特許第6852961号(P6852961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852961
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】半導体素子被覆用ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/04 20060101AFI20210322BHJP
   C03C 8/14 20060101ALI20210322BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C03C8/04
   C03C8/14
   H01L21/316 H
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-111115(P2015-111115)
(22)【出願日】2015年6月1日
(65)【公開番号】特開2016-222498(P2016-222498A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年5月7日
【審判番号】不服2019-16767(P2019-16767/J1)
【審判請求日】2019年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 欣克
【合議体】
【審判長】 宮澤 尚之
【審判官】 岡田 隆介
【審判官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−242928(JP,A)
【文献】 特公昭51−017027(JP,B1)
【文献】 特開昭50−129181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、ZnO 63〜68%、B 15〜25%、SiO 12.5〜25%(ただし12.5%を含まない)、Al 0〜3%(ただし3%を含まない)、及びRO 0〜6%(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)を含有し、かつ、アルカリ金属成分、鉛成分を実質的に含有しないことを特徴とする半導体素子被覆用ガラス。
【請求項2】
さらに、質量%で、Ta 0〜5%、MnO 0〜5%、Nb 0〜5%、及びCeO 0〜3%を含有することを特徴とする請求項1に記載の半導体素子被覆用ガラス。
【請求項3】
30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が20〜60×10−7/℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体素子被覆用ガラス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体素子被覆用ガラスからなることを特徴とする半導体素子被覆用ガラス粉末。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部と、ZnO、αZnO・B及び2ZnO・SiOから選択される少なくとも1種の無機粉末0.01〜5質量部を含有することを特徴とする半導体素子被覆用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はP−N接合を含む半導体素子の被覆用として用いられるガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコンダイオードやトランジスタ等の半導体素子は、外気による汚染を防止する観点から半導体素子のP−N接合部を含む表面がガラスにより被覆される。これにより半導体素子表面の安定化を図り、経時的な特性劣化を抑制することができる。
【0003】
半導体素子被覆用ガラスに要求される特性として、(1)半導体素子の特性劣化を防止するため、低温(例えば900℃以下)で被覆できること、(2)半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ成分等の不純物を含まないこと等が挙げられる。
【0004】
従来、半導体素子被覆用ガラスとしては、ZnO−B−SiO系等の亜鉛系ガラスや、PbO−SiO−Al系あるいはPbO−SiO−Al−B系等の鉛系ガラスが知られているが、作業性の観点からPbO−SiO−Al系およびPbO−SiO−Al−B系等の鉛系ガラスが主流となっている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0005】
しかしながら、PbO等の鉛成分は環境に対して有害な成分であることから、近年、電気および電子機器での使用が規制されつつある。既述のZnO−B−SiO系等の亜鉛系ガラスも、少量の鉛成分を含有しており環境の面での懸念がある。そこで、各種材料の無鉛化が進んでいる(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−49653号公報
【特許文献2】特開昭50−129181号公報
【特許文献3】特開昭48−43275号公報
【特許文献4】特開2008−162881号公報
【特許文献5】特開2012−051761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体素子被覆用ガラスは、半導体素子との熱膨張係数差が原因となって、半導体素子の反り等の不具合が発生しないように、熱膨張係数を半導体素子(具体的には、半導体素子を構成するシリコンウェハ等の基板)と適合させる必要がある。しかしながら、従来の半導体素子被覆用ガラスは、その熱膨張係数を半導体素子の熱膨張係数と適合させた場合であっても、実際にガラスを半導体素子に塗布して焼成すると、半導体素子の反りが大きくなる場合がある。
【0008】
以上に鑑み、本発明は、半導体素子に被覆した場合に、半導体素子の反りを抑制することが可能な半導体素子被覆用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の組成を有するZnO−B−SiO系ガラスにより前記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0010】
即ち、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、ZnO 52〜68%、B 5〜30%、SiO 12.5〜25%(ただし12.5%を含まない)、Al 0〜3%(ただし3%を含まない)、及びRO 0〜6%(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)を含有し、かつ、アルカリ金属成分、鉛成分を実質的に含有しないことを特徴とする。
【0011】
既述の通り、ガラスと半導体素子の熱膨張係数を適合させた場合であっても、実際にガラスを半導体素子に塗布して焼成すると、半導体素子の反りが大きくなる場合がある。これは高温下(具体的にはガラス転移点以上)でのガラスの異常膨張が原因であると考えられる。本発明者が検討した結果、高温下での異常膨張は、ガラス中に含まれるAl成分に起因することを突き止めた。そこで、本発明の半導体素子被覆用ガラスでは、Alの含有量を3%以下と極力低減することで、上記の異常膨張を低減し、半導体素子の反りを抑制することが可能となった。
【0012】
なお、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、アルカリ金属成分を実質的に含有しないため、半導体素子表面に対する悪影響を抑制できる。また、鉛成分を実質的に含有しないため、環境への負荷が小さい。ここで、「実質的に含有しない」とは、ガラス成分として該当成分を意図的に添加しないことを意味し、不可避的に混入する不純物まで完全に排除することを意味するものではない。客観的には、不純物を含めた該当成分の含有量が0.1質量%未満であることを意味する。
【0013】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、さらに、質量%で、Ta 0〜5%、MnO 0〜5%、Nb 0〜5%、及びCeO 0〜3%を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が20〜60×10−7/℃であることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、半導体素子との熱膨張係数の適合を図ることが可能となる。結果として、熱膨張係数差に起因する半導体素子の反りや半導体素子被覆用ガラスにおけるクラックの発生等の不具合を抑制することができる。
【0016】
本発明の半導体素子被覆用ガラス粉末は、上記の半導体素子被覆用ガラスからなることを特徴とする。
【0017】
本発明の半導体素子被覆用ガラス粉末を用いることにより、半導体素子表面への被覆を容易に行うことができる。
【0018】
本発明の半導体素子被覆用材料は、上記の半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部と、ZnO、αZnO・B及び2ZnO・SiOから選択される少なくとも1種の無機粉末0.01〜5質量部を含有することを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、ガラス中における結晶析出を促進させ、低熱膨張化を図ることが可能となる。それにより、半導体素子との熱膨張係数の整合を図りやすくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半導体素子に被覆した場合に、半導体素子の反りを抑制することが可能な半導体素子被覆用ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、ZnO 52〜68%、B 5〜30%、SiO 12.5〜25%(ただし12.5%を含まない)、Al 0〜3%(ただし3%を含まない)、及びRO 0〜6%(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)を含有し、かつ、アルカリ金属成分、鉛成分を実質的に含有しないことを特徴とする。各成分の含有量をこのように規定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0022】
ZnOはガラスを安定化する成分である。ZnOの含有量は52〜68%、特に57〜64%であることが好ましい。ZnOの含有量が少なすぎると、溶融時の失透性が強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。一方、ZnOの含有量が多すぎると、耐酸性が低下する傾向がある。
【0023】
はガラスの網目形成成分であり、かつ、流動性を高める成分である。Bの含有量は5〜30%、特に15〜25%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、結晶性が強くなって流動性が損なわれ、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる傾向がある。一方、Bの含有量が多すぎると、熱膨張係数が大きくなったり、化学耐久性が低下する傾向がある。
【0024】
SiOはガラスの網目形成成分であり、熱膨張係数を低下させる効果がある。また、耐酸性等の化学耐久性を高める効果もある。SiOの含有量は12.5〜25%(ただし12.5%を含まない)、13〜24%、特に14〜22%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、化学耐久性に劣る傾向がある。また、熱膨張係数が大きくなって、半導体素子との整合が困難になる傾向がある。一方、SiOの含有量が多すぎると、結晶性が強くなって流動性が損なわれ、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる傾向がある。
【0025】
Alはガラスを安定化する効果があるが、一方で高温下(具体的にはガラス転移点以上)でのガラスの異常膨張の原因となる成分である。Alの含有量は0〜3%(ただし3%を含まない)、0〜2.5%、0〜2%、特に0〜1%であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、本発明のガラスを半導体素子へ塗布、焼成後に半導体素子の反りが大きくなる傾向がある。
【0026】
RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)は、溶解性を向上させる効果があるが、その含有量が多すぎると、熱膨張係数が大きくなる傾向がある。その結果、半導体素子に塗布した場合に反りやクラックが発生しやすくなる。従って、ROの含入量は0〜6%、0〜3%、特に0〜1%であることが好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0027】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ金属成分(LiO、NaO及びKO等)を実質的に含有しない。また、環境負荷物質である鉛成分(PbO等)を実質的に含有しない。
【0028】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、さらにTa5、MnO、NbまたはCeOを含有することができる。これらの成分を含有させることで、半導体素子表面に被覆した際に、漏れ電流を低下させる効果がある。
【0029】
Ta、MnO及びNbの含有量は、各々0〜5%、特に各々0.1〜3%であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。また、CeOの含有量は0〜3%、特に0.1〜2%であることが好ましい。CeOの含有量が多すぎると、結晶性が強くなりすぎて、半導体素子被覆時に流動性が低下する傾向がある。
【0030】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは粉末状(半導体素子被覆用ガラス粉末)であることが好ましい。これにより、例えばペースト法や電気泳動塗布法等を用いて半導体素子表面の被覆を容易に行うことができる。この場合、ガラス粉末の平均粒子径D50は25μm以下、特に15μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が大きすぎると、ペースト化が困難になる傾向がある。また、電気泳動塗布も困難になる。なお、ガラス粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0031】
本発明の半導体素子被覆用材料は、上記の半導体素子被覆用ガラス粉末を含んでなるものである。例えば、本発明の半導体素子被覆用材料は、半導体素子被覆用ガラス粉末に対し、ZnO、αZnO・B及び2ZnO・SiOから選択される少なくとも1種の無機粉末を核形成剤として含有してなる。これらの無機粉末を添加することにより、焼成時に低膨張結晶が析出しやすくなる。結果として、所望の熱膨張係数に容易に調整することが可能となる。
【0032】
上記無機粉末の含有量は、半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜3質量部であることが好ましい。無機粉末の含有量が少なすぎると、焼成時の析出結晶量が少なく、所望の熱膨張係数を達成することが困難となる傾向がある。一方、無機粉末の含有量が多すぎると、焼成時の析出結晶量が多くなりすぎて流動性が損なわれ、半導体素子表面の被覆が困難となる傾向がある。
【0033】
なお、上記無機粉末の粒子径が小さいほど、析出結晶の粒子径が小さくなり機械的強度が大きくなる傾向がある。したがって、無機粉末の平均粒子径D50は5μm以下、特に3μm以下であることが好ましい。無機粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0034】
本発明の半導体素子被覆用ガラス(または半導体素子被覆用材料)の熱膨張係数(30〜300℃)は、半導体素子の熱膨張係数に応じて、例えば20×10−7〜60×10−7/℃、30×10−7〜50×10−7/℃、30×10−7〜45×10−7/℃、さらには31×10−7〜40×10−7/℃の範囲で適宜調整される。
【0035】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、例えば、各酸化物成分の原料粉末を調合してバッチとし、1500℃程度で約1時間溶融してガラス化した後、成形し、その後、必要に応じて粉砕、分級することによって得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
表1は本発明の実施例1〜4および比較例1、2を示している。
【0038】
【表1】
【0039】
各試料は以下のようにして作製した。まず表中のガラス組成となるように原料粉末を調合してバッチとし、1500℃で1時間溶融してガラス化した。続いて、溶融ガラスをフィルム状に成形した後、ボールミルにて粉砕し、350メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径D50が12μmのガラス粉末を得た。その後、得られたガラス粉末に対し、表に記載の無機粉末を添加して半導体素子被覆用材料を得た。なお、無機粉末の添加量は、ガラス粉末100質量部に対する量で示した。得られた半導体素子被覆用材料について、熱膨張係数を熱膨張測定装置(ディラトメーター)を用いて30〜300℃の温度範囲にて測定した。結果を表1に示す。
【0040】
半導体素子被覆用材料を有機溶媒中に分散し、電気泳動によって3インチシリコンウェハ表面に付着させ、700〜800℃で焼成することにより、膜厚15μmの焼結層を形成した。焼結層形成後のシリコンウェハには若干の反りが確認された。反りの大きさを以下のようにして評価した。
【0041】
焼結層形成後のシリコンウェハを、平板上に凸面が下側になるように載置した。シリコンウェハのオリフラ部を平板上に押さえつけた際、オリフラ部と反対側の端部と平板との距離を測定し、反りの大きさとして評価した。
【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜4の半導体素子被覆用材料は、熱膨張係数が32×10−7〜36×10−7/℃と低く、かつ反りが250μm以下と小さかった。一方、比較例1、2の半導体素子被覆用材料は、シリコンウェハの反りが500μm以上と大きかった。