特許第6853112号(P6853112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853112
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュールの完全性試験方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20210322BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B01D65/10
   B01D63/02
【請求項の数】8
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-102714(P2017-102714)
(22)【出願日】2017年5月24日
(65)【公開番号】特開2018-196861(P2018-196861A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 祐介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大貴
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−320829(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/147850(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜モジュールの完全性試験前に行われる中空糸膜細孔内を水で充填する工程において、中空糸膜を水に浸漬した後、モジュール内の中空糸膜外表面から空気加圧および加圧下での通水を2回以上繰り返すことを特徴とする中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【請求項2】
中空糸膜の水への浸漬が、1〜6時間行われる請求項1記載の中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【請求項3】
空気加圧が、空気圧400〜500kPa、加圧時間1.5分以上の条件下で行われる請求項1記載の中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【請求項4】
加圧時間が2〜3分間である請求項3記載の中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【請求項5】
加圧下での通水が、圧力400〜500kPa、通水時間1分以下の条件下で行われる請求項1記載の中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【請求項6】
通水時間が15〜30秒間である請求項5記載の中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【請求項7】
空気加圧および加圧下での通水というサイクルが3回以上行われる請求項1記載の中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【請求項8】
中空糸膜モジュールが、限外ろ過膜を格納したモジュールである請求項1乃至7のいずれかの請求項に記載の中空糸膜モジュールの完全性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの完全性試験方法に関する。さらに詳しくは、煩雑な操作を伴うことなく、短時間での正確な膜欠陥の有無等の確認を可能とする中空糸膜モジュールの完全性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水器膜モジュールは、膜部に細孔径をもつ中空糸膜等により構成されている。中空糸膜モジュールは、その中空糸膜部分を水等の液体が通過する際、液体内に存在する菌もしくはウィルスに代表される微粒子を微細な膜孔径にて除去する機能を持っている。しかしながら、中空糸膜部分に成形時などに生じる傷や紡糸時に生じるピンホールなどの欠陥部分が存在すると、その欠陥部分より微粒子が膜部分を通過してしまうため、除去機能が満たさないこととなる。したがって、浄水膜モジュールにおいて出荷前に膜欠陥の有無を確認するのは必須であるといえる。
【0003】
膜欠陥の有無を確認する手法としては、例えば特許文献1〜2で提案されているようなエアーパーティクル検査が用いられているが、この検査方法では、通常0.2μm以下の径の除去率LRV4(99.99%)以上を保証することは困難である。
【0004】
この他にも、細菌ろ過法や均一粒子ろ過法などの検査法があるものの、いずれも中空糸膜破壊試験となってしまうため、検査後の製品の出荷ができないといった問題がある。
【0005】
これらの点から、浄水器膜モジュール等において、菌またはウィルスなどの除去率LRVが4以上であることを保証する際には、完全性試験の一種であるディフュージョン試験が広く用いられている。これは、液膜に加圧空気が溶解拡散する現象を定量化した手法であり、ディフュージョン(DF)値とLRV値は相関性があることが知られている。
【0006】
この試験は、圧力や使用溶媒を調整することで非破壊試験とすることができるといった特徴を有するものの、膜部分が完全に濡れていないと、加圧エアーが濡れ不足の部分または膜細孔径に残存している気泡部分を通過してしまうため、中空糸膜に存在する欠陥部分とは無関係にDF値が大きくなってしまい、正確な評価は難しくなってしまう。
【0007】
膜部分を完全に濡らすために、一般的にはアルコールなどの低い表面張力をもつ溶媒が用いられるが、膜部分に含まれるPVP等の親水性成分が使用した溶媒により除去されてしまうと、膜乾燥後のモジュール流量が著しく低下してしまうおそれがある。また、モジュールに使用しているポッティング剤が溶媒によって浸食され、ケース剥離を生じてしまう可能性もある。
【0008】
したがって、膜を濡らす溶媒としてすぐれているのが水になるが、水は表面張力が高いため、膜を完全に濡らすには高圧による通水を、例えば60分以上といった長時間実施する必要があり、水によるディフュージョン試験は時間がかかるといった欠点を有している。
【0009】
特許文献3では、脱気した水を通水することで膜内の空気を完全に除去する方法が提案されているが、ここでは真空ポンプを用いて水を脱気し、脱気水を作る必要があることから、操作の煩雑性、省エネルギー性といった観点から課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平2−14084号公報
【特許文献2】特許第6184631号公報
【特許文献3】特開2004−195381号公報
【特許文献4】特開平3−8420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、中空糸膜モジュールの完全性試験による中空糸膜欠陥の有無等の確認を、煩雑な作業を伴うことなく正確に行うことを可能とするとともに、処理作業自体の時間を短縮をも可能とする、中空糸膜モジュールの完全性試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる本発明の目的は、中空糸膜モジュールの完全性試験前に行われる中空糸膜細孔内を水で充填する工程において、中空糸膜を水に浸漬した後、モジュール内の中空糸膜外表面から空気加圧および加圧下での通水を2回以上繰り返すことによって達成される。
【発明の効果】
【0013】
中空糸モジュール内の中空糸膜内細孔内への水の充填が、高圧下での通水が60分以上にわたって行われたとしても足りず、DF試験において残存空気による誤認が発生し、正確な評価が得られない場合がみられるのに対して、本発明方法によれば、かかる誤認の発生がみられなくなるといったすぐれた効果を奏する。また、中空糸膜への60分以上にわたる通水処理といった作業と比べて、本発明方法では、処理作業自体は例えば8分程度と非常に短い時間で実施可能となるといった効果も奏する。さらに、あらかじめ脱気水を用意するなどの煩雑な作業を必要とすることない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明方法は、中空糸膜モジュールの完全性試験前に行われる中空糸膜細孔内を水で充填する工程において、モジュール内の中空糸膜外表面から空気加圧および加圧下での通水を繰り返すことで、完全性試験において膜欠陥の有無等の確認を正確に行うことを可能とするとともに、処理作業自体の時間を短縮をも可能とする。
【0015】
まず、膜モジュール内に格納されている中空糸膜は、水に0.5〜6時間、好ましくは1〜3時間程度浸漬される。かかる浸漬により、中空糸膜内細孔部に水が充填されることとなるが、中空糸膜の水への浸漬のみでは中空糸膜細孔部の一部に水が充填されることなく、残留空気が残ってしまう。
【0016】
次に、水浸漬後の中空糸膜に、中空糸膜外表面から空気加圧が行われる。空気加圧は中空糸膜モジュールの大きさなどによってその圧力や加圧時間が適宜決定されるが、加圧により中空糸膜がダメージを受けない圧力、例えば一般的な浄水器などに用いられる限外ろ過(UF)膜などでは、空気圧が約400〜500kPa、好ましくは約450〜500kPa、加圧時間が1.5分以上、好ましくは2〜3分程度といった条件で行われる。かかる空気加圧作業によって中空糸膜内に残留している空気が他の残留空気と合体し、また一部の残存空気は中空糸膜外に押し出されることとなる。しかしながら、後記比較例1に示されるように、かかる作業を60分間継続して行ったとしても、残存空気の排出を十分に行うことはできず、この段階で完全性試験に進んだとしても、正確なDF値を得ることは難しい。
【0017】
空気加圧に続いて、中空糸膜外表面より加圧下での通水が行われる。加圧下での通水についても中空糸膜モジュールの大きさなどによってその圧力や加圧時間が適宜決定されるが、やはり加圧により中空糸膜がダメージを受けない圧力、例えば一般的なUF膜などでは、圧力が約400〜500kPa、好ましくは約450〜500kPa、通水時間が1分以下、好ましくは15〜30秒程度といった条件で行われる。
【0018】
かかる加圧下での通水によって、残存空気が排出された中空糸膜細孔内に水が充填されることとなる。しかしながら、ここまでの作業を1サイクル行ったのみでは、後記比較例2に示されるように、すべての中空糸膜内細孔部に水が充分に充填されることにはならず、この段階で完全性試験に進んだとしても、やはり正確なDF値を得るには不十分である。
【0019】
したがって、空気加圧および加圧下での通水は複数回、一般的には2サイクル以上、好ましくは3サイクル以上行われる。以上の工程により中空糸膜内に残存している空気が表面孔径の大きい中空糸膜外表面から中空糸膜外へとへと排出され、その後完全性試験を行うことで、正確なDF値を得ることができることとなる。
【0020】
このような現象は、次のような過程により進行するものと考えられる。
(1) 水に浸漬したモジュール内中空糸膜に対して、中空糸膜外表面より空気加圧を行うことにより、中空糸膜細孔部内にディフュージョンエアが生じる。かかるディフュージョンエアは一定時間の加圧により中空糸膜細孔内に残存している気泡に合体し、残存している気泡はさらにその体積を増すと考えられる。
このことは、水への浸漬が充分行われている中空糸膜について一定圧力をかけた場合には、DF値の増加はみられないのに対して、水への浸漬が充分ではない中空糸膜について一定圧力をかけた場合に、DF値が徐々に大きくなっていく現象が確認されることから推察される。
(2) 加圧状態が連続して行われることで残存空気は大きくなり、やがて中空糸膜の中空部表面(中空糸膜外表面)に到達し、中空糸膜外に排出される。
(3) 残存空気が排出された中空糸膜には加圧下での通水により、中空糸膜細孔部分に水が充填される。
【実施例】
【0021】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0022】
参考例
乾燥状態の中空糸状UF膜により構成された膜モジュールについて、中空糸膜外表面よりイソプロパノール(IPA)を12分間通液して、膜の細孔内にIPAを充填した後、圧力100kPaでの通水を12分間行うことで膜の細孔内に水を充填した。水が充填されたUF膜について、空気圧310kPaの条件下でディフュージョン試験を行ったところ、DF値は3.0cc/分であった。
【0023】
実施例
乾燥状態の中空糸状UF膜により構成された膜モジュールを水に1時間以上浸漬したものについて、中空糸膜外表面より空気圧450kPaでの空気加圧を2分間および圧力450kPaでの通水を30秒間というサイクルを3サイクル実施した。この水が充填されたUF膜について、空気圧310kPaの条件下でディフュージョン試験を行ったところ、DF値は参考例と同等の3.0cc/分であり、膜の細孔内に水が充分に充填されたことが確認された。
【0024】
比較例1
乾燥状態の中空糸状UF膜により構成された膜モジュールについて、中空糸膜外表面より圧力450kPaでの通水を60分間行った。このUF膜について、参考例と同等にディフュージョン試験を行ったところ、DF値は20.0cc/分であり、膜の細孔内に水が充分に充填されていないことが示唆される結果となった。
【0025】
比較例2
実施例において、空気加圧および加圧下での通水のサイクルが1サイクルに変更され、同等にディフュージョン試験を行ったところ、DF値は14.0cc/分であり、膜の細孔内に水が充分に充填されていないことが示唆される結果となった。
【0026】
比較例3
特許文献4に開示されている完全性試験方法にしたがい、真空ポンプを用いて、膜モジュールを-100kPa程度の減圧下で24時間静置した後完全性試験を行ったところ、DF値の低減はみられず、中空糸膜モジュールの減圧のみでは正確なDF値を得ることは難しいことが示された。