特許第6853191号(P6853191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853191口腔内保持型崩壊性固形製剤、その製造方法、及び該製造方法に用いる粉体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853191
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】口腔内保持型崩壊性固形製剤、その製造方法、及び該製造方法に用いる粉体組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/20 20060101AFI20210322BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210322BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210322BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210322BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   A61K9/20
   A61K47/38
   A61K47/32
   A61K47/26
   A61K47/36
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-562810(P2017-562810)
(86)(22)【出願日】2017年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2017001279
(87)【国際公開番号】WO2017126478
(87)【国際公開日】20170727
【審査請求日】2019年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-7031(P2016-7031)
(32)【優先日】2016年1月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼嵜 桃子
(72)【発明者】
【氏名】平邑 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】岡林 智仁
(72)【発明者】
【氏名】坂口 阿南
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−516684(JP,A)
【文献】 特開2002−179558(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/019045(WO,A1)
【文献】 特開2011−111418(JP,A)
【文献】 特開2015−098470(JP,A)
【文献】 特開2014−055189(JP,A)
【文献】 特開2010−241760(JP,A)
【文献】 須田範行他,癌化学療法時にみられる口内炎発症予防を目的としたメシル酸カモスタット口腔内崩壊錠の調製と評価,医療薬学,2003年,Vol.29,No.6,p.705-710,706ページ「1.試薬」及びTable.1、708ページTable.2、706−707ページに記載の「3.口腔内崩
【文献】 フオイパン錠 100mg 添付文書,(2011年12月改訂(第12版)),[組成・性状]の欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
崩壊剤としてカルメロース及びクロスポビドン、並びに、水溶性高分子としてカルメロースナトリウム又はキサンタンガムを含み、崩壊の開始時間が40秒以内であり、かつ凝集性を示す指標が0.4以上である、口腔内保持型崩壊性固形製剤。
【請求項2】
前記崩壊剤としてカルメロース及びクロスポビドンを含み、水溶性高分子としてカルメロースナトリウムを含む、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
更に、糖アルコール又は糖、及び、水不溶性高分子を含有する、請求項1又は2に記載の固形製剤。
【請求項4】
前記糖アルコールとしてD−マンニトール、及び、前記水不溶性高分子として結晶セルロースを含有する請求項3記載の固形製剤。
【請求項5】
更に薬効成分を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項6】
20N以上の硬度を有する錠剤である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項7】
崩壊剤としてカルメロース及びクロスポビドン、並びに、水溶性高分子としてカルメロースナトリウム又はキサンタンガムを含有する崩壊性粒子組成物を含む粉体組成物を乾式で圧縮成形することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の口腔内保持型崩壊性固形製剤の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性高分子以外の成分から成る造粒物に前記水溶性高分子及び薬効成分を添加・混合することを含む、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の製造方法に用いるための、請求項7に記載の崩壊性粒子組成物を含む粉体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内で迅速にペースト状になることによって、口腔内での保持が容易である、口腔内保持型崩壊性固形製剤、その製造方法、及び該製造方法に用いる粉体組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、皮下注射等で投与していた有効成分(例えばアレルギー治療薬)を口腔内粘膜吸収させる投与方法として、舌下投与型液体製剤、口腔内で徐々に崩壊する固形製剤、並びに口内炎治療薬などのオーラルケア用途として口腔内で適切な時間を要して崩壊が始まる製剤及びトローチ錠などの経口固形剤が期待されている。
【0003】
例えば、粘性液体である製剤として、スギ花粉エキスを舌下に投与するアレルゲン免疫療法薬が知られており、これは、患者が自ら1 日1 回、舌下に滴下し、その後、舌下で約2分間維持した後に飲み込む方法で服用される。該製剤には、濃グリセリン及び塩化ナトリウム等が含まれている。
【0004】
又、ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎に対する,減感作療法(アレルゲン免疫療法)用の舌下錠として、例えば、アシアテダニ舌下錠及びミテキュアダニ舌下錠等が知られており、これらは10秒〜数分以内に口腔内で崩壊する。
【0005】
更に、狭心症発作用薬剤である崩壊性の舌下錠が知られている。これは、舌下に含んだ後、約34 秒で崩壊し、活性成分として含まれるニトログリセリンが直接冠血管に作用してこれを拡張する効果は通常1〜2分で発現する。該製剤には、乳糖水和物、アラビアゴム、タルク及びトウモロコシデンプン等が含まれている。
【0006】
このような口腔内で徐々に崩壊する固形製剤のその他の例として、口腔内粘膜を通して血中に薬物を吸収させるための、パッチ状製剤である口腔内粘膜貼付製剤 (特許文献1)を挙げることが出来る。この製剤は、粘膜付着層、支持層、 2つの薬物層及び中間層から成る層構造であることを特徴とする。
【0007】
又、口腔内で有効成分を徐放させるための、一方の面を平面ないしなだらかなアールを有する凹面とし、他面をなだらかなアールを有する凸面とすることを特徴とする口腔貼付用錠剤 が知られている(特許文献2)。
【0008】
更に、口内炎・舌炎治療薬として、口腔内に付着させて患部を刺激から保護し、有効成分を持続的に作用させるフィルム状パッチも知られており、該パッチには、ポリアクリル酸、クエン酸トリエチル、ヒプロメロース、エチルセルロース、ヒマシ油 及び酸化チタン等が含まれている。更に、口内炎・舌炎治療薬として、軟膏タイプもあり、これらの口内炎・舌炎治療薬は口腔内で30〜60分間保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−138124号公報
【特許文献2】特開2011−201817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、以上の従来技術に於いては、例えば、舌下に滴下する粘性液体及び舌下錠のタイプは実際に舌下で保持することが困難であり、フィルム状パッチ等の口腔内貼付用製剤は貼付作業が難しく、又、貼付場所(例えば、下唇の裏等)によっては剥がれ易くなる。更に、軟膏タイプは手で口腔内に塗布するために、衛生面で問題があり、又、人前では塗りにくい等の問題があった。
【0011】
本発明の目的は従来技術に於けるこのような課題を解決することであり、本発明者らは、口腔内での唾液によって迅速に崩壊しペースト状になることによって口腔内での保持が容易な口腔内保持型崩壊性固形製剤を提供することにより、上記課題を解決し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、より具体的には以下の態様を提供するものである。
【0013】
[態様1]
少なくとも1種類の崩壊剤と少なくとも1種類の水溶性高分子を含有し、崩壊の開始時間が40秒以内であり、かつ凝集性を示す指標が0.4以上である、口腔内保持型崩壊性固形製剤。
[態様2]
崩壊剤としてカルメロースを含み、水溶性高分子としてカルメロースナトリウムを含む、態様1記載の固形製剤。
[態様3]
崩壊剤としてカルメロース及びクロスポビドンを含み、水溶性高分子としてカルメロースナトリウムを含む、態様1又は2に記載の固形製剤。
[態様4]
更に、糖アルコール又は糖、及び、水不溶性高分子を含有する、態様1〜3のいずれか一項に記載の固形製剤。
[態様5]
糖アルコールとしてD−マンニトール、及び、水不溶性高分子として結晶セルロースを含有する態様4記載の固形製剤。
[態様6]
更に薬効成分を含む、態様1〜5のいずれか一項に記載の固形製剤。
[態様7]
20N以上の硬度を有する錠剤である、態様1〜6に記載の固形製剤。
[態様8]
粉体組成物を乾式で圧縮成形することを特徴とする、態様1〜7に記載の口腔内保持型崩壊性固形製剤の製造方法。
[態様9]
水溶性高分子以外の成分から成る造粒物に水溶性高分子及び薬効成分を添加・混合することを含む、態様8記載の製造方法。
[態様10]
態様8又は9に記載の製造方法に用いるための、少なくとも1種類の崩壊剤と少なくとも1種類の水溶性高分子を含有する崩壊性粒子組成物を含む粉体組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤は固形であるので扱い易く、服用時に口腔内の任意の場所に容易に保持することが出来る。更に、本明細書の実施例に示されるように、優れた崩壊性を有するため、本発明の固形製剤は口腔内の唾液を吸収することによって約40秒以内に崩壊を開始し迅速に軟化してペースト状になり、更に、優れた凝集性を有するために分散せず塊の形状・状態を維持する。
【0015】
又、本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤は、従来技術にあるような、特別な層構造、又は、特殊な表面形態は不要であるので、簡便な方法で容易に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤(実施例1〜5及び比較例1〜2)の崩壊性の測定結果を示す。
図2】実施例1の凝集性の測定結果を示す。
図3】実施例2の凝集性の測定結果を示す。
図4】実施例3の凝集性の測定結果を示す。
図5】実施例4の凝集性の測定結果を示す。
図6】実施例5の凝集性の測定結果を示す。
図7】比較例1の凝集性の測定結果を示す。
図8】崩壊性の測定の概略を示す。
図9】凝集性の測定の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、少なくとも1種類の崩壊剤と少なくとも1種類の水溶性高分子を含有し、崩壊の開始時間が、40秒以内、好ましくは 35秒以内、より好ましくは 30秒以内であり、更に好ましくは10秒以内であり、かつ凝集性を示す指標が0.4以上、好ましくは0.45以上、更に好ましくは0.5以上である、口腔内保持型崩壊性固形製剤に係る。
【0018】
ここで、該固形製剤の「崩壊の開始時間」は、本明細書に記載の条件で測定した場合に、膨潤がピーク値に達するまでに要した時間(表2に記載の「ピーク時間」)を意味する。この崩壊の開始時間が早い(短い)程、崩壊性が優れている(高い)ということになる。又、「凝集性」は、本願明細書に記載の測定方法で得られる値(指標)に基づき規定される特性である。この値が大きいほど、凝集性が高く、分散し難い。
【0019】
実施例で示されるように、該固形製剤は優れた崩壊性及び凝集性を有するため、本発明の固形製剤は口腔内の唾液を吸収することによって約40秒以内に崩壊を開始し迅速に軟化してペースト状になり、その後、貼付された場所で分散せず塊の状態・形状を維持する、という特徴を有する。ここで、「ペースト状」とは、一般に、流動性の半固形状態を意味する。
【0020】
本発明の固形製剤を製造するために用いられる崩壊性粒子組成物に含まれる崩壊剤としては、当業者に公知の任意の1種又は2種以上の化合物を使用することができる。例えば、酸型カルボキシメチルセルロース(カルメロース)、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、各種デンプン及び加工デンプン、並びに、デンプングリコール酸ナトリウム及びヒドロキシプロピルスターチ等の加工デンプンから選択される任意の一成分以上を含有させることができる。尚、クロスポビドンは1−ビニルー2−ピロリドンの架橋重合物の通称であり、クロスカルメロースナトリウムはカルボキシメチルセルロースナトリウムの架橋物の通称である。
【0021】
尚、このような崩壊剤の中で、例えば、カルメロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、等はいずれも水に不溶性の高分子である。またデンプンとして例えばコーンスターチ、バレイショデンプン、ワキシーコーンスターチ、水不溶性部分α化デンプン、及び水不溶性α化デンプン等は水不溶性の高分子であり、加工デンプンとして例えば、デンプングリコール酸ナトリウム及びヒドロキシプロピルスターチ等の加工デンプン等は水不溶性の高分子である。
【0022】
崩壊剤としては、カルメロース及び/又はクロスポビドンが好ましい。
【0023】
該組成物に含まれる水溶性高分子としては、当業者に公知の任意の1種又は2種以上の化合物、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(「カルメロースナトリウム」、ともいう)、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム及びゼラチンから成る群から選択されるような化合物を挙げることが出来る。尚、天然物又は合成物でも良い。好適な水溶性高分子はカルメロースナトリウムである。
【0024】
該組成物には、更に、賦形剤として、当業者に公知の任意の糖アルコール又は糖、及び、リン酸カルシウム、含水二酸化ケイ素、無水リン酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、及び、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム等の無機化合物を含まれることが好ましい。
【0025】
糖アルコール又は糖の代表例として、D−マンニトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、トレハロース、ラクトース、マルトース、マルチトール、グルコース、スクロース、フルクトース、マンノース、及びソルビトール等を挙げることが出来る。糖または糖アルコールは1種類でもよいが、これらの中から適当に選択された2種類以上の化合物を用いることも出来る。
【0026】
賦形剤の好適例として、D−マンニトール、ラクトース、トレハロース、セルロース、キシリトール及びリン酸カルシウムから成る群から選択される1成分以上を挙げることが出来る。
【0027】
更に、該組成物には、賦形補助剤等として、水不溶性高分子が含まれることが好ましい。水不溶性高分子としては、該組成物の成形性を有効に向上することができる限り、当業者に公知の任意の物質を用いることが出来、天然物又は合成物でも良い。
【0028】
水不溶性高分子の好適例として、例えば、当業者に公知の、微小繊維状セルロース、結晶セルロース、粉末セルロース及び各種セルロース誘導体を挙げることが出来る。
【0029】
当業者に公知の任意の結晶セルロース及び/又は粉末セルロースを使用することが出来るが、その結晶セルロースの代表例として、アビセル(FMCコーポレーション)、セオラス(旭化成ケミカルズ株式会社)、ビバプアー(レッテンマイヤー)等の市販品を挙げることができ、粉末セルロースの代表例としてはKCフロック(日本製紙ケミカル)、ARBOCEL(レッテンマイヤー)、ソルカフロック(木村産業)を挙げることができる。
【0030】
更に、該組成物には、例えば、崩壊力、結合力及び錠剤の服用感等の諸特性を調整する目的で、当業者に公知の各種の任意成分を、上記の成分による本発明の効果を損なわない範囲で、適宜、添加混合しても良い。このような成分の例として、当業者に公知の、その他の結合剤(賦形補助剤)及び流動化剤等の機能性添加剤等を含むことが出来る。
【0031】
例えば、流動化剤として、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、水酸化アルミナマグネシウム、タルクなどが挙げられる。
【0032】
本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤の形態・形状に特に制限はなく、当業者に公知の任意の形態・形状、例えば、錠剤、フィルム状及びシート状等の固形製剤を含む。特に錠剤が好ましい。更に、本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤は、適宜、任意の薬効成分(有効成分)を適当量で含むことが出来る。
【0033】
本発明の固形製剤における各成分の配合量は各成分の種類、該製剤の種類及び用途等に応じて、当業者が適宜決めることが出来る。通常、全重量に対して、崩壊剤は1〜70重量%、水溶性高分子は0.1〜30重量%の範囲である。賦形剤、水不溶性高分子、結合剤(賦形補助剤)、及び流動化剤等の機能性添加剤等の配合量は目的に応じて適宜決めることができる。
【0034】
本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤は、口腔内における優れた崩壊性及び凝集性を有しており、口腔内で徐々に崩壊する固形製剤、並びに口内炎治療薬などのオーラルケア用製剤及びトローチ錠などの様々な用途・目的で、例えば、口腔内粘膜吸収用製剤等の医薬品等として使用される。更に、補助食品、栄養機能食品及び健康食品等を含む各種食品、並びに、歯磨き粉等のオーラルケア向け製品として使用される。
【0035】
従って、これら用途・目的などに応じて、本発明の固形製剤には、更に、任意の成分を含むことができる。
【0036】
即ち、医薬品用途の場合には、例えば、薬効成分に加えて、更に、必要に応じて、界面活性剤、滑沢剤、酸味料、甘味料、矯味剤、香料、着色剤、安定化剤など医薬上許容されるその他の任意の成分を含むことが出来る。これら任意成分として、例えば、医薬品添加物辞典(薬事日報社)、日本薬局方に記載の該当成分を用いることができる。尚、含まれる薬効成分及び助剤の用途・種類に特に制限はない。又、本発明の所望の効果が奏される限り、崩壊性粒子組成物、薬効成分、及び、任意成分の配合割合に特に制限はなく、当業者が適宜決めることが出来る。本発明の錠剤に含まれる薬効成分の用途・種類としては、例えば、中枢神経系用薬、末梢神経系用薬、感覚器官用薬、 循環器用薬、呼吸器官用薬、消化器官用薬、ホルモン剤、泌尿生殖器官薬、その他の個々の器官系用医薬品、ビタミン剤、滋養強壮薬、血液・体液用薬、その他の代謝性医薬品、細胞賦活用薬、腫瘍用薬、放射性医薬品、アレルギー用薬、その他の組織細胞機能用医薬品、 生薬、漢方製剤、その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品、抗生物質製剤、化学療法剤、生物学的製剤、寄生動物に対する薬、その他の病原生物に対する医薬品、 調剤用薬、診断用薬、公衆衛生用薬、体外診断用医薬品等を挙げることができる。
【0037】
食品及びオーラルケア向け製品用途の場合は、タンパク質、糖質、脂質及びミネラル等の各種の栄養成分;各種ビタミン類及びそれらの誘導体;微生物、植物又は動物由来の各種抽出物等の健康食品素材;並びに、酸味料、甘味料、賦形剤、界面活性剤、滑沢剤、酸味料、甘味料、矯味剤、香料、着色剤、及び安定化剤などの、食品衛生法第10条に基づく各種の指定添加物または既存添加物、一般飲食物添加物リストに収載されている、食品成分(食品添加物)として許容されるその他の任意の成分や、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(旧薬事法)第2条に基づく医薬部外品の原料規格に収載されている医薬部外品に許容されるその他任意の成分を含むことが出来る。
【0038】
本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤は、当業者に公知の任意の方法で製造することが出来る。例えば、上記の崩壊性粒子組成物を含む粉体組成物を乾式で圧縮成形することによって容易に製造することが出来る。例えば、水溶性高分子以外の成分から成る造粒物に水溶性高分子及び薬効成分を添加・混合することによって容易に調製することが可能である。
【0039】
従って、本発明は、このような口腔内保持型崩壊性固形製剤の製造方法、及び、該製造方法に用いるための、少なくとも1種類の崩壊剤と少なくとも1種類の水溶性高分子を含有する崩壊性粒子組成物を含む粉体組成物にも係る。
【0040】
尚、該粉体組成物も当業者に公知の任意の方法で製造することが出来る。尚、崩壊剤、賦形剤、結合剤等を含む造粒物は、その他の原料と混合する前に、予め、プレミックス型の添加剤組成物として調製しておくこともできる。
【0041】
このような添加剤組成物は、当業者に公知の任意の方法によって、各種の成分を一度に混合することよって製造することができる。
【0042】
或いは、当業者に公知の任意の方法によって、各種の造粒工程法で該粉体組成物を製造することもできる。造粒手段としては特に限定されず、例えば、乾式造粒法、もしくは湿式造粒工程法などにより製造することもできる。
【0043】
乾式造粒法は、該粉体組成物に含まれる各種の成分粉末をそのまま、または適当な結合剤などと混合し、強圧により小塊とし、これを適当に破砕して造粒する工程を含む。乾式造粒法の具体的な例としては破砕造粒法やロール圧縮法等を挙げることができる。
【0044】
湿式造粒法は水の存在下で各成分を分散させ乾燥することによって複合体を形成する方法であり、湿式造粒法の具体例としては、噴霧乾燥、転動造粒、撹拌造粒、及び流動層造粒などの噴霧法、凍結乾燥法、並びに、混練造粒等を挙げることができ、これらの当業者に公知の任意の方法で製造することができる。
【0045】
以下の実施例に示されるように、本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤が錠剤の場合には、その硬度として、20N以上、好ましくは30N以上、更に好ましくは40N以上を有する。又、それらの上限は、著しく崩壊を遅延させなければ特に制限はないが、例えば、140N、130N、又は、120Nである。
【0046】
尚、本明細書において引用された全ての先行技術文献の記載内容は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0048】
[平均粒子径、水分、硬度、崩壊性、凝集性の評価]
以下の実施例及び比較例で得た造粒物および各錠剤について、組成物の平均粒子径及び水分、並びに、錠剤の硬度、崩壊性、凝集性を以下の条件・方法で測定した。
平均粒子径:粒子組成物5gを、φ75mm自動振とう篩器(Mー3T型、筒井理化学器械株式会社)を用いて測定した。
水分:粒子組成物5gをハロゲン水分測定器(HB43型、メトラートレド株式会社)を用いて測定した。
硬度:デジタル木屋式硬度計(株式会社藤原製作所)を用いて、硬度(N)を測定した。
硬度はそれぞれ6回の測定を行い、それらの平均値を測定結果とした。
崩壊性: テクスチャーアナライザー (TA.XT plus、ステーブルマイクロシステムズ社製)の専用治具Tablet Disintegration Rig (A/TDR)を用いて測定した。その概略を図8に示した。
A/TDRの容器中に3.5mLの水を入れ、ロードセルに連結したプローブ下端に錠剤を両面テープで貼付し、プローブを下降させて錠剤が容器に接した点を0mmとして測定を開始した。測定中は常に40gの荷重がかかるように設定し、プローブ位置の変化を測定した。膨潤(プローブ位置)が最大に達するまでに要した時間を崩壊開始時間とした。それぞれ6回の測定を行い、それらの平均値を測定結果とした。
凝集性: テクスチャーアナライザー (TA.XT plus、ステーブルマイクロシステムズ社製)の専用治具Tablet Disintegration Rig (A/TDR) の容器と直径20mmの樹脂製円柱プローブを用いて測定した。その概略を図9に示した。
A/TDRの容器中に水を入れ、穴の開いた治具の上からピペットで水を吸い上げ、容器底部の水が穴を通ってのみ供給される状態とした。この容器に錠剤をセットして、錠剤全体が吸水した後 (おおよそ20秒から1分後) 、直径20mmの樹脂製円柱プローブを錠剤下端から10mmの高さから毎秒2mmで7mm、10回連続で圧縮した際の応力を測定した。10回目の圧縮時応力を6回目の圧縮時応力で除した値を凝集性を示す指標とした。それぞれ6回の測定を行い、それらの平均値を測定結果とした。
【0049】
実施例1〜5
[崩壊性粒子組成物の製造]
マンニトール(D−マンニトール、メルク株式会社)280g、カルメロース(NS−300、五徳薬品株式会社)75g、結晶セルロース(セオラスPH−101、旭化成ケミカルズ株式会社)100g、クロスポビドン(ポリプラスドンINF−10、アイエスピー・ジャパン株式会社)40gを流動層造粒機(LAB−1、株式会社パウレック)に投入し、精製水300gを12g/minにて噴霧することによって、造粒物を得た。尚、造粒物は以下の物性値を有していた。(1)平均粒子径:93ミクロン、(2)水分:2.3重量%。
【0050】
[口腔内保持型崩壊性固形製剤の製造]
得られた造粒物98.5 〜 99.7重量部に、カルメロースナトリウム (CMCダイセル、ダイセルファインケム株式会社) 1.5 〜 0.3重量部を加え混合し、混合物を得た。また、得られた造粒物88.5重量部に、カルメロースナトリウム (CMCダイセル、ダイセルファインケム株式会社) 1.5重量部、ビタミンC (ビタミンC、岩城製薬株式会社)10重量部を加え混合し、混合物を得た。予め臼および上下杵表面に滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム、太平化学産業株式会社)を少量塗布した簡易錠剤成形機(HANDTAB−100、市橋精機株式会社)を用いて錠剤硬度が100N前後となるように打錠圧縮力を調整しながら打錠し、直径8.0mm、真平錠、重量250mgの本発明の口腔内保持型崩壊性固形製剤を得た。それらの組成と硬度を表1に示した。また、崩壊性の測定結果を図1および表2に、凝集性の測定結果を図2〜6および表3に、それぞれ示した。
【0051】
[比較例1]
実施例で得られた造粒物を、予め臼および上下杵表面に滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム、太平化学産業株式会社)を少量塗布した簡易錠剤成形機(HANDTAB−100、市橋精機株式会社)を用いて錠剤硬度が100N前後となるように打錠圧縮力を調整しながら打錠し、直径8.0mm、真平錠、重量250mgの本発明の比較例1の錠剤を得た。錠剤組成と錠剤硬度を表1に示した。また、崩壊性の測定結果を図1および表2に、凝集性の測定結果を図7および表3に、それぞれ示した。
【0052】
[比較例2]
乳糖 (FlowLac90、メグレジャパン株式会社) 69.0重量部、コーンスターチ (顆粒コンス、日本コーンスターチ) 29.5重量部、カルメロースナトリウム (CMCダイセル、ダイセルファインケム株式会社) 1.5重量部を混合し、混合物を得た。予め臼および上下杵表面に滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム、太平化学産業株式会社)を少量塗布した簡易錠剤成形機(HANDTAB−100、市橋精機株式会社)を用いて錠剤硬度が100N前後となるように打錠圧縮力を調整しながら打錠し、直径8.0mm、真平錠、重量250mgの本発明の比較例2の錠剤を得た。錠剤組成と錠剤硬度を表1に示した。また、崩壊性の測定結果を図1に示した。なお、錠剤が崩壊しないため、凝集性は測定できなかった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
図1および表2に示した結果から、実施例1〜5および比較例1で得られた錠剤は、本実施例に記載の測定条件下において、吸水して膨潤後、10秒以内に崩壊を開始することが示された。また、比較例2で得られた錠剤は、水に接した後に膨潤や崩壊をしないことが示された。なお、比較例2で得られた錠剤は、1分以上経過しても錠剤は崩壊しなかった。
【0056】
【表3】
【0057】
図2図7および表3に示された結果から、実施例1〜5で得られた錠剤は、吸水して軟化するが繰り返し圧縮による凝集性が高く、形状を保ちやすいことが示された。一方、比較例1で得られた錠剤は、吸水して軟化後、繰り返し圧縮による凝集性が低く、すぐに分散することが示された。
【0058】
実施例1〜5並びに比較例1及び2で得られた各錠剤を、成人男女3名がそれぞれ服用した結果、実施例1〜5で得られた各錠剤は口腔内の唾液により軟化するが分散せず塊の状態を維持した。一方、比較例1で得られた錠剤は口腔内の唾液により速やかに崩壊して形状をとどめず、比較例2で得られた錠剤は口腔内の唾液に触れても錠剤の硬さを維持していた。
【0059】
[比較例3]
実施例で得られた造粒物90.0重量部に、ビタミンC (ビタミンC、岩城製薬株式会社)10重量部を加え混合し、混合物を得た。予め臼および上下杵表面に滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム、太平化学産業株式会社)を少量塗布した簡易錠剤成形機(HANDTAB−100、市橋精機株式会社)を用いて錠剤硬度が100N前後となるように打錠圧縮力を調整しながら打錠し、直径8.0mm、真平錠、重量250mgの本発明の比較例3の錠剤を得た。
【0060】
[比較例4]
グリセリン (グリセリン、日医工株式会社)50重量部、塩化ナトリウム (塩化ナトリウム、和光純薬株式会社)10重量部、精製水 40重量部を混合した溶液を調製した。5gのビタミンC (ビタミンC、岩城製薬株式会社)を45gの調製溶液に溶解し、本発明の比較例4の滴下用液を得た。
【0061】
実施例5で得られた錠剤、比較例3で得られた錠剤、比較例4で得られた滴下用液(1mL)を、成人男女6名がそれぞれ舌下に服用し、舌下に保持可能な時間を測定した。結果、実施例5で得られた錠剤では平均61.7秒であったが、比較例3で得られた錠剤では平均27.3秒であり、舌下保持時間が延長していることが示された。また、比較例4で得られた滴下用液では、服用と同時に口全体に広がり、舌下に保持することは困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、口腔内で徐々に崩壊する固形製剤、並びに口内炎治療薬などのオーラルケア用製剤及びトローチ錠などの様々な用途・目的で用いられる、口腔内粘膜吸収用固形製剤等の医薬品等の研究・開発に大いに資するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9