(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書ではハンチントン病を診断、予防、及び/または治療するための方法及び組成物を開示する。特に、本明細書では、(Htt発現を抑制する)Httリプレッサーを含め、ハンチントン疾患の治療を目的としたHD Httアレルの改変(例えばその発現を調節する)方法及び組成物を提供する。本明細書に記載の組成物(Httリプレッサー)は、例えば、対象における細胞死の減少、アポトーシスの減少、細胞機能(代謝)の増加、及び/または運動不全の軽減により、対象に治療的利益を与える。また、霊長類の脳における二方向性の軸索輸送を可能にする方法及び組成物を提供する。驚くべきことにかつ予想外に、本発明者らは、使用されてきた他のAAV血清型とは異なり、AAV9が、AAV9投与部位から離れた脳領域への順行性及び逆行性の軸索輸送を含め、脳全体に広範な送達を示すことを見出した。したがって、本明細書では、Htt遺伝子に結合する非天然型ジンクフィンガータンパク質であって、F1〜F5に指示される5つのジンクフィンガードメインを含み、そのジンクフィンガードメインが、表1の単一の行に示される認識ヘリックス領域配列を含んでいるジンクフィンガータンパク質について記載する。
【0014】
したがって、一態様では、遺伝子操作された(非天然型)Httリプレッサーを提供する。リプレッサーは、HDアレル(例えば、Htt)の発現を調節する系(例えば、ジンクフィンガータンパク質、TALエフェクター(TALE)タンパク質、またはCRISPR/dCas−TF)を含み得る。遺伝子操作されたジンクフィンガータンパク質またはTALEは、DNA結合ドメイン(例えば、認識ヘリックスまたはRVD)が、あらかじめ選択された標的部位に結合するように(例えば、選択及び/または合理的な設計によって)改変された非天然型ジンクフィンガーまたはTALEタンパク質である。本明細書に記載のジンクフィンガータンパク質はいずれも、1、2、3、4、5、6またはそれ以上のジンクフィンガーを含むことができ、各ジンクフィンガーは、選択された配列(複数可)(例えば、遺伝子(複数可))の標的サブ部位に結合する認識ヘリックスを有する。同様に、本明細書に記載のTALEタンパク質はいずれも、任意の数のTALE RVDを含むことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRVDが非特異的DNA結合を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの認識ヘリックス(またはRVD)が非天然型である。ある特定の実施形態では、ジンクフィンガータンパク質は、45643または46025と命名されたタンパク質において認識ヘリックスを有する(表1)。ある特定の実施形態では、リプレッサーは、転写抑制ドメインに機能可能に連結されたDNA結合ドメイン(ZFP、TALE、単一ガイドRNA)を含んでいる。いくつかの実施形態では、これらのZFP−TF、CRISPR/dCas−TF、またはTALE−TFには、DNAに結合したときに多量体化を可能にするタンパク質相互作用ドメイン(または「二量体化ドメイン」)が含まれる。
【0015】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のジンクフィンガータンパク質(ZFP)、CRISPR/Cas系のCasタンパク質、またはTALEタンパク質を、融合タンパク質の一部として制御ドメイン(または機能ドメイン)と機能的に連結して配置することができる。機能ドメインは、例えば、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、及び/またはヌクレアーゼ(切断)ドメインであり得る。活性化ドメインまたは抑制ドメインのいずれかを選択してDNA結合ドメインとともに使用することにより、そのような分子を遺伝子発現の活性化または抑制に使用することができる。いくつかの実施形態では、変異型Htt発現の下方制御に使用できる転写抑制ドメインに融合された、本明細書に記載の変異型Httを標的とするZFP、dCas、またはTALEを含む分子を提供する。いくつかの実施形態では、野生型Httアレルを上方制御できる転写活性化ドメインに融合された、野生型Httアレルを標的とするZFP、CRISPR/Cas、またはTALEを含む融合タンパク質を提供する。ある特定の実施形態では、制御ドメインの活性が外因性小分子またはリガンドによって制御され、外因性リガンドの非存在下では細胞の転写機構との相互作用が起こらない。一方で、他の実施形態では外因性小分子またはリガンドにより相互作用が阻止される。そのような外部リガンドは、ZFP−TF、CRISPR/Cas−TF、またはTALE−TFが転写機構と相互作用する程度を制御する。制御ドメイン(複数可)は、1つ以上のZFP、dCas、またはTALEの間、1つ以上のZFP、dCas、またはTALE及びそれらのいずれかの組み合わせの外側を含む、1つ以上のZFP、dCas、またはTALEの任意の部分(複数可)に機能的に連結することができる。本明細書に記載の融合タンパク質はいずれも、医薬組成物に製剤化することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子操作されたDNA結合ドメインを、融合タンパク質の一部としてヌクレアーゼ(切断)ドメインと機能的に連結して配置することができる。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼにはTtagoヌクレアーゼを含む。他の実施形態では、CRISPR/Cas系などのヌクレアーゼ系を特定の単一ガイドRNAとともに利用し、ヌクレアーゼをDNAの標的位置に標的化することができる。ある特定の実施形態では、そのようなヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ融合体を、誘導多能性幹細胞(iPSC)、ヒト胚性幹細胞(hESC)、間葉系幹細胞(MSC)、または神経幹細胞などの幹細胞における変異型Httアレルの標的化に利用してもよく、その場合、ヌクレアーゼ融合体の活性により、野生型の回数のCAGリピートを含むHttアレルが得られることになる。したがって、本明細書に記載のHttリプレッサーはいずれも、二量体化ドメイン及び/または機能ドメイン(例えば、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、またはヌクレアーゼドメイン)をさらに含み得る。ある特定の実施形態では、改変細胞(例えば、幹細胞)を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
さらに別の態様では、1つ以上の本明細書に記載のDNA結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、ウイルス(例えば、AAVまたはAd)ベクター及び/または非ウイルス(例えば、プラスミドまたはmRNAベクター)に保持される。こうしたポリヌクレオチドを含む宿主細胞(例えば、AAVベクター)、ならびに/または本明細書に記載のポリヌクレオチド、タンパク質、及び/もしくは宿主細胞を含む医薬組成物もまた提供する。
【0018】
他の態様では、本発明には標的細胞へのドナー核酸の送達を含む。ドナーは、ヌクレアーゼ(複数可)をコードする核酸の前、後、またはそれと一緒に送達することができる。ドナー核酸は、細胞のゲノム、例えば内因性遺伝子座に組み込もうとする外因性配列(導入遺伝子)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ドナーは、標的切断部位との相同領域に隣接する全長遺伝子またはその断片を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ドナーは相同領域がなく、相同性に依存しない機構(すなわちNHEJ)によって標的遺伝子座に組み込まれる。ドナーは任意の核酸配列、例えば、ヌクレアーゼ誘導性二本鎖切断の相同性組換え修復のための基質として使用した場合に、内因性染色体座にドナー特異的欠失を生じさせる、あるいは(またはそれに加えて)新規なアレル形態(例えば、転写因子結合部位を除去する点変異)の内因性遺伝子座を形成するような核酸を含み得る。いくつかの態様では、ドナー核酸は、組み込みにより遺伝子修正事象または標的化された欠失を生じさせるオリゴヌクレオチドである。
【0019】
いくつかの実施形態では、DNA結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドはmRNAである。いくつかの態様では、mRNAは化学的に修飾されていてもよい(例えば、Kormann et al,(2011)Nature Biotechnology 29(2):154−157を参照)。他の態様では、mRNAはARCAキャップを含んでもよい(米国特許7,074,596及び8,153,773を参照)。さらなる実施形態では、mRNAは未修飾ヌクレオチドと修飾ヌクレオチドとの混合物を含んでもよい(米国特許公開2012−0195936を参照)。
【0020】
さらに別の態様では、本明細書に記載のポリヌクレオチドのいずれかを含む遺伝子送達ベクターを提供する。ある特定の実施形態では、ベクターは、アデノウイルスベクター(例えば、Ad5/F35ベクター)、組み込み能力をもつレンチウイルスベクターまたは組み込み欠損レンチウイルスベクターを含むレンチウイルスベクター(LV)、またはアデノウイルス随伴ウイルスベクター(AAV)である。ある特定の実施形態では、AAVベクターはAAV6ベクターまたはAAV9ベクターである。したがって、本明細書では、標的遺伝子への標的化組み込みのために、少なくとも1つのヌクレアーゼ(ZFNまたはTALEN)をコードする配列及び/またはドナー配列を含む、アデノウイルス(Ad)ベクター、LV、またはアデノウイルス随伴ウイルスベクター(AAV)もまた提供する。ある特定の実施形態では、Adベクターは、Ad5/F35ベクターなどのキメラAdベクターである。ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)または組み込み能力をもつレンチウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、ベクターは、VSV−Gエンベロープまたは他のエンベロープを用いて偽型化される。
【0021】
加えて、核酸及び/またはタンパク質(例えば、ZFP、Cas、またはTALE、またはZFP、Cas、もしくはTALEを含む融合タンパク質)を含む医薬組成物も提供する。例えば、ある特定の組成物は、制御配列に機能可能に連結された、本明細書に記載のZFP、Cas、またはTALEのうちの1つをコードする配列を含む核酸を、薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせて含み、その場合、この制御配列により細胞での核酸の発現が可能になる。ある特定の実施形態では、コードされるZFP、CRISPR/Cas、またはTALEは、HD Httアレルに特異的である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、HD Httアレルを調節するZFP、CRISPR/Cas、またはTALE、及び神経栄養因子を調節するZFP、CRISPR/Cas、またはTALEを含む。タンパク質を用いた組成物は、本明細書で開示される1つ以上のZFP、CRISPR/Cas、またはTALE、及び薬学的に許容される担体または希釈剤を含む。
【0022】
さらに別の態様では、本明細書に記載のタンパク質、ポリヌクレオチド、及び/または組成物のいずれかを含む単離された細胞も提供する。
【0023】
別の態様では、細胞(例えば、対象の脳、例えば線条体のin vitroまたはin vivoの神経細胞)におけるHtt遺伝子の発現を改変する方法であって、その細胞に、本明細書に記載の1種以上のタンパク質、ポリヌクレオチド、及び/または細胞を投与することを含む方法について本明細書に記載する。Htt遺伝子は、少なくとも1つの野生型及び/または変異型Httアレルを含み得る。ある特定の実施形態では、Htt発現が抑制される。
【0024】
別の態様では、本明細書に記載の方法及び組成物(タンパク質、ポリヌクレオチド、及び/または細胞)を使用してハンチントン病を治療及び/または予防する方法を本明細書で提供する。いくつかの実施形態では、この方法には、ウイルスベクター、非ウイルスベクター(例えばプラスミド)、及び/またはそれらの組み合わせを使用してポリヌクレオチド及び/またはタンパク質を送達することができる組成物を伴う。いくつかの実施形態では、方法には、ZFPまたはTALEを含むか、または本発明のZFN、TALEN、Ttago、またはCRISPR/Casヌクレアーゼ系で改変された幹細胞集団を含む組成物を伴う。対象は、少なくとも1つの変異型Httアレル及び/または野生型Httアレルを含み得る。
【0025】
さらに別の態様では、AAV(例えば、AAV9)ベクターを使用して対象の脳にHttのリプレッサーを送達する方法について本明細書に記載する。カニューレの使用を含む任意の好適な手段によって、任意の脳領域、例えば線条体(例えば、被殻)に送達することができる。いくつかの実施形態では、送達は、くも膜下空間への直接注射によるものである。さらなる実施形態では、送達は静脈内注射によるものである。AAV9ベクターは、ベクターを直接投与していない脳領域への順行性及び逆行性の軸索輸送によるものを含め、対象の脳へのリプレッサーの広範な送達を提供する(例えば、被殻への送達の結果、皮質、黒質、視床などの他の構造に送達される)。ある特定の実施形態では、対象はヒトであり、他の実施形態では、対象は非ヒト霊長類である。
【0026】
したがって、他の態様では、対象のHDを予防及び/または治療する方法であって、対象に変異型Httアレルのリプレッサーを投与することを含む方法について本明細書に記載する。リプレッサーは、ポリヌクレオチド形態で(例えば、ウイルス(例えば、AAV)及び/または非ウイルスベクター(例えば、プラスミド及び/またはmRNA)を使用して)、タンパク質形態で、及び/または本明細書に記載の医薬組成物(例えば、本明細書に記載のポリヌクレオチド、AAVベクター、タンパク質、及び/または細胞を含む医薬組成物)によって投与することができる。ある特定の実施形態では、リプレッサーは対象のCNS(例えば、被殻)に投与される。このリプレッサーは、限定されないものの、HDに罹患した対象のHDニューロンにおけるHtt凝集体の形成を減少させること;ニューロンまたはニューロン集団(例えば、HDニューロンまたはHDニューロンの集団)の細胞死を減少させること;及び/またはHD対象における運動障害(例えば、クラスピング)を軽減させることを含む治療的利益をもたらすことができる。
【0027】
本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、変異型Httアレルのリプレッサーは、ZFP−TF、例えば変異型Httアレル及び転写抑制ドメイン(例えば、KOX、KRABなど)に特異的に結合するZFPを含む融合タンパク質であってよい。他の実施形態では、変異型Httアレルのリプレッサーは、TALE−TF、例えば変異型Httアレル及び転写抑制ドメイン(例えば、KOX、KRABなど)に特異的に結合するTALEポリペプチドを含む融合タンパク質であってよい。いくつかの実施形態では、変異型HttアレルリプレッサーはCRISPR/Cas−TFであり、そのCasタンパク質中のヌクレアーゼドメインは、タンパク質がこれ以上DNAを切断しないように不活性化されている。得られたCas RNA誘導型DNA結合ドメインは、変異型Httアレルを抑制する転写リプレッサー(例えば、KOX、KRABなど)に融合される。さらに別の実施形態では、リプレッサーには、変異型Httアレルを切断し、それによって不活性化することによって、変異型Httアレルを抑制するヌクレアーゼ(例えば、ZFN、TALEN、及び/またはCRISPR/Cas系)を含み得る。ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、ヌクレアーゼによる切断後の非相同末端結合(NHEJ)によって挿入及び/または欠失(「インデル」)を導入する。他の実施形態では、ヌクレアーゼが、(相同組換え方法または非相同組換え方法によって)ドナー配列を導入し、このドナー組み込みにより変異型Httアレルが不活性化される。
【0028】
本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、リプレッサーを、タンパク質、ポリヌクレオチド、またはタンパク質とポリヌクレオチドとの任意の組み合わせとして対象(例えば、脳)に送達することができる。ある特定の実施形態では、リプレッサー(複数可)は、AAV(例えば、AAV9)ベクターを使用して送達される。他の実施形態では、リプレッサーの少なくとも1つの構成要素(例えば、CRISPR/Cas系のsgRNA)がRNA形態で送達される。他の実施形態では、リプレッサー(複数可)は、本明細書に記載の発現構築物のいずれかの組み合わせ、例えば、ある発現構築物(例えばAAV9などのAAV)上の1つのリプレッサー(またはその一部)、別の発現構築物(AAVまたは他のウイルスまたは非ウイルス構築物)上の1つのリプレッサー(またはその一部)の組み合わせを使用して送達される。
【0029】
さらに、本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、リプレッサーは望ましい効果を与える任意の濃度(用量)で送達することができる。好ましい実施形態では、リプレッサーは、10,000〜500,000ベクターゲノム/細胞(すなわちそれらの間の任意の値)のアデノ随伴ウイルスベクターを使用して送達される。ある特定の実施形態では、リプレッサーは、250〜1,000(すなわちそれらの間の任意の値)のMOIでレンチウイルスベクターを使用して送達される。他の実施形態では、リプレッサーは、150〜1,500ng/100,000細胞(すなわちそれらの間の任意の値)のプラスミドベクターを使用して送達される。他の実施形態では、リプレッサーは、150〜1,500ng/100,000細胞(すなわちそれらの間の任意の値)のmRNAとして送達される。
【0030】
本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、本方法は、対象の1つ以上のHDニューロンにおいて変異型Httアレルを約70%以上、約75%以上、約85%以上、約90%以上、約92%以上、または約95%以上抑制することができる。
【0031】
さらなる態様では、本明細書に記載の発明は、ジンクフィンガータンパク質(ZFP TF)、TALE(TALE−TF)、及びCRISPR/Cas−TF、例えばZFP−TF、TALE−TF、またはCRISPR/Cas−TFのうちの1つ以上を含むHtt調節転写因子などの1つ以上のHtt調節転写因子を含む。ある特定の実施形態では、Htt調節転写因子は、対象の1つ以上のHDニューロンにおいて変異型Httアレルの発現を抑制することができる。対象の1つ以上のHDニューロンにおける変異型Httアレルの抑制は、未処理(野生型)のニューロンと比較して、約70%以上、約75%以上、約85%以上、約90%以上、約92%以上、または約95%以上の抑制であり得る。ある特定の実施形態では、Htt調節転写因子を使用して、本明細書に記載の方法のうち1つ以上を達成することができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、明白な臨床症状を分析するために、治療有効性をハンチントン病統一評価尺度(UHDRS)(Huntington Study Group(1996)Mov Disord 11(2):136−142)を使用して測定する。他の実施形態では、患者における有効性をPET及びMRIイメージングを使用して測定する。いくつかの実施形態では、変異型Htt調節転写因子による治療は、明白な臨床症状のさらなる発現を予防し、何らかのさらなる神経機能の喪失を予防する。他の実施形態では、変異型Htt調節転写因子による治療は、臨床症状を改善し、ニューロン機能を改善する。
【0033】
1つ以上のAAV9 Httモジュレーター(例えば、リプレッサー)、ならびに/または本明細書に記載のHttモジュレーターの構成要素を含むポリヌクレオチド及び/もしくはHttモジュレーター(またはその構成要素)をコードするポリヌクレオチドを含むキットもまた提供する。キットにはさらに、細胞(例えば、ニューロン)、試薬(例えば、CSF中のmHttタンパク質を検出及び/または定量するための試薬)、及び/または本明細書に記載の方法を含む使用上の説明書が含まれていてもよい。
【0034】
したがって、本開示は、限定するものではないが、以下の番号付き実施形態を包含する:
1.Htt遺伝子に結合する非天然型ジンクフィンガータンパク質であって、F1〜F5に指示される5つのジンクフィンガードメインを含み、そのジンクフィンガードメインが、表1の単一の行に示される認識ヘリックス領域配列を含んでいるジンクフィンガータンパク質。
2.DNAに結合したときにジンクフィンガータンパク質の多量体化を可能にする二量体化ドメインをさらに含む、1のHttリプレッサー。
3.1または2のジンクフィンガータンパク質と機能ドメインとを含む融合タンパク質。
4.機能ドメインが、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、及びヌクレアーゼドメインからなる群から選択される、3の融合タンパク質。
5.1〜2の1つ以上のジンクフィンガータンパク質または3もしくは4の1つ以上の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
6.5のポリヌクレオチドを含むAAVベクター。
7.ベクターがAAV9ベクターである、6のAAVベクター。
8.1〜2に記載の1つ以上のジンクフィンガータンパク質、または3もしくは4による1つ以上の融合タンパク質、5による1つ以上のポリヌクレオチド、または6もしくは7による1つ以上のAAVベクターを含む宿主細胞。
9.1〜2の1つ以上のジンクフィンガータンパク質、または3もしくは4による1つ以上の融合タンパク質、5による1つ以上のポリヌクレオチド、または6もしくは7による1つ以上のAAVベクターを含む医薬組成物。
10.細胞におけるHtt遺伝子の発現を改変する方法であって、5による1つ以上のポリヌクレオチドまたは6もしくは7による1つ以上のAAVベクターを細胞に投与することを含む方法。
11.Htt遺伝子が少なくとも1つの変異型アレルを含む、10の方法。
12.Htt遺伝子が野生型である、10の方法。
13.融合タンパク質が抑制ドメインを含み、Htt遺伝子の発現が抑制される、10〜12のいずれかの方法。
14.細胞が神経細胞である、10〜13のいずれかの方法。
15.神経細胞が脳内のものである、14の方法。
16.神経細胞が脳の線条体内のものである、15の方法。
17.ハンチントン病の治療及び/または予防を必要とする対象に行う方法であって、5による1つ以上のポリヌクレオチド、または6もしくは7による1つ以上のAAVベクターを、必要とする対象に投与することを含む方法。
18.細胞におけるHtt遺伝子の発現を改変する方法であって、1つ以上のAAV9ベクター、1つ以上のHttリプレッサーをコードするAAV9ベクターを細胞に投与することを含む方法。
19.Htt遺伝子が少なくとも1つの変異型アレルを含む、18の方法。
20.Htt遺伝子が野生型である、18の方法。
21.融合タンパク質が抑制ドメインを含み、Htt遺伝子の発現が抑制される、18〜21のいずれかの方法。
22.細胞が神経細胞である、18〜21のいずれかの方法。
23.神経細胞が脳内のものである、22の方法。
24.神経細胞が脳の線条体内のものである、23の方法。
25.ハンチントン病の治療及び/または予防を必要とする対象に行う方法であって、1つ以上のAAV9ベクター、1つ以上のHttリプレッサーをコードするAAV9ベクターを、必要とする対象に投与することを含む方法。
【0035】
開示全体を考慮すれば、当業者にとってこれらの態様及び他の態様は明白であろう。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書では、ハンチントン病(HD)の検出、疾患進行のモニタリング、治療及び/または予防のための組成物を広範にCNSへ送達する組成物及び方法を開示する。特に、本明細書に記載の組成物及び方法は、Httリプレッサーの送達にAAV9ベクターを使用し、送達部位を越えた機能的Httリプレッサーの拡散を可能にする。Httリプレッサー(例えば、ジンクフィンガータンパク質(ZFP TF)、TALE(TALE−TF)、またはCRISPR/Cas−TF、例えばZFP−TF、TALE−TF、またはCRISPR/Cas−TFを含み、変異型Httアレルの発現を抑制するHtt調節転写因子などのHtt調節転写因子)は、例えばHDニューロンにおけるHttの凝集を減少させること、HDニューロンのエネルギーを増加させること(例えば、ATPレベルを上昇させること)、HDニューロンにおけるアポトーシスを減少させること、及び/またはHD対象における運動障害を軽減することにより、HDの影響及び/または症状が軽減または消失するようにCNSを改変する。
【0038】
一般
本明細書に開示される方法の実施ならびに組成物の調製及び使用には、特に記載のない限り、分子生物学、生化学、クロマチン構造及び分析、計算化学、細胞培養、組換えDNA、ならびに当技術分野の範囲内である関連分野における従来技術を用いる。これらの技術は文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook et al.MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989 and Third edition,2001;Ausubel et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,New York,1987及び定期改訂版;METHODS IN ENZYMOLOGYシリーズ,Academic Press,San Diego;Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION,Third edition,Academic Press,San Diego,1998;METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,“Chromatin”(P.M.Wassarman and A.P.Wolffe,eds.),Academic Press,San Diego,1999;ならびにMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,Vol.119,“Chromatin Protocols” (P.B.Becker,ed.) Humana Press,Totowa,1999を参照のこと。
【0039】
定義
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」は同義に使用され、線状または環状立体構造であり、かつ一本鎖またはニ本鎖形態のいずれかである、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示の目的では、これらの用語はポリマーの長さに関する限定であると解釈されるべきではない。各用語は、天然ヌクレオチドの既知の類似体、ならびに塩基部分、糖部分、及び/またはリン酸部分が修飾されているヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)を包含することができる。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は同じ塩基対形成特異性を有し、すなわちAの類似体はTと塩基対を形成する。
【0040】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は同義に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。この用語はまた、1つ以上のアミノ酸が、対応する天然型アミノ酸の化学的類似体または修飾誘導体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0041】
「結合」とは、巨大分子間(例えば、タンパク質と核酸間)での配列特異的で非共有結合的な相互作用を指す。相互作用が全体として配列特異的である限り、結合相互作用のすべての構成要素が配列特異的である必要はない(例えば、DNA骨格内のリン酸残基との接触)。このような相互作用は一般に、10
−6M
−1以下の解離定数(K
d)を特徴とする。「親和性」とは結合の強度を指し、K
Dの減少と相関して結合親和性は増加する。
【0042】
「結合タンパク質」とは、別の分子に非共有結合的に結合することができるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA結合タンパク質)、RNA分子(RNA結合タンパク質)、及び/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合タンパク質の場合、それ自体に結合する(それによりホモ二量体、ホモ三量体などを形成する)ことができ、かつ/または、異なるタンパク質(単数または複数)の1つ以上の分子に結合することができる。結合タンパク質は、2種類以上の結合活性を有することができる。例えば、ジンクフィンガータンパク質は、DNA結合活性、RNA結合活性、及びタンパク質結合活性を有する。
【0043】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、亜鉛イオンの配位によってその構造が安定化される、結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域である1つ以上のジンクフィンガーを介して配列特異的な方法でDNAに結合する、タンパク質または大きなタンパク質内のドメインである。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語は、ジンクフィンガータンパク質またはZFPと省略される場合が多い。
【0044】
「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、1つ以上のTALE反復ドメイン/単位を含むポリペプチドである。この反復ドメインは、TALEとその同種の標的DNA配列との結合に関与する。単一の「リピート単位」(「リピート」とも称する)は通常、33〜35アミノ酸長であり、天然型TALEタンパク質内の他のTALE反復配列と少なくともある程度の配列相同性を示す。例えば、米国特許第8,586,526号を参照のこと。
【0045】
「TtAgo」は、遺伝子サイレンシングに関与すると考えられる原核生物Argonauteタンパク質である。TtAgoは細菌Thermus thermophilusに由来する。例えば、Swarts et al(2014)Nature 507(7491):258−261,G.Sheng et al.,(2013)Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.111,652)を参照のこと。「TtAgo系」は、例えばTtAgo酵素による切断のためのガイドDNAを含めた、必要なすべての構成要素である。「組換え」とは、2つのポリヌクレオチド間での遺伝子情報の交換過程を指し、非相同末端結合(NHEJ)及び相同組み換えによるドナーの獲得を含むが、これらに限定されない。本開示の目的では、「相同組換え(HR)」とは、例えば相同組換え修復機構を介した細胞内の二本鎖切断の修復中に起こるそのような交換の特殊な形態を指す。この過程にはヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、ニ本鎖切断を受けた分子)の鋳型修復に「ドナー」分子を使用する。またドナーから標的への遺伝子情報の伝達をもたらすことから、「非交差遺伝子変換」または「ショートトラクト遺伝子変換」という様々な名称で知られている。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、このような伝達は、切断された標的とドナーとの間で生じるヘテロ二重鎖DNAのミスマッチ修正、及び/またはドナーを使用して、標的の一部になる遺伝子情報を再合成する「合成依存的な鎖アニーリング」、及び/または関連過程に関与する可能性がある。このような特殊なHRは多くの場合、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部またはすべてが標的ポリヌクレオチドに組み込まれるように標的分子の配列の改変をもたらす。
【0046】
ジンクフィンガー結合ドメインまたはTALE DNA結合ドメインは、例えば、天然型ジンクフィンガータンパク質の認識へリックス領域の遺伝子操作(1つ以上のアミノ酸の改変)によって、またはTALEタンパク質のRVDの遺伝子操作によって、所定のヌクレオチド配列に結合するように「遺伝子操作」することができる。したがって、遺伝子操作されたジンクフィンガータンパク質またはTALEは、非天然型であるタンパク質である。ジンクフィンガータンパク質またはTALEの遺伝子操作方法の非限定的な例は、設計及び選択である。「設計された」ジンクフィンガータンパク質またはTALEとは、その設計/組成が主として合理的基準によってもたらされる、天然には存在しないタンパク質である。設計のための合理的基準には、置換規則の適用、ならびに既存のZFP設計及び結合データの情報を格納するデータベース内で情報を処理するためのコンピューターアルゴリズムの適用が含まれる。「選択された」ジンクフィンガータンパク質またはTALEとは、その産生が、主としてファージディスプレイ、相互作用トラップ、またはハイブリッド選択などの実験プロセスからもたらされる、天然には見出されないタンパク質である。例えば、米国特許第8,586,526号;同第6,140,081号;同第6,453,242号;同第6,746,838号;同第7,241,573号;同第6,866,997号;同第7,241,574号及び同第6,534,261号を参照のこと。またWO03/016496を参照のこと。
【0047】
用語「配列」とは、任意の長さのヌクレオチド配列を指すが、これは、線状、環状、または分枝状であり得、かつ一本鎖または二本鎖のいずれでもあり得る、DNAまたはRNAであり得る。用語「ドナー配列」とは、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を指す。ドナー配列は、任意の長さ、例えば2〜10,000ヌクレオチド長(またはその間もしくはそれ以上の任意の整数値)であり得、好ましくは約100〜1,000ヌクレオチド長(すなわちその間の任意の整数)、より好ましくは約200〜500ヌクレオチド長である。
【0048】
「標的部位」または「標的配列」とは、結合のための十分な条件が存在する場合に、結合分子が結合する核酸の一部を規定する核酸配列である。
【0049】
「外因性」分子とは、通常は細胞内に存在しないが、1つ以上の遺伝学的方法、生化学的方法、またはその他の方法によって細胞内に導入することができる分子である。「通常の細胞内での存在」は、細胞の特定の発達段階及び環境条件を基準にして決定される。したがって、例えば、筋肉の胚発生の間だけ存在する分子は、成体筋細胞に対して外因性分子である。同様に、熱ショックによって誘導される分子は、非熱ショック細胞に対して外因性分子である。外因性分子には、例えば、機能不全型内因性分子の機能型、または正常機能型内因性分子の機能不全型を含むことができる。
【0050】
外因性分子は、とりわけ、小分子(コンビナトリアル化学プロセスによって生成されるものなど)、高分子(タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖、上記分子の任意の修飾誘導体など)、または上記分子のうちの1つ以上を含む任意の複合体などであり得る。核酸にはDNA及びRNAを含み、一本鎖またはニ本鎖であり得、線状、分枝状、または環状であり得、任意の長さであり得る。核酸には、二重鎖を形成することができるもの、ならびに三重鎖形成核酸を含む。例えば、米国特許第5,176,996号及び同第5,422,251号を参照のこと。タンパク質には、DNA結合タンパク質、転写因子、クロマチン再構成因子、メチル化DNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ジャイレース、及びヘリカーゼが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
外因性分子は、内因性分子と同じ種類の分子、例えば、外因性タンパク質または核酸であり得る。例えば、外因性核酸は、感染性ウイルスゲノム、細胞内に導入されたプラスミドもしくはエピソーム、または通常は細胞内に存在しない染色体を含むことができる。細胞内に外因性分子を導入するための方法は当業者に既知であり、脂質媒介性導入(すなわち、中性脂質及び陽イオン性脂質を含むリポソーム)、エレクトロポレーション、直接注入、細胞融合、微粒子銃、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介性導入、及びウイルスベクター媒介性導入を含むが、これらに限定されない。外因性分子はまた、内因性分子と同じ種類の分子であり得るが、細胞が由来するものとは異なる種に由来し得る。例えば、本来はマウスまたはハムスターに由来する細胞株にヒト核酸配列が導入されてもよい。
【0052】
対照的に、「内因性」分子とは、特定の環境条件下で特定の発達段階にある特定の細胞内に通常存在する分子である。例えば、内因性核酸には、染色体、ミトコンドリア、葉緑体、もしくは他の細胞小器官のゲノム、または天然型エピソーム核酸を含むことができる。その他の内因性分子としてはタンパク質、例えば転写因子及び酵素を挙げることができる。
【0053】
「融合」分子とは、2つ以上のサブユニット分子が好ましくは共有結合的に連結した分子である。サブユニット分子は、同じ化学型の分子でも、または異なる化学型の分子でもあり得る。第1の種類の融合分子の例としては、融合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインと1つ以上の活性化ドメインとの融合体)及び融合核酸(例えば、上記の融合タンパク質をコードする核酸)が挙げられるが、これらに限定されない。第2の種類の融合分子の例としては、三重鎖形成核酸とポリペプチドとの融合体、及び副溝結合物質と核酸との融合体が挙げられるが、これらに限定されない。この用語はまた、ポリヌクレオチドの構成要素がポリペプチドの構成要素と会合して機能分子を形成する系(例えば、単一のガイドRNAが機能ドメインと会合して遺伝子発現を調節するCRISPR/Cas系)を含む。
【0054】
細胞内の融合タンパク質の発現は、融合タンパク質の細胞への送達から得ることができ、または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが細胞に送達され、そのポリヌクレオチドが転写され、その転写物が翻訳されて融合タンパク質を生成することによって得ることもできる。トランススプライシング、ポリペプチド切断、及びポリペプチドライゲーションもまた、細胞内のタンパク質の発現に関与し得る。ポリヌクレオチド及びポリペプチドの細胞への送達方法は、本開示に別記する。
【0055】
「多量体化ドメイン」(「二量体化ドメイン」または「タンパク質相互作用ドメイン」とも称する)は、ZFP TFまたはTALE TFのアミノ末端領域、カルボキシ末端領域、またはアミノ及びカルボキシ末端領域に組み込まれたドメインである。このドメインは、複数のZFP TFまたはTALE TF単位の多量体化を可能にし、その結果、多量体化ZFP TFまたはTALE TFが、野生型の回数を有する長さの短いトラクトと比べて、トリヌクレオチドリピートドメインの大きなトラクトに優先的に結合するようになる。多量体化ドメインの例としては、ロイシンジッパーが挙げられる。多量体化ドメインはまた、小分子によって制御されてもよく、その場合、多量体化ドメインは、小分子または外部リガンドの存在下でのみ別の多量体化ドメインと相互作用できるように適切な立体構造をとる。この方法では、外因性リガンドを使用して、これらのドメインの活性を制御することができる。
【0056】
本開示の目的で「遺伝子」とは、遺伝子産物(下記を参照)をコードするDNA領域、ならびに遺伝子産物の産生を制御するすべてのDNA領域を含み、そのような制御配列がコード配列及び/または転写される配列に隣接しているか否かを問わない。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳制御配列(リボソーム結合部位及び配列内リボソーム進入部位など)、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界要素、複製起点、マトリックス付着部位、及び遺伝子座調節領域が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0057】
「遺伝子発現」とは、遺伝子内に含まれる情報の遺伝子産物への変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNA、または任意の他の種類のRNA)、またはmRNAの翻訳によって産生されるタンパク質であり得る。遺伝子産物にはまた、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、及び編集などのプロセスによって修飾されたRNA、ならびに、例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADPリボシル化、ミリスチン化、及びグリコシル化によって修飾されたタンパク質も含まれる。
【0058】
遺伝子発現の「調節」とは、遺伝子活性の変化を指す。発現の調節には、遺伝子の活性化及び遺伝子の抑制が含まれ得るが、これらに限定されない。ゲノム編集(例えば、切断、改変、不活性化、ランダム変異)を用いて発現を調節することができる。遺伝子の不活性化とは、本明細書に記載のZFPタンパク質もTALEタンパク質も含まない細胞と比較した、遺伝子発現の何らかの低下を指す。したがって、遺伝子の不活性化は部分的または完全であり得る。
【0059】
「目的領域」とは、細胞クロマチンの任意の領域であり、例えば、外因性分子に結合することが望ましい遺伝子、またはそのような遺伝子内のもしくは遺伝子に隣接する非コード配列などである。結合は、標的DNA切断及び/または標的組換えを目的としたものであり得る。目的領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官のゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)、または感染性ウイルスゲノム内に存在し得る。目的領域は、遺伝子のコード領域内、(例えば、リーダー配列、トレーラー配列、またはイントロンなどの)転写される非コード領域内、またはコード領域の上流もしくは下流いずれかの非転写領域内に存在し得る。目的領域は、単一のヌクレオチド対程度の小ささであるか、または最大2,000ヌクレオチド対長であるか、またはヌクレオチド対の任意の整数値であり得る。
【0060】
「真核」細胞としては、真菌細胞(酵母など)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、及びヒト細胞(例えば、T細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
用語「機能的連結」及び「機能的に連結された」(または「機能可能に連結された)とは、両方の構成要素が正常に機能し、構成要素のうちの少なくとも1つが、他の構成要素のうちの少なくとも1つに対して発揮される機能を媒介できる可能性を許容するように構成要素が配置された、2つ以上の構成要素(配列要素など)の並置に関連して同義に使用される。例示的な説明として、転写制御配列が、1つ以上の転写制御因子の有無に応じてコード配列の転写レベルを調節する場合、プロモーターなどの転写制御配列はコード配列に機能的に連結されている。転写制御配列は一般に、シスでコード配列と機能的に連結されるが、それに直接隣接する必要はない。例えば、エンハンサーは、互いに近接していない場合でも、コード配列に機能的に連結される転写制御配列である。
【0062】
融合ポリペプチドに関して、用語「機能的に連結された」とは、構成要素の各々が、他の構成要素と連結されたとき、機能的に連結されていない場合に予測されるものと同じ機能を実行するという事実を指すことがある。例えば、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインが活性化ドメインと融合される融合ポリペプチドに関して、融合ポリペプチドの状態で、ZFPまたはTALE DNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/またはその結合部位に結合することができると同時に、活性化ドメインが遺伝子発現を上方制御することが可能である場合、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインと活性化ドメインとは機能的に連結されている。遺伝子発現の制御が可能なドメインに融合されたZFPは、「ZFP−TF」または「ジンクフィンガー転写因子」と総称され、一方、遺伝子発現の制御が可能なドメインに融合されたTALEは、「TALE−TF」または「TALE転写因子」と総称される。ZFP DNA結合ドメインが切断ドメインと融合される融合ポリペプチド(「ZFN」または「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」)の場合、融合ポリペプチド状態で、ZFP DNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/またはその結合部位に結合可能であると同時に、切断ドメインが標的部位の近傍でDNAを切断可能である場合、ZFP DNA結合ドメインと切断ドメインとは機能的に連結されている。TALE DNA結合ドメインが切断ドメインと融合される融合ポリペプチド(「TALEN」または「TALEヌクレアーゼ」)の場合、融合ポリペプチド状態で、TALE DNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/またはその結合部位に結合可能であると同時に、切断ドメインが標的部位の近傍でDNAを切断可能である場合、TALE DNA結合ドメインと切断ドメインとは機能的に連結されている。Cas DNA結合ドメインが活性化ドメインと融合される融合ポリペプチドに関して、融合ポリペプチド状態で、Cas DNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/またはその結合部位に結合することができると同時に、活性化ドメインが遺伝子発現を上方制御することが可能である場合、Cas DNA結合ドメインと活性化ドメインとは機能的に連結されている。Cas DNA結合ドメインが切断ドメインと融合される融合ポリペプチドの場合、融合ポリペプチド状態で、Cas DNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/またはその結合部位に結合可能であると同時に、切断ドメインが標的部位の近傍でDNAを切断可能である場合、Cas DNA結合ドメインと切断ドメインとは機能的に連結されている。
【0063】
タンパク質、ポリペプチド、または核酸の「機能的断片」とは、その配列が、完全長のタンパク質、ポリペプチド、または核酸と同一ではないが、完全長のタンパク質、ポリペプチド、または核酸と同じ機能を保持するタンパク質、ポリペプチド、または核酸である。機能的断片は、対応する天然の分子よりも多いか、少ないか、もしくは同じ数の残基を有することができ、かつ/または1つ以上のアミノ酸もしくはヌクレオチド置換を含むことができる。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸とハイブリダイズする能力)を決定する方法は、当技術分野において周知である。同様に、タンパク質の機能を決定する方法も周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合機能は、例えば、フィルター結合アッセイ、電気泳動移動度シフトアッセイ、または免疫沈降アッセイによって決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によって評価することができる。上記のAusubel et al.を参照のこと。タンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力は、例えば、免疫共沈降、ツーハイブリッドアッセイ、または相補性(遺伝子的相補性または生化学的相補性の両方)によって決定することができる。例えば、Fields et al.(1989)Nature 340:245−246;米国特許第5,585,245号及びPCT WO98/44350を参照のこと。
【0064】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に導入することが可能である。一般に、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、及び「遺伝子導入ベクター」は、目的遺伝子の発現を誘導することが可能であり、かつ遺伝子配列を標的細胞に導入することができる、任意の核酸構築物を意味する。したがって、この用語は、クローニング、及び発現ビヒクル、ならびに組み込みベクターを包含する。
【0065】
「レポーター遺伝子」または「レポーター配列」とは、必ずしも必要ではないが好ましくは通常のアッセイにおいて容易に測定される、タンパク質産物を産生する任意の配列を指す。好適なレポーター遺伝子には、抗体の耐性(例えばアンピシリン耐性、ネオマイシン耐性、G418耐性、ピューロマイシン耐性)を媒介するタンパク質をコードする配列、染色されたタンパク質または蛍光タンパク質または発光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ)をコードする配列、ならびに細胞成長の増強及び/または遺伝子増幅を媒介するタンパク質(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ)が含まれるが、これらに限定されない。エピトープタグには、例えば、FLAG、His、myc、Tap、HA、または任意の検出可能なアミノ酸配列の1つ以上のコピーが含まれる。「発現タグ」には、目的遺伝子の発現をモニターするために、望ましい遺伝子配列に機能可能に連結することができるレポーターをコードする配列が含まれる。
【0066】
DNA結合ドメイン
本明細書に記載の方法は、Htt遺伝子の標的配列に特異的に結合するDNA結合ドメイン、特に複数のトリヌクレオチドリピートを含む変異型Httアレルに結合するDNA結合ドメインを含む組成物、例えばHtt調節転写因子を使用する。例えばDNA結合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALE)またはDNA結合ポリヌクレオチド(例えば、単一ガイドRNA)といった、いずれのポリヌクレオチドまたはポリペプチドDNA結合ドメインも、本明細書に開示される組成物及び方法に使用することができる。ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、配列番号6の9〜28(すなわち10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26または27を含む、その間の任意の値)の連続するヌクレオチドを含む標的部位に結合する。
【0067】
ある特定の実施形態では、Htt調節転写因子、またはその中のDNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質を含む。標的部位ZFPの選択、ならびに融合タンパク質(及びそれをコードするポリヌクレオチド)の設計及び構築方法は、当業者に既知であり、米国特許第6,140,081号;同第5,789,538号;同第6,453,242号;同第6,534,261号;同第5,925,523号;同第6,007,988号;同第6,013,453号;同第6,200,759号;WO95/19431;WO96/06166;WO98/53057;WO98/54311;WO00/27878;WO01/60970WO01/88197;WO02/099084;WO98/53058;WO98/53059;WO98/53060;WO02/016536及びWO03/016496に詳細が記載されている。
【0068】
ある特定の実施形態では、ZFPは、変異型Httアレルまたは野生型Htt配列のいずれかに選択的に結合することができる。Htt標的部位は一般に、少なくとも1つのジンクフィンガーを含むが、複数のジンクフィンガー(例えば、2、3、4、5、6、またはそれ以上のフィンガー)を含むこともある。通常、ZFPには少なくとも3つのフィンガーが含まれている。ある種のZFPは4、5、または6つのフィンガーを含み、ZFPによっては8、9、10、11、または12個のフィンガーを含む。3つのフィンガーを含むZFPは一般に、9または10ヌクレオチドを含む標的部位を認識し、4つのフィンガーを含むZFPは一般に、12〜14ヌクレオチドを含む標的部位を認識する一方で、6つのフィンガーを含むZFPは、18〜21ヌクレオチドを含む標的部位を認識することができる。ZFPはまた、1つ以上の制御ドメインを含む融合タンパク質であり得、そのドメインは、転写活性化ドメインまたは抑制ドメインであり得る。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、一緒に連結された2つのZFP DNA結合ドメインを含む。このようなジンクフィンガータンパク質は、したがって8、9、10、11、12またはそれ以上のフィンガーを含み得る。いくつかの実施形態では、2つのDNA結合ドメインが伸長可能な柔軟なリンカーを介して連結され、その結果、1つのDNA結合ドメインが4、5、または6つのジンクフィンガーを含み、第2のDNA結合ドメインがさらに4、5、または5つのジンクフィンガーを含む。いくつかの実施形態では、リンカーは、フィンガーアレイが、8、9、10、11、もしくは12またはそれ以上のフィンガーを含む1つのDNA結合ドメインを含むような、標準的なフィンガー間リンカーである。他の実施形態では、リンカーは柔軟なリンカーなどの不定型のリンカーである。DNA結合ドメインは少なくとも1つの制御ドメインに融合され、「ZFP−ZFP−TF」構造をとると考えることができる。これらの実施形態の具体的な例として、「ZFP−ZFP−KOX」と称することができる、柔軟なリンカーで連結され、KOXリプレッサーと融合された2つのDNA結合ドメインを含むもの、及び「ZFP−KOX−ZFP−KOX」と称することができる、2つのZFP−KOX融合タンパク質がリンカーを介して一緒に融合されたものがある。
【0069】
あるいは、DNA結合ドメインはヌクレアーゼに由来してもよい。例えば、I−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevII、及びI−TevIIIなどのホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼの認識配列が知られている。また、米国特許第5,420,032号;米国特許第6,833,252号;Belfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.5:3379−3388;Dujon et al.(1989)Gene 82:115−118;Perler et al.(1994)Nucleic Acids Res.22、1125−1127;Jasin(1996)Trends Genet.12:224−228;Gimble et al.(1996)J.Mol.Biol.263:163−180;Argast et al.(1998)J.Mol.Biol.280:345−353及びNew England Biolabs catalogueを参照のこと。加えて、ホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼのDNA結合特異性は、非天然の標的部位に結合するように遺伝子操作することができる。例えば、Chevalier et al.(2002)Molec.Cell 10:895−905;Epinat et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:2952−2962;Ashworth et al.(2006)Nature 441:656−659;Paques et al.(2007)Current Gene Therapy 7:49−66;米国特許公開第20070117128号を参照のこと。
【0070】
「両手型」ジンクフィンガータンパク質とは、2つのジンクフィンガードメインが2つの不連続な標的部位に結合するように、ジンクフィンガーDNA結合ドメインの2つのクラスタが、間に挿入されたアミノ酸によって分離されているタンパク質である。両手型のジンクフィンガー結合タンパク質の例は、4つのジンクフィンガーのクラスタがタンパク質のアミノ末端に位置し、3つのフィンガーのクラスタがカルボキシル末端に位置するSIP1である(Remacle et al,(1999)EMBO Journal 18(18):5073−5084を参照)。このタンパク質におけるジンクフィンガーの各クラスタは、固有の標的配列に結合可能であり、2つの標的配列間の空間に多くのヌクレオチドを含むことができる。両手型ZFPは、例えば、ZFPの一方または両方に融合された機能ドメインを含んでもよい。したがって、この機能ドメインは、ZFPの一方もしくは両方の外側に結合されてもよく(
図1Cを参照)、またはZFPの間に位置(両方のZFPに結合)してもよい(
図4を参照)ことは明らかとなる。
【0071】
Htt標的化ZFPの具体的な例は、目的を問わずその全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第20130253040号、ならびに以下の表1に開示されている。この表の第1列は、ZFPの内部参照名(番号)であり、表2の第1列の同じ名称に対応する。「F」は、フィンガーを指し、「F」の後ろの番号は、どのジンクフィンガーであるかを指す(例えば、「F1」はフィンガー1を指す)。
【表1】
【0072】
これらのタンパク質の標的部位に関する配列及び位置は、表2に開示されている。ZFP認識ヘリックスが接触する標的部位のヌクレオチドは、大文字で示され、接触しないヌクレオチドは小文字で示される。
【表2】
【0073】
ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、天然型または遺伝子操作された(非天然型)TALエフェクター(TALE)DNA結合ドメインを含む。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,586,526号を参照のこと。
【0074】
Xanthomonas属の植物病原性細菌は、重要な作物に多くの病害を引き起こすことが知られている。Xanthomonasの病原性は、植物細胞内に25を超える異なるエフェクタータンパク質を注入する保存的なIII型分泌(T3S)系に依存する。この注入されるタンパク質の一つとして、植物の転写活性化因子を模倣し、植物のトランスクリプトームを操作する転写活性化因子様エフェクター(TALE)が挙げられる(Kay et al(2007)Science 318:648−651を参照)。このタンパク質は、DNA結合ドメイン及び転写活性化ドメインを含んでいる。最も十分に特性決定されたTALEの1つは、Xanthomonas campestgris pv.Vesicatoriaに由来するAvrBs3である(Bonas et al(1989)Mol Gen Genet 218:127−136及びWO2010079430を参照)。TALEにはタンデムリピートの集中ドメインが含まれ、各リピートはこのタンパク質のDNA結合特異性にとって重要である約34個のアミノ酸を含んでいる。加えて、TALEは、核局在化配列及び酸性転写活性化ドメインを含んでいる(概説については、Schornack S,et al(2006)J Plant Physiol 163(3):256−272を参照)。加えて、植物病原性細菌であるRalstonia solanacearumでは、brg11及びhpx17と命名された2つの遺伝子が、R.solanacearumの次亜種1系統GMI1000及び次亜種4系統RS1000において、XanthomonasのAvrBs3ファミリーと相同であることが見出されている(Heuer et al(2007)Appl and Envir Micro 73(13):4379−4384を参照)。これらの遺伝子は、互いのヌクレオチド配列が98.9%同一であるが、hpx17のリピートドメインにある1,575bpの欠失分のみが異なる。しかしながら、両方の遺伝子産物は、XanthomonasのAvrBs3ファミリータンパク質と40%未満の配列同一性を有する。
【0075】
これらのTALEの特異性は、タンデムリピートに見られる配列に依存する。反復された配列には約102bpが含まれ、各リピートは通常、互いに91〜100%相同である(Bonas et al、前掲)。リピートの多型は通常、12位及び13位に位置し、12位及び13位の超可変二残基(diresidues)の同一性と、TALEの標的配列における連続したヌクレオチドの同一性との間に1対1の対応関係が存在すると思われる(Moscou and Bogdanove(2009)Science 326:1501 and Boch et al(2009)Science 326:1509−1512を参照)。実験によって、これらのTALEのDNA認識のためのコードは、12位及び13位のHD配列がシトシン(C)への結合をもたらし、NGがTに、NIがA、C、GまたはTに結合し、NNがAまたはGに結合し、NGがTに結合するようなコードであることが決定されている。このDNA結合リピートを、リピートの新たな組み合わせ及び回数を用いてタンパク質に組み立てて、新たな配列と相互作用することが可能である人工転写因子が作製されている。加えて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,586,526号及び米国公開第20130196373号は、Nキャップポリペプチド、Cキャップポリペプチド(例えば、+63、+231、または+278)及び/または新規(不定型)RVDを有するTALEについて記載している。
【0076】
例示的なTALEは、米国特許公開第20130253040号に記載されており、その全体が参照により組み込まれる。
【0077】
ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインには、二量体化ドメイン及び/または多量体化ドメイン、例えばコイルドコイル(CC)及び二量体化ジンクフィンガー(DZ)が含まれる。米国特許公開第20130253040号を参照のこと。
【0078】
なおさらなる実施形態では、DNA結合ドメインは、CRISPR/Cas系の単一ガイドRNA、例えば20150056705に開示されるsgRNAを含む。
【0079】
真核生物のRNAi経路に類似するという仮説がある、古細菌及び多くの細菌におけるRNA媒介性のゲノム防御経路の存在について説得力のある証拠が最近明らかになった(概説については、Godde and Bickerton,2006.J.Mol.Evol.62:718−729;Lillestol et al.,2006.Archaea 2:59−72;Makarova et al.,2006.Biol.Direct 1: 7.;Sorek et al.,2008.Nat.Rev.Microbiol.6:181−186を参照)。CRISPR−Cas系または原核生物RNAi(pRNAi)として知られる、この経路は、2つの進化的に、かつ多くの場合は物理的に連結された遺伝子座、すなわち系のRNA構成要素をコードするCRISPR(clustered regularly interspacedshort palindromic repeat(クラスタ化等間隔短鎖回文リピート))遺伝子座と、タンパク質をコードするcas(CRISPR関連)遺伝子座から生じることが提唱されている(Jansen et al.,2002.Mol.Microbiol.43:1565−1575;Makarova et al.,2002.Nucleic Acids Res.30:482−496;Makarova et al.,2006.Biol.Direct 1:7;Haft et al.,2005.PLoS Comput.Biol.1:e60を参照)。微生物宿主のCRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子、ならびにCRISPR媒介性の核酸切断の特異性をプログラムすることができる非コードRNAエレメントの組み合わせを含んでいる。個々のCasタンパク質は、真核生物RNAi機構のタンパク質成分とそれほど共通した配列類似性を有しないが、類似の予測される機能(例えばRNA結合、ヌクレアーゼ、ヘリカーゼなど)を有する(Makarova et al.,2006.Biol.Direct 1:7)。CRISPR関連(cas)遺伝子は、多くの場合、CRISPRリピート−スペーサーアレイと会合する。40を超える様々なCasタンパク質ファミリーが記載されている。これらのタンパク質ファミリーのうち、Cas1は、様々なCRISPR/Cas系の中でも広く普及していると思われる。cas遺伝子及び反復構造の特定の組み合わせを使用して、8つのCRISPRサブタイプ(Ecoli、Ypest、Nmeni、Dvulg、Tneap、Hmari、Apern、及びMtube)が規定されており、そのうちのいくつかは、RAMP(repeat−associated mysterious protein)をコードする追加の遺伝子モジュールと関連している。複数のCRISPRサブタイプが単一のゲノム中に存在していてもよい。CRISPR/Casサブタイプの散在的分布は、系が微生物の進化時に遺伝子水平伝播を受けることを示唆している。
【0080】
当初、S.pyogenesにおいて説明されたII型CRISPRは、最も十分に特性決定されている系のうちの1つであり、4つの連続するステップで標的DNA二本鎖の切断を実行する。まず、2つの非コードRNA、pre−crRNAアレイ、及びtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。次に、tracrRNAはpre−crRNAの反復領域とハイブリダイズして、個々のスペーサー配列を含む成熟crRNAへのpre−crRNAのプロセシングを媒介する。このプロセシングは、Cas9タンパク質の存在下で二本鎖に特異的なRNase IIIによって発生する。3番目に、成熟crRNA:tracrRNA複合体は、crRNA上のスペーサーと、さらなる標的認識に必要であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に隣接する標的DNA上のプロトスペーサーとのワトソン−クリック塩基対形成によりCas9を標的DNAに誘導する。加えて、tracrRNAはまた、crRNAとその3’末端で塩基対を形成し、この会合によりCas9活性を誘発する際に存在していなければならない。最後に、Cas9が標的DNAの切断を媒介して、プロトスペーサー内の二本鎖切断を生じさせる。CRISPR/Cas系の活性は、(i)「獲得(adaptation)」と呼ばれるプロセスで、今後の攻撃予防のため、CRISPRアレイに外来DNA配列を挿入する、(ii)関連するタンパク質を発現する、ならびにアレイを発現してプロセシングする、それに続いて(iii)外来核酸にRNA媒介性の干渉を行うという3つのステップで構成される。このように、細菌細胞において、いわゆる「Cas」タンパク質のいくつかは、CRISPR/Cas系の天然の機能に関与している。
【0081】
II型CRISPR系は多くの異なる細菌で見出されている。Fonfara et al((2013)Nuc Acid Res 42(4):2377−2590)により公開されたゲノムに対するBLAST検索により、347種の細菌にCas9のオルソログが発見された。さらに、このグループは、S.pyogenes、S.mutans、S.therophilus、C.jejuni、N.meningitides、P.multocida、及びF.novicida由来のCas9オルソログを使用して、in vitroでのDNA標的のCRISPR/Cas切断を実証した。したがって、用語「Cas9」は、DNA結合ドメイン及び2つのヌクレアーゼドメインを含むRNA誘導型DNAヌクレアーゼを指し、この場合のCas9をコードする遺伝子は好適であれば、どの細菌に由来してもよい。
【0082】
Cas9タンパク質は、少なくとも2つのヌクレアーゼドメインを有し、一方のヌクレアーゼドメインはHNHエンドヌクレアーゼに類似しており、他方のヌクレアーゼドメインはRuvエンドヌクレアーゼドメインに類似している。HNH型ドメインは、crRNAに相補的なDNA鎖を切断する役割を担っていると思われるが、Ruvドメインは非相補鎖を切断する。Cas9ヌクレアーゼは、ヌクレアーゼドメインのうちの1つだけが機能的である、Casニッカーゼを生成するように遺伝子操作することができる(Jinek et al、前掲を参照)。ニッカーゼは、酵素の触媒ドメインでのアミノ酸の特異的変異によって、またはドメインの一部または全部をこれ以上機能しないように切断することにより生成することができる。Cas 9は2つのヌクレアーゼドメインを含んでいるため、この手法はどちらのドメインに対しても行うことができる。そのようなCas9ニッカーゼを2つ使用することにより、標的DNAにおいて二本鎖切断を達成することができる。ニッカーゼはそれぞれDNAの一方の鎖を切断し、2つ使用すると二本鎖切断が生じることになる。
【0083】
通常crRNA及びtracrRNAのアニーリングによって形成されるヘアピンを含む、遺伝子操作された「単一ガイドRNA」(sgRNA)の使用により、crRNA−tracrRNA複合体の必要性を回避することができる(Jinek et al(2012)Science 337:816及びCong et al(2013)Sciencexpress/10.1126/science.1231143を参照)。S.pyrogenesでは、二本鎖RNA:DNAヘテロ二量体がCas関連RNAと標的DNAとの間に形成される場合、遺伝子操作されたtracrRNA:crRNA融合体またはsgRNAがCas9の標的DNA切断を誘導する。Cas9タンパク質、及びPAM配列を含む遺伝子操作されたsgRNAを含むこの系は、RNA誘導型ゲノム編集に使用されており(Ramalingam、前掲参照)、またZFN及びTALENと同様の編集効率を有しており、in vivoでのゼブラフィッシュ胚ゲノム編集に有用とされている(Hwang et al(2013)Nature Biotechnology 31(3):227を参照)。
【0084】
CRISPR遺伝子座の一次産物は、侵入者が標的とする配列を含む短いRNAであると思われ、この経路でのその仮説的役割に基づいて、ガイドRNAまたは原核生物サイレンシングRNA(psiRNA)と呼ばれる(Makarova et al.,2006.Biol.Direct 1:7;Hale et al.,2008.RNA,14:2572−2579)。RNA分析は、CRISPR遺伝子座転写物が反復配列内で切断され、個々の侵入者が標的とする配列及び隣接する反復断片を含む約60〜70ntのRNA中間体を放出することを示している(Tang et al.2002.Proc.Natl.Acad.Sci.99:7536−7541;Tang et al.,2005.Mol.Microbiol.55:469−481;Lillestol et al.2006.Archaea 2:59−72;Brouns et al.2008.Science 321:960−964;Hale et al,2008.RNA,14:2572−2579)。古細菌Pyrococcus furiosusでは、この中間体RNAがさらに安定した約35〜45ntの豊富な成熟psiRNAにプロセシングされる(Hale et al.2008.RNA,14:2572−2579)。
【0085】
通常、crRNA及びtracrRNAのアニーリングによって形成されるヘアピンを含む、遺伝子操作された「単一ガイドRNA」(sgRNA)の使用により、crRNA−tracrRNA複合体の必要性を回避することができる(Jinek et al(2012)Science 337:816及びCong et al(2013)Sciencexpress/10.1126/science.1231143を参照)。S.pyrogenesでは、二本鎖RNA:DNAヘテロ二量体がCas関連RNAと標的DNAとの間に形成される場合、遺伝子操作されたtracrRNA:crRNA融合体またはsgRNAがCas9の標的DNA切断を誘導する。Cas9タンパク質、及びPAM配列を含む遺伝子操作されたsgRNAを含むこの系は、RNA誘導型ゲノム編集に使用されており(Ramalingam、前掲参照)、またZFN及びTALENと同様の編集効率を有しており、in vivoでのゼブラフィッシュ胚ゲノム編集に有用とされている(Hwang et al(2013)Nature Biotechnology 31(3):227を参照)。
【0086】
キメラまたはsgRNAを、任意の望ましい標的と相補的な配列を含むように遺伝子操作することができる。いくつかの実施形態では、ガイド配列は約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75、もしくはそれ以上、またはそれを超えるヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、ガイド配列は約75、50、45、40、35、30、25、20、15、12、またはそれより少ないヌクレオチド長未満である。いくつかの実施形態では、RNAは、標的に対して相補的である、G[n19]形態の22塩基と、それに続くS.pyogenesのCRISPR/Cas系で使用されるNGGまたはNAG形態のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む。したがって、一方法では、(i)ZFNヘテロ二量体の認識配列を、関連するゲノム(ヒト、マウス、または特定の植物種)の標準配列とアラインメントし、(ii)ZFN半部位間のスペーサー領域を同定し、(iii)スペーサー領域に最も近接するモチーフG[N20]GGの位置を同定し(そのようなモチーフの複数がスペーサーと重複する場合、スペーサーに対して中心に位置するモチーフが選択される)、iv)そのモチーフをsgRNAのコアとして使用することによって、目的の遺伝子の既知のZFN標的を利用することにより、sgRNAを設計することができる。この方法は、実証されたヌクレアーゼ標的を利用できる点で有利である。あるいは、G[n20]GG式に適合する好適な標的配列を単に同定することにより、任意の目的領域を標的とするsgRNAを設計することができる。sgRNAは、相補性領域とともに、sgRNAのtracrRNA部分の尾部領域に伸長する追加のヌクレオチドを含み得る(Hsu et al(2013)Nature Biotech doi:10.1038/nbt.2647を参照)。尾部は、+67〜+85ヌクレオチド、またはその間の任意の数であってよく、+85ヌクレオチドの長さが好ましい。短縮形sgRNA、「tru−gRNA」もまた使用することができる(Fu et al, (2014)Nature Biotech 32(3):279を参照)。tru−gRNAでは、相補性領域が17または18ヌクレオチド長に減少する。
【0087】
さらに、別のPAM配列を利用することもでき、S.pyogenesのCas9を使用してNGGの代わりにNAGをPAM配列にすることができる(Hsu 2014、前掲)。その他のPAM配列には、最初のGを欠失するものも含み得る(Sander and Joung(2014)Nature Biotech 32(4):347)。S.pyogenesをコードするCas9 PAM配列に加えて、他の細菌源に由来するCas9タンパク質に特異的な他のPAM配列を使用することができる。例えば、以下に示すPAM配列(前掲のSander and Joung、及びEsvelt et al,(2013)Nat Meth 10(11):1116から改変)はこれらのCas9タンパク質に特異的である:
種 PAM
S.pyogenes NGG
S.pyogenes NAG
S.mutans NGG
S.thermophilius NGGNG
S.thermophilius NNAAAW
S.thermophilius NNAGAA
S.thermophilius NNNGATT
C.jejuni NNNNACA
N.meningitides NNNNGATT
P.multocida GNNNCNNA
F.novicida NG
【0088】
したがって、S.pyogenesのCRISPR/Cas系での使用に適した標的配列を、ガイドライン[n17、n18、n19、またはn20](G/A)Gに従って選択することができる。あるいは、PAM配列が、ガイドラインG[n17、n18、n19、n20](G/A)Gに従っていてもよい。非S.pyogenes細菌に由来するCas9タンパク質の場合、S.pyogenesのPAM配列を別のPAMで置き換えて、同じガイドラインを使用することができる。
【0089】
最も好ましいのは、オフターゲット配列の可能性を回避する、特異性の尤度が最も高い標的配列を選択することである。そのような望ましくないオフターゲット配列は、以下の属性を考慮することによって同定することができる:i)利用されるCas9タンパク質で機能することが知られているPAM配列が後ろに続く標的配列の類似性;ii)望ましい標的配列からのミスマッチが3未満である類似標的配列;iii)ミスマッチがPAM近位領域ではなくPAM遠位領域に位置する、ii)と同様の類似標的配列(「シード」領域(Wu et al(2014)Nature Biotech doi:10.1038/nbt2889)と称される場合もある、PAMに直接隣接するまたは近位の1〜5ヌクレオチドは認識にとって最も重要であるため、シード領域に位置するミスマッチを有する推定オフターゲット部位は、sgRNAによって最も認識されにくい可能性があるといういくつかの証拠が存在する);及びiv)ミスマッチの空間が連続していないか、または4ヌクレオチド超、離れている(Hsu 2014、前掲)類似標的配列。したがって、どのCRIPSR/Cas系が使用されていても、上記の基準を用いてゲノム内に見込まれるオフターゲット部位数の分析を実施することによって、sgRNAの適切な標的配列を同定することができる。
【0090】
ある特定の実施形態では、Casタンパク質は、天然型Casタンパク質の「機能的誘導体」であってもよい。天然配列ポリペプチドの「機能的誘導体」は、天然配列ポリペプチドと共通する定性的な生物学的特性を有する化合物である。「機能的誘導体」は、対応する天然配列ポリペプチドと共通した生物学的活性を有する限り、天然配列の断片ならびに天然配列ポリペプチドの誘導体及びその断片を含むが、これらに限定されない。本明細書で企図される生物学的活性は、機能的誘導体がDNA基質を断片に加水分解する能力である。用語「誘導体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列変種、共有結合修飾体の両方、及びその融合体を包含する。いくつかの態様では、機能的誘導体は、天然型Casタンパク質の単一の生物学的特性を含み得る。他の態様では、機能的誘導体は、天然型Casタンパク質の生物学的特性の一部を含み得る。好適なCasポリペプチドの誘導体またはその断片には、Casタンパク質の変異体、融合体、共有結合修飾体、またはその断片を含むが、これらに限定されない。Casタンパク質またはその断片、ならびにCasタンパク質の誘導体またはその断片を含むCasタンパク質は、細胞から得ることも、化学的に合成することもでき、またはこれらの2つの手順の組み合わせによるものであってもよい。細胞は、Casタンパク質を天然に産生する細胞であっても、またはCasタンパク質を天然に産生し、より高い発現レベルで内因性のCasタンパク質を産生するように、もしくは核酸が内因性のCasと同じもしくは異なるCasをコードする外因的に導入された核酸からCasタンパク質を産生するように遺伝子操作された細胞であってもよい。場合によって、細胞はCasタンパク質を天然に産生せず、Casタンパク質を産生するように遺伝子操作される。
【0091】
特定の遺伝子を標的とする例示的なCRISPR/Casヌクレアーゼ系は、例えば米国公開第20150056705号に開示されている。
【0092】
したがって、ヌクレアーゼは、DNAを切断するヌクレアーゼドメインと組み合わせて、ドナー(導入遺伝子)を挿入することが望ましい任意の遺伝子内の標的部位に特異的に結合するDNA結合ドメインを含む。
【0093】
融合分子
DNA結合ドメインは、本明細書に記載の方法に使用される任意の追加分子(例えば、ポリペプチド)と融合されていてもよい。ある特定の実施形態では、本方法は、少なくとも1つのDNA結合分子(例えば、ZFP、TALE、または単一ガイドRNA)及び異種制御(機能)ドメイン(またはその機能的断片)を含む融合分子を用いる。
【0094】
ある特定の実施形態では、機能ドメインは転写制御ドメインを含む。一般的なドメインとしては、例えば転写因子ドメイン(アクチベーター、リプレッサー、コアクチベーター、コリプレッサー)、サイレンサー、癌遺伝子(例えば、myc、jun、fos、myb、max、mad、rel、ets、bcl、myb、mosファミリーメンバーなど);DNA修復酵素及びその関連因子と修飾因子;DNA再配列酵素及びその関連因子と修飾因子;クロマチン関連タンパク質及びその修飾因子(例えば、キナーゼ、アセチラーゼ、及びデアセチラーゼ);ならびにDNA修飾酵素(例えば、メチルトランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、ヘリカーゼ、リガーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ポリメラーゼ、エンドヌクレアーゼ)及びその関連因子と修飾因子が挙げられる。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国公開第20130253040号を参照のこと。
【0095】
活性化の達成に適したドメインとしては、HSV VP16活性化ドメイン(例えば、Hagmann et al.,J.Virol. 71,5952−5962(1997)を参照)核内ホルモン受容体(例えば、Torchia et al.,Curr.Opin.Cell.Biol.10:373−383(1998)を参照);核内因子カッパBのp65サブユニット(Bitko & Barik,J.Virol.72:5610−5618(1998)及びDoyle & Hunt,Neuroreport 8:2937−2942(1997));Liu et al.,Cancer Gene Ther.5:3−28(1998))、またはVP64などの人工キメラ機能ドメイン(Beerli et al.,(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14623−33)、及びデグロン(Molinari et al.,(1999)EMBO J.18,6439−6447)が挙げられる。その他の例示的な活性化ドメインとしては、Oct 1、Oct−2A、Sp1、AP−2、及びCTF1(Seipel et al.,EMBO J.11,4961−4968(1992)、ならびにp300、CBP、PCAF、SRC1 PvALF、AtHD2A、及びERF−2が挙げられる。例えば、Robyr et al.(2000)Mol.Endocrinol.14:329−347;Collingwood et al.(1999)J.Mol.Endocrinol.23:255−275;Leo et al.(2000)Gene 245:1−11;Manteuffel−Cymborowska(1999)Acta Biochim.Pol.46:77−89;McKenna et al.(1999)J.Steroid Biochem.Mol.Biol.69:3−12;Malik et al.(2000)Trends Biochem.Sci.25:277−283;及びLemon et al.(1999)Curr.Opin.Genet.Dev.9:499−504.を参照のこと。その他の例示的な活性化ドメインとしては、OsGAI、HALF−1、C1、AP1、ARF−5、−6、−7、及び−8、CPRF1、CPRF4、MYC−RP/GP、ならびにTRAB1が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Ogawa et al.(2000)Gene 245:21−29;Okanami et al.(1996)Genes Cells 1:87−99;Goff et al.(1991)Genes Dev.5:298−309;Cho et al.(1999)Plant Mol.Biol.40:419−429;Ulmason et al.(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:5844−5849;Sprenger−Haussels et al.(2000)Plant J.22:1−8;Gong et al.(1999)Plant Mol.Biol.41:33−44;及びHobo et al.(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:15,348−15,353を参照のこと。
【0096】
例示的な抑制ドメインとしては、KRAB A/B、KOX、TGF−β誘導性初期遺伝子(TIEG)、v−erbA、SID、MBD2、MBD3、DNMTファミリーのメンバー(例えば、DNMT1、DNMT3A、DNMT3B)、Rb、及びMeCP2が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Bird et al.(1999)Cell 99:451−454;Tyler et al.(1999)Cell 99:443−446;Knoepfler et al.(1999)Cell 99:447−450;及びRobertson et al.(2000)Nature Genet.25:338−342を参照のこと。その他の例示的な抑制ドメインとしては、ROM2及びAtHD2Aが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Chem et al.(1996)Plant Cell 8:305−321;及びWu et al.(2000)Plant J.22:19−27を参照のこと。
【0097】
融合分子は、当業者に周知であるクローニング法及び生化学的コンジュゲート法によって構築される。融合分子は、DNA結合ドメイン及び機能ドメイン(例えば、転写活性化または抑制ドメイン)を含む。融合分子はまた場合により、核局在化シグナル(例えば、SV40中型T抗原からのシグナルなど)及びエピトープタグ(例えば、FLAG及びヘマグルチニンなど)を含む。融合タンパク質(及びそれらをコードする核酸)は、融合体の構成要素間で翻訳リーディングフレームが保存されるように設計される。
【0098】
一方の機能ドメイン(またはその機能的断片)のポリペプチド構成要素と、他方の非タンパク質DNA結合ドメイン(例えば、抗生物質、インターカレーター、副溝結合物質、核酸)との融合体は、当業者に既知の生化学的コンジュゲート法によって構築される。例えば、Pierce Chemical Company(Rockford,IL)Catalogueを参照のこと。副溝結合物質とポリペプチドとの融合体を作製するための方法及び組成物は記載済みである。Mapp et al.(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:3930−3935。
【0099】
当業者に知られているように、融合分子は、薬学的に許容される担体とともに製剤化されてもよい。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,1985、及び譲受人共通のWO00/42219を参照のこと。
【0100】
融合分子の機能的構成要素/ドメインは、融合分子がそのDNA結合ドメインを介して標的配列にいったん結合すると、遺伝子の転写に影響を及ぼすことが可能である、多様な種々の構成要素のいずれかから選択することができる。したがって、機能的構成要素には、アクチベーター、リプレッサー、コアクチベーター、コリプレッサー、及びサイレンサーなどの種々の転写因子ドメインが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0101】
ある特定の実施形態では、融合タンパク質はDNA結合ドメイン及びヌクレアーゼドメインを含み、遺伝子操作された(ZFPまたはTALE)DNA結合ドメインを介して意図された核酸標的を認識することができる機能的要素を構築し、かつヌクレアーゼ活性によってDNA結合部位の近傍でDNA切断を生じさせるヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはTALEヌクレアーゼ)を構築する。
【0102】
したがって、本明細書に記載の方法及び組成物は、広く適用可能であり、目的とする任意のヌクレアーゼを含み得る。ヌクレアーゼの非限定的な例としては、メガヌクレアーゼ、TALEN、及びジンクフィンガーヌクレアーゼが挙げられる。ヌクレアーゼは、異種DNA結合ドメイン及び切断ドメイン(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ;TALEN;異種切断ドメインを有するメガヌクレアーゼDNA結合ドメイン)を含んでもよく、またはその代わりに、天然型ヌクレアーゼのDNA結合ドメインを、選択された標的部位に結合するように改変することができる(例えば、同種の結合部位とは異なる部位に結合するように遺伝子操作されたメガヌクレアーゼ)。
【0103】
ヌクレアーゼドメインは、任意のヌクレアーゼ、例えば任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼ由来であってもよい。本明細書に記載のHtt DNA結合ドメインと融合できる好適なヌクレアーゼ(切断)ドメインの非限定的な例としては、任意の制限酵素、例えばIIS型制限酵素(例えば、FokI)由来のドメインが挙げられる。ある特定の実施形態では、切断ドメインは、切断活性に二量体化を必要とする切断ハーフドメインである。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,586,526号;同第8,409,861号及び同第7,888,121号を参照のこと。一般に、融合タンパク質が切断ハーフドメインを含む場合、切断には2つの融合タンパク質が必要である。あるいは、2つの切断ハーフドメインを含む単一のタンパク質を使用することができる。2つの切断ハーフドメインが同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来することも、または各切断ハーフドメインが異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来することもできる。加えて、2つの融合タンパク質の対応する標的部位への結合により、切断ハーフドメインが互いに空間的に配向して配置され、切断ハーフドメインが、例えば二量体化によって機能的切断ドメインを形成することが可能であるように、2つの融合タンパク質の標的部位が互いに配置されていることが好ましい。
【0104】
ヌクレアーゼドメインはまた、切断活性を有し、本明細書に記載のヌクレアーゼとともに使用することもできる任意のメガヌクレアーゼ(ホーミングエンドヌクレアーゼ)ドメイン由来であってもよく、これには、I−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevII、及びI−TevIIIを含むが、これらに限定されない。
【0105】
ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼはコンパクトTALEN(cTALEN)を含む。これは、TALEのDNA結合ドメインをTevIヌクレアーゼドメインに連結する単一鎖の融合タンパク質である。融合タンパク質は、TALE領域に局在するニッカーゼとして作用することも、またはTALEのDNA結合ドメインが、メガヌクレアーゼ(例えば、TevI)ヌクレアーゼドメインに対してどこに配置されているかに応じて二本鎖切断を行うこともできる(Beurdeley et al(2013)Nat Comm:1−8 DOI:10.1038/ncomms2782を参照)。
【0106】
他の実施形態では、TALE−ヌクレアーゼはメガTALである。このメガTALヌクレアーゼは、TALEのDNA結合ドメイン及びメガヌクレアーゼの切断ドメインを含む融合タンパク質である。メガヌクレアーゼ切断ドメインは単量体として活性であり、活性に二量体化を必要としない。(Boissel et al.,(2013)Nucl Acid Res:1−13,doi:10.1093/nar/gkt1224を参照)。
【0107】
加えて、メガヌクレアーゼのヌクレアーゼドメインはまた、DNA結合機能も示し得る。任意のTALENを追加のTALEN(例えば、1つ以上のメガTALを有する1つ以上のTALEN(cTALENまたはFokI−TALEN))及び/またはZFNと組み合わせて使用してもよい。
【0108】
加えて、切断ドメインには、例えばオフターゲットの切断作用を低減または排除する絶対ヘテロ二量体を形成するために、野生型と比較して1つ以上の改変を含んでいてもよい。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,914,796号;同第8,034,598号;及び同第8,623,618号を参照のこと。
【0109】
本明細書に記載のヌクレアーゼは、二本鎖標的(例えば、遺伝子)において二本鎖または一本鎖切断を生じさせることができる。一本鎖切断(「ニック」)の生成は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,703,489号に記載されており、これには、ヌクレアーゼドメインのうちの1つの触媒ドメインの変異により、どのようにニッカーゼが生じるかについて記載されている。
【0110】
したがって、ヌクレアーゼ(切断)ドメインまたは切断ハーフドメインは、切断活性を保持するか、または多量体化(例えば、二量体化)して機能的な切断ドメインを形成する能力を保持するタンパク質の任意の部分であり得る。
【0111】
あるいは、ヌクレアーゼは、いわゆる「スプリット酵素」法を使用して、in vivoで核酸標的部位に組み立てられてもよい(例えば、米国特許公開第20090068164号を参照のこと)。そのようなスプリット酵素の構成要素は、個々の発現構築物上で発現させても、または1つのオープンリーディングフレーム内で連結させてもよく、この場合、個々の構成要素は、例えば、自己切断2AペプチドまたはIRES配列によって分離される。構成要素は、個々のジンクフィンガー結合ドメインであっても、またはメガヌクレアーゼ核酸結合ドメインのドメインであってもよい。
【0112】
ヌクレアーゼは、使用前に、例えば米国公開第20090111119号に記載されるような酵母を用いた染色体系で、活性をスクリーニングすることができる。ヌクレアーゼ発現構築物は、当技術分野において既知の方法を使用して容易に設計することができる。
【0113】
融合タンパク質の発現は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーター、例えば、ラフィノース及び/またはガラクトースの存在下で活性化(抑制解除)され、グルコースの存在下で抑制されるガラクトキナーゼプロモーターの制御下にあってもよい。ある特定の実施形態では、プロモーターは、例えば高親和性結合部位の取り込みにより、融合タンパク質の発現を自己制御する。例えば、2014年3月18日出願の米国出願第61,955,002号を参照のこと。
【0114】
送達
本明細書に記載のタンパク質及び/またはポリヌクレオチド(例えば、Httリプレッサー)、ならびにタンパク質及び/またはポリヌクレオチドを含む組成物は、例えば、mRNAを介したタンパク質の注入、及び/または発現構築物(例えば、プラスミド、レンチウイルスベクター、AAVベクター、Adベクターなど)の使用を含む任意の好適な手段によって標的細胞に送達することができる。好ましい実施形態では、リプレッサーはAAV9を使用して送達される。
【0115】
本明細書に記載のジンクフィンガータンパク質を含むタンパク質を送達する方法は、例えば、米国特許第6,453,242号;同第6,503,717号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,607,882号;同第6,689,558号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;同第7,163,824号に記載されており、各開示はすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0116】
プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、及びアデノ随伴ウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されない、任意のベクター系を使用することができる。また、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,586,526号;同第6,534,261号;同第6,607,882号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;同第7,163,824号を参照のこと。さらに、これらのベクターはいずれも、1つ以上のDNA結合タンパク質コード配列を含み得ることは明らかとなる。したがって、1つ以上のHttリプレッサーが細胞に導入される場合、そのタンパク質の構成要素及び/またはポリヌクレオチドの構成要素をコードする配列は、同じベクターに保持されていても、異なるベクターに保持されていてもよい。複数のベクターが使用される場合、各ベクターは、1つまたは複数のHttリプレッサーまたはその構成要素をコードする配列を含んでもよい。
【0117】
従来のウイルス及び非ウイルス系の遺伝子導入方法を使用して、遺伝子操作されたHttリプレッサーをコードする核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)及び標的組織に導入することができる。またそのような方法を使用して、そのようなリプレッサー(またはその構成要素)をコードする核酸をin vitroで細胞に投与することもできる。ある特定の実施形態では、リプレッサーをコードする核酸は、in vivoまたはex vivoの遺伝子治療に使用するために投与される。非ウイルスベクター送達系には、DNAプラスミド、裸の核酸、及びリポソームまたはポロキサマーなどの送達ビヒクルと複合体化された核酸を含む。ウイルスベクター送達系には、細胞への送達後にエピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有するDNA及びRNAウイルスを含む。遺伝子治療手順の概説については、Anderson,Science 256:808−813(1992);Nabel & Felgner,TIBTECH 11:211−217(1993);Mitani & Caskey,TIBTECH 11:162−166(1993);Dillon,TIBTECH 11:167−175(1993);Miller,Nature 357:455−460(1992);Van Brunt,Biotechnology 6(10):1149−1154(1988);Vigne,Restorative Neurology and Neuroscience 8:35−36(1995);Kremer & Perricaudet,British Medical Bulletin 51(1):31−44(1995);Haddada et al.,in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm(eds.)(1995);及びYu et al.,Gene Therapy 1:13−26(1994)を参照のこと。
【0118】
核酸の非ウイルス系送達の方法としては、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、バイオリスティック、ビロソーム、リポソーム、免疫リポソーム、ポリカチオン、または脂質:核酸複合体、裸のDNA、裸のRNA、人工ビリオン、及びDNA取り込みの薬剤による増強が挙げられる。例えばSonitron 2000システム(Rich−Mar)を使用したソノポレーションも、核酸の送達に使用することができる。好ましい実施形態では、1つ以上の核酸がmRNAとして送達される。また、キャップ付加されたmRNAの使用により翻訳効率及び/またはmRNA安定性を増加させることも好ましい。特に、ARCA(anti−reverse cap analog(アンチリバースキャップアナログ))キャップまたはその変種が好ましい。参照により本明細書に組み込まれる、米国特許US7074596及びUS8153773を参照のこと。
【0119】
その他の例示的な核酸送達系としては、Amaxa Biosystems(Cologne,Germany)、Maxcyte,Inc.(Rockville,Maryland)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston,MA)、及びCopernicus Therapeutics Inc,(例えば、US6008336を参照)によって提供されているものが挙げられる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号、同第4,946,787号、及び同第4,897,355号に記載されており、リポフェクション試薬が市販されている(例えば、Transfectam(商標)及びLipofectin(商標)及びLipofectamine(商標)RNAiMAX)。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに好適である、陽イオン性脂質及び中性脂質としては、Felgner、WO91/17424、WO91/16024のものが挙げられる。送達は、細胞(ex vivo投与)または標的組織(in vivo投与)に対するものであり得る。
【0120】
免疫脂質複合体などの標的化リポソームを含む、脂質:核酸複合体の調製は、当業者に周知である(例えば、Crystal,Science 270:404−410(1995);Blaese et al.,Cancer Gene Ther.2:291−297(1995);Behr et al.,Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remy et al.,Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);Gao et al.,Gene Therapy 2:710−722(1995);Ahmad et al.,Cancer Res.52:4817−4820(1992);米国特許第4,186,183号、同第4,217,344号、同第4,235,871、同第4,261,975号、同第4,485,054号、同第4,501,728号、同第4,774,085号、同第4,837,028号、及び同第4,946,787号を参照)。
【0121】
その他の送達方法としては、送達対象の核酸をEnGeneIC送達ビヒクル(EDV)にパッケージングする使用法が挙げられる。このEDVは、二重特異性抗体を使用して標的組織に特異的に送達され、その抗体の一方のアームは、標的組織に対する特異性を有し、他方のアームは、EDVに対する特異性を有する。抗体はEDVを標的細胞表面に運び、次いでEDVがエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれると、その内容物が放出される(MacDiarmid et al(2009)Nature Biotechnology 27(7):643を参照)。
【0122】
RNAまたはDNAウイルスを用いた系を使用した、遺伝子操作されたZFP、TALE、またはCRISPR/Cas系をコードする核酸の送達には、体内の特定の細胞にウイルスの標的を定め、ウイルスのペイロードを核に輸送するため高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターを患者に直接投与する(in vivo)ことも、またはベクターを使用してin vitroで細胞を処理し、改変細胞を患者に投与する(ex vivo)こともできる。ZFP、TALE、またはCRISPR/Cas系を送達するためのウイルスを用いた従来の系としては、遺伝子導入のためのレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。宿主ゲノムへの組み込みは、レトロウイルス、レンチウイルス、及びアデノ随伴ウイルスによる遺伝子導入方法によって可能であり、多くの場合、挿入された導入遺伝子の長期発現が得られる。さらに、多くの異なる細胞型及び標的組織において、高い形質導入効率が観察されている。
【0123】
レトロウイルスの指向性は、外来性エンベロープタンパク質を組み込むことによって改変することができ、それにより標的細胞の対象に見込まれる標的集団が広がる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞を形質導入するかまたは感染させることが可能であり、一般に高いウイルス力価を生じるレトロウイルスベクターである。レトロウイルス遺伝子導入系の選択は、標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、最大6〜10kbの外来性配列のパッケージングが可能である、シス作用性の長末端反復からなる。ベクターの複製及びパッケージングにはシス作用性LTRは最小限で十分であり、その後、これを使用して治療用遺伝子を標的細胞に組み込み、恒久的な導入遺伝子の発現を提供する。広く使用されているレトロウイルスベクターとしては、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びそれらの組み合わせに基づくものが挙げられる(例えば、Buchscher et al.,J.Virol.66:2731−2739(1992);Johann et al.,J.Virol.66:1635−1640(1992);Sommerfelt et al.,Virol.176:58−59(1990);Wilson et al.,J.Virol.63:2374−2378(1989);Miller et al.,J.Virol.65:2220−2224(1991);PCT/US94/05700を参照)。
【0124】
一過性の発現が好ましい用途では、アデノウイルスによる系を使用することができる。アデノウイルスによるベクターは、多くの細胞型において非常に効率の高い形質導入が可能であり、細胞分裂を必要としない。そのようなベクターを用いて、高力価かつ高レベルの発現が得られている。このベクターは、比較的単純な系で大量に産生することができる。アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターもまた、例えば、核酸及びペプチドのin vitro産生において、ならびにin vivo及びex vivoの遺伝子治療手順を目的として、標的核酸による細胞への形質導入に使用される(例えば、West et al.,Virology 160:38−47(1987);米国特許第4,797,368号;WO93/24641;Kotin,Human Gene Therapy 5:793−801(1994);Muzyczka,J.Clin.Invest.94:1351(1994)を参照)。組換えAAVベクターの構築については、米国特許第5,173,414号;Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251−3260(1985);Tratschin,et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072−2081(1984);Hermonat & Muzyczka,PNAS 81:6466−6470(1984);及びSamulski et al.,J.Virol.63:03822−3828(1989)を含む、複数の刊行物に記載されている。
【0125】
現在のところ、少なくとも6つのウイルスベクター手法が、臨床試験における遺伝子導入に利用可能であり、これらはヘルパー細胞株に挿入される遺伝子による欠損ベクターの補完を伴う手法を利用して、形質導入剤を生成する。
【0126】
pLASN及びMFG−Sは、臨床試験に使用されているレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al.,Blood 85:3048−305(1995);Kohn et al.,Nat.Med.1:1017−102(1995);Malech et al.,PNAS 94:22 12133−12138(1997))。PA317/pLASNは、遺伝子治療試験で使用された最初の治療用ベクターであった。(Blaese et al.,Science 270:475−480(1995))。MFG−Sをパッケージしたベクターについて50%以上の形質導入効率が観察されている。(Ellem et al.,Immunol Immunother.44(1):10−20(1997);Dranoff et al.,Hum.Gene Ther.1:111−2(1997)。
【0127】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、欠損型及び非病原性のパルボウイルスアデノ随伴2型ウイルスを用いた、有望な代替遺伝子送達系である。ベクターはすべて、導入遺伝子発現カセットに隣接するAAVの145bpの逆方向末端反復のみを保持するプラスミドに由来する。形質導入された細胞のゲノムへの組み込みに起因した、効率的な遺伝子導入及び安定した導入遺伝子送達が、このベクター系の主要な特長である。(Wagner et al.,Lancet 351:9117 1702−3(1998)、Kearns et al.,Gene Ther.9:748−55(1996))。AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV8.2、AAV9、及びAAV rh10を含む他のAAV血清型、ならびにAAV2/8、AAV2/5、及びAAV2/6などの偽型AAVもまた、本発明において使用することができる。好ましい実施形態では、AAV9が使用される。
【0128】
複製欠損型組換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高力価で産生することができ、複数の異なる細胞型に容易に感染する。大半のアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAdE1a、E1b、及び/またはE3遺伝子を置換するように遺伝子操作され、その後、その複製欠損型ベクターが、欠失した遺伝子機能をトランスで供給するヒト293細胞に伝播される。Adベクターは、肝臓、腎臓、及び筋肉中に見られるものなどの非分裂分化細胞を含む、複数の種類の組織にin vivoで形質導入することができる。従来のAdベクターは、大きな収容力を有する。臨床試験でのAdベクターの使用例は、筋肉内注射を用いた抗腫瘍免疫のためのポリヌクレオチド治療に関わるものであった(Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083−9(1998))。臨床試験での遺伝子導入にアデノウイルスベクターが使用されたその他の例としては、Rosenecker et al.,Infection 24:1 5−10(1996);Sterman et al.,Hum.Gene Ther.9:7 1083−1089(1998);Welsh et al.,Hum.Gene Ther.2:205−18(1995);Alvarez et al.,Hum.Gene Ther.5:597−613(1997);Topf et al.,Gene Ther.5:507−513(1998);Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083−1089(1998)が挙げられる。
【0129】
パッケージング細胞は、宿主細胞を感染させることが可能であるウイルス粒子の形成に使用される。そのような細胞には、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、及びレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が含まれる。遺伝子治療に使用されるウイルスベクターは通常、核酸ベクターをウイルス粒子中にパッケージングする産生細胞株によって生成される。ベクターは通常、パッケージング及びその後の宿主への組み込みに必要な最小限のウイルス配列を含有し(該当する場合)、それ以外のウイルス配列は、発現対象のタンパク質をコードする発現カセットによって置換される。欠損したウイルス機能は、パッケージング細胞株によってトランスで供給される。例えば、遺伝子治療に使用されるAAVベクターは通常、宿主ゲノムへのパッケージング及び組み込みに必要とされる、AAVゲノムからの逆方向末端反復(ITR)配列のみを保有する。ウイルスDNAは細胞株にパッケージングされ、これには他のAAV遺伝子、すなわちrep及びcapをコードするが、ITR配列を欠失するヘルパープラスミドが含まれる。細胞株はまた、ヘルパーとしてのアデノウイルスにも感染する。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製及びヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列を欠失しているため、相当量でパッケージングされることはない。アデノウイルスの混入は、例えば、AAVよりもアデノウイルスのほうが影響を受けやすい熱処理によって低減することができる。
【0130】
多くの遺伝子治療用途では、遺伝子治療ベクターが、特定の組織型に対する高度の特異性をもって送達されることが望ましい。そのため、ウイルスの外表面のウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現させることによって、所与の細胞型に対する特異性を有するようにウイルスベクターを修飾することができる。リガンドは、目的の細胞型に存在することが知られている受容体に対する親和性を有するように選択される。例えば、Han et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA92:9747−9751(1995)によると、モロニーマウス白血病ウイルスを、gp70に融合されたヒトヘレグリンを発現するように修飾することができ、その組換えウイルスは、ヒト上皮成長因子受容体を発現するある特定のヒト乳癌細胞に感染することが報告された。この原理は、標的細胞が受容体を発現し、ウイルスが細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する、他のウイルス標的細胞対にも拡張することができる。例えば、繊維状ファージを遺伝子操作して、実質的にいかなる選ばれた細胞受容体に対しても特異的結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)を提示することができる。上記の説明は、主としてウイルスベクターに該当するものであるが、同じ原理を非ウイルスベクターに適用することができる。そのようなベクターは、特異的な標的細胞による取り込みを優先する特異的な取り込み配列を含むように遺伝子操作することができる。
【0131】
遺伝子治療ベクターは、以下に記載されるように、一般に全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、または脳への直接注入を含む、頭蓋内注入)または局所適用による個々の患者への投与によって、in vivo送達することができる。あるいは、個々の患者から外植された細胞(例えば、リンパ球、骨髄穿刺液、組織生検)または万能ドナー造血幹細胞などの細胞にex vivoでベクターを送達し、その後、通常はベクターを組み込んだ細胞の選択後に、その細胞を患者に再移植することができる。
【0132】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の組成物(例えば、ポリヌクレオチド及び/またはタンパク質)をin vivoで直接送達する。組成物(細胞、ポリヌクレオチド、及び/またはタンパク質)は中枢神経系(CNS)に直接投与することができ、これには脳または脊髄への直接注射を含むが、これに限定されない。海馬、黒質、マイネルト基底核(NBM)、線条体、及び/または皮質を含むが、これに限定されない脳の1つ以上の領域を標的にすることができる。CNS送達の代わりに、またはそれに加えて、組成物を全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、心臓内、筋肉内、くも膜下、皮下、及び/または頭蓋内注入)することができる。本明細書に記載の組成物を対象に直接送達(CNSへの直接送達を含む)するための方法及び組成物には、注射針アセンブリによる直接注入(例えば、定位注入)が含まれるが、これには限定されない。そのような方法は、例えば、脳への組成物(発現ベクターを含む)の送達に関する米国特許第7,837,668号;同第8,092,429号、及び米国特許公開第20060239966号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0133】
投与される有効量は、患者によって異なり、投与方式及び投与部位に応じて異なる。したがって、有効量は、組成物を投与する医師によって決定されるのが最善であり、適切な投与量は、当業者によって容易に決定することができる。組み込み及び発現に十分な時間(例えば、一般に4〜15日)をとった後、治療用ポリペプチドの血清または他の組織レベルの分析及び投与前の初期レベルとの比較により、投与量が低すぎるか、適切な範囲内にあるか、または高すぎるかを決定する。初期投与とそれ以降の投与に適した投与計画もまた変更可能であるが、必要であれば最初の投与とそれ以降の投与を類型化する。以降の投与は、毎日から毎年、さらには数年ごとを範囲とする変更可能な間隔で投与することができる。ある特定の実施形態では、AAVなどのウイルスベクターを使用する場合、投与される用量は、1x10
10〜5x10
15vg/ml(すなわちその間の任意の値)、さらにより好ましくは1x10
11〜1x10
14vg/ml(すなわちその間の任意の値)、さらにより好ましくは1x10
12〜1x10
13vg/ml(すなわちその間の任意の値)である。
【0134】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用してヒトの脳に直接ZFPを送達するには、線条体あたり1x10
10〜5x10
15(または、例えば1x10
11〜1x10
14vg/ml、もしくは1x10
12〜1x10
13vg/mlを含む、その間の任意の値)の用量範囲のベクターゲノムを適用することができる。上記のように、投与量は、他の脳構造及び送達プロトコルの違いに応じて変更することができる。AAVベクターを脳に直接送達する方法は、当技術分野において既知である。例えば、米国特許第9,089,667号;同第9,050,299号;同第8,337,458号;同第8,309,355号;同第7,182,944号;同第6,953,575号;及び同第6,309,634号を参照のこと。
【0135】
診断、研究のため、または遺伝子治療のためのex vivo細胞トランスフェクション(例えば、宿主生物へのトランスフェクト細胞の再注入による)は、当業者に周知されている。好ましい実施形態では、細胞は、対象生物から単離され、少なくとも1種のHttリプレッサーまたはその構成要素でトランスフェクトされ、対象生物(例えば、患者)に再注入される。好ましい実施形態では、Httリプレッサーの1つ以上の核酸がAAV9を使用して送達される。他の実施形態では、Httリプレッサーの1つ以上の核酸がmRNAとして送達される。また、キャップ付加されたmRNAの使用により翻訳効率及び/またはmRNA安定性を増加させることも好ましい。特に、ARCA(anti−reversecapanalog(アンチリバースキャップアナログ))キャップまたはその変種が好ましい。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,074,596号及び同第8,153,773号を参照のこと。ex vivoトランスフェクションに適した種々の細胞型は、当業者に周知されている(例えば、Freshney et al.,Culture of Animal Cells,A Manual of Basic Technique(3rd ed.994))、患者からの細胞の単離及び培養方法の考察についてはその中で引用される参考文献を参照のこと)。
【0136】
一実施形態では、細胞トランスフェクション及び遺伝子治療を目的としたex vivo処置に幹細胞が使用される。幹細胞を使用することの利点は、in vitroで他の細胞型に分化できること、あるいは哺乳動物(細胞のドナーなど)に導入でき、それが骨髄に生着することである。GM−CSF、IFN−γ、及びTNF−αなどのサイトカインを使用して、CD34+細胞を臨床的に重要な免疫細胞型へとin vitroで分化させるための方法が知られている(Inaba et al.,J.Exp.Med.176:1693−1702(1992)を参照)。
【0137】
幹細胞は、形質導入及び分化のために、既知の方法を使用して単離される。例えば、幹細胞は、CD4+及びCD8+(T細胞)、CD45+(汎B細胞)、GR−1(顆粒球)、及びIad(分化抗原提示細胞)などの不要な細胞に結合する抗体で骨髄細胞をパニングすることによって、骨髄細胞から単離される(Inaba et al.,J.Exp.Med.176:1693−1702(1992)を参照)。
【0138】
修飾された幹細胞もまた、いくつかの実施形態で使用することができる。例えば、アポトーシスへの耐性を与えられた神経幹細胞を治療用組成物として使用してもよく、その幹細胞はまた、本発明のZFP TFを含む。アポトーシスへの耐性は、幹細胞内でBAXまたはBAK特異的TALENまたはZFNを使用してBAX及び/またはBAKをノックアウトすることによって(米国特許第8,597,912号を参照)、または例えばカスパーゼ−6特異的ZFNを再び使用してカスパーゼ内で破壊されるものをノックアウトすることによって、生じさせることができる。これらの細胞は、変異型または野生型Httを制御することが知られているZFP TFまたはTALE TFでトランスフェクトすることができる。
【0139】
治療用ZFP核酸を含有するベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)はまた、in vivoでの細胞の形質導入のために生物に直接投与することもできる。あるいは、裸のDNAを投与することができる。投与は、分子を導入して血液または組織細胞と最終的に接触させるために通常使用される、注射、注入、局所適用、及びエレクトロポレーションを含むが、これらに限定されない経路のうちのいずれかによる。そのような核酸の投与に適した方法が、利用可能であるとともに当業者に周知されており、特定の組成物の投与に複数の経路を使用することができるが、特定の経路の方が、別の経路よりも即時的かつ効果的な反応が得られる場合が多い。
【0140】
造血幹細胞へのDNAの導入方法は、例えば、米国特許第5,928,638号に開示されている。造血幹細胞、例えば、CD34
+細胞への導入遺伝子の導入に有用なベクターとしては、アデノウイルス35型が挙げられる。
【0141】
免疫細胞(例えば、T細胞)への導入遺伝子の導入に適したベクターとしては、非組み込み型レンチウイルスベクターが挙げられる。例えば、Naldini et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:11382−11388;Dull et al.(1998)J.Virol.72:8463−8471;Zuffery et al.(1998)J.Virol.72:9873−9880; Follenzi et al.(2000)Nature Genetics 25:217−222を参照のこと。
【0142】
部分的に、薬学的に許容される担体は、投与される具体的な組成物によって、ならびに組成物の投与に使用される具体的な方法によって決定される。したがって、以下に記載されるように、医薬組成物に適する多種多様な製剤が利用可能である(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,1989を参照)。
【0143】
上記のように、開示される方法及び組成物は、原核細胞、真菌細胞、古細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞、脊椎動物細胞、哺乳動物細胞、及びヒト細胞を含むが、これらに限定されない、任意の種類の細胞内で使用することができる。タンパク質発現に適した細胞株は、当業者に既知であり、COS、CHO(例えば、CHO−S、CHO−K1、CHO−DG44、CHO−DUXB11)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28−G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0−Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293−F、HEK293−H、HEK293−T)、perC6、Spodoptera fugiperda(Sf)などの昆虫細胞、ならびにSaccharomyces、Pischia、及びSchizosaccharomycesなどの真菌細胞が挙げられるが、これらに限定されない。これらの細胞株の子孫、変種、及び誘導体もまた使用することができる。好ましい実施形態では、方法及び組成物は、脳細胞、例えば線条体に直接送達される。
【0144】
用途
本明細書に記載のHtt結合分子(例えば、ZFP、TALE、CRISPR/Cas系、Ttagoなど)、及びそれらをコードする核酸は、様々な用途に使用することができる。これらの用途には、Htt結合分子(DNA結合タンパク質をコードする核酸を含む)を対象(例えば、AAV9などのAAV)に投与して、対象内での標的遺伝子の発現調節に使用する治療方法が含まれる。調節は、抑制形態、例えば、HD疾患状態に寄与するmHttの抑制であり得る。あるいは、内因性細胞遺伝子の発現の活性化または発現の増加が疾患状態を改善できる場合、調節は活性化形態であり得る。なおさらなる実施形態では、調節は、例えば変異型Htt遺伝子の不活性化のための(例えば、1つ以上のヌクレアーゼによる)切断であり得る。そのような用途の場合、上記のように、Htt結合分子、またはより一般的には、それらをコードする核酸が、薬学的に許容される担体とともに医薬組成物として製剤化される。
【0145】
Htt結合分子またはそれらをコードするベクターは、単独で、または他の好適な成分(例えば、リポソーム、ナノ粒子、または当技術分野で既知の他の成分)と組み合わせて、吸入によって投与されるエアロゾル製剤にすることができる(すなわち、「噴霧」することができる)。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などのような加圧された許容される噴射剤に入れることができる。例えば静脈内、筋肉内、皮内、及び皮下経路などによる非経口投与に適した製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び意図するレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含み得る、水性及び非水性の等張滅菌注射液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、及び防腐剤を含み得る、水性及び非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。組成物は、例えば、静脈内注入により、経口的に、局所的に、腹腔内に、膀胱内に、頭蓋内に、またはくも膜下に投与することができる。化合物の製剤は、アンプル及びバイアルなどの単位用量または複数用量の密閉容器で提供することができる。注射液及び懸濁液は前述のような無菌散剤、顆粒剤、及び錠剤から調製することができる。
【0146】
患者に投与される用量は、時間の経過とともに有益な治療反応を患者に生じさせるのに十分であるべきである。用量は、使用される具体的なHtt結合分子の有効性及びK
d、標的細胞、患者の病態、ならびに治療される患者の体重または体表面積によって決定される。用量の規模はまた、特定の患者における特定の化合物またはベクターの投与に伴う何らかの有害な副作用の存在、性質、及び程度によって決定される。
【0147】
有益な治療応答は、複数の方法で測定することができる。例えば、不随意的な痙攣または苦悶動作、固縮または筋拘縮(ジストニア)などの筋肉の問題、眼球運動の低速化または異常、歩行、姿勢及びバランスの障害、身体的言語生成または嚥下の困難、ならびに随意運動の障害などのハンチントン病に付随する運動障害の改善を測定することができる。認知障害及び精神障害などの他の機能障害もまた、治療に伴う改善の徴候についてモニターすることができる。UHDRS尺度は、疾患の臨床的特徴を定量化するために使用することができる。
【0148】
前駆症状を示す患者にとって、HDで発生する広範な神経変性の前に疾患を治療する機会が得られるため、治療が特に重要であり得る。この損傷は、上記の明白な症状が発現する前に起こる。HD病変は、主として線条体の中型有棘ニューロンにおける変異型Httの毒性効果と関連する。この中型有棘ニューロンは、遺伝子転写因子、神経伝達物質受容体及び電位開口型チャネルに関与するcAMP及びcGMPシグナル伝達カスケードを制御するホスホジエステラーゼ10A(PDE10A)を高レベルに発現するが(Niccolini et al(2015)Brain 138:3016−3029)、HDマウスでは、このPDE10Aの発現が減少することが示されており、またヒトでの検死研究でも同様のことが見出された。近年、PDE10A酵素に対するリガンドである陽電子放出断層撮影(PET)リガンド(例えば、
11C−IMA107(Niccolini et al、前掲)、
18FMNI−659(Russell et al(2014)JAMA Neurol 71(12):1520−1528))が開発されており、これらの分子が、前駆症状のHD患者を評価するために使用されている。研究によると、症状が発現する前であってもHD患者においてPDE10Aレベルが変化することが示されている。したがって、PETによるPDE10Aレベルの評価を治療前、治療中、及び治療後に行うことによって、本発明の組成物の治療有効性を測定することができる。「治療有効性」は、臨床的及び分子測定値の改善を意味することができ、さらに患者の中型有棘ニューロン機能のそれ以上の何らかの低下もしくは有棘ニューロンの消失の増加、またはHDに伴う明白な臨床的症状のさらなる発現を防止することを意味することができる。
【0149】
以下の実施例は、Httモジュレーターにジンクフィンガータンパク質が含まれる、本開示の例示的な実施形態に関する。これは例示のみを目的としており、TALE−TF、CRISPR/Cas系、追加のZFP、ZFN、TALEN、追加のCRISPR/Cas系(例えば、Cfp系)、遺伝子操作されたDNA結合ドメインを有するホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)を含むが、これらに限定されない他のHttモジュレーター(例えば、リプレッサー)を使用できることが理解されるであろう。
【実施例】
【0150】
実施例1:Httリプレッサー
Httを標的とするジンクフィンガータンパク質45643及び46025(表1を参照)は、本質的に米国特許第6,534,261号;米国特許公開第20150056705号;同第20110082093号;同第20130253040号;及び米国出願第14/706,747号に記載のように遺伝子操作した。表1は、これらのZFPのDNA結合ドメインの認識ヘリックスを示し、表2は、これらのZFPの標的配列を示す。ZFPを評価して、その標的部位に結合することを明らかにした。
【0151】
ZFP45643及びZFP46025は、Httを抑制するZFP−TFを形成するようにKRAB抑制ドメインに機能可能に連結した。ZFP TFをヒト細胞(例えば、HD患者由来の細胞)にトランスフェクトし、リアルタイムRT−PCRを使用してHttの発現をモニターした。いずれのZFP−TFも変異型Htt発現を選択的に抑制するのに有効であることが判明した。プラスミドとして、mRNA形態で、Adベクターに、レンチウイルスベクターに、及び/またはAAVベクター(例えば、AAV9)に製剤化する場合、ZFP−TFは機能的リプレッサーである。
【0152】
実施例2:物質及び方法
動物。本試験には、2匹のアカゲザル(Macaca mulatta、4〜15齢、4kg超)を加えた。実験は、米国国立衛生研究所のガイドライン、及びカリフォルニア大学サンフランシスコ校のInstitutional Animal Care and Use Committeeにより承認されたプロトコルに従って実施した。
【0153】
ベクター調製。サイトメガロウイルスプロモーターの制御下にある、緑色蛍光タンパク質(GFP)を含有するAAV9を、Matsushita et al.(1998)Gene Ther 5:938−945に以前に記載されたHEK−293細胞の三重トランスフェクションによって生成した。AAV9−GFPを使用直前にリン酸緩衝生理食塩水及び0.001%(vol/vol)のプルロニックF−68で濃度1.4×10
13vg/ml(高用量)または1.4×10
12vg/ml(低用量)に希釈した。
【0154】
手術及びベクター注入。各NHPに、頭蓋骨装着式、MR適合性の一時プラスチックプラグの定位固定を行った。次いで、動物をMRI適合性定位フレームに仰向けに置いた。骨切除開頭術後、カニューレガイドを両半球上方の頭蓋骨に固定した。プラグを配置した後、挿管した動物をMRIスイート内のプラットフォームテーブルに移動させ、イソフルラン(1〜3%)を吸入させた。滅菌状態のガイドにMR可視トレーサー(Prohance、Singem,Germany)を充填して、MR画像中のプラグ位置を特定し、脳内部の標的構造への軌道を算出した。次いで、NHPをMRマグネット内に移動させ、標的識別と手術計画のため、高解像度の解剖学的MRスキャンを取得した。標的を選択した後、Richardson et al.(2011)Mol Ther 19:1048−1057;Krauze et al.(2005)J Neurosurg 103:923−929;及びFiandaca et al.(2008).Neurotherapeutics 5:123−127に以前に記載されているように、3mm刻みのチップを有するカスタム設計されたセラミック製溶融シリカ逆流防止カニューレを使用してベクターを注入した。
【0155】
カニューレを、MRI適合性注入ポンプ(Harvard Apparatus、Boston,MA)に搭載された1mlシリンジに取り付けた。1μl/分で注入を開始し、カニューレ先端に注入液が見えたら、ガイド軸を通してカニューレを脳に導入した。深さストッパーがガイド軸の頂部に達したら、カニューレを固定ネジで固定した。注入速度は、1μl/分で開始し、最終的に5μl/分まで増加させた。各NHPの各被殻(両側)同時に、前交連及び後交連の被殻に及ぶ注入を施した。半球あたりの総注入容積は、両半球で100μlであった。注入が終了したら、ガイドデバイスを頭蓋骨から取り外して、動物を飼育ケージに戻し、モニターしながら麻酔から回復させた。
【0156】
MRIの取得。動物をSiemens Verio Magnetom 3.0T MRI(Siemens、Malvern,PA)でスキャンした。最初のスキャンで、フリップ角4°で得られるT1強調高速低角度ショット(FLASH)を取得し、カニューレ先端のガドリニウムをトレースするプロトン密度の強調画像を生成した(8ms TE、28ms TR、3回の励起、256×3×192マトリックス、14×14mm視野、1mmスライス)。以降のスキャンはすべて、T1強調を強め、Gdシグナルの拡張を強調するために、フリップ角40°で連続的に取得した。
【0157】
組織処理。AAV9を注入した動物に、AAV−GFPの注入後約3週間、冷生理食塩水、続いて4%パラホルムアルデヒドで経心腔的灌流を行った。以前に確立された方法を用いて脳を採取し、組織学的に分析した。簡潔には、ブレインマトリックスを用いて6mmの冠状ブロックを採取し、直ちにパラホルムアルデヒド中で一晩、後固定し、さらに翌日30%(w/v)スクロース中で凍結保護した。スライドミクロトームを使用して、40μmの連続切片に切断した。我々が以前に確立した方法でGFP発現を視覚化するために、浮遊切片に色素染色(chromagenic staining)を行った。
【0158】
免疫組織化学染色。血清型ごとに切片を順に採取し、次の処理まで凍結保護溶液(0.5Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4、30%グリセロール、及び30%エチレングリコール)の入った100ウェル容器に4℃で保存した。浮遊切片に免疫組織化学染色を行った。簡潔には、各免疫組織化学工程のたびに、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いた手順ではPBSで、または蛍光染色では0.1%Tween 20(PBST)を含むPBSで洗浄を行った。室温で30分間かけて内因性ペルオキシダーゼ活性(ペルオキシダーゼを用いた手順の場合)を停止させた。室温で60分間、PBST中の20%ウマ血清で切片をインキュベートすることにより、非特異的染色のブロッキングを行った。その後、切片を特異的一次抗体と一晩インキュベートした。免疫組織化学手順に使用した一時抗体は以下の通りであった:ポリクローナルウサギ抗Iba1、PAb、1:500(www.biocare.net/);HRPを用いた染色に1:10,000のモノクローナルマウス及び抗GFAP、蛍光染色に1:1000のポリクローナルウサギ及び抗GFAP(www.millipore.com);HRPを用いた染色に1:5,000、蛍光染色に1:500のモノクローナルマウス抗NeuN(Millipore);1:1000のモノクローナル及びマウス抗TH(Millipore、MAB318);ポリクローナルマウス及びモノクローナルウサギ抗GFP、それぞれ1:200及び1:500(Life Technologies;Millipore)。すべての抗体をDa Vinci希釈液(Biocare)に溶解した。室温にて5分間PBS中で3回すすいだ後、HRPを用いた染色用の切片を、Mach 2抗マウスHRPポリマー(Biocare)またはMarch 2抗ウサギHRPポリマー(Biocare)とともに室温で1時間インキュベートした。結合したHRPの活性を、3,3’−ジアミノベンジジンペルオキシド基質(Vectro Labs)を含む市販のキットによって可視化した。NeuN染色切片をクレシルバイオレット染色で対比染色した。最後に、ゼラチンを塗布したスライドに免疫染色された切片を載せ、アルコール及びキシレンで脱水し、Cytoseal(商標)(Fisher Scientific)を用い、カバースリップで覆った。
【0159】
異なる抗原の二重蛍光免疫染色のために(GFP/GFAP、GFP/NeuN、GFP/TH、及びGFP/Iba1)、一次抗体の組み合わせを4℃で一晩インキュベートすることにより一次抗体のカクテルとして切片に適用した。すべての一次抗体をDaVinci希釈液(Biocare)に溶解した。PBST中で3回洗浄した後、モノクローナル一次抗体を、次の適切な二次蛍光色素コンジュゲート抗体、ヤギ抗マウスDyLight 549(赤)(Biocare)、ヤギ抗ウサギDyLight 549、ロバ抗ウサギAlexa Fluor 555(Life technologies)、ヤギ抗マウスDyLight 488(緑)、ヤギ抗ウサギDyLight 488、及びロバ抗ウサギAlexa Fluor 488と暗所で2時間インキュベートすることにより可視化した。二次抗体はすべて蛍光抗体希釈液(Biocare)で1:1,000希釈により溶解した。切片は、蛍光用封入剤Vectashield Hard Set(Vector Labs)を用い、カバースリップで覆った。対照切片を一次抗体なしで処理したが、各条件下で有意な免疫染色は観察されなかった。
【0160】
半定量的分析。分布容積(Vd)分析は、Brainlab iPlan Flow Suite(Brainlab、Munich,Germany;www.brainlab.com)を用いて実施した。注入部位、カニューレ管、及びカニューレ先端を冠状面、体軸面、及び矢状面のT1強調MR画像で特定した。T1ガドリニウムシグナル及び標的被殻を強調するため関心領域(ROI)の輪郭を抽出した。画像の連続及びROIの3次元容積再構成を分析し、注入の推定Vd及び注入液の総量(Vi)に対するその比を決定した。
【0161】
脳切片の分析。処理された切片をすべて検査し、CCDカラービデオカメラ及び画像解析システム(Axiovision Software;Zeiss)を備えたZeiss Axioskop顕微鏡(Zeiss)でデジタル撮影した。サルごとにGFP陽性細胞及びNeuN陽性細胞の数を、冠状断面から被殻に至る両半球について決定した。蛍光顕微鏡を使用して切片中の二重標識細胞の数を決定した。切片または焦点の位置を変えずに、2つの個別の手段(赤色ローダミン及び緑色フルオレセインイソチオシアネート;共局在化は黄色に見える)からの画像をマージすることにより二重標識切片の顕微鏡写真を得た(対物レンズx20及びx40、ApoTomeモードによるCarl Zeiss顕微鏡)。各二重染色では、注射部位から約500μmの距離の前部及び後部の切片を選択した。GFP/NeuN、GFP/GFAP、GFP/TH、及びGFP/Iba1を発現する細胞の割合を特定するために、各切片を、最初に1つの手段を使用して表現型特異的細胞(TH、GFAP、Iba1、またはNeuN)の存在について分析し、次に複合手段を使用して同時染色された細胞数について分析した。
【0162】
NeuN及びGFPで染色された切片を使用して、被殻(両側)における3種類のレベルの注射部位で3つの切片から計数した。NeuN陽性及びGFP陽性細胞を、両方の形質導入領域の5つの無作為に取得したフレーム(350μm
2)から200倍の倍率で計数した。形質導入されていない領域では、5つの無作為のフレームを、規定された発現の境界から350μmの距離で取得した。これらの分析は、in vivoでの形質導入細胞の総数を反映していないが、ベクターの定量的比較は可能であった。各サンプル領域の細胞数を各動物の切片にわたって平均し、最終データをNeuN陽性及びGFP陽性の平均数として示す。
【0163】
実施例3:注入及び形質導入効率
我々は、AAV2が、ラット及び非ヒト霊長類(NHP)の脳実質に注入されたとき、ニューロンに沿って順方向に輸送される神経向性ベクターであることを以前に示した。例えば、Ciesielska et al.(2011).Mol Ther 19:922−927; Kells et al.(2012)Neurobiol Dis 48:228−235を参照のこと。無傷のウイルス粒子のこの輸送は十分に強固であるため、投射する神経終末からベクターが放出され、遠位ニューロンを形質導入できることは明らかである。したがって、AAV2のNHP視床への注入は、皮質内全体に含まれる皮質ニューロンの強固な形質導入をもたらした。対照的に、AAV6は、軸索に沿って逆方向に輸送され、AAV2と同様にほぼ神経向性である。例えば、Salegio et al.(2012)Gene Ther.20(3):348−52;San Sebastian et al.(2013)Gene Ther 20:1178−1183を参照のこと。例えば、NHP被殻の形質導入は、皮質線条体ニューロンの導入遺伝子発現をもたらす。
【0164】
この研究では、2匹のNHPに、高用量(HD;左半球;1.5×10
13vg/mL)または低用量(LD;右半球;1.5×10
12vg/mL)いずれかのAAV9−GFPの被殻注入を施した。Ciesielska et al.(2013)Mol Ther 21:158−166;Samaranch et al.(2014)Mol Ther 22:329−337に以前に記載されているように、GFPに対する細胞媒介性応答から生じる交絡の可能性を制限するために、術後の生存段階を意図的に短くした(3週間)。
【0165】
MRIのガドリニウム強調シグナルの分布を、Richardson et al.(2011)Stereotact Funct Neurosurg 89:141−151に以前に記載されているように容積測定して評価した。結果を
図1に示す。注目すべき点として、霊長類の被殻のおおよその形状は、矢状方向に幾分円錐形であり、前断面は広く、後断面に向かって狭くなっている。しかしながらMRI造影剤による被殻の適用範囲は、ほぼ全体に及んだ。GFPとガドリニウムシグナルとの重複部は、注入液が十分に含有され、被殻の前部及び内側部に漏れがほとんどなく、MR画像のコントラスト領域の3倍の領域に広がっていることを示していた。GFP発現の免疫組織化学染色の輪郭を抽出し、注入の空間的境界内の様々な冠状レベルでの連続するベースラインMR画像から再構成された被殻の輪郭に重ね合わせた。これはAAV2で見られたものとはかなり異なり、導入遺伝子の発現がMRIシグナルとほぼ正確に相関する(Fiandaca et al.(2009)Neuroimage 47 Suppl 2:T27−35)。
【0166】
さらに、HD及びLDいずれの被殻においても、強固なレポーター発現が多量の細胞体及び神経線維に顕著であった(
図2A〜
図2D)。以前に記載された方法(Ciesielska et al.(2013)Mol Ther 21:158−166)に基づいて、カニューレ管面の周りの形質導入の主要領域(PAT;mm
2)全体を免疫蛍光することによりGFP+/NeuN+ニューロンを計数した。GFP陽性神経発現の強度は、形質導入領域から350μm以下の異質な周辺部(以下PAT「外部」(oPAT)と記載)沿いで急に減少した。本研究のこの部分では、ベクター依存性効果を確認するために、PAT及びoPAT、ならびに2匹の健常な未処置のサル由来の処理済み被殻切片において、NeuN+細胞体の計数を実施した。
【0167】
さらに、神経細胞体におけるAAV9媒介性形質導入及びGFP発現を明らかにすると思われるNeuN陽性及びGFP陽性標識に関して、PAT及びoPATでの形質導入効率に用量依存性があるかどうかを分析した。抗GFP応答の蓄積が比較的遅く、AAV9−GFP注入後6週間を超えると顕著であったが、3週間では顕著でなかったという以前の我々の観察と一致して、AAV9−GFPの形質導入に起因する神経喪失の証拠は見つからなかったが、ミクログリアの活性化及びMHC−IIの上方制御の証拠は見られた(
図2E〜
図2H)。
【0168】
脳、主としてアストロサイト(Cornet et al.(2000)J Neuroimmunol 106:69−77)及びミクログリア(Nelson et al.(2002)Ann Med 34:491−500)における抗原提示には複数の機構が存在する。注入部位でのニューロン標的及びグリア標的に対するAAV9の細胞特異性を決定するために、ニューロンに対するNeuN神経マーカー、アストロサイトに対するグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、及びミクログリア特異的マーカーIba1を含む、導入遺伝子及び細胞特異的マーカーで脳切片を免疫染色した。
【0169】
図3に示す、細胞マーカーそれぞれによるGFPに対する二重免疫蛍光染色から明らかなように、導入遺伝子はニューロン及びアストロサイトの両方において容易に発現されたが、ミクログリアは、隣接する細胞体及びニューロン繊維における大量のGFP発現にもかかわらず形質導入されなかった。しかしながら、形質導入された領域におけるミクログリアの活性化は容易に観察可能であった(
図2E〜
図2H)が、これは局所環境の自然免疫状態を感知するミクログリアの能力を示している。
【0170】
実施例4:軸索輸送
被殻へのAAV9−GFPの注入は、遠位構造に形質導入を生じさせた。GFP染色は、例えば前頭前野、前頭皮質、及び頭頂皮質の細胞体で観察された(
図4)。GFP陽性細胞体及び繊維はまた、視床及び大脳基底核の構成部位(黒質緻密部(SNc)及び黒質網様部(SNr)ならびに視床下核(STN)を含む)、ならびに内側前脳束(MFB)の繊維にも存在していた(
図5)。遠位の遺伝子座への軸索輸送には強いベクター用量依存性があった(
図7)。したがって、低用量では見られなかったが、高用量のAAV9では、被殻とSTNとの間に直接的な神経連絡がないという事実にもかかわらず、STNに細胞体標識が見られた。我々は、AAV2を用いた大脳基底核内(Ciesielska et al(2011)Mol Ther 19:922−927,及びKells(2012)、前掲)、及び視床から皮質への(Kells et al.(2009)Proc Natl Acad Sci USA 106:2407−2411)このような間接的な順行性輸送について以前から着目していた。ただし、AAV9−GFP輸送の有意な用量依存性は、最初は淡蒼球、次にSTNという2段階でベクターが輸送されることを意味する。黒質網様部(SNr)内のGFP陽性細胞体の存在に加え、被殻からSNrに投射するニューロンを標識する繊維の存在によってAAV9の順行性輸送がさらに裏付けられた(
図6)。意外にも、黒質緻密部(SNc)内の細胞体もまたGFP陽性であり、このことは被殻からの逆行性輸送によりSNcが高度に分岐した投射を送ることを示している。STNと著しい差はなかったものの、この領域の形質導入に対するAAV9−GFPの用量効果は明白であった。
【0171】
したがって、AAV9が軸索に沿って双方向に輸送されるという結論を得た。これは霊長類の脳におけるAAV9の顕著な分布を少なくとも部分的に説明する現象である。AAV9は、軸索輸送及び細胞型特異性の点で、AAV2及びAAV6とは極めて異なっていた。AAV9は、アストロサイト及びニューロンを形質導入したが、ミクログリアを形質導入しなかった。ベクターは、順行性及び逆行性両方の軸索方向に輸送された。これらのデータは、霊長類の脳におけるAAV9分布の理解を発展させ、ハンチントン病などの著しい皮質線条体病変を伴う神経疾患治療における有用性を裏付けるものである。
【0172】
アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いたベクターによる神経系遺伝子治療の臨床開発がより一般的になるにつれて、霊長類の脳におけるAAVの血清型特異的な挙動がますます重要視されている。このことは、パーキンソン病(Richardson et al.(2011)Mol Ther 19:1048−1057)などの疾患、及び芳香族L−アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)欠損(San Sebastian et al.(2014)Mol Ther Methods Clin Dev 3)などの希少神経障害における神経外科的介入の臨床開発を促進する、より効率的で進歩したベクター注入技術の場合に特に当てはまる。この新しい臨床応用技術では、術中MRIを用いてAAV2の実質細胞注入を視覚化する。その有用性は、MRI造影剤の分布と最終的な導入遺伝子発現との間の顕著な相関によるものである。しかしながら、AAV9ではこの密接な相関関係が幾分崩れている。GFPの発現は、注入容積を有意に(約3倍)上回る容積に拡張された。このことは、間質または脈管の輸送プロセスが初回加圧注入(CED)の結果に重要な役割を果たすことを強調している(Hadaczek et al.(2006)Mol Ther 14:69−78)。我々の意見では、AAV2の場合、豊富なヘパラン硫酸プロテオグリカン(Summerford et al.(1998)J Virol 72:1438−1445)に対するベクターの結合活性が、AAV2の注入部位を限定する効果があり、導入遺伝子発現の分布がMRI造影剤の分布と厳密に一致する。対照的に、AAV9の一次受容体はHSPGではなく(Shen et al.(2011)J Biol Chem 286:13532−13540)、その結果、このベクターは、血管外膜と結合して、所与の注入容積に対してはるかに大きな容積の発現を生じ得る。
【0173】
AAV9は、神経組織において広い指向性を示し(Gray et al.(2011)Mol Ther 19:1058−1069;Hinderer et al.(2014)Molecular Therapy−Methods & Clinical Development 1;Foust et al.(2009)Nat Biotechnol 27:59−65)、ニューロン及びアストロサイトの両方、ならびにおそらく他の細胞型にも形質導入する。AAV9が脳の抗原提示細胞(APC)に形質導入する能力は、APCにおける外来(非自己)タンパク質の発現(Ciesielska et al.(2013)Mol Ther 21:158−166;Samaranch et al.(2014) Mol Ther 22:329−337;Forsayeth and Bankiewicz(2015)Mol Ther 23:612)、及びその結果生じる神経毒性の適応免疫応答の関与に関する懸念を起こさせる。言うまでもなく、自己タンパク質を発現する場合にはこれが問題となる可能性は低いが、本研究では、以前と同様、アストロサイト及びミクログリアに対するIba1の活性化及びMHC−IIの上方制御を観察した。いずれのグリア型も、個々に独自の機能を有する脳のAPCである。しかしながら、これらの細胞がGFP提示に対して明らかに応答性であった場合でも、AAV9−GFPによるミクログリアへの形質導入の証拠は見られなかった。GFP発現に対する適応応答に関して重要なAPCはアストロサイトであるというのが我々の結論である。
【0174】
脳におけるAAV血清型の挙動に関する最も顕著な発見の1つは、軸索輸送の現象であった。無傷のAAV粒子を長距離にわたり輸送するニューロンの能力は、当初AAV2について報告されたが、この同じ現象は単純ヘルペス(Costantini et al.(1999)Hum Gene Ther 10:2481−2494;Diefenbach et al.(2008)Rev Med Virol 18:35−51;Lilley et al.(2001)J Virol 75:4343−4356;及びMcGraw and Friedman(2009)J Virol 83:4791−4799)及び狂犬病ウイルス(Gillet et al.(1986)J Neuropathol Exp Neurol 45:619−634;Kelly and Strick(2000)J Neurosci Methods 103:63−71;Klingen et al.(2008)J Virol 82:237−245;Larsen et al.(2007)Front Neural Circuits 1:5)についても記載されている。上記のウイルスの主要な逆行性輸送とは対照的に、AAV2は、CNSニューロンにおいて順行性輸送を受ける。すなわち、AAV2の粒子は、無傷の状態で神経細胞体からシナプス末端に輸送され、そこで放出されて、遠位のニューロンにより取り込まれる。Ciesielska,et al.(2011)Mol Ther 19:922−927;Kells et al.(2012)Neurobiol Dis 48:228−235;Kells et al.(2009)Proc Natl Acad Sci USA 106:2407−2411を参照のこと。この現象には、一次形質導入位置での非常に効率的な分布及び形質導入を必要とし、初期にその現象が検出されなかった理由は、この効率度を実際に達成できるのはCEDのみであることから説明することができる。NHP視床へのAAV2の注入は、皮質層V/VIに位置する錐体ニューロンを主とする、導入遺伝子の広範な皮質発現をもたらす。同様に、NHP被殻またはラット線条体のAAV2による形質導入は、線条体GABA作動性ニューロンからの投射を受ける、SNr内の細胞体での導入遺伝子発現はもたらすが、線条体に投射するSNcでは発現しない。AAV2の順行性輸送とは対照的に、AAV6は排他的に逆方向に輸送され、AAV2とほぼ同様の神経向性である(Salegio et al.(2012)Gene Ther.20(3):348−52;San Sebastian et al.(2013)Gene Ther 20:1178−1183)。
【0175】
AAV9の軸索輸送は、本研究において双方向であることが見出された。AAV9−GFPの被殻への注入は、被殻に投射する皮質線条体ニューロンでの導入遺伝子の発現をもたらし、GFPの発現はまたSNcニューロンにおいても見出され、それによりこの血清型の逆行性輸送を確認した。AAV6(San Sebastian et al.(2013)Gene Ther 20:1178−1183)に見られるよりも大幅に効率的であるこの現象は、大脳基底核及び皮質線条体ニューロン両方の変性が疾患の神経病理の中心である(Berardelli et al. (1999) Mov Disord 14:398−403)ハンチントン病の治療法を考案する上で有益である。治療用AAV9によるヒト被殻の効率的な形質導入は、線条体への皮質投射もまた標的とすることができる。
【0176】
しかしながら、それに加えて、このベクターはSNr及びSTNへと順方向に輸送された。STNニューロンの標識はベクター用量に極めて依存しており、SNr内より顕著であった。このことは、軸索及び/または血管周囲輸送による淡蒼球(GP)を介する間接的経路を用いたAAV9−GFPの輸送条件を示している。AAV9が初回被殻注入量を超えて効率的に広がる能力は、血管周囲の強力な機構を示唆している。しかしながら、AAV9の双方向性軸索輸送の現象は、ベクターの非常に広範な分布が必須である用途にとって、このベクターがこれほど有望であるとみなされる理由の一端を説明することができる。
【0177】
実施例5:Httリプレッサーの送達
例えば、米国公開第20150056705号;同第20110082093号;同第20130253040号;及び同第20150335708号ならびに本明細書に記載されているようなHttリプレッサー(ZFP−TF、TALE−TF、CRISPR/Cas−TF)は、実施例1に記載したようにウイルス(例えば、AAV9などのAAV)を使用してHDモデルマウス、NHP、またはヒト対象の線条体に送達される。
【0178】
Httリプレッサーは、広範な発現を示し、Htt発現、Htt凝集体の形成を減少させ、アポトーシスを減少させ、かつ/または対象における運動障害(例えば、クラスピング)を軽減させ、HDの予防及び/または治療に有効である。
【0179】
実施例6:HD患者の線維芽細胞及びHD患者の幹細胞由来のニューロンにおける変異型Httの抑制
ZFP46025及びZFP45643は、HD患者由来のCAG18/45線維芽細胞において変異型HTTを選択的に抑制する(
図8)。GFP対照、ZFP46025及びZFP45643をコードするmRNA(50,000細胞あたり0.1、1、10、または100ng)を、Nucleofactor(Lonza)を使用してHD線維芽細胞GM02151(Coriell Cell Repository)にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、HTT発現レベルをqRT−PCRによって測定した。各サンプルにおけるWt Htt(CAG18)及び変異型Htt(CAG45)のレベルを、SNP rs363099 C/T(エキソン29)に基づくカスタムのアレル特異的qPCRアッセイによって3連で測定し、GAPDHのレベルに正規化した。ZFPサンプルのHtt/GAPDH比を、モックトランスフェクトされたサンプルでの比(1に設定)にスケーリングした。データを平均±SDで表す。データは、ZFP46025及びZFP45643両方による変異型Httアレル(CAG45)の選択的抑制を示している。
【0180】
ZFP46025及びZFP45643は、HD患者由来のCAG21/38線維芽細胞において変異型HTTを選択的に抑制する(
図9)。GFP対照、ZFP46025及び45643のmRNA(50,000細胞あたり0.1、1、10、または100ng)を、Nucleofactor(Lonza)を使用してHD線維芽細胞ND30259(Coriell Cell Repository)にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、Htt発現レベルをqRT−PCRによって測定した。各サンプルにおけるWt Htt(CAG21)及び変異型Htt(CAG38)のレベルを、SNP rs362331 C/T(エキソン50)に基づくカスタムのアレル特異的qPCRアッセイによって3連で測定し、GAPDHのレベルに正規化した。ZFPサンプルのHtt/GAPDH比を、モックトランスフェクトされたサンプルでの比(1に設定)にスケーリングした。データを平均±SDで表す。データは、ZFP46025及びZFP45643両方による変異型HTTアレル(CAG45)の選択的抑制を示している。
【0181】
図8及び9のデータは、ZFP46025及びZFP45643が、野生型及び変異型Httアレルの両方で、異なるCAGリピート長を有する患者由来細胞において変異型Httアレルからの転写を選択的に抑制できることを示している。
【0182】
ZFP46025及びZFP45643は、一過性mRNAトランスフェクションによってCAG17/48ニューロン中の変異型Httを選択的に抑制する(
図10)。GFP対照、ZFP46025及びZFP45643のmRNA(150,000細胞あたり15、150、300、または1,500ng)を、Nucleofactor(Lonza)を使用してHD胚性幹細胞(ESC)GENEA020(GENEA/CHDI)から分化したニューロンにトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、Htt発現レベルをqRT−PCRによって測定した。各サンプルにおける野生型Htt(CAG17)及び変異型Htt(CAG48)のレベルを、エキソン67のSNP rs362307に基づくアレル特異的qPCRアッセイ(Applied Biosystems)によって3連で測定し、GAPDHのレベルに正規化した。ZFPサンプルのHtt/GAPDH比を、モックトランスフェクトされたサンプルでの比(1に設定)にスケーリングした。データを平均±SDで表す。データは、HDニューロンにおける、ZFP46025及び45643両方による変異型Httアレル(CAG48)の選択的抑制を示している。
【0183】
使用するZFPがAAV6ウイルスベクターまたはAAV9ウイルスベクターのいずれかを使用して送達された分化型CAG17/48ニューロンについても実験を実施した。ZFP46025、ZFP45643、またはGFP対照をコードするAAV6ベクターを使用して、HD胚性幹細胞(ESC)GENEA020(GENEA/CHDI)から分化したニューロンに2連で感染させた。使用されたAAV用量は、ZFPについては細胞あたり1E+4、5E+4、または1E+5ベクターゲノム(vg)であり、GFPについては細胞あたり1E+5vgであった。感染の21日後、HTT発現レベルをqRT−PCRによって測定した。各サンプルにおけるWt Htt(CAG17)及び変異型Htt(CAG48)のレベルを、エキソン67のSNP rs362307に基づくアレル特異的qPCRアッセイ(Applied Biosystems)によって3連で測定し、GAPDHのレベルに正規化した。ZFPサンプルのHtt/GAPDH比を、モックトランスフェクトされたサンプルでの比(1に設定)にスケーリングした。データを平均±SDで表す(
図11A)。
【0184】
ZFP46025、ZFP45643、またはGFP対照をコードするAAV9ベクターを使用して、HD胚性幹細胞(ESC)GENEA020(GENEA/CHDI)から分化したニューロンに2連で感染させた。使用されたAAV用量は、ZFPについては細胞あたり1E+5、5E+5、または5E+6ベクターゲノム(vg)であり、GFPについては細胞あたり5E+6vgであった。感染の21日後、HTT発現レベルをqRT−PCRによって測定した。各サンプルにおける野生型Htt(CAG17)及び変異型Htt(CAG48)のレベルを、エキソン67のSNP rs362307に基づくアレル特異的qPCRアッセイ(Applied Biosystems)によって3連で測定し、GAPDHのレベルに正規化した。ZFPサンプルのHtt/GAPDH比を、モックトランスフェクトされたサンプルでの比(1に設定)にスケーリングした。データを平均±SDで表す(
図11B)。
【0185】
実施例7:ZFP46025及びZFP45643はHDに関連する細胞表現型をレスキューする
以前の研究では、HD患者由来細胞におけるCAGリピートの伸長に伴う表現型の変化が示されている(Jung−il et al.,(2012)Biochemical Journal,446(3),359−371;HD IPSC Consortium,(2012)Cell Stem Cell,11(2),264−278;An et al.,(2012)Cell Stem Cell,11(2),253−263)。これらの公開された知見と一致して、我々は、CAG17/48ニューロンが非HD(正常)ニューロンと比較して細胞内ATPレベルの有意な減少を有することを見出した(
図12A)。ニューロンがZFP46025またはZFP45643をコードするレンチウイルスベクターに感染してから21日後、細胞内ATPレベルは対照細胞と比較してそれぞれ1.7倍及び1.8倍増加し、変異型HttサイレンシングがHDニューロンのエネルギー欠損をレスキューすることを示した。in vitroでHDニューロンの別の表現型は、プログラム細胞死に対して感受性が増加している。成長因子の離脱により、アポトーシスを受けるCAG17/48ニューロンのパーセント比は、正常なニューロンのものよりも4〜5倍高かった(
図12B)。レンチウイルス感染後12日目、成長因子の離脱から2日後、ZFP46025及びZFP45643は、アポトーシス細胞数を野生型細胞で見られる数へと減少させた。
【0186】
CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Assay(Promega)を使用して、HD患者(CAG17/48)または正常対象由来の培養ニューロンの細胞内ATPレベルを測定した。このとき、各サンプルの細胞数はApoLive−Glo(登録商標)アッセイ(Promega)を使用して決定した。MOIが500であるYFP−VenusまたはZFP−TF(45643または46025−KOX−2A−Venus)のいずれかを発現するLVにニューロンを3連で感染させた。
【0187】
レンチウイルス感染後21日目に、CellTiter−Glo Luminescent Assay(Promega)を使用して、製造業者の指示に従ってニューロンの細胞内[ATP]レベルを測定した。発光値を各サンプルの細胞数で正規化した。次いで、異なる細胞/処理から得た細胞値ごとのATPレベルを、模擬感染させたHDニューロンのレベル(1と設定)に正規化した。データ(
図12A)を平均±SDで表す。
【0188】
末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニックエンドラベリング(TUNEL)アッセイを使用して、成長因子の離脱によって誘導されたHDニューロン及び非HDニューロンの細胞死を測定した。MOIが500であるYFP−VenusまたはZFP−TF(45643または46025−KOX−2A−Venus)のいずれかを発現するLVにニューロンを3連で感染させた。細胞を12日間培養した後、添加剤(成長因子)を何も加えない新鮮なneurobasal培地に培地を交換した。細胞をこの成長因子離脱培地中で48時間保持した。TUNELアッセイは、ApoBrdU Red DNA断片キット(BioVision)を使用して行った。4%パラホルムアルデヒドを用いて氷上で15分間ニューロンを固定した。製造業者の推奨事項(ApoBrdU Red DNA断片キット、BioVision)に従ってTUNEL陽性細胞を定量化することによりアポトーシスを評価した。フローサイトメトリーを使用して、抗BrdU−Red染色によってアポトーシスを測定した。データ(
図12B)を平均±SDで表す。
【0189】
このように、本明細書に記載のリプレッサーは、未処理の細胞と比較して、細胞死の減少、細胞機能の増加(細胞内ATPレベルによって測定される)、及びアポトーシスに対する細胞感受性の低下を含むがこれらに限定されない、HD関連表現型をレスキューすることによる治療上の利点を提供する。
【0190】
実施例8:ZFP46025及びZFP45643はマウス線条体の変異型Httを抑制する
ZFP46025、ZFP45643、またはGFP対照をコードするAAV9ベクターの線条体内注入により、HdhQ50/Hdh+(Q50)ヘテロ接合マウス(White et al.(1997)Nature Genetics 17:404−410)におけるZFPのin vivo活性を試験した。Q50マウスは、内因性マウスHdh遺伝子のエキソン1が48のCAGをもつヒトHtt遺伝子のエキソン1に置換されたノックインアレルを含む。注射後5週間で、処理した線条体のアレル特異的qRT−PCR分析により、ZFP45643及びZFP46025は、ビヒクル注入対照と比較して変異型Httアレル(Q50)をそれぞれ79%及び74%抑制することを示した。野生型アレル(Q7)はいずれのZFPによっても制御されなかった(
図13A及び
図13B)。またZFP45643の活性を注射後12週に試験し(
図13C)、野生型アレル(Q7)の抑制を伴わずに変異型Htt(Q50)の有意な抑制(70%)が観察された。試験期間にわたって、いずれの動物においても明白な毒性は観察されなかった。行動試験(例えば、クラスピング試験)もまた実施し、本明細書に記載のリプレッサーがin vivoで治療的(臨床的)利益をもたらすことを示している。
【0191】
10〜11齢のHdhQ50/Hdh+(Q50)ヘテロ接合マウス(性別混合)に、AAV9ベクター(ZFP46025、ZFP45643、またはGFP、群あたりn=4)または製剤緩衝液(ビヒクル、n=3)の両側線条体内注入を施した。2回の3μl注射を各線条体に行った(合計6μl、線条体あたり1.1E+10ベクターゲノムに相当)。前部の注入に使用した座標は、A/P+1.4、M/L+/−1.7、D/V−3.5であり、後部の注入ではA/P+0.2、M/L+/−2.3、D/V−3.2であった。注射後5週(ZFP46025及びZFP45643)及び12週(ZFP45643)でマウスを犠牲死させ、各線条体を3つ(前部、中部、及び後部)のスライスに切開し、RNA単離及びqRT−PCR分析を行った。変異型Httアレル(Q50)及びwtアレル(Q7)からの発現をアレル特異的qPCRアッセイによって測定し、HttレベルをATP5B、RPL38、及びEIF4A2レベルの幾何平均で正規化した。(ns:p>0.05、*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001、****:p<0.0001、Sidak検定による一元配置分散分析)。
【0192】
図13に示すように、処理した線条体のアレル特異的qRT−PCR分析により、ZFP45643及びZFP46025は、ビヒクル注入対照と比較して変異型Httアレル(Q50)をそれぞれ79%及び74%抑制することを示した。野生型アレル(Q7)はいずれのZFPによっても制御されなかった。またZFP45643の活性を注射後12週に試験し、野生型アレル(Q7)の抑制を伴わずに変異型Htt(Q50)の有意な抑制(70%)が観察された。
【0193】
したがって、本明細書に記載のHttリプレッサーは、広範な発現を示し、Htt発現、Htt凝集体の形成を減少させ、アポトーシスを減少させ、かつ/または対象における運動障害(例えば、クラスピング)を軽減させ、またHDの予防及び/または治療に有効である。
【0194】
実施例9:ZFP46025及びZFP45643の治療有効性の測定
HD患者を、様々な用量のZFP46025またはZFP45643で治療する。HD患者をUHDRS尺度を用いて評価すると、患者は治療後に改善を示している。また有効性を、PDE10AのPETトレーサー
18FMNI−659、及びMRIを使用したPETイメージング分析によって測定する。簡潔には、ZFP(例えば、ZFPをコードするAAV9ベクター)に曝露された脳の領域(例えば、被殻内の領域)を、ZFP製剤と混合されたガドリニウム造影剤及びMRIによって特定する。治療前及び治療後に、約5mCiの
18FMNI−659を約5μgの質量用量で3分間の注入期間にわたって患者に投与した。PETスキャナーを使用して90分間、連続3D PET画像を取得する。MRIスキャナーを使用してMRI画像も取得し、PET画像をMRI画像と位置合わせして解剖学対応の画像を生成し分析する。大脳基底核(淡蒼球、尾状核、及び被殻(線条体)を含む)について標準取り込み値を算出し、小脳などの参照領域に対して正規化する(Russell et al、前掲)。治療時にMRIによって特定されたZFPに曝露された脳領域のPDE10A PETシグナルを治療後に測定し、治療前の同じ領域のシグナルレベルと比較する。HD患者をZFP46025またはZFP45643で治療することにより、中型有棘ニューロンの何らかのさらなる消失(PDE10Aレベルで測定)、及び明白な臨床症状のさらなる発症から患者を保護する。患者によっては、ZFPによる治療はHDの症状を逆転させる。
【0195】
本明細書で述べるすべての特許、特許出願、及び刊行物は、目的を問わず参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0196】
理解を明確にする目的で、例示及び実施例によってある程度詳細に開示内容を示したが、本開示の趣旨または範囲から逸脱することなく、種々の変更及び改変がなされ得ることが当業者には明らかであろう。したがって、上記の説明事項及び実施例は、限定として解釈されるべきではない。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
Htt遺伝子に結合する非天然型ジンクフィンガータンパク質であって、F1〜F5に指示される5つのジンクフィンガードメインを含み、前記ジンクフィンガードメインが、表1の単一の行に示される認識ヘリックス領域配列を含む、前記ジンクフィンガータンパク質。
(項目2)
項目1に記載のジンクフィンガータンパク質と機能ドメインとを含む融合タンパク質。
(項目3)
前記機能ドメインが、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、及びヌクレアーゼドメインである、項目2に記載の融合タンパク質。
(項目4)
項目1〜3のいずれかに記載の1つ以上のジンクフィンガータンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(項目5)
項目4に記載のポリヌクレオチドを含むAAVベクター。
(項目6)
項目1〜3のいずれかに記載の1つ以上のジンクフィンガータンパク質、項目4に記載のポリヌクレオチド、及び/または項目5に記載のAAVベクターを含む宿主細胞。
(項目7)
項目4に記載の1つ以上のポリヌクレオチド、及び/または項目5に記載の1つ以上のAAVベクターを含む医薬組成物。
(項目8)
細胞におけるHtt遺伝子の発現を改変する方法であって、項目4に記載の1つ以上のポリヌクレオチド、項目5に記載の1つ以上のAAVベクター、及び/または項目7に記載の1つ以上の医薬組成物を前記細胞に投与することを含む、前記方法。
(項目9)
前記Htt遺伝子が少なくとも野生型及び/または1つの変異型アレルを含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記融合タンパク質が抑制ドメインを含み、かつ前記Htt遺伝子の発現が抑制される、項目8または項目9のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記細胞が神経細胞である、項目8〜10のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記神経細胞が脳内のものである、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記神経細胞が前記脳の線条体内のものである、項目12に記載の方法。
(項目14)
ハンチントン病の治療及び/または予防を必要とする対象に行う方法であって、項目4に記載の1つ以上のポリヌクレオチド、項目5に記載の1つ以上のAAVベクター、及び/または項目7に記載の1つ以上の医薬組成物を、必要とする対象に投与することを含む、前記方法。