特許第6853260号(P6853260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853260植物におけるウイルス感染を防除するための活性物質の使用
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  • 特許6853260-植物におけるウイルス感染を防除するための活性物質の使用 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853260
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】植物におけるウイルス感染を防除するための活性物質の使用
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/42 20060101AFI20210322BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20210322BHJP
   A61K 31/435 20060101ALN20210322BHJP
   A61P 31/12 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   A01N43/42
   A01P1/00
   !A61K31/435
   !A61P31/12
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-536238(P2018-536238)
(86)(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公表番号】特表2019-503375(P2019-503375A)
(43)【公表日】2019年2月7日
(86)【国際出願番号】EP2017050585
(87)【国際公開番号】WO2017121811
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2019年12月24日
(31)【優先権主張番号】16290010.4
(32)【優先日】2016年1月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507203353
【氏名又は名称】バイエル・クロップサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ベルツ,レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】ベルニエ,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ−ブリウズ,フローレンス
(72)【発明者】
【氏名】クノーブロッホ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィッテル,マキシム
(72)【発明者】
【氏名】ヴォワネ,オリバー
【審査官】 進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0082578(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/148961(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/088963(WO,A1)
【文献】 特表2011−507910(JP,A)
【文献】 PNAS,2004年,Vol.101, No.25, pp.9497-9501
【文献】 Registry(STN)[オンライン],2003年 4月23日,[検索日]2020.10.21, インターネット:<URL: https://www/stn.org/>, RN: 503837-93-2
【文献】 Registry(STN)[オンライン],2002年 8月 9日,[検索日]2020.10.21, インターネット:<URL: https://www/stn.org/>, RN: 443289-12-1
【文献】 Registry(STN)[オンライン],2002年 8月 9日,[検索日]2020.10.21, インターネット:<URL: https://www/stn.org/>, RN: 443123-43-1
【文献】 Registry(STN)[オンライン],2002年 8月 5日,[検索日]2020.10.21, インターネット:<URL: https://www/stn.org/>, RN: 442568-99-2
【文献】 Registry(STN)[オンライン],2002年 6月 5日,[検索日]2020.10.21, インターネット:<URL: https://www/stn.org/>, RN: 425627-19-6
【文献】 Registry(STN)[オンライン],2002年 6月 4日,[検索日]2020.10.21, インターネット:<URL: https://www/stn.org/>, RN: 425415-95-8
【文献】 Registry(STN)[オンライン],2001年 8月24日,[検索日]2020.10.21, インターネット:<URL: https://www/stn.org/>, RN: 352559-53-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/42
A01P 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物におけるウイルス病を防除する方法であって、その植物に、式(I):
【化1】

〔式中、Rは、水素、フェニルチオ及び置換されているフェニルからなる群から選択され、ここで、該フェニルは、ハロゲン、カルボキシ及びニトロからなる群から独立して選択される1以上の置換基で置換されている〕
で表される少なくとも1種類の化合物を施用することを含む、方法。
【請求項2】
Rが、水素、フェニルチオ、2−カルボキシフェニル、4−カルボキシフェニル、3−クロロフェニル、3,4−ジクロロフェニル、2,5−ジクロロフェニル、3−カルボキシ−4−クロロフェニル、2−ニトロフェニル及び2−ブロモ−4−ニトロフェニルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Rが4−カルボキシフェニルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記防除が、ウイルスに対する植物の自然防御機構を刺激することに基づく、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ウイルスに対する植物の前記自然防御機構が、RNA−サイレンシングに基づく植物の防御機構である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が予防的な方法である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物が、ワタ、アマ、ブドウの木、果実、野菜、作物植物、庭園及び樹木の茂った地域に関する観賞植物並びにこれら植物のそれぞれの遺伝子組み換えが行われた品種からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記植物が、リベシオイダエ科各種(Ribesioidae sp.)、クルミ科各種(Juglandaceae sp.)、カバノキ科各種(Betulaceae sp.)、ウルシ科各種(Anacardiaceae sp.)、ブナ科各種(Fagaceae sp.)、クワ科各種(Moraceae sp.)、モクセイ科各種(Oleaceae sp.)、マタタビ科各種(Actinidaceae sp.)、クスノキ科各種(Lauraceae sp.)、バショウ科各種(Musaceae sp.)、アカネ科各種(Rubiaceae sp.)、ツバキ科各種(Theaceae sp.)、アオギリ科各種(Sterculiceae sp.)、ミカン科各種(Rutaceae sp.);ナス科各種(Solanaceae sp.)、ユリ科各種(Liliaceae sp.)、キク科各種(Asteraceae sp.)、セリ科各種(Umbelliferae sp.)、アブラナ科各種(Cruciferae sp.)、アカザ科各種(Chenopodiaceae sp.)、ウリ科各種(Cucurbitaceae sp.)、ネギ科各種(Alliaceae sp.)、マメ科各種(Papilionaceae sp.)、キク科各種(Asteraceae sp.)、アブラナ科各種(Brassicaceae sp.)、マメ科各種(Fabacae sp.)、マメ科各種(Papilionaceae sp.)、ナス科各種(Solanaceae sp.)及びアカザ科各種(Chenopodiaceae sp.)からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ウイルスが、以下の科又は属からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法: カリモウイルス科(Caulimoviridae)、ジェミニウイルス科(Geminiviridae)、ブロモウイルス科(Bromoviridae)、クロステロウイルス科(Closteroviridae)、コモウイルス科(Comoviridae)、ポティウイルス科(Potyviridae)、セキウイルス科(Sequiviridae)、トンブスウイルス科(Tombusviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、パルティティウイルス科(Partitiviridae)、レオウイルス科(Rheoviridae)、カピロウイルス属(Capillovirus)、カーラウイルス属(Carlavirus)、エナモウイルス属(Enamovirus)、フロウイルス属(Furovirus)、ホルデイウイルス属(Hordeivirus)、イダエオウイルス属(Idaeovirus)、ルテオウイルス属(Luteovirus)、マラフィウイルス属(Marafivirus)、ポテクスウイルス属(Potexvirus)、ソベモウイルス属(Sobemovirus)、テヌイウイルス属(Tenuivirus)、トバモウイルス属(Tobamovirus)、トブラウイルス属(Tobravirus)、トリコウイルス属(Trichovirus)、ティモウイルス属(Tymovirus)、及び、ウンブラウイルス属(Umbravirus)。
【請求項10】
前記ウイルスが、カブモザイクウイルス(turnip mosaic virus)、豆鞘斑紋ウイルス(bean pod mottle virus)、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)、タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus)、トマトブッシースタントウイルス(tomato bushy stunt virus)、イネラギッドスタントウイルス(rice ragged stunt virus)、キュウリモザイクウイルス(cucumber mosaic virus)、オオムギ黄萎ウイルス(barley yellow dwarf virus)、ビート萎黄ウイルス(beet yellows virus)、レタス萎黄ウイルス(lettuce yellows virus)、トウモロコシモザイクウイルス(maise mosaic virus)、ラッカセイ矮化ウイルス(peanut stunt virus)、及び、ジャガイモYウイルス(potato virus Y)からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
式(I)で表される化合物を、前記植物に散布することによって施用する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
式(I)で表される化合物を、前記植物に0.01〜5kg/haの範囲内の量で施用する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ウイルスに対する植物の自然防御機構を刺激するための、請求項1、2又は3で定義される式(I)で表される化合物の使用。
【請求項14】
植物のRNAサイレンシングに基づく防御機構を刺激するための、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
RNAi構築物で形質転換された遺伝子組換え植物おいて、農学的形質を改善するための、及び/又は、病原体、昆虫、害虫に対する抵抗性をもたらすための、及び/又は、ストレス耐性をもたらすための、請求項1、2又は3で定義されている式(I)で表される化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物におけるウイルス感染を防除するためにウイルスに対する植物の自然防御機構を刺激するための活性物質の使用、及び、植物におけるウイルス感染を防除する方法に関する。本発明は、さらにまた、ウイルスに対する植物のRNA干渉に基づく自然防御機構(本明細書中においては、RNAサイレンシングに基づく自然防御機構とも称される)を活性化させるための活性物質の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
植物ウイルスは、世界中で、主要な作物被害に関与している。実際、ウイルスの一部の科(例えば、ポティウイルス科(Potyviridae))は、先進国及び発展途上国の両方において重大な収量損失を引き起こし、増え続ける食物需要と対立している。ウイルスの感染及び蔓延を制限するために、治療的処置は有効ではないか又はあまり有効ではないので、病害管理は、主に、予防によって実施されている。
【0003】
植物ウイルスを防除する試みに関して、数種類の化合物が確認されている。
【0004】
WO2011/030816においては、特定の植物ウイルスを防除するために特定のアスコルビン酸誘導体を使用することが教示されている。
【0005】
WO2012/016048は、アジドで修飾された生体分子の抗ウイルス薬(これは、植物ウイルスに対するものを包含する)としての使用を提供している。
【0006】
WO2014/050894においては、植物ウイルスを防除するために別のアスコルビン酸関連化合物を使用することが教示されている。
【0007】
植物は、自身の利用可能な資源を使用し、そして、成長又は生物的な脅威及び非生物的な脅威に対する防御の間でバランスを取って、脅威に対して継続的に立ち向かうように進化してきた。RNAサイレンシングは、このバランスにおいて、発生プログラムと、転写遺伝子サイレンシング(TGS)及び転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を介した遺伝子発現の変化に対する環境ストレス反応を動的にリンクさせることによって、主要な役割を果たしている。植物の病害抵抗性は、予め形成されたバリヤー、毒性の二次代謝産物及び誘導性の防御機構に頼っている。植物は、病原体を認識すると、多くの場合、過敏感反応を惹起し、それによって、感染部位における細胞死を引き起こして、病原体が拡散するのを防止する。加えて、病原体を検出すると、その植物の一次感染部位から離れた部分において、さまざまな誘導性の全身防御を引き起こす。このプロセスは、全身獲得抵抗性(SAR)として知られており、多くの植物種において有効である。獲得された抵抗性は、長期間持続し、そして、広範囲の病原体(例えば、菌類、細菌類及びウイルス類)によるその後の感染に対して効果を示す。
【0008】
ストロビルリン類の殺菌剤は、広いスペクトルを有するさまざまな合成植物保護化合物を包含している。2002年に、ストロビルリン「ピラクロストロビン」は、タバコモザイクウイルス(TMV)又は野火病の病原体であるプセウドモナス・シリンガエ pv.タバシ(Pseudomonas syringae pv tabaci)による感染に対するタバコの抵抗性を増強することが実証された(Herms et al., Plant Physiology 2002, 130: 120−127)。ピラクロストロビンは、充分な量の内因性サリチル酸を蓄積することができないNahGトランスジェニックタバコ植物においてTMV抵抗性を増強させることも可能であった。ピラクロストロビンは、SAシグナル機構におけるサリチル酸(SA)の下流に作用することによって、又は、SAとは関係なく機能することによって、タバコにおけるTMV抵抗性を増強させる。後者の仮定の方が、より可能性がありそうである。というのも、ピラクロストロビンが浸潤している葉において、ピラクロストロビンがSA−誘導性病害抵抗性に関する慣習的な分子マーカーとして頻繁に使用されるSA−誘導性病原体−関連(PR)1タンパク質の蓄積を引き起こさないからである。ストロビルリンの施用に関しては、単独での施用(WO 01/82701)又はメチラムとの混合での使用(WO 2007/104669)が記載されている。
【0009】
植物ウイルスに対する植物防御反応の中で、抗ウイルスRNAサイレンシング経路は、広範囲のウイルスの局所的な蓄積及び全身的な蓄積の両方に作用する最も一般的な防御システムである。RNAサイレンシングは、外因性の核酸(これは、ウイルス及び転移因子を包含する)に対して植物宿主細胞を直接防御する機構である。この防御は、侵入核酸(invasive nucleic acid)の増幅に由来する二本鎖RNA(dsRNA)によって誘発され、その二本鎖RNAは、宿主によって加工されて20〜24ヌクレオチド(nt)のサイズを有する低分子干渉RNA(siRNAs)になる。次いで、これらのsiRNAsを用いて、それぞれPTGS又はTGSを介して、ウイルス又は転移因子のRNAのサイレンシング又はDNAのサイレンシングを誘導する。
【0010】
RNAサイレンシングは、強力な抗ウイルス機構であり、ウイルスの二本鎖RNA複製中間体に由来する酵素Dicerによって加工された低分子干渉siRNAがARGONAUTEエフェクタータンパク質の中にロードされ、そして、侵入者のRNAゲノムに逆戻りしてそのRNAゲノムの分解を引き起こす。この生来の免疫応答は、単独で構造的特徴及びヌクレオチド−配列ゲノム特徴によってプログラムされており、実質的に全ての植物ウイルスに対して反応し得るので、著しく用途が広い(Shimura et al., 2011, Biochimica et Biophysica Acta 1809: 601−612)。
【0011】
植物の防御におけるRNAサイレンシングの重要性を実証するものとして、siRNAの産生又は活性が損なわれている植物は植物ウイルスに対して感受性が高く、そして、逆に、多くのウイルスが病原性を維持するためにRNAiのサプレッサーを進化させた(Voinnet O. et al, Nature Review Microbiology 2013 Nov; 11(11): 745−60)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2011/030816号
【特許文献2】国際公開第2012/016048号
【特許文献3】国際公開第2014/050894号
【特許文献4】国際公開第01/82701号
【特許文献5】国際公開第2007/104669号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Herms et al., Plant Physiology 2002, 130: 120−127
【非特許文献2】Shimura et al., 2011, Biochimica et Biophysica Acta 1809: 601−612
【非特許文献3】Voinnet O. et al, Nature Review Microbiology 2013 Nov; 11(11): 745−60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
過去において、特定の化合物がウイルスに対する特定の植物防御機構の潜在的な誘発物質として確認されたが、結局のところ、植物におけるウイルス病を防除するために、ウイルスに対する植物の自然防御機構を刺激するのに適している活性物質、特に、ウイルスに対する植物の広範な非特異的RNAサイレンシングに基づく防御機構を刺激するのに適している活性物質を提供することが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
定義
用語「ハロゲン」は、本明細書中で使用される場合、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子又は臭素原子を意味する。
【0016】
用語「フェニルチオ」は、本明細書中で使用される場合、ラジカル基−S−フェニルを意味する。
【0017】
用語「カルボキシ」は、本明細書中で使用される場合、ラジカル基−COOHを意味する。
【0018】
用語「ニトロ」は、本明細書中で使用される場合、ラジカル基−NOを意味する。
【0019】
用語「活性物質」は、本明細書中で使用される場合、本明細書中に記載されている式(I)で表される化合物又はその任意の混合物を意味する。
【0020】
本明細書中に開示されている式(I)で表される化合物がウイルスに対する植物の自然防御機構を刺激するのに適しているということ、特に、ウイルスに対する植物のRNAサイレンシングに基づく防御機構を刺激するのに適しているということが見いだされた。従って、本明細書中に開示されている式(I)で表される化合物は、植物におけるウイルス病を防除するのに有用であり得る。用語「防除する(control)」又は「防除(controlling)」は、本明細書中で使用される場合、予防的防除又は治療的防除を示している。
【0021】
従って、本発明は、植物におけるウイルス病を防除する方法に関し、より特定的には、ウイルスに対する植物の自然防御機構を刺激する方法に関し、特に、ウイルスに対する植物のRNAサイレンシングに基づく防御機構を刺激する方法に関する。該方法は、その植物に、式(I):
【化1】
【0022】
〔式中、Rは、水素、フェニルチオ及び置換されているフェニルからなる群から選択され、ここで、該フェニルは、ハロゲン(好ましくは、塩素、フッ素及び臭素)、カルボキシ及びニトロからなる群から独立して選択される1以上の置換基で置換されている〕
で表される1種類以上の化合物を施用することを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、DMSOのみ又はソルチン1で処理してから7日後のSUC−SUL植物におけるSUL mRNA相対レベルのqPCR分析を図示しており、EXP10に対して規格化してある。エラーバーは、3回の独立した実験に基づいた標準偏差を表している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一部の実施形態では、該活性物質は、式(I)〔式中、Rは、水素、フェニルチオであるか、又は、ハロゲン(好ましくは、塩素、フッ素及び臭素)、カルボキシ及びニトロからなる群から独立して選択される1若しくは2の置換基で置換されているフェニルである〕で表される化合物である。
【0025】
一部の好ましい実施形態で、該活性物質は、式(I)〔式中、Rは、水素、フェニルチオ、2−カルボキシフェニル、4−カルボキシフェニル、3−クロロフェニル、3,4−ジクロロフェニル、2,5−ジクロロフェニル、3−カルボキシ−4−クロロフェニル、2−ニトロフェニル及び2−ブロモ−4−ニトロフェニルからなる群から選択される〕で表される化合物である。
【0026】
一部のさらに好ましい実施形態で、該活性物質は、式(I)〔式中、Rは、4−カルボキシフェニルである〕で表される化合物である。該化合物は、ソルチン1(Sortin 1)として知られている。
【0027】
ソルチン1は、酵母菌において分泌を刺激するソーティング阻害薬(sorting inhibitor)に属する。それは、シロイヌナズナ懸濁細胞内において植物カルボキシペプチダーゼY(CPY)及び別のタンパク質の液胞受容体(vacuolar destination)をリダイレクトし、それらタンパク質の分泌を引き起こすことが知られている。シロイヌナズナの実生全体を同様の処理に付しても同じ効果が得られるが、これは、該薬物が細胞と完全な植物において同様の作用機序を有しているということを示している(Zouhar et al., PNAS 2004, 101, 25:9497−9501)。シロイヌナズナにおいて、ソルチン1は、CPY液胞ターゲッティング、液胞バイオゲネシス及び根の発達に対して可逆的な作用を有している。ソルチン1は、液胞膜マーカーのターゲッティング及び液胞のバイオゲネシスへの作用において極めて特異的であるが、小胞体、ゴルジ体又はエンドソームには作用しない(Hicks et al., Current Opinion in Plant Biology 2010, 13:706−713)。
【0028】
式(I)で表される一部の化合物は、市販されている。別の一部の化合物は、WO2002085894、US20040082578、「“Multicomponent one−pot solvent−free synthesis of functionalized unsymmetrical dihydro−1H−indeno[1,2−b]pyridines”: Samai, Chandra Nandi, Kumar, Singh, Tetrahedron Lett. 2009, 50(50), 7096−7098」に開示されている方法によって適切に調製することができる。
【0029】
典型的には、有効量の活性物質を植物に施用する。植物に施用する活性物質の有効量は、活性物質の種類、製剤、対象の植物(植物の種類及び植物の部分)、施用方法、処理の目的(予防的、又は、治療的)及び標的のウイルスなどのさまざまな要因に依存する。植物に施用する量は、適切には、0.01〜5kg/haの範囲内であり得るか、又は、0.1〜3kg/haの範囲内であり得るか、又は、0.5〜2kg/haの範囲内であり得る。
【0030】
上記で示されているように、該活性物質は、植物に対して施用される。用語「植物」は、本明細書中で使用される場合、植物及び植物の部分(例えば、植物の地上部及び/又は地下部)、並びに、収穫物を包含する。植物の地下部としては、根、根茎、塊茎、吸枝、かき苗(slip)、種子(seeds)及び種子(seed)などがある。植物の地上部としては、茎(stem)、樹皮、苗条、葉、花、果実、子実体、柄(stalk)、針状葉及び枝などがある。かくして、該活性物質は、植物の根、根茎、塊茎、吸枝、かき苗(slip)、種子(seeds)、種子(seed)、茎(stem)、樹皮、苗条、葉、花、果実、子実体、柄(stalk)、針状葉、枝、収穫物に、効果的に施用することができる。代替え的な実施形態では、植物におけるウイルス病を防除する該方法は、開示されている活性物質を植物の生息環境及び/又は貯蔵場所に施用することを含んでいる。
【0031】
活性物質は、さまざまな植物に対して効果的に施用することができる。それは、市販されているか又は使用されている植物品種の植物に施用することができる。しかしながら、植物品種は、慣習的な育種によって、若しくは、突然変異誘発によって、若しくは、組換えDNA技術を用いて、品種改良された新しい形質を有する植物、及び/又は、慣習的な育種法と最適化法によって、若しくは、生物工学的方法と遺伝子工学的方法によって、若しくは、それら方法を組み合わせたものによって得ることが可能な植物(これには、トランスジェニック植物も包含され、また、植物育種家の権利によって保護され得る植物又は保護され得ない植物も包含される)を意味するものとも理解される。
【0032】
該活性物質は、遺伝子組換え生物(GMO)に対しても効果的に施用することができる。遺伝子組換え植物は、異種遺伝子がゲノムに安定的に組み込まれている植物である。表現「異種遺伝子」は、本質的に、供給されたか又は当該植物の外部で構築された遺伝子であって、核のゲノム、葉緑体のゲノム又はミトコンドリアのゲノムの中に導入されたときに、興味深いタンパク質若しくはポリペプチドを発現することにより、又は、その植物内に存在している別の1つ若しくは複数の遺伝子をダウンレギュレート若しくはサイレンシングすることにより、当該形質転換された植物に新しい又は改善された作物学的特性又は別の特性を付与する遺伝子を意味する〔例えば、アンチセンス技術、コサプレッション技術又はRNAi技術(RNA干渉)などを使用する〕。ゲノム内に位置している異種遺伝子は、導入遺伝子とも称される。植物ゲノム内におけるその特異的な位置によって定義される導入遺伝子は、形質転換イベント又は遺伝子導入イベントと称される。
【0033】
開示されている方法によって、特に有利で有益な形質を植物に付与する遺伝物質を有している全ての植物(育種によって得られたものであろうと、及び/又は、生物工学的方法によって得られたものであろうと)を処理することができる。
【0034】
本発明に従って同様に処理し得る植物及び植物品種は、1以上の非生物的ストレス因子に対して抵抗性を示す植物である。非生物的なストレス状態としては、例えば、渇水、冷状態及び熱状態、浸透ストレス、湛水、上昇した土壌中塩分濃度、より多くの鉱物に晒されること、オゾン条件、強光条件、利用可能な窒素養分が限られていること、利用可能なリン養分が限られていること又は日陰回避などを挙げることができる。
【0035】
本発明に従って同様に処理し得る植物及び植物品種は、増大した収量特性を特徴とする植物である。そのようなヤシ植物における増大した収量は、例えば、改善された植物の生理機能、改善された植物の生長及び改善された植物の発育、例えば、水の利用効率、水の保持効率、改善された窒素の利用性、強化された炭素同化作用、改善された光合成、上昇した発芽効率及び改変された成熟などの結果であり得る。収量は、さらに、改善された植物の構成(architecture)によっても影響され得る(ストレス条件下及び非ストレス条件下)。そのような改善された植物の構成としては、早咲き、ハイブリッド種子産生のための開花制御、実生の活力、植物の寸法、節間の数及び距離、根の成長、種子の寸法、果実の寸法、莢の寸法、莢又は穂の数、1つの莢又は穂当たりの種子の数、種子の質量、強化された種子充填、低減された種子分散、低減された莢の裂開及び耐倒伏性などがある。収量についてのさらなる形質としては、種子の組成、例えば、炭水化物の含有量、タンパク質含有量、油の含有量及び油の組成、栄養価、抗栄養化合物の低減、改善された加工性並びに向上した貯蔵安定性などがある。
【0036】
本発明に従って同様に処理し得る植物は、雑種強勢(これは、結果として、一般に、増加した収量、向上した活力、向上した健康状態並びに生物的及び非生物的ストレス因子に対する向上した抵抗性をもたらす)の特性を既に呈しているハイブリッド植物である。そのような植物は、典型的には、雄性不稔交配母体近交系(inbred male−sterile parent line)(雌性親)を別の雄性稔性交配母体近交系(inbred male−fertile parent line)(雄性親)と交雑させることによって生成させる。ハイブリッド種子は、典型的には、雄性不稔植物から収穫され、そして、栽培者に販売される。雄性不稔植物は、場合により(例えば、トウモロコシにおいて)、雄穂を除去することによって〔即ち、雄性繁殖器官又は雄花を機械的に除去することによって〕、作ることができる。しかしながら、より典型的には、雄性不稔性は、植物ゲノム内の遺伝的決定基の結果である。この場合、特に種子がハイブリッド植物から収穫される所望の生産物である場合、典型的には、雄性不稔性に関与する遺伝的決定基を含んでいるハイブリッド植物において雄性稔性を確実に完全に回復させることは有用である。これは、雄性不稔性に関与する遺伝的決定基を含んでいるハイブリッド植物において雄性稔性を回復させることが可能な適切な稔性回復遺伝子を雄性親が有していることを確実なものとすることによって達成することができる。雄性不稔性に関する遺伝的決定基は、細胞質内に見いだすことができる。細胞質雄性不稔(CMS)の例は、例えば、アブラナ属各種(Brassica species)に関して記述された(WO 1992/005251、WO 1995/009910、WO 1998/27806、WO 2005/002324、WO 2006/021972、及び、US 6,229,072)。しかしながら、雄性不稔性に関する遺伝的決定基は、核ゲノム内にも見いだすことができる。雄性不稔性植物は、遺伝子工学などの植物バイオテクノロジー法によっても得ることができる。雄性不稔性植物を生成させる特に有利な方法は、WO 89/10396に記載されており、ここでは、例えば、バルナーゼなどのリボヌクレアーゼを雄ずい内のタペータム細胞内において選択的に発現させる。次いで、タペータム細胞内においてバルスターなどのリボヌクレアーゼインヒビターを発現させることによって、稔性を回復させることができる(例えば、WO 1991/002069)。
【0037】
該活性物質は、以下の植物におけるウイルス病を防除するのに特に適している: ワタ、アマ、ブドウの木、果実、野菜、例えば、バラ科各種(Rosaceae sp.)(例えば、仁果、例えば、リンゴ及びナシ、さらに、核果、例えば、アンズ、サクラの木、アーモンド及びモモ、並びに、小果樹、例えば、イチゴ)、リベシオイダエ科各種(Ribesioidae sp.)、クルミ科各種(Juglandaceae sp.)、カバノキ科各種(Betulaceae sp.)、ウルシ科各種(Anacardiaceae sp.)、ブナ科各種(Fagaceae sp.)、クワ科各種(Moraceae sp.)、モクセイ科各種(Oleaceae sp.)、マタタビ科各種(Actinidaceae sp.)、クスノキ科各種(Lauraceae sp.)、バショウ科各種(Musaceae sp.)(例えば、バナナの木及びプランテーション)、アカネ科各種(Rubiaceae sp.)(例えば、コーヒー)、ツバキ科各種(Theaceae sp.)、アオギリ科各種(Sterculiceae sp.)、ミカン科各種(Rutaceae sp.)(例えば、レモン、オレンジ及びグレープフルーツ);ナス科各種(Solanaceae sp.)(例えば、トマト)、ユリ科各種(Liliaceae sp.)、キク科各種(Asteraceae sp.)(例えば、レタス)、セリ科各種(Umbelliferae sp.)、アブラナ科各種(Cruciferae sp.)、アカザ科各種(Chenopodiaceae sp.)、ウリ科各種(Cucurbitaceae sp.)(例えば、キュウリ)、ネギ科各種(Alliaceae sp.)(例えば、リーキ、タマネギ)、マメ科各種(Papilionaceae sp.)(例えば、エンドウ); 主要作物植物、例えば、イネ科各種(Gramineae sp.)(例えば、トウモロコシ、芝、禾穀類、例えば、コムギ、ライムギ、イネ、オオムギ、エンバク、アワ及びライコムギ)、キク科各種(Asteraceae sp.)(例えば、ヒマワリ)、アブラナ科各種(Brassicaceae sp.)(例えば、白キャベツ、赤キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、タイサイ、コールラビ、ラディッシュ、ナタネ、カラシナ、セイヨウワサビ、及び、コショウソウ)、マメ科各種(Fabacae sp.)(例えば、インゲンマメ、ピーナッツ)、マメ科各種(Papilionaceae sp.)(例えば、ダイズ)、ナス科各種(Solanaceae sp.)(例えば、ジャガイモ)、アカザ科各種(Chenopodiaceae sp.)(例えば、テンサイ、飼料ビート、フダンソウ、ビートルート); 庭園及び樹木の茂った地域に関して有用な植物及び観賞植物;及び、これら植物のそれぞれの遺伝子組み換えが行われた品種。
【0038】
より特定的には、該活性物質は、野菜植物におけるウイルス病を防除するのに適している。
【0039】
該活性物質は、以下の科又は属のウイルスを防除するのに特に適している: カリモウイルス科(Caulimoviridae)、ジェミニウイルス科(Geminiviridae)、ブロモウイルス科(Bromoviridae)、クロステロウイルス科(Closteroviridae)、コモウイルス科(Comoviridae)、ポティウイルス科(Potyviridae)、セキウイルス科(Sequiviridae)、トンブスウイルス科(Tombusviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、パルティティウイルス科(Partitiviridae)、レオウイルス科(Rheoviridae)、カピロウイルス属(Capillovirus)、カーラウイルス属(Carlavirus)、エナモウイルス属(Enamovirus)、フロウイルス属(Furovirus)、ホルデイウイルス属(Hordeivirus)、イダエオウイルス属(Idaeovirus)、ルテオウイルス属(Luteovirus)、マラフィウイルス属(Marafivirus)、ポテクスウイルス属(Potexvirus)、ソベモウイルス属(Sobemovirus)、テヌイウイルス属(Tenuivirus)、トバモウイルス属(Tobamovirus)、トブラウイルス属(Tobravirus)、トリコウイルス属(Trichovirus)、ティモウイルス属(Tymovirus)、及び、ウンブラウイルス属(Umbravirus)。
【0040】
好ましくは、該活性物質は、以下の種のウイルスを防除するために使用する: カブモザイクウイルス(turnip mosaic virus)、豆鞘斑紋ウイルス(bean pod mottle virus)、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)、タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus)、トマトブッシースタントウイルス(tomato bushy stunt virus)、イネラギッドスタントウイルス(rice ragged stunt virus)、キュウリモザイクウイルス(cucumber mosaic virus)、オオムギ黄萎ウイルス(barley yellow dwarf virus)、ビート萎黄ウイルス(beet yellows virus)、レタス萎黄ウイルス(lettuce yellows virus)、トウモロコシモザイクウイルス(maize mosaic virus)、ラッカセイ矮化ウイルス(peanut stunt virus)、及び、ジャガイモYウイルス(potato virus Y)。
【0041】
該活性物質は、上記植物に対して、任意の適切な形態で施用することができる。例えば、該活性物質は、懸濁液剤(例えば、水性懸濁液剤又は油性懸濁液剤)、エマルション剤、溶液剤、粉末剤(例えば、水和剤)、泡剤(foam)、ペースト剤、顆粒剤、微粒子剤(microparticles)、エーロゾル剤又はマイクロカプセル化したもの(microencapsulations)などの形態で施用することができる。適切な製剤は、慣習的な方法で調製することができる。該活性物質を含んでいる製剤は、即時使用可能な(ready−for−use)組成物、即ち、適切な装置によって植物に直接施用することが可能な組成物であることができるか、又は、それらは、使用に先立って希釈することが必要な商業用濃厚物の形態であることができる。
【0042】
該製剤は、該活性物質を単独で含んでいることができるか、又は、殺虫剤、誘引剤、不妊剤、殺細菌剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、さらなる殺菌剤、成長調節物質、除草剤、薬害軽減剤及び/又は肥料などの別の活性物質と組み合わせて含んでいることができる。
【0043】
該活性物質又はそれを含んでいる製剤は、植物に対して、任意の慣習的な方法(例えば、潅水、散布、散粉、噴霧)で施用することができる。該活性物質は、該植物、その周囲、その生息環境及び/又はその貯蔵場所に、直接的に又は間接的に施用することができる。例えば、該活性物質は、樹皮の中若しくは樹皮の下に注入することができ、該植物の周囲の地面(土壌、砂質土壌、礫質土壌、岩混り土、ローム質土壌又は混合土壌)の上に注ぐか若しくは散布することができる。施用のさらなるタイプは、該植物又はその植物の部分への散布である。乾燥形態において、該活性物質組成物は、地面材(土壌、砂質土壌、礫質土壌、岩混り土、ローム質土壌又は混合土壌)と混合させることができるか、及び/又は、種子と混合させることができる。該活性物質は、乾燥形態又は液体形態で、潅漑システムに施用することができる。該活性物質は、好ましくは、散布によって植物に施用する。
【0044】
本発明は、さらに、植物におけるウイルス病を防除するための、より特定的には、ウイルスに対する植物の自然防御機構を刺激するための、特に、ウイルスに対する植物のRNAサイレンシングに基づく防御機構を刺激するための、本明細書中で開示されている式(I)で表される化合物の使用にも関する。該植物及び/又はウイルスは、上記で開示されているとおりである。
【0045】
式(I)で表される化合物は、該植物のRNAサイレンシングに基づく防御機構を、低分子RNAの産生を増加させることによって刺激する。有利には、低分子RNAの産生を増加させる式(I)で表される化合物の能力は、農学的形質を改善するように並びに/又は病原体(例えば、細菌類、菌類)に対する抵抗性、昆虫/害虫に対する抵抗性及び/若しくはストレス耐性をもたらすようにデザインされたRNAi構築物で形質転換された遺伝子組換え植物においても使用することができる。従って、本発明は、RNAi構築物で形質転換された遺伝子組換え植物おいて、低分子RNAの産生を増大させることによって農学的形質を改善するための並びに/又は病原体に対する抵抗性、昆虫/害虫に対する抵抗性及び/若しくはストレス耐性をもたらすための、式(I)で表される1種類以上の化合物の使用にも関する。
【0046】
既に記載したように、植物は、侵入してくるウイルスに対して防衛するためにRNAサイレンシング経路を使用することが知られている。哺乳動物においては、Y.Liら及びP.V.Maillardら(Y. Li et al., Science, 342: 231−234, 2013 ; P. V. Maillard et al., Science, 342: 235−238, 2013)の最近の発見まで、科学者は、RNAiが有する遺伝子を調節する役割のみしか立証することができなかった。現在は、Y.Liら及びP.V.Maillardらによって、RNAiが哺乳動物において抗ウイルス応答としても作用するということが立証されている。従って、式(I)で表される化合物は、ウイルスに対する哺乳動物の自然防御機構を刺激するために使用することが可能であり、特に、ウイルスに対する哺乳動物のRNAサイレンシングに基づく防御機構を刺激するために使用することが可能である。
【0047】
従って、本発明は、薬物として使用するための、特に、ウイルス感染の治療又は予防において使用するための、本明細書中で開示されている式(I)で表される化合物にも関する。
【0048】
本明細書中で開示されている式(I)で表される化合物は、哺乳動物におけるウイルス感染を治療又は予防する方法において使用することができ、ここで、該方法は、そのような治療又は予防を必要とする哺乳動物に有効量の本明細書中で開示されている式(I)で表される化合物を投与することを含む。用語「哺乳動物」は、本明細書中で使用される場合、ヒトを包含する。
【0049】
以下の実施例を用いて、本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0050】
実施例
実施例1: 植物のサイレンシング機構のモジュレーターの確認 − SUC−SULレポーター植物の使用
植物のRNAサイレンシング経路は、「SUC−SULシロイヌナズナレポーター植物」と称される人工的に作成されたレポーター植物を用いて容易にモニターすることができる(Dunoyer et al., Nat. Genet. 37, 1356−1360, 2005)。
【0051】
該SUC−SULシロイヌナズナレポーター植物は、SUC2プロモーターの制御下において脈管構造内のSULPHUR(SUL)転写産物を標的とするようにデザインされた逆向き反復(IR)二本鎖RNAを発現するトランスジェニック植物である(Truernit et al., Planta 196(3), 564−570, 1995)。ひとたび発現されれば、該dsRNAは、SULPHUR転写産物の非細胞自立性転写後遺伝子サイレンシング(non−cell autonomous post−transcriptional gene silencing)を指向する低分子干渉RNAへと加工され、それが、葉脈を中心とした白化を引き起こす。観察された白化はSULPHUR転写産物のサイレンシングに起因するので、該白化の拡大(これは、その植物上で直接観察可能である)は、分子レベルにおけるRNAサイレンシング経路の強化と相間している。
【0052】
発芽の5日後、シロイヌナズナ(A.thaliana)実生に、ジメチルスルホキシド(DMSO)5%と一緒に300ppmの本発明による活性分子を含んでいる種々の溶液及び標準的な乳剤(EC)プレミックス製剤を散布した(6実生/試験)。各分子に対して4反復で実施した。対照植物は、DMSOのみで処理した(偽処理植物)。該SUC−SULレポーター植物に対する上記処理の効果について、処理の14日後に、トランスイルミネーション下で評価し、立体顕微鏡を用いて白化領域の表面及び強度(白化の割合(%))を測定することによって、デジタルで記録した。各分子に対する白化の平均割合(%)を評価するために、2つの独立した実験を実施した。
【0053】
結果は、下記表1に示してある。300ppmのソルチン1及びその類似物で処理することによって、白化の割合(%)が著しく増大した。このことは、RNAサイレンシングの推定上の強力なエンハンサーとしての該活性物質の活性を裏付けるものである。
【0054】
プロモーターに対してストレートに作用し、RNAサイレンシング機構には作用しない分子を棄却するために、白化領域の表面及び強度を増大させる能力に関して確認された該活性物質を、次に、第2段階において、幾つかのAtSUC2−GFPレポーター植物(これは、SUC2プロモーターの活性について特異的にレポートする)に対して試験した(Wright et al., Plant Physiol. 131, 1555−1565, 2003)。
【表1】
【0055】
実施例2: サイレンシングモジュレーターの分子効果の確認
RNAi機構に対するソルチン1の増強効果について、表現型レベル及び分子レベルで確認した。ロゼット段階にある4週齢のSUC−SULシロイヌナズナ植物に、200ppmのソルチン1を散布した。処理の7日後に、ソルチン1によってRNAiに依存する葉脈を中心とした白化の表現型の明らかな拡大が引き起こされたことが示されたが、これは、DMSO単独(偽対照)では観察されなかった。
【0056】
該植物の地上部の組織を採取し、最新の方法を用いて分子的に分析した。該白化の視覚的な拡大は、リアルタイムqRT−PCRで分析した場合にSUL転写産物レベルの低減と相間し(図1)、及び、ウエスタンブロット分析で定量化可能なSULタンパク質レベルの低減と相関した。さらに、これらの効果は、トランスジェニックSULに由来する21−nt長鎖siRNA及び24−nt長鎖siRNAの両方の過剰蓄積とも関連していた。概していえば、これらのデータは、ソルチン1が植物のRNAi経路を誘発するということを支持している。
図1