(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
α,α−トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下含有し、且つ、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有する糖液を調製する工程、前記糖液を噴霧乾燥により粉末化する工程、得られた粉末を相対湿度60%以上で7日間以上熟成することによるα,α−トレハロース二含水結晶の結晶化工程、及び、得られたα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末を乾燥する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
α,α−トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下含有し、且つ、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有する糖液を調製する工程が、液化澱粉に、枝切り酵素及びシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼと共に、グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素を作用させることにより行われることを特徴とする請求項4記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.用語の定義
本明細書において、以下の用語は以下の意味を有している。
【0014】
<(糖質の)含量>
本明細書でいう「(糖質の)含量」とは、下記の糖組成分析法で測定される全糖質において各糖質が占める割合(質量%)を意味する。すなわち、糖質試料を固形物濃度1質量%となるよう超純水に溶解し、0.45μmメンブランフィルターで濾過した後、下記条件による糖組成分析に供し、HPLCクロマトグラム上の全ピーク面積に対する各糖質のピーク面積の割合を各糖質の含量とする。HPLC分析は、カラムとして『MCI gel CK04SS』(三菱化学株式会社製)を2本連結したものを用い、溶離液として超純水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4mL/分の条件で行い、検出には、示差屈折計『RID−10A』(株式会社島津製作所製)を用いる。当該HPLCクロマトグラムにおける全ピーク面積に対するトレハロース、マルトース及びマルトトリオースのピーク面積の割合をそれぞれ「トレハロース含量」、「マルトース含量」及び「マルトトリオース含量」という。
【0015】
<結晶化度>
本明細書でいう「トレハロース二含水結晶についての結晶化度」とは、下記式[1]によって定義される数値を意味する。
【0017】
式[1]において、解析値H
100、H
0、Hsを求める基礎となる粉末X線回折プロフィルは、通常、反射式又は透過式の光学系を備えた粉末X線回折装置により測定することができる。粉末X線回折プロフィルは被験試料又は標準試料に含まれるトレハロース二含水結晶についての回折角及び回折強度を含み、斯かる粉末X線回折プロフィルから結晶化度についての解析値を決定する方法としては、ハーマンス法を用いる。
【0018】
また、解析値H
100を求める「実質的にトレハロース二含水結晶からなるトレハロース二含水結晶含有粉末標準試料」としては、トレハロース含量が無水物換算で99.9質量%以上である粉末又は単結晶であって、粉末X線回折パターンにおいて、トレハロース二含水結晶に特有な回折ピークを示し、実質的にトレハロース二含水結晶からなるものを用いる。斯かる粉末又は単結晶としては、本出願人が分析用の試薬として販売しているトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース含量99.9%以上、株式会社林原販売)、又はこれを再結晶化して得られるトレハロース二含水結晶含有粉末又はトレハロース二含水結晶の単結晶が挙げられる。因みに、実質的にトレハロース二含水結晶からなる上記トレハロース二含水結晶含有粉末標準試料の粉末X線回折プロフィルを、ハーマンス法によるコンピューターソフトウェアにて解析した場合の解析値H
100は、通常、50.6乃至50.9%程度となる。
【0019】
一方、解析値H
0を求める「実質的に非晶質からなるトレハロース含有粉末標準試料」としては、トレハロース含量が無水物換算で99.9質量%以上であり、実質的に非晶質からなるものを用いる。斯かる粉末としては、例えば、上記した解析値H
100を求める標準試料を適量の精製水に溶解し、濃縮した後、凍結乾燥し、さらに、カールフィッシャー法により決定される水分含量が2.0%以下となるまで真空乾燥することにより得られた粉末が挙げられる。斯かる処理を施した場合に、実質的に非晶質からなる粉末が得られることは、経験上知られている。但し、一般に、実質的に非晶質からなる粉末であっても、粉末X線回折装置にかけ、得られる粉末X線回折プロフィルをハーマンス法、フォンク法などで解析すると、それら各解析法を実行するコンピューターソフトウェアのアルゴリズムに起因して非晶質に由来する散乱光の一部が演算され、解析値が必ずしも0%になるとは限らない。因みに、実質的に非晶質からなる上記トレハロース含有粉末標準試料の粉末X線回折プロフィルを、ハーマンス法によるコンピューターソフトウェアにて解析した場合の解析値H
0は、通常、8.5乃至8.7%程度となる。
【0020】
なお、ハーマンス法については、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A.Weidinger)、「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」(Journal of Applied Physics)、第19巻、491〜506頁(1948年)、及び、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A.Weidinger)、「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス」(Journal of Polymer Science)、第4巻、135〜144頁(1949年)に詳述されている。
【0021】
<比表面積>
本明細書でいう「比表面積」とは、粉末の単位質量当たりの表面積を意味する。すなわち、粉末(約2g)を吸着測定用前処理装置(『BELPREP−vacII』、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて40℃で15時間減圧乾燥した後、自動比表面積/細孔分布測定装置(『BELSORP−miniII』、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて常法の窒素ガス吸着法による測定を行い、得られた測定値を常法のBET法により解析して得られる1グラム当たりの表面積を比表面積とする。
【0022】
<粒度分布>
本明細書でいう「粒度分布」とは、以下の方法で決定した各粒度別の粉末の割合(質量%)を意味する。すなわち、日本工業規格(JIS Z 8801−1)に準拠する、目開きが425、300、212、150、106、75及び53μmの網ふるいを正確に秤量した後、この順序で重ね合わせてロータップふるい振盪機へ装着し、次いで、秤取した一定量の試料を最上段のふるい(目開き425μm)上に載置し、ふるいを重ね合わせた状態で15分間振盪した後、各ふるいを再度正確に秤量し、その質量から試料を載置する前の質量を減じることによって、各ふるいによって捕集された粉末の質量を測定する。その後、ふるい上に載置した試料の質量に対する、各ふるいによって捕集された各粒度を有する粉末の質量の割合(質量%)を求め、粒度分布とする。なお、網ふるいとしては、例えば、株式会社飯田製作所製の金属製網ふるいを、また、ロータップふるい振盪機としては、例えば、株式会社田中化学機械製造所製のロータップふるい振盪機『R−1』を用いることができる。
【0023】
<乳化能>
本明細書でいう「乳化能」とは、油脂を水中に分散する能力を意味し、粉末5質量部とコーン油1質量部とを混合し、次いで、純水を500質量部添加し、撹拌して得られる乳濁液の濁度(波長720nmにおける吸光度)を測定し、乳化能の値とする。乳濁液の濁度(波長720nmにおける吸光度)が高いほど乳化能が高いことを意味する。乳化能は、具体的には、例えば、粉末0.25gとコーン油(試薬、和光純薬工業株式会社販売)0.05gとを混合し、次いで、純水を25g添加し、撹拌して得られる乳濁液の濁度(波長720nmにおける吸光度)を分光光度計(『UV−1800』、株式会社島津製作所製)を用いて測定すればよい。
【0024】
<熟成>
本明細書でいう「熟成」とは、非晶質糖質若しくはそれを含有する粉末を所定の温度及び湿度条件下で所定の時間保持することにより、非晶質糖質を結晶性糖質に変化させ、糖質の結晶化を進行させることを意味する。
【0025】
2.トレハロース二含水結晶含有粉末
本発明者らが見出した乳化能に優れ、且つ、保存安定性に優れたトレハロース二含水結晶含有粉末は、トレハロースと、マルトース及び/又はマルトトリオースとを含有する粒子から成るトレハロース二含水結晶含有粉末であって、下記(1)乃至(3)の特徴を有するトレハロース二含水結晶含有粉末である:
(1)トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下含有する;
(2)マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有する;及び
(3)粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるトレハロース二含水結晶についての結晶化度が25%以上90%未満である。
【0026】
本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、トレハロースと、マルトース及び/又はマルトトリオースとを含有する粒子から成ることを第一の特徴としている。この特徴は、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末が全糖方式により製造されることを表しており、トレハロース粉末と、マルトース粉末及び/又はマルトトリオース粉末の粉末製品同士を単に混合して得られる粉末とは異なるものであることを表している。
【0027】
なお、本発明の粉末が、トレハロースと、マルトース及び/又はマルトトリオースとを含有する粒子から成ることは、当該粉末を構成する粉末粒子1粒の糖組成を分析することにより確認することができる。具体的には、例えば、当該粉末から粉末粒子を1粒採取し、少量の水に溶解して被験溶液とし、被験溶液に含まれる糖質を直接、HPLCにて分析するか、又は、蛍光試薬でラベル化した後、HPLCにて分析するなどして確認することができる。この場合に粉末粒子が示す糖組成は、原料糖液の糖組成と実質的に同一であり、採取する粒子によって若干数値がばらつくことがあるとしても、そのばらつきは値として1乃至2%の範囲内に留まる。また、粉末粒子1粒の糖組成は、キャピラリー電気泳動装置を用いた高感度分析に供することにより確認することもできる。
【0028】
また、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、(1)トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下含有することを第二の特徴としている。このトレハロース含量は、噴霧乾燥する原料糖液中のトレハロース含量に由来しており、上記特徴(1)は、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末が、トレハロースを無水物換算で70〜90質量%含有する糖液を噴霧乾燥することによって得られた粉末であること、換言すれば、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末を得るには、噴霧乾燥する糖液中のトレハロース含量は、無水物換算で70〜90質量%の範囲にあることが必要であることを表している。
【0029】
さらに、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、(2)マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有することを第三の特徴としている。このマルトース及び/又はマルトトリオースの含量は、噴霧乾燥する原料糖液中のマルトース及び/又はマルトトリオースの含量に由来しており、上記特徴(2)は、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末が、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有する糖液を噴霧乾燥することによって得られた粉末であること、換言すれば、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末を得るには、噴霧乾燥する糖液中のマルトース及び/又はマルトトリオースの含量は、無水物換算で合計3質量%以上であることが必要であることを表している。
【0030】
加えて、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、(3)粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるトレハロース二含水結晶についての結晶化度が25%以上90%未満であることを第四の特徴としている。上記特徴(3)は、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末が、非晶質の形態にあるトレハロースの一部を熟成によりトレハロース二含水結晶に変化させることによって得られた粉末であること、換言すれば、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末を得るには、トレハロースとマルトース及び/又はマルトトリオースを所定の割合で含む糖液を噴霧乾燥し、得られた粉末を、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が25%以上90%未満となるように、所定の条件下で熟成することが必要であることを表している。
【0031】
トレハロースと、マルトース及び/又はマルトトリオースとを含有する粒子から成るトレハロース二含水結晶含有粉末であって、上記(1)乃至(3)の特徴を備えるトレハロース二含水結晶含有粉末が、従来の粉末に比べて極めて優れた乳化能を有する理由は定かではないものの、粉末を構成する個々の粉末粒子中に、二含水結晶の形態にあるトレハロースと非晶質の形態にあるトレハロースとが所定の割合で存在し、さらには、マルトース及び/又はマルトトリオースが混然一体となって存在していることが関係しているのではないかと推察される。また、一つの粉末粒子に含まれるトレハロース以外の糖質であるマルトース及び/又はマルトトリオースが、通常、非晶質の状態で存在することも、粉末全体として乳化能を発揮することに関与していると考えられる。
【0032】
なお、本発明者らが確認したところによれば、各糖質の含量やトレハロース二含水結晶についての結晶化度には、より好ましい範囲があり、トレハロースを無水物換算で78質量%以上86質量%以下含有し、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計4質量%以上含有し、且つ、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が50%以上90%未満であるトレハロース二含水結晶含有粉末は、より高い乳化能を有するため、より好適に利用できる。換言すれば、より好ましい本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は下記(1’)乃至(3’)の特徴を有する粉末である。
(1’)トレハロースを無水物換算で78質量%以上86質量%以下含有する;
(2’)マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計4質量%以上含有する;及び
(3’)粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるトレハロース二含水結晶についての結晶化度が50%以上90%未満である。
【0033】
本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、トレハロースと、マルトース及び/又はマルトトリオースとを含有する粒子から成るトレハロース二含水結晶含有粉末であって、上記(1)乃至(3)の特徴を備える乳化能に優れた粉末であるが、粉末を構成する粒子の表面には細かな凹凸が数多く観察され、粉末全体として、(4)窒素ガス吸着法により測定される当該粉末の比表面積が0.25m
2/g以上を示すという第五の特徴を有している。とりわけ、乳化能の値が0.45以上を示すトレハロース二含水結晶含有粉末は、通常、前記比表面積が0.35m
2/g以上である。後述する実験3に示すとおり、従来のトレハロース二含水結晶粉末の比表面積は0.18m
2/gであるので、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、従来のトレハロース二含水結晶粉末や非晶質のトレハロースに比べて高い比表面積を示す粉末であるということができる。
【0034】
また、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、特定の粒度分布を有するものに限定されないが、通常、粒度分布として(5)粒径53μm以上300μm未満の粒子を粉末全体の50質量%以上、粒径53μm未満の粒子を粉末全体の10質量%以上含有するものが好ましい。本発明に係るトレハロース二含水結晶含有粉末が上記(5)に規定する粒度分布を有している場合には、液体や粉末などへの分散性がより高まり、乳化能を有する粉末としてより好適に使用することができる。
【0035】
本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、乳化能に優れていることを特徴としており、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末に比べてより高い乳化能を有しておれば良く、特定の乳化能の値を示すものに限定されないが、通常、(6)当該粉末5質量部とコーン油1質量部の混合物に、純水を500質量部添加し、撹拌して得られる乳濁液の波長720nmにおける濁度が0.35以上、より好適には0.45以上を示す。後述するとおり、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末について同様の方法で測定した場合の乳濁液の濁度は0.10程度と低い値であるので、濁度が0.35以上の値を示すということは、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末が従来の二含水結晶含有粉末に比べて極めて優れた乳化能を持っていることを示している。本発明者らが知る限り、このように高い乳化能を持つトレハロース二含水結晶含有粉末は、本願出願前に存在していなかった。
【0036】
3.本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法
本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、上記(1)乃至(3)の特徴を備えるものである限り、どのような製造方法によって製造されたものであっても良いが、好適には、下記(A)〜(D)の工程を含む製造方法によって製造することができる。
(A)トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下含有し、且つ、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有する糖液を調製する工程;
(B)前記糖液を噴霧乾燥により粉末化する工程;
(C)得られた粉末を相対湿度60%以上で7日間以上熟成することによるトレハロース二含水結晶の結晶化工程;及び、
(D)得られたトレハロース二含水結晶含有粉末を乾燥する工程。
【0037】
以下、上記(
A)乃至(
D)の工程について順次説明する。
【0038】
<(A)の工程(トレハロース含有糖液を調製する工程)>
当該工程は、トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下含有し、且つ、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有する糖液を調製する工程である。トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下、且つ、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上含有する糖液である限り、その調製方法は特に限定されるものではなく、例えば、特許第3557235号に開示されている、液化澱粉にグリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素を作用させる方法、特許第特許3633648号に開示されている、マルトース溶液にマルトース・トレハロース変換酵素を作用させる方法、特公昭63−060998号公報に開示されている、マルトース溶液にマルトースホスホリラーゼ及びトレハロースホスホリラーゼを作用させる方法などで調製すればよい。さらには、トレハロース、マルトース及び/又はマルトトリオースを純水に溶解する方法で調製してもよい。とりわけ、液化澱粉に、グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素を、澱粉枝切酵素及びシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼと共に作用させる方法が、澱粉を原料として一貫した酵素反応で目的とするトレハロース含有糖液を調製することができるため、より好適に用いることができる。また、トレハロース含量が70質量%に満たない場合には、クロマト分離などを用いて精製を行うことも随意である。
【0039】
<(B)の工程(トレハロース含有糖液を噴霧乾燥により粉末化する工程)>
当該工程は、トレハロース含有糖液を噴霧乾燥に供し粉末化する工程である。噴霧乾燥法の種類やその条件は、優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末を製造できる限り特に限定されるものではなく、例えば、ロータリーアトマイザー方式(回転円盤方式)や、加圧ノズルや二流体ノズルを用いたノズル方式などを用いて、トレハロース含有糖液を噴霧し、微粒化することにより単位体積当たりの表面積を増大させ、例えば、入口温度120〜200℃、出口温度60〜100℃で連続して熱風を接触させ、瞬間的に乾燥を行なうことにより粉末化すればよい。とりわけ、粒度分布が狭く、流動性の高い粉体を得ることができるという点で、ロータリーアトマイザー方式が好ましい。また、トレハロース含有糖液に、種結晶としてトレハロース二含水結晶を添加し、トレハロース二含水結晶が一部晶出したマスキットとした後、噴霧乾燥を行うことも随意である。マスキットを噴霧乾燥する場合は、固形物が含まれることから、ロータリーアトマイザー方式が好ましい。
【0040】
<(C)の工程(トレハロース二含水結晶の結晶化工程)>
当該工程は、上記(
B)の工程で得られたトレハロース含有粉末を、相対湿度60%以上で7日間(24時間×7日=168時間)以上熟成することを特徴とするトレハロース二含水結晶の結晶化工程である。相対湿度が60%未満である場合は、トレハロース二含水結晶の結晶化が促進されず、大部分が非晶質のまま残り、表面が平滑な粉末となり、比表面積が小さくなって、所期の乳化能が得られず、好ましくない。また、熟成時間は、熟成条件(湿度・温度)にも左右されるが、7日間未満の場合には、表面が平滑な粉末となって、比表面積が小さい粉末となる場合があり、その結果、所期の乳化能が得られないので、好ましくない。なお、熟成時の温度は、優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末を製造できる限り特に限定されるものではなく、例えば、温度10〜40℃であればよい。
【0041】
<(D)の工程(トレハロース二含水結晶含有粉末の乾燥工程)>
当該工程は、上記(
C)で得られたトレハロース二含水結晶含有粉末を乾燥し、最終製品とする工程である。乾燥方法は、所望の粉末を製造できる限り特に限定されるものではなく、例えば、粉末を温度40〜80℃の気流中で浮遊させながら水分を蒸発させる流動層乾燥を用いてもよく、粉末の水分を減圧環境下で蒸発させる真空乾燥を用いてもよい。
【0042】
本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法は、より乳化能に優れた粉末を製造する上で、トレハロース含有糖液を調製する工程において、トレハロースを無水物換算で78質量%以上86質量%以下含有し、且つ、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計4質量%以上含有する糖液を調製することがより好適である。
【0043】
4.本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末の用途
本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、疎水性物質と混合し、水を添加することにより、当該疎水性物質を乳化させることができるので、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、胡麻油、紅花油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ココナッツ油、ココアバター、シアバター、マーガリン、ショートニングなどの植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂、羊脂、馬脂、鯨油、兎脂、鶏油、肝油などの動物性油脂、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどの脂溶性ビタミンなどの疎水性物質の乳化剤として有利に利用できる。
【0044】
上述のとおり、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、それ単独で乳化剤として使用できるものの、必要に応じ、レシチン、サポニン、カゼインナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、オキシエチレン脂肪酸アルコール、オレイン酸ナトリウム、モルホリン脂肪酸塩、ポリオキシエチレン高級脂肪酸アルコール、ステアロイル乳酸カルシウム、モノグリセリドリン酸アンモニウム、アルキルポリオキシエチレンエーテル等の他の乳化剤と組合せて用いることができる。また、必要に応じ、さらにアラビアガム、グァーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ジェランガム、デキストラン、プルラン等の増粘安定剤と組合せて用いることも有利に実施できる。
【0045】
また、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、水への溶解速度が速く、溶解時にダマにならないので、例えば、生地やクリームなどの水分が比較的少ない材料に直接混合した場合にも、食品材料中にトレハロースを均一に分散させることができる。このため、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、そのような材料にトレハロースを配合する際に、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末では必須の工程であった、予めトレハロースを水に溶解する工程を省くことができるので、水分が比較的少ない食品や化粧品、医薬部外品及び医薬品の製造に好適に用いることができる。
【0046】
さらに、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末は、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に利用することもでき、例えば、和菓子、洋菓子、スナック菓子、冷菓、レトルト食品、冷凍食品、インスタント食品、漬物、佃煮、練り製品、乳製品、流動食、離乳食、健康食品、清涼飲料水、炭酸飲料、果汁飲料、野菜ジュース、乳飲料、コーヒー、紅茶飲料、ウーロン茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料、アルコール飲料などの食品、化粧水、美容液、乳液、クリーム、ファンデーション、マスカラ、口紅、マニキュア、クレンジング、洗顔料、洗口液、シャンプー、トリートメント、コンディショナー、整髪料、香水などの化粧品、医薬部外品及び医薬品の製造に利用することも随意である。
【0047】
以下、実験に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0048】
<実験1−1:トレハロース含量が種々異なる糖液から調製したトレハロース二含水結晶含有粉末の乳化能の比較>
トレハロース二含水結晶含有粉末の乳化能に及ぼすトレハロース含量の影響を調べるため、トレハロース含量が種々異なる糖液を調製し、噴霧乾燥法によりトレハロース二含水結晶含有粉末を調製した後、乳化能の測定を行った。
【0049】
トウモロコシ澱粉を固形物濃度33質量%になるよう純水に懸濁し、塩化カルシウムを濃度0.1質量%になるよう添加した後、pH6.0に調整し、澱粉懸濁液を得た。この澱粉懸濁液に耐熱性α−アミラーゼ(商品名『スピターゼHK』、ナガセケムテックス株式会社製)を固形物1グラム当たり10単位添加し、連続液化装置に流速1L/分で通液しながら、100℃で25分間反応させ、次いで、140℃で5分間加熱して酵素反応を停止し、澱粉液化液を得た。得られた澱粉液化液を50℃に冷却し、これに国際公開第2013/042587号パンフレットの実験1−1記載の方法で調製したα−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を含む酵素液を澱粉1グラム当たりそれぞれ2単位及び10単位になるよう加え、さらに、イソアミラーゼ(株式会社林原製)を澱粉1グラム当たり300単位、及び、国際公開第2013/042587号パンフレットの実験1−2記載の方法で調製したパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15959株由来のCGTaseを澱粉1グラム当たり2単位加え、11時間反応させ、次いで、α−アミラーゼ(商品名『ネオスピターゼPK−2』、ナガセケムテックス株式会社販売)を澱粉1グラム当り10単位添加し、80℃で2時間反応させた後、100℃で30分間加熱して酵素反応を停止し、糖化液を得た。得られた糖化液を、活性炭を用いて脱色し、イオン交換樹脂を用いて脱塩した後、固形物濃度30質量%に濃縮し、表1に示す糖組成を有するトレハロース含有糖液1を得た。
【0050】
また、トレハロース生成反応工程において、澱粉液化液にα−グリコシルトレハロース生成酵素、トレハロース遊離酵素、イソアミラーゼ及びCGTaseを48時間作用させた以外は、上記と同様に処理し、表1に示す糖組成を有する固形物濃度30質量%のトレハロース含有糖液5を得た。
【0051】
一方、市販のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ 微粉』、株式会社林原製)を固形物濃度30質量%になるよう純水に溶解し、表1に示す糖組成を有する固形物濃度30質量%のトレハロース含有糖液9を得た。
【0052】
次いで、トレハロース含有糖液1とトレハロース含有糖液5とを適宜の比率で混合し、表1に示す糖組成を有するトレハロース含有糖液2〜4をそれぞれ調製した。また、トレハロース含有糖液5とトレハロース含有糖液9とを適宜の比率で混合し、表1に示す糖組成を有するトレハロース含有糖液6〜8をそれぞれ調製した。
【0054】
上記で調製した固形物濃度30質量%のトレハロース含有糖液1〜9を、ロータリーアトマイザー方式(回転円盤方式)の噴霧乾燥機を用いて、入り口温度180℃、出口温度90℃、供給速度2L/時間の条件で噴霧乾燥し、トレハロース含量が種々異なる粉末1〜9をそれぞれ得た。その後、粉末1乃至9を温度25℃、相対湿度75%又は90%の高湿度条件下で熟成し、熟成前、熟成開始後1日、5日、7日経過した時点において、各粉末の一部を採取した。採取した各粉末を25℃で18時間真空乾燥した後、乳化能を前記した方法によりそれぞれ測定した。また、7日間熟成した各粉末について、トレハロース二含水結晶についての結晶化度を測定した。本実験では、従来の結晶化方法、すなわち、晶析・分蜜方式により製造した従来のトレハロース二含水結晶粉末(商品名『トレハ 微粉』、株式会社林原製)を対照の粉末とした。結果を表2に示す。なお、表中、乳化能の値が0.35以上のもの及び0.45以上のものをそれぞれ「
*」及び「
**」で示した。
【0056】
表2に示すとおり、トレハロース含量が64.3質量%である粉末1、及び、トレハロース含量が93.0質量%以上である粉末7〜9は、熟成後もほとんど乳化能の上昇が認められず、熟成7日後においても、乳化能の値は0.12〜0.27に留り、乳化能の値が0.10である対照の粉末と顕著な差が認められなかった。一方、トレハロース含量が無水物換算で73.8〜88.1質量%の範囲にある粉末2〜6は、熟成に伴い乳化能の値が上昇し、熟成7日後において、乳化能が0.39〜0.52と顕著に高い値を示した。とりわけ、トレハロース含量が無水物換算で77.5〜85.7質量%の範囲にある粉末3〜5は、熟成7日後において、乳化能が0.45〜0.52と顕著に高い値を示した。なお、粉末1〜9の乳化能は、熟成7日後以降は大きく変化しなかった。
【0057】
また、同じく表2に示すとおり、乳化能の値が0.35以上を示す粉末2〜6は、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が29.5%以上であり、とりわけ、乳化能の値が
0.45以上を示す粉末3〜5は、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が
55.7%以上であった。なお、粉末1〜9は、粉末X線回折プロフィルにおいて、トレハロース二含水結晶に由来する回折ピーク以外のピークが検出されなかったことから、トレハロース二含水結晶以外の結晶を実質的に含むものではなかった。
【0058】
これらの結果は、トレハロース含量が70質量%以上90質量%以下のトレハロース含有糖液を噴霧乾燥して得られる粉末を7日間以上熟成し、トレハロース二含水結晶についての結晶化度を25%以上に高めたものが、優れた乳化能を有することを示しており、とりわけ、トレハロース含量が78質量%以上86質量%以下のトレハロース含有糖液を噴霧乾燥して得られる粉末を7日間以上熟成し、トレハロース二含水結晶についての結晶化度を50%以上に高めたものが、より優れた乳化能を有することを示している。
【0059】
<実験1−2:トレハロース二含水結晶含有粉末の乳化能に及ぼすトレハロース以外の糖質の影響>
次に、トレハロース二含水結晶含有粉末の乳化能に及ぼすトレハロース以外の糖質の影響を調べるため、トレハロースと共に、グルコース、マルトース、マルトトリオース、ソルビトール又はマルチトールを夾雑糖質として含むトレハロース含有糖液をそれぞれ調製し、噴霧乾燥法によりトレハロース二含水結晶含有粉末を調製した後、乳化能の測定を行った。
【0060】
トレハロース含有糖液として、トレハロースを無水物換算で85質量%、及び、グルコース(和光純薬工業株式会社販売)、マルトース(商品名『MALTOSE 999』、株式会社林原販売)、マルトトリオース(商品名『MALTOTRIOSE』、株式会社林原販売)、ソルビトール(和光純薬工業株式会社販売)、又は、マルチトール(和光純薬工業株式会社販売)を無水物換算で15質量%含有する固形物濃度30質量%の溶液を調製し、得られた溶液を実験1−1と同様の方法で噴霧乾燥した。次いで、得られた粉末を温度25℃、相対湿度75%で7日間熟成し、25℃で18時間真空乾燥することにより、グルコース、マルトース、マルトトリオース、ソルビトール又はマルチトールをそれぞれ夾雑糖質として含む粉末A〜Eを得た。その後、粉末A〜Eの乳化能及びトレハロース二含水結晶についての結晶化度を前記した方法により測定した。なお、本実験では、対照の粉末として、トレハロース二含水結晶粉末(試薬、商品名『トレハロース 999』、株式会社林原販売)を無水物換算で85質量%、及び、β−マルトース一含水結晶粉末(試薬、商品名『MALTOSE 999』、株式会社林原販売)、マルトース非晶質粉末(前記β−マルトース一含水結晶粉末を原料に用いた以外は、上記した「実質的に非晶質からなるトレハロース含有粉末標準試料」と同様の方法で調製したもの)、又は、マルトトリオース非晶質粉末(商品名『MALTOTRIOSE』、株式会社林原販売)を無水物換算で15質量%の割合で単に混合した粉末F〜Hを調製し、同様に乳化能を調べた。結果を表3に示す。
【0062】
表3に示すとおり、夾雑糖質としてグルコース又はマルトースを含有するトレハロース含有糖液を噴霧乾燥し、熟成して得た粉末A又はBは、結晶化度が86.1〜86.6%と、互いに同等の結晶化度を示したものの、粉末Aが実質的に乳化能を示さなかったのに対し、粉末Bは乳化能が0.46と顕著に高い値を示した。一方、夾雑糖質としてマルトトリオース、ソルビトール又はマルチトールを含有するトレハロース含有糖液をそれぞれ噴霧乾燥し、熟成して得た粉末C〜Eは、結晶化度が70.6〜74.4%であり、互いに同等の結晶化度を示したものの、粉末D及びEがいずれも実質的に乳化能を示さなかったのに対し、粉末Cは乳化能が0.47と顕著に高い値を示した。なお、粉末A〜Eは、それぞれの粉末X線回折プロフィルにおいて、トレハロース二含水結晶に由来する回折ピーク以外のピークが検出されなかったことから、トレハロース二含水結晶以外の結晶を実質的に含まないことが確認された。
【0063】
同じく表3に示すとおり、トレハロース二含水結晶粉末と、β−マルトース一含水結晶粉末、マルトース非晶質粉末又はマルトトリオース非晶質粉末とを単に混合して調製した粉末F〜Hは、実質的に乳化能を示さないのに対し、夾雑糖質としてマルトース又はマルトトリオースを含有するトレハロース含有糖液を噴霧乾燥し、熟成して得た粉末B及びCは、乳化能がそれぞれ0.46及び0.47と、いずれも顕著に高い値を示した。原料糖液を噴霧して微粒子化し、瞬間的に乾燥することにより粉末化するという噴霧乾燥の原理上、粉末化した個々の粒子には原料糖液の糖組成が反映されていると考えられるので、噴霧乾燥により得られる粉末は、トレハロースとマルトース及び/又はマルトトリオースとを含有する粒子から構成されると考えられる。そして、粉末中に含まれるトレハロースは、その一部が熟成により非晶質の形態から二含水結晶の形態へと変化するため、個々の粉末粒子中には、二含水結晶の形態のトレハロースと非晶質の形態のトレハロースが混在した状態になると考えられる。つまり、トレハロース含有糖液を噴霧乾燥し、熟成して得た粉末は、個々の粉末粒子中に、二含水結晶の形態にあるトレハロースと非晶質の形態にあるトレハロースとが所定の割合で存在し、さらには、同じく非晶質の形態にあるマルトース及び/又はマルトトリオースが混然一体となって存在するという点で、従来公知のトレハロース二含水結晶粉末にマルトース粉末やマルトトリオース粉末を単に混合して調製した粉末とは異なる粉末であり、この粉末としての形態が乳化能を発揮する上で重要であると考えられる。
【0064】
これらの結果は、トレハロース二含水結晶含有粉末において、トレハロース含量及びトレハロース二含水結晶についての結晶化度が同等であったとしても、夾雑する糖質の種類やその存在形態により粉末の乳化能が異なること、そして、優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末を製造するには、単なる混合では不可で、夾雑糖質としてマルトース及び/又はマルトトリオースを含有するトレハロース含有糖液を噴霧乾燥、熟成し、トレハロースと、マルトース及び/又はマルトトリオースとを規定された割合で含有する粒子から構成されるトレハロース二含水結晶含有粉末を製造することによって初めて優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末を得ることができることを物語っている。
【0065】
因みに、具体的なデータは省略するものの、上記粉末Bにおける粉末粒子5粒について、粉末粒子1粒(約0.3mg/粒)をそれぞれピンセットで採取し、25μLの純水に溶解し、前記したHPLC分析に供することにより糖組成を調べたところ、いずれの粉末粒子も、実質的に同じ糖組成、すなわち、トレハロース含量85±1質量%及びマルトース含量15±1質量%を示した。一方、トレハロース二含水結晶含有粉末とマルトース一含水結晶含有粉末を単に混合して調製した上記粉末Fについても同様に、粒子5粒についてそれぞれの糖組成を調べたところ、トレハロース含量99.9質量%の粒子と、マルトース含量99.9質量%の粒子のいずれかが検出された。このことは、粉末粒子1粒についての糖組成を調べることで、本発明のトレハロース二含水結晶含有粉末と、市販のトレハロース二含水結晶含有粉末とマルトース含有粉末の単なる混合物とは明確に区別できることを物語っている。
【0066】
実験1−2の結果から、乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末を製造するためには、夾雑糖質としてマルトース及び/又はマルトトリオースを含有するトレハロース含有糖液を噴霧乾燥し、熟成することが重要であると判明したことから、実験1−1及び1−2で調製した優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末である粉末2〜6及び粉末B並びにCについて、マルトース含量とマルトトリオース含量の合計に着目して結果をまとめ直し、表4に示した。
【0068】
表4に示されるとおり、乳化能の値が0.35以上を示す粉末2〜6、粉末B、及び、粉末Cは、マルトース含量とマルトトリオース含量の合計が3.7質量%以上であり、トレハロース含量が73.8質量%以上88.1質量%以下の範囲内、結晶化度が29.5%以上86.1%以下の範囲内にあった。とりわけ、乳化能の値が0.45以上を示す粉末3〜5は、マルトース含量とマルトトリオース含量の合計が4.4質量%以上であり、トレハロース含量が77.5質量%以上85.7質量%以下の範囲内、結晶化度が56.1%以上86.1%以下の範囲内にあった。一方、表4には示していないものの、表2より、乳化能の値が0.26以下と低い粉末7〜9は、トレハロース含量が93.0質量%以上と高く、マルトース含量とマルトトリオース含量の合計が3質量%未満であり、結晶化度は74.5〜89.3%の範囲を示した。結晶化度が同等であっても粉末7〜9の乳化能が低いのは、マルトース含量とマルトトリオース含量が低いためではないかと推察された。
【0069】
実験1−1及び1−2で得られた知見を総合すると、トレハロースを無水物換算で70質量%以上90質量%以下と、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計3質量%以上とを含有し、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が25%以上90%未満であるトレハロース二含水結晶含有粉末が0.35以上の乳化能を有しており、とりわけ、トレハロースを無水物換算で78質量%以上86質量以下%と、マルトース及び/又はマルトトリオースを無水物換算で合計4質量%以上とを含有し、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が50%以上90%未満であるトレハロース二含水結晶含有粉末が0.45以上の乳化能を有していることが判明した。
【0070】
<実験2:走査型電子顕微鏡を用いたトレハロース二含水結晶含有粉末の粉末表面の観察>
優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末と、乳化能を実質的に有しないトレハロース二含水結晶含有粉末との構造的な違いを明らかにするため、走査型電子顕微鏡を用いて粉末の表面の観察を行った。
【0071】
実験1−1で得た粉末1、3、4、5及び9(相対湿度75%で7日間熟成したもの)の表面を走査型電子顕微鏡(『SU3500』、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。結果を
図1〜5にそれぞれ示す。
【0072】
図1及び5に示されるとおり、粉末1及び9は表面が比較的平滑であるのに対し、
図2〜4に示されるとおり、粉末3〜5は表面に細かな凹凸が数多く観察された。粉末1は、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が4.6%と低く、大部分が非晶質のまま残っていることから、表面が平滑な粉末となったと考えられた。また、粉末9は、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が84.6%と高く、大部分が結晶となっていることから、表面が平滑な粉末となったと考えられた。一方、粉末3〜5は、トレハロース二含水結晶についての結晶化度が55.7〜59.5%であり、非晶質と結晶とを適度に含んでいるので、表面に凹凸の多い粉末となったと考えられた。これらの結果は、表面に細かな凹凸が多いトレハロース二含水結晶含有粉末が優れた乳化能を有することを示唆するものである。
【0073】
<実験3:トレハロース二含水結晶含有粉末の比表面積の測定>
実験2において、優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末は、乳化能を実質的に有しないトレハロース二含水結晶含有粉末と比較して、表面に細かな凹凸が数多く観察されたことから、優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末について、比表面積の測定を行った。
【0074】
実験1−1で得た粉末2〜6(相対湿度75%で7日間熟成したもの)について、比表面積を前記した方法により測定した。対照粉末として、従来のトレハロース二含水結晶粉末(商品名『トレハ 微粉』、株式会社林原製)を用いた。結果を表5に示す。
【0076】
表5から明らかなとおり、乳化能を実質的に示さない対照粉末の比表面積が0.18m
2/gであったのに対し、乳化能の値が0.35以上である粉末2〜6の比表面積は0.26〜0.61m
2/gを示した。とりわけ、乳化能の値が0.45以上である粉末3〜5の比表面積は0.36〜0.61m
2/gであった。乳化能の値と比表面積に厳密な相関は認められないものの、これらの結果は、乳化能の値が0.35以上を示すトレハロース二含水結晶含有粉末が0.25m
2/g以上の比表面積を有しており、乳化能の値が0.45以上を示すトレハロース二含水結晶含有粉末が0.35m
2/g以上の比表面積を有していることを物語っている。
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術範囲は、これらの実施例により何ら限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例1】
【0078】
<トレハロース二含水結晶含有粉末>
実験1−1と同様の方法により、無水物換算でトレハロースを85.7質量%、マルトースを2.9質量%及びマルトトリオースを1.5質量%含有する、固形物濃度30%のトレハロース溶液を調製した。得られたトレハロース溶液を噴霧乾燥機(『L−8型スプレードライヤー』、大川原化工機株式会社製)を用いて噴霧乾燥した。なお、噴霧乾燥は、アトマイザー方式を用い、入り口温度180℃、出口温度90℃、供給速度2L/時間の条件で行った。得られた粉末を温度25℃、相対湿度60%で7日間熟成し、次いで、25℃で18時間真空乾燥し、トレハロース二含水結晶含有粉末を製造した。
【0079】
本品の乳化能、トレハロース二含水結晶についての結晶化度及び比表面積を測定したところ、それぞれ0.51、46.9%及び0.61m
2/gであった。また、本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上300μm未満の粒子が粉末全体の60質量%、及び、粒径53μm未満の粒子が粉末全体の20質量%含まれていた。なお、本品から粉末粒子1粒(約0.3mg)をピンセットにて採取した後、純水25μLに溶解し、常法に従いHPLCにて糖組成を分析したところ、噴霧乾燥原料とした前記トレハロース溶液と実質的に同じ糖組成を示した。本品は、優れた乳化能を有するため、特に、油脂を多く含む食品や化粧品等の製造に好適に用いることができる。また、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に、食品素材や化粧品素材などとして用いることも随意である。
【実施例2】
【0080】
<トレハロース二含水結晶含有粉末>
実験1−1と同様の方法により、無水物換算でトレハロースを80.9質量%、マルトースを3.0質量%及びマルトトリオースを2.3質量%含有する、固形物濃度30%のトレハロース溶液を調製した。得られたトレハロース含有糖液を噴霧乾燥機(『L−8型スプレードライヤー』、大川原化工機株式会社製)を用いて噴霧乾燥した。なお、噴霧乾燥は、アトマイザー方式を用い、入り口温度180℃、出口温度90℃、供給速度2L/時間の条件で行った。得られた粉末を温度20℃、相対湿度60%で7日間熟成し、次いで、25℃で18時間真空乾燥し、トレハロース二含水結晶含有粉末を製造した。
【0081】
本品の乳化能、結晶化度及び比表面積を測定したところ、それぞれ0.46、43.2%及び0.49m
2/gであった。また、本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上300μm未満の粒子が粉末全体の62質量%、及び、粒径53μm未満の粒子が粉末全体の18質量%含まれていた。本品は、優れた乳化能を有するため、特に、油脂を多く含む食品や化粧品等の製造に好適に用いることができる。また、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に、食品素材や化粧品素材などとして用いることも随意である。
【実施例3】
【0082】
<トレハロース二含水結晶含有粉末>
実験1−1と同様の方法により、無水物換算でトレハロースを73.7質量%、マルトースを3.5質量%及びマルトトリオースを3.4質量%含有する、固形物濃度30%のトレハロース溶液を調製した。得られたトレハロース含有糖液を噴霧乾燥機(『L−8型スプレードライヤー』、大川原化工機株式会社製)を用いて噴霧乾燥した。なお、噴霧乾燥は、アトマイザー方式を用い、入り口温度180℃、出口温度90℃、供給速度2L/時間の条件で行った。得られた粉末を温度20℃、相対湿度60%で7日間熟成し、次いで、25℃で18時間真空乾燥し、トレハロース二含水結晶含有粉末を製造した。
【0083】
本品の乳化能、結晶化度及び比表面積を測定したところ、それぞれ0.43、32.8%及び0.30m
2/gであった。また、本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上300μm未満の粒子が粉末全体の65質量%、及び、粒径53μm未満の粒子が粉末全体の12質量%含まれていた。本品は、優れた乳化能を有するため、特に、油脂を多く含む食品や化粧品等の製造に好適に用いることができる。また、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に、食品素材や化粧品素材などとして用いることも随意である。
【実施例4】
【0084】
<トレハロース二含水結晶含有粉末>
実験1−1と同様の方法により、無水物換算でトレハロースを85.2質量%、マルトースを3.0質量%及びマルトトリオースを1.8質量%含有するトレハロース溶液を調製し、次いで、固形物濃度70%に濃縮した。得られたトレハロース含有糖液に、種結晶として、トレハロース二含水結晶を無水物換算で2質量%添加し、室温で12時間放置することによりマスキットを調製した後、得られたマスキットを噴霧乾燥機(『L−8型スプレードライヤー』、大川原化工機株式会社製)を用いて噴霧乾燥した。なお、噴霧乾燥は、アトマイザー方式を用い、入り口温度180℃、出口温度90℃、供給速度2L/時間の条件で行った。得られた粉末を温度25℃、相対湿度60%で7日間熟成し、次いで、25℃で18時間真空乾燥し、トレハロース二含水結晶含有粉末を製造した。
【0085】
本品の乳化能、結晶化度及び比表面積を測定したところ、それぞれ0.48、69.6%及び0.50m
2/gであった。また、本品の粒度分布を測定したところ、粒径53μm以上300μm未満の粒子が粉末全体の68質量%、及び、粒径53μm未満の粒子が粉末全体の15質量%含まれていた。本品は、優れた乳化能を有するため、特に、油脂を多く含む食品や化粧品等に好適に用いることができる。また、従来のトレハロース二含水結晶含有粉末と同様に、食品素材や化粧品素材などとして用いることも随意である。
【実施例5】
【0086】
<粉末ポタージュスープ>
α化コーンスターチ粉末35質量部、α化ワキシーコーンスターチ12質量部、α化ポテトスターチ粉末4質量部、実施例1で得たトレハロース二含水結晶含有粉末10質量部、脱脂粉乳7質量部、塩化ナトリウム7質量部、オニオンパウダー0.5質量部を混合したものに、加熱融解した植物性硬化油10質量部を添加して混合し、得られた混合物を流動層造粒機で造粒した後、70℃の熱風で乾燥し、粉末ポタージュスープを製造した。
【0087】
本品は、熱湯に溶解した際に油性成分が均一に分散するため、口当たりが滑らかで、風味の良い粉末コーンポタージュスープである。
【実施例6】
【0088】
<入浴剤>
ナウター型ミキサー(回転数100rpm、ジャケット温度55℃)に実施例1で得たトレハロース二含水結晶含有粉末15重量部及びフマル酸5質量部を投入した後、パルミチン酸イソプロピル3質量部、及び、ミリスチン酸オクチルドデシル1質量部を徐々に添加し、さらに香料を適量添加し、混合した。その後、得られた混合物を押出造粒機を用いて造粒し、入浴剤を製造した。
【0089】
本品は、お湯に溶解した際に油性成分が均一に分散するため、お湯が滑らかで、使用感に優れた浴用剤である。
【0090】
<トレハロース二含水結晶含有粉末>
熟成日数を5日間に変更した以外は、実施例4と同様にトレハロース二含水結晶含有粉末を製造した。本品の乳化能及びトレハロース二含水結晶についての結晶化度を測定したところ、それぞれ0.28及び68.8%であり、本品は優れた乳化能を有するものではなかった。
【0091】
実施例4と比較例1から明らかなとおり、トレハロース含有糖液に種結晶を添加し、得られたマスキットを噴霧乾燥した場合においても、得られた粉末の熟成期間が5日間である場合には、優れた乳化能を有する粉末が得られないのに対し、噴霧乾燥して得た粉末の熟成期間が7日間以上である場合には、優れた乳化能を有する粉末が得られた。これらの結果は、優れた乳化能を有するトレハロース二含水結晶含有粉末を製造するためには、種結晶の添加の有無にかかわらず、トレハロース含有糖液を噴霧乾燥して得た粉末を相対湿度60%以上で7日間以上熟成することが重要であることを物語っている。