(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下部柱及び/又は前記上部柱の前記関節部材に対する少なくとも1方向への傾動を許容するべく、前記関節部材の下部及び/又は上部は、受容される前記下凹部及び/又は前記上凹部に摺接可能な曲面又は角部を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のコンクリート柱。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図10は、従来技術に係るコンクリート造の柱1及び梁2を備える多層のラーメン構造3の、下層階に於ける曲げモーメント図を示す。地震時に柱1に生じる曲げモーメントの反曲点4(曲げモーメントの正負が入れ替わる点)は、最下階では柱頭側に偏ることが多かった。また、最上階に於ける反曲点4は、柱脚側に偏ることが多かった(図示せず)。そのため、反曲点4から遠い側の柱脚部又は柱頭部で曲げモーメントの絶対値が大きくなり、柱脚部又は柱頭部に必要な主筋量に合わせてその階層のコンクリート柱の全体に主筋を配置すると、建設コストが増加する要因となっていた。
【0005】
このような問題を鑑み、本発明は、設計者が、地震時に生じる曲げモーメントの反曲点を所望の位置に設定できる、多層の建物に於けるンクリート柱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、多層の建物に於けるコンクリート柱(11)であって、複数の下部主筋(17)及び下部コンクリート部分(18)を有する下部柱(14)と、複数の上部主筋(19)及び上部コンクリート部分(20)を有し、該複数の上部主筋の少なくとも一部(19a)が前記複数の下部主筋の少なくとも一部(17a)に接合された上部柱(15)と、
横断面視で前記下部主筋及び前記上部主筋よりも内側に配置され、前記下部コンクリート部分の上端に設けられた下凹部(23)及び前記上部コンクリート部分の下端に設けられた上凹部(24)に受容されて前記下部柱及び前記上部柱間のせん断力及び軸方向圧縮力を伝達する関節部材(16)とを備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、下部柱と上部柱とを接合した接合継手部(13)に反曲点(4)が生じるため、建物の設計者は、接合継手部の位置を決めることにより、所望の位置に反曲点を設定することができる。
【0008】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成に於いて、前記複数の下部主筋の他の一部(17b)及び前記複数の上部主筋の他の一部(19b)は、互いに接合されていないことを特徴とする。
【0009】
反曲点及びその近傍では、地震時の曲げモーメントが0に近い状態となるため、大半の主筋の継手が不要となる。よって、一部の主筋の継手を行わないことにより、継手のための材料コスト及び施工コストを低減できる。
【0010】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、前記関節部材は、所定の階層の1/3〜2/3の高さに位置することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、地震時に所定の階層の柱脚部と柱頭部とに生じる曲げモーメントの絶対値が近似し、反曲点が柱脚部又は柱頭部に寄っている場合に比べて曲げモーメントの絶対値の最大値が減少する。そのため、主筋の量の増加を抑制できる。
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、前記複数の下部主筋の前記少なくとも一部又は前記複数の上部主筋の前記少なくとも一部は、対応する前記下部コンクリート部分の上端側又は前記上部コンクリート部分の下端側の所定の区間に付着していないことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、地震時に、接合継手部の回転に対する抵抗を低減し、回転によって生じる下部及び上部コンクリート部分の破損を低減することができる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、フープ筋(25,26)を更に備え、前記関節部材が存在する区間に於ける上下方向の単位長さ当たりの前記フープ筋(25)の量は、前記関節部材が存在する区間に近接する部分に於ける上下方向の単位長さ当たりの前記フープ筋(26)の量よりも多いことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、関節部材と下部コンクリート部分及び上部コンクリート部分との間の軸方向圧縮力及び地震時の水平方向せん断力に対して、下部コンクリート部分及び上部コンクリート部分の接合継手部を補強することができる。
【0016】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、前記複数の下部主筋及び/又は前記複数の上部主筋の各々は、梁に交差する部分の強度が端部の強度よりも高い、部分高強度鉄筋からなることを特徴とする。
【0017】
接合継手部(反曲点)から離間した梁と柱との交差部は、地震時の曲げモーメントの絶対値が大きくなるが、この構成によれば、交差部の鉄筋強度が高いため、交差部に於いて主筋量を増加させる必要がない。
【0018】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、前記下部柱及び/又は前記上部柱の前記関節部材に対する少なくとも1方向への傾動を許容するべく、前記関節部材の下部及び/又は上部は、受容される前記下凹部及び/又は前記上凹部に摺接可能な曲面又は角部(27)を有することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、傾動時に於ける関節部材と下凹部及び/又は上凹部との摩擦力を低減することができる。
【0020】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、前記関節部材は、前記下部コンクリート部分及び前記上部コンクリート部分よりも高強度のコンクリートからなることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、比較的安価な材料で関節部材を製造することができ、軸方向圧縮力及び地震時のせん断力の伝達を確実に行える。
【0022】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、前記建物の中柱(建物の骨組の外周部よりも内側に配置された柱)に適用されることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、中柱には軸方向の引張力は作用しないため、接合継手部で主筋の継手を減らすことができ、これにより、接合継手部に於ける曲げモーメントへの抵抗を低減できる。
【0024】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係るコンクリート柱は、上記構成の何れかに於いて、前記下部柱及び前記上部柱がプレキャストコンクリート部材からなることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、工期を短縮できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、設計者が、地震時に生じる曲げモーメントの反曲点を所望の位置に設定できる、多層の建物に於けるコンクリート柱を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、多層の建物の骨組10は、鉛直方向に延在する鉄筋コンクリート造の柱11と、水平方向に延在し、柱11に剛接合された鉄筋コンクリート造の梁12とを備える。柱11及び梁12は、PCa部材を用いて構築されることが好ましいが、現場打ちコンクリートを用いて構築してもよい。骨組10に於ける少なくとも1つの柱11の少なくとも1つの階層には、実質的にピン型接合とみなせる接合継手部13が設けられている。
【0029】
図2及び
図3を参照して、接合継手部13の構造を詳細に説明する。なお、断面図では、柱11の本体部分のコンクリートを透視したように示す。接合継手部13が設けられた柱11は、下方に配置されたPCa部材からなる下部柱14と、上方に配置されたPCa部材からなる上部柱15と、下部柱14と上部柱15との間に配置された関節部材16とを備える。なお、柱11を構成するPCa部材の内、上端及び下端の双方が接合継手部13によって接合されるものは、上端側の接合継手部13から見れば下部柱14となり、下端側の接合継手部13から見れば上部柱15となる。
【0030】
下部柱14は、鉛直方向に沿って延在する複数の下部主筋17と、下部主筋17を埋設する下部コンクリート部分18とを有する。上部柱15は、鉛直方向に沿って延在する複数の上部主筋19と、上部主筋19を埋設する上部コンクリート部分20とを有する。
【0031】
複数の下部主筋17と複数の上部主筋19とは、その一部である接合下部主筋17aと接合上部主筋19aとが機械式継手により互いに接合され、残りの非接合下部主筋17bと非接合上部主筋19bとは互いに接合されない。接合下部主筋17a及び接合上部主筋19aは、互いに等間隔に配置されていることが好ましく、例えば、複数の下部主筋17及び複数の上部主筋19の内、横断面視で4隅に配置されたものを接合下部主筋17a及び接合上部主筋19aとし、それ以外のものを非接合下部主筋17b及び非接合上部主筋19bとすることができる。機械式継手は、上部コンクリート部分20の下端に鉛直方向に沿って埋設されて接合上部主筋19aの下端を受容する接続管21に、下部コンクリート部分18の上端から突出する接合下部主筋17aの上端を挿入した後、グラウトを注入することによりなされる。非接合下部主筋17bの上端及び非接合上部主筋19bの下端は、180度フックにするか機械式定着具を設けることにより、定着長さを短くしてもよい。
【0032】
また、地震によってピン型接合の接合継手部13に回転(下部柱14及び/又は上部柱15の関節部材16に対する傾動)が生じる際に、下部コンクリート部分18の損傷を防止し、かつ接合継手部13の曲げ抵抗を低減するために、接合下部主筋17aは、下部コンクリート部分18の上端側の所定の区間で、下部コンクリート部分18のコンクリートを付着させないことが好ましい。具体的には、接合下部主筋17aは、下部コンクリート部分18の上端側に鉛直方向に沿って埋設され、かつグラウトが充填されていないシース管等の中空管22内を貫通することにより、中空管22の延在区間で下部コンクリート部分18のコンクリートを付着させない。なお、中空管22を設置することに代えて、その区間で接合下部主筋17aにテープを巻くことにより、コンクリートの付着を防いでもよい。
【0033】
また、下部主筋17及び/又は上部主筋19として、梁12に交差する部分の強度が、高周波熱処理等によって端部の強度よりも高められた部分高強度鉄筋を用いてもよい。梁12との交差部には比較的大きな曲げモーメントが生じるが、高強度鉄筋を用いることにより、梁12との交差部の下部主筋17及び上部主筋19を増量する必要がなくなる。また、例えばSD980級相当の強度の鉄筋を継手する機械式継手は、本願出願時点では存在しないため、全体が高強度の鉄筋を本実施形態の主筋に適用することは事実上できないが、端部が通常の強度(例えば、SD390)の部分高強度鉄筋であれば、機械式継手として、通常の強度の鉄筋用のものを使用することができるため、本実施形態の主筋に適用することができる。梁12との交差部よりも曲げモーメントが小さい階層の中間部に接合継手部13を設ける場合は、このような部分高強度鉄筋を適用することができる。
【0034】
関節部材16は、下部コンクリート部分18の上端に設けられた下凹部23と、上部コンクリート部分20の下端に設けられた上凹部24とに受容されるように、下部柱14と上部柱15との間に配置される。
【0035】
関節部材16と下凹部23及び上凹部24との間には、軸方向圧縮力が加わり、更に、地震時には水平方向のせん断力が作用する。そのため、下部柱14及び上部柱15の接合継手部13を補強する必要があるときは、下部柱14及び上部柱15は、それぞれ、関節部材16が存在する区間に拘束フープ筋25を配置する。上下方向の単位長さ当たりに配置される拘束フープ筋25の量は、通常のフープ筋26、すなわち、関節部材16が存在する区間に近接する部分に配置されたフープ筋26のものよりも多い。拘束フープ筋25は、
図3に示すように、全ての下部主筋17又は上部主筋19を取り囲むように配置される。なお、拘束フープ筋25は、
図4に示すように、一部の下部主筋17又は上部主筋19と関節部材16とを取り囲むように配置されてもよい。この場合、拘束フープ筋25に取り囲まれる下部主筋17又は上部主筋19は、互いに等間隔に、又は横断面視で線対称をなす位置に配置された下部主筋17又は上部主筋19であることが好ましい。
【0036】
関節部材16の形状は、接合継手部13に要求される性能や構造形態に応じて変更できる。
図5は、接合継手部13を全方向に回転可能なピン結合とする場合に適する関節部材16の形状の例を示す。
図5aの関節部材16は球体であり、このときの下凹部23及び上凹部24の形状は、それぞれ、関節部材16の下部及び上部に摺接するように、球体の半径と同一又は僅かに大きい半径を有する球面の下端側及び上端側の一部の形状である。下部柱14及び上部柱15の双方が関節部材16に対して全方向に回転可能である。
【0037】
図5bの関節部材16の下部は軸線が鉛直方向に延在する円柱体であり、上部が半球体である。このときの下凹部23は、円柱体の関節部材16の下部を嵌合し、上凹部24は、
図5aの関節部材16に対応する上凹部24と同様の形状であって関節部材16の上部に摺接する。下部柱14は関節部材16に対して回転しないが、上部柱15が関節部材16に対して全方向に回転可能である。
【0038】
図5cの関節部材16は、円柱体の上下の底面に、それぞれ、端部側が細い円錐台を重ねた形状である。端部向かうにつれて、段階的に側面の傾斜が水平方向に近づき、1つの球面が外接する角部27(下凹部23又は上凹部24の表面を摺動する辺)を複数有するような、複数の円錐台を重ね合わせた多角形状としてもよい。このときの下凹部23及び上凹部24の形状は、それぞれ、外接球の半径と同一又は僅かに大きい半径を有する球面の下端側及び上端側の一部の形状である。下部柱14及び上部柱15の双方が関節部材16に対して全方向に回転可能である。
【0039】
図5dの関節部材16の下部は円柱体であり、上部は
図5cの上部と同様の形状である。このときの下凹部23は、円柱体の関節部材16の下部を嵌合する円柱面の形状であり、上凹部24は、
図5cの関節部材16に対応する上凹部24と同様の形状である。下部柱14は関節部材16に対して回転しないが、上部柱15が関節部材16に対して全方向に回転可能である。
【0040】
図6は、接合継手部13を2方向に回転可能なピン結合とする場合に適する関節部材16の形状の例を示す。
図6aの関節部材16は、軸線が水平方向に延在して直径と高さが互いに等しい円柱体を、軸線を通る水平面で2つに分割し、2つの半円柱を鉛直方向を軸に互いに90°回転させて結合させた形状を呈する。このときの下凹部23及び上凹部24の形状は、それぞれ、関節部材16の下部及び上部に対応する向きに構成された、円柱体の半径と同一又は僅かに大きい半径を有する円柱面の下端側及び上端側の一部の形状である。上部柱15が、関節部材16に対して1方向(X方向)に回転可能であり、下部柱14が、関節部材16に対してX方向に直交する1方向(Y方向)に回転可能であることによって、接合継手部13は2方向に回転可能となっている。
【0041】
図6bの関節部材16は、軸線が水平方向に延在し、かつ2つの側面が水平に配置された正八角柱を、軸線を通る水平面で2つに分割し、2つの角柱を鉛直方向を軸に互いに90°回転させて結合させた形状を呈する。このときの下凹部23及び上凹部24の形状は、それぞれ、関節部材16の下部及び上部に対応する向きに構成された、角柱に外接する円柱の半径と同一の又は僅かに大きい半径を有する円柱面の下端側及び上端側の一部の形状である。上部柱15が、関節部材16に対して1方向(X方向)に回転可能であり、下部柱14が、関節部材16に対してX方向に直交する1方向(Y方向)に回転可能であることによって、接合継手部13は2方向に回転可能となっている。
【0042】
図7は、接合継手部13を1方向に回転可能なピン結合とする場合に適する関節部材16の形状の例を示す。
図7aの関節部材16は軸線が水平方向に延在する円柱体であり、このときの下凹部23及び上凹部24の形状は、それぞれ、関節部材16に対応する向きに配置され、かつ円柱体の半径と同一又は僅かに大きい半径を有する円柱面の下端側及び上端側の一部の形状である。下部柱14及び上部柱15の双方が関節部材16に対して同一の1方向に回転可能である。
【0043】
図7bの関節部材16の下部は直方体であり、上部は、
図7aの関節部材16の上部と同様の底面が半円の柱体である。このときの下凹部23は、関節部材16の下部を嵌合する形状であり、上凹部24は、
図7aの関節部材16に対応する上凹部24と同様の形状である。下部柱14は関節部材16に対して回転しないが、上部柱15が関節部材16に対して1方向に回転可能である。
【0044】
図7cの関節部材16は、軸線が水平方向に延在し、かつ2つの平面が水平に配置された正八角柱体である。正八角柱体に変えて、円柱が外接する、他の多角形の柱体としてもよい。下凹部23及び上凹部24は、それぞれ、関節部材16に対応する向きに配置された正八角柱体に外接する円柱又はそれよりも僅かに大きい円柱面の下部及び上部の一部の形状である。関節部材16の軸線に平行な辺からなる角部27が下凹部23及び上凹部24の表面を摺動することにより、下部柱14及び上部柱15の双方が関節部材16に対して同一の1方向に回転可能である。
【0045】
図7dの関節部材16の下部は、
図7bの関節部材16の下部と同様であり、上部は
図7cの関節部材16の上部と同様の形状である。このときの下凹部23は、関節部材16の下部を嵌合するであり、上凹部24は、
図7cの関節部材16に対応する上凹部24と同様の形状である。下部柱14は関節部材16に対して回転しないが、上部柱15が関節部材16に対して1方向に回転可能である。
【0046】
図5a及び
図5b、
図6a、並びに
図7a及び
図7bの形状の関節部材16は、曲面で下凹部23及び上凹部24に摺接するため、回転時の摩擦力を抑制することが要求される場合に適し、
図5c及び
図5d、
図6b、並びに
図7c及び
図7dの形状の角部27を有する関節部材16は、コンクリートから関節部材16を作成する場合であって、その型枠の作成及び設置等の施工性を重視する場合に適する。なお、
図5b及び
図5d、並びに
図7b及び
図7dの形状の関節部材16を有する接合継手部13は、関節部材16の上下を逆にし、かつ下凹部23と上凹部24との形状を入れ替えて、上部柱15は関節部材16に対して回転しないが、下部柱14が関節部材16に対して回転可能としてもよい。
【0047】
図8は、接合継手部13を無回転とする場合に適する関節部材16の形状の例を示す。
図8の関節部材16は、鉛直方向に直交する面を有する直方体をなす。下凹部23及び上凹部24は、それぞれ、関節部材16の直方体形状の下部及び上部を嵌合する形状を有する。
図8に示す関節部材16は、接合継手部13を設けなくても反曲点4(
図11参照)となる位置に、接合継手部13を設ける場合に適する。
【0048】
なお、
図1〜
図3では、関節部材16の中心が、下部コンクリート部分18と上部コンクリート部分20との継ぎ目に位置する場合を示している。しかし、関節部材16の下端側が下凹部23に受容され、上端側が上凹部24に受容される範囲において、関節部材16の中心が、下部コンクリート部分18と上部コンクリート部分20との継ぎ目から上下方向にずれていてもよい。この場合、下凹部23及び上凹部24の形状はそのずれに対応して変形される。例えば、関節部材16が
図5aに示すように球体であって、球体の中心が下部コンクリート部分18側にずれている場合は、下凹部23は、下方が球面の下半分の形状であり、その上方は、関節部材16を挿入できるように球体の最大横断面と等しい輪郭又はそれよりも大きい輪郭で開放されており、上凹部24は、球面の上端側の一部の形状である。
【0049】
関節部材16は、下部コンクリート部分18及び上部コンクリート部分20よりも高い強度を有することが好ましく、例えば、高強度コンクリートや鋼材、樹脂等を素材とすることができる。関節部材16をPCa部材としてもよく、また、注入グラウトを用いて建物の施工現場で作成してもよい(
図9参照)。
【0050】
下部コンクリート部分18の上端と上部コンクリート部分20の下端との間には、目地28が配置される。目地28を、鉛直方向の圧縮力を負担しない有機性のシール目地とすれば、目地28を耐火被覆する必要がなく、地震時の接合継手部13の回転に対する回転追従性が良好となる。また、目地28を、低強度のモルタル目地とすれば、材料コストを低減でき、地震時には、モルタルが破壊することで接合継手部13が回転可能となり、破壊しても容易に修復できる。
【0051】
柱11の接合継手部13は、下部柱14を所定の位置に配置し、関節部材16を下凹部23に載置し、上部柱15を、関節部材16の上部を上凹部24が受容し、かつ接続管21に接合下部主筋17aが挿入されるように、上方から下方に向かって移動させて所定の位置に配置し、接続管21にグラウトを注入して、接合下部主筋17aと接合上部主筋19aとを互いに接合し、目地28を施工することによって構築される。
【0052】
関節部材16を建物の施工現場で作成する場合は、下部柱14を所定の位置に配置し、接合下部主筋17aが接続管21に挿入されるように、上部柱15を上方から下方に向かって移動させて所定の位置に配置した後に、
図9に示すように、下凹部23及び上凹部24の周囲の、下部コンクリート部分18の上端及び上部コンクリート部分20の下端間にバックアップ材29を配置して、グラウトを下凹部23及び上凹部24に注入して関節部材16を作成する。接続管21へのグラウトの注入は、関節部材16の作成の前後のどちらで行ってもよい。その後、目地28を施工する。
【0053】
接合継手部13を有する柱11は、軸方向の引張力が作用しない建物の中柱に適用することができる。また、接合継手部13を有する柱11は、耐震壁(図示せず)等の他の部材に軸方向の引張力を負担させることにより、又は、接合下部主筋17a及び接合上部主筋19aの量を増やして引張力に抵抗させることにより、建物の外柱に適用することも可能である。
【0054】
接合継手部13は、軸方向圧縮力及びせん断力には抵抗するが、曲げ力には抵抗しない。そのため、
図1に示すように、接合継手部13を設けることにより、地震時の曲げモーメントの分布が変化し、反曲点4が接合継手部13を設けた位置に生じる。従って、接合継手部13を設けることにより、設計者の意図する位置に反曲点4を設定することができる。関節部材16が、階層の中間部、例えば1/3〜2/3の高さ、好ましくは1/2の高さに位置するように、接合継手部13を設ければ、柱脚部及び柱頭部の曲げモーメントの絶対値が近似し又は等しくなって、曲げモーメントの絶対値の最大値が減少する。そのため、下部主筋17及び上部主筋19の量を減少させて材料コストを低減することができる。また、接合継手部13を設計者の意図する柱の位置に設けることにより、建物の骨組10の全体に生じる曲げモーメントの分布を変更して、経済的な建物を設計することもできる。
【0055】
また、接合継手部13は、地震時に生じる曲げモーメントがゼロに近い状態になるため、全ての下部主筋17及び上部主筋19を互いに接合する必要がなく、また、低強度の鉄筋用の機械式継手を使用することができ、機械式継手の材料コスト及び施工コストを低減することができる。
【0056】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、接合下部主筋と非接合下部主筋との割合及び配置、並びに、接合上部主筋と非接合上部主筋との割合及び配置は変更してもよく、すべての下部主筋及び上部主筋を接合してもよい。また、接合下部主筋と接合上部主筋との互いに接合を下部コンクリート部分の上端側で行ってもよく、この場合、接合下部主筋を下部コンクリート部分の上端側で付着させない構成に代えて、接合上部主筋を上部コンクリート部分の下端側で付着させない構成としてもよい。