(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、CSP等の用途の場合、ガラス基板とSiチップが直接貼り付けられる。しかし、ガラス基板とSiの線熱膨張係数(CTE)が不整合であると、両者の線熱膨張係数差によって、ガラス基板に反りが発生してしまう。特に、ガラス基板の板厚が小さい程、ガラス基板に反りが発生し易くなる。
【0007】
しかし、Siの線熱膨張係数に整合するように、ガラス基板の線熱膨張係を低下させると、ガラス基板の表面欠陥が発生し易くなる。すなわち、ガラス基板の線熱膨張係を低下させるためにガラス組成を設計すると、溶融ガラスの高温粘性が高くなり、また成形性が低下するため、発泡、失透ブツ等の表面欠陥が発生し易くなる。
【0008】
また、CSP等のイメージセンサーは、約2mm程度のSiチップの中に数百万画素分の情報が盛り込まれるため、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の画素とは比較にならない程、極微小な欠点が問題となり得る。更に、イメージセンサーとガラス基板を貼り合わせる工程は、略最終工程であるため、ガラス基板の欠点によりデバイスの歩留まりが低下すると、デバイスの生産性が著しく低下してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、Siに整合する線熱膨張係数を有し、且つ溶融性と成形性が良好なガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス組成範囲と線熱膨張係数を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO
2 65〜70%、Al
2O
3 10〜13%、B
2O
3 5〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 10〜13%、P
2O
5 0〜3%を含有し、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/Al
2O
3が0.9〜1.3であり、モル比CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)が0.4〜0.8であり、且つ30〜260℃における線熱膨張係数をCTE
30−260℃、30〜380℃における線熱膨張係数をCTE
30−380℃とした時に、32×10
−7/℃≦CTE
30−260℃≦34×10
−7/℃、33×10
−7/℃≦CTE
30−380℃≦35×10
−7/℃、0.95≦CTE
30−380℃/CTE
30−260℃≦1.05の条件を満たすことを特徴とする。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO」は、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量を指す。「(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/Al
2O
3」は、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量をAl
2O
3の含有量で割った値を指す。「CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)」は、CaOの含有量をMgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量で割った値を指す。「30〜260℃における線熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した値を指し、30〜260℃の温度範囲における平均値を指す。「30〜380℃における線熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した値を指し、30〜380℃の温度範囲における平均値を指す。「CTE
30−380℃/CTE
30−260℃」は、30〜380℃における線熱膨張係数を30〜260℃における線熱膨張係数で割った値を指す。
【0011】
第二に、本発明のガラスは、ガラス組成中のLi
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が0.5モル%以下であることが好ましい。ここで、「Li
2O+Na
2O+K
2O」は、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの合量を指す。
【0012】
第三に、本発明のガラスは、ヤング率が70GPa以上であることが好ましい。ここで、「ヤング率」は、周知の共振法で測定可能である。
【0013】
第四に、本発明のガラスは、比ヤング率が30GPa/(g/cm
3)以上であることが好ましい。ここで、「比ヤング率」は、ヤング率を密度で割った値を指す。「密度」は、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。
【0014】
第五に、本発明のガラスは、オーバーフローダウンドロー法又はスロットダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、ガラス基板の表面品位を高めることができる。
【0015】
第六に、本発明のガラスは、平板形状であることが好ましい。
【0016】
第七に、本発明のガラスは、チップサイズパッケージに用いることが好ましい。
【0017】
第八に、本発明のガラスは、有機ELディスプレイに用いることが好ましい。本発明のガラスは、耐熱性に優れるため、p−Si・TFTの製造工程等で熱収縮し難く、本用途にも好適である。
【0018】
第九に、本発明のガラスは、ディスプレイデバイスのカバーガラスに用いることが好ましい。
【0019】
第十に、本発明の積層体は、Siチップがガラス基板上に貼り付けられた積層体であって、ガラス基板が、上記のガラスからなることが好ましい。なお、Siチップとガラス基板は、公知の接着剤を用いて、貼り付けることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のガラスにおいて、ガラス組成中の各成分の含有量を上記のように限定した理由を以下に示す。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
【0021】
SiO
2の含有量は65〜70%であり、好ましくは66〜70%、より好ましくは67〜69.5%、更に好ましくは68〜69%である。SiO
2の含有量が少ないと、ガラスの低密度化を図り難くなる。一方、SiO
2の含有量が多いと、高温粘度が高くなって、溶融性が低下することに加えて、ガラス中に失透結晶(クリストバライト)等の欠陥が生じ易くなる。
【0022】
Al
2O
3の含有量が少ないと、耐熱性を高め難くなったり、高温粘性が高くなって、溶融性が低下し易くなる。またヤング率が低下し易くなる。よって、Al
2O
3の下限範囲は10%以上であり、好ましくは10.5%以上、より好ましくは10.7%以上、特に好ましくは11%以上である。一方、Al
2O
3の含有量が多いと、液相温度が高くなり、耐失透性が低下し易くなる。よって、Al
2O
3の上限範囲は13%以下であり、好ましくは12.7%以下、特に好ましくは12.5%以下である。
【0023】
B
2O
3は、融剤として働き、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であり、その含有量は5〜10%である。B
2O
3の含有量が少ないと、融剤としての働きが不十分になって、高温粘性が高くなる。またガラスの低密度化を図り難くなる。B
2O
3の好適な下限範囲は5.5%以上、6%以上、6.5%以上、特に7%以上である。一方、B
2O
3の含有量が多いと、耐熱性やヤング率が低下し易くなる。B
2O
3の好適な上限範囲は9%以下、特に8%以下である。
【0024】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOは、液相温度を下げて、ガラス中に結晶異物を発生させ難くする成分であり、また溶融性や成形性を高める成分である。MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量は10〜13%であり、好ましくは10.5〜12.5%、より好ましくは11〜12.5%、特に好ましくは11.5〜12.5%である。MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量が少ないと、融剤としての働きを十分に発揮できず、溶融性が低下することに加えて、線熱膨張係数が低くなり過ぎて、Siの線熱膨張係数に整合し難くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量が多いと、密度が上昇し、ガラスの軽量化を図り難くなり、また比ヤング率が低下し易くなり、更に線熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、MgOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜7%、特に好ましくは0.5〜4%である。CaOの含有量は、好ましくは0〜12%、より好ましくは4〜10%、特に好ましくは5〜9%である。SrOの含有量は、好ましくは0〜6%、より好ましくは0.1〜4%、特に好ましくは1超〜3%である。BaOの含有量は、好ましくは0〜6%、より好ましくは0.1〜4%、特に好ましくは1超〜3%である。ZnOの含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%、特に好ましくは0〜0.2%である。
【0025】
モル比(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/Al
2O
3とモル比CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)は、CTE
30−380℃/CTE
30−260℃、CTE
30−260℃及びCTE
30−380℃を所望の範囲に規制するために重要な成分比率である。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/Al
2O
3は0.9〜1.3であり、好ましくは0.95〜1.2、より好ましくは1.00超〜1.15、特に好ましくは1.02〜1.12である。モル比CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)は0.4〜0.8であり、好ましくは0.44〜0.76、より好ましくは0.6〜0.75、特に好ましくは0.65〜0.73である。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)/Al
2O
3とモル比CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)が上記範囲外になると、CTE
30−380℃/CTE
30−260℃、CTE
30−260℃及びCTE
30−380℃を所望の範囲に規制し難くなる。
【0026】
P
2O
5は、耐失透性を高める成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラス中に分相、乳白が生じることに加えて、耐水性が顕著に低下する。よって、P
2O
5の含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%、特に好ましくは0.1〜0.9%である。
【0027】
SnO
2は、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、高温粘性を低下させる成分である。SnO
2の含有量は、好ましくは0〜1%、より好ましくは0.001〜1%、更に好ましくは0.01〜0.5%、特に好ましくは0.05〜0.2%である。SnO
2の含有量が多いと、SnO
2の失透結晶がガラス中に析出し易くなる。なお、SnO
2の含有量が0.001%より少ないと、上記の効果を享受し難くなる。
【0028】
ZrO
2は、ヤング率を高める成分である。ZrO
2の含有量は、好ましくは10〜2000ppm(質量)、より好ましくは20〜1000ppm(質量)、特に好ましくは50〜500ppm(質量)である。ZrO
2の含有量が多いと、液相温度が上昇し、ジルコンの失透結晶が析出し易くなる。
【0029】
TiO
2は、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラスが着色し、透過率が低下し易くなる。よって、TiO
2の含有量は、好ましくは10〜2000ppm(質量)、より好ましくは30〜1000ppm(質量)、特に好ましくは50〜300ppm(質量)である。
【0030】
Li
2O、Na
2O及びK
2Oは、熱処理工程で半導体膜を劣化させる成分である。Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量は、好ましくは0〜1%、より好ましくは0〜0.5%、特に好ましくは0.01〜0.2%である。Li
2Oの含有量は、好ましくは0〜100ppm(質量)、より好ましくは1〜50ppm(質量)、特に好ましくは5〜20ppm(質量)である。Na
2Oの含有量は、好ましくは10〜500ppm(質量)、より好ましくは50〜300ppm(質量)、特に好ましくは100〜200ppm(質量)である。K
2Oの含有量は、好ましくは0〜100ppm(質量)、より好ましくは5〜50ppm(質量)、特に好ましくは10〜30ppm(質量)である。なお、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの含有量を過少にする場合は、高純度原料を使用しなければならず、原料コストが高騰し易くなる。
【0031】
Fe
2O
3は、ガラスを着色させる成分である。Fe
2O
3の含有量は、好ましくは10〜500ppm(質量)、より好ましくは30〜200ppm(質量)、特に好ましくは50〜100ppm(質量)である。なお、Fe
2O
3の含有量を過少にする場合は、高純度原料を使用しなければならず、原料コストが高騰し易くなる。
【0032】
Cr
2O
3は、ガラスを着色させる成分である。Cr
2O
3の含有量は、好ましくは0〜5ppm(質量)、より好ましくは0.01〜2ppm(質量)、特に好ましくは0.05〜3ppm(質量)である。なお、Cr
2O
3の含有量を過少にする場合は、高純度原料を使用しなければならず、原料コストが高騰し易くなる。
【0033】
Rh
2O
3は、Rhブツを発生させる成分である。Rh
2O
3の含有量は、好ましくは0〜5ppm(質量)、より好ましくは0.01〜2ppm(質量)、特に好ましくは0.05〜3ppm(質量)である。なお、Rh
2O
3の含有量を過少にする場合、清澄容器、供給容器等にPt−Rh製容器を使用し難くなるが、この場合、清澄容器、供給容器等の強度を確保し難くなる。
【0034】
SO
3は、リボイル泡を発生させる成分である。SO
3の含有量は、好ましくは0〜100ppm(質量)、より好ましくは0.1〜10ppm(質量)、特に好ましくは0.5〜5ppm(質量)である。なお、SO
3の含有量を過少にする場合は、高純度原料を使用しなければならず、原料コストが高騰し易くなる。
【0035】
本発明のガラスは、上記の通り、清澄剤としてSnO
2の添加が好適であるが、ガラス特性が損なわれない限り、SnO
2に代えて、或いはSnO
2と併用して、CeO
2、C、金属粉末(例えばAl、Si等)を1%まで添加することができる。
【0036】
As
2O
3、Sb
2O
3も清澄剤として有効に作用し、本発明のガラスは、これらの成分の含有を完全に排除するものではないが、環境的観点から、これらの成分の含有量はそれぞれ0.1%未満、特に0.05%未満が好ましい。また、F、Cl等のハロゲンは、溶融温度を低温化すると共に、清澄剤の作用を促進させる効果があり、結果として、ガラスの溶融コストを低廉化しつつ、ガラス製造窯の長寿命化を図ることができる。しかし、F、Clの含有量が多過ぎると、CSP等の用途において、ガラス基板上に形成される金属の配線パターンを腐食させる場合がある。よって、F、Clの含有量は、それぞれ1%以下、0.5%以下、0.1%未満、0.05%未満、特に0.01%以下が好ましい。
【0037】
本発明のガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0038】
密度は2.50g/cm
3未満、2.49g/cm
3未満、特に2.48g/cm
3未満が好ましい。密度が高くなると、ガラスの軽量化を図り難くなり、またガラス基板が自重で撓み易くなる。
【0039】
CTE
30−260℃は32×10
−7〜34×10
−7/℃であり、好ましくは32.5×10
−7〜33.5×10
−7/℃である。CTE
30−260℃が上記の範囲外となると、ガラス基板とSiチップを貼り合わる際に、ガラス基板の反り量が大きくなり易い。特に、ガラス基板の板厚が小さい程、ガラス基板の反り量が大きくなり易い。
【0040】
CTE
30−380℃は33×10
−7〜35×10
−7/℃であり、好ましくは33.5×10
−7〜34.5×10
−7/℃である。CTE
30−380℃が上記の範囲外となると、ガラス基板とSiチップを貼り合わる際に、ガラス基板の反り量が大きくなり易い。特に、ガラス基板の板厚が小さい程、ガラス基板の反り量が大きくなり易い。
【0041】
CTE
30−380℃/CTE
30−260℃は0.95〜1.05であり、好ましくは1.001〜1.050、より好ましくは1.020〜1.045、特に好ましくは1.025〜1.040である。CTE
30−380℃/CTE
30−260℃が上記の範囲外となると、ガラス基板とSiチップを貼り合わる際に、ガラス基板の反り量が大きくなり易い。特に、ガラス基板の板厚が小さい程、ガラス基板の反り量が大きくなり易い。
【0042】
ヤング率は、好ましくは70GPa以上、より好ましくは73GPa以上、特に好ましくは75GPa以上である。また比ヤング率は、好ましくは30GPa/(g/cm
3)以上、特に好ましくは31GPa/(g/cm
3)以上である。ヤング率や比ヤング率が低いと、Siチップをガラス基板上に貼り付けた後に、得られる積層体の剛性が低下し易くなる。またガラス基板上に接着剤をスピンコートする場合に、ガラス基板が位置ズレし易くなる。
【0043】
歪点は600℃以上、620℃以上、630℃以上、640℃以上、650℃以上、特に660℃以上が好ましい。歪点が低いと、ガラス基板とSiチップを樹脂で貼り合せる際に、ガラス品位が損なわれる虞がある。また熱処理工程でガラスが熱収縮し易くなる。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0044】
高温溶融は、ガラス溶融窯の負担を増加させる。例えば、ガラス溶融窯に使用されるアルミナやジルコニア等の耐火物は、高温になる程、溶融ガラスに激しく浸食される。この耐火物の浸食量が多くなると、ガラス溶融窯のライフサイクルが短くなり、結果として、ガラスの製造コストが高騰する。また、高温溶融を行う場合、ガラス溶融窯の構成部材に高耐熱性の構成部材を使用する必要があるため、ガラス溶融窯の構成部材が割高になり、結果として、ガラスの溶融コストが高騰する。更に、高温溶融は、ガラス溶融窯の内部を高温に保持する必要があるため、低温溶融に比べて、ランニングコストが高騰する。そこで、高温粘性10
2.5dPa・sにおける温度は1650℃以下、1640℃以下、1630℃以下、1620℃以下、特に1610℃以下が好ましい。高温粘性10
2.5dPa・sにおける温度が高過ぎると、低温溶融が困難になるため、ガラスの製造コストが高騰し易くなる。また泡品位が低下し易くなる。ここで、「高温粘性10
2.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0045】
液相粘度は10
4.5dPa・s以上、10
4.7dPa・s以上、10
4.9dPa・s以上、10
5.0dPa・s以上、特に10
5.2dPa・s以上が好ましい。このようにすれば、成形時に失透結晶が発生し難くなるため、オーバーフローダウンドロー法等でガラス基板を成形し易くなる、なお、液相粘度は、成形性の指標であり、液相粘度が高い程、成形性に優れる。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を指す。
【0046】
β−OH値を低下させると、ガラス組成を変えなくても、歪点と泡品位を高めることができる。β−OH値は、好ましくは0.40/mm未満、0.35/mm以下、0.3/mm以下、0.25/mm以下、0.2/mm以下、特に0.15/mm以下である。β−OH値が大き過ぎると、歪点や泡品位が低下し易くなる。なお、β−OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β−OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.05/mm以上である。なお、「β−OH値」は、FT−IRを用いて透過率を測定し、下記数式1により算出した値を指す。
【0048】
β−OH値を低下させる方法として、以下の方法がある。(1)低水分量の原料を選択する。(2)ガラスバッチ中にCl、SO
3等の乾燥剤を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でN
2バブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を多くする。(7)加熱電極による通電加熱を行う。
【0049】
その中でも、β−OH値を低下させるために、調合したガラスバッチをバーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことにより溶融する方法が有効である。
【0050】
本発明のガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続式ガラス溶融窯に投入し、このガラス原料を加熱溶融し、得られた溶融ガラスを清澄した後、成形装置に供給した上で平板形状等に成形することにより作製することができる。
【0051】
本発明のガラスは、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を得ることができる。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を成形する方法である。オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるため、ガラス基板の表面品位を高めることができる。本発明のガラスは、耐失透性に優れるため、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を効率良く成形することができる。
【0052】
本発明のガラスは、オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、スロットダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法等の成形方法を採用することができる。なお、スロットダウンドロー法であれば、薄いガラス基板を効率良く成形することができる。
【0053】
本発明のガラスは、平板形状を有すること、つまりガラス基板であることが好ましい。このようにすれば、CSP、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットディスプレイ用ガラス基板、CCD、CIS等のイメージセンサー用ガラス基板に適用することができる。また、ガラス基板の板厚は0.7mm以下、0.6mm以下、0.5mm以下、特に0.4mm以下が好ましい。板厚が小さい程、ガラス基板を軽量化することができ、結果として、デバイスも軽量化し易くなる。なお、本発明のガラスは、液相粘度が高いため、オーバーフローダウンドロー法等により大型化、薄型化を図り易く、表面品位を高め易い。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。但し、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0055】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜8)及び比較例(試料No.9)を示している。なお、表中のROは、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOを表している。
【0056】
【表1】
【0057】
次のようにして、試料No.1〜9を作製した。まず表中のガラス組成になるように調合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1600℃で24時間溶融した後、カーボン板上に流し出して平形板状に成形した。次に、得られた各試料について、密度、30〜380℃における線熱膨張係数CTE
30−380℃、30〜260℃における線熱膨張係数CTE
30−260℃、CTE
30−380℃/CTE
30−260℃、ヤング率、比ヤング率、歪点、高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度及びβ−OH値を評価した。
【0058】
密度は、周知のアルキメデス法で測定した値である。
【0059】
30〜260℃における線熱膨張係数CTE
30−260℃と30〜380℃における線熱膨張係数CTE
30−380℃は、表記の温度範囲において、ディラトメーターで測定した平均値である。
【0060】
歪点Psは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0061】
ヤング率は、共振法で測定した値である。
【0062】
高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0063】
β−OH値は、上記方法で測定した値である。
【0064】
表1から明らかなように、試料No.1〜8は、密度が2.39〜2.48g/cm
3、30〜260℃における線熱膨張係数CTE
30−260℃が32.2×10
−7〜33.9×10
−7/℃、30〜380℃における線熱膨張係数CTE
30−380℃が33.4×10
−7〜35.2×10
−7/℃、CTE
30−380℃/CTE
30−260℃が1.03〜1.04、ヤング率が72〜77GPa、比ヤング率が30〜31GPa/(g/cm
3)、歪点が663〜705℃、高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度が1567〜1602℃、β−OH値が0.15〜0.30/mmであった。
【0065】
一方、試料No.9は、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量が多いため、30〜260℃における線熱膨張係数CTE
30−260℃が37.6×10
−7/℃、30〜380℃における線熱膨張係数CTE
30−380℃が38.8×10
−7/℃であった。