(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853058
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】液状化対策工法及びそれに用いる杭ブロック
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20210322BHJP
E02D 5/30 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D5/30 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-16641(P2017-16641)
(22)【出願日】2017年2月1日
(65)【公開番号】特開2018-123575(P2018-123575A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】392012261
【氏名又は名称】東興ジオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 勝久
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宙
(72)【発明者】
【氏名】井地 寛
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 勝道
【審査官】
湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−052253(JP,A)
【文献】
特開2006−101849(JP,A)
【文献】
特開昭53−012108(JP,A)
【文献】
特開平07−286323(JP,A)
【文献】
特開昭62−033926(JP,A)
【文献】
特開2013−170408(JP,A)
【文献】
特開2007−032061(JP,A)
【文献】
特開平04−185821(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0017015(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/34
E02D 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化発生の際に生じる過剰間隙水圧の上昇を消散させて液状化被害を軽減するための液状化対策工法であって、
セメント、篩い選別による粒径2mm〜5mmの範囲の破砕瓦である骨材、混和剤及び水を少なくとも含む配合材料の固化物である中実の略円柱状の本体を具備する透水性の杭ブロック(1)を、地盤の液状化層内に複数個積み重ねることによって、前記液状化層内の地下水を吸収して地表に排水可能な1本の過剰間隙水圧上昇消散用の杭(10)を構築することを特徴とする液状化対策工法。
【請求項2】
前記配合材料において、セメント1に対して前記破砕瓦が3.5〜4.5の重量配合比であることを特徴とする請求項1に記載の液状化対策工法。
【請求項3】
前記配合材料において、セメント1に対して前記破砕瓦が3.5〜4.5かつ水が0.5〜0.6の重量配合比であることを特徴とする請求項1に記載の液状化対策工法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液状化対策工法において用いられる透水性の杭ブロック(1)であって、セメント、篩い選別による粒径2mm〜5mmの範囲の破砕瓦である骨材、混和剤及び水を少なくとも含む配合材料の固化物である中実の略円柱状の本体を具備することを特徴とする杭ブロック。
【請求項5】
前記配合材料において、セメント1に対して前記破砕瓦が3.5〜4.5の重量配合比であることを特徴とする請求項4に記載の杭ブロック。
【請求項6】
前記配合材料において、セメント1に対して前記破砕瓦が3.5〜4.5かつ水が0.5〜0.6の重量配合比であることを特徴とする請求項4に記載の杭ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状化のおそれのある地盤に対する液状化対策工法及びそれに用いる透水性杭ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
地震が発生した際に液状化現象が発生すると、住宅及び宅地に大きな被害をもたらす。住宅地の液状化対策としては、地下水位低下工法、格子状地中壁工法、密度増大工法、間隙水圧消散工法等が提案されている。
【0003】
しかしながら、地下水位低下工法は、消費電力や排水管のメンテナンス等のランニングコストが恒久的に必要である。格子状地中壁工法は、一定の範囲の地域の合意が必要である。密度増大工法は、施工時に地盤変状が大きい。間隙水圧消散工法は、大型機械による施工である。従って、これらの工法は、戸建て住宅に適用するにはそれぞれ問題がある。
【0004】
特許文献1は、地盤改良と液状化対策の機能を兼ね備えた地盤改良/液状化対策用杭ユニットを開示している。この杭ユニットは、中空円筒状で透水性コンクリートからなり、環状の緩衝材を間に介在させて上下に複数個積み重ねることにより、長尺の杭構造体を形成することができる。液状化発生時には、周囲の地下水が中空内部に入り込み、中空を通って地上に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−52253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の杭ユニットは、中空円筒状であるので円筒壁を薄くすると排水効果は高くなるが、圧縮強度は小さくなり杭としての強度は低下する。
【0007】
本発明の目的は、複数の杭ブロックを積み重ねた杭による液状化対策工法において、杭が透水性と圧縮強度を兼ね備えると共に、廃材のリサイクルを可能とすることである。さらに本発明の目的は、斯かる液状化対策工法に用いられる杭ブロックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。なお、括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付するものである。
・ 本発明の態様は、
液状化発生の際に生じる過剰間隙水圧の上昇を消散させて液状化被害を軽減するための液状化対策工法であって、セメント、
篩い選別による粒径2mm〜5mmの範囲の破砕瓦である骨材、混和剤及び水を少なくとも含む配合材料の固化物である中実の略円柱状の本体を具備する透水性の杭ブロック(1)を、
地盤の液状化層内に複数個積み重ねることによ
って、前記液状化層内の地下水を吸収して地表に排水可能な1本の
過剰間隙水圧上昇消散用の杭(10)を構築するステップと、を有することを特徴とする。
・ 本発明の別の態様は、
上記いずれかの態様で用いられる透水性の杭ブロック(1)であって、セメント、篩い選別による粒径2mm〜5mmの範囲の破砕瓦である骨材、混和剤及び水を少なくとも含む配合材料の固化物である中実の略円柱状の本体を具備することを特徴とする。
・
上記いずれかの態様では、前記配合材料において、セメント1に対して
前記破砕瓦が3.5〜4.5の重量配合比であることが好適である。
・
上記いずれかの態様では、前記配合材料において、セメント1に対して
前記破砕瓦が3.5〜4.5かつ水が0.5〜0.6の重量配合比であることが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明による液状化対策工法では、透水性の杭ブロックを積み重ねて1本の杭を構築する。杭ブロックは、破砕瓦を骨材とするセメント系の固化物を本体とするので、透水性と圧縮強度に優れた基礎杭を構築することができる。予め製造した杭ブロックを現場に搬入して施工するので、現場設備を簡略化することができ、工場生産により安定した品質が確保できる。また杭ブロックは軽量であるので、運搬及び施工の負担が少ない。
【0010】
液状化発生の際には、透水性の高い杭ブロックにより構築された杭が、周囲の余剰水を吸収して地上に排出することにより、過剰間隙水圧の上昇を抑制すると共に、間隙水圧を消散させて液状化被害を軽減することができる。
【0011】
破砕前の瓦は粘土を高温焼成したものであり防水性を備えるが、瓦を破砕した破砕瓦は、高温焼成による多孔質の間隙が破砕面に露出することから透水性が良好となる。また、多孔質であることから軽量である。本発明により廃棄瓦の有効活用が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明による杭ブロックの実施形態の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2に示した杭ブロックを対象地盤に施工した状態の一例を模式的に示した断面図である。
【
図4】
図4(a)(b)(c)は、杭ブロックの別の実施形態の一例を示した概略図である。
【
図5】
図5(a)〜(f)は、
図1及び
図2に示した杭ブロックを対象地盤に施工する工法の一例を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参考にしつつ、本発明による透水性杭ブロック及びこれを用いた液状化対策工法の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明による透水性杭ブロックの実施形態の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1のI−I断面図である。
【0015】
杭ブロック1は、複数個を上下に積み重ねることにより、例えば住宅等における基礎杭等の1本の長尺の杭を構築することができる建築用又は土木用の部材である。
図1及び
図2を参照して、先ず、杭ブロック1の形状を説明する。杭ブロック1は中実の略円柱状の本体を有し、円柱部2と、円柱部2の上面より軸方向に突出する嵌合凸部3と、円柱部2の下面から軸方向に陥没する嵌合凹部4とからなる。
【0016】
嵌合凸部3と嵌合凹部4は、2つの杭ブロック1を上下に積み重ねたとき、互いに嵌合するような外郭形状を有する。図示の例では、嵌合凸部3と嵌合凹部4の外郭形状は略円錐台状であり、最も嵌合させ易い形状であるが、この形状に限定するものではない。嵌合凸部3と嵌合凹部4が嵌合したとき、下側に位置する杭ブロック1の上面と上側に位置する杭ブロック1の下面が当接する。これにより、積み重ねられた複数のブロック1において鉛直方向の支持力が有効に伝達される。
【0017】
図2に示す円柱部2の長さLは、例えば1m〜2m程度である。直径Dは、例えば400mm〜600mm程度である。長さL及び直径D並びに嵌合凸部3及び嵌合凹部4の形状及び大きさは、必要に応じて適宜設定される。
【0018】
さらに、嵌合凸部3の上面中央部に開口する凹部3aが形成されている。図示の例では凹部3aは円柱状の空間となっている。凹部3aの底部には、一対の吊り環5が取り付けられている。これらの吊り環5は、杭ブロック1をクレーン等で吊り下げる際に利用される。各吊り環5の最頂部は凹部3a内にあり、嵌合凸部3より突出することはない。各吊り環5の脚部は、円柱部2内に埋設されている。吊り環5が容易に脱落しないように、図示のように脚部の先端を屈曲させることが好適である。
【0019】
次に、杭ブロック1の材料について説明する。杭ブロック1は、透水性を有するセメント系の固化物である。固化前の配合材料は、少なくともセメント、骨材としての破砕瓦、及び調合水(水と混和剤の混合物)を成分として含む。これらに加え、短繊維を配合してもよい。材料1m
3当たりの配合例を表1に示す。
【0021】
杭ブロック1の骨材としては、破砕瓦を用いる。例えば三州瓦(愛知県西三河地方で生産)の規格外品を破砕処理したものである。好適には、粒径2mm〜5mmの範囲(篩い7号相当)のものを選別して用いる。このような破砕瓦の特性は、一例として、表乾密度:2.24g/cm
3、吸水率:7.86%である。本発明で用いる瓦は、粘土を例えば1100〜1150℃の高温で焼成して生産されたものをいう。
【0022】
このような瓦を破砕した破砕瓦はその表面に破砕面が形成されており、それらの破砕面には多孔質の間隙が露出する。よって、破砕瓦は吸水性が良好であり、セメント系固化物の骨材として使用することにより高い透水性を備えた杭ブロックが得られる。また、破砕瓦は多孔質であるので、一般的な骨材である砕石に比べて軽量であるという利点もある。なお、瓦の生産工程における規格外品以外に、屋根の葺き替えにより発生した廃棄瓦も、破砕瓦の材料として利用することができる。
【0023】
混和剤は、例えば比重1.04g/cm
3の高分子系合成樹脂(商品名「デンカスーパーS」デンカ株式会社製)である。短繊維は、例えば直径100μm、長さ12mmのビニロン繊維である。
【0024】
水セメント比W/Cは、最大でも約60%が好適である。骨材の破砕瓦の吸水率が高いので、破砕瓦による吸水量を考慮して、一般的な骨材を用いるコンクリートに比べてW/Cを高めとしている。
【0025】
セメントと破砕瓦の重量配合比は、セメント1に対して破砕瓦を3.5〜4.5とすることが、好適である。また、セメントと破砕瓦と水の重量配合比は、セメント1に対して破砕瓦が3.5〜4.5、水が0.5〜0.6であることが、好適である。
【0026】
表2は、杭ブロック1の設計基準値を示している。
【表2】
【0027】
材料の配合比の調整により、表2に示した必要な基準値を達成することができる。表3及び表4は、表1に示した配合にて製造した杭ブロックについて、透水係数及び圧縮強度を計測した結果をそれぞれ示している。計測に用いた杭ブロックの寸法は、
図2に示した長さL:1m、直径D:450mmである。3つの試料を製造して計測を行った。
【0030】
図3は、
図1及び
図2に示した杭ブロック1を対象地盤に施工した状態の一例を模式的に示した断面図である。図示の例では、7個の杭ブロック1を上下に積み重ねることにより、長尺の杭10を地盤中に構築している。杭10は、住宅の基礎杭とすることが好適であるが、住宅以外の建築構造物若しくは土木構造物の基礎杭として、又は、それ以外の目的の杭として構築してもよい。杭ブロック1の長さが1m〜2mの場合、杭10の最大長は10m程度とすることが好適である。また、住宅の基礎杭とする場合、水平方向の杭間隔は、例えば1m〜2m程度とする。
【0031】
対象地盤は、下層から上層に向かって、非液状化層21、液状化層22、表土23、排水層24から構成されている。非液状化層21は、地震時にも液状化しない安定層である。液状化層22が存在する場合、非液状化層21は、通常、地表より5m以上の深度にある。基礎杭としての機能を確保するために、杭10の下端部を非液状化層21内に配置することにより根入れする。根入れする部分の長さは、住宅の基礎杭の場合、例えば1m程度とする。杭ブロック1の長さが1mであれば、1つの杭ブロック1が非液状化層21内に設置されることになる。根入れの長さは、杭10の目的及び施工条件に応じて適切に設定する。
【0032】
液状化層22は、非液状化層21との境界から地下水位の最高位置までの範囲である。液状化層22の上に表土層23がある。表土層23の表面が、施工前の地盤表面である。排水層24は、施工の最終工程で形成される砂利層などで構成される。排水層24は、一番上の杭ブロック1の突出した頭部を覆うためのものでもある。
【0033】
液状化が発生した際、杭10がその周面から液状化層22内の地下水を吸水して、地表に排水する。この結果、液状化層22における過剰間隙水圧の上昇が抑制され、液状化層22が非液状化される。
【0034】
杭ブロックの形状及び上下の杭ブロック間の接続手段は、上述した例に限られない。杭ブロックは、中実の略円柱状の本体を有し、上下方向に積み重ねて1本の杭を形成できる形状であればよい。略円柱状の本体の上端部及び下端部の形状は、接続手段に応じて適宜設計することができる。上述した嵌合凸部と嵌合凹部は一例である。例えば、上下の杭ブロックを接着剤により接合してもよい。
【0035】
図4は、継手部材を用いて接続される杭ブロックの別の実施形態を例示した図である。(a)は2つの杭ブロック1’を積み重ねた概略断面図であり、(b)は継手部材6の概略断面図、(c)は継手部材6の概略平面図である。継手部材6は、肉厚管と肉薄管を付き合わせた形状の管状部材である。継手部材6の両端に上下の杭ブロック1’、1’を差し込むことにより接続している。継手部材6は、合成樹脂製とすることができ、例えば塩化ビニル製である。杭ブロック1’の略円柱状の本体2’の端部形状は、継手部材6に合わせて成形されている。
図4に示した継手部材6は一例であり、これ以外に鋼製ソケットも用いることができる。
【0036】
図5は、
図1及び
図2に示した杭ブロックを対象地盤に施工する工法の一例を概略的に示した図である。
【0037】
施工前に工場等において杭ブロックを製造する。製造方法は、上述した配合材料を混合し、型枠内に流し込み、十分な強度が発現するまで養生する方法である。鋼材である吊り環は、配合材料を型枠内に流し込むときに吊り環の脚部が所定の位置に埋設されるようにする。
【0038】
このようにして製造された杭ブロックを、例えば戸建て住宅の建築現場に搬入する。建築現場には、必要な作業機械やプラント設備も準備される。
【0039】
図5(a)では、先ず、掘削機の一種であるオーガー30を所定の位置にセットする。続いて
図5(b)に示すように、対象の地盤に削孔40を形成していく。削孔40の鉛直性を確保しながらゆっくりと掘削することが好ましい。削孔40の直径は、杭ブロック1を円滑に挿入できる程度の余裕をもたせた大きさとする。例えば、杭ブロック1の直径が450mmの場合、削孔40の直径を600mmとする。
【0040】
図5(c)で、設計通りの深度の削孔40の形成を完了する。掘削完了後も、掘削土が残留しないように同じ深度にてオーガー30をしばらく回転させる。オーガー30の残部長さの計測により、削孔40の深度を確認できる。オーガー30を引き抜く前に、孔壁の崩壊を防止するための孔壁保護材を充填する。
【0041】
図5(d)で、削孔底部から1m程度の高さまで根固め材を充填する。根固め材の配合例を表5に示す。表5の混和剤は、特殊リグニンスルホン酸塩(商品名「フローリックGR」株式会社フローリック製)である。その後、オーガー30をゆっくりと引き抜く。
【0043】
図5(e)で、クレーンのクレーンフック60と杭ブロック1の吊り環をロープで連結して1つずつ削孔内に吊り降ろし、必要な個数を積み重ねていく。
【0044】
図5(f)では、一番上の杭ブロック1の露出した頭部の養生を行う。具体的には、杭ブロック1の頭部を覆い隠すように、所定の厚さの排水層24を地表に設ける。その後、次の杭の位置に移動して、同様に施工を行う。
【符号の説明】
【0045】
1、1’ 杭ブロック
2、2’ 円柱部
3 嵌合凸部
4 嵌合凹部
5 吊り環
6 継手部材
10 杭(基礎杭)
21 非液状化層
22 液状化層
23 表土層
24 排水層
30 掘削機
40 削孔
50 根固め液
60 クレーンフック