(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、例えばガソリンエンジン及びディーゼルエンジンから排出される燃焼排ガスより炭素を主成分とする粒子状物質を除去するために、第一底面から第二底面まで延び、第一底面が開口して第二底面が目封止された複数の第1セルと、第一底面から第二底面まで延び、第一底面が目封止されて第二底面が開口する複数の第2セルと、第1セル及び第2セルを区画形成する多孔質の隔壁とを有する柱状のハニカム構造部を備えたフィルタが知られている。
【0003】
この種の排ガス浄化用フィルタにおいては、以下のようなメカニズムにより粒子状物質が捕集される(
図3参照)。柱状のハニカム構造部300を備えたフィルタの上流側の第一底面301に粒子状物質306を含む排ガスが供給されると、排ガスは第1のセル302に導入されて第1のセル302内を下流に向かって進む。第1のセル302は下流側の第二底面304が目封止されているため、排ガスは第1のセル302と第2のセル303を区画する多孔質の隔壁305を透過して第2のセル303に流入する。粒子状物質306は隔壁305を通過できないため、第1のセル302内に捕集される。第2のセル303に流入した清浄な排ガスは第2のセル303内を下流に向かって進み、下流側の第二底面304から排出される。
【0004】
一般的にフィルタの捕集効率と圧力損失は反比例の関係にある。捕集効率を高くしようとすると圧力損失が増大し、一方、圧力損失を低くしようとすると捕集効率が悪化する。そこで、低圧力損失でありながら高い捕集効率を得るため、従来、フィルタの隔壁構造について種々の研究開発が行われてきた。
【0005】
特許文献1(特開2003−1029号公報)には、セル壁の気孔率を大きくして圧力損失を低く抑えると共に、排気ガス中の微粒子の捕集効率が高いハニカムフィルタを得ることを目的として、セル壁の気孔率が55〜75%、好ましくは60〜70%、平均細孔径が10〜40μm、表面粗さ(最大高さRy)が10μm以上とすることが提案されている。
【0006】
特許文献2(特開2003−214140号公報)には、圧損が抑制されたディーゼル排ガスフィルタを提供することを目的として、外周部における隔壁の排ガスの流通抵抗を、内周部における隔壁の排ガスの流通抵抗よりも小さくしたことを特徴とする発明が記載されている。そして、特許文献2には、外周部の隔壁の気孔率を60%から80%とし、内周部の隔壁の気孔率を50%から60%とすることが望ましく、外周部の隔壁の気孔率を70%とし、内周部の隔壁の気孔率を55%とすることが特に望ましいことが記載されている(段落0018)。また、特許文献2には、外周部の隔壁の平均細孔径を20μmから40μmとし、内周部の隔壁の平均細孔径を10μmから30μmとすることが望ましく、外周部の隔壁の平均細孔径を30μmとし、内周部の隔壁の平均細孔径を20μmとすることが特に望ましいことも記載されている(段落0020)。
【0007】
特許文献3(特開2004−300951号公報)には、隔壁の浄化ガス流出セル側の表面に、隔壁を構成する多孔質セラミックよりも平均細孔径の小さい多孔質セラミックからなる微細コート層を、少なくとも1層形成すること等により、排ガス中に含まれるパティキュレートを確実に捕集することができると記載されている。特許文献3には、隔壁の厚さは、20〜2000μmの範囲であることが好ましいこと(段落0043)、隔壁を構成する多孔質セラミックの平均細孔径が15〜300μmであることが好ましく、20〜70μmであることが更に好ましいこと(段落0056)、微細コート層を構成する多孔質セラミックの平均細孔径は5〜50μmであることが好ましく、15〜40μmであることが更に好ましいこと(段落0056)が記載されている。また、特許文献3には、隔壁を構成する多孔質セラミックの気孔率が40〜75%であることが好ましく、60〜70%であることが更に好ましいこと(段落0057)、微細コート層を構成する多孔質セラミックの気孔率は45〜80%であることが好ましいこと(段落0057)も記載されている。
【0008】
特許文献4(国際公開第2010/110011号)には、隔壁の気孔率が35%より低いと隔壁自体のガス透過性が著しく低下すること、及び、気孔率が75%より高いと材料強度が低くなり、キャニング時にクラックが発生する可能性があることが記載されている。このため、ハニカム構造の基材が備える隔壁の気孔率は35〜75%であると記載されている(段落0080)。また、特許文献4には、平均細孔径が5μmより小さいと、ガス透過性が著しく低下しやすくなり、スート堆積のない時の圧損が非常に高くなること、及び、平均細孔径が40μmより大きいとハニカムフィルタにおけるPMの捕集効率が十分とならないことが記載されている。このため、ハニカム構造の基材が備える隔壁の平均細孔径は5〜40μmであり、好ましくは10〜20μmであると記載されている(段落0087)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、低圧力損失及び高捕集効率を両立させたフィルタを得るために、気孔率及び平均細孔径等の各種パラメータの最適化が検討されてきたが、未だに改善の余地は残されている。本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、柱状のハニカム構造部を備えたフィルタについて、低圧力損失を確保しながら粒子状物質の捕集効率を改善する新たな手法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これまで、フィルタ性能の改善を行うために、気孔率及び平均細孔径に着目されることは多かったが、本発明者は隔壁の孔深さが粒子状物質の捕集効率に有意に影響を与えることを新たに見出した。そして、隔壁の孔深さを所定の範囲に設定することが低圧力損失を確保しながら粒子状物質の捕集効率を高めるのに重要なパラメータであることが判明した。本発明は上記知見に基づき完成した。
【0012】
従って、本発明は一側面において、
第一底面から第二底面まで延び、第一底面が開口して第二底面が目封止された複数の第1セルと、
第一底面から第二底面まで延び、第一底面が目封止されて第二底面が開口する複数の第2セルと、
第1セル及び第2セルを区画形成する多孔質のコージェライト製隔壁であって、レーザー顕微鏡で測定される平均孔深さが1.5μm以上3.5μm以下であり、水銀ポロシメータで測定される気孔率が50〜60%である隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造部を備えたフィルタである。
【0013】
本発明に係るフィルタの一実施形態においては、レーザー顕微鏡で測定される前記隔壁の平均孔深さが2.5μm以上3.5μm以下である。
【0014】
本発明に係るフィルタの別の一実施形態においては、レーザー顕微鏡で測定される前記隔壁の最大孔深さが40μm以下である。
【0015】
本発明に係るフィルタの更に別の一実施形態においては、レーザー顕微鏡で測定される前記隔壁の最大孔深さが20μm以上26μm以下である。
【0016】
本発明に係るフィルタの更に別の一実施形態においては、レーザー顕微鏡で測定される前記隔壁の平均円相当孔径が10.5μm以下である。
【0017】
本発明に係るフィルタの更に別の一実施形態においては、レーザー顕微鏡で測定される前記隔壁の平均円相当孔径が5μm以上10μm以下である。
【0018】
本発明に係るフィルタの更に別の一実施形態においては、水銀ポロシメータで測定される前記隔壁の平均細孔径が5μm以上13μm以下である。
【0019】
本発明に係るフィルタの更に別の一実施形態においては、前記隔壁の厚みが150μm以上260μm以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るフィルタによれば、低圧力損失を確保しながら粒子状物質の捕集効率の改善を図ることが可能となる。このため、本発明に係るフィルタは燃焼機関又は燃焼装置の排ガスラインに設置されて、排ガス中の粒子状物質を除去するのに大いに役立つ。近年、自動車排ガス規制が強化され、排ガス中の粒子状物質の排出量が厳格化される傾向にあるが、本発明に係るフィルタは、このような厳しい排ガス規制を満たすフィルタとして利用されることが期待される。従って、本発明に係るフィルタは、例えばディーゼル機関から排出される粒子状物質を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0023】
図1には、本発明の一実施形態に係るフィルタの模式的な斜視図が記載されている。
図2には、本発明の一実施形態に係るフィルタのハニカム構造部を、セルの延びる方向に直交する方向から観察したときの模式的な断面図が記載されている。図示のフィルタ100は、外周側壁102と、外周側壁102の内側に配設され、第一底面104から第二底面106まで延び、第一底面104が開口して第二底面106が目封止された複数の第1セル108と、外周側壁102の内側に配設され、第一底面104から第二底面106まで延び、第一底面104が目封止されて第二底面106が開口する複数の第2セル110とを備える。また、図示のフィルタ100は、第1セル108及び第2セル110を区画形成する多孔質の隔壁112を備えており、第1セル108及び第2セル110が隔壁112を挟んで交互に隣接配置されている。
【0024】
<1.隔壁の材料>
隔壁に関する各種パラメータの好適な数値範囲は、材質に応じて変動し得る。従来、材質が異なるにも拘わらず隔壁に関する各種パラメータを包括的に規定している例が多く、また、規定されている数値範囲も広いため、特定の材質を用いたときの各種パラメータの最適化が不十分であった。本発明では研究対象をコージェライト製の隔壁に限定することで、これまで検討されていなかった孔深さの重要性に着目するに至り、更には従来用いられているパラメータの最適範囲を見直すことができた。これによりフィルタ性能の更なる向上に繋がる知見を得ることができた。
【0025】
隔壁がコージェライト製であるというのは、隔壁を構成する材料100質量%中のコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の合計質量割合が50質量%以上であることを意味する。隔壁を構成する材料100質量%中のコージェライトの質量割合は70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更により好ましい。不可避的不純物を除き、隔壁を構成する材料の100質量%をコージェライトとすることも可能である。
【0026】
隔壁を構成するコージェライト以外の材料としては、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア等のセラミック材料が挙げられる。そして、これらのセラミック材料は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を同時に含有するものであってもよい。
【0027】
フィルタを構成する隔壁以外の構成部材(例えば、目封止部及び外周壁)の材料については、特に制限はないが、強度や耐熱性の観点からセラミック材料であることが好ましい。セラミック材料としては、例えばコージェライト、炭化珪素、窒化珪素、ムライト、アルミナ及びシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミック材料であることが好ましい。これらのセラミック材料を合計で50質量%以上含む材料であることが好ましく、80質量%以上含む材料であることがより好ましい。焼成時の膨張率を同じにでき、耐久性の向上につながるため、フィルタを構成する隔壁以外の構成部材についてもコージェライト製であることがより好ましく、隔壁と同じ材料組成とすることが更により好ましい。
【0028】
<1.平均孔深さ>
隔壁の孔深さはフィルタによる粒子状物質の捕集効率向上にとって重要なパラメータである。隔壁の孔深さを表すパラメータの中でも、特に平均孔深さは捕集効率との関係が深いため、平均孔深さを適切な範囲に設定することは重要である。具体的には、隔壁の平均孔深さは、3.5μm以下であることが好ましく、3.2μm以下であることが更により好ましく、3.0μm以下であることが更により好ましい。隔壁の平均孔深さが上記範囲であることにより、粒子状物質の捕集効率が有意に向上する。
【0029】
また、隔壁の平均孔深さは、1.5μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましく、2.5μm以上であることが更により好ましい。隔壁の平均孔深さが上記範囲であることにより、粒子状物質若しくはアッシュ蓄積による圧損上昇を抑制することができる。
【0030】
<2.最大孔深さ>
隔壁の最大孔深さも粒子状物質の捕集効率に関係があり、適切な範囲に設定することが望ましい。具体的には、隔壁の最大孔深さは40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更により好ましく、26μm以下であることが最も好ましい。隔壁の最大孔深さが上記範囲であることにより、粒子状物質の捕集効率が有意に向上する。
【0031】
また、隔壁の最大孔深さは13μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、17μm以上であることが更により好ましく、20μm以上であることが更により好ましい。隔壁の最大孔深さが上記範囲であることにより、粒子状物質若しくはアッシュ蓄積による圧損上昇を抑制することができる。
【0032】
<3.平均円相当孔径>
隔壁の平均円相当孔径も粒子状物質の捕集効率に関係があり、適切な範囲に設定することが望ましい。具体的には、隔壁の平均円相当孔径は10.5μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、9μm以下であることが更により好ましく、8μm以下であることが最も好ましい。隔壁の平均円相当孔径が上記範囲であることにより、粒子状物質の捕集効率が有意に向上する。
【0033】
また、隔壁の平均円相当孔径は5μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが更により好ましい。隔壁の平均円相当孔径が上記範囲であることにより、粒子状物質若しくはアッシュ蓄積による圧損上昇を抑制することができる。
【0034】
本発明において、上述した隔壁の平均孔深さ、最大孔深さ及び平均円相当孔径は、レーザー顕微鏡を用いて、隔壁の面に対して垂直な方向から隔壁表面を観察し、以下の条件によって求める。形状解析レーザー顕微鏡VK−X260(KEYENCE製)を用いて、解析ソフトとして当該レーザー顕微鏡に付属の“マルチファイル解析アプリケーション VK−H1XM”を使用する。また、当該レーザー顕微鏡と同等の性能を有するレーザー顕微鏡を使用してもよい。また、高さ閾値:−5.000μmとし、微小領域(3ピクセル以下)は無視する。一視野当たりの観察面積を約2mm
2として、一視野毎に平均孔深さ、最大孔深さ及び平均円相当孔径を測定し、3視野以上観察したときの平均値をそれぞれ測定値とする。
【0035】
<4.気孔率>
隔壁の気孔率は特にフィルタの圧力損失に関係があり、適切な範囲に設定することが望ましい。具体的には、隔壁の気孔率は50%以上であることが好ましく、52%以上であることがより好ましく、54%以上であることが更により好ましい。隔壁の気孔率が上記範囲であることにより、フィルタの圧力損失の低下を抑制することができる。
【0036】
また、隔壁の気孔率は60%以下であることが好ましく、58%以下であることがより好ましく、56%以下であることが更により好ましい。隔壁の気孔率が上記範囲であることにより、強度が向上しキャニング時の破損を抑制することができる。
【0037】
<5.隔壁の平均細孔径>
隔壁の平均細孔径も粒子状物質の捕集効率に関係があり、適切な範囲に設定することが望ましい。具体的には、隔壁の平均細孔径は13μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更により好ましい。隔壁の平均細孔径が上記範囲であることにより、粒子状物質の捕集効率が有意に向上する。
【0038】
また、隔壁の平均細孔径は5μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが更により好ましい。隔壁の平均細孔径が上記範囲であることにより、圧力損失の低下を抑制することができる。
【0039】
本発明において、上述した隔壁の気孔率及び平均細孔径は水銀ポロシメータを用いて、JIS R1655:2003に準拠して水銀圧入法によって測定される。実施例においては、Micrometrics社製型式Autopore9505を使用した。水銀圧入法とは、試料を真空状態で水銀中に浸漬した状態で均等圧を加え、圧力を徐々に上昇させながら水銀を試料中に圧入し、圧力と細孔内に圧入された水銀の容量から細孔径分布を算出する方法である。圧力を徐々に上昇させると、径の大きい細孔から順に水銀が圧入され水銀の累積容量が増加し、最終的に全ての細孔が水銀で満たされると、累積容量は衡量に達する。
【0040】
このときの累積容量が全細孔容積(cm
3/g)となり、全細孔容積の50%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径を平均細孔径とする。また、気孔率は気孔内に入った水銀の量から算出し、気孔率とする。具体的には、気孔率(%)=全細孔容積/(全細孔容積+1/2.52)×100で求める。なお、2.52g/cm
3はコージェライトの真密度である。
【0041】
<6.隔壁の厚み>
隔壁の厚みはフィルタの強度及び捕集効率を高めるという観点から150μm以上であることが好ましく、170μm以上であることがより好ましく、190μm以上であることが更により好ましい。また、隔壁の厚みはフィルタの圧力損失を抑制するという観点から260μm以下であることが好ましく、240μm以下であることがより好ましく、220μm以下であることが更により好ましい。
【0042】
隔壁の表面や、その内部にPM燃焼を補助するような触媒を担持することも好ましい。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、Zr、Ca、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【0043】
<7.セル形状>
セルの延びる方向に平行な方向から観察したときのセルの断面形状については特に制限はなく、例えば三角形、四角形、六角形及び丸形等の形状が挙げられる。セル密度(単位断面積当たりのセルの数)についても特に制限はなく、例えば6〜2000セル/平方インチ(0.9〜311セル/cm
2)、更に好ましくは50〜1000セル/平方インチ(7.8〜155セル/cm
2)、特に好ましくは100〜400セル/平方インチ(15.5〜62.0セル/cm
2)とすることができる。
【0044】
フィルタの底面形状も特に制限はなく、例えば円形状、楕円形状、レーストラック形状、長円形状、三角、略三角、四角及び略四角形状等の多角形状や異形形状とすることができる。図示のフィルタ100は、底面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0045】
<8.製法>
次に、本発明に係るフィルタの製造方法について、例示的に説明する。まず、フィルタを成形するための坏土を形成する。坏土用材料としてコージェライト化原料を用意する。コージェライト化原料は、例えば、焼成後の組成がコージェライトの理論組成(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)となるように、アルミナ源、シリカ源、及びマグネシア源を含む複数の原料粒子を混合して得ることができる。
【0046】
アルミナ源としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、活性化アルミナ、及びベーマイト(Al
2O
3・H
2O)を挙げることができる。また、カオリン(Al
2O
3・2SiO
2・2H
2O)やムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)等の粒子は、アルミナ源とシリカ源との役割を果たす物質として用いることができる。
【0047】
シリカ源としては、シリカ、シリカを含む複合酸化物、又は焼成によりシリカに変換される物質等の粒子を用いることができる。具体的には、タルク(3MgO・4SiO
2・H
2O)がシリカ源となる他、石英をはじめとするシリカ(SiO
2)、シリカゲル、溶融シリカ、カオリン(Al
2O
3・2SiO
2・2H
2O)、仮焼カオリン、及びムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)等の粒子を挙げることができる。なお、仮焼カオリンとは、鉱物として産出されるカオリン(生カオリン)を、所定の温度、例えば、1000〜1100℃にて仮焼したものである。これらの中でもシリカゲルは気孔の粗大化を抑制する効果があるため使用することが好ましい。
【0048】
マグネシア源としては、マグネシア、マグネシアを含む複合酸化物、又は焼成によりマグネシアに変換される物質等の粒子を用いることができる。上記したタルク(3MgO・4SiO
2・H
2O)がマグネシア源となる他、例えば、マグネサイト(MgCO
3)等の粒子を挙げることができる。
【0049】
コージェライト化原料の粒度は細かい方が隔壁の平均孔深さ、最大孔深さ及び平均細孔径が小さくなる傾向にある。
【0050】
本発明において、粒子のメジアン径は、光散乱法を測定原理とするレーザー回折/散乱式粒度測定装置により体積基準の累積粒度分布を測定したときの50%粒子径のことである。なお、粒度測定は、原料を水等の分散媒に完全に分散させた状態で実施するものとする。
【0051】
次に、上述のようにして得られたコージェライト化原料に、分散媒、有機バインダ、造孔材、分散剤等を加え、混合・混練することによって坏土を得る。混合・混練は、公知の混合・混練方法により行えばよい。
【0052】
混合は、撹拌羽根を500rpm以上(好ましくは1000rpm以上)の高速で回転させることが可能な、撹拌力・分散力に優れた混合機を使用し、剪断力を加えながら撹拌する方法により行うことが好ましい。このような混合方法により、得られるハニカム構造体の内部欠陥の原因となる、それぞれの原料粒子中に含まれる微粒子の凝集塊を粉砕し消失させることができる。混合は、従来公知の混合機、例えば、シグマニーダ、リボンミキサ等を用いて行うことができる。
【0053】
混練は、従来公知の混練機、例えば、シグマニーダ、バンバリーミキサ、スクリュー式の押出混練機等を用いて行うことができる。特に、真空減圧装置(例えば、真空ポンプ等)を備えた混練機(いわゆる真空土練機や二軸連続混練押出成形機等)を用いると、欠陥が少なく、成形性の良好な坏土を得ることができる点において好ましい。
【0054】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0055】
有機バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を好適に用いることができる。
【0056】
造孔材としては、例えば、グラファイト等のカーボン、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリエチレン、又はポリエチレンテレフタレート等の有機造孔材を挙げることができる。なかでも、アクリル樹脂等のポリマーを特に好適に用いることができる。造孔材の粒度は細かい方が隔壁の平均孔深さ、最大孔深さ及び平均細孔径を小さくしながら気孔率の低下を抑制するのに有利である。具体的には、使用する造孔材のメジアン径を20μm以下とすることが好ましく、15μm以下とすることがより好ましい。
【0057】
分散剤としては、界面活性効果を有する物質、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール、ラウリン酸カリウム石鹸等を好適に用いることができる。
【0058】
得られた坏土を、例えば押出成形法等の成形方法によって成形することにより、隔壁によって複数のセルが区画形成された柱状ハニカム成形体を得ることができる。押出成形法としては、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いる方法が好適である。
【0059】
次に、得られた柱状ハニカム成形体を乾燥させ、乾燥したハニカム成形体の両底面に目封止部を形成してハニカム乾燥体を得る。乾燥の方法も特に限定されない。例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を用いることができる。なかでも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0060】
目封止部の形成方法について説明する。目封止スラリーを、貯留容器に貯留しておく。次いで、目封止部を形成すべきセルに対応する箇所に開口部を有するマスクを一方の底面に貼る。マスクを貼った底面を、貯留容器中に浸漬して、開口部に目封止スラリーを充填して目封止部を形成する。他方の底面についても同様の方法で目封止部を形成することができる。
【0061】
次に、目封止後のハニカム乾燥体を焼成すれば、ハニカム構造体を得ることができ、これを排ガス浄化用フィルタとして使用することができる。焼成条件(温度・時間)は、ハニカム成形体を構成するそれぞれの原料粒子の種類により異なるため、これらの種類に応じて適当に設定すればよい。例えば、1410〜1440℃の温度で、3〜10時間焼成することが好ましい。焼成条件(温度・時間)が上記範囲未満であると、コージェライト結晶化が不十分となる傾向にある。一方、上記範囲を超えると、生成したコージェライトが溶融する傾向にある。
【0062】
なお、焼成の前、又は焼成の昇温過程において、ハニカム乾燥体中の有機物(造孔材、有機バインダ、分散剤等)を燃焼させて除去する操作(仮焼)を行うと、有機物の除去をより促進させることができるために好ましい。有機バインダの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300〜1000℃程度である。従って、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間は特に限定されないが、通常は、10〜100時間程度である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0064】
表1に記載の各成分材料を準備した。各成分材料のメジアン径は、レーザー回折/散乱式粒度測定装置(HORIBA製、型式LA−950V2)により測定した。分散媒としては濃度0.1質量%のヘキサメタリン酸水溶液を使用した。結果を表1に示す。
【0065】
表1に記載のタルクA、タルクB、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、カオリン、溶融シリカ及びシリカゲルを所定の配合割合(質量部)で混合して、比較例及び実施例に係るコージェライト化原料をそれぞれ調製した。次いで、得られた各コージェライト化原料に対して、バインダ、造孔材、界面活性剤及び水を表1に記載の配合割合(質量部)で添加した上で、混合機に投入し、3分間混合することにより湿式混合物を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
得られた湿式混合物をスクリュー式の押出混練機に投入し、混練して円柱状の坏土を作製した。この坏土を押出成形機に投入して押出成形することにより円柱状のハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、所定の寸法となるように両底面を切断してハニカム乾燥体を得た。得られたハニカム乾燥体について、第1セル及び第2セルが交互に隣接配置するように目封止した後に、1420〜1440℃で5時間焼成し、比較例及び実施例に係るハニカム構造体(直径118mm×高さ152mmの円柱状)を得た。
【0068】
比較例及び実施例に係るハニカム構造体の隔壁特性を表2に示す。平均孔深さ、最大孔深さ及び平均円相当
孔径は先述した測定方法に従って、レーザー顕微鏡により測定した。また、気孔率及び平均細孔径は先述した測定方法に従って、水銀ポロシメータを用いて測定した。
【0069】
【表2】
【0070】
上記の製造手順で得られた比較例及び実施例に係るハニカム構造体を、1.4LのEURO6規制適合GDIエンジンを搭載した車両の排気系統に取り付けて、排ガス用フィルタとして使用した。プレコンディショニング期間として、EUDC(Extra Urban Driving Cy
cle)の走行モードを3サイクル行った後、RDE走行のワーストを模擬した走行モード(RTS95)を実施した。RDE走行のワーストを模擬した走行モードを実施中、フィルタ前後のPN(Particulate Number)量を東京ダイレック製の粒子個数機で測定し、フィルタの捕集効率を計算した。捕集効率の測定は2回実施し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
【0071】
また、上記の製造手順で得られた比較例及び実施例に係るハニカム構造体に、風洞装置を用いて25℃、1atm、10Nm
3/minの条件で空気を流したときの第一底面と第二底面の間の初期圧損を測定した。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に記載の結果から、実施例のハニカム構造体は、比較例1のハニカム構造体に比べて、圧力損失がほとんど変わらないにも拘わらず捕集効率が顕著に向上していることが理解できる。比較例2は捕集効率は高いものの、圧力損失が高くなりすぎてしまった。