(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、この発明に係るアセチレンガス濃度推定装置、アセチレンガス適量推定装置および該装置を備える真空浸炭装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
〔第1実施形態〕
図1は、アセチレンガス濃度推定装置20を備える第1実施形態に係る真空浸炭装置1の構成図である。
【0012】
図1に示すように、真空浸炭装置1は、真空浸炭炉3と、制御部9と、ガス供給経路16と、ガス排出経路17と、真空ポンプ15と、アセチレンガス濃度推定装置20とを備える。
【0013】
真空浸炭炉3は、真空浸炭室6と、圧力センサ7とを備える。真空浸炭室6は、被処理物4を収容する部屋であり、真空浸炭するために密閉可能に構成されている。真空浸炭室6内に設置された処理ヒータ(図示せず)によって、被処理物4が所定温度に加熱される。
【0014】
圧力センサ7は、真空浸炭室6内の全圧力を測定する。圧力センサ7は、制御部9に接続されており、真空浸炭室6内の全圧力に関する出力値を出力し、その出力値が制御部9に入力される。制御部9は、少なくともCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)およびメモリを備えており、真空浸炭装置1における各種の制御、演算および推定を行う。
【0015】
ガス供給経路16は、真空浸炭室6に接続されて、真空浸炭室6内に真空浸炭ガスとして用いられるアセチレンガスを供給するための経路である。ガス供給経路16には、マスフローコントローラ5が配設されている。マスフローコントローラ5は、真空浸炭室6内に供給されるアセチレンガス供給量を調節するガス供給量調節部として働く。マスフローコントローラ5は、制御部9に接続されている。制御部9は、アセチレンガス濃度推定装置20によって推定されたアセチレンガスの濃度に基づいて、真空浸炭室6内のアセチレンガスの濃度が所定値になるように、マスフローコントローラ5を制御して、アセチレンガス供給量を制御する。その結果、真空浸炭室6内のアセチレンガスの濃度が最適化される。
【0016】
ガス排出経路17は、真空浸炭室6内の各種のガスを排出するための経路であり、真空浸炭炉3の真空浸炭室6に設けられた接続口17aを介して、真空浸炭室6と連通している。また、ガス排出経路17の下流側は、真空ポンプ15に接続されており、真空ポンプ15で真空浸炭室6内が所定の排気速度で排気されることによって、真空浸炭室6内が所定の減圧状態(例えば、大気圧の1/100程度の1kPa程度)に保持される。したがって、減圧された真空浸炭室6内で被処理物4を所定温度に加熱し、アセチレンガスを供給することによって、被処理物4が真空浸炭される。
【0017】
ガス排出経路17には、ガス排出経路17と連通する真空浸炭室6内でのアセチレンガスの濃度を推定するアセチレンガス濃度推定装置20が配設されている。アセチレンガス濃度推定装置20は、アセチレンガス分解部21と、第一センサ22と、第二センサ23とを備える。第一センサ22および第二センサ23は、制御部9に接続されており、測定された水素ガス濃度に対応する出力値をそれぞれ出力する。第一センサ22および第二センサ23からの各出力値は、制御部9に入力されて、制御部9によって演算される。
【0018】
アセチレンガス分解部21は、触媒24と、触媒24を収容する触媒収容室25と、触媒24を加熱する触媒加熱ヒータ26とを有する。触媒24にはガス導入管27が接続されている。ガス導入管27には、ガス導入弁13が配設されている。ガス導入管27は、大気開放管または酸素ガス供給管に接続されている。ガス導入弁13は、制御部9に接続されており、制御部9によってガス導入弁13の開閉が制御される。
【0019】
触媒24は、例えば、銅や銅合金からなる。触媒24は、例えば、管状形状をしている。触媒24は、ガス排出経路17に接続されて、触媒24の内部空間を流れるアセチレンガスを、炭素成分と水素ガスとに分解する。触媒24は、その外周部に配設された触媒加熱ヒータ26による加熱で、アセチレンガスを炭素成分と水素ガスとに効率的に分解できる温度に保持される。触媒24の温度は、触媒温度センサ34(
図5に図示)によって測定された温度に基づいて、制御部9によって制御される。なお、アセチレンガス分解部21は、アセチレンガスを炭素成分と水素ガスとに分解することができるならば、上記態様に限定されるものではない。
【0020】
ガス排出経路17において、第一センサ22の上流側には開閉弁12が配設されているとともに、第二センサ23の下流側には排気弁11が配設されている。真空ポンプ15の下流側には、大気開放経路19が接続されている。開閉弁12および排気弁11は、制御部9に接続されており、制御部9によって開閉弁12および排気弁11の開閉が制御される。
【0021】
第一センサ22は、アセチレンガス分解部21の上流側に配設されてアセチレンガス分解部21の上流側での水素ガス濃度を測定して該水素ガス濃度に対応した出力値を出力する。第一センサ22は、例えば、基準ガスと水素ガスとの熱伝導率の違いを利用した熱伝導式センサである。第一センサ22による測定対象は、アセチレンガス分解部21の上流側で生成される水素ガス濃度である。
【0022】
第二センサ23は、アセチレンガス分解部21の下流側に配設されてアセチレンガス分解部21の下流側での水素ガス濃度を測定して該水素ガス濃度に対応した出力値を出力する。第二センサ23は、例えば、被検ガスである水素ガスによる熱伝導率の変化を水素ガスの濃度として測定する熱伝導式センサである。第二センサ23による測定対象は、アセチレンガス分解部21の上流側で生成される水素ガスと、真空浸炭室6内での真空浸炭に寄与しないで余剰となったアセチレンガスがアセチレンガス分解部21で分解されることによって生成される水素ガスとを含む水素ガス濃度である。
【0023】
アセチレンガス分解部21によって生成される粉状の炭素成分が、第一センサ22および第二センサ23に何らかの影響を与えるおそれがある。しかしながら、第一センサ22および第二センサ23は、アセチレンガス分解部21から離間した別体の要素として構成されているので、生成される粉状の炭素成分の影響を受けにくくなる。したがって、真空浸炭室6におけるアセチレンガスの濃度を安定して推定できる。
【0024】
管状をした触媒24の内周面(触媒作用面)には、アセチレンガスの分解によって生成した炭素成分が付着するので、適宜のタイミングで炭素成分を燃焼させることによって炭素成分が除去される。例えば、開閉弁12および排気弁11を閉じたあと、ガス導入弁13を開くことで、空気や酸素ガスなどが触媒24に供給される。触媒加熱ヒータ26で触媒24を加熱することによって、触媒24に付着した炭素成分が燃焼されて、二酸化炭素が生成される。これにより、触媒24の触媒作用面がリフレッシュされるので、触媒24の触媒作用が維持される。触媒24のリフレッシュ操作が終了すると、ガス導入弁13を閉じたあと、開閉弁12および排気弁11を開く。これにより、再び、水素ガスなどが、ガス排出経路17および大気開放経路19を通じて大気中に放出される。
【0025】
第一センサ22および第二センサ23において使用される熱伝導式センサについて簡単に説明する。熱伝導式センサは、基準ガスと被検ガス(水素ガス)との間での熱伝導率の違いを利用したものであり、補償素子および検知素子から構成されている。補償素子および検知素子は、通電によって加熱された金属線コイルに被検ガスが触れると、当該ガス固有の熱伝導率によって金属線コイルの熱が奪われて、金属線コイルの温度が変化する。特に、水素ガスは熱伝導率が非常に高いため、水素ガスが存在すると、金属線コイルからの放熱量が大きくなる。所定の空間内に存在する水素ガスなどのガスの量(モル数)は、ガスの濃度とみなすことができる。そして、放熱量の変化が、被検ガスの量すなわち被検ガス濃度に比例するので、金属線コイルの抵抗値変化が、ブリッジ回路によって電圧値として出力される。第一センサ22および第二センサ23から出力される各電圧値は、制御部9に入力されて、制御部9によって演算処理に供される。なお、第一センサ22から出力された電圧値は、表示部8(
図5に図示)においてデジタルまたはアナログで表示することもできる。表示部8に表示される第一センサ22の電圧値は、後述するように、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを、使用者自身が推定することに用いることもできる。
【0026】
アセチレンガス分解部21でアセチレンガスが炭素成分と水素ガスとに分解されるとき、C
2H
2→2C+H
2の関係から、アセチレンガスの量と同じ量の水素ガスが生成される。アセチレンガス分解部21でアセチレンガスが分解されると、分解によって生成される水素ガス量と、分解に供されたアセチレンガスの量とが同じになる。制御部9が、第二センサ23の出力値から第一センサ22の出力値を差し引いた差分を演算することによって、アセチレンガスがアセチレンガス分解部21で分解されることによって生成される水素ガス量すなわち水素ガスの濃度が算出される。したがって、アセチレンガス分解部21で分解された水素ガスの濃度が、アセチレンガス分解部21と連通する真空浸炭室6内でのアセチレンガスの濃度に対応するので、真空浸炭室6内でのアセチレンガスの濃度を簡単に推定できる。
【0027】
〔第2実施形態〕
図2は、アセチレンガス濃度推定装置20を備える第2実施形態に係る真空浸炭装置1の構成図である。
【0028】
図2に示すように、第2実施形態の真空浸炭装置1は、水素ガス回収部28を除いて、第1実施形態の真空浸炭装置1と同一の構成をしている。
【0029】
真空浸炭ガスとして用いられるアセチレンガスを真空浸炭炉3の真空浸炭室6に供給すると、アセチレンガスは、炭素成分および水素ガスに分解されるが、分解によって生成された水素ガスは、真空ポンプ15の下流側に位置する大気開放経路19を通じて、大気中に放出される。
【0030】
そこで、第2実施形態に係る真空浸炭装置1では、水素ガス回収部28が、ガス排出経路17に配設されている。水素ガス回収部28が、
図2に示すように、例えば、ガス排出経路17において排気弁11と真空ポンプ15との間に配設される。水素ガス回収部28は、ガス排出経路17においてアセチレンガス濃度推定装置20の下流側を流れるガスの中から水素ガスを回収する働きを有する。
【0031】
水素ガス回収部28は、例えば、水素吸蔵合金とすることができる。
【0032】
したがって、水素ガス回収部28をガス排出経路17に配設することにより、ガス排出経路17を流れるガスの中から水素ガスを回収でき、水素ガスを燃料などに有効活用できる。
【0033】
〔第3実施形態〕
次に、
図3から
図5を参照しながら、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを推定する、真空浸炭装置1のアセチレンガス適量推定装置40について説明する。
【0034】
図3は、アセチレンガスの時間当たりの供給量と、第一センサ22を通過するガスの成分および当該ガスの時間当たりの量との関係を模式的に説明する図である。
図4は、アセチレンガスの時間当たりの供給量と、第二センサ23を通過するガスの成分および当該ガスの時間当たりの量との関係を模式的に説明する図である。
図5は、真空浸炭装置1(アセチレンガス濃度推定装置20やアセチレンガス適量推定装置40)の電気的構成を示すブロック図である。
【0035】
アセチレンガス適量推定装置40は、真空浸炭装置1に組み込まれており、
図5に示すように、マスフローコントローラ5と、制御部9と、第一センサ22と、第二センサ23と、触媒24と、触媒加熱ヒータ26と、触媒温度センサ34とを備える。アセチレンガス適量推定装置40では、制御部9によって、マスフローコントローラ5が調節されて、アセチレンガス供給量がゼロから徐々に増加するように制御される。すなわち、アセチレンガスの時間当たりの供給量を一定の変化量で増加させ、アセチレンガス供給量が適量になったと推定される時点でアセチレンガスの時間当たりの供給量を一定にすることにより、従来のような過剰なアセチレンガス供給を無くすというものである。
【0036】
図3において、横軸はアセチレンガスの時間当たりの供給量であり、縦軸は第一センサ22を通過するガスの成分および当該ガスの時間当たりの量である。そして、AE(一点鎖線)は、余剰アセチレンガス量の変化を示し、H(太い実線)は水素ガス量の変化を示し、H1(太い実線)は理論的な当量のアセチレンガスが供給される前での水素ガス量の変化を示し、HPは理論的な当量のアセチレンガスが供給された時点での水素ガス量であり、H2(太い実線)は、理論的な当量のアセチレンガスが供給された後での水素ガス量の変化を示している。
【0037】
図4において、横軸はアセチレンガスの時間当たりの供給量であり、縦軸は第二センサ23を通過するガスの成分および当該ガスの時間当たりの量である。そして、H(太い実線)は水素ガス量の変化を示し、H1(太い実線)は理論的な当量のアセチレンガスが供給される前での水素ガス量の変化を示し、HPは理論的な当量のアセチレンガスが供給された時点での水素ガス量を示し、H3(太い実線)は、理論的な当量のアセチレンガスが供給された後での水素ガス量の変化を示し、HEはアセチレンガス分解部21によって発生した水素ガス量を示している。また、
図3および
図4において、横軸に示されたL、MおよびNは、それぞれ、アセチレンガスが不足している領域、アセチレンガスの理論的な当量ポイントおよびアセチレンガスが余剰になっている領域を示している。
【0038】
図3および
図4において、アセチレンガスの供給を開始してからアセチレンガス供給量が一定の変化量で増加して理論的な当量になるまでは(領域Lに対応)、供給されたアセチレンガスのうち炭素成分の全てが、被処理物4の真空浸炭に利用される。そのため、真空浸炭室6から排出されるのは、水素ガスであり、第一センサ22および第二センサ23のそれぞれを通過する水素ガス量が、H1に沿って比例的に増加する。
【0039】
図3および
図4において、アセチレンガス供給量が理論的な当量になると(アセチレンガスの理論的な当量ポイントMに対応)、供給されたアセチレンガスのうち炭素成分が、過不足無く被処理物4の真空浸炭に利用され、真空浸炭室6からは、HPで示される水素ガス量で水素ガスが排出される。
【0040】
アセチレンガス供給量が理論的な当量を超えて余剰になると(領域Nに対応)、真空浸炭による新たな水素ガスが発生しないために、水素ガス量がHPのままで推移するのに対して、余剰になったアセチレンガスが真空浸炭室6から排出されるようになる。そのため、
図3に示すように、真空浸炭室6のすぐ下流側に位置する第一センサ22では、余剰になったアセチレンガスが通過して、第一センサ22を通過するアセチレンガス量が、AEに沿って比例的に増加する。そして、第一センサ22を通過する水素ガス量は、H2に沿ってHPのままで推移する。
【0041】
余剰のアセチレンガスは、アセチレンガス分解部21によって炭素成分と水素ガスに分解されるので、アセチレンガス分解部21のすぐ下流側に位置する第二センサ23では、アセチレンガス分解部21によって分解・生成された水素ガスがさらに通過する。したがって、
図4に示すように、第二センサ23では、HPで示される水素ガス量に加えて、アセチレンガス分解部21によって発生した水素ガスが通過するので、第二センサ23を通過する水素ガス量が、H3に沿って比例的に増加する。なお、或るアセチレンガス供給量において、H3の縦軸値からHPの値を差し引いたときの値は、アセチレンガス分解部21によって発生した、水素ガス量HEおよび炭素成分量に対応している。
【0042】
第一センサ22および第二センサ23は、いずれも、水素ガスの濃度を測定しており、第一センサ22および第二センサ23からの各出力値は、制御部9に入力されて、制御部9によって演算される。例えば、制御部9は、第二センサ23の出力値から第一センサ22の出力値を差し引いた差分を演算する。該差分は、
図4において、アセチレンガス分解部21によって発生した水素ガス量HEに対応する。アセチレンガス供給量がゼロから徐々に増加するように制御されるとき、差分は、アセチレンガス量が理論的な当量に到達するときまでは実質的にゼロになり、理論的な当量よりも多めの量のアセチレンガスが供給されたときには正の値を取る。
【0043】
制御部9は、真空浸炭の際に、前記差分をモニターしていて、該差分が或る正の値を取った時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたときであると推定する。真空浸炭室6の内容積や被処理物4の形状や真空浸炭の処理内容などに関係無く、差分が或る正の値を取ったか否かをモニターするだけで、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かが容易に推定できる。なお、本願での理論的な当量とは、供給されたアセチレンガスが過不足無く被処理物4の真空浸炭に利用される量のことである。また、本願での適量のアセチレンガス供給量とは、被処理物4が真空浸炭不足にならないように、真空浸炭における理論的な当量よりも多めのアセチレンガス供給量である。適量のアセチレンガス供給量として、例えば、理論的な当量に対して10%増〜20%増のアセチレンガスが供給される。
【0044】
制御部9は、真空浸炭の際に、アセチレンガス供給量を制御して、モニター中の差分が、或る正の値を取ると、アセチレンガスの供給量が適量になったと推定して、アセチレンガス供給量が一定になるようにマスフローコントローラ5を調節する。それにより、真空浸炭の際に、アセチレンガスを従来のように適量の2.5倍から3.5倍も過剰に供給することが防止される。また、真空浸炭を開始したときからアセチレンガス供給量を一定の変化量で増加させながらアセチレンガスの適量を推定することが、毎回の真空浸炭において行われる。したがって、被処理物4の形状や真空浸炭の処理内容が変わっても、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを的確に推定することができる。
【0045】
安全をみて、制御部9は、例えば、理論的な当量となるアセチレンガス供給量HPに対応する第一センサ22の出力値に対して、1.1を乗算した下限値と、1.2を乗算した上限値とを演算して、第一センサ22の出力値が該下限値および該上限値の範囲内に収まるようにマスフローコントローラ5を制御することもできる。
【0046】
アセチレンガス供給量が適量になると、アセチレンガス供給量が一定になるように制御されるが、何らかの影響で、第一センサ22の出力値が下限値を下回ればアセチレンガス供給量が増加する一方、第一センサ22の出力値が上限値を上回ればアセチレンガス供給量が減少するように制御される。このようにすれば、真空浸炭をより確実に実行できるとともに、従来のような過剰な供給量(適量に対して2.5倍から3.5倍も多い量)でアセチレンガスが供給されることを防止できる。
【0047】
〔第4実施形態〕
次に、
図6を参照しながら、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを推定する、真空浸炭装置1のアセチレンガス適量推定装置40について説明する。上記第3実施形態との比較で、第4実施形態は、真空浸炭装置1およびアセチレンガス適量推定装置4などの構成は同じであるが、制御部9によるアセチレンガス供給量の適量推定方法が相違しているので、該相違点を中心に説明する。
【0048】
図6は、アセチレンガス供給量の適量を推定するための他の方法を模式的に説明する図である。
図6において、Aは、真空浸炭室6に存在するアセチレンガスの量が少ない場合を示し、Bは、真空浸炭室6に存在するアセチレンガスの量が多い場合を示す。
【0049】
上述したように、真空浸炭室6の下流側でのアセチレンガスの濃度C
C2H2は、第二センサ23によって検出される水素ガスの濃度C2
H2から第一センサ22によって検出される水素ガスの濃度C1
H2を差し引いた差分、すなわち、第二センサ23の出力値から第一センサ22の出力値を差し引いた差分によって推定できる。アセチレンガスの濃度C
C2H2は、
C
C2H2=第二センサ23の出力値−第一センサ22の出力値、に対応したもので表される。
【0050】
また、真空浸炭室6内では、C
2H
2→2C+H
2で表される浸炭反応が起こるので、浸炭反応における浸炭ポテンシャルK
Cは、
K
C=アセチレンガスの濃度/水素ガスの濃度
=C
C2H2/C1
H2で表される。
したがって、浸炭ポテンシャルK
Cは、第二センサ23の出力値から第一センサ22の出力値を差し引いた差分を、第一センサ22の出力値で除した値で表される。
【0051】
ここで、浸炭ポテンシャルK
Cは、浸炭ガス(アセチレンガス)と浸炭によって生成した水素ガスとの間での濃度比率を表し、真空浸炭室6内の雰囲気が有する浸炭強度または浸炭能力を表す指標である。浸炭ポテンシャルK
Cが小さいと、浸炭むらや浸炭抜けの原因となる。
【0052】
図6のAにおいて、例えば、第一センサ22によって検出される水素ガスの濃度C1
H2に対応する第一センサ22の出力値が60(mV)であり、第二センサ23によって検出される水素ガスの濃度C2
H2に対応する第二センサ23の出力値が75(mV)であると仮定する。この場合でのアセチレンガスの濃度C
C2H2は、
C
C2H2=第二センサ23の出力値−第一センサ22の出力値
=75(mV)−60(mV)
=15(mV)に対応したものになる。
そして、浸炭ポテンシャルK
Cは、
K
C=C
C2H2/C1
H2
=15(mV)/60(mV)
=0.25という無次元の値になる。
【0053】
図6のBにおいて、例えば、第一センサ22によって検出される水素ガスの濃度C1
H2に対応する第一センサ22の出力値が35(mV)であり、第二センサ23によって検出される水素ガスの濃度C2
H2に対応する第二センサ23の出力値が75(mV)であると仮定する。この場合でのアセチレンガスの濃度C
C2H2は、
C
C2H2=第二センサ23の出力値−第一センサ22の出力値
=75(mV)−35(mV)
=40(mV)に対応したものになる。
そして、浸炭ポテンシャルK
Cは、
K
C=C
C2H2/C1
H2
=40(mV)/35(mV)
=1.14という無次元の値になる。
【0054】
制御部9は、真空浸炭の際に、浸炭ポテンシャルK
Cの値をモニターしていて、該K
Cの値が或る正の値を取った時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたときであると推定する。ここで、浸炭ポテンシャルK
Cの値は、無次元の値であるので、他のガスが存在していても、その影響を受けることがない。そのため、他のガスの影響を考慮することなく、所望とするK
Cの或る正の値を、一義的に決めることができる。したがって、真空浸炭時に窒素ガスのような他のガスを加えた場合でも、K
Cの値が或る正の値を取ったか否かをモニターするだけで、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かが容易に推定できる。
【0055】
〔第5実施形態〕
図3および
図5を参照しながら、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを推定する、真空浸炭装置1のアセチレンガス適量推定装置40について説明する。
【0056】
第5実施形態に係るアセチレンガス適量推定装置40は、真空浸炭装置1に組み込まれており、
図5に示す構成要素のうち、マスフローコントローラ5と、制御部9と、第一センサ22とを備える。制御部9によって、真空浸炭の際、アセチレンガス供給量が一定の変化量で増加して、アセチレンガス供給量が理論的な当量ポイントMに到達したあと或る時間を経過した時点でアセチレンガス供給量が一定になるように制御される。
【0057】
上述したように、第一センサ22を通過する水素ガス量は、アセチレンガスの供給を開始してからアセチレンガス供給量が理論的な当量になるまではH1に沿って一定の変化量で増加し、アセチレンガスの理論的な当量ポイントMを経て、アセチレンガス供給量が多めになるとH2に沿った一定の値HPになる。制御部9は、被処理物4が真空浸炭不足にならないように、すなわち、理論的な当量よりも多めのアセチレンガスが供給されるように、理論的な当量ポイントMに到達したあと或る時間を経過すると、適量のアセチレンガスが供給されたと推定する。なお、或る時間とは、理論的な当量のアセチレンガスの供給が完了してから、理論的な当量に対して10%増〜20%増のアセチレンガスの供給が完了するまでの時間である。
【0058】
制御部9は、真空浸炭の際に、第一センサ22の出力値をモニターしていて、第一センサ22の出力値が増加する値から一定の値に変化したあと或る時間が経過した時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたときであると推定する。第5実施形態に係るアセチレンガス適量推定装置40は、第二センサ23や触媒24などを必要としないので、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを簡易な構成で推定できる。
【0059】
なお、第一センサ22の出力値は、一定の値になった場合でも、変動することがあるため、第一センサ22の出力値が所定の幅に収まった時点を、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたときと推定することもできる。第一センサ22の出力値が所定の幅に収まるまでアセチレンガスの供給が継続されるので、適量のアセチレンガスが供給されたと推定されるときは、アセチレンガスが理論的な当量よりも多めに供給されているため、被処理物4の真空浸炭不足が防止される。
【0060】
真空浸炭装置1、アセチレンガス濃度推定装置20またはアセチレンガス適量推定装置40は、第一センサ22および第二センサ23の出力値(電圧値)をデジタルまたはアナログで表示する表示部8を備えることができる。上記装置の使用者は、表示部8に表示された出力値をモニターして、制御部9に代わって以下の推定作業を行うことができる。
【0061】
例えば、アセチレンガス濃度推定装置20の使用者が、第二センサ23の出力値から第一センサ22の出力値を差し引いた差分を演算することにより、真空浸炭室6内でのアセチレンガスの濃度を推定できる。また、第3実施形態に係るアセチレンガス適量推定装置40の使用者が、差分を演算するとともにモニターしていて、差分が或る正の値を取った時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガスが供給されたときであると推定できる。また、第4実施形態に係るアセチレンガス適量推定装置40の使用者が、浸炭ポテンシャルK
Cの値を演算するとともにモニターしていて、該K
Cの値が或る正の値を取った時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガスが供給されたときであると推定できる。さらにまた、第5実施形態に係るアセチレンガス適量推定装置40の使用者が、第一センサ22の出力値をモニターしていて、第一センサ22の出力値が増加する値から一定の値に変化したあと或る時間が経過した時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたときであると推定できる。
【0062】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0063】
アセチレンガス濃度推定装置20において、第一センサ22および第二センサ23を熱伝導式センサとしたが、第一センサ22および第二センサ23は、これに限定されず、他方式のセンサとすることができる。第一センサ22および第二センサ23は、例えば、水素ガスが触媒に接することによって生じる発熱に伴う温度上昇を、熱電素子で熱起電力として測定する熱電式センサや、雰囲気ガスと水素ガスとの間での音速の違いから水素ガス濃度を測定する超音波式センサなどとすることができる。
【0064】
真空浸炭を初めて行う際は、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量が不明であるため、真空浸炭において、アセチレンガス供給量をゼロから徐々に増加させることが好ましい。2回目以降であって被処理物4の形状や真空浸炭の処理内容が1回目のものとほぼ同じである場合、アセチレンガスは、1回目で推定された適量のアセチレンガス供給量で、真空浸炭の開始時から供給されてもよい。この場合、アセチレンガス供給量をゼロから徐々に増加させる場合よりも、真空浸炭に要する時間を短縮できる。
【0065】
制御部9は、第一センサ22の出力値から第二センサ23の出力値を差し引いた他の差分を演算して、該他の差分が或る負の値を取った時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガスが供給されたときであると推定することもできる。
【0066】
真空浸炭炉3の構造や被処理物4の材質などによって適量のアセチレンガス供給量が異なるため、適量のアセチレンガス供給量として、例えば、理論的な当量に対して5%増〜50%増の範囲で適宜に決定することができる。
【0067】
この発明および実施形態をまとめると、次のようになる。
【0068】
この発明の一態様に係るアセチレンガス濃度推定装置20は、
アセチレンガスを炭素成分と水素ガスとに分解するアセチレンガス分解部21と、
前記アセチレンガス分解部21の上流側に配設されて前記アセチレンガス分解部21の上流側での水素ガス濃度を測定する第一センサ22と、
前記アセチレンガス分解部21の下流側に配設されて前記アセチレンガス分解部21の下流側での水素ガス濃度を測定する第二センサ23とを備えることを特徴とする。
【0069】
上記構成によれば、第一センサ22は、アセチレンガス分解部21の上流側で生成される水素ガスの濃度を測定するのに対して、第二センサ23は、アセチレンガス分解部21の上流側で生成される水素ガスと、アセチレンガスがアセチレンガス分解部21で分解されることによって生成される水素ガスとを含む水素ガスの濃度を測定する。第二センサ23で測定された水素ガス濃度から第一センサ22で測定された水素ガス濃度を差し引くことによって、アセチレンガス分解部21によって生成された水素ガスの濃度が測定できる。アセチレンガスがアセチレンガス分解部で分解されることによって生成される水素ガス量(モル数)は、アセチレンガスの量(モル数)と同じであり、所定の空間内に存在するガスの量(モル数)はガスの濃度とみなすことができる。したがって、アセチレンガス分解部によって生成された水素ガスの濃度を介して、アセチレンガスの濃度を間接的に推定でき、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かが分かるので、アセチレンガスを適量の2.5倍から3.5倍も多めに供給することを必要としなくなる。
【0070】
また、一実施形態のアセチレンガス濃度推定装置20では、
前記アセチレンガスは、真空浸炭ガスとして用いられる。
【0071】
上記実施形態によれば、真空浸炭において、従来のようにアセチレンガスを適量の2.5倍から3.5倍も過剰に供給することを必要としなくなる。
【0072】
また、一実施形態のアセチレンガス濃度推定装置20では、
前記アセチレンガス分解部21には、アセチレンガスを炭素成分と水素ガスとに分解する触媒24が配設されている。
【0073】
上記実施形態によれば、アセチレンガスが触媒24を通過するだけで、アセチレンガスを炭素成分と水素ガスとに簡単に分解できる。
【0074】
この発明の一態様に係る真空浸炭装置1は、
アセチレンガスによる真空浸炭を行う真空浸炭室6と、上記のアセチレンガス濃度推定装置20とを備え、
前記アセチレンガス濃度推定装置20が、前記真空浸炭室6と連通して前記真空浸炭室6を減圧するガス排出経路17に配設されていることを特徴とする。
【0075】
上記構成によれば、アセチレンガス濃度推定装置20が、真空浸炭室を排気するガス排出経路17上に設けられているので、真空浸炭後のガスを確実に且つ容易にアセチレンガス濃度推定装置20に提供でき、アセチレンガスの濃度を正確に推定できる。
【0076】
また、一実施形態の真空浸炭装置1では、
前記真空浸炭室6内へのアセチレンガス供給量を制御する制御部9を備え、
前記制御部9は、前記第一センサ22および前記第二センサ23の各出力値に基づいて、前記真空浸炭室6内へのアセチレンガス供給量を制御する。
【0077】
上記実施形態によれば、制御部9によって、真空浸炭室6内へのアセチレンガス供給量が適量に制御されるので、アセチレンガス供給量が過剰になることを防止できる。
【0078】
また、一実施形態の真空浸炭装置1では、
前記アセチレンガス濃度推定装置20の下流側には、水素ガス回収部28が配設されており、
前記水素ガス回収部28は、前記ガス排出経路17において、前記アセチレンガス濃度推定装置20の下流側を流れるガスの中から水素ガスを回収する。
【0079】
上記実施形態によれば、水素ガス回収部28をガス排出経路17に配設することにより、ガス排出経路17を流れる様々なガスの中から水素ガスを回収でき、水素ガスを燃料などに有効活用できる。
【0080】
この発明の一態様に係るアセチレンガス適量推定装置40は、
真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを推定するアセチレンガス適量推定装置40であって、
真空浸炭室6へのアセチレンガス供給量を調節するガス供給量調節部5と、
アセチレンガスを炭素成分と水素ガスとに分解するアセチレンガス分解部21と、
前記アセチレンガス分解部21の上流側に配設されて前記アセチレンガス分解部21の上流側での水素ガス濃度を測定する第一センサ22と、
前記アセチレンガス分解部21の下流側に配設されて前記アセチレンガス分解部21の下流側での水素ガス濃度を測定する第二センサ23と、
前記ガス供給量調節部5を制御するとともに、前記第二センサ23の出力値から前記第一センサ22の出力値を差し引いた差分を演算する制御部9とを備え、
前記制御部9は、真空浸炭開始から前記アセチレンガス供給量を前記ガス供給量調節部5で制御し、前記差分が或る正の値を取った時点が、または、前記差分を前記第一センサ22の前記出力値で除した値が或る正の値を取った時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガスが供給されたときであると推定することを特徴とする。
【0081】
上記構成によれば、制御部9によって、真空浸炭の際に、アセチレンガス供給量が制御され、差分が或る正の値を取るか、または、差分を第一センサ22の出力値で除した値が或る正の値を取ると、アセチレンガス供給量が適量になったと推定されて、アセチレンガス供給量が一定になるようにガス供給量調節部5が調節される。それにより、真空浸炭の際に、アセチレンガスを従来のように適量の2.5倍から3.5倍も過剰に供給することが防止される。
【0082】
この発明の一態様に係るアセチレンガス適量推定装置40は、
真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを推定するアセチレンガス適量推定装置40であって、
真空浸炭室6へのアセチレンガス供給量を調節するガス供給量調節部5と、
アセチレンガスを炭素成分と水素ガスとに分解するアセチレンガス分解部21と、
前記アセチレンガス分解部21の上流側に配設されて前記アセチレンガス分解部21の上流側での水素ガス濃度を測定する第一センサ22と、
前記アセチレンガス分解部21の下流側に配設されて前記アセチレンガス分解部21の下流側での水素ガス濃度を測定する第二センサ23と、
前記ガス供給量調節部5を制御するとともに、前記第二センサ23の出力値から前記第一センサ22の出力値を差し引いた差分を演算する制御部9とを備え、
前記制御部9は、アセチレンガス供給量が真空浸炭開始から一定の変化量で増加するように前記ガス供給量調節部5を制御し、前記差分が或る正の値を取った時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガスが供給されたときであると推定することを特徴とする。
【0083】
上記構成によれば、制御部9によって、真空浸炭の際に、アセチレンガス供給量が一定の変化量で増加するように制御され、モニター中の差分が、或る正の値を取ると、アセチレンガス供給量が適量になったと推定されて、アセチレンガス供給量が一定になるようにガス供給量調節部5が調節される。それにより、被処理物4の形状や真空浸炭の処理内容が変わっても、真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを的確に推定することができる。
【0084】
この発明の一態様に係るアセチレンガス適量推定装置40は、
真空浸炭に対して適量のアセチレンガス供給量でアセチレンガスが供給されたか否かを推定するアセチレンガス適量推定装置40であって、
真空浸炭室6へのアセチレンガス供給量を調節するガス供給量調節部5と、
前記真空浸炭室6の下流側に配設されて前記真空浸炭室6の下流側での水素ガス濃度を測定する第一センサ22と、
前記ガス供給量調節部5を制御するとともに、前記第一センサ22の出力値をモニターする制御部9とを備え、
前記制御部9は、アセチレンガス供給量が真空浸炭開始から一定の変化量で増加するように前記ガス供給量調節部5を制御し、前記第一センサ22の前記出力値が、増加する値から一定の値に変化したあと或る時間が経過した時点が、真空浸炭に対して適量のアセチレンガスが供給されたときであると推定することを特徴とする。
【0085】
上記構成によれば、制御部9によって、真空浸炭の際に、アセチレンガス供給量が一定の変化量で増加するように制御され、モニター中の第一センサ22の出力値が、増加する値から一定の値に変化したあと或る時間が経過すると、アセチレンガス供給量が適量になったと推定されて、アセチレンガス供給量が一定になるようにガス供給量調節部5が調節される。それにより、真空浸炭の際に、アセチレンガスを従来のように適量の2.5倍から3.5倍も過剰に供給することが防止される。