特許第6853104号(P6853104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853104波長分散補償装置および波長分散補償方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853104
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】波長分散補償装置および波長分散補償方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/2513 20130101AFI20210322BHJP
   H04B 10/2575 20130101ALI20210322BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   H04B10/2513
   H04B10/2575 120
   G02F1/01 B
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-90690(P2017-90690)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2018-191088(P2018-191088A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】アブデルモウラ ベッカリ
(72)【発明者】
【氏名】西村 公佐
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−082457(JP,A)
【文献】 Bo Yang, et al.,Photonic Microwave Up-Conversion of Vector Signals Based on an Optoelectronic Oscillator,IEEE Photonics Technology Letters,IEEE,2013年 9月15日,Volume: 25, Issue: 18,pp.1758-1761
【文献】 Yinghui Guo, et al.,Modulation diversity transmitter for broadband chromatic dispersion compensation and spur-free dynamic range improvement in analog photonic links,CLEO: 2013,IEEE,2013年 6月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/2513
G02F 1/01
H04B 10/2575
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログのラジオオーバーファイバ(Radio-over-Fiber:RoF)システムにおけるファイバ波長分散補償を行なう波長分散補償装置であって、
上側アームと下側アームにそれぞれ並列に配置された第1および第2の副マッハツェンダー干渉計と、
前記各副マッハツェンダー干渉計を含む上側アームおよび下側アームからなる第3の主マッハツェンダー干渉計と、を備え、
前記第1の副マッハツェンダー干渉計は、直交点を含む一定の範囲で動作し、角周波数ωRFでRF信号を変調する一方、前記第2の副マッハツェンダー干渉計は、最小送信点で動作し、LO(Local Oscillator)信号を変調し、
前記第1の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するRF駆動電圧VRFの周波数ωRFと前記第2の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するLO駆動電圧VLOの周波数ωLOとの間に、ωLO=2ωが成り立つことを特徴とする波長分散補償装置。
【請求項2】
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、0.6以上かつ1.84以下であることを特徴とする請求項1記載の波長分散補償装置。
【請求項3】
前記第1の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmRFとし、
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmLOとし、
前記第1の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、
前記第3の主マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、
次数がnである第1種のベッセル関数をJn(.)とし、
キャリアに対するRF側波帯の分散誘導位相シフトをΦRFとし、
キャリアに対するLO側波帯の分散誘導位相シフトをΦLOとし、
RF<<1であると仮定し、
請求項1または請求項2記載の波長分散補償装置から出力された光信号を光検出器で受信した場合、前記光検出器の出力電流は、次の数式(1)から(3)で与えられ、数式(4)の条件を満たしたときに、θ、θ、θおよびmL0は、それぞれ数式(5)で示される数値に調整可能であることを特徴とする波長分散補償装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【請求項4】
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、1.84であることを特徴とする請求項1記載の波長分散補償装置。
【請求項5】
アナログのラジオオーバーファイバ(Radio-over-Fiber:RoF)システムにおけるファイバ波長分散補償を行なう波長分散補償方法であって、
上側アームと下側アームにそれぞれ並列に配置された第1および第2の副マッハツェンダー干渉計および前記各副マッハツェンダー干渉計を含む上側アームおよび下側アームからなる第3の主マッハツェンダー干渉計を備えるデュアルパラレルマッハツェンダー変調器を用いて、
前記第1の副マッハツェンダー干渉計を直交点の周辺で動作させて角周波数ωRFでRF信号を変調させる一方、前記第2の副マッハツェンダー干渉計を最小送信点で動作させてLO(Local Oscillator)信号を変調させ、
前記第1の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するRF駆動電圧VRFの周波数ωRFと前記第2の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するLO駆動電圧VLOの周波数ωLOとの間に、ωLO=2ωが成り立つことを特徴とする波長分散補償方法。
【請求項6】
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、0.6以上かつ1.84以下であることを特徴とする請求項5記載の波長分散補償方法。
【請求項7】
前記第1の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmRFとし、
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmLOとし、
前記第1の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、
前記第3の主マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、
次数がnである第1種のベッセル関数をJn(.)とし、
キャリアに対するRF側波帯の分散誘導位相シフトをΦRFとし、
キャリアに対するLO側波帯の分散誘導位相シフトをΦLOとし、
RF<<1であると仮定し、
請求項5または請求項6記載の波長分散補償方法によって出力された光信号を光検出器で受信した場合、前記光検出器の出力電流は、次の数式(6)から(8)で与えられ、数式(9)の条件を満たしたときに、θ、θ、θおよびmL0は、それぞれ数式(10)で示される数値に調整可能であることを特徴とする波長分散補償装置。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【請求項8】
前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、1.84であることを特徴とする請求項5記載の波長分散補償方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログのラジオオーバーファイバ(Radio-over-Fiber:RoF)システムにおけるファイバ波長分散補償を行なうための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、RoF(Radio-over-Fiber)は、ブロードバンド無線アクセスの有望な技術であるとされてきており、高い伝送容量、顕著な移動性と柔軟性、広帯域および低減衰特性を提供するために開発されてきた。このようなRoFシステムでは、多数のユーザ端末を収容し、動的なリソース割り当てが可能であるため、複数の異なる種類のサービスを同時に提供することが可能である。これらの可能性は、ラストマイルソリューション、既存の無線カバレッジと容量の拡張、バックホールなど、幅広いアプリケーションに好適である。
【0003】
RoFシステムを実際に運用する際には、中央局から遠隔局へRF信号を分配するために、RF信号を光搬送波上に配置し、大容量の光ファイバケーブルを介して送信する。しかし、ダブルサイドバンド(DSB)変調に基づくRoF伝送は、周波数およびファイバ長に依存して信号品質を著しく低下させる「ファイバ波長分散(Chromatic Dispersion:CD)」による周期的な深いパワーフェージングを受ける。一方、シングルサイドバンド(SSB)変調は、DSB変調の代替解決策となり得るが、SSB変調を実現させるためには、光学フィルタを含む複雑なセットアップが必要となることが多く、特に広帯域アプリケーションの実装が困難になる。
【0004】
近年、DSB変調を用いたRoFシステムにおいて、分散補償によるパワーフェージングの新しい効果的な手法が提案されている(非特許文献1-5)。これらの技術は、単一周波数信号CD補償(非特許文献1-3)と広帯域信号CD補償(非特許文献4,5)との2つに分類することができる。非特許文献1−3では、データ変調とCD補償の両方に「Dual Parallel Mach-Zehnder Modulator:DP-MZM(デュアルパラレルマッハツェンダー変調器)」と「Dual-Electrode Mach-Zehnder Modulator:DE-MZM(デュアル電極マッハツェンダー変調器)」が使用された。これらのデバイスは統合されており、使用が簡単であるという特徴を有する。一方、非特許文献4、5では、光リンクを介した広帯域RF信号伝送の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Li, et al, “Compensation of dispersion induced power fading for highly linear radio-over-fiber link using carrier phase-shifted double sideband modulation,” Opt. Lett., vol. 36, no. 4, pp. 546-548, Feb. 2011.
【非特許文献2】Y. Gao, et al .”An analog Photonic Link with compensation of dispersion induced power fading “ IEEE PTL vol 27, no 12, pp1301-1304, 2015.
【非特許文献3】Y. Gao, et al .”Compensation of the Dispersion-Induced Power Fading in an Analog Photonic Link Based on PM-IM Conversion in a Sagnac Loop”JLT vol.33, no.13, pp.2899-2904, 2015.
【非特許文献4】J. Niu, et al.“Broadband Dispersion-Induced Power Fading Compensation in Long-Haul Analog Optical Link Based on 2-Ch Phase Modulator” IEEE Photonics Journal, 2012.
【非特許文献5】L. Huang, “Broadband Compensation of Dispersion in APL Using OPC Based on DFB Semiconductor Lasers” IEEE PTL Vol. 27, No. 23, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1−3記載の技術では、特定の周波数とファイバに対してのみ有効であるという制限がある。また、非特許文献4、5に記載の技術では、複雑な設定を有し、実際のシナリオでは実現が容易ではない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の利点を組み合わせて、周波数とファイバの長さから制限を受けることなく、単一のデバイスを使用することで設定を簡略化し、実現を容易にすることができる波長分散補償装置および波長分散補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の波長分散補償装置は、アナログのラジオオーバーファイバ(Radio-over-Fiber:RoF)システムにおけるファイバ波長分散補償を行なう波長分散補償装置であって、上側アームと下側アームにそれぞれ並列に配置された第1および第2の副マッハツェンダー干渉計と、前記各副マッハツェンダー干渉計を含む上側アームおよび下側アームからなる第3の主マッハツェンダー干渉計と、を備え、前記第1の副マッハツェンダー干渉計は、直交点を含む一定の範囲で動作し、角周波数ωRFでRF信号を変調する一方、前記第2の副マッハツェンダー干渉計は、最小送信点で動作し、LO(Local Oscillator)信号を変調し、前記第1の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するRF駆動電圧VRFの周波数ωRFと前記第2の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するLO駆動電圧VLOの周波数ωLOとの間に、ωLO=2ωが成り立つことを特徴とする。
【0009】
この構成により、IM変調(IωRF1(t,L))の信号に信号IωRF2(t,L)を積極的に加えることができるため、フェージングを完全に緩和することが可能となる。
【0010】
(2)また、本発明の波長分散補償装置において、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、0.6以上かつ1.84以下であることを特徴とする。
【0011】
この構成により、波長分散を補償する上で、許容できる最低の性能を発揮させることが可能となる。
【0012】
(3)また、本発明の波長分散補償装置において、前記第1の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmRFとし、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmLOとし、前記第1の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、前記第3の主マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、次数がnである第1種のベッセル関数をJn(.)とし、キャリアに対するRF側波帯の分散誘導位相シフトをΦRFとし、キャリアに対するLO側波帯の分散誘導位相シフトをΦLOとし、mRF<<1であると仮定し、上記(1)または(2)記載の波長分散補償装置から出力された光信号を光検出器で受信した場合、前記光検出器の出力電流は、次の数式(1)から(3)で与えられ、数式(4)の条件を満たしたときに、θ、θ、θおよびmL0は、それぞれ数式(5)で示される数値に調整可能であることを特徴とする。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0013】
この構成により、波長分散を補償する上で、最大の効果を達成することが可能となる。
【0014】
(4)また、本発明の波長分散補償装置において、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、1.84であることを特徴とする。
【0015】
この構成により、波長分散を補償する上で、最大の効果を達成することが可能となる。
【0016】
(5)また、本発明の波長分散補償方法は、アナログのラジオオーバーファイバ(Radio-over-Fiber:RoF)システムにおけるファイバ波長分散補償を行なう波長分散補償方法であって、上側アームと下側アームにそれぞれ並列に配置された第1および第2の副マッハツェンダー干渉計および前記各副マッハツェンダー干渉計を含む上側アームおよび下側アームからなる第3の主マッハツェンダー干渉計を備えるデュアルパラレルマッハツェンダー変調器を用いて、前記第1の副マッハツェンダー干渉計を直交点の周辺で動作させて角周波数ωRFでRF信号を変調させる一方、前記第2の副マッハツェンダー干渉計を最小送信点で動作させてLO(Local Oscillator)信号を変調させ、前記第1の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するRF駆動電圧VRFの周波数ωRFと前記第2の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するLO駆動電圧VLOの周波数ωLOとの間に、ωLO=2ωが成り立つことを特徴とする。
【0017】
この構成により、IM変調(IωRF1(t,L))の信号に信号IωRF2(t,L)を積極的に加えることができるため、フェージングを完全に緩和することが可能となる。
【0018】
(6)また、本発明の波長分散補償方法において、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、0.6以上かつ1.84以下であることを特徴とする。
【0019】
この構成により、波長分散を補償する上で、許容できる最低の性能を発揮させることが可能となる。
【0020】
(7)また、本発明の波長分散補償方法において、前記第1の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmRFとし、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数をmLOとし、前記第1の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、前記第3の主マッハツェンダー干渉計の位相シフト量をθとし、次数がnである第1種のベッセル関数をJn(.)とし、キャリアに対するRF側波帯の分散誘導位相シフトをΦRFとし、キャリアに対するLO側波帯の分散誘導位相シフトをΦLOとし、mRF<<1であると仮定し、上記(5)または(6)記載の波長分散補償方法によって出力された光信号を光検出器で受信した場合、前記光検出器の出力電流は、次の数式(6)から(8)で与えられ、数式(9)の条件を満たしたときに、θ、θ、θおよびmL0は、それぞれ数式(10)で示される数値に調整可能であることを特徴とする波長分散補償装置。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0021】
この構成により、波長分散を補償する上で、最大の効果を達成することが可能となる。
【0022】
(8)また、本発明の波長分散補償方法において、前記第2の副マッハツェンダー干渉計の光変調指数は、1.84であることを特徴とする。
【0023】
この構成により、波長分散を補償する上で、最大の効果を達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光ファイバの波長分散(CD)によって引き起こされるパワーフェージングの広帯域にわたる補償が可能となる。また、光ファイバの長さに制限はなく、簡易な構成で光信号の生成と伝送をすることが可能となる。その結果、光リンクを介して高データレートのアナログ信号を送信することが可能となり、本実施形態に係るシステムは、低遅延化、エネルギー効率の向上、高速データレート、大容量通信など、将来のモバイル通信システムが求める要件を満たすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本実施形態に係る波長分散補償装置の概略構成を示す図である。
図1B】DCバイアス電圧と各MZIの出力電力との関係を示す図である。
図1C】Eout(t,L)の位相シフト量の一例を示す図である。
図2】20kmのSMF送信を用いた従来のIM変調(IωRF1(t,L))と、本実施形態(IωRF(t,L))のシミュレーションされた周波数応答を示す図である。
図3】異なるmL0の値を用いたシミュレーション結果を示す。
図4】「mL0(LO OMI)の選択」の最良の範囲を示す図である。
図5】広帯域(0〜30GHz)で2本のファイバ長(L=20kmと50km)における本実施形態の性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは、アナログRoFシステムにおいて、光ファイバ波長分散(CD)によってパワーフェージングが引き起こされる点に着目し、デュアルパラレルマッハツェンダー変調器において、第1のブランチでRF信号を変調すると共に、第2のブランチで2つの光トーン信号を生成させることによって、全周波数帯域において、パワーフェージングを回避できることを見出し、本発明をするに至った。
【0027】
すなわち、本発明の波長分散補償装置は、アナログのラジオオーバーファイバ(Radio-over-Fiber:RoF)システムにおけるファイバ波長分散補償を行なう波長分散補償装置であって、上側アームと下側アームにそれぞれ並列に配置された第1および第2の副マッハツェンダー干渉計と、前記各副マッハツェンダー干渉計を含む上側アームおよび下側アームからなる第3の主マッハツェンダー干渉計と、を備え、前記第1の副マッハツェンダー干渉計は、直交点の周辺で動作し、角周波数ωRFでRF信号を変調する一方、前記第2の副マッハツェンダー干渉計は、最小送信点で動作し、LO(Local Oscillator)信号を変調し、前記第1の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するRF駆動電圧VRFの周波数ωRFと前記第2の副マッハツェンダー干渉計に対して印加するLO駆動電圧VLOの周波数ωLOとの間に、ωLO=2ωが成り立つことを特徴とする。
【0028】
これにより、本発明者らは、パワーフェージングを完全に緩和することを可能とした。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0029】
図1Aは、本実施形態に係る波長分散補償装置の概略構成を示す図である。また、図1Bは、DCバイアス電圧と各MZIの出力電力との関係を示す図である。この波長分散補償装置10は、上側アームと下側アームにそれぞれ並列に配置された第1の副マッハツェンダー干渉計(MZI1)と第2の副マッハツェンダー干渉計(MZI2)を備える。また、各副マッハツェンダー干渉計を含む上側アームおよび下側アームからなる第3の主マッハツェンダー干渉計(MZI3)に接続された構成を採る。
【0030】
この波長分散補償装置10は、3つの独立したDCバイアス電圧と2つのRF駆動電圧によって制御される。すなわち、MZI1はDCバイアス電圧である「Vbias-11)」とRF駆動電圧である「VRF(t)=VRFsin(ωRFt)」によって制御される。MZI2はDCバイアス電圧である「Vbias-22)」とRF駆動電圧である「VLO(t)=VLOsin(ωLOt)」によって制御される。MZI3はDCバイアス電圧である「Vbias-33)」によって制御される。なお、以上の「」内では、各電圧と数式上のパラメータの対応を示している。また、「MZI」は「MZM」と記載される場合もある。
【0031】
本実施形態では、MZI1を角周波数(ωRF)でRF信号を変調するために使用し、直交点(図1Bの"Quad point"、通常は右側のQuad point)の周辺で動作させる。また、MZI2をLO(Local Oscillator)信号を変調するために使用し、最小送信点(ヌルバイアス点、図1Bの"Null point")で動作させる。これにより、LD4から入力される光信号(Ein(t)=Eincos(ω0t))は、抑制された搬送波の形式で変調される。ここで、2つの光側波帯間隔(2つの光信号の周波数帯域幅)は、「ωLO=2ωRF」と設定される。
【0032】
ここで、MZI1およびMZI2が、両方ともチャープのない構成で動作すると共に、Y分岐路において均等な電力分配比で動作する場合、MZI1およびMZI2の光出力信号は、それぞれ、以下の数式で与えられる。なお、Vπは、図1Bに示すMZIの半波長電圧である。
【0033】
【数11】
【0034】
【数12】
【0035】
そして、本実施形態に係る波長分散補償装置の出力は、次の数式で与えられる。
【数13】
【0036】
上記の数式において、波長分散によって引き起こされるパワーフェージングの補償につながる「mRF、mLO、θ、θ、θ」は、次のように与えられる。mRFは、MZI1の光変調指数(OMI:Optical Modulation Index)であり、mLOはMZI2のOMIである。「θ、θ、θ」は、それぞれMZI1、MZI2、MZI3の位相シフト量である。
【0037】
【数14】
【0038】
ここで、高次高調波が無視できるように、「mRF<<1」と仮定すると、MZI2は、最小送信点(例えば、θ=π)にバイアスされ、メインキャリアを含む偶数次高調波がキャンセルされる 。従って、Eoutは次のように書くことができる。
【0039】
【数15】
【0040】
ここで、Jn(.)は、次数がnである第1種のベッセル関数である。
【0041】
また、ΦRFとΦLOは、図1Cに示すように、キャリアに対するRFおよびLO側波帯の分散誘導位相シフト(Dispersion-induced Phase Shifts)であり、次の数式で与えられる。βは、分散係数である。
【0042】
【数16】
【0043】
上記の「Eout」で与えられる光信号を、強度検出用の光検出器(PD:フォトダイオード)に送信すると、PDの出力電流は、次の数式で与えられる。
【0044】
【数17】
【0045】
ここで、
【数18】
であるから、PDの周波数に対応する出力電流は、次の数式で与えられる。
【0046】
【数19】
【0047】
ここで、信号の最初の部分は、次の数式に示されるように、MZI1(従来の強度変調:IM)による電気出力に対応する。
【0048】
【数20】
【0049】
次に、信号の第2の部分は、次の数式に示されるように、MZI1で変調されたデータを用いて、MZI2で生成された光ツートーン信号を示す。
【0050】
【数21】
【0051】
これらの数式で示されるPDの出力に対してパワーフェージングを確実に回避するために、θを「θ=1/2θ」として設定する必要がある。また、次の条件を満たす必要がある。
【0052】
【数22】
【0053】
そして、ベッセル関数J1(mL0)により、最適な値「mL0=1.84」を得ることができる。すなわち、「θ、θ、θ」および「mL0」は、それぞれ次の値が最適である。
【0054】
【数23】
【0055】
図2は、この最適値に基づいて、20kmのSMF送信を用いた従来のIM変調(IωRF1(t,L))と、本実施形態(IωRF(t,L))のシミュレーションされた周波数応答を示す図である。図2に示すように、従来のIM変調(IωRF1(t,L))では、信号が20km以上送信された場合、周波数が14GHz付近で深いフェージングが発生する。これに対し、信号IωRF2(t,L)を積極的に加えることにより、フェージングを完全に緩和することが可能となる。
【0056】
図3は、異なるmL0の値を用いたシミュレーション結果を示す。図3に示されるように、「mL0=1.84」である場合に、最大利得が達成可能であることは明らかである。しかしながら、「mL0=0.6」である場合、許容できる最低の性能が発揮されることから、「mL0>0.6」が満たされれば、十分に波長分散補償の効果が得られると言える。
【0057】
図4は、「mL0(LO OMI)の選択」の最良の範囲を見つける方法を示す図である。図4に示すように、相対フェージング(Δ)は、パワーフェージングの最大値と最小値の差として定義される。最良の範囲の上限は、mL0,maxに対応し、次の数式で与えられる。この上限において、相対フェージング閾値(Δth)を、「mL0=mL0,max」のときの相対フェージングとして定義することができる。従って、下限「mL0,min」は、この一次方程式を解くことによって見つけることが可能となる。
【0058】
【数24】
【0059】
図4から、最良の範囲は、[0.6, 1.84]であることが分かる。
【0060】
図5は、広帯域(0〜30GHz)で2本のファイバ長(L=20kmと50km)における本実施形態の性能を示す図である。「θ、θ、θ」および「mL0」は、それぞれ上述した最適値を用いている。図5から明らかなように、フェージングはすべてのヌルポイント(図2の曲線(2)および(3)において強度が急激に低下している周波数付近)に対して補償され、平均受信電力は一定のままとなっている。
【0061】
以上説明したように、本実施形態によれば、光ファイバの波長分散(CD)によって引き起こされるパワーフェージングの広帯域にわたる補償が可能となる。また、光ファイバの長さに制限はなく、簡易な構成で光信号の生成と伝送をすることが可能となる。その結果、光リンクを介して高データレートのアナログ信号を送信することが可能となり、本実施形態に係るシステムは、低遅延化、エネルギー効率の向上、高速データレート、大容量通信などの5Gが求める要件を満たすことが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
MZI1(第1の副マッハツェンダー干渉計)
MZI2(第2の副マッハツェンダー干渉計)
MZI3(第3の主マッハツェンダー干渉計)
4 LD(Laser Diode)
10 波長分散補償装置
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5