(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定部によって前記ピークに前記低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性があると判定された場合に、前記2次元FFT処理の1回目のFFT処理の結果を用いて、前記FFT処理より分解能が高い解析手法により、前記ピークの周波数成分を再解析させ、前記ピークを再抽出する再抽出部
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検出方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
また、以下では、本実施形態に係る物標検出方法の概要について
図1Aおよび
図1Bを用いて説明した後に、本実施形態に係る物標検出方法を適用したレーダ装置1について、
図2〜
図7Bを用いて説明することとする。また、以下では、レーダ装置1がFCM方式であるものとする。
【0013】
まず、本実施形態に係る物標検出方法の概要について
図1Aおよび
図1Bを用いて説明する。
図1Aおよび
図1Bは、本実施形態に係る物標検出方法の概要説明図(その1)および(その2)である。
【0014】
図1Aに示すように、レーダ装置1は、たとえば自車両MCのフロントグリル内などに搭載され、自車両MCの進行方向に存在する物標を検出する。なお、レーダ装置1の搭載箇所は限定されるものではなく、たとえばフロントガラスやリアグリル、左右の側部(たとえば、左ドアミラーや右ドアミラー)など他の場所に搭載されていてもよい。
【0015】
そして、本実施形態では、レーダ装置1は、FCM方式である。FCM方式は、周波数が連続的に増加または減少するチャープ波を生成する送信信号と物標によるチャープ波の反射波を受信して得られる受信信号とから生成されたチャープ波ごとのビート信号に対して2回のFFT処理(以下、「2次元FFT処理」と記載する場合がある)を行って物標との距離および相対速度を検出する方式である。2次元FFT処理については、
図3A等を用いて後述する。
【0016】
FCM方式は、FM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式などに比して速度分解能に優れると言われ、チャープ波の数(チャープ数)を増やすことなどによって、速度分解能を上げることができる。
【0017】
ところが、FCM方式の場合でも、
図1Aに示すように、たとえば自車両MCの物標検出範囲に駐停車中の車両などの静止物が存在し、かかる静止物の近傍を速度0.4m/sの歩行者といった低速の移動物が存在した場合には、かかる静止物と低速の移動物とを速度分離できない場合がある。
【0018】
この場合、2次元FFT処理の結果として得られる、物標の速度に対応する周波数領域の周波数スペクトルにおいて、静止物を示すピークに低速の移動物を示すピークが埋もれた形となる。
【0019】
そこで、本実施形態に係る物標検出方法では、これまで通り2次元FFT処理からピーク抽出を行った後(ステップS1)、静止物相当のピークSP(
図1B参照)につき、埋もれ可能性(低速の移動物のピークが埋もれている可能性)を判定することとした(ステップS2)。
【0020】
具体的にはまず、
図1Bに示すように、2次元FFT処理の結果、物標の距離および速度にそれぞれ対応する周波数領域の周波数スペクトルが得られる。かかる周波数スペクトルは、周波数分解能に応じた周波数間隔で設定された周波数ビンごとのパワー値(信号レベル)を示すものであって、物標の速度に対応する周波数領域においては周波数ビンは「速度ビン」とも呼ばれる。
【0021】
そして、本実施形態に係る物標検出方法では、かかる速度ビンの周波数スペクトルにおいて、静止物相当のピークSPを推定する。これは、自車両MCとほぼ逆向きの相対速度であるか否かによって推定することができる。
【0022】
そして、本実施形態に係る物標検出方法では、ピークSPが、速度ビンの周波数スペクトルにおける当該ピークSPを基準とする所定範囲内にパワー値が所定の閾値以上である所定幅を有するならば、ピークSPに「埋もれ可能性あり」と判定する。
【0023】
所定幅を有するか否かは、たとえば上述の所定範囲内において閾値以上のパワー値の速度ビンが所定数以上存在するか、より具体的な数値を挙げれば、たとえばピークSPの速度ビンから±3ビン以内に閾値以上の速度ビンが4つ以上存在するかといった判定条件によって判定することができる。
【0024】
また、レーダ装置1のスキャン周期における、時間的に後の周期で、ピークSPからの所定範囲内に上述の閾値以上のパワー値を示す速度ビンが増えることによっても、上述の所定幅を有するか否かを判定することができる。これら埋もれ可能性を判定する埋もれ可能性判定処理については、
図4等を用いた説明で後述する。
【0025】
そして、本実施形態に係る物標検出方法ではさらに、
図1Aに示すように、ステップS2でピークSPに「埋もれ可能性あり」と判定された場合に、かかるピークSPを公知のCapon法による再演算で速度分離することとした(ステップS3)。具体的には、本実施形態に係る物標検出方法では、FFT処理よりも分解能が高いCapon法により、1回目のFFT処理の結果(物標の距離に対応する周波数領域の周波数スペクトル)を用いてピークSPの周波数成分を再解析させ、ピークを再抽出させる。
【0026】
このように、本実施形態では、抽出されたピークに対応する物標が静止物に相当するピークSPと推定される場合に、かかるピークSPが、物標の速度に対応する周波数領域における当該ピークSPを基準とする所定範囲内にパワー値が所定の閾値以上である所定幅を有するならば、ピークSPに低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性があると判定することとした。
【0027】
そして、本実施形態では、ピークSPに「埋もれ可能性あり」の場合に、かかるピークSPにつき、FFT処理よりも分解能が高いCapon法によって再演算させ、ピークを再抽出させることとした。
【0028】
したがって、本実施形態によれば、静止物の近傍に存在する低速の移動物の検出精度を向上させることができる。
【0029】
以下、上述した物標検出方法を適用したレーダ装置1について、さらに具体的に説明する。
【0030】
図2は、第1の実施形態に係るレーダ装置1のブロック図である。なお、
図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0031】
換言すれば、
図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0032】
図2に示すように、レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備え、自車両MCの挙動を制御する車両制御装置2と接続される。
【0033】
かかる車両制御装置2は、レーダ装置1による物標の検出結果に基づいて、PCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。なお、レーダ装置1は、車載レーダ装置以外の各種用途(たとえば、飛行機や船舶の監視など)に用いられてもよい。
【0034】
送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、送信アンテナ13とを備える。信号生成部11はノコギリ波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器12に供給する。発振器12は、信号生成部11で生成された変調信号に基づいて、時間の経過に従って周波数が増加するチャープ信号である送信信号を所定期間Tc(以下、チャープ期間Tcと記載する)ごとに生成して、送信アンテナ13へ出力する。なお、
図2に示すように、発振器12によって生成された送信信号は、後述するミキサ22に対しても分配される。
【0035】
送信アンテナ13は、発振器12からの送信信号を送信波へ変換し、かかる送信波を自車両MCの外部へ出力する。送信アンテナ13が出力する送信波は、チャープ期間Tcごとに、時間の経過に従って周波数が増加または減少するチャープ波である。送信アンテナ13から自車両MCの外部、たとえば前方へ送信された送信波は、他の車両などの物標で反射されて反射波となる。
【0036】
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ21と、複数のミキサ22と、複数のA/D変換部23とを備える。ミキサ22およびA/D変換部23は、受信アンテナ21ごとに設けられる。
【0037】
各受信アンテナ21は、物標からの反射波を受信波として受信し、かかる受信波を受信信号へ変換してミキサ22へ出力する。なお、
図2に示す受信アンテナ21の数は4つであるが、3つ以下または5つ以上であってもよい。
【0038】
受信アンテナ21から出力された受信信号は、図示略の増幅器(たとえば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ22へ入力される。ミキサ22は、送信部10から分配された送信信号と、受信アンテナ21から入力される受信信号との一部をミキシングし不要な信号成分を除去してビート信号を生成し、A/D変換部23へ出力する。
【0039】
ビート信号は、送信波と反射波との差分波であって、送信信号の周波数(以下、「送信周波数」と記載する)と受信信号の周波数(以下、「受信周波数」と記載する)との差となるビート周波数を有する。ミキサ22で生成されたビート信号は、A/D変換部23でデジタル信号に変換された後に、処理部30へ出力される。
【0040】
処理部30は、送受信制御部31と、信号処理部32と、記憶部33とを備える。信号処理部32は、周波数解析部32aと、ピーク抽出部32bと、埋もれ処理部32cと、角度推定部32dと、距離・相対速度演算部32eとを備える。
【0041】
記憶部33は、履歴データ33aを記憶する。履歴データ33aは、信号処理部32が周期的に実行する物標の検出に係る一連の信号処理における処理データの履歴である。
【0042】
処理部30は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、記憶部33に対応するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、レジスタ、その他の入出力ポート等を含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
【0043】
かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送受信制御部31、信号処理部32として機能する。なお、送受信制御部31、信号処理部32は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
【0044】
送受信制御部31は、送信部10の信号生成部11を制御し、信号生成部11からノコギリ状に電圧が変化する変調信号を発振器12へ出力させる。これにより、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号が発振器12から送信アンテナ13へ出力される。また、送受信制御部31は、あわせて受信部20を制御する。信号処理部32は、一連の信号処理をレーダ装置1のスキャンごとに周期的に実行する。
【0045】
周波数解析部32aは、各A/D変換部23から入力されるビート信号に基づいて2次元FFT処理を行い、結果をピーク抽出部32bへ出力する。ピーク抽出部32bは、周波数解析部32aによる2次元FFT処理の結果からピークを抽出し、抽出結果を埋もれ処理部32cへ出力する。
【0046】
また、ピーク抽出部32bは、後述する埋もれ処理部32cの埋もれ処理によるピーク再抽出分が反映された反映結果を埋もれ処理部32cから受け取り、角度推定部32dへ出力する。
【0047】
ここで、説明を分かりやすくするために、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるピーク抽出処理までの処理の流れを
図3A〜
図3Dを用いて説明しておく。
【0048】
図3Aおよび
図3Bは、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるピーク抽出処理までの処理説明図(その1)および(その2)である。また、
図3Cおよび
図3Dは、ピーク抽出処理の処理説明図(その1)および(その2)である。なお、
図3Aは、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られているが、これら領域を上から順に、上段、中段、下段と記載する。
【0049】
まず、送信部10による送信処理、および、受信部20による受信処理により、ビート信号が生成される点については既に述べた。これにより、
図3Aの上段に示すように、送信周波数f
STと受信周波数f
SRとの差となるビート周波数f
SB(=f
ST−f
SR)を有するビート信号が、チャープ波ごとに生成される。なお、ここでは、1回目のチャープ波によって得られるビート信号を「B1」とし、2回目のチャープ波によって得られるビート信号を「B2」とし、p回目のチャープ波によって得られるビート信号を「Bp」としている。
【0050】
また、
図3Aの上段に示す例では、送信周波数f
STは、チャープ波ごとに、基準周波数f0から時間に伴って傾きθ(=(f1−f0)/Tm)で増加し、最大周波数f1に達すると基準周波数f0に短時間で戻るノコギリ波状である。また、チャープ波の変調幅Δfは、Δf=f1―f0で表すことができる。
【0051】
なお、図示していないが、送信周波数f
STは、チャープ波ごとに、基準周波数f0から最大周波数f1へ短時間で到達し、かかる最大周波数f1から時間に伴って傾きθ(=(f1−f0)/Tm)で減少し、基準周波数f0に達するノコギリ波状であってもよい。
【0052】
このように生成され、入力される各ビート信号に対し、周波数解析部32aは、まず「1回目のFFT処理」を行う。上述したように、送信信号に基づく送信波は、送信アンテナ13から送信され、かかる送信波が物標で反射して反射波となり、かかる反射波が受信波として受信アンテナ21で受信されて受信信号として出力される。送信波が送信アンテナ13から送信されてから受信信号が出力されるまでの期間は、物標とレーダ装置1との間の距離に比例して増減し、ビート信号の周波数であるビート周波数f
SBは、物標とレーダ装置1との間の距離に比例する。
【0053】
そのため、ビート信号に対して1回目のFFT処理を行って生成したビート信号の周波数スペクトルには、物標との距離に対応する周波数ビン(以下、距離ビンfrと記載する場合がある)にピークが出現する。したがって、かかるピークが存在する距離ビンfrを特定することで、物標との距離を検出することができる。
【0054】
なお、以下では、周波数解析部32aによる1回目のFFT処理における距離ビンfrの総数をm(mは自然数)とし、距離ビンfrは、周波数が低い方から順にfr1〜frmと表す場合がある。たとえば、最も周波数が低い距離ビンfrはfr1であり、次に周波数が低い距離ビンfrはfr2であり、最も周波数が高い距離ビンfrはfrmである。
【0055】
ところで、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロである場合、受信信号にドップラー成分は生じず、各チャープ波に対応する受信信号間で位相は同じであるため、各ビート信号の位相も同じである。一方、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロでない場合、受信信号にドップラー成分が生じ、各チャープ波に対応する受信信号間で位相が異なるため、時間的に連続するビート信号間にドップラ周波数に応じた位相の変化が現われる。
【0056】
図3Aの中段には、時間的に連続するビート信号(B1〜B8)の1回目のFFT処理結果とビート信号間のピークの位相変化の一例を示している。かかる例では、同一の距離ビンfr10にピークがあり、かかるピークの位相が変化していることを示している。
【0057】
このように、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロでない場合、ビート信号間において同じ物標のピークにドップラ周波数に応じた位相の変化が現われる。そこで、各ビート信号の1回目のFFT処理により得られる周波数スペクトルを時系列に並べて、
図3Aの下段に示すように「2回目のFFT処理」を行うことで、ドップラ周波数に対する周波数ビンにピークが出現する周波数スペクトルを得ることができる。かかるピークが出現した周波数ビン、すなわち速度ビンを検出することで、物標との相対速度を検出することができる。
【0058】
2次元FFT処理の結果例を
図3Bに示す。FCM方式では、かかる2次元FFT処理の結果において、所定の閾値以上のパワー値を示すピークが存在する距離ビンおよび速度ビンの組み合わせが、ピークが存在する距離ビンおよび速度ビンの組み合わせとして特定される。そして、かかるピークが存在するとして特定された距離ビンおよび速度ビンの組み合わせに基づいて、物標との距離および相対速度が導出されることとなる。
【0059】
なお、以下では、周波数解析部32aによる2回目のFFT処理における速度ビンfvの総数をn(nは自然数)とし、速度ビンfvは、周波数が低い方から順にfv1〜fvnと表す場合がある。たとえば、最も周波数が低い速度ビンfvはfv1であり、次に周波数が低い速度ビンfvはfr2であり、最も周波数が高い速度ビンfvはfvnである。
【0060】
ピーク抽出部32bは、このような2次元FFT処理の結果を周波数解析部32aから取得し、かかる2次元FFT処理の結果に基づいて、ピークが存在する距離ビンおよび速度ビンを特定する。
【0061】
ピーク抽出部32bは、距離ビンおよび速度ビンの組み合わせごとのパワー値であるm×n個のF(fr、fv)のうち、所定の閾値以上であり、かつ、周囲のF(fr、fv)よりも大きい値を有する距離ビンおよび速度ビンを、ピークが存在する距離ビンおよび速度ビンとすることができる。たとえば、
図3Cでは、F(5、5)が所定の閾値以上であり、隣接する4点のF(4、5)、F(5、4)、F(5、6)、F(6、5)よりも大きい値を有するならば、距離ビンfr5および速度ビンfv5の組み合わせがピーク位置Prvと特定される。
【0062】
図3Dには、2次元FFT処理の結果を距離ビン側または速度ビン側からみた場合を模式的に示している。ピーク抽出部32bは、特定したピーク位置Prvに対して、
図3Dに示すように、放物線近似でピークの頂点を推定し、ピークを抽出する。
【0063】
図2の説明に戻り、つづいて埋もれ処理部32cについて説明する。埋もれ処理部32cは、ピーク抽出部32bから入力された抽出結果に基づき、埋もれ処理を行う。埋もれ処理では、抽出されたピークに対応する物標が静止物に相当するピークSPと推定される場合に、かかるピークSPに「埋もれ可能性あり」か否かが判定される。
【0064】
そして、埋もれ処理では、ピークSPに「埋もれ可能性あり」と判定される場合に、かかるピークSPにつき、1回目のFFT処理の結果を用いてCapon法により再演算させ、その結果に基づいてピークを再抽出する。
【0065】
より具体的に、
図4〜
図6Bを用いて説明する。
図4は、埋もれ処理部32cのブロック図である。また、
図5A〜
図5Dは、埋もれ可能性判定処理の処理説明図(その1)〜(その4)である。また、
図6Aおよび
図6Bは、ピーク再抽出処理の処理説明図(その1)および(その2)である。
【0066】
図4に示すように、埋もれ処理部32cは、埋もれ可能性判定部32caと、ピーク再抽出部32cbとを備える。埋もれ可能性判定部32caは、ピーク抽出部32bの抽出結果に基づき、抽出されたピークに対応する物標が静止物に相当するピークSPと推定される場合に、かかるピークSPに「埋もれ可能性あり」か否かを判定する。
【0067】
ここで、埋もれ可能性判定部32caは、ピークSPが、速度ビンの周波数スペクトルにおける当該ピークSPを基準とする所定範囲内にパワー値が所定の閾値以上である所定幅を有するならば、ピークSPに「埋もれ可能性あり」と判定する。
【0068】
具体的には、
図5Aに示すように、埋もれ可能性判定部32caは、静止物相当と推定されるピークSPを基準とする速度ビンの所定範囲を設定する。
図5Aには、所定範囲が、ピークSPを基準として±3ビンである場合を示している。
【0069】
そして、
図5Bに示すように、埋もれ可能性判定部32caは、かかる所定範囲の閾値以上の速度ビンが所定数以上である場合に、埋もれ可能性ありと判定する。たとえば、
図5Bには、所定数が4である場合に、所定範囲である±3ビン以内にパワー値が閾値以上である速度ビンが少なくとも4つあり(図中の丸印参照)、埋もれ可能性ありの判定条件を満たしている場合を示している。
【0070】
また、埋もれ可能性判定部32caは、レーダ装置1のスキャン周期に応じて周期的に実行されるピーク抽出につき、時間的に後のピーク抽出結果において、ピークSPからの所定範囲内に閾値以上のパワー値の速度ビンが増えることによっても、埋もれ可能性ありと判定することができる。
【0071】
たとえば、
図5Cに、任意の1周期でのピーク抽出結果の一例を示す。
図5Cに示すように、この時点で、距離ビンfr(p−1),frp,fr(p+3)にそれぞれ静止物に相当するピークSPが存在しているものとする。ピークSPに隣接した斜線部分は、ピークではないものの、所定の閾値以上のパワー値を有する速度ビンを示す。ピークSPの一部と言えることから、以下では、「部分ピーク」と記載する場合がある。
【0072】
埋もれ可能性判定部32caは、各周期でのこのようなピーク抽出結果のうち、たとえば同一距離ビンごとのピークSPおよび部分ピークの個数(以下、「ピーク要素数」と記載する)をたとえば履歴データ33aなどに記憶させておく。ここで、図中のM1部に着目する。
【0073】
そして、埋もれ可能性判定部32caは、
図5Dに示すように、時間的に後の周期、すなわち過去の周期に対する最新の周期で、同一距離ビンのピーク要素数が増加したならば、静止物に近づいたがピークとしてはピークSPに埋もれた物標があると推定して、埋もれ可能性ありと判定する。
【0074】
なお、自車両MCに自車速度がある場合、物標に対する距離は変化するので、過去の周期と最新の周期で比較する距離ビンは、自車速度に応じて変化させる必要がある。すなわち、時間的な連続性を有する物標のピークは、前回の処理で検出されたピークの距離ビンと、今回の処理で検出されたピークの距離ビンとが異なるビンとなる場合がある。そのため、前回の処理と今回の処理の距離ビンの値に関わらず、時間的に連続する物標に関するピーク要素数の増加の有無が判定される。このように、同一物標に関する距離ビンにおけるピークSPのピーク要素数の時間的な変化によっても、埋もれ可能性を判定することができる。
【0075】
図4の説明に戻り、つづいてピーク再抽出部32cbについて説明する。ピーク再抽出部32cbは、埋もれ可能性判定部32caから埋もれ可能性判定結果を受け取り、埋もれ可能性ありとされたピークSPにつき、Capon法で周波数成分を再解析させて、ピークを再抽出させる。また、ピーク再抽出部32cbは、再抽出分の反映結果をピーク抽出部32bへ出力する。
【0076】
具体的には、
図6Aに示すように、ピーク再抽出部32cbは、埋もれ可能性ありと判定されたピークSPがある場合に、該当のピークSPにつき、周波数解析部32aによる1回目のFFT処理結果を用いてCapon法で再演算し、ピークを再抽出する。そして、ピーク再抽出部32cbは、その再抽出分を、ピーク抽出部32bの抽出結果に反映する。また、ピーク再抽出部32cbは、埋もれ可能性ありのピークSPがなければ、ピークの再抽出は行わずに、ピーク抽出部32bの抽出結果をそのまま返す。
【0077】
図6Bには、ピーク抽出につき、2次元FFT処理による結果と、ピーク再抽出処理による結果との比較の一例を示している。FFT処理よりも分解能が高いCapon法によるピーク再抽出を行うことによって、2次元FFT処理では1つのピークSPしか抽出されなかった場合でも、
図6BのM2部に示すように、たとえば複数のピーク(ピークP1,P2)を抽出することができる。これにより、歩行者のような低速の移動物と静止物とを速度分離することが可能となる。すなわち、静止物の近傍に存在する低速の移動物の検出精度を向上させることができる。
【0078】
なお、ピーク再抽出部32cbは、ピークの再抽出の結果、ピークSPにつきやはりピークは1つであれば、ピーク抽出部32bの抽出結果をそのまま返す。
【0079】
図2の説明に戻り、つづいて角度推定部32dについて説明する。角度推定部32dは、所定の方位演算処理により、ピーク抽出部32bおよび埋もれ処理部32cで抽出されたピークそれぞれに対応する反射波の到来角度、すなわち物標の存在する角度を推定する。
【0080】
所定の方位演算処理には、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、DBF(Digital Beam Forming)、または、MUSIC(Multiple Signal Classification)などの公知の到来方向推定手法を用いて行うことができる。また、角度推定部32dは、推定した物標それぞれの角度を距離・相対速度演算部32eへ出力する。
【0081】
距離・相対速度演算部32eは、ピーク抽出部32bおよび埋もれ処理部32cによってピークが存在するとして特定された距離ビンおよび速度ビンの組み合わせに基づいて、物標との距離および相対速度を導出する。
【0082】
また、距離・相対速度演算部32eは、導出した物標との距離および相対速度、角度推定部32dにより推定された物標の角度などを含む物標情報を、車両制御装置2へ出力する。
【0083】
次に、本実施形態に係るレーダ装置1の信号処理部32が実行する処理手順について、
図7Aおよび
図7Bを用いて説明する。
図7Aは、実施形態に係るレーダ装置1の信号処理部32が実行する処理手順を示すフローチャートである。また、
図7Bは、埋もれ処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、ここでは、レーダ装置1のスキャン周期ごとに繰り返し実行される一連の信号処理の、スキャン1回分に対応する処理手順を示している。
【0084】
図7Aに示すように、まず周波数解析部32aが、周波数解析処理を実行する(ステップS101)。つづいて、ピーク抽出部32bが、ピーク抽出処理を実行する(ステップS102)。
【0085】
そして、埋もれ処理部32cが、埋もれ処理を実行する(ステップS103)。ここで、
図7Bに示すように、埋もれ処理では、まず埋もれ可能性判定部32caが、静止物相当のピークSPがあるか否かを判定する(ステップS201)。
【0086】
ここで、静止物相当のピークSPがあると判定された場合(ステップS201,Yes)、埋もれ可能性判定部32caは、ピークSPに埋もれ可能性ありか否かを判定する(ステップS202)。
【0087】
ここで、ピークSPに埋もれ可能性ありと判定された場合(ステップS202,Yes)、ピーク再抽出部32cbが、当該ピークSPをCapon法で再演算し(ステップS203)、ピークSPにつきピークを再抽出する。
【0088】
そして、ピーク再抽出部32cbは、ピークの再抽出の結果、複数のピークありか否かを判定する(ステップS204)。ここで、複数のピークありと判定された場合(ステップS204,Yes)、ピーク再抽出部32cbは、静止物の近傍に低速の移動物ありと判定し(ステップS205)、ピーク抽出部32bのピーク抽出結果に反映する(ステップS206)。そして、埋もれ処理部32cは埋もれ処理を終了する。
【0089】
なお、ステップS201、S202、S204で判定条件を満たさなかった場合(ステップS201,No/ステップS202,No/ステップS204,No)、埋もれ処理部32cは埋もれ処理を終了する。
【0090】
図7Aに戻る。ステップS103の後、角度推定部32dが、角度推定処理を実行する(ステップS104)。そして、距離・相対速度演算部32eが、距離・相対速度演算処理を実行し(ステップS105)、信号処理部32は、スキャン1回分の処理を終了する。
【0091】
上述してきたように、本実施形態に係るレーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、周波数解析部32a(「解析部」の一例に相当)と、ピーク抽出部32b(「抽出部」の一例に相当)と、埋もれ可能性判定部32ca(「判定部」の一例に相当)とを備える。
【0092】
送信部10は、周波数が連続的に増加または減少する送信信号によってチャープ波を送信する。受信部20は、物標によるチャープ波の反射波を複数の受信アンテナ21で受信した受信信号および送信信号からビート信号を生成する。
【0093】
周波数解析部32aは、受信部20によって生成されたビート信号に対して2次元FFT処理を行う。ピーク抽出部32bは、周波数解析部32aによる2次元FFT処理の結果である周波数スペクトルにおいて信号レベルが所定の閾値以上のピークを抽出する。
【0094】
埋もれ可能性判定部32caは、ピーク抽出部32bによって抽出されたピークSPに対応する物標が静止物に相当すると推定される場合に、かかるピークSPが、物標の速度に対応する周波数領域における当該ピークSPを基準とする所定範囲内に、信号レベルが上記閾値以上である所定幅を有するならば、かかるピークSPに低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性があると判定する。
【0095】
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、静止物の近傍に存在する低速の移動物の検出精度を向上させることができる。
【0096】
また、上記周波数スペクトルは、周波数分解能に応じた周波数間隔で設定された周波数ビンごとの信号レベルを示すものであって、埋もれ可能性判定部32caは、上記所定範囲内において上記閾値以上の信号レベルの速度ビン(「周波数ビン」の一例に相当)が所定数以上存在する場合に、低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性があると判定する。したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、静止物の近傍の低速の移動物の存在を推定することができる。すなわち、静止物の近傍に存在する低速の移動物の検出精度を向上させることができる。
【0097】
また、ピーク抽出部32bは、スキャン周期に応じて周期的にピークを抽出し、埋もれ可能性判定部32caは、時間的に後の周期でのピーク抽出部32bによるピークの抽出結果において、静止物に相当すると推定されるピークSPと同一距離にあることを示し、かつ、上記閾値以上の信号レベルである速度ビンの個数が増えた場合に、ピークSPに低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性があると判定する。したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、静止物と同一距離の低速の移動物の存在を推定することができる。すなわち、静止物の近傍に存在する低速の移動物の検出精度を向上させることができる。
【0098】
また、ピーク再抽出部32cb(「再抽出部」の一例に相当)をさらに備える。ピーク再抽出部32cbは、埋もれ可能性判定部32caによってピークSPに低速の移動物に対応するピークが埋もれている可能性があると判定された場合に、上記2次元FFT処理の1回目のFFT処理の結果を用いて、FFT処理より分解能が高いCapon法(「解析手法」の一例に相当)により、ピークSPの周波数成分を再解析させ、ピークを再抽出する。したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、静止物と静止物の近傍に存在する低速の移動物とを速度分離することができる。すなわち、静止物の近傍に存在する低速の移動物の検出精度を向上させることができる。
【0099】
なお、上述した実施形態では、埋もれ処理部32cによる埋もれ処理が、ピーク抽出部32bによるピーク抽出処理と角度推定部32dによる角度推定処理との間で実行される例を挙げたが、埋もれ処理の順序を限定するものではない。たとえば、埋もれ処理が、角度推定処理と、距離・相対速度演算部32eによる距離・相対速度演算処理との間で実行されてもよい。
【0100】
また、上述した実施形態では、埋もれ可能性判定部32caにおける判定条件として、たとえば所定範囲を±3ビンや所定数を4などとしたが、無論、判定条件を限定するものではない。周波数分解能などに応じて調整された適正値であればよい。
【0101】
また、上述した実施形態では、ピーク再抽出部32cbがCapon法によりピークを再抽出する場合を例に挙げたが、ピークの周波数成分の解析手法を限定するものではない。たとえば、Capon法と同じくビーム走査式のBF(Beam Forming)法を用いてもよい。
【0102】
また、上述した実施形態では、レーダ装置1は自車両MCに設けられることとしたが、無論、車両以外の移動体、たとえば船舶や航空機等に設けられてもよい。
【0103】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。