特許第6853368号(P6853368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東工器株式会社の特許一覧

特許6853368電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法
<>
  • 特許6853368-電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法 図000002
  • 特許6853368-電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法 図000003
  • 特許6853368-電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法 図000004
  • 特許6853368-電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法 図000005
  • 特許6853368-電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法 図000006
  • 特許6853368-電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法 図000007
  • 特許6853368-電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853368
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】電動工具並びに電動工具の制御回路及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   B25F5/00 C
   B25F5/00 G
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-536996(P2019-536996)
(86)(22)【出願日】2018年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2018043745
(87)【国際公開番号】WO2019124007
(87)【国際公開日】20190627
【審査請求日】2019年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2017-241726(P2017-241726)
(32)【優先日】2017年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】荒井 彰太
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/163304(WO,A1)
【文献】 特開2008−092622(JP,A)
【文献】 特開2017−217731(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/052825(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
H02P 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、該電動モータの回転を検出して回転検出信号を送信する回転検出手段と、該電動モータの制御に関する設定データが保存される情報記憶手段とを備える電動工具のための制御回路であって、
当該制御回路に電圧が印加されて当該制御回路が起動したときに、該回転検出信号に基づいて該電動モータの回転の有無を判断し、該電動モータが回転していると判断した場合には該情報記憶手段にアクセスしないようにする、制御回路。
【請求項2】
該電動モータの回転が停止している時間が所定の基準時間以上となったと判断したときに該情報記憶手段へのアクセスを許可するようにされた、請求項1に記載の制御回路。
【請求項3】
該停止している時間が該基準時間以上となったときに該情報記憶手段にアクセスして該設定データを読み込み、該読み込んだ設定データに基づいて該電動工具の制御条件を設定するようにされた、請求項2に記載の制御回路。
【請求項4】
該情報記憶手段へのアクセスが一旦許可されると、その後は該電動モータの回転の有無に拘わらず該情報記憶手段へのアクセスが許可された状態が維持されるようにされた、請求項2又は3に記載の制御回路。
【請求項5】
該情報記憶手段が、読み込み及び書き込みが可能なメモリである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の制御回路。
【請求項6】
電動モータと、
該電動モータの回転を検出して回転検出信号を送信する回転検出手段と、
該電動モータの制御に関する設定データが保存される情報記憶手段と、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の制御回路と、
を備える、電動工具。
【請求項7】
電動モータと、該電動モータの回転を検出して回転検出信号を送信する回転検出手段と、該電動モータの制御に関する設定データが保存された情報記憶手段と、制御回路とを備える電動工具の制御方法であって、
該制御回路に電圧が印加されて当該制御回路が起動したときに、該回転検出手段によって該電動モータの回転を検出するステップと、
該電動モータの回転を検出するステップにおいて該電動モータが回転していると判断した場合には、該情報記憶手段にアクセスしないようにするステップと、
を含む制御方法。
【請求項8】
該電動モータの回転が停止している時間をカウントするステップと、
該停止している時間が該基準時間以上となったときに該情報記憶手段にアクセスして該設定データを読み込むステップと、
該読み込んだ設定データに基づいて該電動工具の制御条件を設定するステップと、
該設定するステップの後は、該電動モータの回転の有無に拘わらず、該情報記憶手段へのアクセスが許可された状態とするステップと、
を含む請求項7に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを備える電動工具のための制御回路、及び電動工具の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、電動モータによってドライバビットを回転駆動してねじ締め作業を行なうようにした電動ドライバが開示されている。このような電動ドライバにおいては、通常、ねじの種類やねじが締め付けられる部材に合せて締め付けトルクや締め付け時間などの設定をユーザが変更できるようになっている。そのため電動ドライバには、設定データを記録しておくための情報記憶手段が設けられている。この情報記憶手段は、多くの場合、読み込み及び書き込みが可能な半導体メモリにより構成されている。電動ドライバを外部電源に接続して電動ドライバの制御回路に電圧が印加されると、制御回路が自動的に起動し、電動ドライバの初期化および設定データに基づく電動ドライバの制御条件の設定が行なわれる。このような初期設定が完了すると、ユーザの操作に従ってねじ締め作業を実行することが可能な状態となる。
【0003】
上述の電動ドライバのような電動モータを備える電動工具においては、外部電源に接続していない状態であっても、外力により電動モータが回転されると逆起電力が発生して、制御回路に電圧が印加される。これにより制御回路を起動させるのに十分な大きさの電圧が制御回路に印加されると、制御回路が起動して電動工具の初期化や制御条件の設定が行なわれてしまうことがある。電動モータの逆起電力は不安定でありまた一時的に生じるものであるため、逆起電力による制御回路への電力供給は安定しない。そのため、通常は制御回路は一旦起動してもすぐに停止することになる。したがって、逆起電力により制御回路が起動すると、設定データが記録されているメモリなどの情報記憶手段にアクセスしている最中に制御回路が停止することがある。このようにしてメモリへのアクセス中に突然制御回路が停止すると、情報記憶手段に保存されている設定データ等のデータが破損する虞がある。
【0004】
このようなデータの破損を防止するために、電動モータと制御回路との間にダイオードを配置して電動モータの逆起電力に伴う電流が制御回路には流れないようにし、逆起電力により制御回路が起動しないようにすることも行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/170648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば上述のような電動ドライバにおいては、ねじの締め付けトルクは電動モータに流れる電流の大きさにおよそ比例するため、締付トルクを大きくしようとすると電動モータには大電流が流れることになる。逆起電力が制御回路に印加されないようにするためのダイオードは、このような大電流に耐えられる大容量のものである必要があるが、そのようなダイオードの入手は困難であるか、又は入手できたとしても大きなサイズものとなってしまい電動ドライバ自体を大きくしなければならなくなってしまう。
【0007】
そこで本発明は、ダイオードなどの電流制御回路素子を追加で利用することなく、電動モータによる生じる逆起電力に起因して情報記憶手段に保存されたデータが破損することを防止することが可能となる、電動工具のための制御回路を提供することを目的とする。また、そのような制御回路を備える電動工具、及びデータの破損を防止することが可能となる電動工具の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
電動モータと、該電動モータの回転を検出して回転検出信号を送信する回転検出手段と、該電動モータの制御に関する設定データが保存される情報記憶手段とを備える電動工具のための制御回路であって、
当該制御回路に電圧が印加されたときに、該回転検出信号に基づいて該電動モータの回転の有無を判断し、該電動モータが回転しているときには該情報記憶手段にアクセスしないようにする、制御回路を提供する。
【0009】
当該制御回路においては、制御回路に電圧が印加されたときに電動モータが回転している場合には、情報記憶手段にアクセスしないようになっている。制御回路に電圧が印加された時点で電動モータが回転しているときは、電動モータが外力により回転されて逆起電力が発生し、この逆起電力によって制御回路に電圧が印加されて該制御回路が起動している可能性が高い。当該制御回路においては逆起電力により制御回路が起動している可能性が高いときには情報記憶手段にアクセスしないようになる。これにより、電動モータの逆起電力によって一時的に起動して制御回路が情報記憶手段にアクセスしている最中に制御回路が停止することによって情報記憶手段に保存されている設定データ等のデータが破損することを防止することが可能となる。
【0010】
好ましくは、該電動モータの回転が停止している時間が所定の基準時間以上となったと判断したときに該情報記憶手段へのアクセスを許可するようにすることができる。
【0011】
このようにすることによって、電動モータの回転が停止している状態をより確実に検知して、より安全な状態でのみ情報記憶手段にアクセスするようにすることが可能となる。回転検出手段としては、ホールセンサやエンコーダなどの種々のものが考えられるが、中には電動モータの回転軸が所定の回転位置を通過したときにだけ信号を発するものもある。そのような手段を利用した場合には、電動モータの回転を示す信号はパルス的にしか送信されず、よって電動モータが回転していても制御回路が該信号を受信しない時間が生じることになる。上述の構成によれば、このような場合でも電動モータの回転停止をより正確に判断して、電動モータが回転中であるにも関わらず電動モータが停止していると誤って判断して情報記憶手段にアクセスしてしまうことをより確実に防止することが可能となる。
【0012】
好ましくは、該停止している時間が該基準時間以上となったときに該情報記憶手段にアクセスして該設定データを読み込み、該読み込んだ設定データに基づいて該電動工具の制御条件を設定するようにすることができる。
【0013】
また、該情報記憶手段へのアクセスが一旦許可されると、その後は該電動モータの回転の有無に拘わらず該情報記憶手段へのアクセスが許可された状態が維持されるようにすることができる。
【0014】
具体的には、該情報記憶手段が、読み込み及び書き込みが可能なメモリであるようにすることができる。
【0015】
本発明はさらに、
電動モータと、
該電動モータの回転を検出して回転検出信号を送信する回転検出手段と、
該電動モータの制御に関する設定データが保存される情報記憶手段と、
上述のいずれかの制御回路と、
を備える、電動工具を提供する。
【0016】
本発明はさらに、
電動モータと、該電動モータの回転を検出して回転検出信号を送信する回転検出手段と、該電動モータの制御に関する設定データが保存された情報記憶手段と、制御回路とを備える電動工具の制御方法であって、
該制御回路に電圧が印加されたときに、該回転検出手段によって該電動モータの回転を検出するステップと、
該電動モータが回転しているときには、該情報記憶手段にアクセスしないようにするステップと、
を含む制御方法を提供する。
【0017】
当該方法においてはさらに、
該電動モータの回転が停止している時間をカウントするステップと、
該停止している時間が該基準時間以上となったときに該情報記憶手段にアクセスして該設定データを読み込むステップと、
該読み込んだ設定データに基づいて該電動工具の制御条件を設定するステップと、
該設定するステップの後は、該電動モータの回転の有無に拘わらず、該情報記憶手段へのアクセスが許可された状態とするステップと、
を含むようにすることができる。
【0018】
以下、本発明に係る電動工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動ドライバの外観図である。
図2図1の電動ドライバの機能ブロック図である。
図3】回転検出手段の別の実施形態を示す図である。
図4図1の電動ドライバにおける起動時の動作を示すフローチャートである。
図5】本発明の第2の実施形態に係る電動ドライバの外観図である。
図6図5の電動ドライバの機能ブロック図である。
図7図5の電動ドライバにおける起動時の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施形態に係る電動ドライバ(電動工具)100は、図1及び図2に示すように、工具ハウジング110と、工具ハウジング110に内蔵された電動モータ112と、電動モータ112によって回転駆動されるビットホルダ114とを備える。ビットホルダ114には、対象となるねじに合せて適宜選択されたドライバビット116が取外し可能に取り付けられる。工具ハウジング110には、表示部118及び入力ボタン120を有する入力インターフェース122と、当該電動ドライバ100を外部電源123に接続するための電源コード124とが設けられている。工具ハウジング110内にはさらに、電動モータ112の駆動を制御するためのモータ駆動回路126と、当該電動ドライバ100全体の制御を行うための制御回路128と、電動モータ112のロータの回転位置を検出するホールセンサ130と、設定データが保存されている読み込み及び書き込みが可能な不揮発性の半導体メモリ(情報記憶手段)132と、が設けられている。さらに図には示していないが、製造段階で予め制御プログラムが格納されるプログラム用メモリや、制御回路128が制御プログラムを実行する際に利用するデータメモリ及びレジスタメモリも有している。プログラム用メモリは、プログラムの更新などの特別な状況を除いて、読み込み専用のメモリとして使用され、ユーザによってデータが書き込まれたり消去されたりすることは基本的にはない。データメモリ及びレジスタメモリは、制御プログラムの実行中にのみ使用され、電源停止とともに内部データが消去される揮発性のメモリである。
【0021】
ここで「設定データ」とは、主として電動モータ112の制御に関する設定を行うためのデータであり、例えば、ねじ締め作業の際の設定トルク、電動モータ112の回転時間、締付を行なうねじの本数、正常にねじ締め作業が完了したと判断するときの合格基準、などを設定するためのデータである。設定データは、入力インターフェース122を操作したり、又はパソコンなどの外部装置からデータを送信したりすることにより、ユーザが任意に変更することができる。変更された設定データはメモリ132に書き込まれて保存される。
【0022】
ホールセンサ130は、電動モータ112のステータ側に固定されていて、ロータに設けられた磁石によって生じる磁界を検知することにより、ロータの回転位置を検出する。ホールセンサ130により検出されたロータの回転位置に基づいてステータの各コイルに対する通電タイミングが制御され、これによりロータが円滑に回転するようになる。また当該電動ドライバ100においては、制御回路128が、ホールセンサ130から送信される出力信号を受信して、この出力信号に基づいて電動モータ112の回転の有無を判断するようにもなっている。すなわち、ホールセンサ130は電動モータ112の回転を検出するための回転検出手段としても機能する。制御回路128は、出力信号(回転検出信号)に変化がない場合には電動モータ112の回転が停止していると判断し、出力信号に変化がある場合には電動モータ112が回転していると判断する。
【0023】
電動モータ112の回転を検出するための回転検出手段として、ホールセンサ130以外の任意のものを使用することができる。例えば図3には、電動モータ112の各コイルにつながる各配線134に抵抗素子136を接続した実施形態が示されている。この実施形態においては、各抵抗素子136における電圧変化を検知することにより、配線134を流れる電流を検知するようになっている。配線134に電流が流れるときとは、制御プログラムに基づいて電動モータ112に電力が供給されて電動モータ112を回転駆動しているときか、または外力によって電動モータ112が回転されることにより逆起電力が生じているときか、の何れかであると考えられる。いずれにしても配線134に電流が生じている状態では電動モータ112が回転している可能性が高い。よって、各抵抗素子136の間の電圧変化を検知することにより、電動モータ112の回転の有無を検出することが可能となる。なお、図示の例では電動モータ112が三相モータとなっているが単相モータとしてもよい。又は、電動モータ112の回転軸や、この回転軸からドライバビット116にまで動力を伝達するための回転機構にトルクセンサを配置し、トルクセンサがトルク変化を検知したときに電動モータ112が回転していると判断するようにすることもできる。さらには、エンコーダにより回転検出を行なうようにすることもできる。本発明における回転検出手段は、上述のように種々のものが利用でき、本発明の目的を逸脱しない範囲内において他の如何なる検出原理に基づく手段としてもよい。
【0024】
当該電動ドライバ100の起動時の動作(制御方法)について、図4を参照して以下に説明する。制御回路128に電圧が印加されると、制御回路128が起動して初期設定が行なわれる。具体的には、制御回路128が起動すると(S100)、まず初期化を行なう(S102)。ここで初期化とは、例えばプログラム用メモリから制御プログラムを読み込んだり、必要なデータをデータメモリやレジスタメモリに格納したりして、制御プログラムを実行できる状態とする動作を意味する。次に、ホールセンサ130から送信される回転検出信号に基づいて電動モータ112の回転の有無を判断する(S104)。具体的には、回転検出信号に変化が無ければ電動モータ112は停止していると判断し、変化があれば電動モータ112が回転していると判断する。電動モータ112が回転しているときには、電動モータ112が停止するまで待機する。電動モータ112が停止しているときには、電動モータ112が停止している時間をカウントし(S106)、停止時間が所定の基準時間(本実施形態では100ms)になるまで待機する。停止時間が基準時間以上になると、メモリ132へのアクセスを開始して設定データの読み込みを行ない(S108)、読み込んだ設定データに基づいて当該電動ドライバ100の制御条件を設定する(S110)。なお、このときにメモリ132には起動回数を示すデータが書き込まれる。この設定が正常に完了すると(S112)、一連の初期設定が完了してユーザの操作に基づくねじ締め作業を実行可能な状態となる(S114)。
【0025】
当該電動ドライバ100においては、上述のように制御回路128に電圧が印加されると初期設定が自動的に行なわれるようになっている。制御回路128に電圧が印加されるのは、通常は、当該電動ドライバ100が外部電源123に接続されて、外部電源123から電力が供給されたときである。このようなときには、通常は電動モータ112はまだ回転していないため、図4のフローチャートに従ってメモリ132へのアクセスが許可されて設定データに基づく設定が行なわれることになる。一方で、当該電動ドライバ100を外部電源123に接続していない状況においても、ドライバビット116を手で回すなどして外力により電動モータ112が回転されると、電動モータ112に逆起電力が発生し、電動モータ112から制御回路128に電流が流れて制御回路128に電圧が印加された状態となる。このときに制御回路128に起動に必要な大きさの電圧が印加されれば、制御回路128は起動することになる。電動モータ112の逆起電力は通常は数秒またはそれ以下の短時間だけ生じることが多いため、制御回路128は起動してもすぐに停止することになる。そのため、逆起電力により制御回路128が一時的に起動している最中にメモリ132にアクセスをすると、アクセス中に電力供給がなくなり制御回路128が停止する可能性が比較的に高い。メモリ132にアクセスしている最中、特にメモリ132に対してデータの書き込みを行なっている最中に制御回路128が停止すると、メモリ132内に記憶されている設定データなどのデータが破損する虞がある。当該電動ドライバ100においては、上述のように電動モータ112の回転をホールセンサ130により監視して電動モータ112が回転しているときにはその回転が停止するまで待機するようになっている。よって、電動モータ112の回転に伴う逆起電力により制御回路128が起動しているときにはメモリ132にアクセスしない。すなわち、当該電動ドライバ100においては、外部電源123からの安定した電力供給が行なわれているときにのみメモリ132にアクセスするようになっているため、制御回路128がメモリ132にアクセスしている最中に制御回路128が停止することによってメモリ132内の設定データが破損する可能性を低減することが可能となる。なお、プログラム用メモリ、データメモリ、及びレジスタメモリは、初期化工程(S102)において逆起電力によって起動した時にもアクセスされることになるが、プログラム用メモリは読み込み専用でありデータの書き込みが起動時に行なわれることはないため制御回路128の停止によりデータが破損する可能性は低いし、またデータメモリ及びレジスタメモリ内のデータはもともと電力供給が停止されれば消去されるものであるためそこに保存されていたデータが損傷したとしても問題とならない。
【0026】
当該電動ドライバ100においては、電動モータ112の回転が停止したと判断してからすぐにメモリ132へのアクセスを許可するのではなく、電動モータ112が所定の基準時間(100ms)以上停止したことを確認してからアクセスを許可するようになっている。外力によって電動モータが回転されるときには、電動モータの回転は連続的に行なわれず一時的に停止してすぐにまた回転されるような場合も考えられる。また、上述のように回転検出手段としては種々のものを採用することができるが、中にはロータが所定の回転位置になったときにだけ信号を送信するものもあり、そのような回転検出手段を採用した場合には、回転検出信号が送信されていなくても実際には電動モータ112が回転していることもあり得る。上述のような所定の基準時間を設けることにより、電動モータ112が停止していることをより確実に判断することが可能となり、これによって逆起電力による起動時のメモリ132へのアクセスをより確実に防止することが可能となる。
【0027】
なお、メモリ132へのアクセスが一旦許可されて初期設定が完了した状態においては、当該電動ドライバ100への電力供給は安定した外部電源123により行なわれている可能性が高いため、情報記憶手段へのアクセス中に電力供給が急に停止される可能性は極めて低い。したがって、メモリ132へのアクセスが一旦許可されると、これ以降は電動モータ112の回転の有無に拘わらず任意のタイミングでのメモリ132へのアクセスが許可された状態とされ、またその状態が維持される。
【0028】
本発明の第2の実施形態に係る電動ドライバ200は、図5及び図6に示すように、電動ドライバ本体202と、それを制御するためのコントローラ204とからなる。電動ドライバ本体202とコントローラ204とは、それぞれに設けられた通信部238a,238bを介して通信ケーブル206により接続されている。外部電源223に接続される電源コード224はコントローラ204の側に設けられており、外部電源223から電動ドライバ本体202への電力供給は、コントローラ204から通信ケーブル206を介して行なわれる。電動ドライバ本体202の工具ハウジング210内には、図6に示すように、第1の実施形態に係る電動ドライバ100と同様な、電動モータ212、モータ駆動回路226、及びホールセンサ230が設けられている。入力インターフェース222はコントローラ204の側に設けられている。
【0029】
当該電動ドライバ200においては、電動ドライバ本体202とコントローラ204とにそれぞれ制御回路228a、228bが設けられている。これら2つの制御回路228a、228bは通信ケーブル206を介して互いに通信しており、2つの制御回路228a、228bにより第1の実施形態における制御回路128と同様の機能を果たしている。同様に電動ドライバ本体202とコントローラ204とのそれぞれにメモリ232a、232bが設けられ、これら2つのメモリ232a、232bにより第1の実施形態におけるメモリ132と同様な機能を果たしている。
【0030】
制御回路228a、228bに電圧が印加されると、図7に示すように、制御回路228a、228bがそれぞれ起動して初期設定が行なわれる。具体的には、電動ドライバ本体202の側の制御回路228aは、起動すると(S200)まず初期化を行なう(S202)。次に、ホールセンサ230からの回転検出信号に基づいて電動モータ212の回転の有無を判断する(S204)。電動モータ212が停止していないときには、電動モータ212が停止するまで待機する。電動モータ212が停止しているときには、電動モータ212が停止している時間をカウントする(S206)。停止時間が所定の基準時間(本実施形態では100ms)になるまで待機する。停止時間が基準時間以上になると、コントローラ204の側の制御回路228bに対して正常開始信号を送信する(S208)。
【0031】
コントローラ204側の制御回路228bは、起動後(S250)に正常開始信号を受信すると(S252)、メモリ232bにアクセスして設定データを読み込み(S254)、読み込んだ設定データを電動ドライバ本体202の側の制御回路228aに送信する(S256)。電動ドライバ本体202の側の制御回路228aは、設定データを受信すると(S210)、受信した設定データに基づいて当該電動ドライバ200の制御条件を設定する(S212)。このときメモリ232aには設定データが書き込まれる。次に正常に設定が完了したかを判断し(S214)、正常に完了していればOK信号をコントローラ204側の制御回路228bに送信し(S216)、正常に完了していなければNG信号をコントローラ204側の制御回路228bに送信する(S218)。OK信号を送信したときには、電動ドライバ本体202側での初期設定が完了して、ねじ締め作業を実行できる状態となる(S220)。コントローラ204の側の制御回路228bは、OK信号を受信したときには(S258)、コントローラ204側での初期設定を完了してねじ締め作業を実行できる状態となる(S260)。一方でNG信号を受信したときには(S258)、再度メモリ132にアクセスして、設定データの読み込み(S254)からやり直す。当該電動ドライバ200においても、第1の実施形態に係る電動ドライバ100と同様に制御回路228a、228bの起動時に電動モータ212の回転の有無を監視することにより、電動モータ212の逆起電力により起動したときにはメモリ232a、232bにアクセスしないようにしている。これにより、制御回路228a、228bがメモリ232a、232bにアクセスしている最中に制御回路228a、228bが停止することにともなうメモリ232a、232b内の設定データ等のデータの破損を防止することが可能となっている。
【0032】
なお、当該実施形態においては、制御回路228a、228b及びメモリ232a、232bを電動ドライバ本体202とコントローラ204とに分散して配置しているが、その役割分担は適宜変更しても良い。また、制御回路228a、228bやメモリ232a、232bは、電動ドライバ本体202とコントローラ204のうちの一方にまとめて配置することもできる。
【0033】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、本発明を電動ドライバを例として説明しているが、トルクレンチや研磨機などの電動モータを駆動源とする他の形態の電動工具とすることもできる。また、電動モータの回転が停止している時間が所定の基準時間以上となってからメモリへのアクセスを許可するようになっているが、この基準時間は任意に変更可能である。また、例えば電動モータの回転停止を確実に検知できる回転検出手段を採用している場合などには、基準時間を無くして電動モータの回転が停止していると判断したら直ちにメモリへのアクセスを許可するようにしてもよい。設定データを保存するための情報記憶手段として上述のような内蔵された半導体メモリ以外にも、ハードディスクドライブ、書き込み可能なCDやDVDなどの記録メディア、及び取外し可能なUSBメモリなど、他の手段を採用することもできる。
【符号の説明】
【0034】
100 電動ドライバ(電動工具)
110 工具ハウジング
112 電動モータ
114 ビットホルダ
116 ドライバビット
118 表示部
120 入力ボタン
122 入力インターフェース
123 外部電源
124 電源コード
126 モータ駆動回路
128 制御回路
130 ホールセンサ
132 メモリ(情報記憶手段)
134 配線
136 抵抗素子
200 電動ドライバ
202 電動ドライバ本体
204 コントローラ
206 通信ケーブル
210 工具ハウジング
212 電動モータ
222 入力インターフェース
223 外部電源
224 電源コード
226 モータ駆動回路
228a 制御回路
228b 制御回路
230 ホールセンサ
232a メモリ
232b メモリ
238a 通信部
238b 通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7