることで、内部の歪み、干渉縞などの発生を防ぐことができる。したがって、透明部分は透明のままの製品を作ることができる。
【0012】
(3)(1)または(2)に記載の熱成形装置において、前記上型または前記下型の少なくとも一方を昇降させる駆動機構と、前記駆動機構を制御する制御装置を備え、前記上型と前記下型を閉じた状態で、前記駆動機構を制御する制御装置によって位置制御またはトルク制御を行い、前記上型に対する前記下型の位置を制御すること、を特徴とする。
【0013】
上記(3)に記載の態様により、駆動機構によって上型に対する下型の位置を制御することができるため、型閉じ時の上型に対する下型のクリアランスをコントロールし、成形品の成形状況を調整することができる。ここで、駆動機構による上型または下型の昇降は、上型または下型の一方を固定して他方を近接させる、或いは両方を近接させる機能を有する。これによって、例えば樹脂製シートの素材や厚みに合わせて上型に対する下型のクリアランスをコントロールすることができる。このようにすることで、成形品のできあがりを調整することができるため、成形精度を向上させることが可能である。
【0014】
(4)(1)に記載の熱成形装置において、前記特定の部位が、成形時にエア溜まりを生じやすい部分であること、を特徴とする。
【0015】
上記(4)に記載の態様により、成形時にエア溜まりを生じやすい部分を押圧手段によって押さえ込むことで、エア溜まりによる不良発生の防止を実現することができる。成形型の形状によっては、例えばお椀状に凹んだ形状であった場合に、その底部分に空気が溜まりやすいことがあるが、そうした場合に先に底部分に押圧手段にて押さえて成形することで、不良品の発生を防止することができる。
【0016】
また、前記目的を達成するために、本発明の別の態様による熱成形方法は、以下のような特徴を有する。
【0017】
(5)成形型として上型と下型を備え、前記上型と前記下型の間に加熱した樹脂製シートを挟んで成形する熱成形方法において、前記上型または前記下型のうちいずれか一方側の成形面から突出するように備えられる押圧手段と、他方側の前記成形型の成形面とで、前記樹脂製シートのうち成形後の成形品の一部となる特定の部位を挟み込み、前記上型と前記下型とで、前記樹脂製シートのうち前記特定の部位以外を挟み込み、前記樹脂製シートを成形すること、を特徴とする。
【0018】
上記(5)に記載の態様により、(1)に記載の熱成形装置の態様と同様に、成形後の成形品が、押圧手段によって押さえられた特定の部位における内部歪みの発生を抑えることができる。このため、(2)に記載の熱成形装置の態様のように、特定の部位が透明な部分であった場合には、押圧手段によって押さえられた特定の部位における内部の歪み、干渉縞などの発生を防ぐことができる。したがって、透明部分は透明のままの製品を作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の、熱成形装置の全体概略を示す側面図である。
図2】本実施形態の、成形部の側面図である。
図3】本実施形態の、下側テーブルの駆動系を説明する斜視図である。
図4】本実施形態の、上側テーブルの駆動系を説明する斜視図である。
図5】本実施形態の、上型と下型が近接した状態の側面断面図である。
図6】本実施形態の、成形部に関する制御の概略構成図である。
図7】(a)本実施形態の、シート押圧部と下型で樹脂成形シートを挟んだ様子を示す模式図である。(b)シート押圧部で押さえながら上型と下型を近接させた様子を示す模式図である。(c)上型と下型をさらに近接させた様子を示す模式図である。(d)上型と下型を、樹脂成形シートを介して密着させた様子を示す模式図である。
図8】(a)比較のために用意した、上型と下型で樹脂成形シートを挟む様子を示す模式図である。(b)上型と下型を近接した様子を示す模式図である。(c)上型と下型を更に近接させた様子を示す模式図である。(d)上型と下型を、樹脂成形シートを介して密着させた様子を示す模式図である。
図9】本実施形態の、樹脂成形シートの成形を行う様子を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[装置構成の概略]
本発明の実施形態について、図面を用いて説明を行う。図1は、本実施形態の熱成形装置10の全体を簡単に説明する模式側面図である。熱成形装置10は、シート加熱部20と、成形部30よりなる。シート加熱部20は、樹脂成形シートSを加熱する場所である。事前にワンショット分にカットされた樹脂成形シートSは搬送装置50によって図示しないクランプ機能によってクランプされ、シート加熱部20に移動される。シート加熱部20では、樹脂成形シートSを加熱して軟化させる。次に、成形部30に樹脂成形シートSを搬送して成形を行う。
【0021】
シート加熱部20には、一対のヒータユニットとして上側ヒータユニット21と下側ヒータユニット22が備えられている。上側ヒータユニット21と下側ヒータユニット22の間に搬送装置50にクランプされた樹脂成形シートSを搬送すると、上側ヒータユニット21と下側ヒータユニット22とに配置された発熱体に通電される。これにより樹脂成形シートSが加熱され、軟化される。加熱温度は樹脂成形シートSの素材によって適切に設定されている。
【0022】
成形部30には、上下動される上側テーブル31と下側テーブル32とが備えられている。上側テーブル31及び下側テーブル32には後述するボールネジ(第2ボールネジ34及び第1ボールネジ35)によって上下動する構成となっており、上側テーブル31の内部に備えられた上型37と下側テーブル32に備えられた下型33を近接させることによって、搬送装置50によって搬送した樹脂成形シートSの成形を行う構成となっている。
【0023】
[成形部の構成]
次に成形部30の構成を具体的に説明する。図2に成形部30の側面図を示す。成形部30にはフレーム36が備えられ、フレーム36内で上側テーブル31と下側テーブル32とを昇降させる。フレーム36の下部であって下側テーブル32の四隅に対応する位置には、上下方向に長く下側テーブル32の昇降ストロークに対応した長さのガイドレール36aが設けられている。
【0024】
図3に、下側テーブル32の駆動系を抜き出して斜視図に示す。下側テーブル32には、その四隅に嵌合部32aが設けられている。この嵌合部32aは図2に示すガイドレール36aと嵌合することで、下側テーブル32の昇降をガイドする機能を有している。また、下側テーブル32の対角に第2ボールネジ34が配置される。第2ボールネジ34はフレーム36に回動可能に固定されており、下側テーブル32を貫通して配置されている。そして、下側テーブル32には第2ボールネジ34の貫通する位置にナット34bが固定されており、ナット34bと第2ボールネジ34が噛み合う構成となっている。
【0025】
第2ボールネジ34の上端には、第2プーリ34aが取り付けられており、第2タイミングベルト34cを介して第2サーボモータ61の回転駆動力が第2プーリ34aそれぞれに伝達される。したがって、第2サーボモータ61の回転駆動によって、下側テーブル32は昇降する構成となっている。下側テーブル32の中央には下型33が固定されており、下型33も下側テーブル32の昇降にしたがって昇降する。
【0026】
図4に、上側テーブル31の駆動系を抜き出して斜視図に示している。上側テーブル31の四隅には把持部材31aが設けられている。把持部材31aは、図2に示すフレーム36に備えられたガイドレール36bと係合して摺動して、上側テーブル31の昇降をガイドする。上側テーブル31の上下駆動力は第1サーボモータ60によって得られ、第1サーボモータ60の回転力が図4に示される様に第1タイミングベルト35cによって第1ボールネジ35に伝達されることで、上側テーブル31を昇降させる。第1ボールネジ35の端部には第1プーリ35aが固定されている。上側テーブル31の下面には上型37が固定されている。
【0027】
図5に、上型37と下型33が近接した状態の側面断面図を示す。なお、上型37と下型33の待避位置よりも同図の上型37と下型33は近接した状態を示している。上型37に対して下型33は、樹脂成形シートSを挟んで当接する構成となっていて、上型37には、シート押圧部37aが備えられている。シート押圧部37aは、上型37に対してスプリング37bを介して係合されており、スプリング37bの中央に配置される図示しないシャフトでガイドされることで、後述する図7(d)に示す通り上型37と下型33が当接した際には、シート押圧部37aは上型37に設けられた凹部37cに収納される。
【0028】
[動作の説明]
本実施形態の熱成形装置10では上記構成であるために、次に説明するような動作によって樹脂成形シートSの成形を行う。図6に、成形部30に関する制御の概略構成を示す。プログラマブルロジックコントローラ(以下PLC)90には、サーボモータ制御部91、入力部94、出力部95が接続されている。また、サーボモータ制御部91には第1サーボモータ60及び第2サーボモータ61がそれぞれ接続されている。また、第1サーボモータ60には第1エンコーダ70が、第2サーボモータ61には第2エンコーダ71が接続され、第1エンコーダ70及び第2エンコーダ71はPLC90にそれぞれ接続されている。
【0029】
ここで、出力部95は図示しない操作パネルに備えるディスプレイ等からなり、エラーなどのステータスを表示する。入力部94は図示しない操作パネルに供えるボタンからなり、種々のデータなどを入力可能になっている。なお、操作パネルはタッチパネル方式として、入力部94と出力部95を兼ねることを妨げない。また、入力部94は別途操作用のボタンを備えても良い。また、サーボモータ制御部91は、第1サーボモータ60及び第2サーボモータ61を駆動制御する。なお、PLC90にはその他、成形部30に備える機器が接続されるが、本発明に直接関係しないので、説明を割愛する。
【0030】
図7に、上型37と下型33によって樹脂成形シートSを成形する様子を模式的に示す。(a)では、樹脂成形シートSを上型37に備えられたシート押圧部37aによって下型33に対して押さえつける。シート押圧部37aはスプリング37bによって付勢されており、その押圧力により樹脂成形シートSが移動しないように固定する。この際に、樹脂成形シートSは、搬送装置50によってその一端がクランプされている。
【0031】
そして、(b)に示すように、下型33に対して上型37を前進させることで、樹脂成形シートSを変形させていく。(c)に示すように下型33に対する上型37の距離が近くなるほどスプリング37bは圧縮され、樹脂成形シートSを保持し続ける。そして、(d)に示すように上型37と下型33が樹脂成形シートSを介して密着する位置まで前進させることで、樹脂成形シートSを加圧・変形させる。こうして、上型37と下型33によって樹脂成形シートSが成形品Mに成形される。
【0032】
[作用効果の説明]
本実施形態の熱成形装置10は、上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0033】
まず、樹脂成形シートSの特定の部位を、押圧手段であるシート押圧部37aによって押さえてから成形をすることで、押さえた部分の内部に歪みを貯めにくくすることができる。これは、成形型として上型37と下型33を備え、上型37と下型33の間に加熱した樹脂成形シートSを挟んで成形する熱成形装置10において、上型37または下型33のうちいずれか一方側の成形面から突出するように備えられる押圧手段であるシート押圧部37aを備え、シート押圧部37aは、樹脂成形シートSのうち成形後の成形品Mの一部となる特定の部位(後述する透明部M1)を他方側の成形型の成形面と挟み込むようにして押さえ(本実施形態では上型37に備えられたシート押圧部37aの下面と下型33の上面で挟み込むようにして押さえ)、樹脂成形シートSのうち特定の部位以外を上型37と下型33によって挟み込み、樹脂成形シートSを成形することによる。
【0034】
図8に、比較のために用意した、上型137と下型133によって樹脂成形シートSが成形される様子を模式的に示した図である。上型137と下型133で樹脂成形シートSを成形する構成となっている。なお、上型137と下型133は、本実施形態の上型37と下型33と同じ役割を果たす。移動装置150によって一端をクランプされている点も同様である。樹脂成形シートSは本実施形態と同様に上型137と下型133をお互いに近接させることで成形を行う。しかしながら図8(b)に示すように樹脂成形シートSは、上型137とポイントP1で当接し、下型133とポイントP3で当接することで、下型133から浮き上がるポイントP2ができる。
【0035】
そして、図8(c)に示すように下型133に対して樹脂成形シートSが当接するポイントP4が増えて、このまま上型137と下型133を近接させて樹脂成形シートSが成形される結果となる。しかしながら、ポイントP2は更に浮いた状態で上から上型137によって押し潰されることになる一方で、先にポイントP1とポイントP3に当接した状態で上型137と下型133が近接するため、結果的にポイントP1とポイントP3の間で樹脂成形シートSが伸ばされるような力が作用し、ポイントP2では樹脂成形シートSが圧縮されるような力が作用する。もちろん、図8(d)にて型締めされることになるため、均一な厚みの成形品Mが出来上がる結果になるが、その成形品Mの内部で歪みが蓄積される結果になる。
【0036】
一方、本発明の場合には、上型37と下型33を近接させる前に、図7(a)乃至(d)に示した様にシート押圧部37aによって下型33に対して樹脂成形シートSを押さえつける。図9に、上型と下型を用いて樹脂成形シートの成形を行う場合の斜視図を模式的に示す。成形品Mには、透明部M1が設けられており、製品となった際に例えば成形品Mが製品に用いられた場合に、その後ろ側に表示画面を配置するなどし、透明部M1が窓部分となる。
【0037】
このような成形品Mは、シート押圧部37aによって透明部M1部分を最初に下型33に対して押圧し、保持した状態で下型33に対して上型37を近接させる(実際には上型37は第1サーボモータ60を駆動させることで降下させ、下型33は第2サーボモータ61を駆動させることで上昇させ、お互いに近接させる制御となる)。そして、図7(d)に示すように上型37と下型33とを樹脂成形シートSを介して密着させることで、成形品Mを成形する。
【0038】
このようにして成形品Mを成形することで、最初にシート押圧部37aで透明部M1部分がしっかりと下型33の上面に対して圧力を加えて保持することができ、図7(b)、図7(c)と樹脂成形シートSが変形されていく時に、透明部M1は動かない。このために、図8(b)及び図8(c)に示すようなポイントP2に示すような浮き上がりができない。したがって、この透明部M1から肉が引っ張られたりしわが寄ったりということがなく成形されることとなり、図7(d)の状態になったときに透明部M1部分に内部歪みが蓄積されていない状態で成形可能となる。
【0039】
このような透明部M1に生じる内部歪みが生じた場合、目視しただけではその有無を判断することは難しいが、透明部M1の背面に光源を配置することで、干渉縞となって目視できる。例えば、先述したように表示画面を映す窓として透明部M1を利用するケースでは、課題で言及した通り内部歪みの影響によって角度によって見えにくい部分が出来るなどの不具合となって現れることになる。
【0040】
また、課題で言及したように、内部歪みが方向性を持って形成されることで、透過光に対して偏光性を示すことがあり、例えば偏光レンズを用いたサングラスを用いた場合に、透明部M1を透過して見える表示画面の一部が欠損して見えるような不具合となって現れることがある。しかし、透明部M1をシート押圧部37aで押さえた状態で上型37と下型33で成形を行うことで、こうした問題を解決することが可能となる。
【0041】
また、このようなシート押圧部37aによって押さえられた状態で樹脂成形シートSが成形されるために、この部分にエア溜まりが発生し易い形状であったとしても、シート押圧部37aによって押さえられることでエア溜まりが生じることを防ぐことができる。このため、エア溜まりの発生による外観不良を防ぐことが可能となる。透明部M1が製品となったときに窓として使われる場合、この部分にエア溜まりが生じやすい構造であったとしても、エア溜まりが生じることによる外観不良を防ぐことが可能である。
【0042】
また、同様に樹脂成形シートSのシート押圧部37aに押さえられる部分に、穴加工が予めされているようなケースでは、穴部分が伸びて変形したり、サイズが変わったりといった影響を避けることができる。また、樹脂成形シートSのシート押圧部37aに予め印刷がなされている場合には、印刷部分がずれたり、伸びて変形したりするなどの影響を避けることができる。
【0043】
また、熱成形装置10は、位置制御またはトルク制御を行っているため、上型37と下型33との間を適切なクリアランスにコントロールすることが出来る。これは、上型37を上昇させる第1駆動機構に相当する第1サーボモータ60と、下型33を下降させる第2駆動機構に相当する第2サーボモータ61と、第1サーボモータ60及び第2サーボモータ61を制御する制御装置となるサーボモータ制御部91を備え、上型37と下型33を閉じた状態で、第1サーボモータ60及び第2サーボモータ61を制御するサーボモータ制御部91によって位置制御またはトルク制御を行い、上型37に対する下型33の位置を制御しているためである。
【0044】
上側テーブル31及び下側テーブル32を駆動するためにはそれぞれ第1サーボモータ60及び第2サーボモータ61を用いてフィードバック制御を行いながら駆動を行っている。このサーボモータ(第1サーボモータ60及び第2サーボモータ61)の回転駆動によって、ボールネジ(第1ボールネジ35及び第2ボールネジ34)が回転され、結果的に上側テーブル31及び下側テーブル32を昇降できる構成となっている。この時に例えば上側テーブル31であれば、第1サーボモータ60は上側テーブル31の位置をフィードバック要素とした位置制御と、発生トルクをフィードバック要素としたトルク制御が実行可能である。同様に下側テーブル32に関しても位置制御とトルク制御を行うことが可能である。
【0045】
この結果、型締め時に位置制御またはトルク制御を行うことができ、上型37と下型33とのクリアランスをコントロールすることが可能となる。型締め圧力は樹脂成形シートSの厚みや素材の性質によって、或いは上型37と下型33の加温条件などによって、変更が望ましい場合がある。樹脂成形シートSは事前に加熱部20で加熱されて軟化している状態であるとはいえ、成形加工後にスプリングバックが発生するケースがある。こうしたケースでは、上型37と下型33に対して位置制御またはトルク制御を行うことで、成形品Mの成形精度を向上せることに寄与することができる。
【0046】
そして、こうした位置制御を行うにあたって、上型37や下型33の停止位置などを入力部94によって数値で入力して設定できる構成とすることが好ましい。そうすることで、異なる成形品Mを熱成形装置10で成形する場合に、樹脂成形シートSの特性やその他の条件によって、細かな条件調整が可能となり、結果的に成形品Mが出来上がった際の成形精度の向上に繋がる。もちろん、そうした数値設定は図示しない記憶手段によって記憶させ、成形品M毎に選んで変更できるようにすることを妨げない。
【0047】
以上、本発明に係る熱成形装置10に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、本実施形態では上型37にシート押圧部37aを設ける構成としたが、押さえる場所によってはシート押圧部37aを下型33に設けた方が良い場合もあるので、そうした変更を妨げない。また、本実施形態では上型37とシート押圧部37aの間にスプリング37bを設けることで、樹脂成形シートSに対して付勢しているが、例えばシリンダを用いた付勢手段や、モータを用いた付勢手段を採用することを妨げない。この場合、上型37(或いは下型33)とシート押圧部37aを分離した型とすることもできる。
【0048】
また、上側テーブル31及び下側テーブル32の移動方法に関しても、ボールネジ(第1ボールネジ35及び第2ボールネジ34)をサーボモータ(第1サーボモータ60及び第2サーボモータ61)の回転駆動を、動力伝達手段であるタイミングベルト(第1タイミングベルト35c及び第2タイミングベルト34c)とプーリ等(第1プーリ35a及び第2プーリ34a)を介して駆動される方法としているが、これに限定されることはなく、例えば動力伝達手段として歯車やカムなどを併用して駆動することを妨げない。また、上型37と下型33との型締めにシリンダやクランク機構を併用することを妨げない。
【0049】
また、上側テーブル31及び下側テーブル32を駆動する熱成形装置10として説明したが、必要に応じて片側固定、つまり上側テーブル31または下側テーブル32のいずれか一方を固定として、他方だけ駆動する方法としても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 熱成形装置
33 下型
37 上型
37a シート押圧部
S 樹脂成形シート
M 成形品
【要約】
【課題】内部の歪みが特定部分に残らないような成形が可能な熱成形装置の提供。
【解決手段】成形型として上型37と下型33を備え、上型37と下型33の間に加熱した樹脂成形シートSを挟んで成形する熱成形装置10において、上型37または下型33のうちいずれか一方側の成形面から突出するように備えられる押圧手段であるシート押圧部37aを有し、シート押圧部37aは、樹脂成形シートSのうち成形後の成形品Mの一部となる特定の部位(後述する透明部M1)を他方側の成形型の成形面と挟み込む機能を有し、樹脂成形シートSのうち特定の部位以外を上型37と下型33によって挟み込み、樹脂成形シートSを成形すること。
【選択図】図8
図1
図2
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図7
図8
図9