特許第6852992号(P6852992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6852992セラミックマトリックス複合材物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852992
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】セラミックマトリックス複合材物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/573 20060101AFI20210322BHJP
   C04B 35/532 20060101ALI20210322BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C04B35/573
   C04B35/532
   C04B41/88 V
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-138454(P2016-138454)
(22)【出願日】2016年7月13日
(65)【公開番号】特開2017-24978(P2017-24978A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2019年6月13日
(31)【優先権主張番号】14/798,019
(32)【優先日】2015年7月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515266430
【氏名又は名称】ロールス−ロイス ハイ テンプレチャー コンポジッツ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン アイザイア ハリス
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−254541(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/026088(WO,A1)
【文献】 特開2007−039319(JP,A)
【文献】 特開平04−358031(JP,A)
【文献】 特開2011−173784(JP,A)
【文献】 特表2015−508382(JP,A)
【文献】 米国特許第06024898(US,A)
【文献】 特表2004−510674(JP,A)
【文献】 特開2016−069272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C04B 41/00−41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む方法:
無機繊維多孔質プレフォームに、セラミック粒子、溶媒及びプレゲル化剤材料を含む第1スラリー組成物を含浸させる工程;
前記第1スラリー組成物中の前記プレゲル化剤材料のゲル化を開始して、前記粒子を実質的に固定化し、ゲル化物品を得る工程;
前記ゲル化物品を加熱して、ゲルを実質的に除去し、細孔を開く工程;
前記ゲル化物品に、高チャー収率成分及び溶媒を含む第2溶液を含浸させる工程;
前記高チャー収率成分を熱分解して炭素を得て、加工前複合材物品を形成する工程;及び
前記加工前複合材物品に溶融金属又は合金を浸透させて、最終複合材物品を形成する工程であって、前記溶融金属又は合金の少なくとも一部は、炭素と反応して、金属炭化物を形成する、工程。
【請求項2】
前記高チャー収率成分が、フルフリルアルコール及びフェノール系材料の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2溶液が、ポリマー遮断剤、酸触媒、及び2次ポリマーの少なくとも1つをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゲル化物品に前記第2溶液を含浸させる工程の後に、前記第2溶液を含む前記ゲル化物品を加熱して、前記高チャー収率成分を重合する工程をさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記無機繊維多孔質プレフォームが、酸化アルミニウム(Al23)、ムライト(Al6Si213)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、炭素(C)、グラファイト、炭化ケイ素(SiC)、炭窒化ケイ素、及び窒化ケイ素の少なくとも1つを含む繊維を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1スラリー組成物中の前記セラミック粒子が、窒化アルミニウム、二ホウ化アルミニウム、炭化ホウ素、酸化アルミニウム、ムライト、酸化ジルコニウム、炭素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、遷移金属窒化物、遷移金属ホウ化物、遷移金属酸化物、遷移金属ケイ酸塩、及び希土類酸化物の少なくとも1つを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記無機繊維多孔質プレフォームは、炭化ケイ素繊維多孔質プレフォームを含み;
前記セラミック粒子は、炭化ケイ素粒子を含み;
前記高チャー収率成分は、フルフリルアルコールを含み;
前記溶融金属又は合金は、ケイ素を含み;かつ
前記ケイ素の少なくとも一部は前記炭素と反応して炭化ケイ素を形成する;
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
強化セラミックマトリックス複合材物品(CMS)は、その靭性、耐熱性、高温強度、及び化学的安定性のために、高温構造用途に極めて適している。CMC物品を製造するために、繊維がまず成形されて多孔質プレフォームが作製され、多孔質プレフォームはセラミック相を用いて剛性化され、その空隙は、溶融合金溶浸材により結合されたセラミックスラリーで充填される。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭化ケイ素(SiC)マトリックス複合材は、多孔質の繊維プレフォームに、炭化ケイ素スラリーを浸透させて、加工前複合材物品を形成することにより形成された。次に、毛管力を用いてケイ素(Si)を含む溶融合金溶浸材を加工前複合材物品に導入して、構造を約5%未満の空隙率に緻密化し、CMC物品を形成することができる。
【発明の概要】
【0003】
いくつかの例において、本開示は、無機繊維多孔質プレフォームに第1のスラリー組成物を含浸させることを含む。第1スラリー組成物は、セラミック粒子、溶媒、及びプレゲル化剤材料を含むことができる。この方法はさらに、第1スラリー組成物中のプレゲル化剤材料のゲル化を開始して、粒子を実質的に固定化し、ゲル化した物品を得ることを含むことができる。いくつかの例において、この方法は、ゲル化物品に第2溶液(第2溶液は高チャー収率成分を含む)を含浸させ、高チャー収率成分を熱分解して炭素を得て、加工前複合材物品を形成することも含む。この方法はさらに、加工前複合材物品に溶融金属合金を浸透させて、最終複合材物品を形成する方法を含むことができる。溶融金属又は合金の少なくとも一部は、炭素と反応して、金属炭化物を形成することができる。
【0004】
いくつかの例において、本開示は、炭化ケイ素繊維の多孔質プレフォームに第1スラリー組成物を含浸させることを含む方法を記載する。第1スラリー組成物は、炭化ケイ素粒子、溶媒、及びプレゲル化剤材料を含むことができる。また、この方法は、第1スラリー組成物中のプレゲル化剤材料のゲル化を開始して、炭化ケイ素粒子を実質的に固定化し、ゲル化した物品を得ることを含むことができる。これらの例によれば、この方法はさらに、ゲル化物品に第2溶液(第2溶液はフルフリルアルコールを含む)を含浸させ、フルフリルアルコールを熱分解して炭素を得て、加工前複合材物品を形成することを含む。さらに、この方法は、加工前複合材物品に、ケイ素を含む溶融材料溶浸材を浸透させて、最終複合材物品を形成する方法を含むことができる。ケイ素の少なくとも一部は、炭素と反応して、炭化ケイ素を形成することができる。
【0005】
1つ以上の例の詳細は、添付図面と以下の説明で示される。他の特徴、目的、及び利点は、本明細書及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1スラリー組成物の浸透と第2溶液の浸透とを使用して複合材物品を形成するための方法例を示す流れ図である。
【0007】
図2】高チャー収率成分を含む溶液の2次浸透無しで形成される、比較例SiC−SiC複合体の断面顕微鏡写真である。
【0008】
図3】高チャー収率成分を含む溶液の2次浸透有りで形成される、実施例SiC−SiC複合体の断面顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、複合材物品を形成するための方法を記載する。本開示の例によれば、この方法は、無機繊維多孔質プレフォームに、セラミック粒子を含む第1スラリー組成物を浸透させることを含み得る。第1の浸透の完了後、本方法は、無機繊維多孔質プレフォームに、高チャー収率成分を含む第2溶液を浸透させることを含み得る。高チャー収率成分は、熱分解されると、炭素を生成することができ、これは無機繊維多孔質プレフォームの細孔にとどまる。第2の浸透工程の完了後、高チャー収率成分は熱分解されて炭素を生成し、無機繊維多孔質プレフォームは、金属又は合金による溶融浸透を受けることができる。溶融金属又は合金は、高チャー収率成分からの炭素と反応して、金属炭化物を生成することができる。炭素が占める体積、炭素と溶融金属との反応、又はこれらの両方のために、最終複合材物品中の残存金属の量は、第2溶液による第2の浸透無しで形成された最終複合材物品と比較して、減少している。最終複合材物品中の残存金属の量を減少させることは、最終複合材物品の機械的特性の改良、最終複合材物品の表面仕上げの改良、及び最終複合材物品中の残存応力の減少の少なくとも1つになり得る。
【0010】
高チャー収率成分を粒子とは別の溶液中の無機繊維多孔質プレフォーム中に浸透させることは、第1スラリー組成物と第2溶液を別々に調製することを可能にし得る。例えば、第1スラリー組成物中に高チャー収率成分が含まれているとすると、第1スラリー組成物中の所望の粒子充填を達成することが困難となる可能性があり、これにより、無機多孔質プレフォーム中で堆積される粒子が少なくなることがある。別の例として、粒子充填を容易にするために第1スラリー組成物中で使用し得る分散剤などのいくつかの添加剤は、高チャー収率成分とともに使用するのに適していないことがある。従って、粒子を含有する第1スラリー組成物と、高チャー収率成分を含有する第2溶液とを分離することは、無機繊維多孔質プレフォームへの、粒子と高チャー収率成分の両方の所望の充填を可能にし、最終的に、高チャー収率成分を使用せずに形成されたか、又は単一のスラリー中に粒子と高チャー収率成分とを含めて浸透工程で形成された複合材物品と比較して、最終複合材物品中の残存金属の量が減少するであろう。
【0011】
図1は、第1スラリー組成物の浸透と第2溶液の浸透を使用して複合材物品を形成するための方法例を示す流れ図である。図1の方法は、セラミックマトリックスの事後的な浸透のための構造足場を形成する2次元又は3次元の無機繊維プレフォームの作製(12)を含むことができる。無機繊維プレフォームを製造するために、短繊維、長繊維、織物、又はこれらの組み合わせが、広げられ、固定され、所望の成分の形状に成形される。いくつかの例において、無機繊維又は無機繊維前駆体を、所望の成分の形状に3次元で織るか、若しくは2次元で織ってよく、又は複数の不織プライを積層し、そして任意選択的に所望の成分の形状に縫ってもよい。
【0012】
無機繊維プレフォーム中の繊維は、約1000℃を超える処理温度で安定であり、かつ溶融合金溶浸材の温度に適合する任意の無機材料から、作製されることができる。無機繊維の例には、特に限定されないが、酸化アルミニウム(Al23)、ムライト(Al6Si213)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、炭素(C)、グラファイト、炭化ケイ素(SiC)、炭窒化ケイ素、窒化ケイ素、及びこれらの混合物と組合せが挙げられる。適切な市販の無機繊維としては、例えば、COIセラミック社(COI Ceramics, Inc., San Diego, CA)の商品名「HI-NICALON」及び「SYLRAMIC」として入手できるようなプレセラミックSiC繊維がある。
【0013】
いくつかの例において、無機繊維プレフォームを作製した後、プレフォーム中の無機繊維は、無機繊維に単数又は複数の塗膜を適用すること(14)により処理することができる。塗膜は、例えば、無機繊維と続いて形成されたマトリックスとの界面に柔軟層を提供することができる。柔軟層は、最終複合材物品の靭性と亀裂偏向とを増強するか、強化用繊維と溶融合金溶浸材との反応を低減若しくは実質的に防止するか、又はその両方を行うことができる。塗膜の例としては、特に限定されないが、炭素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、金属ホウ化物、遷移金属ケイ化物、遷移金属酸化物、遷移金属ケイ酸塩、希土類金属ケイ酸塩、及びこれらの混合物と組み合わせが挙げられる。いくつかの例において、塗膜は、使用される場合に、約0.05μm〜15μm、又は約0.1μm〜約5μmの厚さを有する。いくつかの例において、塗膜は、化学蒸着/化学気相浸透(CVD/CVI)を用いて、無機繊維に適用されることができる。
【0014】
無機繊維多孔質プレフォームが成形(12)され、任意選択的に剛性化(14)されると、図1の方法は、第1スラリー組成物を無機繊維多孔質プレフォームに浸透させること(16)を含む。第1スラリー組成物が、多孔質プレフォームの無機繊維の隙間に流入すると、第1スラリー組成物中の粒子は、実質的に均一に(例えば、均一又はほぼ均一に)多孔質プレフォームの細孔に含浸することができ、プレフォーム無機繊維の隙間に存在するようになる。
【0015】
いくつかの例において、第1スラリー組成物は、粒子、プレゲル化剤材料、任意のゲル化開始剤又は促進剤、任意の添加剤、及び溶媒を含む。スラリー中の粒子は、窒化アルミニウム、二ホウ化アルミニウム、炭化ホウ素、酸化アルミニウム、ムライト、酸化ジルコニウム、炭素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、遷移金属窒化物、遷移金属ホウ化物、遷移金属酸化物、遷移金属ケイ酸塩、又は希土類酸化物のうちの少なくとも1つ、などのセラミックを含むことができる。粒子のサイズは広範囲に変化し得る。いくつかの例において、粒子は、約50μm未満の主要な寸法を規定し得る。いくつかの例において、粒子は、例えば、球、ロッド、円盤などを含む、規則的又は不規則な形状の1つ以上を含むことができる。いくつかの例において、粒子の主要な寸法は、単峰性、二峰性、又は多峰性分布を形成することができる。いくつかの例において、粒子は、約50μm未満の直径を定義する球を含み、そして粒子の直径は、多峰性分布を形成して、多孔質プレフォームの無機繊維間を効果的に流れて、多孔質プレフォームの細孔を密に充填する。
【0016】
第1スラリー組成物はまた、プレゲル化剤材料を含むことができる。プレゲル化剤材料は、多孔質プレフォームの無機繊維の隙間にゲル様ネットワークを形成し、次に多孔質プレフォームが処理される時、粒子を多孔質プレフォーム内に実質的に均一に(例えば、均一に又はほぼ均一に)分配し、かつ効果的に保持することができるように処理されることができる任意の材料を含むことができる。本願において、用語「ゲル」は、粒子の分散相を含む粘性のゼリー状のコロイドを指す。
【0017】
いくつかの例においてプレゲル化剤材料は、多糖類、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、アガロース、及びカラゲーナンの少なくとも1つを含む。いくつかの例においてスラリー組成物は、任意選択的に、1価又は2価の塩などのゲル化開始剤又は促進剤を含むことができる。
【0018】
いくつかの例においてプレゲル化剤材料は、1つ以上のゲル化モノマーを含み、これらは、重合されると多孔質プレフォームの細孔内にゲルを形成する。モノマー性プレゲル化材料は、特に限定されないが、アクリルアミド、アクリレート、ビニル、及びアリルの少なくとも1つを含む。ゲル化モノマーは、任意選択的に、1つ、2つ、又はそれ以上の官能基、例えば(メタ)アクリル、アクリルアミド、ビニル、アリルなどを含むことができる。
【0019】
いくつかの例において第1スラリー組成物は、プレゲル化剤材料のゲル化を支援する任意の重合開始剤を含むことができる。重合開始剤は、選択されたモノマー性プレゲル化剤材料に応じて広範囲に変化することができ、いくつかの例において、過酸化物、過硫酸塩、過塩素酸塩、アミン、及びアゾ化合物の少なくとも1つを含むことができる。
【0020】
いくつかの例において、モノマー性プレゲル化剤材料は、重合して線状ポリマー鎖を生成する少なくとも1つの第1モノマー材料、及び、重合して線状ポリマー鎖間に架橋結合を生成し、さらにゲル化を支援する少なくとも1つの第2のモノマー材料を含むことができる。例えば、第1モノマー材料は、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA、これは線状ポリアクリルアミド鎖を生成する)を含み、第2のモノマー材料は、線状鎖を架橋するN,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAM)を含むことができる。
【0021】
モノマー性プレゲル化剤材料を構成する第1及び第2のモノマー材料は、第1スラリー組成物中に任意の適切な比率で存在することができ、この比率を選択する時の考慮事項としては、選択されたスラリー溶媒中の溶解性、ゲル化温度、スラリーの所望の粘度、得られるゲル化スラリーの稠度と粘度、ゲル化時間などが挙げられる。いくつかの例において、第1モノマー材料DMAAと第2モノマー材料MBAMは、約1:1〜約1:30の重量比で第1スラリー組成物中に存在することができる。
【0022】
第1スラリー組成物が上述の第1モノマーDMAAと第2のモノマーMBAMを含むいくつかの例において、重合開始剤は、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]2HCl(AZIP)を含む。重合開始剤の他の例としては、過硫酸アンモニウム/テトラメチルエチレンジアミン(APS−TEMED)及びアゾビス(2−アミジノプロパン)HCl(AZAP)、及びこれらの混合物と組み合わせなどのフリーラジカル開始剤が挙げられる。
【0023】
また、第1スラリー組成物は、モノマー性プレゲル化剤材料と任意の重合開始剤とを分散又は溶解し、粒子を懸濁するように選択された溶媒を含むことができる。いくつかの例において溶媒は、水性(多量の水を含む)であるか、又は水である。第1スラリー組成物で使用することができる他の溶媒としては、特に限定されないが、アルコールが挙げられる。
【0024】
いくつかの実施態様において、第1スラリー組成物は、任意選択的に約10重量%(wt%)未満の1つ以上の添加剤、例えば分散剤、結合剤、界面活性剤、pH調整剤などを含むことができる。
【0025】
いくつかの例において第1スラリー組成物は、約30重量%〜約90重量%の粒子、約0.5重量%〜約30重量%のプレゲル化剤材料、約0.1重量%〜約10重量%の重合開始剤、約0.25重量%〜20重量%の1つ以上の添加剤、及び約10重量%〜約70重量%の水を含むことができる。
【0026】
いくつかの例において、粒子はSiCを含み、第1スラリー組成物は約60重量%〜約80重量%のSiCの固形分を含む。いくつかの例において、SiC粒子は、直径約15μmの粗い球状粒子と直径約1μmの微細な球形粒子とを含む。
【0027】
第1スラリー組成物を作製するために、粒子、プレゲル化剤材料、溶媒、及び任意の重合開始剤又は他の添加剤を合わせ、任意選択的に粉砕して、粒子が分散され、適切な形とサイズを有し、無機繊維多孔質プレフォームの細孔内に有効に流れ、挿入され、とどまることを確実にする。pHや温度などのスラリーの特性は、任意選択的に、粉砕工程前、その間、又はその後に調整することができる。
【0028】
図1の方法は、第1スラリー組成物を無機繊維多孔質プレフォームに浸透させること(16)を含むことができる。無機繊維多孔質プレフォームに第1スラリー組成物を浸透させる(16)ために、無機繊維多孔質プレフォームは、第1スラリー組成物中に含浸させることができる。いくつかの例において、無機繊維多孔質プレフォームを第1スラリー組成物中に浸漬する前に、無機繊維多孔質プレフォームを、例えば水、溶媒、界面活性剤などの少なくとも1つを含む溶液に曝露して、無機繊維多孔質プレフォームへの第1スラリー組成物の含浸を助けることにより、無機繊維多孔質プレフォームは、スラリー浸透のために任意選択的に調製されることができる。
【0029】
いくつかの例において、無機繊維多孔質プレフォームへの第1スラリー組成物の浸透(16)を促進するために、無機繊維多孔質プレフォームは真空チャンバ内に配置され、任意選択的に真空にして、無機繊維多孔質プレフォームからガスをパージすることができる。いくつかの例において、無機繊維多孔質プレフォームが第1スラリー組成物に浸漬されると、例えば約1気圧の外部圧力を掛けて、無機繊維多孔質プレフォームの細孔内に第1スラリー組成物を押圧することができる。
【0030】
いくつかの例において、真空に引いて無機繊維多孔質プレフォームへの第1スラリー組成物の浸透(16)を容易にする代わりに、樹脂注入成形法(RTM)を使用して、第1スラリー組成物を無機繊維多孔質プレフォーム中に浸透させること(16)ができる。RTMでは、第1のスラリーは、真空下よりも圧力下で、無機繊維多孔質プレフォームを囲む金型内に圧送される。
【0031】
無機繊維多孔質プレフォームへの第1スラリー組成物の浸透(16)は、任意の適切な温度、例えば室温(約20℃〜約35℃)で行うことができる。
【0032】
いくつかの例において、第1スラリー組成物の浸透(16)後、浸透した無機繊維多孔質プレフォームは、任意選択的に加熱されて、プレゲル化剤材料が無機繊維の隙間で少なくとも部分的にゲルを形成する速度を、上昇させることができる(18)。ゲル形成を引き起こすように選択される温度は、スラリー組成物で使用するために選択されるプレゲル化剤材料と重合開始剤(もしあれば)に依存して、広く変化し得る。いくつかの例において、浸透した無機繊維多孔質プレフォームは、ゲルの形成(18)を容易にするために、約30℃〜約80℃、又は約35℃〜約45℃の温度に加熱してもよい。浸透した無機繊維多孔質プレフォームは、浸透した無機繊維多孔質プレフォームの体積全体にわたって充分なスラリーゲル化が起きて、以後の処理工程中に、浸透した無機繊維多孔質プレフォームの細孔内に粒子を実質的に維持(例えば、維持又はほぼ維持)することを確実にするのに十分な時間、加熱されることができる。いくつかの例において、浸透した無機繊維多孔質プレフォームは、前記温度で、約1時間〜約4時間、又は約2時間〜約3時間加熱してもよい。得られるゲル化物品は、被覆されたか又は被覆されていない無機繊維、粒子、及び無機繊維の間のゲルを含む。
【0033】
いくつかの例において、浸透した無機繊維多孔質プレフォーム中で第1スラリー組成物が十分に又は完全にゲル化した後、過剰のゲル化スラリーは、浸透した無機繊維多孔質プレフォームから任意選択的に除去することができる。この過剰なゲル化スラリーは、任意の適切な方法によりプレフォームから除去されることができ、その際にブラッシング又は研磨物品を用いる研磨のような機械的な表面処理技術を使用してよい。
【0034】
プレゲル化剤材料に少なくとも部分的にゲルを形成させるために、浸透した無機繊維多孔質プレフォームを任意に加熱(18)した後、ゲル化した物品を加熱して、多孔質プレフォーム中のゲルを除去し、かつ細孔を開くことができる(20)。例えば、ゲル化物品は、粒子を細孔中に残したまま、多孔質プレフォームの細孔中に存在するゲル及び他の成分(例えば、溶媒、重合開始剤、添加剤など)を、燃焼させるか、揮発させるか、又はその両方をするのに十分な温度まで加熱することができる。いくつかの例において、ゲル化物品は、約300℃〜約500℃の温度、例えば約400℃に加熱して、ゲルを除去し、かつ細孔を開くことができる。ゲル化物品は、多孔質プレフォームの細孔中に存在するゲル及び他の成分を実質的に完全に除去(例えば、完全又はほぼ完全に除去)するのに充分な時間にわたって加熱することができる。例えばゲル化物品は、例えば約10分〜約60分、例えば約30分間、加熱してもよい。ゲルを除去すると、粒子が充填された多孔質プレフォームを残すことができる。
【0035】
図1の技術は、第2溶液を、粒子充填多孔質プレフォームに浸透させること(22)を含むことができる。第2溶液は炭素源として機能することができ、これは、粒子充填多孔質プレフォームの細孔中に炭素を堆積させる。この炭素は、溶融金属によるプレフォームの事後的な浸透中に、溶融金属と反応して、金属炭化物を形成することができる。これは、完成複合材物品中の残存金属の量を減少させることができ、より高濃度の残存金属を含む複合材物品と比較して、完成複合材物品の機械的特性、表面仕上げ、及び残存応力の少なくとも1つを改善することができる。
【0036】
第2溶液は、例えば、高チャー収率成分、溶媒、及び、任意選択的に少なくとも1つの添加剤、例えばポリマー遮断剤(interrupter)、酸触媒、2次ポリマーなどを含むことができる。高チャー収率成分は、熱分解されると高い割合の炭素を生じるモノマー、ポリマーなどの材料を含むことができる。いくつかの例において高チャー収率成分は、比較的低粘度の液体を含んでよく、これは、粒子充填多孔質プレフォーム中に第2溶液が浸透された後、重合することができる。浸透工程中に比較的低い粘度を有することにより、第2溶液は、より高い粘度の溶液と比較して、粒子充填多孔質プレフォーム中の内部細孔に、より容易に浸透することができる。これは、粒子充填多孔質プレフォームの実質的に全て(例えば、全て又はほぼ全て)の体積にわたって炭素の堆積を容易にすることができる。
【0037】
いくつかの例において高チャー収率成分は、モノマー又は短鎖ポリマーを含むことができ、これらは、粒子充填多孔質プレフォームに浸透された後、重合させることができる。高チャー収率成分を重合することは、以後の処理中に、粒子充填多孔質プレフォームの細孔内に実質的に保持される高チャー収率成分を与えることができ、その結果、高チャー収率成分は、粒子充填多孔質プレフォームから流れ出さない。
【0038】
いくつかの例において高チャー収率成分は、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールを重合することにより得られる短鎖ポリマー、又はフェノール系材料、例えば有機溶媒により運搬されるフェノール樹脂を含む。
【0039】
また、第2溶液は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、高チャー収量成分及び任意の添加剤を含む第2溶液の他の成分を、溶解又は懸濁するために選択することができる。いくつかの例において、溶媒は、水性(多量の水を含むことができる)でもよい。他の例において、溶媒は水でもよい。いくつかの例において、溶媒は、水や他の極性溶媒、例えばアルコールなどの複数の化学物質の混合物を含むことができる。
【0040】
いくつかの例において、第2溶液は、少なくとも1つの任意の添加剤を含む。少なくとも1つの任意の添加剤は、例えば、ポリマー遮断剤を含んでいてもよい。ポリマー遮断剤は、高チャー収率成分の重合を遅らせるか又は遮断することがある。こうしてポリマー遮断剤は、重合の速度を制御して、粒子充填多孔質プレフォームへの部分的に重合した第2溶液の浸透を可能にすることができ、かつ重合した高チャー収率成分の分子量に影響を及ぼすことができる。いくつかの例において、ポリマー遮断剤は、イソプロピルアルコール等のアルコールを含む。
【0041】
いくつかの例において、少なくとも1つの任意の添加剤は酸触媒を含んでいてもよい。酸触媒は、高チャー収率成分の重合反応に触媒作用を及ぼす。使用される特定の酸触媒は、特定の高チャー収率成分に応じて決められることができる。いくつかの例において、例えば高チャー収率成分がフルフリルアルコールを含む場合、酸触媒は、硝酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸(PTSA)などを含むことができる。
【0042】
いくつかの例において、少なくとも1つの任意の添加剤は、2次ポリマーを含んでいてもよい。2次ポリマーは、細孔形成剤として機能し得る。2次ポリマーは、高チャー収率成分が後で粒子充填多孔質プレフォーム内で重合された時に、第2の相又はドメインを形成することができる。浸透した粒子充填プレフォームが、後に熱分解されて、高チャー収率成分の少なくとも一部を炭素に変換すると、2次ポリマーは燃焼又は気化し、高チャー収率成分の熱分解により形成された炭素内に細孔を残すことができる。炭素中のこれらの細孔は、実質的に多孔質プレフォームの体積全体にわたって、溶融金属の浸透を促進することができる。さらに細孔は、炭素のより大きな表面積を溶融金属へ曝露することにより、溶融金属と炭素の間のより完全な反応を促進することができる。炭素中に細孔が無いと、炭素上に金属炭化物層が形成されるため、溶融金属と反応する炭素はより少なくなり、炭素と溶融金属との更なる反応を妨害することがある。いくつかの例において2次ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、又は任意の他の高融点かつ低チャー収率のポリマーを含むことができる。
【0043】
いくつかの例において第2溶液は、約25〜約90重量%の高チャー収率成分(例えばフルフリルアルコール)、約8〜約72重量%の溶媒(例えば脱イオン水)、約0.5〜約2.5重量のポリマー遮断剤(例えばイソプロピルアルコール)、約1.0〜約10重量%の2次ポリマー(例えば、約1500g/molの平均分子量を有するポリエチレングリコール)、及び高チャー収率成分の重合を触媒するのに充分な酸触媒(例えば、第2溶液をpH約2.0にするのに充分な1モルの硝酸)を含むことができる。いくつかの例において第2溶液は、約70重量%の高チャー収率成分、約26重量%の溶媒、約1.5重量%のポリマー遮断剤、約2.5重量%の2次ポリマー、及び、高チャー収率成分の重合を触媒するのに充分な酸触媒を含むことができる。
【0044】
いくつかの例において、粒子充填多孔質プレフォームに第2溶液を浸透(22)させる前に、高チャー収率成分は任意選択的に部分的に重合させることができる。高チャー収率成分を部分的に重合するために使用される時間と温度は、第2溶液の組成と高チャー収率組成物に固有の性質に依存し得る。いくつかの例において、第2溶液は、約40℃〜約80℃の温度で約2時間〜約24時間にわたって加熱されて、高チャー収率成分を部分的に重合させることができる。例えば第2溶液は、約65℃の温度で約2時間加熱して、高チャー収率成分を部分的に重合させることができる。いくつかの例において、高チャー収率成分の部分重合は、第2溶液を不透明にする可能性がある。高チャー収率成分を部分的に重合した後、第2溶液を所定の時間にわたって熟成してもよい。例えば第2溶液は、室温で約12時間〜約36時間、熟成することができる。
【0045】
第2溶液は、いったん調製されると、真空圧力浸透、RTM、スリップキャスト法等の少なくとも1つを用いて、粒子充填多孔質プレフォーム中に浸透させることができる(22)。温度及び圧力は、粒子充填多孔質プレフォームの体積全体(例えば、体積全体又はほぼ体積全体)にわたって、実質的に第2溶液を浸透させるように選択することができる。
【0046】
第2溶液が粒子充填プレフォーム(22)に浸透されると、浸透した粒子充填プレフォームは、高チャー収率成分をさらに重合するように処理される(24)。高チャー収率成分の重合は、浸透した粒子充填プレフォームの加熱などの以後の処理中に、浸透した粒子充填プレフォームから高チャー収率成分が流れ出ることを実質的に防止することができる。これにより、高チャー収率成分が熱分解される時、浸透した粒子充填プレフォームの体積の実質的に全体(例えば、体積全体又はほぼ全体)にわたって炭素を形成することができる。いくつかの例において、浸透した粒子充填プレフォームは、約50℃〜約150℃の温度で約1時間〜約48時間加熱して、高チャー収率成分をさらに重合することができる(24)。いくつかの例において、浸透した粒子充填プレフォームは、約70℃で約24時間加熱して、高チャー収率成分をさらに実質的に完全に重合することができる(24)。
【0047】
浸透した粒子充填プレフォームを加熱して高チャー収率成分をさらに重合(24)した後、浸透した粒子充填プレフォームをより高い温度に加熱して、無機繊維、粒子及び重合された高チャー収率成分以外の物質を除去することができる(26)。例えば、この加熱は、溶媒、酸触媒、2次ポリマー、ポリマー遮断剤等を除去することができ、浸透した粒子充填プレフォーム中に空隙を残すことができる。いくつかの例において、浸透した粒子充填プレフォームは、約200℃〜約500℃の温度で約1℃/分〜約5℃/分の速度で加熱して、約15分間〜約60時間維持して、無機繊維、粒子及び重合された高チャー収率成分以外の物質を除去することができ(26)、初期ポリマー還元プロセスを開始することができる。
【0048】
さらに、図1の方法は、高チャー収率成分を熱分解して炭素を生成することをさらに含み、炭素は、浸透した粒子充填プレフォーム内にとどまる(28)。いくつかの例において、浸透した粒子充填プレフォーム内にとどまる炭素を生成するための高チャー収率成分の熱分解(28)は、浸透した粒子充填プレフォームを、約1℃/分〜約5℃/分の速度で約1000℃〜約1200℃の温度に、真空下で又は不活性雰囲気下で加熱することを含む。熱分解の間に、高チャー収率成分は、炭素以外の原子を放出し、これらは揮発して、浸透した粒子充填プレフォームから出て行く。高チャー収率成分の熱分解後、得られる物品は、加工前複合材物品と呼ぶことができる。
【0049】
さらに、図1の技術は、溶融金属又は合金を、加工前の複合材物品の細孔内に浸透させること(30)を含む。溶融金属又は合金は、加工前の複合材物品中のセラミック粒子、炭素、及び無機繊維の間に入り、加工前の複合材物品が完全に緻密化されるまで、セラミック粒子、炭素、及び無機繊維の間の隙間を占める。いくつかの例において、完全に緻密化した物品は、約5体積パーセント(vol%)未満、又は約3体積%未満、又は約1体積%未満の残存空隙率を有することができる。様々な例において、溶融金属又は合金溶浸材は、Si、B、Al、Y、Ti、Zr、これらの酸化物、及びこれらの混合物と組み合わせを含む。
【0050】
いくつかの例において、溶融金属又は合金の浸透のための温度は、約1400℃〜約1500℃でもよい。いくつかの例において、溶融合金又は金属が冷却して、加工前複合材物品と接触したときに固体を形成することがないように、溶融金属又は合金を加工前複合材物品の細孔に浸透(30)させる前に、加工前複合材物品は、溶融金属又は合金の浸透のための温度と実質的に等しい(例えば、等しいか又はほぼ等しい)温度に予熱することができる。浸透の持続時間は約15分〜約4時間、又は約60分〜約120分でもよい。浸透プロセスは、任意選択的に真空下で行うことができるが、他の例では、蒸発損失を制限するために、不活性ガス中で大気圧下で行うことができる。
【0051】
いくつかの例において、溶融金属又は合金溶浸材はケイ素を含む。ケイ素は、高チャー収率成分が残した炭素と反応して、炭化ケイ素を形成することができる。ケイ素と炭素との反応は、本明細書に記載の第2溶液の浸透無しで形成された複合体と比較して、最終複合材物品中の残存ケイ素の量を減少させることができる。最終複合材物品中の残存ケイ素の減少は、最終複合材物品の機械的特性の改善、最終複合材物品の表面仕上げの改善、及び最終複合材物品内の残存応力の低減の少なくとも1つを為すことができる。いくつかの例において、最終複合材物品中の残存ケイ素の減少は、本明細書に記載の第2溶液の浸透無しで形成された複合体と比較して、約20容量%のオーダーでもよい。いくつかの例において、最終複合材物品は、約8容量%〜約20容量%の残存ケイ素金属(例えば、化合物中又は別の元素との合金中にはないケイ素)を含むことができる。いくつかの例において、最終複合材物品は、約8容量%〜約10容量%の残存ケイ素金属を含むことができる。
【0052】
最終複合材物品中の残存金属の量は、1つ以上の様々な要因に依存することができ、例えば、無機繊維多孔質プレフォーム中の無機繊維の容量、無機繊維に適用される任意の塗膜の厚さ、第1スラリー組成物中の粒子の充填量、粒子充填プレフォーム中に堆積された高チャー収率成分の量などに依存する。最終複合材物品中の残存金属の減少は、炭素の存在、金属炭化物を形成する炭素と金属との反応、又はこれらの両方のために金属が浸透することができる容量の減少に起因するものでもよい。
【0053】
いくつかの例において、加工前複合材物品中の炭素の量は、金属又は合金の浸透工程中に、実質的に全て(例えば、全て又はほぼ全て)の炭素が溶融金属と反応するように、選択することができる。
【0054】
最終複合材物品は、肉眼で見える孔を実質的に含まず、この孔は本出願において、平均細孔サイズが約200μm未満、又は約50μm未満、又は約2μm未満の細孔を意味し、かつ最終複合材物品は、約5容量%未満、約3容量%未満、又は約1容量%未満の空隙率を有する。
【0055】
いくつかの例において、最終複合材物品は、例えば、タービンエンジン又は航空機エンジンで使用するのに適した部品を作製するために、任意選択的に機械加工されることができる。
【実施例】
【0056】
比較例
複数の2次元織物プライを積層して、SiC繊維プレフォームを作製した。次にSiC繊維プレフォームを窒化ホウ素繊維−マトリックス中間相で被覆し、炭化ケイ素を用いてCVD/CVIにより剛性化した。次に、剛性化されたプレフォームを真空引きして、残りの空隙から空気を除去し、そして剛性化されたプレフォームが完全に浸漬されるまで、炭化ケイ素スラリー(多峰性分布の炭化ケイ素粒子、スラリーを安定化して粘度を低下させるための分散剤、モノマーのプレゲル化系、及びフリーラジカル開始剤を含む)を導入した。次に、スラリー浸透をさらに増強するために、名目上1気圧の圧力勾配が存在するように真空を解除した。浸漬したままで、スラリーが不動化する点へスラリーがゲル化するまで、プレゲル化系を加熱した。得られた物品を昇温により乾燥させた。次に、ケイ素合金が毛細管ウィッキングを介して物品本体内に浸透できるように、物品を、溶浸材ケイ素合金の融点を超える点まで加熱した。
【0057】
図2は、高チャー収率成分を含む溶液の2次浸透無しで形成された比較例のSiC−SiC複合材40の断面顕微鏡写真である。図2に示されるように、SiC−SiC複合材40は、過剰なSi領域42とSiC領域44とを含有した。
【0058】
実施例
複数の2D織物プライを積層して、SiCの繊維プレフォームを作製した。次に、SiC繊維プレフォームを窒化ホウ素繊維−マトリックス中間相で被覆し、炭化ケイ素を用いてCVD/CVIにより剛性化した。次に、剛性化されたプレフォームを真空引きして、残りの空隙から空気を除去し、そして剛性化されたプレフォームが完全に浸漬されるまで、炭化ケイ素スラリー(多峰性分布の炭化ケイ素粒子、スラリーを安定化して粘度を低下させるための分散剤、モノマーのプレゲル化系、及びフリーラジカル開始剤を含む)を導入した。次に、スラリー浸透をさらに増強するために、名目上1気圧の圧力勾配が存在するように、真空を解除した。浸漬したままで、スラリーが不動化する点へスラリーがゲル化するまで、プレゲル化系を加熱した。得られた物品を昇温により乾燥させた。
【0059】
乾燥後、物品を400℃で30分間加熱して、ポリマー結合剤を除去し、2次浸透のための細孔を開いた。以下の成分(85重量%のフルフリルアルコール、15重量%の脱イオン水、及び溶液をpH2.0にするのに十分な1M硝酸)を含むポリマー溶液を混合した。真空引きしてこの溶液を本体に浸透させ、次に剛性化したプレフォーム上で真空を引いて、残りの空隙から空気を除去し、ポリマー溶液中にプレフォームを完全に浸漬させ、そして真空を解除した。次に、反応系を150℃に加熱して、溶液をゲル化させた後、成分を除去した。次に物品を取り出し、350℃に30分間加熱してポリマーをさらに硬化させた後、熱分解した。次に、溶融溶浸プロセスの一環として、熱分解プロセスを行った。加熱は、真空下で1℃/分の速度で、熱分解が完了する1200℃まで行った。次に、ケイ素合金が毛細管ウィッキングを介して本体に浸透できるように、物品を溶浸材ケイ素合金の融点を超える点まで加熱した。
【0060】
図3は、高チャー収率成分を含む溶液の2次浸透を用いて形成された、実施例のSiC−SiC複合材50の断面顕微鏡写真である。図3に示されるように。SiC−SiC複合材50は、残存するSi領域36とSiC領域38とを含んだ。SiC−SiC複合材50は、約5%未満の空隙率と、2次浸透工程無しで製造されたSiC−SiC複合材40より約40%少ない残存ケイ素を有した。
【0061】
種々の例が説明された。これら及び他の例は、添付の特許請求の範囲内である。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[19]に記載する。
[1]
以下の工程を含む方法:
無機繊維多孔質プレフォームに、セラミック粒子、溶媒及びプレゲル化剤材料を含む第1スラリー組成物を含浸させる工程;
前記第1スラリー組成物中の前記プレゲル化剤材料のゲル化を開始して、前記粒子を実質的に固定化し、ゲル化物品を得る工程;
前記ゲル化物品に、高チャー収率成分を含む第2溶液を含浸させる工程;
前記高チャー収率成分を熱分解して炭素を得て、加工前複合材物品を形成する工程;及び
前記加工前複合材物品に溶融金属又は合金を浸透させて、最終複合材物品を形成する工程であって、前記溶融金属又は合金の少なくとも一部は、炭素と反応して、金属炭化物を形成する、工程。
[2]
前記高チャー収率成分が、フルフリルアルコール及びフェノール系材料の少なくとも1つを含む、項目1に記載の方法。
[3]
前記第2溶液が、溶媒、ポリマー遮断剤、酸触媒、及び2次ポリマーの少なくとも1つをさらに含む、項目1に記載の方法。
[4]
前記溶媒が水を含む、項目3に記載の方法。
[5]
前記ポリマー遮断剤がアルコールを含む、項目3に記載の方法。
[6]
前記酸触媒が、硝酸、塩酸及びパラトルエンスルホン酸(PTSA)の少なくとも1つを含む、項目3に記載の方法。
[7]
前記2次ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリビニルピロリドン(PVP)の少なくとも1つを含む、項目3に記載の方法。
[8]
前記ゲル化物品に前記第2溶液を含浸させる工程の前に、前記ゲル化物品を加熱して、ゲルを実質的に除去し、細孔を開く工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
[9]
前記ゲル化物品に前記第2溶液を含浸させる工程の後に、前記第2溶液を含む前記ゲル化物品を加熱して、前記高チャー収率成分を重合する工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
[10]
前記プレゲル化剤材料が、ゲル又は多糖を形成するように重合される少なくとも1つのモノマーを含む、項目1に記載の方法。
[11]
前記無機繊維プレフォームが、酸化アルミニウム(Al23)、ムライト(Al6Si213)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、炭素(C)、グラファイト、炭化ケイ素(SiC)、炭窒化ケイ素、及び窒化ケイ素の少なくとも1つを含む繊維を含む、項目1に記載の方法。
[12]
前記無機繊維プレフォームが、炭素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、金属ホウ化物、遷移金属ケイ化物、遷移金属酸化物、遷移金属ケイ酸塩、及び希土類金属ケイ酸塩の少なくとも1つを含む少なくとも1つの塗膜を含む、項目3に記載の方法。
[13]
前記第1スラリー組成物中の前記粒子が、窒化アルミニウム、二ホウ化アルミニウム、炭化ホウ素、酸化アルミニウム、ムライト、酸化ジルコニウム、炭素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、遷移金属窒化物、遷移金属ホウ化物、遷移金属酸化物、遷移金属ケイ酸塩、及び希土類酸化物の少なくとも1つを含む、項目1に記載の方法。
[14]
以下の工程を含む方法:
炭化ケイ素繊維多孔質プレフォームに、炭化ケイ素粒子、溶媒及びプレゲル化剤材料を含む第1スラリー組成物を含浸させる工程;
前記第1スラリー組成物中の前記プレゲル化剤材料のゲル化を開始して、前記炭化ケイ素粒子を実質的に固定化し、ゲル化物品を得る工程;
前記ゲル化物品に、フルフリルアルコールを含む第2溶液を含浸させる工程;
前記フルフリルアルコールを熱分解して炭素を得て、加工前複合材物品を形成する工程;及び
前記加工前複合材物品に、ケイ素を含有する溶融材料溶浸材を浸透させて、最終複合材物品を形成する工程であって、前記ケイ素の少なくとも一部は前記炭素と反応して炭化ケイ素を形成する、工程。
[15]
前記ゲル化物品に前記第2溶液を含浸させる工程の前に、前記ゲル化物品を加熱して、ゲルを実質的に除去し、細孔を開く工程をさらに含む、項目14に記載の方法。
[16]
前記ゲル化物品に前記第2溶液を含浸させる工程の後に、前記第2溶液を含む前記ゲル化物品を加熱して、前記フルフリルアルコールを重合する工程をさらに含む、項目14に記載の方法。
[17]
前記第2溶液を含む前記ゲル化物品を加熱して前記フルフリルアルコールを重合する工程の後に、重合したフルフリルアルコールを含む前記ゲル化物品を加熱して、前記第2溶液の他の成分を実質的に除去する工程をさらに含む、項目14に記載の方法。
[18]
前記第2溶液が、溶媒、ポリマー遮断剤、酸触媒、及び2次ポリマーをさらに含む、項目14に記載の方法。
[19]
前記溶媒が水を含み、前記ポリマー遮断剤がアルコールを含み、前記酸触媒が硝酸を含み、かつ前記2次ポリマーがポリエチレングリコールを含む、項目18に記載の方法。
図1
図2
図3