特許第6852956号(P6852956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852956
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   B62D25/08 D
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-221015(P2018-221015)
(22)【出願日】2018年11月27日
(65)【公開番号】特開2020-83086(P2020-83086A)
(43)【公開日】2020年6月4日
【審査請求日】2020年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】福田 保和
(72)【発明者】
【氏名】百中 淳志
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−268680(JP,A)
【文献】 特開2001−163250(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0156414(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
B60R 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部の車幅方向両側部に設けられ、かつ車両前後方向に延びる車体構成部材としての一対の第1の前後延設部材と、
これら一対の第1の前後延設部材の相互間に橋渡しされた状態で車幅方向に延び、かつ前記一対の第1の前後延設部材に車幅方向両端部が連結されているクロスメンバと、
を備えている、車両前部構造であって、
前記車両前部の車幅方向両側部のうち、前記一対の第1の前後延設部材とは高さが相違する箇所に設けられ、かつ車両前後方向に延びる車体構成部材としての一対の第2の前後延設部材を備えており、
前記クロスメンバの車幅方向両端部は、前記一対の第1の前後延設部材に加え、前記一対の第2の前後延設部材にも連結されており、
前記クロスメンバの車幅方向両端部のそれぞれは、車幅方向外端側が開口した空隙部を介して高さ方向に離間した上側および下側の端部に区分されており、これら上側および下側の端部の一方が、前記各第1の前後延設部材に連結され、かつ他方が、前記各第2の前後延設部際に連結されていることを特徴とする、車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部構造としては、たとえば特許文献1に記載された構造がよく採用されている。
同文献に記載の車両前部構造においては、車両前部の車幅方向両側部に位置して車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバの内側に、ラジエータサポートが取付けられている。前記一対のフロントサイドメンバの前端部には、フロントバンパ用リインフォースとしてのクロスメンバの両端部が連結されており、このクロスメンバは、ラジエータサポートの車両前方側に位置して車幅方向に延びている。
このような構成によれば、車両の前突が発生した場合に、クロスメンバに入力した衝突荷重を左右一対のフロントサイドメンバのそれぞれに受けさせて、衝撃吸収を図ることが可能となる。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、車両の前突の態様として、オフセット衝突がある。前記従来技術においては、オフセット衝突が発生した場合には、クロスメンバの車幅方向一端寄りの部位に入力した荷重が、一対のフロントサイドメンバの双方によって均等に受けられず、一方のフロントサイドメンバのみによって受けられることとなる。このため、衝突荷重が大きい場合には、前記一方のフロントサイドメンバが過剰に変形し、車両前部のクラッシュ量が想定以上に大きくなったり、あるいは優れた衝撃吸収性能が得られなくなるなどして、乗員の傷害値低減を十分に図ることが困難となる虞がある。
これを解消するための手段としては、たとえばフロントサイドメンバの厚肉化、あるいは大型化を図ることが考えられるが、これでは製造コストの上昇や、重量の増加を招いてしまう。また、クロスメンバの断面積を拡大する手段を採用した場合には、このクロスメンバによって車両前部の開口部が大きく塞がれるため、通風性が悪化し、たとえばラジエータへの通風量が減少するなどの不具合も生じる。
【0005】
車両前部構造の他の例として、特許文献2に記載のものがある。同文献に記載の構造においては、クロスメンバを上下複数設け、かつこれら複数のクロスメンバのそれぞれを、車両前後方向に延びる複数の車体構成部材に個別に支持させている。このような構成によれば、オフセット衝突時に1つの車体構成部材のみが過剰に変形する虞を回避することが可能である。ただし、複数のクロスメンバを用いたのでは、部品点数の増大による生産性の悪化、製造コストの上昇、および重量の増加を招く他、ラジエータへの通風量が減少するといった不具合も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−219869号公報
【特許文献2】特開2004−268635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、製造コストの上昇、重量の増加、および通風性の悪化などの不具合を抑制しつつ、オフセット衝突に対して適切に対応することが可能な車両前部構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明により提供される車両前部構造は、車両前部の車幅方向両側部に設けられ、かつ車両前後方向に延びる車体構成部材としての一対の第1の前後延設部材と、これら一対の第1の前後延設部材の相互間に橋渡しされた状態で車幅方向に延び、かつ前記一対の第1の前後延設部材に車幅方向両端部が連結されているクロスメンバと、を備えている、車両前部構造であって、前記車両前部の車幅方向両側部のうち、前記一対の第1の前後延設部材とは高さが相違する箇所に設けられ、かつ車両前後方向に延びる車体構成部材としての一対の第2の前後延設部材を備えており、前記クロスメンバの車幅方向両端部は、前記一対の第1の前後延設部材に加え、前記一対の第2の前後延設部材にも連結されており、前記クロスメンバの車幅方向両端部のそれぞれは、車幅方向外端側が開口した空隙部を介して高さ方向に離間した上側および下側の端部に区分されており、これら上側および下側の端部の一方が、前記各第1の前後延設部材に連結され、かつ他方が、前記各第2の前後延設部際に連結されていることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
第1に、車両の前突として、オフセット衝突が発生した場合、クロスメンバの車幅方向一端側に入力した衝突荷重は、一対ずつ設けられた第1および第2の前後延設部材の片側の第1および第2の前後延設部材の双方によって分散して受けられる。第1および第2の前後延設部材は、ともに車両前後方向に延びた車体構成部材であるため、衝突荷重が大きい場合であっても、これを十分に受け止めることが可能である。このようなことから、車両がオフセット衝突を生じ、かつその衝突荷重が大きい場合であっても、第1および第2の前後延設部材のいずれかが過剰に変形することは適切に回避される。その結果、特許文献1とは異なり、車両前部のクラッシュ量を抑制し、また第1および第2の前後延設部材を利用して優れた衝撃吸収性能を得るなどして、乗員の傷害値低減を適切に図ることが可能である。
第2に、第1および第2の前後延設部材としては、車両の前部に元々具備されているフロントサイドメンバやその近傍に位置する他の車体構成部材を利用すればよく、専用の部材を新たに設ける必要はない。また、各部の厚肉化や大型化の必要をなくし、または少なくすることもできる。したがって、生産性をよくして製造コストの低減化を図り、さらには車両の軽量化をも図ることができる。
第3に、特許文献2とは異なり、クロスメンバを上下複数設ける必要はない。このため、製造コストの低減化などを一層促進することができる。また、車両前部の通風性をよくし、たとえばラジエータへの送風量が減少するといった不具合を適切に防止することもできる。
第4に、車両側部に位置して高さが相違する一対ずつの第1および第2の前後延設部材が、クロスメンバを介して相互に連結されているため、車体の捩れ剛性も高められる。したがって、車両の操安性を向上させることも可能となる。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は、本発明に係る車両前部構造の一例を示す要部概略斜視図であり、(b)は、(a)の要部分解概略斜視図である。
図2】(a)は、図1(a)の要部概略正面図であり、(b)は、(a)の要部分解概略正面図である。
図3】(a)は、図2(a)のIIIa−IIIa断面図であり、(b)は、(a)のIIIb−IIIb断面図である。
図4】(a)は、クロスメンバの他の例を示す概略正面図であり、(b)は、本発明の他の例を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1および図2に示す車両前部構造Aは、左右一対のフロントサイドメンバ1、ラジエータ5を支持するラジエータサポート3、クロスメンバ4、および左右一対のエプロンメンバ2を備えている。
【0015】
一対のフロントサイドメンバ1は、本発明でいう「一対の第1の前後延設部材」の一例に相当し、一対のエプロンメンバ2は、本発明でいう「一対の第2の前後延設部材」の一例に相当する。
一対のフロントサイドメンバ1は、車両前部の車幅方向両側に設けられ、かつエンジンルーム7の左右両側に位置するようにして車両前後方向に延びた車体構成部材である。各フロントサイドメンバ1は、閉断面構造体として構成されている。
一対のエプロンメンバ2は、エンジンルーム7の側壁をなすエプロンパネル8の内面に溶接されており、前記した一対のフロントサイドメンバ1よりも高い位置において、車両前部の車幅方向両側に位置し、かつ車両前後方向に延びた車体構成部材である。各エプロンメンバ2は、たとえば断面略コ字状の部材であり、かつエプロンパネル8に溶接されていることにより、閉断面構造を形成している。
【0016】
ラジエータサポート3は、一対のフロントサイドメンバ1の前端部の相互間に配設されている。このラジエータサポート3は、従来既知のものと同様であり、一対のフロントサイドメンバ1に溶接、またはボルト締結されて上下高さ方向に起立する一対のアウタサポート30、これらの下端部に橋渡し状に連結されたラジエータ5載設用のロアサポート31、および一対のアウタサポート30の上端部に橋渡し状に連結され、かつラジエータ5の上部の固定を図るためのアッパサポート32を備えている。
【0017】
クロスメンバ4は、フロントバンパ用リインフォースであり、車幅方向に延びる本体部4aの両端部近傍箇所に、補助片部4bを溶接することにより、これらの一体化が図られたものである。正面視において、クロスメンバ4の車幅方向中央部40は、略水平方向に延びた比較的細幅な部位であるのに対し、クロスメンバ4の車幅方向両端部41は、車幅方向中央部40よりも上下幅が大きく、かつ上側および下側の端部41a,41bに分岐した形態である。クロスメンバ4は、図3(b)に示すように、偏平な断面ハット状部材42と、これに溶接されるプレート部材43とを組み合わせて構成されていることにより、クロスメンバ4の各部は閉断面構造とされ、強度が高められている(上側および下側の端部41a,41bも、図3(b)に示す構成と同様な閉断面構造とされている)。ただし、これとは異なり、クロスメンバ4は、たとえば裏板としてのプレート部材43を具備しない構成(非閉断面構造)とすることも可能である。
【0018】
クロスメンバ4は、一対のフロントサイドメンバ1の相互間に橋渡しされた状態でラジエータ5およびラジエータサポート3の車両前方側に位置しているが、このクロスメンバ4の車幅方向両端部41は、フロントサイドメンバ1およびエプロンメンバ2の双方に連結されている。
より具体的に説明すると、フロントサイドメンバ1の前部には、前端部材14が溶接されており、この前端部材14の前壁部14aに、クロスメンバ4の下側の端部41bが当接して連結されている(図3(a)も参照)。この連結手段としては、孔部49,19に挿通されるボルトなどの締結部材90を利用する手段や、溶接が用いられる。一方、エプロンメンバ2の前端部には、フランジ部20が設けられており、このフランジ部20には、クロスメンバ4の上側の端部41aが当接して連結されている。この連結手段としては、フロントサイドメンバ1との連結と同様に、孔部48,28に挿通されるボルトなどの締結部材91を利用する手段や、溶接が用いられる。
【0019】
次に、前記した車両前部構造Aの作用について説明する。
【0020】
車両の前突として、オフセット衝突が発生した場合、たとえば図1に示すように、衝突荷重Fは、クロスメンバ4の車幅方向一端部側の箇所に偏って入力する。これに対し、クロスメンバ4の一端部41Aは、フロントサイドメンバ1およびエプロンメンバ2の両者に連結されているため、クロスメンバ4の一端部41Aに入力した衝突荷重Fは、フロントサイドメンバ1およびエプロンメンバ2の両者によって分散した状態で受けられる。したがって、たとえばクロスメンバ4の一端部41Aを1つのフロントサイドメンバ1のみによって支持させる場合とは異なり、衝突荷重Fが大きい場合であっても、この衝突荷重Fを適切に受け止め、フロントサイドメンバ1およびエプロンメンバ2が過剰に圧縮変形しないようにすることができる。このようなことから、車両前部のクラッシュ量を抑制し、またフロントサイドメンバ1およびエプロンメンバ2を利用して優れた衝撃吸収性能を得るなどして、乗員の傷害値低減を適切に図ることが可能である。
【0021】
なお、車両の前突が、非オフセット衝突(通常の前面衝突)の場合には、クロスメンバ4に入力した衝突荷重が、このクロスメンバ4の車幅方向両端部41から左右一対ずつのフロントサイドメンバ1およびエプロンメンバ2のそれぞれによって適切に受けられることとなる。したがって、クロスメンバ4をフロントサイドメンバ1のみに支持させた構成と比較すると、非オフセット衝突の場合においても好ましいものとなる。
【0022】
本実施形態の車両前部構造Aにおいては、左右一対ずつの第1および第2の前後延設部材1,2が、クロスメンバ4によって互いに連結されている。このため、車体の捩れ剛性も高められることとなり、車両の操安性を向上させる効果も得られる。
【0023】
クロスメンバ4の車幅方向中央部40は、車幅方向両端部41と比較して細幅状であり、ラジエータサポート3の車両前方側を大きな面積で塞がないように設けられている。このため、車両前方からエンジンルーム7への通風性をよくし、ラジエータ5への送風量が大きく減少する不具合も生じないようにすることが可能である。
【0024】
本実施形態においては、オフセット衝突に対応させる強度を確保するための手段として、車両前部に位置する各部材の厚みや全体のサイズをかなり大きくして、各部材の剛性を高める手段を採用する必要をなくし、または少なくすることが可能である。また、特許文献2とは異なり、クロスメンバを複数用いるような必要もない。したがって、生産性をよくして製造コストの低減化を図り、また車両の軽量化をも図ることも可能である。
【0025】
図4(a)に示すクロスメンバ4Aは、車幅方向両端部41が、二股状に形成されることなく、車幅方向中央部40よりも幅広状とされた構成である
【0026】
図4(b)に示すクロスメンバ4Bは、2つの帯板状部4cがX状に交差して一体的に繋げられた構成である。
このような構成によれば、本発明が意図するオフセット衝突時の荷重分散作用が得られることに加え、クロスメンバ4Bは、車両前部の車幅方向および上下高さ方向の剛性、ひいては捩じり剛性をもより効果的に高めるものとなる。したがって、車両の操安性をより良好なものとし、たとえば車両の通常走行時における車体のよれを適切に抑制する効果が
得られる。
【0027】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両前部構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
本発明でいう第1および第2の前後延設部材は、フロントサイドメンバ1およびエプロンメンバ2に限定されない。
たとえば、特許文献2に記載されているように、フロントサイドメンバの下方に、これとは別の追加のサイドフレームが設けられている場合、これらフロントサイドメンバおよび追加のサイドフレームを本発明でいう第1および第2の前後延設部材とし、クロスメンバの端部をこれらに連結した構成とすることもできる。車両前部の車幅方向両側部に位置し、かつ車両前後方向に延びる車体構成部材であれば、その具体的な種類や形状などを問うことなく、本発明でいう第1および第2の前後延設部材として用いることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
A 車両前部構造
1 フロントサイドメンバ(第1の前後延設部材)
2 エプロンメンバ(第2の前後延設部材)
4,4A,4B クロスメンバ
41 車幅方向両端部(クロスメンバの)
図1
図2
図3
図4