【文献】
VIVES, Solange et al.,Combinatorial Approach Based on Interdiffusion Experiments for the Design of Thermoelectrics: Application to the Mg2(Si, Sn) Alloys,Chemistry of Materials,2014年 7月25日,Vol. 26, No. 15,pp. 4334 - 4337,<DOI: 10.1021/cm502413t>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マグネシウム系熱電変換材料と、マグネシウム系熱電変換材料の一方の面および対向する他方の面にそれぞれ接合された電極と、を備えたマグネシウム系熱電変換素子であって、
前記マグネシウム系熱電変換材料は、Mg2Siからなる第一層とMg2SixSn1−x(但し、xは0以上1未満)からなる第二層とが直接接合され、前記第二層は、前記第一層との接合面と前記接合面から積層方向に沿った2.6μm以上45.8μm以下の厚みの範囲において、前記接合面から遠ざかるほどスズ濃度が増加するスズ濃度遷移領域を有し、
前記第一層の端面と前記第二層の端面に前記電極が配置されていることを特徴とするマグネシウム系熱電変換素子。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明のマグネシウム系熱電変換材料、マグネシウム系熱電変換素子、熱電変換装置、マグネシウム系熱電変換材料の製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0028】
(熱電変換材料、熱電変換素子)
図1は、本発明のマグネシウム系熱電変換材料を用いたマグネシウム系熱電変換素子を示す断面図である。また、
図2は、マグネシウム系熱電変換材料を構成する第一層と第二層との接合部分を示す要部拡大断面図である。
熱電変換素子10は、マグネシウム系熱電変換材料(以下、単に熱電変換材料と称することがある)11の一方の面11aおよびこれに対向する他方の面11bに、メタライズ層12a、12bがそれぞれ形成され、このメタライズ層12a、12bにそれぞれ重ねて電極13a,13bが形成されている。
【0029】
熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイド(Mg
2Si)からなる第一層14と、Mg
2Si
xSn
1−x(但し、xは0以上1未満)からなる第二層15とが直接接合されたものから構成されている。本実施形態では、第一層14の成形後に第一層14に重ねて第二層15を焼結形成することによって、第一層14と第二層15とを直接接合している。
【0030】
図2に示すように、第二層15は、第一層14との接合面15aとその近傍において、接合面15aから遠ざかる、即ち接合面15aの反対面である熱電変換材料11の他面11bに向かうほど、スズ濃度が増加するスズ濃度遷移領域16が形成されている。こうしたスズ濃度遷移領域16は、例えば、積層方向に沿った厚みが1μm以上、50μm以下の範囲になるように形成される。スズ濃度遷移領域16においては、スズ濃度の増加に伴って、ケイ素およびマグネシウムの濃度が低下する。
【0031】
また、こうした熱電変換材料11の半導体型を、例えばn型にする場合、ドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加する。例えば、熱電変換材料11の第一層15として、Mg
2SiにSiO
2を1.3mol、および5価ドナーであるアンチモンを0.5at%含ませることによって、キャリア密度の高いn型熱電変換材料にすることができる。なお、熱電変換材料11をn型熱電変換素子とするためのドナーとしては、アンチモン以外にも、ビスマス、アルミニウム、リン、ヒ素などを用いることができる。
【0032】
熱電変換材料11の第一層14を成すMg
2Siは、第二層15を成すMg
2Si
xSn
1−x(但し、xは0以上1未満)よりも高い温度領域、例えば500℃以上で無次元性能指数(ZT)が高くなる材料とされている。一方、第二層15を成すMg
2Si
xSn
1−x(但し、xは0以上1未満)は、第一層15を成すMg
2Siよりも低い温度領域、例えば500℃以下で無次元性能指数(ZT)が高くなる材料とされている。
【0033】
こうした無次元性能指数(ZT)が高くなる温度領域が互いに異なる第一層14と第二層15とを直接接合した熱電変換材料11を用いて、例えば、第一層14のメタライズ層12a側である一面11aを高温環境に、第二層15のメタライズ層12b側である他面11bを低温環境にそれぞれ置くことによって、第一層14と第二層15のそれぞれの熱電変換特性が最大限発揮される。よって、単一組成の材料から成る熱電変換材料と比較して、熱電変換効率(発電効率)を大幅に向上させることが可能になる。
【0034】
一方、第二層15が、第一層14と直接接合される接合面15aとその近傍にスズ濃度遷移領域16を有することによって、熱電変換材料11の高温側と低温側との温度差による、第一層14および第二層15の接合面での剥離や割れの発生を抑制することができる。即ち、スズ濃度遷移領域16は、第一層14と接する接合面15aに向かうほど、スズ濃度が低減して第一層14を構成するMg
2Siに組成が近づく。
【0035】
よって、Mg
2Si
xSn
1−x(但し、xは0以上1未満)からなる第二層15は、接合面15aにおいては、第一層14を成すMg
2Siに組成が近いものになる。よって、第一層14と第二層15との接合面15aにおいては、互いの熱膨張率の差が極めて小さくなり、高温側に臨む第一層14と低温側に臨む第二層15との温度差による接合面15aでの剥離や割れの発生を確実に抑制することができる。
【0036】
図3に、熱電変換材料11をFEI社製Quanta450FEG走査型電子顕微鏡によって観察した画像に、EDAX社製GenesisシリーズのEDXによって測定したMg,Si,Snの濃度変化のグラフを重ね合わせたものを測定箇所の異なる2例を並べて示す。なお、それぞれの濃度は、図中の下方に行くほど低いことを示している。
図3によれば、第一層14と第二層15との接合面15aから、第二層15の反対面である他面11bに向かって、例えば1μm以上、50μm以下の厚み範囲でSn濃度が漸増し、またこれと反対にMg,Si濃度が漸減するスズ濃度遷移領域16が形成されていることが分かる。
なお、スズ濃度遷移領域16の厚みは、第一層14と第二層15の接合界面をFEI社製Quanta450FEG走査型電子顕微鏡により、第一層14が測定視野の左側に、第二層15が測定視野の右側になるよう観察し、倍率5000倍の視野(縦23μm;横30μm)において、EDAX社製GenesisシリーズのEDXを用いてSnのマッピング画像を取得し、Sn濃度が0.5wt%〜Xwt%の領域をスズ濃度遷移領域16とみなし、その領域の面積を算出した。ここで、Xは第二層15のSn濃度の95%の値である。なお、第二層15のSn濃度は、第一層14と第二層15の接合面15aから第二層15に向かって100μm離間した位置において、同様の装置によって10点を測定し、その平均値を第二層15のSn濃度とした。そして、算出されたスズ濃度遷移領域16の面積を測定視野の縦幅の寸法で除した値を求め、5視野の平均をスズ濃度遷移領域16の厚みとした。
【0037】
メタライズ層12a、12bは、熱電変換材料11に電極13a,13bを接合する中間層であり、例えば、ニッケル、金、銀、コバルト、タングステン、モリブデン等が用いられる。実施形態では、メタライズ層12a、12bとしてニッケルを用いている。メタライズ層12a、12bは、焼結、メッキ、電着等によって形成することができる。
【0038】
電極13a,13bは、導電性に優れた金属材料、例えば、銅やアルミニウムなどの板材から形成されている。本実施形態では、アルミニウムの圧延板を用いている。また、メタライズ層12a、12bと電極13a,13bとは、AgろうやAgメッキ等によって接合することができる。
【0039】
こうした構成の熱電変換素子10は、例えば、熱電変換材料11の一方の面11aと他方の面11bとの間に温度差を生じさせることによって、電極13aと電極13bとの間に電位差を生じさせるゼーベック素子として用いることができる。
【0040】
また、熱電変換素子10は、例えば、電極13a側と電極13bとの間に電圧を印加することによって、熱電変換材料11の一方の面11aと他方の面11bとの間に温度差を生じさせるペルティエ素子として用いることができる。例えば、電極13a側と電極13bとの間に電流を流すことによって、熱電変換材料11の一方の面11aまたは他方の面11bを冷却、または加熱することができる。
【0041】
(熱電変換装置:第一実施形態)
図4は、第一実施形態の熱電変換装置を示す断面図である。
熱電変換装置20は、ユニレグ型の熱電変換装置である。
熱電変換装置20は、一面上に配列された複数の熱電変換素子10,10…と、これら配列された熱電変換素子10,10…の一方の側および他方に側にそれぞれ配された伝熱板21A,21Bとから構成されている。
【0042】
熱電変換素子10,10…は、互いに同一の半導体型、即ち、アンチモンなどのドナーをドープしたn型熱電変換素子、または、リチウムや銀などのドーパントをドープしたp型熱電変換素子からなる。本実施形態では、熱電変換素子10,10…は、ドナーとしてアンチモンをドープしたn型熱電変換素子とした。
【0043】
それぞれの熱電変換素子10は、熱電変換材料11と、この熱電変換材料11の一方の面11aおよび他方の面11bにそれぞれ接する、ニッケルからなるメタライズ層12a,12bと、このメタライズ層12a,12bに重ねて形成された電極13a,13bとからなる。そして、隣接する熱電変換素子10,10どうしは、一方の熱電変換素子10の電極13aが、接続端子23を介して、他方の熱電変換素子10の電極13bと電気的に接続される。なお、実際には、互いに隣接する熱電変換素子10,10の電極13a、接続端子23、電極13bは、一体の電極板として形成されている。
【0044】
多数配列された熱電変換素子10,10…は、電気的に一繋がりとなるように直列に接続されている。なお、
図4では説明を明瞭にするために便宜的に熱電変換素子10,10…を一列分だけ図示しているが、実際には
図4の紙面奥行き方向にも多数の熱電変換素子10,10…が配列されている。
【0045】
伝熱板21A,21Bは、熱電変換材料11の一方の面11aまたは他方の面11bに熱を加えたり、熱電変換材料11の一方の面11aおよび他方の面11bに熱を吸収させたりする媒体である。伝熱板21A,21Bは、絶縁性で、かつ熱伝導性に優れた材料、例えば、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどの板材を用いることができる。
また、伝熱板21A,21Bとして導電性の金属材料を用い、伝熱板21A,21Bと電極12a,12bとの間に絶縁層などを形成することもできる。絶縁層としては、樹脂膜又は板、セラミックス薄膜又は板などが挙げられる。
【0046】
本発明の熱電変換装置20においても、それぞれの熱電変換素子10を構成する熱電変換材料11として、無次元性能指数(ZT)が高くなる温度領域が互いに異なる第一層14と第二層15(
図2参照)とを直接接合したものを用いることによって、第一層14と第二層15のそれぞれの熱電変換特性が最大限発揮され、単一組成の材料から成る熱電変換材料を用いた熱電変換装置と比較して、熱電変換効率(発電効率)を大幅に向上させることが可能になる。
【0047】
一方、それぞれの熱電変換素子10を構成する熱電変換材料11の第二層15にスズ濃度遷移領域16(
図2参照)を形成することによって、熱電変換材料11の高温側と低温側との温度差による、第一層14および第二層15の接合面での剥離や割れの発生を抑制することができ、強度面でも優れた熱電変換装置20を実現することができる。
【0048】
(熱電変換装置:第二実施形態)
図5は、第二実施形態の熱電変換装置を示す断面図である。
熱電変換装置30は、π(パイ)型の熱電変換装置である。
熱電変換装置30は、一面上に交互に配列された熱電変換素子10A,10Bと、これら配列された熱電変換素子10A,10Bの一方の側および他方に側にそれぞれ配された伝熱板31A,31Bとから構成されている。
【0049】
熱電変換素子10Aは、アンチモンなどのドナーをドープした熱電変換材料11Aを有するn型熱電変換素子である。また、熱電変換素子10Bは、リチウムや銀などのドーパントをドープした熱電変換材料11Bを有するp型熱電変換素子である。あるいは、P型熱電変換素子のMnSi
1.73である。
【0050】
それぞれの熱電変換素子10A,10Bは、熱電変換材料11A,11Bと、この熱電変換材料11A,11Bの一方の面11aおよび他方の面11bにそれぞれ接する、ニッケルからなるメタライズ層12a,12bと、このメタライズ層12a,12bに重ねて形成された電極13a,13bとからなる。そして、隣接する熱電変換素子10A,10Bどうしは、一方の熱電変換素子10Aの電極13aが他方の熱電変換素子10Bの電極13aと電気的に接続され、さらにこの他方の熱電変換素子10Bの電極13bが逆隣の熱電変換素子10Aの電極13bに接続される。
【0051】
なお、実際には、互いに隣接する熱電変換素子10A,10Bの電極13aと電極13aどうしや、その隣の電極13bと電極13bどうしは、一体の電極板として形成されている。これら電極板は、例えば、銅板やアルミニウム板を用いることができる。
【0052】
このように配列された多数の熱電変換素子10A,10Bは、電気的に一繋がりとなるように直列に接続されている。即ち、π(パイ)型の熱電変換装置30は、n型熱電変換素子10Aと、p型熱電変換素子10Bとが交互に繰り返し直列に接続されてなる。
なお、
図5では説明を明瞭にするために便宜的に熱電変換素子10A,10Bを一列分だけ図示しているが、実際には
図5の紙面奥行き方向にも多数の熱電変換素子10A,10Bが配列されている。
【0053】
伝熱板31A,31Bは、熱電変換材料11A,11Bの一方の面11aまたは他方の面11bに熱を加えたり、熱電変換材料11A,11Bの一方の面11aおよび他方の面11bに熱を吸収させたりする媒体である。伝熱板31A,31Bは、絶縁性で、かつ熱伝導性に優れた材料、例えば、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどの板材を用いることができる。
また、伝熱板31A,31Bとして導電性の金属材料を用い、伝熱板31A,31Bと電極13a,13bとの間に絶縁層などを形成することもできる。絶縁層としては、樹脂膜又は板、セラミックス薄膜又は板などが挙げられる。
【0054】
本発明の熱電変換装置30においても、それぞれの熱電変換素子10A,10Bを構成する熱電変換材料11A,11Bとして、無次元性能指数(ZT)が高くなる温度領域が互いに異なる第一層14と第二層15(
図2参照)とを直接接合したものを用いることによって、第一層14と第二層15のそれぞれの熱電変換特性が最大限発揮され、単一組成の材料から成る熱電変換材料を用いた熱電変換装置と比較して、熱電変換効率(発電効率)を大幅に向上させることが可能になる。
【0055】
一方、それぞれの熱電変換素子10A,10Bを構成する熱電変換材料11A,11Bの第二層15にスズ濃度遷移領域16(
図2参照)を形成することによって、熱電変換材料11の高温側と低温側との温度差による、第一層14および第二層15の接合面での剥離や割れの発生を抑制することができ、強度面でも優れた熱電変換装置30を実現することができる。
【0056】
(熱電変換材料の製造方法)
本発明の熱電変換材料の製造方法を説明する。
図6は、本発明の熱電変換材料の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
例えば、
図1に示す熱電変換材料11の製造にあたっては、まず、熱電変換材料11を成す第一層14の母材(マトリクス)となるマグネシウム系化合物を製造する(原料形成工程S1)。
【0057】
本実施形態では、マグネシウムシリサイド(Mg
2Si)として、例えば、マグネシウム粉末、シリコン粉末と、ドーパントをそれぞれ計量して混合する。例えば、n型の熱電変換材料を形成する場合には、アンチモン、ビスマス、など5価の材料やアルミニウムを、また、p型の熱電変換材料を形成する場合には、リチウムや銀などの材料を混合する。
本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用い、添加量は0.5at%とした。そして、この混合粉末を、例えばアルミナるつぼに導入し、800〜1150℃程度で加熱する。これにより、例えば塊状のMg
2Si固形物が得られる。なお、この加熱時に少量のマグネシウムが昇華するため、原料の計量時にMg:Si=2:1の化学量論組成に対して例えば5%ほどマグネシウムを多く入れることが好ましい。
【0058】
次に、得られた固形状のMg
2Siを、例えば、粒径10μm〜75μmとなるよう粉砕機によって粉砕し、微粉末状のMg
2Siを形成する(粉砕工程S2)。
【0059】
また、得られたMg
2Siにシリコン酸化物を添加することもできる。シリコン酸化物を添加することによって、得られる熱電変換材料の硬度や発電効率が上昇する。シリコン酸化物を添加する場合、アモルファスSiO
2、クリストバライト、クオーツ、トリディマイト、コーサイト、ステイショバイト、ザイフェルト石、衝撃石英等のSiOx(x=1〜2)を用いることができる。シリコン酸化物の混合量は0.5mol%以上13.0mol%以下の範囲内であるとよい。より好ましくは、0.7mol%以上7mol%以下とするとよい。シリコン酸化物は、粒径1μm〜100μmの粉末状とするとよい。本実施形態では、シリコン酸化物として粒径20μmのSiO
2粉末を添加している。
【0060】
なお、予め市販のMg
2Si粉末や、ドーパントが添加されたMg
2Si粉末を使用する場合、上述したMg
2Siの粉末を形成するまでの工程(原料形成工程S1および粉砕工程S2)を省略することもできる。
【0061】
このようにして得られた、Mg
2Si粉末、およびSiO
2粉末からなる原料粉末を加熱焼結する(第一焼結工程S3)。原料粉末の焼結には、例えば、通電焼結装置が用いられる。
【0062】
図7は、通電焼結装置の一例を示す断面図である。通電焼結装置100は、例えば、耐圧筐体101と、この耐圧筐体101の内部を減圧する真空ポンプ102と、耐圧筐体101内に配された中空円筒形のカーボンモールド103と、カーボンモールド103内に充填された原料粉末Qを加圧しつつ電流を印加する一対の電極105a,105bと、この一対の電極105a,105b間に電圧を印加する電源装置106とを備えている。また電極105a,105bと原料粉末Qとの間には、カーボン板107、カーボンシート108がそれぞれ配される。これ以外にも、図示せぬ温度計、変位計などを有している。
【0063】
このような構成の通電焼結装置100のカーボンモールド103内に原料粉末を充填する。カーボンモールド103は、例えば、内部がグラファイトシートで覆われている。そして、電源装置106を用いて、一対の電極105a,105b間に直流電流を流して、原料粉末に電流を流すことによる自己発熱により昇温する。また、一対の電極105a,105bのうち、可動側の電極105aを原料粉末に向けて移動させ、固定側の電極105bとの間で原料粉末を所定の圧力で加圧する。これにより、試料に直接通電された電流による自己発熱と、加圧とともに焼結駆動力として利用し、原料粉末を通電焼結させる。
【0064】
焼結条件としては、加圧力10MPa以上70MPa以下、加熱時最高温度750℃以上950℃以下とされている。
また、最高温度における保持時間0秒以上10分以下、降温速度10℃/分以上50℃/分以下とするとよい。
さらに、昇温速度を10℃/分以上100℃/分以下とするとよい。昇温速度を10℃/分以上100℃/分以下とすることで、比較的短時間で焼結させることができるとともに、残留する酸素と高濃度ケイ素域との反応を抑制し、高濃度ケイ素域が酸化することを抑制できる。また、耐圧筐体101内の雰囲気はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
また、焼結後に得られた焼結物である熱電変換材料を構成する第一層14のサイズは、例えば、直径30mm×厚み5mmの円筒形状である。
【0065】
次に、円筒形状として得られた第一層14を成す焼結体の一面側(第二層の接合面と接する面)を、例えば、試料研磨機を用いて研磨する(研磨工程S4)。これにより、第一層14を成す焼結体の一面側を平滑にする。なお、研磨は、220番の研磨紙を貼った回転式の研磨機を用いて、ドライの状態で表面に残っているカーボンシートや表面の加工変質層を落とし、次に、320番の研磨紙を用いてドライで研磨した。
【0066】
次に、一面側を研磨した第一層14を成す焼結体を、
図7に示す通電焼結装置100のカーボンモールド103内に、研磨面側を上にして再び挿入する。そして、この第一層14を成す焼結体の研磨面に重ねて、第二層15の原料粉末となる混合体を導入する。
第二層15の原料粉末(混合体)としては、例えば、マグネシウム粉末(純度99.99%,粒径180μm)を4.4444g、ケイ素粉末(純度99.9999%,粒径45μm)を1.019g、スズ粉末(純度99.9999%、粒径63μm)を6.474g、ドーパントとしてアンチモン粉末(純度99.999%、粒径45μm)を0.055g、それぞれ計量し、これら粉末を乳鉢中で20分間撹拌したものを用いた。
【0067】
そして、通電焼結装置100によって、第一層14に重ねて第二層15を焼結形成した(第二焼結工程S5)。焼結条件としては、加圧力0.5MPa以上30MPa以下、加熱時最高温度650℃以上750℃以下とされている。また、最高温度における保持時間0秒以上10分以下、降温速度10℃/分以上50℃/分以下とするとよい。なお、第二焼結工程S5においては、加圧力を徐々に上昇させていき到達圧力を上述の範囲内となるように加圧することが好ましい。
また、この第二焼結工程S5においては、スズ粉末、マグネシウム粉末等が溶解して液相が生じるため、液相焼結によって第一層14に直接接合された第二層15が形成されることになる。
【0068】
こうして形成された第一層14と第二層15とからなる熱電変換材料11は、バインダーを入れることなく第一層14と第二層15とが直接接合した。また、接合面15a付近をSEMで観察したところ、割れや空洞は観察されず、厚さ約9μmのスズ濃度遷移領域16が形成されていた。
【0069】
得られた熱電変換材料11の第二層15の組成比はMg:Sn:Si=2:0.63:0.37となっており、計算上の組成比であるMg:Sn:Si=2:0.60:0.40に極めて近いものが得られた。
【0070】
なお、本実施形態では、原料粉末の焼結に通電焼結法を用いたが、これ以外にも、例えば、ホットプレス法、熱間等方圧プレス法、放電プラズマ焼結法、熱間圧延法、熱間押出法、熱間鍛造法など、各種の加圧加熱法を適用することができる。
【0071】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0072】
例えば、第二焼結工程S5において、第一層を成す焼結体に重ねて導入する第二層の原料粉末となる混合体として、マグネシウム粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、アンチモン粉末を用いて、液相焼結によって第一層に直接接合された第二層を形成する構成として説明したが、これに限定されることはなく、第一層を成す焼結体に重ねて導入する第二層の焼結原料として、Mg
2Si
xSn
1−x(但し、xは0以上1未満)からなる焼結原料を用いて、固相焼結によって第一層に直接接合された第二層を形成する構成としてもよい。なお、このときの焼結条件は、加圧力を5MPa以上、焼結温度を650℃以上、850℃以下とすることが好ましい。
この場合、焼結時に液相が出現しないことから、
図8に示すように、第一層と第二層との接合界面が平面状となり、スズ濃度遷移領域の厚さ比較的薄く、且つ、均一となる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の効果を確認すべく実施した実験結果について説明する。
純度99.9%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉末を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar−5%H
2中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5%多く混合した。これにより、Mg
2Si固形物(母材)を得た。
【0074】
次に、このMg
2Si固形物(母材)を乳鉢中で細かく砕いて、この粉末を分級して75μm以下のサイズのSbドープMg
2Si粉末を作製した。このSbドープMg
2Si粉末に、SiO
2(粒径20μm:株式会社龍森製)を1.3mol%の割合で混合して、乳鉢で良く混ぜ、各原料粉末を得た。
【0075】
これらの原料粉末をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに詰め、通電焼結装置にセットし、通電焼結により第一層となるMg
2Si焼結体を作製した。真空中(1Pa)で、加圧力を40MPa、40℃/minの昇温速度で600℃まで加熱し、さらに30℃/minの昇温速度で950℃まで加熱し、950℃で1分保持した。なお、Mg
2Si焼結体のサイズは、直径30mm×厚み5mmの円筒形状である。
得られたMg
2Si焼結体の一面を220番の研磨紙及び320番の研磨紙を用いて回転式の研磨機によって乾燥状態で研磨した。
【0076】
そして、本発明例1では、上述のMg
2Si焼結体の研磨面上に、純度99.9%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、スズ粉末(純度99.9999%、粒径63μm)、純度99.9%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量し、これら粉末を乳鉢中で20分間撹拌した混合粉を配置して通電焼結装置にセットし、液相焼結により第一層と直接接合されたMg
2Si
xSn
1−x(但し、xは0以上1未満)からなる第二層を備えた熱電変換材料を得た。なお、焼結条件は、真空中(1Pa)で、加圧力を0.5MPaとし、40℃/minの昇温速度で600℃まで加熱し、さらに 30℃/minの昇温速度で 670℃で加熱し、670℃で5分保持するものとした。なお、熱電変換材料のサイズは、直径30mm×厚み10mmの円筒形状である。この円筒状試料から、5mm×5mm×7mm高さの角柱状の熱電素子を作成した。
【0077】
また、本発明例2,3では、上述のMg
2Si焼結体の一面に、Mg
2Si
0.5Sn
0.5粉末(粒径 75μm:株式会社ミツバ製)を配置して通電焼結装置にセットし、固相焼結により第一層と直接接合されたMg
2Si
xSn
1−x(但し、xは0以上1未満)からなる第二層を備えた熱電変換材料を得た。なお、焼結条件は、真空中(1Pa)で、加圧力を20MPa、40℃/minの昇温速度で600℃まで加熱し、さらに30℃/minの昇温速度で765℃まで加熱し、765℃での保持は実施しなかった。なお、熱電変換材料のサイズは、直径30mm×厚み10mmの円筒形状である。この円筒状試料から、5mm×5mm×7mm高さの角柱状の熱電素子を作成した。
【0078】
なお、比較例では、上述の第一層となるMg
2Si焼結体作製条件と同じ条件で直径30mm×厚み10mmの円筒形焼結体を作製して、5mm×5mm×7mm高さの角柱形の熱電素子を作製した。
【0079】
(スズ濃度遷移領域の厚さ)
上述の本発明例1−3の熱電変換材料について、スズ濃度遷移領域の厚さを以下のようにして評価した。
熱電変換材料の第一層と第二層の接合界面をFEI社製Quanta450FEG走査型電子顕微鏡により、第一層が測定視野の左側に、第二層が測定視野の右側になるよう観察し、倍率5000倍の視野(縦23μm;横30μm)において、EDAX社製GenesisシリーズのEDXを用いてSnのマッピング画像を取得し、Sn濃度が0.5wt%〜Xwt%の領域をスズ濃度遷移領域とみなし、その領域の面積を算出した。ここで、Xは熱電変換材料の第二層のSn濃度の95%の値である。なお、熱電変換材料の第二層のSn濃度は、熱電変換材料の第一層と第二層の接合面から第二層に向かって100μm離間した位置において、同様の装置によって10点を測定し、その平均値を第二層のSn濃度とした。
そして、算出されたスズ濃度遷移領域の面積を測定視野の縦幅の寸法で除した値を求め、5視野の平均をスズ濃度遷移領域の厚さとした。評価結果を表1に示す。
【0080】
(開放電圧)
熱電モジュール発電効率測定装置を用いて、開放電圧を測定した。装置の概略を
図9に示す。測定試料Sとして、上述の本発明例1−3及び比較例の熱電変換材料(5mm×5mm×7mm高さ)を用いた。
この測定試料Sを、加熱ブロック201と熱流束ブロック202との間に挟み込み、加熱ブロック201を加熱するとともに、熱流束ブロック202をチラー203によって10℃程度に冷却し、加熱ブロック201と熱流束ブロック202との間に、表1に示す温度差を生じさせた。なお。高温側の温度(Th)は加熱ブロック201の温度であり、低温側の温度(Tc)は熱流速ブロック202の測定試料S側の温度である。
そして、加熱ブロック201と熱流束ブロック202とは窒化アルミニウム(AlN)によって電気的に絶縁した状態で、測定試料Sの高温側と低温側に電圧と電流を測定する端子を設け、測定試料Sに逆起電力をかけ、電流が0(最大電圧)から最大電流(電圧ゼロ)の値を測定した。今回、電流がゼロの開放電圧を評価した。評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
比較例においては、温度差が348.2℃の条件で開放電圧が46.21mVであった。
これに対して、本発明例1では温度差が331.2℃の条件で開放電圧が63.11mVであり、本発明例2では温度差が344.8℃の条件で開放電圧が71.74mVであった。同様の温度差の条件下においては、本発明例1,2の方が比較例よりも高い開放電圧を得ることができた。
さらに、本発明例3では、温度差が478.9℃の条件で開放電圧が108.94mVと非常に高い値を示した。
【0083】
また、固相焼結によって第一層に直接接合された第二層を形成した本発明例2,3においては、液相焼結によって第一層に直接接合された第二層を形成した本発明例1に比べて、スズ濃度遷移領域の厚さが薄く、かつ、厚さのばらつきが小さかった。
【0084】
以上のことから、本発明例によれば、比較例に比べて高い開放電圧を得ることができ、熱電変換効率が高くなることが確認された。