特許第6853140号(P6853140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853140
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】波長変換部材および発光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20210322BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20210322BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20210322BHJP
【FI】
   G02B5/20
   H01L33/50
   H01S5/022
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-154471(P2017-154471)
(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公開番号】特開2019-32472(P2019-32472A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 俊光
(72)【発明者】
【氏名】傳井 美史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誉史
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−518797(JP,A)
【文献】 特表2014−501685(JP,A)
【文献】 特表2008−533270(JP,A)
【文献】 特開2013−056999(JP,A)
【文献】 特開2011−216543(JP,A)
【文献】 特開2003−243727(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/081566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H01L 33/50
H01S 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前記基材上に設けられた蛍光体層とを備える特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材であって、
前記基材は、サファイアまたはアルミニウムで形成され、
前記蛍光体層の厚みは200μm以下かつ前記蛍光体層の積層方向の前記基材の厚みの4分の1以下であり、
前記蛍光体層は、透光性の無機材料と前記無機材料と結合された蛍光体粒子とで形成さ
れ、
前記蛍光体粒子の材料は、YAG:CeまたはLuAG:Ceのいずれか一方であり、
前記蛍光体粒子のCe濃度は、0.03at%以上0.60at%以下であることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
前記蛍光体層の厚みは、10μm以上であり、
前記蛍光体粒子のCe濃度は、0.12at%以上であることを特徴とする請求項1記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記無機材料は、前記蛍光体粒子同士および前記蛍光体粒子と前記基材とを固定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記無機材料は、シリカまたはリン酸アルミニウムであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
特定範囲の波長の光源光を発生させる光源を備える発光装置であって、
前記光源光を吸収し、他の波長の光に変換し発光する請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴とする発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子として、例えば青色LED素子に接触するようにエポキシやシリコーンなどに代表される樹脂に蛍光体粒子を分散させた波長変換部材を配置したものが知られている。そして、近年では、LEDに代えて、エネルギー効率が高く、小型化、高出力化に対応しやすい、レーザダイオード(LD)が用いられたアプリケーションが増えてきている。
【0003】
レーザは局所的に高いエネルギーの光を照射するため、集中的にレーザ光が照射された樹脂は、その照射箇所が焼け焦げる。これに対し、樹脂の代わりに無機バインダを使用し、無機材料のみからなる蛍光体プレートを適用することで、レーザをはじめとしたエネルギーの高い励起源を用いた場合における耐熱性の課題は解決された(特許文献1)。
【0004】
また、ばらつきのない白色の発光を得ることを目的として、賦活剤としてのCe濃度を所定範囲とするYAG蛍光体セラミック焼結体が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−038960号公報
【特許文献2】特開2010−024278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、蛍光体プレートを無機材料のみで構成することにより蛍光体プレートの耐熱性は改善することを開示している。しかし、レーザパワーに対する発熱・蓄熱により、蛍光体自体の性能が消失する、温度消光と呼ばれる現象は依然として生じる。
【0007】
また、特許文献2は材料粉末を混合・焼成し、その後研磨することで得られるYAG蛍光体セラミック焼結体を開示している。しかし、高エネルギー励起源を用いたときの放熱性は考慮されていないため、使用環境によっては蓄熱が起こり温度消光による性能低下をする虞がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ハイパワーの用途において温度消光による性能低下が発生しにくく、少ないエネルギーで多くの発光量を得ることができる波長変換部材および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の波長変換部材は、基材と前記基材上に設けられた蛍光体層とを備える特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材であって、前記蛍光体層の厚みは200μm以下かつ前記蛍光体層の積層方向の前記基材の厚みの4分の1以下であり、前記蛍光体層は、透光性の無機材料と前記無機材料と結合された蛍光体粒子とで形成され、前記蛍光体粒子の材料は、YAG:CeまたはLuAG:Ceのいずれか一方であり、前記蛍光体粒子のCe濃度は、0.03at%以上0.60at%以下であることを特徴としている。
【0010】
このように、Ce濃度が小さい蛍光体を用いることで、蛍光体で生じる熱の発生ポイントを分散させ、蛍光変換時に生じる熱の密度を減らし放熱性を高めることが可能となり、蛍光体層全体の温度上昇を防ぐことができる。その結果、高いエネルギーを有するレーザ等による励起においても、蛍光体の発光性能が低下する温度まで到達しにくくなり、ハイパワーでも高い発光強度を維持することができる。また、蛍光体層よりも大きな厚みを有する基材を備えることで、放熱板として機能する基材が大きな重量比を占めることから、基材からの放熱も可能となり、放熱性をより一層高めることができ、温度消光による性能低下を抑制できる。
【0011】
(2)また、本発明の波長変換部材において、前記蛍光体層の厚みは、10μm以上であり、前記蛍光体粒子のCe濃度は、0.12at%以上であることを特徴としている。これにより、蛍光体層の厚みやCe濃度が小さすぎないため、発光効率の低下を抑制できる。
【0012】
(3)また、本発明の波長変換部材において、前記基材は、サファイアで形成されていることを特徴としている。このように、高い熱伝導率により良好な放熱性が期待できる透明材料であるサファイアを基材として用いることで、高いエネルギーを有するレーザ等を励起光に用いたとき、高い発光強度を維持できる透過型の波長変換部材を構成できる。
【0013】
(4)また、本発明の波長変換部材において、前記基材は、アルミニウムで形成されていることを特徴としている。このように、高い熱伝導率により良好な放熱性が期待できる反射材料であるアルミニウムを基材として用いることで、高いエネルギーを有するレーザ等を励起光に用いたとき、高い発光強度を維持できる反射型の波長変換部材を構成できる。
【0014】
(5)また、本発明の発光装置は、特定範囲の波長の光源光を発生させる光源を備える発光装置であって、前記光源光を吸収し、他の波長の光に変換し発光する上記(1)から(4)のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴としている。これにより、ハイパワーでも高い発光強度を維持できるとともに、発光効率の低下を抑制できる発光装置を構成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハイパワーの用途において温度消光による性能低下が発生しにくく、少ないエネルギーで多くの発光量を得ることができる波長変換部材を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の波長変換部材を表す模式図である。
図2】(a)は、本発明の透過型の発光装置を表す模式図である。(b)は、本発明の反射型の発光装置を表す模式図である。
図3】本発明の波長変換部材の製造方法を示すフローチャートである。
図4】波長変換部材に対する発光強度試験のための透過型の評価システムを示す断面図である。
図5】反射型の試料1〜5について、レーザパワー密度(レーザ入力)を横軸に取ったときの発光強度を表すグラフである。
図6】透過型の試料6〜10について、レーザパワー密度(レーザ入力)を横軸に取ったときの発光強度を表すグラフである。
図7】試料の各種条件と、ピーク時レーザ入力、ピーク時発光強度および3W時の発光強度(発光効率)のそれぞれの結果を表す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0018】
[波長変換部材の構成]
図1は、波長変換部材10を表す模式図である。波長変換部材10は、基材12上に蛍光体層14が形成されている。波長変換部材10は、光源から照射された光源光を透過または反射させつつ、光源光を吸収し励起して波長の異なる光を発生させる。例えば、青色光の光源光を透過または反射させつつ、蛍光体層14で変換された変換光を放射させて、変換光と光源光を合わせて、または、変換光のみを利用し、様々な色の光に変換できる。
【0019】
基材12の材料は、透過型の場合は、サファイア、ガラス等の透光性を有する材料を用いることができる。発光強度の観点から、光が透過する部分は少なくとも光源光を吸収しにくい材料とする。また、高エネルギーの光が照射されて温度が高くなるので、熱伝導性が高い方がよい。そのため、透過型の基材は、サファイアで形成されていることが好ましい。
【0020】
基材12の材料は、反射型の場合は、アルミニウム、鉄、銅等の金属を用いることができる。反射型の基材は、基材のすべてを、光を反射する材料で製造することもできるが、透光性を有する材料または光の反射を考慮しない材料の一面に光を反射する銀などの材料をメッキなどで設けてもよい。発光強度の観点から、光が透過する部分は少なくとも光源光を吸収しにくい材料とする。また、高エネルギーの光が照射されて温度が高くなるので、熱伝導性が高い方がよい。そのため、反射型の基材は、アルミニウムで形成されていることが好ましい。
【0021】
蛍光体層14は、基材12上に膜として設けられ、蛍光体粒子16および結合材20(透光性の無機材料)により形成されている。結合材20は、蛍光体粒子16同士および蛍光体粒子16と基材12とを固定している。これにより、高エネルギー密度の光の照射に対して、放熱材として機能する基材12と接合しているため効率よく放熱でき、蛍光体の温度消光を抑制できる。また、上記それぞれの固定は化学結合であることが効率よく放熱するためには好ましい。
【0022】
蛍光体層14の厚みは、200μm以下かつ蛍光体層の積層方向の基材の厚みの4分の1以下である。これにより、放熱板として機能する基材が大きな重量比を占めることから、蛍光体層14から基材12への放熱がより確実に行なわれ、温度消光による性能低下を抑制できる。また、蛍光体層14の厚みは、10μm以上であることが好ましい。これにより、蛍光体層14の厚みが小さすぎないため、発光効率の低下を抑制できる。また、蛍光体層14の厚みは、100μm以下であることが好ましい。
【0023】
蛍光体粒子16は、発光中心としてセリウム(Ce)が添加されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(YAG:Ce)またはルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(LuAG:Ce)のいずれか一方で構成される。このとき、発光中心のCe濃度を以下のように定義する。すなわち、YAGの組成式はYAl12であるが、このうちのイットリウム(Y)の一部をCeで置き換えたYAGをYAG:Ceと表し、その組成式を一般的に(Y3−XCe)Al12と表す。そして、組成式全体の原子の数に対するCeの割合を単位「at%」で表す。例えば、X=0.1のとき、0.1/(3+5+12)×100=0.5となるので、これを0.5at%と定義する。
【0024】
LuAGはYAGのすべてのYをルテチウム(Lu)で置き換えたものであり、組成式はLuAl12である。そのため、LuAG:CeのCe濃度も上記と同様に定義し、単位「at%」で表す。
【0025】
蛍光体粒子16のCe濃度は、0.03at%以上0.60at%以下である。このように、Ce濃度が小さい蛍光体を用いることで、蛍光体で生じる熱の発生ポイントを分散させ、蛍光変換時に生じる熱の密度を減らし放熱性を高めることが可能となり、蛍光体層全体の温度上昇を防ぐことができる。その結果、高いエネルギーを有するレーザ等による励起においても、蛍光体の発光性能が低下する温度まで到達しにくくなり、ハイパワーでも高い発光強度を維持することができる。また、蛍光体粒子16のCe濃度は、0.12at%以上であることが好ましい。これにより、Ce濃度が小さすぎないため、発光効率の低下を抑制できる。
【0026】
蛍光体粒子のCe濃度は、ICPまたはXRFで分析することができる。いずれの方法においても、Ce濃度が既知の蛍光体を検量線として使用することで行なう。Ce濃度は、複数回の分析値の平均値として求めてもよい。
【0027】
蛍光体粒子16は、光源光(励起光)を吸収して、変換光を放射する。YAG:Ceは、光源光(励起光)を吸収して、黄色の変換光を放射する。LuAG:Ceは、光源光(励起光)を吸収して、緑色の変換光を放射する。例えば、光源光が青色または紫色であるときは、光源光と変換光を合わせて、白色の放射光を放射することができる。
【0028】
蛍光体粒子16の平均粒子径は、1μm以上30μm以下であり、5μm以上20μm以下であることが好ましい。1μm以上なので、変換光の発光強度が大きくなり、ひいては波長変換部材10の発光強度が大きくなるからである。また、30μm以下なので、個々の蛍光体粒子16の温度を低く維持でき、温度消光を抑制できる。なお、本明細書において平均粒子径とは、メジアン径(D50)であるか、または、SEM画像の解析で得られた粒子における平均粒子径である。メジアン径(D50)である平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置の乾式測定または湿式測定を用いて計測することができる。また、SEM画像の解析で得られた粒子における平均粒子径は、蛍光体層14の平面方向と垂直な方向における断面について、例えば、1000倍にて断面のSEM画像の取得を行ない、得られたSEM画像に対して、2値化などの画像解析を行ない、画像から蛍光体粒子16と認められる100個以上の粒子の断面積を算出し、その累積分布から平均粒子径を求めることができる。画像から蛍光体粒子と認められる100個以上の粒子の断面積を算出するときに用いる画像は、蛍光体層14に含まれる蛍光体粒子16について全体的な平均粒子径となるように、蛍光体層14における複数個所の断面画像(例えば3枚以上)を取得することとする。
【0029】
結合材20は、無機バインダが加水分解または酸化されて形成されたものであり、透光性を有する無機材料により構成されている。結合材20は、例えばシリカ(SiO)、リン酸アルミニウムで構成される。結合材20は無機材料からなるので、レーザダイオード等の高エネルギーの光が照射されても変質しない。また、結合材20は透光性を有するので、光源光や変換光を透過させることができる。無機バインダとしては、エチルシリケート、リン酸アルミニウム水溶液等を用いることができる。
【0030】
なお、透光性を有する物質とは、0.5mmの対象物質に対して、可視光の波長領域(λ=380〜780nm)で光を垂直に入射したとき、反対側から抜けた光の放射束が入射光の80%を超える特性を有する物質をいう。
【0031】
波長変換部材10は、光源と組み合わせることで、ハイパワーでも高い発光強度を維持できるとともに、発光効率の低下を抑制できる発光装置を構成できる。特に、波長変換部材10は、蛍光体粒子16のCe濃度が低い所定の範囲にあり、蛍光体層14が放熱板として機能する基材12より薄く、蛍光体層14が無機材料からなるので、光源として高出力のレーザダイオードを用いることができ、高出力の発光装置を構成できる。
【0032】
[発光装置の構成]
図2の(a)、(b)はそれぞれ、本発明の透過型および反射型の発光装置を表す模式図である。透過型の発光装置30は、光源50と透過型の波長変換部材10を備える。反射型の発光装置40は、光源50と反射型の波長変換部材10を備える。光源50は、特定範囲の波長の光源光を発生させるLED、レーザダイオードなどを用いることができる。波長変換部材10はハイパワーでも高い発光強度を維持できるので、光源50はレーザダイオードであることが好ましい。
【0033】
[波長変換部材の製造方法]
波長変換部材の製造方法の一例を説明する。図3は、本発明の波長変換部材の製造方法を示すフローチャートである。最初に印刷用ペーストを作製する。まず、所定のCe濃度および平均粒子径を有する蛍光体粒子を準備する(ステップS1)。蛍光体粒子は、YAG:CeまたはLuAG:Ceのいずれか一方である。
【0034】
次に、準備した蛍光体粒子を秤量し、溶剤に分散させ、無機バインダと混合し、印刷用ペーストを作製する(ステップS2)。混合にはボールミル等を用いることができる。溶剤は、α−テルピネオール、ブタノール、イソホロン、グリセリン等の高沸点溶剤を用いることができる。
【0035】
また、無機バインダは、エチルシリケート等の有機シリケートであることが好ましい。有機シリケートを用いることで蛍光体粒子が印刷用ペースト全体に分散し、適切な粘度の印刷用ペーストを作製することができる。例えば、無機バインダとしてエチルシリケートを用いるときは、水および触媒の質量に対して、エチルシリケートを70wt%以上100wt%以下、好ましくは80wt%以上90wt%以下の質量とする。その他、無機バインダは、加水分解あるいは酸化により酸化ケイ素となる酸化ケイ素前駆体、ケイ酸化合物、シリカ、およびアモルファスシリカからなる群のうちの少なくとも1種を含む原料を、常温で反応させるか、または、500℃以下の温度で熱処理することにより得られたものであってもよい。酸化ケイ素前駆体としては、例えば、ペルヒドロポリシラザン、エチルシリケート、メチルシリケートを主成分としたものが挙げられる。
【0036】
印刷用ペーストの作製後、基材上に印刷用ペーストを塗布してペースト層を形成する(ステップS3)。印刷用ペーストの塗布は、スクリーン印刷法、スプレー法、ディスペンサーによる描画法、インクジェット法を用いることができる。スクリーン印刷法を用いると、厚みの薄いペースト層を安定的に形成できるので好ましい。ペースト層の厚みは、焼成後に10μm以上200μm以下になるように調整することが好ましい。
【0037】
そして、ペースト層を形成した基材を大気炉を用いて焼成し、蛍光体層を作製する(ステップS4)。焼成温度は、150℃以上500℃以下であることが好ましく、焼成時間は、0.5時間以上2.0時間以下であることが好ましい。また、昇温速度は、50℃/h以上200℃/h以下であることが好ましい。また、焼成前に乾燥工程を設けてもよい。
【0038】
このような製造工程により、蛍光体層全体に蛍光体粒子が均一に存在する波長変換部材を容易に製造できる。得られた波長変換部材は、ハイパワーでも高い発光強度を維持できるとともに、発光効率の低下を抑制できる。
【0039】
[実施例]
(試料の作製方法)
平均粒径6μm、0.03at%〜0.90at%のCe濃度を有する蛍光体粒子(YAG:Ce粒子、およびLuAG:Ce粒子)を準備した。これらの蛍光体粒子を秤量し、α−テルピネオール(溶剤)を混合して分散材を作製し、エチルシリケート(無機バインダ)と混合して印刷用ペーストを作製した。
【0040】
次に、スクリーン印刷法を用いて基材(サファイア基材またはアルミニウムに銀コートされたアルミニウム基材)に印刷用ペーストを焼成後に8〜220μmの厚みになるよう塗布した。塗布後に100℃で20分乾燥させた後、無機バインダで封孔処理をした。最後に大気炉を用いて150℃/hで350℃まで昇温し、30分焼成して試料が完成した。
【0041】
上記試料のCe濃度は、ICPを用いて、Ce濃度が既知の蛍光体を検量線として使用し、行なった。また、蛍光体層の膜厚(厚み)は、各試料のSEM断面写真を1000倍の倍率で撮影し、等間隔で10本の垂線を引き、蛍光体層のトップ面から基材のトップ面までの距離を測定し、10本の線の平均長さから蛍光体層の膜厚を算出した。
【0042】
(試料の評価方法)
完成した各試料に対して、最大24Wの入力となる複数のレーザによる励起で、反射型または透過型の発光強度試験を行なった。光源光の波長は445nm、集光レンズにより照射径は0.15mmに調整した。図4は、波長変換部材に対する発光強度試験のための透過型の評価システムを示す断面図である。図4に示すように、透過型の評価システム700は、光源710、平面凸レンズ720、両凸レンズ730、バンドパスフィルタ735、パワーメータ740で構成されている。波長変換部材10からの透過光を集光して測定できるように各要素が配置されている。
【0043】
バンドパスフィルタ735は、波長480nmを閾値として光をカットするフィルタであり、透過した光源光(吸収光)を測定する際には波長の大きい側をカットするフィルタが用いられる。また、変換光の発光強度を測定する際には波長の小さい側をカットするフィルタが用いられる。このように、透過した光源光を変換光と切り分けるために、両凸レンズとパワーメータの間に設置される。
【0044】
このように構成されたシステムにおいて、平面凸レンズ720に入った光源光は、波長変換部材の試料S上の焦点へ集光される。そして、試料Sから生じた放射光を両凸レンズ730で集光し、その集光された光についてバンドパスフィルタ735でカットした光の強度をパワーメータ740で測定する。この測定値を変換光の発光強度とする。レーザ光をレンズで集光し、照射面積を絞ることで、低出力のレーザでも単位面積あたりのエネルギー密度が上げられる。このエネルギー密度をレーザパワー密度とする。また、反射型の評価システムは、集光された光源光および変換光が試料の基材で反射される以外は、同様のシステムで評価することができる。
【0045】
図5および図6は、それぞれ反射型の試料1〜5および透過型の試料6〜10について、レーザパワー密度(レーザ入力)を横軸に取ったときの発光強度を表すグラフである。それぞれの試料について、上記の発光強度試験を行ない、ピーク時レーザ入力、ピーク時発光強度および3W時の発光強度を算出した。ピーク時レーザ入力は、レーザパワー密度(レーザ入力)を横軸に取ったときの発光強度が最大となるレーザ入力とした。ピーク時発光強度は、ピーク時レーザ入力に対する発光強度とした。また、ピーク時発光強度および3W時の発光強度は、反射型は試料1の波長変換部材の、透過型は試料6の波長変換部材の発光強度を100としたときの相対値で表した。また、図7は、試料の各種条件と、ピーク時レーザ入力、ピーク時発光強度および3W時の発光強度(発光効率)のそれぞれの結果を表す表である。試料11〜20についても上記と同様に各値を算出した。
【0046】
図5および図6のグラフを見てわかるとおり、Ce濃度の異なる試料毎に、レーザパワー密度が低い所定の範囲では、レーザパワー密度の増加に対して発光強度は直線的に増加していることが分かる。そのため、その範囲におけるグラフの傾きは、発光効率に対応していると考えることができる。そこで、グラフに示したすべての試料がいずれも直線的なグラフとなる3W時の発光強度を発光効率と見なすことにした。
【0047】
ピーク時レーザ入力は3Wより大きいものを、ピーク時発光強度は相対値が100より大きいものを合格として表中の○で表し、不合格のものを×で表した。また、3W時の発光強度(発光効率)は、相対値が35以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましい。これは、発光効率が小さいと、蛍光体粒子に吸収されずに透過または反射する光源光の割合が増加するため、この割合が過剰になると透過または反射して放射される光源光を制御する必要がでてくるからである。そのため、40以上のものを○で表し、40未満のものを△で表した。
【0048】
試料1〜5は、反射型の波長変換部材で、蛍光体粒子としてYAG:Ce粒子を用いて、基材の厚みおよび蛍光体層の厚み(膜厚)を一定にして、Ce濃度を変化させた試料である。試料1は、Ce濃度が高いので、蛍光体層内での熱の分散が効率よく行なえず、3Wと低い入力で温度消光した。そのため、高エネルギー励起源を用いることができない。試料2〜4は、適正範囲のCe濃度なので、蛍光体層内での熱の分散性が向上し、ピーク時レーザ入力およびピーク時発光強度は向上した。また、発光効率の相対値も反射型の基準となる試料1に対して40以上をキープした。試料5は、Ce濃度が低かったため、ピーク時レーザ入力およびピーク時発光強度は向上したが、発光効率の相対値は40を下回った。
【0049】
試料6〜10は、透過型の波長変換部材で、蛍光体粒子としてYAG:Ce粒子を用いて、基材の厚みおよび蛍光体層の膜厚を一定にして、Ce濃度を変化させた試料である。試料6は、Ce濃度が高いので、蛍光体層内での熱の分散が効率よく行なえず、3Wで温度消光した。そのため、高エネルギー励起源を用いることができない。試料7〜9は、適正範囲のCe濃度なので、蛍光体層内での熱の分散性が向上し、ピーク時レーザ入力およびピーク時発光強度は向上した。また、発光効率の相対値も透過型の基準となる試料6に対して40以上をキープした。試料10は、Ce濃度が低かったため、ピーク時レーザ入力およびピーク時発光強度は向上したが、発光効率の相対値は35を下回ってしまった。透過型の試料10の方が反射型の試料5よりも発光効率の相対値が低くなった理由として、反射型の場合、最初に蛍光体粒子に吸収されなかった光源光が反射して戻る際に、蛍光体粒子に吸収されることがあるためと考えられる。
【0050】
試料11、12および13、14は、それぞれ透過型の波長変換部材で、蛍光体粒子としてYAG:Ce粒子を用いて、基材の厚みおよびCe濃度を一定にして、蛍光体層の膜厚を変化させた試料である。試料11は、膜厚が薄いため、発光効率が低下した。これは、膜厚が薄すぎると、発光に寄与する蛍光体が減少するためと考えられる。試料14は、基材の厚みに対して膜厚が4分の1以上あるため、ピーク時レーザ入力が低下した。これは、蛍光体層が厚くなり過ぎたことにより、蛍光体層の厚みに対する基材の厚みの割合が不足してしまい、蛍光体層内の熱が効率よく基材によって放熱されなかったためと考えられる。
【0051】
試料15、16は、反射型の波長変換部材で、蛍光体粒子としてYAG:Ce粒子を用いて、Ce濃度を一定にして、試料1〜5と比べて基材の厚みを厚くした上で、蛍光体層の膜厚を変化させた試料である。試料15は、蛍光体層の膜厚および基材の厚みと蛍光体層の膜厚の比が適正範囲であるため、結果はいずれも基準を満たした。試料16は、基材の厚みと蛍光体層の膜厚の比は適正範囲であるが、蛍光体層の膜厚が厚すぎたため、ピーク時レーザ入力およびピーク時発光強度は基準を満たさなかった。これは、膜厚が厚すぎると、Ce濃度の変更による蛍光体層内での熱の分散の効果を超える熱が発生し、蛍光体層自身の放熱性が低下し、蛍光体層に熱がこもるためと考えられる。
【0052】
試料17〜20は、反射型の波長変換部材で、蛍光体粒子としてLuAG:Ce粒子を用いて、基材の厚みおよび蛍光体層の膜厚を一定にして、Ce濃度を変化させた試料である。LuAG:Ce粒子を用いても、YAG:Ce粒子を用いたときと同様に、適正範囲のCe濃度のときに、蛍光体層内での熱の分散性が向上し、ピーク時レーザ入力およびピーク時発光強度は向上した。また、発光効率の相対値も反射型の基準となる試料1に対して40以上をキープした。
【0053】
以上の結果によって、本発明の波長変換部材は、ハイパワーの用途において温度消光による性能低下が発生しにくく、少ないエネルギーで多くの発光量を得ることができることがわかった。
【符号の説明】
【0054】
10 波長変換部材
12 基材
14 蛍光体層
16 蛍光体粒子
20 結合材
30 透過型の発光装置
40 反射型の発光装置
50 光源
700 評価システム
710 光源
720 平面凸レンズ
730 両凸レンズ
735 バンドパスフィルタ
740 パワーメータ
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7