特許第6852950号(P6852950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6852950硬質ポリウレタンフォーム、並びに、硬質ポリウレタンフォーム製造用の3液型プレミックス組成物及び触媒組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852950
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】硬質ポリウレタンフォーム、並びに、硬質ポリウレタンフォーム製造用の3液型プレミックス組成物及び触媒組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20210322BHJP
   C08G 18/24 20060101ALI20210322BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20210322BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20210322BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   C08G18/00 H
   C08G18/24
   C08G18/08 042
   C08G18/28 015
   C08G101:00
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-209849(P2016-209849)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2018-70708(P2018-70708A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100113561
【弁理士】
【氏名又は名称】石村 理恵
(72)【発明者】
【氏名】江原 貴臣
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 幸雄
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−152117(JP,A)
【文献】 特開2003−261638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00−18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、発泡剤、泡化能を有する有機金属触媒、及びアミン触媒を含む混合液が発泡してなる硬質ポリウレタンフォームであって、
前記混合液が、前記ポリイソシアネート化合物を含むA液と、前記ポリオール化合物、前記発泡剤及び前記アミン触媒を含むB液と、前記泡化能を有する有機金属触媒を含むC液とを混合した混合液であり、
前記発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンのうちのいずれか1種以上を含み、前記有機金属触媒がスズ(II)化合物である、硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
前記スズ(II)化合物が、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸とスズ(II)とのジカルボン酸塩である、請求項1に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項3】
前記スズ(II)化合物がビス(ネオデカン酸)スズである、請求項1又は2に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項4】
硬質ポリウレタンフォーム製造用のプレミックス組成物であって、
イソシアネート化合物を含むA液と、ポリオール化合物、発泡剤及びアミン触媒を含むB液と、泡化能を有する有機金属触媒を含むC液との3種の液からなり、
前記C液が、分子量150〜8,000であり、かつ、ポリオキシアルキレン化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族モノカルボン酸エステル、及び脂肪族多価カルボン酸エステルのうちから選ばれる1種以上の化合物を希釈剤として含み、
前記発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンのうちのいずれか1種以上を含み、
前記有機金属触媒がスズ(II)化合物である、3液型プレミックス組成物。
【請求項5】
前記スズ(II)化合物が、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸とスズ(II)とのジカルボン酸塩である、請求項4に記載の3液型プレミックス組成物。
【請求項6】
前記スズ(II)化合物がビス(ネオデカン酸)スズである、請求項4又は5に記載の3液型プレミックス組成物。
【請求項7】
前記希釈剤が、下記(a)〜(c)のうちから選ばれる1種以上の化合物である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の3液型プレミックス組成物。
(a)ポリオキシアルキレンジオールの片末端又は両末端の水酸基が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するポリエーテル化合物
(b)ポリオキシアルキレングリセリルエーテルであるポリエーテルトリオール化合物
(c)芳香族モノカルボン酸、芳香族多価カルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、又は脂肪族多価カルボン酸の1個以上のカルボキシル基の水酸基部分が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するエステル化合物
【請求項8】
前記希釈剤が、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルである、請求項4〜7のいずれか1項に記載の3液型プレミックス組成物。
【請求項9】
硬質ポリウレタンフォーム製造用の触媒組成物であって、
泡化能を有する有機金属触媒及び希釈剤を含み、
前記有機金属触媒がスズ(II)化合物であり、
前記希釈剤が、分子量150〜8,000であり、かつ、ポリオキシアルキレン化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族モノカルボン酸エステル、及び脂肪族多価カルボン酸エステルのうちから選ばれる1種以上の化合物であり、
ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンのうちのいずれか1種以上を含む発泡剤とともに用いられる、触媒組成物。
【請求項10】
前記スズ(II)化合物が、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸とスズ(II)とのジカルボン酸塩である、請求項に記載の触媒組成物。
【請求項11】
前記スズ(II)化合物がビス(ネオデカン酸)スズである、請求項9又は10に記載の触媒組成物。
【請求項12】
前記希釈剤が、下記(a)〜(c)のうちから選ばれる1種以上の化合物である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の触媒組成物。
(a)ポリオキシアルキレンジオールの片末端又は両末端の水酸基が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するポリエーテル化合物
(b)ポリオキシアルキレングリセリルエーテルであるポリエーテルトリオール化合物
(c)芳香族モノカルボン酸、芳香族多価カルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、又は脂肪族多価カルボン酸の1個以上のカルボキシル基の水酸基部分が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するエステル化合物
【請求項13】
前記希釈剤が、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルである、請求項9〜12のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性や結露防止性等を付与する目的で建築物や構造物に設けられる硬質ポリウレタンフォーム、並びに、その製造に好適に用いられる3液型プレミックス組成物及び触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質ポリウレタンフォームは、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物と、水酸基を2個以上有するポリオール化合物とを、発泡剤、触媒及び整泡剤等とともに混合して、泡化反応及び樹脂化反応を同時に行うことにより、均一な樹脂発泡体として得られる。
硬質ポリウレタンフォームの製造においては、作業の容易化の観点から、通常、ポリオールに、発泡剤、触媒、及び助剤である整泡剤や難燃剤等を予め混合した、いわゆるプレミックスが用いられる。
【0003】
従来、発泡剤としては、クロロフルオロカーボン(CFC)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられていたが、オゾン層の破壊による環境問題の観点から、現在では、ハイドロフルオロカーボン(HFC)に置き換えられている。しかしながら、HFCは、温室効果ガスであり、近年、地球温暖化対策の観点から、削減が求められている。
【0004】
このため、オゾン層の破壊や温室効果ガスの環境問題対策に適合し得る新たな発泡剤として、主鎖に二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)が注目されている。しかしながら、HCFOは、HFCとともに一般的に使用されていたアミン触媒と経時的に反応・分解し、アミン触媒が劣化する場合があった。
このため、プレミックスの貯蔵安定性の観点から、プレミックス中に発泡剤と触媒とを併存させておくことができないという問題があった。
【0005】
これに対しては、HFOやHCFO等の発泡剤との反応性が低いアミン触媒が提案されている。例えば、特許文献1には、プレミックス中のアミン触媒として、アルカノールアミン、エーテルアミン、又はモルホリン基を有する、酸素含有アミン触媒を用いることにより、アミン触媒とHFOやHCFO等の発泡剤との反応性が抑制されることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、触媒をプレミックス成分から除いて、別途添加混合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2014−508838号公報
【特許文献2】特開2009−35628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているような特殊なアミン触媒は、価格が高く、また、反応性が低いために触媒量を多くする必要があり、硬質ポリウレタンフォームの製造コストが高くなるという課題を有していた。
【0009】
一方で、硬質ポリウレタンフォームの製造に用いられる触媒には、泡化反応及び樹脂化反応の両方を促進すること、すなわち、泡化能及び樹脂化能が求められる。
硬質ポリウレタンフォームの製造においては、アミン触媒以外に、有機金属触媒が用いられる場合もあるが、通常、泡化能を有する触媒として用いられるのはアミン触媒であり、有機金属触媒は樹脂化能の観点から選択使用されるものであった。また、有機金属触媒は、プレミックスの貯蔵保管中に水と反応して加水分解するものがあり、通常の2液混合型の硬質ポリウレタンフォームにおいて使用可能な有機金属触媒の種類は限られていた。
【0010】
また、触媒をプレミックス成分から除く場合、プレミックスとは別に、触媒のみを単独で取り扱う必要がある。しかしながら、硬質ポリウレタンフォーム製造に用いられるアミン触媒は、強塩基性の液体又は蒸気であるため、目や皮膚に接触すると炎症を起こす危険性があり、このような観点から、現場作業においてアミン触媒を単独で取り扱うことは、安全上、好ましくない。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、発泡剤としてHFOやHCFO等が用いられる場合に、高価なアミン触媒の使用量を低減することができ、かつ、品質安定性に優れた発泡体が安全に得られる硬質ポリウレタンフォーム、並びに、該硬質ポリウレタンフォームの製造に好適に用いることができ、貯蔵安定性に優れた、3液型プレミックス組成物及び触媒組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、発泡剤としてHFOやHCFO等を用いて製造される硬質ポリウレタンフォームにおいて、触媒として泡化能を有する特定の金属触媒を第3成分として用いることにより、高価なアミン触媒の使用量を低減することができ、しかも、良好な発泡状態の発泡体が安定的に得られることを見出したことに基づくものである。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[15]を提供するものである。
[1]ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、発泡剤、泡化能を有する有機金属触媒、及びアミン触媒を含む混合液が発泡してなる硬質ポリウレタンフォームであって、 前記発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンのうちのいずれか1種以上を含み、前記有機金属触媒がスズ(II)化合物である、硬質ポリウレタンフォーム。
[2]前記スズ(II)化合物が、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸とスズ(II)とのジカルボン酸塩である、上記[1]に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
[3]前記スズ(II)化合物がビス(ネオデカン酸)スズである、上記[1]又は[2]に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【0014】
[4]硬質ポリウレタンフォーム製造用のプレミックス組成物であって、イソシアネート化合物を含むA液と、ポリオール化合物、発泡剤及びアミン触媒を含むB液と、泡化能を有する有機金属触媒を含むC液との3種の液からなり、前記発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンのうちのいずれか1種以上を含み、前記有機金属触媒がスズ(II)化合物である、3液型プレミックス組成物。
[5]前記スズ(II)化合物が、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸とスズ(II)とのジカルボン酸塩である、上記[4]に記載の3液型プレミックス組成物。
[6]前記スズ(II)化合物がビス(ネオデカン酸)スズである、上記[4]又は[5]に記載の3液型プレミックス組成物。
【0015】
[7]前記C液が、分子量150〜8,000であり、かつ、ポリオキシアルキレン化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族モノカルボン酸エステル、及び脂肪族多価カルボン酸エステルのうちから選ばれる1種以上の化合物を、希釈剤として含む、上記[4]〜[6]のいずれか1項に記載の3液型プレミックス組成物。
[8]前記希釈剤が、下記(a)〜(c)のうちから選ばれる1種以上の化合物である、上記[7]に記載の3液型プレミックス組成物。
(a)ポリオキシアルキレンジオールの片末端又は両末端の水酸基が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するポリエーテル化合物
(b)ポリオキシアルキレングリセリルエーテルであるポリエーテルトリオール化合物 (c)芳香族モノカルボン酸、芳香族多価カルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、又は脂肪族多価カルボン酸の1個以上のカルボキシル基の水酸基部分が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するエステル化合物
[9]前記希釈剤が、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルである、上記[7]又は[8]に記載の3液型プレミックス組成物。
【0016】
[10]硬質ポリウレタンフォーム製造用の触媒組成物であって、泡化能を有する有機金属触媒及び希釈剤を含み、前記有機金属触媒がスズ(II)化合物であり、前記希釈剤が、分子量150〜8,000であり、かつ、ポリオキシアルキレン化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族モノカルボン酸エステル、及び脂肪族多価カルボン酸エステルのうちから選ばれる1種以上の化合物である、触媒組成物。
[11]ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンのうちのいずれか1種以上を含む発泡剤とともに用いられる、上記[10]に記載の触媒組成物。
[12]前記スズ(II)化合物が、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸とスズ(II)とのジカルボン酸塩である、上記[10]又は[11]に記載の触媒組成物。
[13]前記スズ(II)化合物がビス(ネオデカン酸)スズである、上記[10]〜[12]のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【0017】
[14]前記希釈剤が、下記(a)〜(c)のうちから選ばれる1種以上の化合物である、上記[10]〜[13]のいずれか1項に記載の触媒組成物。
(a)ポリオキシアルキレンジオールの片末端又は両末端の水酸基が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するポリエーテル化合物
(b)ポリオキシアルキレングリセリルエーテルであるポリエーテルトリオール化合物 (c)芳香族モノカルボン酸、芳香族多価カルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、又は脂肪族多価カルボン酸の1個以上のカルボキシル基の水酸基部分が、炭素数3以上のアルキルオキシ基及びアルキレンオキシ基のうちから選ばれるいずれかの基で置き換わった構造を有するエステル化合物
[15]前記希釈剤が、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルである、上記[10]〜[14]のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発泡剤としてHFOやHCFO等を用いる場合において、高価なアミン触媒の使用量を低減することができ、かつ、品質安定性に優れた発泡体が安全に得られる硬質ポリウレタンフォームを提供することができる。
また、本発明によれば、前記硬質ポリウレタンフォームの製造に好適に用いることができ、貯蔵安定性に優れた、3液型プレミックス組成物及び触媒組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の硬質ポリウレタンフォームの製造工程の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の硬質ポリウレタンフォーム、並びに、硬質ポリウレタンフォーム製造用の3液型プレミックス組成物及び触媒組成物について詳細に説明する。
【0021】
[硬質ポリウレタンフォーム]
本発明の硬質ポリウレタンフォームは、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、発泡剤、泡化能を有する有機金属触媒、及びアミン触媒を含む混合液が発泡してなる硬質ポリウレタンフォームである。そして、発泡剤が、HFO及びHCFOのうちのいずれか1種以上を含み、また、有機金属触媒がスズ(II)化合物であることを特徴としている。
前記硬質ポリウレタンフォームは、泡化能を有する特定の有機金属触媒を主触媒として発泡してなるものであり、発泡剤がHFOやHCFOである場合に適用可能な高価なアミン触媒の使用量を低減することができ、かつ、良好な発泡状態の発泡体として安定的に得ることができる。
【0022】
(ポリイソシアネート化合物)
ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物であり、B液中のポリオール化合物との重付加反応によりポリウレタン樹脂を生成する。
発泡前の混合液中のポリイソシアネート化合物の含有量は、硬質ポリウレタンフォームの製造効率等の観点から、20〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜65質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。
【0023】
ポリイソシアネート化合物は、芳香族ポリイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートのいずれでもよく、これらのうち1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
芳香族ポリイソシアネートとしては、具体的には、ジフェニルエーテル−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、4,6−ジメチル−1,3−フェニレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’−MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)等のモノメリックMDI、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI又はポリメリックMDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートは、非環式又は脂環式のポリイソシアネートのいずれでもよく、具体的には、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
これらのうち、反応性、及び製造される硬質ポリウレタンフォームの機械的強度等の観点から、2,2’−MDI、2,4’−MDI、4,4’−MDI等のモノメリックMDI、クルードMDI又はポリメリックMDIが好ましく、また、この中でも、コストの観点からは、クルードMDI又はポリメリックMDIが好適に用いられる。
【0024】
(ポリオール化合物)
ポリオール化合物は、水酸基を2個以上有するアルコール化合物であり、イソシアネート化合物との重付加反応によりポリウレタン樹脂を生成する。
ポリオール化合物としては、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオール等が挙げられ、これらのうちから選ばれるいずれかを用いることが好ましく、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。難燃性を付与する観点からは、ポリエステルポリオールの方が多いことが好ましい。ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオールの数平均分子量は、反応性、及び製造される硬質ポリウレタンフォームの機械的強度等の観点から、50〜5,000であることが好ましく、より好ましくは100〜3,000、さらに好ましくは200〜1,000である。
ポリオール化合物は、ポリイソシアネート化合物との反応性を考慮した上で、ポリイソシアネート化合物100質量部に対して、40〜100質量部添加されることが好ましく、より好ましくは45〜95質量部、さらに好ましくは50〜75質量部である。
【0025】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA等の多価アルコールと、アジピン酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、ピメリン酸、セバシン酸、シュウ酸、フタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、アゼライン酸、トリメリット酸、グルタコン酸、α−ヒドロムコン酸、β−ジエチルサクシン酸、ヘミメリチン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の多価カルボン酸とを重縮合させたものが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを、多価ジオールでエステル交換したもの等も挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、グリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコールや芳香族アミン、脂肪族アミン等に、プロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等アルキレンオキサイドを付加重合させたもの等が挙げられる。
【0026】
(発泡剤)
発泡剤は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とが反応してポリウレタン樹脂を生成する際の発熱により気化し、ポリウレタン樹脂を発泡させる作用を有するものである。
発泡剤としては、HFO又はHCFOを含むものとする。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。HFOやHCFOは、環境問題の観点から、HFCに代わり、今後、需要の増加が見込まれる発泡剤であり、本発明は、このような発泡剤に対応するものである。具体的には、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−HFO−1234ze)、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO−1336mzz)、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロぺン(HCFO−1233zd)等が挙げられる。
発泡剤は、適度にポリウレタン樹脂を発泡させる観点から、ポリイソシアネート化合物100質量部に対して、5〜40質量部添加されることが好ましく、より好ましくは10〜30質量部、さらに好ましくは15〜25質量部である。
【0027】
なお、発泡剤は、従来から用いられているHFCや水を含んでいてもよい。ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基は、水と反応してアミノ基を生成する際、二酸化炭素を発生し、これも、ポリウレタン樹脂の生成反応の初期段階における発泡の誘因となることから、発泡剤として水が含まれていることが好ましい。
ただし、水は、ポリオール化合物がポリエステルポリオールを含む場合、該ポリエステルポリオールを加水分解させるおそれがあるため、その他の発泡剤よりも含有量が少ないことが好ましい。水以外の上記の発泡剤100質量部に対して、0.5〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜18質量部、さらに好ましくは5〜15質量部である。
【0028】
(有機金属触媒)
有機金属触媒は、本発明の硬質ポリウレタンフォームを得る上での主触媒であり、ポリウレタン樹脂の泡化反応を促進する作用を有するものである。このため、泡化能を有する有機金属触媒が用いられ、本発明においては、スズ(II)化合物が用いられる。これらのうち、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明において、「泡化能を有する」とは、ポリオール化合物70〜75質量部、水3〜4質量部、及び有機金属触媒1質量部の混合液と、ポリイソシアネート化合物100質量部とを、15℃で撹拌して均一に混合した試料について、撹拌終了時からクリーム状の混合物が膨張を開始するまでの時間、すなわち、クリームタイム(Cream Time:C.T.)が60秒以下であることを言うものとする。この有機金属触媒の泡化能の指標となるC.T.は、具体的には、後述する実施例に記載の評価試験方法により測定される。
【0029】
スズ(II)化合物としては、特に、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸とスズ(II)とのジカルボン酸塩が好ましい。前記脂肪族カルボン酸としては、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。具体的には、ビス(2−エチルヘキサン酸)スズ(II)、ビス(ネオデカン酸)スズ(II)等が好適に用いられ、化合物の安定性の観点から、特に、ビス(ネオデカン酸)スズ(II)が好ましい。
有機金属触媒は、泡化反応と樹脂化反応の速度のバランスの観点から、ポリイソシアネート化合物100質量部に対して、0.01〜5質量部添加されることが好ましく、より好ましくは0.05〜3質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部である。
なお、有機金属触媒は、アミン触媒よりも少ない使用量(質量)であっても、泡化能により優れているため、泡化反応を促進する主触媒として十分に作用する。
【0030】
(アミン触媒)
本発明においては、前記スズ(II)化合物が泡化能を有する触媒であり、主触媒として作用するが、さらに、泡化反応及び樹脂化反応を促進する上で、助触媒としてアミン触媒が用いられる。
ただし、上述したように、発泡剤がHFO又はHCFOである場合には、これらの発泡剤との反応性が低い特殊な高価なアミン触媒を用いる必要があるため、その使用量はできる限り少ないことが好ましい。
このようなアミン触媒としては、公知のものを用いることができ、HFOやHCFO等の発泡剤と併存させた場合においても、貯蔵安定性に優れているものが好ましい。例えば、ジメチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、メチルジシクロヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、ジエチルメチルベンゼンジアミン、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
アミン触媒は、ポリイソシアネート化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部添加されることが好ましく、より好ましくは0.1〜8質量部、さらに好ましくは0.2〜5質量部である。
【0031】
(その他の成分)
混合液中には、必要に応じて、溶剤や、整泡剤、難燃剤、界面活性剤、着色剤、酸化防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
溶剤は、各成分を均一に混合する観点から、必要に応じて用いられるものであり、有機金属触媒の泡化能を低下させない範囲であれば、水溶性有機溶剤であっても、疎水性有機溶剤であってもよい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。これらは、市販のアミン触媒製品に含まれている場合もある。また、溶剤としては、後述する、有機金属触媒の希釈剤が含まれていてもよい。
整泡剤は、硬質ポリウレタンフォームの製造において公知のものを用いることができ、シリコーン系整泡剤が好適に用いられ、例えば、シロキサン−ポリアルキレンオキサイド共重合体等が挙げられる。
難燃剤も、硬質ポリウレタンフォームの製造において公知のものを用いることができ、例えば、非ハロゲンリン酸エステル系のトリクレジルホスフェートや含ハロゲンリン酸エステル系のトリスクロロプロピルホスフェート等が挙げられる。
界面活性剤、着色剤及び酸化防止剤も、硬質ポリウレタンフォームの製造において公知のものを用いることができ、特に限定されるものではない。
これらの添加剤の含有量は、ポリウレタン樹脂の泡化反応及び樹脂化反応に影響を及ぼさない範囲内において、得られる発泡体の所望の物性に応じて適宜調整することができる。前記添加剤の合計含有量は、ポリイソシアネート化合物100質量部に対して、0.5〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜25質量部、さらに好ましくは5〜20質量部である。
【0032】
[3液型プレミックス組成物]
本発明の3液型プレミックス組成物は、硬質ポリウレタンフォーム製造用のプレミックス組成物であり、前記硬質ポリウレタンフォームの製造に好適に用いることができるものである。プレミックス組成物の3種の液は、イソシアネート化合物を含むA液と、ポリオール化合物、発泡剤及びアミン触媒を含むB液と、泡化能を有する有機金属触媒を含むC液とからなり、発泡剤が、HFO及びHCFOのうちのいずれか1種以上を含み、また、有機金属触媒がスズ(II)化合物である。
これらの3液型プレミックス組成物のA液、B液及びC液は、各液中の配合成分を所定量混合することにより、容易に調製することができる。これらのプレミックス組成物を硬質ポリウレタンフォームの製造原料として用いれば、現場発泡においても、原料の取り扱い及び各原料成分の配合量の調整が容易となる。
なお、A液中のイソシアネート化合物、B液中のポリオール化合物、発泡剤及びアミン触媒、並びに、C液中の泡化能を有する有機金属触媒については、上記の硬質ポリウレタンフォームの説明で述べたものと同様であるため、以下の3液型プレミックス組成物の説明中での記述は省略する。
【0033】
<A液>
A液は、ポリイソシアネート化合物を主成分として含む液である。A液には、ポリイソシアネート化合物以外に、必要に応じて、溶剤や、整泡剤等の添加剤が含まれていてもよい。
ただし、製造効率等の観点から、A液中のポリイソシアネート化合物の含有量は、90〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは95〜100質量%、さらに好ましくは97〜100質量%である。
【0034】
<B液>
B液は、ポリオール化合物を主成分とし、さらに、発泡剤、及び助触媒としてのアミン触媒を含む液である。B液には、ポリオール化合物、発泡剤及びアミン触媒以外に、必要に応じて、溶剤や、上述した整泡剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
ただし、製造効率等の観点から、主成分であるB液中のポリオール化合物の含有量は、40〜75質量%であることが好ましく、より好ましくは45〜70質量%、さらに好ましくは50〜65質量%である。
B液のプレミックス組成物の成分のうち、特に、アミン触媒は、皮膚刺激性又は皮膚腐食性を有するものが多く、単独での取り扱いに注意を要するが、予めプレミックス中に混合されていることにより、現場作業時の安全性の向上を図ることができる。
【0035】
<C液>
C液は、主触媒である泡化能を有する有機金属触媒を主成分として含む液である。
このような泡化能を有する触媒を、ポリウレタン樹脂原料であるポリイソシアネート化合物及びポリオール化合物とは別に、第3成分として用い、その混合量を調整することによって、良好な発泡状態の発泡体を安定的に得ることが可能となる。
有機金属触媒は、泡化反応と樹脂化反応の速度のバランスの観点から、B液100質量部に対して0.05〜1質量部添加することが好ましく、より好ましくは0.08〜0.8質量部、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部添加する。
【0036】
C液のプレミックス組成物には、有機金属触媒を溶液として供給可能とするための希釈剤(溶剤)が含まれる。その他、必要に応じて、酸化防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
ただし、製造効率や前記有機金属触媒の溶解性等の観点から、C液中の前記有機金属触媒の含有量は、1〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。また、前記添加剤の含有量は、有機金属触媒の泡化能に影響を及ぼさない範囲の量とする。
【0037】
(希釈剤)
有機金属触媒の希釈剤としては、ポリオキシアルキレン化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族モノカルボン酸エステル、又は脂肪族多価カルボン酸エステルであり、分子量150〜8,000の溶剤が好ましい。これらの化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
前記分子量は、より好ましくは200〜7,000、さらに好ましくは300〜6,000である。なお、ここで言う分子量とは、ポリマー化合物においては数平均分子量を指す。
前記化合物は、有機金属触媒を溶解することができ、かつ、吸水性が低いため、有機金属触媒の加水分解が抑制されることから好適である。また、上記範囲内の分子量であれば、C液を、B液と混合する上で支障のない程度の粘度に保つことができる。
【0038】
前記溶剤の化合物のうち、ポリオキシアルキレンジオールの片末端又は両末端の水酸基が、炭素数3以上のアルキルオキシ基又はアルキレンオキシ基で置き換わった構造を有するポリエーテル化合物が好適に用いられる。前記ポリエーテル化合物が、ポリオキシアルキレンジオールの両末端の水酸基が置き換わった構造である場合、置き換わるアルキルオキシ基又はアルキレンオキシ基は、同一であっても、異なっていてもよい。
前記ポリエーテル化合物としては、具体的には、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、ポリオキシアルキレンモノブチルエーテル等が挙げられ、特に、有機金属触媒がスズ(II)化合物である場合は、スズが2価から、より安定な4価に酸化されて、泡化能が低下することを抑制する観点から、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルがより好ましい。
【0039】
また、前記溶剤の化合物としては、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルであるポリエーテルトリオール化合物も好適に用いられる。
前記ポリエーテルトリオール化合物としては、具体的には、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル等が挙げられる。
【0040】
また、前記溶剤の化合物としては、芳香族モノカルボン酸、芳香族多価カルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、又は脂肪族多価カルボン酸の1個以上のカルボキシル基の水酸基部分が、炭素数3以上のアルキルオキシ基又はアルキレンオキシ基で置き換わった構造を有するエステル化合物も好適に用いられる。前記エステル化合物が、芳香族多価カルボン酸又は脂肪族多価カルボン酸であり、2個以上のカルボキシル基の水酸基部分が置き換わった構造である場合、置き換わるアルキルオキシ基又はアルキレンオキシ基は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。
前記エステル化合物としては、具体的には、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等が挙げられ、特に、有機金属触媒がスズ(II)化合物である場合は、スズが2価から、より安定な4価に酸化されて泡化能が低下することを抑制する観点から、フタル酸ジイソノニルがより好ましい。
【0041】
[触媒組成物]
本発明の触媒組成物は、硬質ポリウレタンフォーム製造用の触媒組成物であり、前記硬質ポリウレタンフォームの製造に好適に用いることができるものである。また、前記3液型プレミックス組成物のうちのC液のプレミックス組成物として好適に用いることができるものである。触媒組成物は、泡化能を有する有機金属触媒及び希釈剤を含むものであり、有機金属触媒がスズ(II)化合物であり、また、希釈剤が、分子量150〜8,000であり、かつ、ポリオキシアルキレン化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、脂肪族モノカルボン酸エステル、及び脂肪族多価カルボン酸エステルのうちから選ばれる1種以上の化合物である。
触媒組成物は、該触媒組成物中の配合成分を所定量混合することにより、容易に調製することができる。この触媒組成物を硬質ポリウレタンフォームの製造原料として用いれば、現場発泡においても、ポリウレタン樹脂の発泡状態に応じた触媒組成物の配合量の調整が容易となる。また、有機金属触媒の泡化能を低下させることなく、安定的に貯蔵保管することができる。
なお、泡化能を有する有機金属触媒については、上記の硬質ポリウレタンフォーム及び3液型プレミックス組成物のC液の説明で述べたものと同様であり、また、希釈剤に用いられる化合物については、3液型プレミックス組成物のC液の説明で述べたものと同様であるため、触媒組成物中での記述は省略する。
【0042】
[硬質ポリウレタンフォームの製造方法]
本発明の硬質ポリウレタンフォームは、工場内で製造することも可能であるが、現場発泡においても容易に効率的に製造することができる。
ここで言う「現場発泡」とは、断熱等の目的で硬質ポリウレタンフォームを設けることが必要とされる建築物や構造物等がある現場に、硬質ポリウレタンフォームの原料液及び現場発泡機を持ち込んで、その場で硬質ポリウレタンフォームの発泡成形を行う施工方法を意味する。具体的な手法としては、スプレー法や注入法等が挙げられる。本発明においては、施工容易性等の観点から、スプレー法、すなわち、現場吹き付け発泡が好ましい。
【0043】
図1に、現場発泡における本発明の硬質ポリウレタンフォームの製造工程の一例の概要を示す。図1に示す製造工程は、硬質ポリウレタンフォームの製造原料として、本発明の3液型プレミックス組成物を用いるものである。
イソシアネート化合物を含むA液がA液タンク1に、ポリオール化合物、発泡剤及びアミン触媒を含むB液がB液タンク2に、また、泡化能を有する有機金属触媒を含むC液(触媒組成物)がC液タンク3に、それぞれ貯蔵される。現場発泡機5には、A液タンク1から送液ポンプP1によってA液が供給されるラインが接続され、また、これとは別に、B液タンク2から送液ポンプP2によってB液が供給されるラインが接続されている。そして、B液のラインには、C液タンク3から送液ポンプP3によってC液が供給され、その供給量は、混合調整弁4によって調整可能とされている。
なお、有機金属触媒が均一に混合されるようにする観点から、C液は、窒素ガス等の不活性ガスを用いて起泡化し、クリーム状にして、B液に混合するようにしてもよい。
A液、B液及びC液(触媒組成物)をこのように供給することにより、B液とC液とが混合された直後に、この混合液とA液とを、現場発泡機において混合して、発泡を行うことができる。このような方法によれば、現場環境による発泡状態に応じて、C液の混合量を適宜調整することができ、また、現場作業の安全性も確保される。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0045】
[試験1]有機金属触媒の泡化能評価試験(1)
下記表1に示す各種有機金属触媒について、ポリイソシアネート試験液(A液試料)及びポリオール試験液(B’液試料)を用いて、泡化能の評価を行った。比較のため、アミン触媒についても、同様の評価を行った。評価用触媒に用いた化合物及び各試験液の配合組成を以下に示す。
<A液試料>
(ポリイソシアネート化合物)
・ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI);「ミリオネート(登録商標) MR−200」、東ソー株式会社製;52.0g
<B’液試料>
(ポリオール化合物)
・芳香族系ポリエステルポリオール;「マキシモール(登録商標) RDK−133」、川崎化成工業株式会社製;36.5g
(発泡剤)
・水;2.0g
(整泡剤)
・シロキサン−ポリアルキレンオキサイド共重合体;「NIAX(登録商標) SILICONE L−6186NT」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製;1.0g
(難燃剤)
・トリスクロロプロピルホスフェート;「TMCPP」、大八化学工業株式会社製;10.0g
<触媒>
(有機金属触媒)
・ビス(ネオデカン酸)スズ(II);「ネオスタン U−50」、日東化成株式会社製
・ビス(2−エチルヘキサン酸)スズ(II);「ネオスタン U−28」、日東化成株式会社製
・ビス(2−エチルヘキサン酸)鉛(II);「ニッカオクチックス鉛17%DINP」、日本化学産業株式会社製
・トリス(2−エチルヘキサン酸)ビスマス(III);「プキャット25」、日本化学産業株式会社製
・マレイン酸ジブチルスズ(IV);「T−52NJ」、勝田化工株式会社製
(アミン触媒)
・HFO発泡剤用アミン触媒:酸ブロックアミン塩;「Polycat(登録商標) 201」、エアープロダクツジャパン株式会社製
・HFC発泡剤用アミン触媒:ポリエチレンポリアミン(第三級アミン);「TOYOCAT(登録商標)−TT」、東ソー株式会社製
【0046】
<評価試験方法>
泡化能の評価試験は、以下のようにして行った。
B’液試料49.5gに下記表1に示す各触媒0.5g(B’試料液100質量部に対して1.0質量部)を添加し、15℃で5〜10分間保温した。A液試料52.0gも15℃で5〜10分間保温した。これらの各液試料をポリプロピレン製500mlデスカップに投入し、3000rpmで10秒間混合撹拌した。
撹拌終了時からクリーム状の混合物が膨張を開始するまでの時間(C.T.)を計測した。このC.T.を触媒の泡化能の指標とした。
これらの評価試験結果を、下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示した結果から、スズ(II)化合物である有機金属触媒(試料1及び2)は、鉛(II)化合物(試料3)、ビスマス(III)化合物(試料4)及びスズ(IV)化合物(試料5)よりもC.T.が短く、優れた泡化能を有する有機金属触媒であると言える。また、HFO発泡剤用アミン触媒(試料6)に比べて、C.T.が1/3以下であり、HFC発泡剤用アミン触媒(試料7)と同等レベルの優れた泡化能を有していると言える。
なお、HFO発泡剤用アミン触媒(試料6)は、GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals)区分に基づく皮膚腐食性試験において、区分1に属するものであり、皮膚腐食性が高く、現場作業時の安全性の観点から、単独の状態で取り扱うことは好ましくない。
【0049】
[試験2]有機金属触媒の希釈液の評価試験
上記試験1の試料1で用いたビス(ネオデカン酸)スズ(II)(試料1)を有機金属触媒の代表例とし、これを用いて、希釈液の評価を行った。希釈液に用いた各希釈剤を以下に示す。
<希釈剤>
・ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル;「ニューポール LB−65」、三洋化成工業株式会社製;粘度13.8mPa・s(25℃);数平均分子量340(水酸基価から求めた値)
・ポリオキシプロピレングリセリルエーテル;「サンニックス GP−3000」、三洋化成工業株式会社製;粘度485mPa・s(25℃);数平均分子量3,000(水酸基価から求めた値)
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル;「DKSプロピラン353」、第一工業製薬株式会社製;粘度891mPa・s(25℃);数平均分子量5,000(水酸基価から求めた値)
・フタル酸ジイソノニル;「DINP」、田岡化学工業株式会社製;粘度55.5mPa・s(25℃);分子量419
・トリスクロロプロピルホスフェート;「TMCPP」、大八化学工業株式会社製;粘度69.0mPa・s(25℃);分子量328
・ジプロピレングリコール;「DPG」、株式会社ADEKA製;粘度81.2mPa・s(25℃);分子量134
【0050】
<評価試験方法>
評価試験は、以下のようにして行った。
有機金属触媒(ビス(ネオデカン酸)スズ(II))を下記表2に示す各希釈剤で希釈して調製した、濃度10質量%の有機金属触媒希釈液40mlを50mlガラス瓶に入れて密閉した。室温(25〜27℃)にて保管し、ガラス瓶内の液状態の経時変化を目視観察により評価した。
これらの評価試験結果を、下記表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示したように、トリスクロロプロピルホスフェート(試料12)、又はジプロピレングリコール(試料13)を希釈剤とした場合は、1日後までには液が濁り、2日後以降は、沈殿が生じた。この沈殿は、有機金属触媒であるビス(ネオデカン酸)スズ(II)の分解物であると推察される。
これに対して、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル(試料8)、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル(試料9及び10)、又はフタル酸ジイソノニル(試料11)を希釈剤とした場合は、液状態は、少なくとも14日間、透明な状態が維持された。したがって、これらの有機金属触媒の希釈液は、長期間安定して貯蔵保管することができると言える。なお、表2において、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル(試料9及び10)の28日後の欄の「−」との記載は、未評価であることを意味する。
【0053】
[試験3]有機金属触媒希釈液(触媒組成物)の評価試験
A液試料、B液試料及び下記表3に示す各C液(触媒組成物)試料を用いて、発泡状態の評価を行った。B液試料の配合組成、及びC液試料に用いた化合物を以下に示す。なお、A液試料は、試験1と同じものである。
<B液試料>
(ポリオール化合物)
・芳香族系ポリエステルポリオール;「マキシモール(登録商標) RDK−133」、川崎化成工業株式会社製;12.00g
・脂肪族アミン系ポリエーテルポリオール;「サンニックス NL−300」、三洋化成工業株式会社製;7.00g
・ポリエーテルポリオール;「DKポリオール 3776」、第一工業製薬株式会社製;10.95g
(発泡剤)
・水;0.85g
・HCFO発泡剤:トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン;「Solstice(登録商標) LBA」、ハネウェルジャパン株式会社製;8.50g
(アミン触媒)
・メチルジシクロヘキシルアミン;「Polycat(登録商標) 12」、エアープロダクツジャパン株式会社製;1.00g
・1,2−ジメチルイミダゾール/エチレングリコール;「TOYOCAT(登録商標) DM70」、東ソー株式会社製;1.00g
(難燃剤)
・トリスクロロプロピルホスフェート;「TMCPP」、大八化学工業株式会社製;8.00g
(整泡剤)
・シロキサン−ポリアルキレンオキサイド共重合体;「NIAX(登録商標) SILICONE L−6100NT」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製;0.70g
<C液(触媒組成物)試料>
(有機金属触媒)
・ビス(ネオデカン酸)スズ(II);「ネオスタン U−50」、日東化成株式会社製
・ビス(2−エチルヘキサン酸)スズ(II);「NIAX(登録商標) D−19」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製
(希釈剤)
・ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル;試験2の試料8と同じ
・ポリオキシプロピレングリセリルエーテル;試験2の試料9と同じ
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル;試験2の試料10と同じ
・フタル酸ジイソノニル;試験2の試料11と同じ
【0054】
<評価試験方法>
発泡状態の評価試験は、以下のようにして行った。
B液試料50.00gに、有機金属触媒0.10gを希釈剤0.90gで希釈した下記表3に示す各C液試料1.00gを添加し、15℃で5〜10分間保温した。A液試料52.0gも15℃で5〜10分間保温した。これらの各液試料をポリプロピレン製500mlデスカップに投入し、3000rpmで2秒間混合撹拌した。
撹拌終了時からのC.T.を計測した。さらに、膨張が開始してから停止するまでの時間、すなわち、ライズタイム(泡の立ち上がり時間;Rise Time:R.T.)も計測した。
また、発泡して得られた硬質ポリウレタンフォームの上部から50mm×50mm×50mmの発泡体試料を採取して、重量を測定し、密度を算出した。
なお、比較参照のため、C液(触媒組成物)試料を混合しない場合についても、同様の評価試験を行った。
これらの評価試験結果を、下記表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示した結果から、有機金属触媒であるスズ(II)化合物を所定の希釈剤で希釈することにより、発泡時のC.T.を3秒以内、かつ、R.T.を約12秒とすることができ、現場発泡で液だれを生じたり、発泡不十分となったりすることなく、安定した密度の発泡体を形成することができると言える。なお、HFO発泡剤を用いた場合も、同様の結果が得られると推定される。
【0057】
[試験4]現場発泡試験
<実施例1>
上記試験3の試料14と同じ配合組成の、A液試料、B液試料及びC液試料を用いて、図1に示すような態様で各液試料を混合可能な現場発泡機にて、吹き付け発泡を行い、発泡状態及び発泡体の仕上がり状態の評価を行った。吹き付け条件及び評価方法は、以下のとおりである。
【0058】
(吹き付け条件)
・発泡機:「HF−1600型」、旧ガスマー社製;メインヒーター33℃、ホース30℃
・吹き付け対象:スレート板(繊維強化セメント板);25℃
・外気温湿度:25℃、53%RH
【0059】
(評価方法)
スレート板への吹き付け開始からのC.T.、及び吹き付け開始から発泡体表面に軽く触れた手に液が付かなくなるまでに要する時間、すなわち、タックフリータイム(Tack-Free Time:T.F.T.)を計測して、反応性を評価した。
また、形成された発泡体の仕上がり状態を、目視観察により評価した。
【0060】
<比較例1>
実施例1において、C液試料を混合せず、それ以外は実施例1と同様に、吹き付け発泡及び評価を行った。
【0061】
<実施例2>
実施例1において、スレート板への吹き付け発泡に代えて、ポリプロピレン製1000mlデスカップ(25℃)への注入発泡を行い、デスカップヘの注入開始からのC.T.及びR.T.の評価を行った。
【0062】
<比較例2>
実施例2において、C液試料を混合せず、それ以外は実施例2と同様に、注入発泡及び評価を行った。
【0063】
上記実施例及び比較例の評価結果を、表4にまとめて示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示す結果から分かるように、C液試料を混合した場合(実施例1及び2)は、C.T.及びR.T.が短くなり、泡化反応が促進されることが認められた。なお、吹き付け発泡(実施例1)の方が、注入発泡(実施例2)よりも、C.T.が長いのは、吹き付け対象であるスレート板の熱伝導性が高く、吹き付けた混合液の熱が奪われるためである。
また、吹き付け発泡において、C液試料を混合した場合(実施例1)は、液だれがなく、発泡体表面が平滑な仕上りであり、T.F.T.が短くなった。これに対して、C液試料を混合しない場合(比較例1)は、液だれを生じ、発泡体表面に凹凸が目立ち、平滑性に劣っていた。
【符号の説明】
【0066】
1 A液タンク
2 B液タンク
3 C液タンク
4 混合調整弁
5 現場発泡機
P1,P2,P3 ポンプ
図1