特許第6853072号(P6853072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853072
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】歯科印象材用基材及び歯科印象材
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/90 20200101AFI20210322BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20210322BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20210322BHJP
   A61K 6/71 20200101ALI20210322BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20210322BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20210322BHJP
【FI】
   A61K6/90
   A61K6/15
   A61K6/60
   A61K6/71
   A61K6/76
   A61K6/17
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-45982(P2017-45982)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2018-150253(P2018-150253A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】鍋野 昇平
(72)【発明者】
【氏名】本松 大喜
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050028(WO,A1)
【文献】 特開昭58−035105(JP,A)
【文献】 特開平5−194137(JP,A)
【文献】 特開平9−202707(JP,A)
【文献】 特開昭59−204113(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0261136(US,A1)
【文献】 特開2011−225507(JP,A)
【文献】 特開2006−117665(JP,A)
【文献】 Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2011年,Vol.11,pp.1547-1550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、アルギン酸塩、及びフィラーを含む歯科印象材用基材であって、
前記フィラーが、珪藻土と、シリカ粒子とを含み、
前記歯科印象材用基材中の前記珪藻土と前記シリカ粒子との質量比率が4/1〜1/1である、
歯科印象材用基材。
【請求項2】
レオメーターによる剪断応力測定において、剪断速度を1秒-1から100秒-1に増大させたときの剪断応力の最大値が、剪断速度を100秒-1超から1000秒-1に増大させたときの剪断応力の最大値よりも大きい、請求項1に記載の歯科印象材用基材。
【請求項3】
レオメーターによる剪断応力測定において、剪断速度1000秒-1における剪断応力から導出される粘度が0.3Pa・s〜1.4Pa・sである、請求項1又は2に記載の歯科印象材用基材。
【請求項4】
前記歯科印象材用基材中の前記珪藻土と前記シリカ粒子との合計含有率が15質量%〜30質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科印象材用基材。
【請求項5】
前記歯科印象材用基材の電子顕微鏡像から測定したときに、前記シリカ粒子の平均一次粒子径が10nm〜100nmであり、前記珪藻土の平均粒子径が5μm〜30μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯科印象材用基材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯科印象材用基材と、硬化材とを含む、歯科印象材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科印象材用基材、及びこれを含む歯科印象材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科印象材としては、ハイドロコロイド印象材(例えば寒天系又はアルギン酸塩系の印象材)が広く使用されている。例えばアルギン酸塩系印象材は、通常、アルギン酸塩を含むペースト状基材と、硬化剤を含むペースト状硬化材とをオートミキサーで練和することによって調製される。印象材には、適切な稠度を有すること、及び印象採取の所要時間(すなわち硬化時間)が適切な範囲に調整されていることが求められている。基材及び硬化材がペースト状であるものは、例えば粉末状のものと比べて操作性及び再現性がより良好である。
【0003】
特許文献1は、アルギン酸塩,水,充填材を主成分とする主材ペーストと、硫酸カルシウム,液状成分を主成分とする硬化材ペーストとの2種類のペーストを混合して硬化させる歯科用アルギン酸塩印象材組成物において、主材ペースト中にカラーギナン,プルラン,ガードラン,キサンタンガム,ジェランガム,ペクチン,コンニャクグルコマンナン,キシログルカン,グァーガム,アラビアガム,ローカストビーンガムより選ばれる1種又は2種以上の多糖類が0.01〜15重量%,硬化材ペースト中にポリブテンが0.5〜50重量%含有せしめられていることを特徴とする歯科用アルギン酸塩印象材組成物を記載する。
【0004】
特許文献2は、(A)アルギン酸またはその誘導体、(B)水、及び(C)非還元糖を含有することを特徴とするアルギン酸類含有水性組成物を記載する。
【0005】
特許文献3は、アルギン酸塩と、ゲル化反応剤と、非還元糖と、を含み、かつ、上記アルギン酸塩1質量部に対して、上記非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれることを特徴とする歯科用アルジネート印象材を記載する。
【0006】
特許文献4は、(A)硫酸カルシウム、(B)20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩、及び(C)アルギン酸一価塩、を含むことを特徴とする歯科用アルジネート印象材を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−087922号公報
【特許文献2】特開2011−225507号公報
【特許文献3】特開2012−106937号公報
【特許文献4】特開2014−156437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
歯科印象材用基材は、通常ある程度高い粘度を有するが、歯科印象材用基材に対して、製造時又は硬化材との練和時に高剪断速度の剪断力がかかると、高い応力が生じ取扱い性の観点で好ましくなかった。
【0009】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、歯科印象材における良好な印象精度、並びに歯科印象材用基材と硬化材との練和時及び歯科印象材の使用時における良好な取扱い性、を与えることが可能な歯科印象材用基材、及びこれを含む歯科印象材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、水、アルギン酸塩、及びフィラーを含む歯科印象材用基材であって、
該フィラーが、珪藻土と、シリカ粒子とを含み、
該歯科印象材用基材中の該珪藻土と該シリカ粒子との質量比率が4/1〜1/1である、歯科印象材用基材を提供する。
【0011】
本発明の一態様は、本発明の一態様に係る歯科印象材用基材と、硬化材とを含む、歯科印象材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、歯科印象材における良好な印象精度、並びに歯科印象材用基材と硬化材との練和時及び歯科印象材の使用時における良好な取扱い性、を与えることが可能な歯科印象材用基材、及びこれを含む歯科印象材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示の態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0014】
<歯科印象材用基材>
本開示の一態様は、水、アルギン酸塩、及びフィラーを含む歯科印象材用基材(本開示で、「基材」ということもある。)を提供する。本開示の基材は、アルギン酸塩系歯科印象材の基材として使用される。本開示の基材において、フィラーは、珪藻土と、シリカ粒子とを含む。本開示の歯科印象材用基材は、その特定の配合組成、特に、珪藻土とシリカ粒子との組合せを含むことに起因して、低剪断速度下で大きい剪断応力を有することによって、歯科印象材の製造時(すなわち基材と硬化材との練和時)及び使用時(すなわち印象採取時)の良好な取扱い性を与える。また、高剪断速度下では小さい剪断応力を有することによって、基材の製造時及び基材と硬化材との練和時の良好な取り扱い性を与える。
【0015】
本開示で、「珪藻土」とは、珪藻の殻の堆積及び化石化によって生じた土を示す。典型的な態様において、珪藻土は粒子である。珪藻土は、市販品であってもよい。市販品は、例えばEP Minerals LLC.、Imerys Filtration Inc.、中央シリカ株式会社等より供給されている。本開示の歯科印象材用基材は、珪藻土を含むことで、歯科印象材として要求される比較的低い永久歪みを有することで、良好な印象精度を与える。
【0016】
好ましい態様において、歯科印象材用基材の電子顕微鏡像から測定したときの珪藻土の平均粒子径は、歯科印象材に低い永久歪みによる良好な印象精度を与える観点から、約5μm以上、又は約8μm以上、又は約10μm以上であり、低剪断速度下での高い剪断応力又は粘度を比較的高く維持する観点から、約30μm以下、又は約25μm以下、又は約20μm以下である。
【0017】
珪藻土の上記平均粒子径は下記方法で測定される。すなわち、基材の350μm×250μmの視野サイズでの電子顕微鏡(例えば走査型電子顕微鏡)像において任意に20個の珪藻土粒子を選択する。珪藻土粒子を選択する際にはその全形が撮像されている粒子を選択することが好ましい。なお、珪藻土の粒子は珪藻を起源とすることに起因して通常独特の幾何学形状を有していることから、珪藻土以外の粒子とは容易に判別できる。珪藻土の粒子を視野上で任意に20個選択してその長径(すなわち最大差渡し)を画像上で計測し、20個の数平均値を珪藻土の平均粒子径とする。
【0018】
好ましい態様において、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定したときの珪藻土の累積分布50%粒子径メジアン径は、歯科印象材に低い永久歪みによる良好な印象精度を与える観点から、約5μm以上、又は約8μm以上、又は約10μm以上であり、低剪断速度下での高い剪断応力又は粘度を比較的高く維持する観点から、約30μm以下、又は約25μm以下、又は約20μm以下であってよい。
【0019】
好ましい態様において、珪藻土の嵩密度は、約0.08〜約0.29、又は約0.1〜約0.27、又は約0.12〜約0.25であってよい。嵩密度は、ケーク嵩密度測定試験で測定される値である。
【0020】
シリカ粒子としては、天然シリカ及び合成シリカ、結晶質シリカ及び非晶質シリカ、乾式法シリカ及び湿式法シリカのいずれも使用できる。好ましい態様において、シリカ粒子は、二次凝集粒子の分散性の観点から、沈降法シリカである。
【0021】
好ましい態様においては、歯科印象材用基材の電子顕微鏡像から測定したときに、シリカ粒子の平均一次粒子径が、約10nm〜約100nmである。このような粒子径を有するシリカ粒子は、通常凝集して、より大きい二次粒子径を有する。平均一次粒子径が上記範囲であることは、基材中のシリカ粒子が、剪断力がかかっていない状態では複数の粒子が凝集した二次粒子として存在する一方、剪断力がかかると粒子間の凝集が解かれて一次粒子の状態で基材中に分散するようになり、これによって、基材に擬塑性を付与して、剪断力下での基材の剪断応力又は粘度を大幅に下げることができる点で有利である。シリカ粒子の粒子径は、非剪断下と剪断下とでの基材の剪断応力又は粘度の差を大きくする観点からは小さい方が好ましく、この観点では、上記平均一次粒子径は、好ましくは約100nm以下、又は約80nm以下、又は約60nm以下である。一方、非剪断下での基材の剪断応力又は粘度を比較的高く維持する観点で、上記平均一次粒子径は、好ましくは、約10nm以上、又は約20nm以上、又は約30nm以上である。
【0022】
シリカ粒子の上記平均一次粒子径は下記方法で測定される。すなわち、基材の1.5μm×1.2μmの視野サイズでの電子顕微鏡(例えば走査型電子顕微鏡)像において任意に20個のシリカ一次粒子を選択する。なお、シリカ粒子は基材中で通常は凝集して二次粒子を形成しているが、当該二次粒子を構成する個々の一次粒子の形態は電子顕微鏡像上で判別できる。電子顕微鏡像上で一次粒子としての輪郭が全周で明瞭に確認できる一次粒子を視野上で任意に20個選択してその長径(すなわち最大差渡し)を画像上で計測し、20個の数平均値をシリカ粒子の平均一次粒子径とする。
【0023】
好ましい態様において、シリカ粒子のBET比表面積は、約10〜約1000、又は約100〜約800、又は約300〜約600である。
【0024】
シリカ粒子は、表面処理されたものであっても、表面処理されていないものであってもよい。例えば、表面処理されたシリカ粒子は、エポキシシラン、アクリルシラン、アミノシラン、ビニルシラン、フェニルシランであってよい。
【0025】
歯科印象材用基材中の珪藻土とシリカ粒子との質量比率は、約4/1〜約1/1である。珪藻土の寄与によって歯科印象材の永久歪みを小さくする観点から、上記比率は、約1/1以上であり、好ましくは約1.2/1以上、又は約1.5/1以上である。また、シリカ粒子の寄与によって低剪断速度下で大きくかつ高剪断速度下で小さい剪断応力を得る観点から、上記比率は、約4/1以下であり、好ましくは約3/1以下、又は約2.5/1以下である。
【0026】
好ましい態様において、歯科印象材用基材中の珪藻土の含有率は、珪藻土の配合による効果を良好に得る観点から、約8質量%以上、又は約10質量%以上、又は約12質量%以上であり、歯科印象材の永久歪みが小さくなり過ぎることを防止して良好な印象精度を得る観点から、約25質量%以下、又は約20質量%以下、又は約17質量%以下である。
【0027】
好ましい態様において、歯科印象材用基材中のシリカ粒子の含有率は、シリカ粒子の配合による効果を良好に得る観点から、約3質量%以上、又は約5質量%以上、又は約6質量%以上であり、歯科印象材の永久歪みが小さくなり過ぎることを防止して良好な印象精度を得る観点から、約20質量%以下、又は約15質量%以下、又は約10質量%以下である。
【0028】
好ましい態様において、歯科印象材用基材中の珪藻土とシリカ粒子との合計含有率は、歯科印象材の良好な機械強度及び比較的小さい永久歪みを得る観点から、約15質量%以上、又は約18質量%以上、又は約20質量%以上であり、及び歯科印象材の永久歪みが小さくなり過ぎることを防止して良好な印象精度を得る観点から、約30質量%以下、又は約26質量%以下、又は約24質量%以下である。
【0029】
なお本開示の基材において、珪藻土及びシリカ粒子の量及び比率の値は、基材の製造時の珪藻土及びシリカ粒子の使用量(すなわち仕込み量)、又は基材中の珪藻土及びシリカ粒子の量の測定による値の少なくともいずれかにおいて満たされればよい。
【0030】
本開示の歯科印象材用基材に含まれるフィラーは、実質的に珪藻土及びシリカ粒子からなるものでもよいし、更に、追加のフィラーとして、アルミナ等を含んでもよい。好ましい態様において、フィラーは、実質的に珪藻土及びシリカ粒子からなる。
【0031】
本開示の歯科印象材用基材は、水及びアルギン酸塩を含む。アルギン酸塩はゲル化剤として機能する。アルギン酸塩としては、アルギン酸のカリウム塩及びナトリウム塩を例示できる。好ましい態様において、アルギン酸塩はアルギン酸カリウムである。
【0032】
好ましい態様において、基材100質量%中のアルギン酸塩の量は、約1〜約10質量%である。当該量は、印象材に良好な物性を与える観点から、好ましくは、約1質量%以上、又は約2質量%以上、又は約3質量%以上であり、好ましくは、約10質量%以下、約8質量%以下、又は約7質量%以下である。
【0033】
水は、精製水、脱イオン水等であってよい。好ましい態様において、基材100質量%中の水の量は、約50〜約90質量%である。当該量は、基材の粘度が高くなりすぎることを回避して基材と硬化材との練和及び印象材の適用(すなわち印象採取)を容易にする観点から、好ましくは、約50質量%以上、又は約55質量%以上、又は約60質量%以上であり、基材の粘度が低くなりすぎることを回避して基材と硬化材との練和及び印象材の適用を容易にし、更に印象材の物性を良好にする観点から、好ましくは、約90質量%以下、又は約85質量%以下、又は約80質量%以下である。
【0034】
基材は、水、アルギン酸塩、及びフィラーに加え、追加成分を更に含んでもよい。追加成分としては、防腐剤、硬化遅延剤、香料、界面活性剤等が挙げられ、これらの1種以上を使用できる。
【0035】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、等が挙げられる。好ましい態様において、基材100質量%中の防腐剤の量は、約0.01〜約1.0質量%である。
【0036】
硬化遅延剤としては、アルカリ金属リン酸塩(例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等)、アルカリ金属シュウ酸塩(例えばシュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム等)、アルカリ金属炭酸塩(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)等が挙げられる。中でも、ピロリン酸ナトリウム十水塩は、取り扱い容易性の観点から好ましい。好ましい態様において、基材100質量%中の硬化遅延剤の量は、約0.1〜約5質量%である。当該量は、印象材の速すぎる硬化を回避して印象採取時の操作時間を良好に確保する観点から、好ましくは、約0.1質量%以上、又は約0.3質量%以上、又は約0.4質量%以上であり、印象材の良好な硬化の観点から、好ましくは、約5質量%以下、又は約2質量%以下、又は約1質量%以下である。
【0037】
香料としては、ペパーミントフレーバー、アップルフレーバー等が挙げられる。好ましい態様において、基材100質量%中の香料の量は、約0.01〜約1.0質量%である。
【0038】
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤(例えばアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等)、陽イオン界面活性剤(例えばアルキルアミン塩、四級アンモニウム塩等)、両性界面活性剤(例えばアミノカルボン酸塩等)、及び非イオン界面活性剤(例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖エステル、ポリオキシジエチレンアルキルアミン、ポリシロキサン類とポリオキシエチレン類とのブロックポリマー等)が挙げられる。好ましい態様において、基材100質量%中の界面活性剤の量は、約0.1〜約5質量%である。当該量は、基材中の疎水性成分と親水性成分との分離を回避して良好な保存安定性を得る観点から、好ましくは、約0.1質量%以上、又は約0.2質量%以上、又は約0.3質量%以上であり、基材の他の成分の含有率を良好に確保する観点から、好ましくは、約5質量%以下、又は約2質量%以下、又は約1質量%以下である。
【0039】
好ましい態様において、基材は、
水:約65質量%〜約80質量%、
アルギン酸塩:約4質量%〜約5質量%、及び
フィラー:約15質量%〜約30質量%、並びに、
任意成分として
防腐剤:約0質量%〜約1質量%、
硬化遅延剤:約0質量%〜約1質量%、
香料:約0質量%〜約0.1質量%、及び
界面活性剤:約0質量%〜約1質量%、
の1種以上を含む。
【0040】
好ましい態様においては、剪断速度を1秒-1から100秒-1に増大させたときの基材の剪断応力の最大値が、剪断速度を100秒-1超から1000秒-1に増大させたときの基材の剪断応力の最大値よりも大きい。このような基材は、低剪断速度下での大きい剪断応力と、高剪断速度下での小さい剪断応力とを併せ持つことから、良好な取扱い性と良好な品位との両立の観点で有利である。
【0041】
好ましい態様において、剪断速度を1秒-1から100秒-1に増大させたときの上記最大値は、良好な取扱い性の観点から、約200Pa・s以上、又は約300Pa以上、又は約400Pa以上である。一方、低剪断速度下での剪断応力が高過ぎる場合にも基材及び歯科印象材の取扱い性が低下する傾向があるという観点から、剪断速度を1秒-1から100秒-1に増大させたときの上記最大値は、好ましくは、約4000Pa以下、又は約3000Pa以下、又は約2000Pa以下である。
【0042】
好ましい態様において、剪断速度を100秒-1超から1000秒-1に増大させたときの上記最大値は、気泡が少なく品位に優れる歯科印象材用基材及び歯科印象材を得る観点から、小さい程好ましい。好ましい態様において、剪断速度を1秒-1から100秒-1に増大させたときの剪断応力の最大値よりも小さいという条件で、剪断速度を100秒-1超から1000秒-1に増大させたときの剪断応力の最大値は、約1500Pa以下、又は約1250Pa以下、又は約1000Pa以下である。
【0043】
好ましい態様においては、レオメーターによる剪断応力測定において、剪断速度1000秒-1における剪断応力から導出される粘度は、品位に優れる基材及び歯科印象材を得る観点から、約1.5Pa・s以下、又は約1.25Pa・s以下、又は約1.0Pa・s以下である。
【0044】
なお上記剪断応力及び粘度は、レオメータを用いて測定温度25℃、Delay time 5秒、積分5秒、4/40のコーンプレートで剪断速度を0から1500に設定することで得られる値である。
【0045】
<歯科印象材>
本開示の一態様は、上述したような本開示の一態様に係る基材と、硬化材とを含む、歯科印象材を提供する。硬化材としては、アルギン酸塩系歯科印象材の硬化材として従来公知の種々の組成物を用いることができる。典型的な態様において、硬化材は、溶剤及びゲル化剤を含む。硬化材は、硬化遅延剤、界面活性剤、表面改質剤、着色剤、フィラー等を更に含んでよい。
【0046】
溶剤としては、炭化水素、アルコール、フェノール類、脂肪酸又はそのエステル、疎水性重合体、ポリエーテル等が挙げられる。
【0047】
炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ケロシン、2,7−ジメチルオクタン、1−オクテン等の脂肪族鎖状炭化水素;及びシクロヘプタン、シクロノナン等の脂環式炭化水素が挙げられる。炭化水素は、流動パラフィン等の炭化水素混合物であることができる。
【0048】
アルコールとしては、1−ヘキサノール、1−オクタノール等の飽和脂肪族アルコール;シトロネロール、オレイルアルコール等の不飽和脂肪族アルコール;及びベンジルアルコール等の芳香族アルコール;が挙げられる。フェノール類としては、クレゾール等が挙げられる。
【0049】
脂肪酸又はそのエステルとしては、ヘキサン酸、オクタン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸;及びオクタン酸エチル、フタル酸ジブチル、オレイン酸グリセリド等の脂肪酸エステルが挙げられる。
【0050】
疎水性重合体としては、ポリシロキサンが挙げられる。
【0051】
中でも、流動パラフィンは、良好な疎水性、入手及び取扱いの容易性、生体に対する安全性等の観点から好ましい。
【0052】
ポリエーテルとしては、直鎖又は分岐のポリエーテルが挙げられ、好ましくはポリアルキレングリコールである。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、中でも、ポリエチレングリコールは親水性に優れる点で好ましい。
【0053】
好ましい態様において、硬化材100質量%中の溶剤の量は、約10質量%〜約50質量%である。当該量は、基材と硬化材との練和を容易にする観点から、好ましくは、約10質量%以上、又は約13質量%以上、約15質量%以上、約18質量%以上、約20質量%以上、約23質量%以上、約26質量%以上、又は約30質量%以上であり、硬化材の良好な保存安定性を得る観点、及び硬化材の他の成分の含有率を良好に確保する観点から、好ましくは、約50質量%以下、又は約47質量%以下、約43質量%以下、又は約40質量%以下、又は約37質量%以下である。
【0054】
ゲル化剤としては、一般的には2価以上の金属化合物が利用できる。具体的には、カルシウム硫酸塩(例えば硫酸カルシウム半水塩、硫酸カルシウム無水塩、硫酸カルシウム二水塩等)、マグネシウム硫酸塩等が挙げられる。中でも、硫酸カルシウム半水塩は良好な硬化性を得る点で好ましい。
【0055】
好ましい態様において、硬化材100質量%中のゲル化剤の量は、約20〜約70質量%である。当該量は、良好な硬化性を得る観点から、好ましくは、約20質量%以上、又は約30質量%以上、又は約40質量%以上、又は約45質量%以上であり、歯科印象材の良好な物性を得る観点から、好ましくは、約70質量%以下、又は約60質量%以下、又は約55質量%以下、又は約50質量%以下である。
【0056】
硬化材に使用できる硬化遅延剤及び界面活性剤としては、基材について前述したのと同様の化合物が挙げられる。
【0057】
好ましい態様において、硬化材100質量%中の硬化遅延剤の量は、約0.1〜約10質量%である。当該量は、印象材の速すぎる硬化を回避して印象採取時の操作時間を良好に確保する観点から、好ましくは、約0.1質量%以上、又は約0.5質量%以上、又は約0.8質量%以上であり、歯科印象材の良好な硬化の観点から、好ましくは、約10質量%以下、又は約8質量%以下、又は約5質量%以下である。
【0058】
好ましい態様において、硬化材100質量%中の界面活性剤の量は、約0.1〜約10質量%である。当該量は、硬化材中の疎水性成分と親水性成分との分離を回避して良好な保存安定性を得る観点から、好ましくは、約0.1質量%以上、又は約0.5質量%以上、又は約0.8質量%以上であり、硬化材の他の成分の含有率を良好に確保する観点から、好ましくは、約10質量%以下、又は約8質量%以下、又は約5質量%以下である。
【0059】
表面改質剤は、印象材の表面をより平滑にして印象精度を良好にする作用を有する。表面改質剤としては、チタンフッ化カリウム、ケイフッ化カリウム等の無機フッ化化合物、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物等が挙げられる。中でも、チタンフッ化カリウムは、印象精度を高める観点から好ましい。好ましい態様において、硬化材100質量%中の表面改質剤の量は、良好な印象精度を得る観点から、約0.5〜約30質量%、又は約1〜約27質量%、約5〜約24質量%、又は約9〜約18質量%である。
【0060】
着色剤としては、赤色226号、赤色3号、青色1号、緑色3号等が挙げられる。好ましい態様において、硬化材100質量%中の着色剤の量は、約0.01〜約1.0質量%である。
【0061】
フィラーとしては、珪藻土、シリカ、アルミナ等が挙げられる。好ましい態様において、硬化材100質量%中のフィラーの量は、約1〜約40質量%である。当該量は、硬化材の粘度を高くする観点及び印象材の物性を良好にする観点から、好ましくは、約2質量%以上、又は約5質量%以上であり、硬化材の他の成分の含有率を良好に確保する観点から、好ましくは、約20質量%以下、又は約8質量%以下である。
【0062】
<歯科印象材用基材、硬化材及び歯科印象材の製造>
歯科印象材用基材及び硬化材は、それぞれ、例えば配合成分を公知の撹拌混合器で混合する方法で製造できる。撹拌混合器としては、ボールミル、リボンミキサー、コニーダー、インターナルミキサー、スクリューニーダー、ヘンシェルミキサー、万能ミキサー、レーディゲミキサー、バタフライミキサー等を使用できる。本開示の歯科印象材は、上記のようにして製造された基材と、硬化材との組合せとして提供されることができる。典型的な態様において、基材及び硬化材は、それぞれパッケージ内に封入された状態で提供され、これらのパッケージを公知の自動練和器に装着して、基材と硬化材とを所定比率で自動練和することにより、印象材ペーストが提供される。
【0063】
好ましい態様において、歯科印象材の永久歪みは、精密な印象採取を可能にする観点から、約5.0%以下、又は約4.5%以下、又は約4.0%以下である。
【0064】
本開示の永久歪み及び弾性歪みは、JIS T6505に準拠して測定される値である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の例示の態様について実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
<硬化材ペースト及び基材ペーストの調製>
表1に示す配合成分(硬化材について)及び表2に示す配合成分(基材について)のそれぞれを、常法で室温にて混合し、硬化材ペースト及び基材ペーストを得た。
【0067】
<評価>
(1)珪藻土及びシリカ粒子の粒子径
走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ社製「S4800」)を用い、加速電圧3.0kV、観察倍率4000倍にて、基材の350μm×250μmの視野サイズ及び、観察倍率80000倍にて、1.5μm×1.2μmの視野サイズの電子顕微鏡像を得た。顕微鏡像全体から任意に、上記の観察倍率4000倍の電子顕微鏡像から珪藻土粒子20個、及び上記の観察倍率80000倍の電子顕微鏡像からシリカ一次粒子20個をそれぞれ選択した。なおシリカ粒子は基材中で凝集して二次粒子を形成していたが、輪郭が全周で明瞭に確認できる一次粒子を20個選択した。珪藻土及びシリカ粒子のそれぞれについて、20個の長径を画像上で計測した。20個の平均値をそれぞれ、珪藻土の平均粒子径、及びシリカ粒子の平均一次粒子径とした。結果を表2に示す。
【0068】
(2)歯科印象材の永久歪み
上記で得た硬化材ペーストと、上記で得た実施例及び比較例に係る基材ペーストの各々とを常法にて室温で練和して歯科印象材を調製した。
【0069】
得られた歯科印象材の永久歪みを、JIS T6505に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0070】
(3)基材ペーストの剪断応力及び粘度
表2に示す配合の実施例及び比較例に係る基材ペーストの剪断応力及び粘度を、レオメーター(マルバーン社製 Gemini 150/200)を用いて測定した。測定剪断速度範囲は1秒-1〜1500秒-1である。結果を表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、珪藻土/シリカ粒子の比率が4/1〜1/1の範囲である各実施例においては、当該比率が上記の範囲外である各比較例と比べて、低剪断速度である剪断速度1秒-1〜100秒-1での剪断応力の最大値は大きくかつ高剪断速度である剪断速度100秒-1超〜1000秒-1での剪断応力の最大値は小さかった。また各実施例では歯科印象材の永久歪みが5%以下と比較的小さい良好な値を示した。また、各実施例では配合成分の混合によって得られた基材ペーストには目視で気泡が存在していないことを確認できた。シリカ粒子を用いていない比較例1、3及び4では、高剪断速度で大きい剪断応力を示した。一方珪藻土を用いていない比較例2では大きい永久歪みを示した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示の歯科印象用基材は、アルギン酸塩系の歯科印象材に好適に適用される。